アルゼンチン政治情勢(月1回更新)
令和8年5月19日
アルゼンチン政治情勢(2026年4月)
1 内政
(1)ミレイ政権
●アドルニ官房長官のスキャンダル
- 10日、司法当局は、アドルニ官房長官と同夫人の資金の全動きを調査するため、両者の税務および銀行取引に関する秘密保持義務を解除した。
- 14日、アドルニ官房長官がカントリークラブ(高級住宅地)内に保有する住宅について資産として汚職防止局に申告しておらず、指摘を受けた後、追加申告したことが報じられた。
- 4月中旬以降、アドルニ官房長官が複数の海外旅行を全額現金で支払っていたことが報じられた。
- 24日、裁判所は、アドルニ夫人が大統領専用機に同乗し、米国訪問した公金横領容疑の告発について、本同行は、国家に追加費用を生じさせておらず罪を構成しないとの検察の判断を支持し、訴訟を却下した。
- 29日、アドルニ官房長官は、ミレイ大統領の臨席のもと、連邦議会で2026年度施政報告を発表した。その際に、自身をめぐる旅行費や資産、利益相反の疑惑はすべて事実無根であり、法令に従って対応してきたことは司法の場で証明されると主張した。
- 30日、スキャンダルの影響で停止されていた、アドルニ官房長官による記者会見が再開した。
- 4月初旬、政府高官が、一般市民に承認されにくいナシオン銀行の住宅ローン(高額、低金利、迅速審査)を優先的に取得していたことが報じられ、スキャンダル化した。刑事告発が提出され、捜査が開始された。
- 3日、ペトベッロ人的資本大臣は、前記住宅ローンを取得していたと指摘されたマッサチェシ首席補佐官を解任した。
- 1日、労働裁判所は、教員組合の訴えを受け、労働改革に盛り込まれた教育分野の規定について適用停止を命じた。
- 9日、連邦行政訴訟裁判所は、CGT(労働総同盟)が労働裁判所に労働改革の差止めを求め、同裁判所が、一部規定の差止めの仮処分を認めた訴訟につき、同訴訟の管轄は、労働裁判所ではなく、連邦行政訴訟裁判所であると判示した。
- 16日、政府は、労働改革の停止措置を無効にするよう、最高裁判所に対し直接上訴(per saltum)を行った。
- 23日、労働控訴裁判所は、労働改革を差し止めた労働裁判所第一審の原判決(仮処分)を取り消し、差し止められた条項の効力を回復させた。
- 28日、連邦行政訴訟裁判所は、CGTが提起した労働改革をめぐる訴訟について、労働裁判所ではなく同裁判所が審理すべきとの判断を示した。
●在アルゼンチン・ユダヤ人コミュニティ
- 14日、キルノ外相は「ホロコーストと英雄主義の追悼の日」の式典に出席した。イスラエルとの連帯を改めて表明するとともに、南米における反ユダヤ主義との闘いを推進することを約束した。
- 15日、ミレイ大統領は大統領府でアルゼンチン・イスラエル協会(DAIA)のマウロ・ベレンシュタイン代表と会談した。
国家情報局(SIDE)は、米国FBIとの合意に基づき、国家テロ対策センターを開設した。開設式にはFBI関係者及び駐アルゼンチン米国大使が出席した。
●大統領府への全記者立入禁止
- 23日、政府は、ロシアによる報道機関への浸透疑惑の対策強化及び、大統領府内部を撮影した記者への違法スパイ活動容疑を理由に、認定記者全員の大統領府への立入を禁止した。
- 同日、マルセロ・パガーノ議員は、同禁止命令に対して、ミレイ大統領を職権乱用及び公務上の義務違反の罪で告発した。
政府は、強制調停に従わず、2月19日のゼネストに参加したとして、鉄道労働組合「ラ・フラテルニダ」に対し、212億4150万ペソの罰金を科した。
(2)議会
●私有財産法(6日)
上院は、私有財産法案の審議を開始した。
●氷河法
- 9日、氷河法案は、下院を通過し、可決された。
- 24日、連邦裁判所は、キルチネル派の要請を受け、サンタ・クルス州における同法の施行を停止した。
時代遅れ・重複・無効化された規制や不要な官僚手続きの廃止・修正を目的とする残滓規制撤廃法(lay hojarasca:「落ち葉」の意)の意見書が下院で可決され、審議が可能となった。
●メルコスール・シンガポールの自由貿易協定承認(21日)
上院は2023年に署名されたメルコスール・シンガポール自由貿易協定を承認した。
●選挙制度改革法案(22日)
政府は上院に選挙制度改革法案を提出した。
●銃器登録簡素化法案(22日)
上院委員会は、銃器登録手続きの簡素化と自主返納制度の2027年末までの延長を盛り込んだ銃器登録簡素化法案を承認した。
●裁判官等指名案(24日)
空席が続いてきた裁判官、検察官、公選弁護人について、政府は110件越の指名案を上院に提出した。
●ハゲタカファンドとの合意承認(29日)
上院委員会は、2001年デフォルト以来の残存訴訟を終結させるため、米国のいわゆるハゲタカファンドとの1億7100万ドルの合意を承認した。
(3)デモ・スト
●ゼネラル・ストライキ(9日)
政府による労働改革に抗議するためCGT(労働総同盟)が主導する全国ゼネラル・ストライキが行われた。航空、鉄道、地下鉄、バスなどの交通やゴミ収集などの行政サービスが長時間、大規模に停止した。
●全国市長らによる経済省に対するデモ(14日)
党市長らは、資金問題や中断している公共事業をめぐり、経済省までデモ行進を実施した。
●国立気象局ストライキ中止(24日)
公務員労働組合(ATE)が計画していた国立気象局のストライキは、政府が違法と警告し、実施予定当日に中止された。
●大学教員ストライキ
- 27日から翌月2日にかけて、大学教員がストライキを実施した。
- 29日、ブエノスアイレス大学は24時間のストライキを実施した。
ペロン党市長らは、資金の拠出を求めてペトベッロ人的資本大臣に抗議するため、同省までデモ行進を実施した。
(4)その他
●ペロン党ブエノスアイレス州支部長就任(24日)
キシロフ・ブエノスアイレス州知事がペロン党ブエノスアイレス州支部長に正式に就任した。
●世界報道自由度ランキング低下(30日)
「国境なき記者団」の世界報道自由度ランキングでアルゼンチンは98位となり、前年比11位下落した。記者への「制度的敵意」が指摘された。
2 外交
(1)対米関係
●米国、アルゼンチンの対イラン措置歓迎(10日)
米国政府は、アルゼンチンがイスラム革命防衛隊をテロ組織に指定し、駐アルゼンチン・イラン代表者(臨時代理大使)を国外追放したことに歓迎を表明した。
●駐アルゼンチン米国大使による中国批判
- 19日~20日、駐アルゼンチン米国大使は、サルタ州とフフイ州を訪問し、その際に、ラテンアメリカ諸国における中国の存在について米国が「懸念を抱く」ことの重要性を強調した。
- 20日、在アルゼンチン中国大使館は、米国大使の同発言に反論する声明を発表。同発言が「中国とアルゼンチンの協力関係を意図的に攻撃し、中傷した」と批判した。
アルゼンチン訪問中のディナノ米国国務次官(軍備管理・国際安全保障担当)は、アルゼンチンの対イラン・テロ対策の取り組みを評価し、軍事装備やサイバー防衛、合同訓練支援を拡大する方針を示した。
●米国のフォークランド(マルビーナス)諸島問題方針転換報道(24日)
- 24日、ロイター通信は、米国政府がフォークランド(マルビーナス)諸島問題に関する英国への支持の立場を見直すことを検討していると報じた。
- 同日、英国政府は、この報道に反応し、同諸島に対する主権を主張した。米国務省は、本問題をめぐる米国の立場は従来どおり「中立」であると述べた。
- 25日、アルゼンチン政府は、英国政府の発言に反発し、同諸島に対する主権を主張し、英国による島民の自決権の主張や資源開発を違法として退け、平和的な二国間交渉の再開を要求した。
政府は、トランプ大統領への新たな暗殺未遂を強く非難した。
●米国との合同軍事演習
- 29日、アルゼンチン海軍は南大西洋で米国海軍との合同軍事演習「Passex 2026」を開始した。
- 30日、ミレイ大統領は、同演習の一環として、米軍南方軍司令部と在アルゼンチン米国大使館が共同企画した、空母「USSニミッツ」艦上イベントに参加した。
米国政府は、知的財産分野における取組を評価し、アルゼンチンの格付けを引き上げた(「優先監視国」から「監視国」へ分類変更)。
(2)その他
●イスラエル、アルゼンチンの革命防衛隊テロ指定に謝意(1日)
イスラエル外相は、アルゼンチンがイスラム革命防衛隊をテロ組織に指定したことに感謝の意を表明した。
●駐アルゼンチン・イラン臨時代理大使への国外退去命令(2日)
イランの威嚇を理由に、政府は駐アルゼンチン・イラン臨時代理大使を「ペルソナ・ノン・グラータ」に宣言し、48時間以内に国外退去するよう命令。イスラエルは、本措置を支持した。
●ボリビアの対英対応支持とフォークランド(マルビーナス)問題の平和的解決要求(2日)
政府は、ボリビアのフォークランド(マルビーナス)問題に関する立場をめぐる駐ボリビア英国大使の発言に対するボリビア外務省の対応を支持・感謝するとともに、フォークランド(マルビーナス)諸島問題は国連決議に基づき交渉による平和的解決を改めて求めた。
●アルゼンチン・チリ共同声明(6日)
ミレイ大統領とカスト大統領は首脳会談で、フォークランド(マルビーナス)諸島問題でのチリの支持を再確認するとともに、貿易・投資・安全保障・インフラ・南極分野での二国間協力強化と英国との交渉再開の必要性で一致した。
●米州人権委員会へのベネズエラで拘束中のアルゼンチン人釈放要請(6日)
政府は、米州人権委員会(CIDH)に対し、ベネズエラで拘束中のアルゼンチン人ヘルマン・ジュリアーニ氏の釈放を求め、同氏が拷問を受けていることを訴えた。
●南大西洋平和・協力地帯閣僚会議におけるフォークランド諸島主権主張支持への謝意(10日)
政府は、第9回南大西洋平和・協力地帯(ZOPACAS)閣僚会議における、フォークランド(マルビーナス)諸島問題に関するアルゼンチンの主権主張に対する国際的な支持に対し、感謝を表明した。
●オーストリアとの二重課税回避協定承認法制定(10日)
政府は、オーストリアとの所得税および財産税に関する二重課税の回避並びに租税回避・脱税防止のための協定を承認する法律を制定した。
●ハンガリー選挙結果への反応(12日)
政府は、ハンガリー選挙で勝利したマジャル・ペーテル氏に祝意を表するとともに、オルバン政権との協力関係を評価しつつ、今後も二国間関係の強化と共通課題での連携を深めていく意向を示した。
●AMIA会館爆破事件関与のイラン高官の国際手配(13日)
アルゼンチンの連邦裁判所は、イスラエル共済組合(AMIA)会館爆破事件に関与した疑いでイランのセイェド・アリ・アスガル・ミル・ヘジャジ氏に対し、国際手配を発令した。
●チェコとの二重課税回避協定署名(14日)
キルノ外相は、パヴェル・チェコ大統領と二重課税の回避および租税回避の防止に関する協定に署名した。
●ミレイ大統領のイスラエル訪問
- 19日、ミレイ大統領は、イスラエルの「嘆きの壁」を訪れ、ネタニヤフ首相と合同記者会見を行った。同日、両国は、自由・民主主義の擁護及びテロ・反ユダヤ主義・麻薬取引との闘いにおける協力強化を目指す「イサク協定」を締結した。また、テロ対策、AI分野協力、両国間直行便就航に関する覚書3件に署名した。イスラエル政府は、アルゼンチン国内のイスラエル企業向け1.5億米ドルの融資枠の開設を発表した。
- 20日、ミレイ大統領は、イスラエルのバル・イラン大学から名誉博士号を、イスラエル政府から「大統領名誉勲章」を授与された。同日、ヘルツォグ・イスラエル大統領と共同記者会見を行った。
- 21日、ミレイ大統領は、フランシスコ前教皇の一周忌に際し、エルサレムの聖墳墓教会を訪問し、黙祷を捧げた。同日、イスラエル独立78周年記念式典に参加し、演説をした。
アルゼンチン国籍のグロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は、国連事務総長選への立候補を表明した。
●キルノ外相、国連でイラン批判(27日)
キルノ外相は、核拡散防止条約(NPT)第11回検討会議において、イランのウラン濃縮活動継続を非難し、同国が「決して核兵器を保有してはならない」と警告した。同大臣は、海上安全保障に関する国連安全保障理事会での公開討論会において、イランによるホルムズ海峡の正常な機能への妨害を批判した。
●米州人権委員会によるアルゼンチン人拘束者保護措置への評価(29日)
政府は、ベネズエラで拘束されているアルゼンチン人ヘルマン・ジュリアーニ氏について、米州人権委員会(CIDH)がベネズエラ政府に対し、同氏の保護のための緊急予防措置を命じた対応を称賛した。
(3)要人往来
往訪:
イスラエル:ミレイ大統領、カリーナ・ミレイ大統領府長官、キルノ外相、マイケス法相(19日~22日、イスラエル独立記念日イベント出席、ネタニヤフ首相との会合)
米国:キルノ外相(27日~28日、国連第11回核不拡散条約(NPT)検討会議・安全保障理事会における海上安全保障に関する公開討論参加、バーレーン外相・ドイツ外相との会談)
来訪:
カスト・チリ大統領(6日、ミレイ大統領との会合)
モルト・パナマ商工大臣(8日、二国間貿易協定の交渉、キルノ外相との会合)
パヴェル・チェコ大統領(14日、二重課税の回避及び租税回避の防止に関する協定締結、キルノ外相との会合)
フランス上院外交・防衛・軍務委員会議員団体(16日、キルノ外相及びプレスティ国防相との会合)
ディナノ米国国務次官(22日~24日、アルゼンチン情報機関(SIDE)及びアルゼンチン政府高官との情報・安全保障分野に関する会合)(了)