アルゼンチン政治情勢(月1回更新)
アルゼンチン政治情勢(2025年5月)
1 内政
(1)議会
●公職犯罪歴確認法案の否決(7日)
ア 7日、上院は、犯罪歴のある政治家の公職就任を禁止する公職犯罪歴確認法案を賛成36票、反対35票、欠席1名で否決した(選挙関連法案のため、可決には上院議員総数の過半数となる37票以上が必要)。
イ 同日、大統領府は、同法案の否決を批判する声明を発出した。
(2)ミレイ政権
●国家情報庁(SIDE)を巡る動き(25日)
ア 25日、当地主要紙「ラ・ナシオン」は、国家情報庁(SIDE)が、国民の、政府関係者に対する信頼を脅かすあらゆる人物に関し、当該人物の情報収集を許可するプロジェクトを承認したと報じた。
イ 同日、大統領府は、アの記事を否定し、現政権は、政府反対派、ジャーナリスト、政敵を迫害するためにSIDEを利用しないことを直近数十年で初めて決断した政府であると強調する声明を発出した。
●暗号通貨事件に関する調査タスクフォースの解散(20日)
20日、政府は、2月のミレイ大統領のX投稿に端を発する暗号通貨「$Libra」を巡る詐欺疑惑に関し、委託された業務を遂行したとして、司法省に設置されていた、本件の調査を行うタスクフォース(UIF)の解散を命じたと発表した。
(3)経済
●携帯電話の輸入関税引き下げ(13日)
ア 13日、政府は、携帯電話や電気製品の輸入に係る関税の廃止と減税を行う政令を公布する旨発表した。20日、同政令が公布された。
イ 本措置では、ティエラ・デル・フエゴ州で生産された製品に対する関税の引き下げも言及されており、本措置に対し、14日以降、同州の電化製品生産工場の労働者を中心にストライキが行われた。右ストライキは、25日に解除された。
●税務当局への情報提供義務の緩和(22日)
ア 22日、経済省は、未申告資産の活用に関連し、簡素化された所得税の新制度の導入、税務当局への情報提供義務の緩和等の措置を発表した。新制度を利用する場合、従来必要であった個人消費や資産の増減に関する申告が不要となる。
イ 本措置は、所謂タンス預金として保有されていたドルの流通を促進し、金融システム外にあった資金の取り込みや税収増が狙いとされる。
(4)治安情勢
●バスストライキの実施(6日)
6日、ブエノスアイレス市及びその周辺のブエノスアイレス州の一部地域で、24時間のバスストライキが実施された。一部路線は運行を継続した。
●ブエノスアイレス大都市圏における洪水被害の発生(16日)
15~17日の記録的な豪雨により、ブエノスアイレス州北部、南部及び西部、ブエノスアイレス市南部を中心に広範囲の洪水被害が発生した。同州全体での被災者は約3万人とされ、死者4名、行方不明者1名が確認された他、約4000人が避難したとされる。
(5)選挙関連
●地方におけるLLA地方支部代表の汚職疑惑
ア 3日、ミシオネス州、チャコ州、サンタクルス州、ラパンパ州で、国政与党「自由の前進(LLA)」の地方支部代表者等による、国家健康保険機構(PAMI)等の機関の職員に対する献金の要求や資金横領等が相次いで報じられた。
イ こうした状況を受け、PAMIは声明を発出し、内部監査を行う旨表明した。
●フフイ州地方選挙の実施(11日)
11日、フフイ州の州議会選挙等が行われた。同州議会選挙では、サディール同州知事が率いる州与党連合の候補者が、得票率38.25%で勝利した。二位以下には、LLA候補、ペロン党候補が続いた。投票率は66%であった。
●サルタ州知事選挙の実施(11日)
ア 11日、サルタ州議会選挙等が行われた。投票率は58.75%であった。
イ 同州上院議員選挙では、改選対象の議席12議席のうち、サエンス州知事が率いる州与党連合が11議席を、LLAが1議席を獲得した。
ウ 同州議会下院議員選挙では、改選対象の30議席のうち、サエンス州知事派の州与党連合が20議席を、LLAが9議席を獲得した。
●チャコ州地方選挙の実施(11日)
11日、チャコ州議会選挙等が行われた。同州議会選挙では、LLAと連携して選挙に臨んだスデロ同州知事率いる州与党が、得票率45.2%で勝利した。二位以下にはペロン党キルチネル派(同州前知事が筆頭候補)、ペロン党系候補が続いた。投票率は52.2%であった。
●サンルイス州地方選挙の実施(11日)
11日、サンルイス州議会選挙等が行われた。同州議会選挙では、ポッジ同州知事率いる州与党連合が、得票率47.29%で勝利した。二位以下には、前州知事率いるペロン党、LLA派州野党が続いた。投票率は59.8%であった。
●ブエノスアイレス市議会選挙の実施(18日)
18日、ブエノスアイレス市議会選挙が行われ、LLAのアドルニ候補(大統領府報道官)が得票率30.13%で勝利した。続いて「今だ、ブエノスアイレス(ペロン党系)」のサントロ候補が得票率27.35%で二番手に、市政与党(国政野党)「共和国提案(PRO)」のロスペナト候補が得票15.93%で三番手に続いた。投票率は53.35%であった。
2 外交
(1)対米関係
●トランプ関税に係る米国政府との交渉(11日)
11日、クレクレル外務副大臣(国際経済関係担当)が率いるアルゼンチン代表団は、ワシントンを訪問し、米国政府との関税交渉を開始した旨報じられた。
●ロバート・F・ケネディ・ジュニア米保健長官の来訪(25~27日)
ア 27日、ミレイ大統領は、アルゼンチンを訪問したロバート・F・ケネディ・ジュニア米保健長官と会談した。
イ また、26日には、ルゴーネス保健相、スツルツェネッガー国家規制撤廃・変革相が同保健長官と会談した他、27日には、ウェルテイン外相とも会談した。
ウ 26日のルゴーネス保健相との会談後、アルゼンチン保健省は、科学的根拠に基づく健康維持・予防に重点を置く新たな保健政策を発表した。
エ 27日、ルゴーネス保健相及び同保健長官は、世界保健機関(WHO)からの脱退及び「Make America Healthy Again」イニシアティブを共通指針とする米・アルゼンチン共同声明に署名した。
(2)閣僚級
●メルコスール外相会合の開催(2日)
2日、ブエノスアイレス市でメルコスール外相会合が開催された。本会合では、メルコスール強化の重要性が確認された他、対外交渉の進捗状況を確認し、本年下半期に、全加盟国にとって通商面で重要な国々との対外交渉を優先的に推進することで一致した。また、各国外相は、対外共通関税に関し、4月の外相会合で確認した、国別例外品目表の拡大の必要性を再確認した。
●EU議会外務委員長のアルゼンチン訪問(29日)
29日、ウェルテイン外相は、マカリスター欧州議会外務委員会(AFET)委員長率いる同議会下院議員からなる代表団と会談し、自由貿易協定(FTA)をはじめとするEU・メルコスール関係や国際情勢につき協議した。
(3)アルゼンチン・ベネズエラ関係
●米国による亡命希望者の救出作戦成功を歓迎する政府声明(6日)
6日、大統領府及び外務省は、同日に米国が実行した、在ベネズエラ・アルゼンチン大使館の庇護下にあった亡命希望者5名の出国作戦成功を歓迎する声明を発出した。本声明では、ベネズエラ当局に不当に拘束されたガジョ・アルゼンチン国境警備隊員の解放に尽力する旨等も併せて表明された。
●ベネズエラにおけるアルゼンチン人の拘束
ア 22日、カベージョ・ベネズエラ内相は、25日のベネズエラ議会選挙等の妨害を目的としたテロ容疑で、アルゼンチン人を含む外国人17名を逮捕した旨発表した。当該のアルゼンチン人は、22日中に解放された。
イ 23日、カベージョ内相は、アとは別のアルゼンチン人が、麻薬密売の疑いでベネズエラ当局に逮捕された旨発表した。
ウ 23日、アルゼンチン外務省は、ベネズエラ当局による組織的かつ恣意的な身柄の拘束や人権侵害を非難し、一連のアルゼンチン国民の不当逮捕への懸念を表明するとともに、ガジョ隊員の即時解放を要請する声明を発出するとともに、ベネズエラへの渡航を控えるよう呼びかける領事アラートを発出した。
エ なお、同声明では、今回の拘束は「国家テロリズム」にあたるとして同内相等を非難し、国際刑事裁判所に刑事告訴する旨が表明されている。
(4)対中関係
●アルゼンチン代表団のCELAC出席(13日)
13日、アドルニ大統領府報道官は、北京で開催されたラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)・中国サミット出席のため、アルゼンチン代表団として、ブスタマンテ筆頭外務副大臣、ラクターマン外相首席補佐官等を派遣した旨発表した。
(5)その他
●アルゼンチン南部での地震の発生(2日)
2日、ティエラ・デル・フエゴ州南部沖でM7.5の地震が発生した。ウシュアイア市は避難勧告等を発令しなかったが、地元当局は予防勧告を発出した他、一部住民が自主避難をする等の動きがみられた。
●移民政策の厳格化に係る政府発表(14日)
ア 14日、大統領府は、ミレイ大統領が移民制度改革に係る必要緊急大統領令(DNU)を発令した旨発表した。本大統領令は、29日に正式に公布された。
イ 本制度改革では、犯罪歴のある外国人の入国禁止、アルゼンチンで犯罪行為を働いた者の強制退去、一時・短期滞在者や不法滞在者に対し、医療サービスの支払いや入国時の医療保険の加入義務付け等が導入される。
●チャゴス諸島に関する協定の署名を歓迎する外務省声明(26日)
26日、アルゼンチン外務省は、22日に署名された、チャゴス諸島に関する英・モーリシャス間の協定を歓迎する声明を発出した。
●サンフアン州における新たな銅鉱床の発見(4日)
4日、加の鉱業関連企業Lundin Mining社は、サンフアン州のフィロ・デル・ソル鉱床において、非在来型鉱床では過去30年で最大となる精測・概測資源量(M&I)1300万トンの銅鉱床(推定資源量:2500万トン)が発見されたと発表した。今回の報告では、相当量の金及び銀の埋蔵も確認された。
(6)要人往来
往訪:
米国:クレクレル外務副大臣(国際経済関係担当)(11日、関税交渉)
中国:ブスタマンテ筆頭外務副大臣、ラクターマン外相首席補佐官(12日、CELAC中国フォーラム出席)
バチカン市国:ウェルテイン外相、ペトベージョ人的資本相(18、19日、新教皇の就任式出席等)
ハンガリー:ソテロ外務副大臣(宗務・文明担当)(29日、CPAC出席)
来訪:
ウルグアイ:ルベッキン外相
パラグアイ:ラミレス外相
ブラジル:ヴィエイラ外相
ボリビア:ソサ外相(以上、2日のメルコスール外相会合)
国連:ポロリカシュビリ世界観光機関(UNWTO)事務局長(15日)
米国:ロバート・F・ケネディ・ジュニア米保健長官(25~27日)
欧州議会:マカリスター欧州議会外務委員会(AFET)委員長他(28日)
(了)