2010年10月アルゼンチンの政治情勢(内政・外交)
2010年11月作成
在アルゼンチン大使館
T 概要
(1)内政面では,上院本会議において年金増額法案が可決されたが,政府は,同法案に対し拒否権を発動した。キルチネル派は,モジャーノ労働総同盟(CGT)書記長の主催により,ペロン党忠誠の日を祝う式典を開催した。ペロン党反キルチネル派は,次期国政選挙にあたり,新たな選挙連合を形成する旨決定した。また,労働党員殺傷事件を巡り,左派団体の間で鉄道連盟に対する批判が高まるとともに,政府の責任も追求された。27日,キルチネル前大統領が急逝し,同前大統領の葬儀が行われ,南米諸国首脳等が訪亜したほか,各界要人が弔意を表明した。
(2)外交面では,フェルナンデス大統領がドイツを訪問し,メルケル同国首相等と会談した。ティメルマン外相は,メルコスール共同市場審議会(CMC)等に出席するためウルグアイを訪問したほか,ペルーを訪問して,ガルシア同国大統領等と会談した。イランは,イスラエル共済組合(AMIA)会館爆破事件の裁判に係る亜の提案を拒絶した。英国は,フォークランド(マルビナス)諸島域内でのミサイル発射計画を実施する旨亜に通告し,亜は,同計画が国連決議等に違反するとして批判した。
U 内政
1 年金増額法案
(1)13日,上院本会議において,年金増額法案が審議されたところ,下院可決案に修正が加えられることなく可決された。なお,議会投票は,賛成票35,反対票35の賛否同数となったため,コボス副大統領(上院議長)(急進党)の議決権が生じ,同副大統領が賛成票を投じたことにより可決となった。
(2)政府は,本法案の財源を確保することは不可能であるとして,かねてより本法案に反対していた。上記上院本会議での可決を受け,フェルナンデス大統領は,「年金受給者を欺き,国家の破産を招く法案である」と述べ,改めて本法案を批判した。また,上記上院本会議においてコボス副大統領が賛成票を投じたことにつき,「(副大統領職の)不法占拠者である」と述べ,強く批判した。同批判を受け,コボス副大統領は,「政治的意思さえあれば,財源は確保できるはずである」と述べ,財源確保が不可能とする政府の主張を批判した。
(3)14日,フェルナンデス大統領は,本法案に対し拒否権を発動する旨記載した政令に署名し,15日付官報掲載を以て,同政令が公布された。同拒否権発動につき,同大統領は,「大統領として,亜が破綻することを許容するわけにはいかない」と述べた。サンス急進党党首は,「本法案に対して拒否権を発動するとは,横暴で不公平で偽善的な政府である。政府は,年金受給者たちの敵となった」と述べた。他方,シオリ・ブエノスアイレス州知事(ペロン党キルチネル派)は,「国庫を枯渇させるわけにはいかない」と述べ,今次拒否権発動への支持を表明した。
2 その他議会の動向
(1)19日,下院の憲法委員会,商業委員会等の合同委員会において,パペル・プレンサ法案が審議され,同法案を承認する多数派の意見書が採択された。同法案は,マスメディアによる新聞用紙製造会社の株式取得に対する規制等を行うもの。
(2)21日,下院の予算委員会,商業委員会等の合同委員会において,国家統計局(INDEC)改革法案(注:INDECを経済省から独立した組織とし,職員の再編成,幹部役員の選出方法の変更等の改革を実施する法案)が審議され,上院可決案に修正を加えた上で同法案を承認する多数派の意見書が採択された。また,同合同委員会において,政府広告規制法案(注:政府関連の広告の内容,資金等を規制する法案),及び,国家農牧取引監督機構(ONCCA)改革法案(注:ONCCAを農牧漁業省から独立した組織とし,同機構の権限を縮小する法案)を承認する多数派の意見書も採択された。
3 放送法改正法
5日,最高裁は,クラリン・グループに対する放送法改正法第161条(注:規定の上限を超える放送ライセンスを所有している企業に対し,1年以内に超過分のライセンスを手放すよう義務付ける条項)の適用を停止する旨命じたカルボネ連邦判事の仮処分につき,同処分の有効性を追認し,同停止期間として然るべき期間を設定するよう,同連邦判事に命じる判決を下した。
4 キルチネル派の動向
(1)8日,ブエノスアイレス州において,ペロン元大統領の生誕記念日を祝す行事が開催され,キルチネル前大統領,シオリ同州知事,同州市長等が出席した。同行事において,キルチネル前大統領は,「我々(ペロン党)は,あらゆる問題は党内で解決し,党を代表する者は,国民の民主的な投票によって選出される」と述べ,ペロン党のキルチネル派と反キルチネル派が,次期大統領選挙の予備選挙において対決すべきとの見解を示した。
(2)同日,キルチネル前大統領は,サンタクルス州リオガジェゴス市において,キルチネル派の15名の知事等を集め,大規模な支持者集会を開催した。同集会において,同前大統領は,サンタクルス州検事総長問題につき,ペラルタ知事への支持を改めて表明するとともに,野党が,ソーサ元同州検事総長を復職させるための法案の審議を推進しようとしていることを批判した(注:9月,最高裁は,ペラルタ同州知事に対し,ソーサ元同州検事総長を同職に復職させるよう命じた過去の判決の遵守を命じるとともに,国会に対し,本件につき然るべき処置をとるよう要求する判決を下した。ペラルタ知事は,同判決を,州政府の自律性に対する侵害とみなして強く批判し,同判決に従わない旨公言していた)。他方,同前大統領は,「我々と最高裁の間では,見解が一致することもあれば,食い違うこともあるが,司法の独立は尊重されなければならない」と述べ,本件につき最高裁を批判することは避けた。
(3)15日,ブエノスアイレス市において,モジャーノ労働総同盟(CGT)書記長の主催により,ペロン党忠誠の日を祝うキルチネル派の式典が開催され(注:ペロン党忠誠の日は10月17日であるが,今年は,キルチネル派は15日に,反キルチネル派は16日に,主要な式典を開催した),フェルナンデス大統領,キルチネル前大統領,シオリ・ブエノスアイレス州知事,ウリバリ・エントレリオス州知事等のほか,労組組合員等約7万人が出席した。同式典において,モジャーノ書記長は,「フェルナンデス政権は,年金受給者たちのために多くのことを行ってきたが,未だ不十分である。更なる改善のために,一層の努力を求める」と述べたほか,「(キルチネル派の)国会議員らに,(企業利益分配)法案への支持を求める。この革命的な法律が公布されることを望む」と述べ,CGTが推進する同法案への支持を要求した。他方,フェルナンデス大統領は,「労働者たちの忠誠に感謝する」等述べたが,年金増額法案に対する拒否権発動及び企業利益分配法案には言及しなかった。
5 ペロン党反キルチネル派の動向
(1)12日,プエルタ下院議員の自宅にて,ドゥアルデ元暫定大統領,ソラ下院議員,ロドリゲス・サア・サンルイス州知事,ロメロ上院議員,ロドリゲス・サア上院議員等,ペロン党反キルチネル派の主要政治家が会合を設け,次期国政選挙にあたり,ペロン党反キルチネル派が新たな選挙連合を形成し,キルチネル派候補との予備選挙での対決を避けることにつき合意に至った。プエルタ下院議員は,「我々はキルチネル派の言いなりにはならない。ペロン党内ではクリーンな予備選挙を行うための条件が整っていない」と述べた。
(2)また,同会合では,上記選挙連合に他の野党勢力を取り込んでいく可能性についても議論が交わされた。取り込む可能性がある政治家としては,マクリ・ブエノスアイレス市長(共和国提案)及びシオリ・ブエノスアイレス州知事(ペロン党キルチネル派)の名が挙げられた。
(3)16日,サルタ市において,ペロン党忠誠の日を祝うペロン党反キルチネル派の式典が開催され,同勢力の主要政治家等が出席した。同式典において,ドゥアルデ元暫定大統領は,「シオリ知事がペロン党反キルチネル派の予備選挙に参加する気になるとは思えない」と述べ,同知事との協調の可能性が低いことを示唆した。また,ソラ下院議員は,「ペロン党反キルチネル派の候補者たちは,相互に支え合っている。他勢力の候補者を探し求める必要があるとは思えない」と述べ,他の野党勢力との協調につき消極的な姿勢を示した。
6 急進党の動向
(1)1日,サルタ市において,急進党の行事が行われ,サンス同党党首,コボス副大統領等が出席した。同行事において,サンス党首は,急進党の次期大統領候補として有力視されているコボス副大統領及びアルフォンシン下院副議長の両者に対する支持を表明するとともに,急進党の候補者は予備選挙によって選出する旨述べた。
(2)6日,急進党幹部の会合が設けられ,コボス副大統領及びアルフォンシン下院副議長の両者が出席した。同会合後の記者会見において,コボス副大統領は,「不和は一切ない。我々2人は急進党の人間であり,党の統一と和解のために働いている」と述べた。
(3)7日,サンス急進党党首は,ラジオ番組において,「我々は皆,(来年の)8月14日(注:次期国政選挙の予備選挙実施日)に束縛されている。いかなる大統領候補も,(選挙キャンペーンに)最低4か月は要するものであり,2か月では短すぎる(注:本選挙の実施日は,予備選挙の約2か月後の10月23日)」と述べ,急進党の予備選挙を前倒しする可能性を示唆した。これを受け,ランダッソ内相は,「予備選挙は8月14日に行われるものである。その日付は,与野党の審議によって成立した法律(注:昨年12月に成立した政治改革法)により規定されている」と述べ,サンス党首の上記発言を批判した。
7 労働党員殺傷事件
(1)20日,ブエノスアイレス市において,鉄道従業員と,それを支持する左派政党,労組,ピケテロ・グループ等が,鉄道連盟に対する抗議活動を行っていたところ,労働党員1名が銃殺されたほか,同党員2名が銃弾を受け負傷した。
(2)左派政党,労組,ピケテロ・グループ等は,発砲した人物は鉄道連盟の関係者であると主張したのに対し,ペドラサ鉄道連盟会長は,「銃弾がどこから飛んできたかはわからない」と述べ,鉄道連盟の同犯行への関与を否定した。
(3)政府は,ドゥアルデ元暫定大統領が,本事件の前にペドラサ鉄道連盟会長と会談していた旨指摘し,同元暫定大統領の本事件への関与を示唆した。これに対し,同元暫定大統領は,言い掛かりであると述べ,否定した。
(4)21日,ブエノスアイレス市等において,左派政党,労組,ピケテロ・グループ等が大規模な抗議活動を行い,事件当日の連邦警察の安全管理等に問題があったとして,政府の責任を追求するとともに,鉄道連盟関係者の本事件への関与を改めて主張した。
(5)23〜30日,鉄道連盟関係者等6名が,本事件に関与した容疑で逮捕された。
8 キルチネル前大統領の急逝
(1)27日朝,キルチネル前大統領は,サンタクルス州カラファテ市の自宅において心不全に陥り,フェルナンデス大統領に看取られる中,搬送先の病院において急逝した。なお,同日は,国勢調査の実施日であった。
(2)同前大統領の逝去を受け,モジャーノCGT書記長は,弔意を表明したうえで,「我々は全力を挙げてフェルナンデス大統領を支持する。同大統領が再選を目指すならば,我々はそれについて行く」と述べた。シオリ・ブエノスアイレス州知事も,弔意を表明したうえで,「これまで以上に,個人的にも,公的にも,フェルナンデス大統領に付き添おう」と述べた。その他,与野党の政治家を始め各界の要人らが弔意を表明した。
(3)同日,フェルナンデス大統領は,27日,28日及び29日を国喪期間とし,同期間中は全ての公共建造物に半旗を掲げる旨規定した政令に署名した。
(4)同日夜,サンタクルス州リオガジェゴス市の大聖堂及びブエノスアイレス市の大聖堂において,キルチネル前大統領を弔うためのミサが行われた。
(5)28〜29日,大統領府において,同前大統領の通夜が行われ,中南米諸国首脳(モラレス・ボリビア大統領,コレア・エクアドル大統領,ムヒカ・ウルグアイ大統領,ピニェラ・チリ大統領,チャベス・ベネズエラ大統領,サントス・コロンビア大統領,ルゴ・パラグアイ大統領及びルーラ・ブラジル大統領),外交団,閣僚,国会議員,州知事等のほか,多くの国民が参列した。
(6)29日,リオガジェゴス市において,同前大統領の遺体が埋葬された。
III 外交
1 ナイジェリア
1日,亜政府は,亜外務省プレスリリースを通じ,同日,ナイジェリア独立50周年記念式典が行われていた同国首都アブジャにおいて発生した爆弾テロ事件につき,ナイジェリア政府,同国民及び遺族に対する哀悼の意を表明した。
2 インド
3〜5日,Shri Vivek Katjuインド外務次官補が訪亜し,ダロット筆頭外務副大臣と会談した。4日,両者の出席の下,第7回亜・インド政策協議が実施され,二国間政治・経済関係,科学技術協力,原子力エネルギーの平和利用,国連やG20等の国際場裡での協力等につき議論された。また,ダロット筆頭外務副大臣がフォークランド(マルビナス)諸島領有権問題に関する亜の立場を説明したのに対し,Shri
Vivek Katju次官補は,国連植民地化委員会においてコンセンサスで採択された決議,及び同領有権問題の交渉による解決に対するインドの従来からの支持を表明した。
3 ドイツ
(1)4〜7日,フェルナンデス大統領は,ドイツを訪問し,同国のヴルフ大統領,メルケル首相,ヴェスターヴェレ外相とそれぞれ会談したほか,フランクフルト国際図書展開会式に出席する等した。なお,フェルナンデス大統領には,ティメルマン外相,ブドゥー経済相,シレオニ教育相,バラニャオ科学技術相,コシア大統領府文化長官等のほか,亜企業関係者約80名(自動車,繊維,ソフトウェア,エネルギー,ワイン,食品,革製品,手工芸品,機械,化学薬品,医薬品,デザイン,建築業界等の企業関係者)が同行した。
(2)6日,フェルナンデス大統領は,メルケル・ドイツ首相と会談し,二国間関係,メルコスール・EU間協力,気候変動等につき協議した。同会談後,フェルナンデス大統領は,同首相主催昼食会に出席した。同昼食会後の共同記者会見において,フェルナンデス大統領は,明年1月に亜が議長国に就任するG77+中国の重要性,2008年の世界金融危機からのドイツ及び亜の回復,財政危機に対処するためのG20による措置の重要性等につき述べたほか,(パリクラブ債務に関し,)「亜は,全ての債務を返済する意志を有している。我が政権は,新たに債務を負うことはなかったし,また,資本市場にアクセスすることなく2003年以前の全ての債務を返済している唯一の政権である。(パリクラブ債務返済においてIMFの関与は不要であるという点につき,)亜の立場は明白である。」旨述べた。なお,当地各紙報道によれば,メルケル首相は,IMFの関与が不可欠であると応じた由。
(3)14日,訪亜したティールゼ・ドイツ連合議会副議長は,ティメルマン外相と会談し,フェルナンデス大統領のドイツ訪問(4〜7日)成果,メルコスール・EU貿易協定締結交渉の再開,亜のG77+中国次期議長国就任,二国間科学技術協力等につき協議した。
4 ロシア
(1)4〜5日,訪亜したデニソフ・ロシア第一外務次官が訪亜し,5日,ダロット筆頭外務副大臣とともに本年第2回目の開催となる亜・ロシア政策協議に出席した。同協議において,科学技術,経済・貿易,軍事技術,エネルギー,南極,文化・スポーツ等の分野における二国間協力,国連やG20等の国際場裡における協力等につき議論された。また,デニソフ第一外務次官がマルビナス諸島領有権問題の交渉による解決へのロシアの支持を表明したのに対し,ダロット筆頭外務大臣は,同支持への謝意を表明した。
(2)25日の亜・ロシア外交関係樹立25周年記念日に,ティメルマン外相は,ラヴロフ・ロシア外相宛祝賀メッセージを発出した。
5 チリ
(1)9月30日,国家難民委員会(CONARE:Comision Nacional de Refugiados)
は,チリ政府からのチリ人元ゲリラ・アパブラサの引渡要請に応じずに,同人に対し政治難民認定を与える旨決定した。
(2)4日,モレノ・チリ外相は,ゴンサレス在チリ亜大使に対し,CONAREによる上記決定を非難する口上書を手交するとともに,「チリ政府は,アパブラサに与えられた保護につき,何ら同意できず,遺憾の意を表明する。CONAREによる今次決定は,チリにおける人権尊重と司法への大打撃である。」等述べた。
(3)4日,ドイツ訪問中のティメルマン外相は,CONAREによるアパブラサへの政治難民認定供与への同意を表明するとともに,同決定によりチリとの間に問題が生じることはない旨述べた。
(4)7日,下院において,急進党を始めとする野党勢力は,「兄弟国チリにおける民主主義体制及び法体制への完全なる信頼を表明する。(CONAREによる今次決定は,)チリ裁判所が(アパブラサ問題につき)正しく解決することを妨げるものである。」等謳った宣言を採択するとともに,CONARE委員に説明を要求した。また,上院においても,急進党を始めとする野党勢力は,ティメルマン外相に対し,引渡拒絶理由につき説明するよう求めた。
(5)13日,フェルナンデス大統領は,ピニェラ・チリ大統領に電話し,チリ鉱山作業員33名の救出につき祝意を表明した。
(6)15日,チリ政府は,CONAREに対し,アパブラサに対する政治難民認定の取り消し,及びアパブラサの引渡を要求した。
6 ウルグアイ
(1)8月30日,ウルグアイ川及び同川に排水している全ての農業・産業・都市施設のモニタリングの実施を担当する科学委員会(科学者4名(亜国人2名,ウルグアイ人2名)から成る委員会)が,ウルグアイ川管理委員会(CARU)内に設置された。
(2)6日,上記科学委員会は,活動を開始し,ウルグアイ川沿いのUPM社(旧ボトニア社)製紙工場への初の立ち入り検査を実施した。同検査の報告書は,後日公表される予定。
(3)6月9日,亜政府は,UPM社製紙工場の撤去を求めて国際橋梁封鎖を行っていたグアレグアイチュ市市民団体代表者を,交通妨害,過失致死,脅迫,公共物破損等を理由として連邦裁判所に告訴した。7月2日,ピメンテル連邦判事は,国際橋梁封鎖を巡る社会的状況,予防的措置の欠如等から,同橋梁封鎖を禁止されていた行為であると見なすだけの正当な理由が見当たらないとして,被告の口頭審理を実施しないとする判決を下した。同判決を受け,政府は控訴していたところ,10月25日,連邦高等裁判所は,形式上の不備を理由として被告の口頭審理を実施しないとする判決を下した。
7 イラン
(1)9月24日,フェルナンデス大統領は,第65回国連総会一般討論演説で,イスラエル共済組合(AMIA)会館爆破事件に関与したとされる当時のイラン政府高官の裁判を,両国の合意の下に選ばれた第三国において実施することをイランに提案した。
(2)上記に対し,イランは,10月6日付国連文書(A/65/495)として公表された9月28日付Khazaeeイラン国連代表部大使発国連事務総長宛書簡を以て,フェフェルナンデス大統領の上記提案を拒絶したところ,同書簡の概要下記(ア)〜(エ)のとおり。なお,これまで,2007年にキルチネル前大統領が,また,2008年及び2009年にフェルナンデス大統領が,国連総会一般討論演説において,AMIA会館爆破事件に関与したとされる当時のイラン政府高官の引き渡しをイランに対して要請してきている。それら3度の要請に対し,イランは,Khazaeeイラン国連代表部大使発国連事務総長宛書簡(それぞれ国連文書(A/62/485,A/63/468,A/64/481)として公表されている。)を以て,概ね下記(ア)及び(イ)の内容の反論を行ってきている。今次イランによる反論は,従来の内容に下記(ウ)が新たに加わっており,亜に対する非難の調子が強まった。
(ア)AMIA会館爆破事件にイラン国民が関与していないことは明白であり,亜政府による告発は根拠のないものである。亜政府は,根拠なしに告発されたイラン国民の権利を回復する義務がある。イラン政府は,基本的権利侵害からイラン国民を擁護する義務を持つ。イラン政府は,亜政府に対し,真の実行犯を匿うための根拠なき告発を取り下げ,真実究明と基本的権利侵害防止のために効果的措置をとり,厳格な調査を行うよう要請する。
(イ)イラン政府と亜政府との間に司法協力に関する法的枠組みは存在しないが,亜政府は,司法協力に関する法的枠組みにつき交渉することを一貫して否定してきており,一方的提案を押し付けようとしてきた。また,AMIA会館爆破事件に関する調査は不規則に行われたため,その結果は法的価値を持たず,亜当局は,イラン国民の同事件への関与を証明するものを何ら提出できていない。従って,(亜からの)司法協力に関する要請は,如何なるものであれ受け入れることはできない。
(ウ)亜政府は,数々の外交上の権利侵害の責任を有する。特に,在亜イラン大使館盗聴については,非合法な同行為を行った関係者に説明させ,同行為が引き続き行われることがないようにすべきである。また,亜政府は,テロ・グループに協力した責任を有する。特に,多数の罪なきイラン国民を殺傷してきたMuyahidin
Jalqに対し,経済的支援を与えるとともに,イラン国民に不利となるような虚偽の供述を引き出す目的で贈賄した責任を有する。更に,亜政府は,1995年に発生した在亜イラン大使館次席(当時)に対する亜在住テロ・グループによるテロ事件(注:発砲事件)に関する責任を有する。亜当局は,同事件の実行犯を特定し,裁判にかけるべきであった。
(エ)問題は種々存在するが,イラン政府は,亜との歴史的関係の維持・強化を望んでおり,亜政府と建設的対話を行う用意があることを再表明するとともに,本事件により生じた誤解が解けるよう尽力していく。
8 英国
(1)9日,亜政府は,亜外務省プレスリリースを通じて,英国軍発亜海軍水路機関宛書簡(8日付)により通知のあった英国によるフォークランド(マルビナス)諸島域内でのミサイル発射計画(11〜23日の間に実施予定)を国連決議31/49(注:マルビナス諸島領有権問題が解決途中にある間は双方共に現状を変化させるような一方的行為を慎むよう呼びかける国連決議)に反するとして拒絶するとともに,英国の一方的決定である同計画につき,国連事務総長,OAS,南米諸国連合(UNASUR)等に対し訴える予定である旨発表した。また,亜外務省は,在亜英国大使館に対し,上記計画を強く批判するとともに,計画の中止を要請する口上書を送付した。
(2)12日,亜政府は,外務省プレスリリースを通じ,UNASURが,英国による上記計画を国連決議31/49に反するとして拒絶するとともに,マルビナス諸島領有権問題における亜の合法的権利への支持を再表明し,亜及び英国に対し同問題の平和的且つ決定的解決のための交渉再開を呼びかける宣言を採択したことにつき謝意を表明した。
(3)14日,亜政府は,マルシコ亜国際海事機関(IMO)代表部代表発ミトロプロスIMO事務局長宛書簡を以て,英国による上記ミサイル発射計画を国連決議31/49違反であると訴え,ミサイル発射計画につき通告がなされたのは今回が初めてであるとし,過去20年以上に亘り半年毎に実施してきている通常の活動であるとする英国の発表を拒絶したほか,本件に関する説明を英国に求めるようIMOに要請した。
(4)14〜18日,訪亜したSaint Aimee国連非植民地化特別委員会委員長(セントルシア国連代表部大使)は,フェルナンデス大統領,ティメルマン外相と会談したほか,ティエラデルフエゴ州を視察した。同委員長は,マルビナス諸島領有権問題に関し,亜・英国間の対話による解決を支持し,同対話実施に向けて支援していく意向を表明した。
(5)15日,亜政府は,亜外務省プレスリリースを通じ,リオ・グループが,英国による上記計画を,国際社会の呼びかけ及び国連決議31/49に反するとして拒絶するとともに,マルビナス諸島領有権問題における亜の合法的権利への支持を再表明し,亜及び英国に対し同問題の平和的且つ決定的解決のための交渉再開を呼びかける宣言を採択したことにつき謝意を表明した。
(6)18日,ティメルマン外相は,ウルグアイを訪問し,第8回メルコスール共同市場審議会(CMC)会合及び第16回メルコスール議会に出席した。ティメルマン外相は,メルコスール議会において,マルビナス諸島領有権問題に関するメルコスール加盟諸国の支持に謝意を表明した。また,CMC会合において,UNASUR及びリオ・グループによる宣言を支持する旨の宣言が採択された。
(7)上記(1)の亜からの抗議の口上書の回答として,21日,英国は,約30年前からマルビナス諸島周辺海域においてミサイル発射活動を実施してきており,同活動について過去に通報したことはないとする口上書を亜に送付越した。
(8)上記(7)の英国からの口上書を受け,26日,亜は,同口上書の内容を拒絶するとともに,ミサイル発射計画を国連決議31/49及びIMO規約違反であるとする口上書を英国に送付した。加えて,同日,亜は,IMOに対し,英国によるIMO規約違反を訴え,本件問題についてのIMOにおける協議の早期実施を要請した。
(9)26日,インスルサOAS事務総長は,英国によるミサイル発射計画の再考を促すとともに,マルビナス諸島領有権問題の平和的解決のための亜と英国間の交渉再開を呼びかけた。
9 サウジアラビア
(1)12〜13日,企業関係者等約30名を率いて訪亜したバルグナイム・サウジアラビア農業相は,フェルナンデス大統領及びドミンゲス農牧相とそれぞれ会談し,亜における食料生産分野における投資に関心を表明した。同会談後,フェルナンデス大統領は,「今後の鍵を握るのは食料と技術である。食料と技術を有する亜と石油・エネルギーを有するサウジアラビアは,素晴らしい戦略的パートナーシップを構築することができる。」等述べた。
10 メルコスール
18日,ティメルマン外相は,ウルグアイを訪問し,第8回メルコスール共同市場審議会(CMC)会合及び第16回メルコスール議会に出席した。同外相は,メルコスール議会において,亜の本年上半期メルコスール議長国としての報告を行い,主要成果として,関税同盟としてのメルコスール強化,メルコスール関税コードの採択,対外共通関税の二重課税撤廃決定,生産的統合のためのプロジェクト11件のフォローアップ,プロジェクト9件への構造的格差是正基金(FOCEM)からの資金供給承認,メルコスール・EUパートナーシップ協定締結交渉の再開,メルコスール・エジプト自由貿易交渉の締結,メルコスール議会・ロシア連邦院協力協定の締結,メルコスール人権公共政策研究所の構成・予算の採択,国際犯罪との闘いのためのメルコスール加盟国・準加盟国間の共同調査チーム創設協力枠組協定の採択等を挙げた。
11 スペイン
(1)18日,ライグレシア・スペイン外務・協力省イベロアメリカ担当長官が訪亜し,ダロット筆頭外務副大臣とともに,二国間政策協議に出席した。同協議では,二国間の戦略的パートナーシップ,経済・貿易関係,科学技術協力,国際場裡における協力等につきレビューされたほか,メルコスール・EU貿易協定締結交渉の再開,本年12月に亜で開催される第20回イベロアメリカ・サミット等についても議論された。なお,ダロット筆頭外務副大臣は,ライグレシアス長官に対し,亜国民のスペイン入国が不許可となる事例が増加していることへの亜の憂慮を伝え,スペイン国内法の柔軟な適用を要請した。
(2)29日,キルチネル前大統領の通夜に出席するため訪亜したヒメネス・スペイン外務・協力相は,ティメルマン外相と会談し,メルコスール・EU貿易協定締結交渉,12月3〜4日に亜で開催予定のイベロアメリカ・サミット等につき協議した。同会談において,ティメルマン外相は,亜国民のスペイン入国が不許可となった最近の事例についての亜の憂慮を伝達した。両者は,同問題の解決に向けて,両国担当当局間の連携強化,入国制度に関する情報提供の向上等を図っていく旨合意した。
12 ペルー
20〜21日,ペルーを訪問したティメルマン外相は,21日,ガルシア・ペルー大統領と会談し,来年3月の訪亜を招待するフェルナンデス大統領からの書簡を手交した。また,同日,ティメルマン外相は,ガルシア・ベラウンデ・ペルー外相と会談し,二国間テーマ,地域テーマ及び国際テーマにつき協議した。両外相は,11月26日にガイアナで開催される第4回UNASUR首脳会合において,UNASUR設立条約の追加議定書として民主主義条項を採択するという両国政府の決定を再確認した。また,両外相は,UNASUR,本年12月に亜で開催される第20回イベロアメリカ・サミット,2011年2月16日にペルーで開催される第3回南米アラブ諸国首脳会合,南極分野における二国間協力,両国の外交官学校間協力の進展,二国間貿易関係の推進等の重要性を表明した。更に,ガルシア・ベラウンデ外相は,マルビナス諸島領有権問題に関する亜の合法的権利への支持を再表明した。
13 モロッコ
21日,モロッコを訪問したダロット筆頭外務副大臣は,アムラニ・モロッコ外務・協力省次官とともに第2回二国間政策協議に出席した。同協議では,二国間政治・経済・貿易関係,中東情勢等についてのレビューが行われた。また,ダロット筆頭外務副大臣は,2011年1月に予定されているフェルナンデス大統領のモロッコ公式訪問の準備を進めていくことへの関心を表明したほか,マルビナス諸島領有権問題に関するモロッコの従来からの支持に謝意を表明した。
14 中国
21〜26日,中国を訪問したビアンチ産業省商工・中小企業長官は,崇泉(Chong Quan)中国商務部副部長等と二国間貿易につき協議し,貿易関係強化に向け,アンチダンピングに関する二国間情報交換体制の確立等につき合意した。
15 アフリカ
25日,ティメルマン外相は,在亜アフリカ諸国大使グループ(アンゴラ,アルジェリア,エジプト,リビア,モロッコ,ナイジェリア,コンゴ民主共和国,南アフリカ及びチュニジア)昼食会に出席した。同外相には,トロンベッタ外相特別補佐官,クレックレル外務副大臣(通商・国際経済担当),サルバドール外務省国際経済交渉局長及びフェルナンデス外務省アフリカ局長が同行した。同昼食会において,ティメルマン外相は,亜外交が人権や多国間主義を重視している点に言及しつつ,亜とアフリカ諸国との貿易関係の潜在性の高さ,2008年のフェルナンデス大統領のアフリカ訪問成果,次期G77議長国に就任する亜の役割等につき述べた。また,ティメルマン外相は,マルビナス諸島領有権問題に関するアフリカ諸国からの支持に謝意を表明した。
16 ハイチ
25日,亜政府は,外務省プレスリリースを通じ,ハイチにおけるコレラ大流行に対する支援策を検討するため,米州保健機構等と協議中である旨発表した。
17 アルジェリア
25〜26日,アルジェリアを訪問したダロット筆頭外務副大臣は,26日,メデルチ・アルジェリア外相と会談したほか,デルミ・アルジェリア外務次官とともに二国間政策協議の議長を務めた。同政策協議では,二国間の政治・貿易・文化・科学技術協力関係,国際テーマ,地域テーマ等につき協議された。ダロット筆頭外務副大臣は,マルビナス諸島主権問題,及び亜の次期G77+中国議長国選出に対するアルジェリアの支持に謝意を表明したほか,中東問題の二国家解決に対する亜の従来からの支持を表明した。
18 米国
26日,訪亜したローゼンタール米国反ユダヤ主義撲滅特使は,ティメルマン外相と会談し,反ユダヤ主義との闘い,亜における在亜イスラエル大使館爆破事件(1992年)とイスラエル共済組合(AMIA)会館爆破事件(1994年)の影響等につき協議した。ティメルマン外相は,反ユダヤ主義との闘い,及びホロコースト否定や差別行為を非難する取り組みに対する亜の支持を表明した。
19 ブラジル
31日のブラジル大統領選挙を受け,亜政府は,同日付外務省プレスリリースを通じ,ルセフ次期ブラジル大統領の勝利を祝福するとともに,同勝利を,両国民及び中南米社会全ての福祉向上のためにメルコスール及びUNASURにおいて推進されてきた政策の継続を確認するものであると評価した。同日,フェルナンデス大統領はルーラ・ブラジル大統領及びルセフ・ブラジル次期大統領と電話会談したほか,ティメルマン外相もアモリン・ブラジル外相及びガルシア・ブラジル大統領補佐官(外交担当)と電話会談し,ルセフ次期ブラジル大統領の勝利を祝福した。
20 要人往来
(1)往訪
1日 |
ティメルマン外相のエクアドル訪問(UNASUR臨時外相会合に出席) |
4〜7日 |
フェルナンデス大統領のドイツ訪問(メルケル・ドイツ首相等と会談,フランクフルト国際図書展開会式に出席) |
8〜10日 |
ブドゥー経済相の米国訪問(IMF・世銀年次総会に出席) |
18日 |
ティメルマン外相のウルグアイ訪問(第8回メルコスール共同市場審議会(CMC)会合及び第16回メルコスール議会に出席) |
19日 |
ジョルジ産業相のウルグアイ訪問(クレイメルマン・ウルグアイ工業エネルギー鉱業相と会談) |
20〜21日 |
ティメルマン外相のペルー訪問(ガルシア・ペルー大統領及びガルシア・ベラウンデ・ペルー外相と会談) |
21〜23日 |
ブドゥー経済相の韓国訪問(G2会合に出席) |
21日 |
ダロット筆頭外務副大臣のモロッコ訪問(アムラニ・モロッコ外務・協力省次官と会談,第2回亜・モロッコ政策協議に出席) |
21〜26日 |
ビアンチ産業省商工・中小企業長官の中国訪問(崇泉(Chong Quan)中国商務部副部長と会談) |
25〜26日 |
ダロット筆頭外務副大臣のアルジェリア訪問(メデルチ・アルジェリア外相と会談,亜・アルジェリア政策協議に出席) |
(2)来訪
9月30日〜1日 |
UNASUR諸国首脳(UNASUR臨時首脳会合に出席) |
3〜5日 |
Vivek Katjuインド外務省西欧担当次官(ダロット筆頭外務副大臣と会談,第7回亜・インド政策協議に出席) |
4〜5日 |
デニソフ・ロシア第一外務次官(亜・ロシア政策協議に出席) |
11〜18日 |
秋葉広島市長(ティメルマン外相と会談,イベロアメリカ自治体週間関連行事に出席) |
12〜13日 |
バルグナイム・サウジアラビア農業相(フェルナンデス大統領及びドミンゲス農牧相と会談) |
14日 |
ティールゼ・ドイツ連合議会副議長(ティメルマン外相と会談) |
14〜18日 |
Saint Aimee国連非植民地化特別委員会委員長(フェルナンデス大統領及びティメルマン外相と会談,ティエラデルフエゴ州を視察) |
18日 |
ライグレシア・スペイン外務・協力省イベロアメリカ担当長官(ダロット筆頭外務副大臣と会談,亜・スペイン政策協議に出席) |
19〜20日 |
コックス世銀中南米カリブ地域担当副総裁(フェルナンデス大統領,デビード公共事業相及びブドゥー経済相と会談) |
26日 |
ローゼンタール米国反ユダヤ主義撲滅特使(ティメルマン外相と会談) |
28〜29日 |
中南米各国首脳等(キルチネル前大統領の葬儀に出席) |
29日 |
ヒメネス・スペイン外務・協力相(キルチネル前大統領の葬儀に出席,ティメルマン外相と会談) |