政治情報
月1回更新

2013年8月アルゼンチンの政治情勢(内政・外交)

2013年9月作成
在アルゼンチン大使館

 

1 概要


(1)内政:国会議員選挙の予備選挙(上院24議席改選,下院127議席改選)が実施され,フェルナンデス大統領率いる与党PJ「勝利のための戦線」(FPV)は,従来強かった地方の州で苦戦し,また,ブエノスアイレス市,ブエノスアイレス州,コルドバ州及びサンタフェ州等の都市圏でも得票率で野党に破れた。但し,各州別ではなく,全国での得票率を合算した政治団体別のランキングでは,上下両院ともにFPVが第1位を獲得した。予備選の結果を受け,フェルナンデス大統領は,企業家及び政府支持派の労組団体代表と「社会的対話」会合を行い,現政権の経済政策である「社会的包摂を伴う成長路線」を今後も継続して進めていくこと確認した上で,労組が強く求めていた所得税の課税最低限度額の引き上げ及び同税控除額の増額を実施する旨発表した。

 

(2)外交:亜の国連安全保障理事会議長国就任に伴い国連を訪問したフェルナンデス大統領は,潘基文事務総長,パトリオッタ伯外務大臣及びモレーノIDB総裁とそれぞれ個別に会談し,また,安保理会合で演説を行った。同大統領とともに国連を訪問したティメルマン外務大臣は,伯外務大臣,ウルグアイ外務大臣,ボリビア外務大臣及びベネズエラ外務大臣とともに潘基文事務総長と会談した。フェルナンデス大統領は,カルテス新パラグアイ大統領の就任式に出席するためパラグアイを訪問し,二国間首脳会談を実施,亜・パラグアイ関係の将来について協議した。右訪問に同行したティメルマン外務大臣はロイサガ・パラグアイ外務大臣と会談した。中国を訪問したブドゥー副大統領は,李源潮(LiYuanchao)中国国家副主席と会談し,二国間外交日程及び国際経済問題に関し協議した。



2 内政


(1)国会議員選挙の予備選挙実施

 

(ア)11日,国会議員選挙の予備選挙(上院24議席改選,下院127議席改選)が実施された。亜の予備選挙は,10月の本選挙に参加できる政治団体(注:予備選挙での1.5%以上の得票率の獲得が条件)を選出すると共に,自らの団体内で複数の候補者リストを提示している政治団体の候補者リストを1組に絞ることを主目的とするものである。本選挙同様,有権者による義務投票であり,現時点における各政治団体・候補者に対する支持状況が明らかになることから,一種の全国的世論調査のような趣もあり,本選挙に向けた戦略を練る上でも各政治団体にとり重要な選挙と言われている。

 

(イ)今回の予備選挙の実施は,2011年に続き史上2回目であり,大統領選挙が行われない年の予備選挙としては史上初であった。今次予備選挙の投票率は76.5%であり,同選挙において,フェルナンデス大統領率いる与党PJ「勝利のための戦線」(FPV)は,従来強かった地方の州で苦戦し,連邦下院議員選挙に関しては,全24選挙区中,14選挙区において得票率で首位を獲得できなかった点が当地報道で「敗北」と見なされた(注:当国では,得票率で1位になることが勝利であり,2位以下は敗北と見なされている)。但し,各州別ではなく,全国での得票率を合算した政治団体別のランキングでは,上下両院ともにFPVが第1位を獲得した(連邦上院議員選挙での全国得票率:27.45%,連邦下院議員選挙での全国得票率:26.31%)。

 

(ウ)国内最大の有権者数を抱える注目選挙区のブエノスアイレス州では,大方の予想通り,FPVから抜けたマサ・ティグレ市長率いる「刷新戦線」が,インサウラルデ市長率いるFPVを破り,5.4ポイント差をつけて得票率1位(35.05%)を獲得した。当地各紙は右勝利を強調し,マサ市長が2015年の大統領選挙に向けて本格的に始動するとの見方を報じた。3位(得票率11.13%)は,社会党と急進党の連合である「革新・市民・社会戦線」(エストルビッツェル下院議員及びアルフォンシン下院議員等のグループ)で,4位(得票率10.54%)は,反政府派のペロニスタであるデ・ナルバエス下院議員率いる「自由と労働のための連合戦線」であった。

 

(エ)ブエノスアイレス市選挙区(注:連邦上院・下院議員選挙を実施)では,マクリ市長率いる「共和国提案」(PRO)の選挙連合(ミケティ上院議員及びベルグマン下院議員がそれぞれ筆頭候補)が他の勢力を抜いて得票率1位を獲得した(上院選得票率:31.39%,下院選得票率:27.54%)。2位はFPV(上院選得票率:19.85%,下院選得票率:18.99%)で,3位に中道左派連合の「UNEN」が続いた。但し,今回4つのグループに分かれて内部選抜を実施した「UNEN」の得票率を全て足し合わせると,下院で35.58%,上院で32.01%となり,PRO勢を抜き,得票率1位となるため,当地各紙は,PROの選挙連合が微かな勝利に終わったと報じた。

 

(オ)報道により見方は若干異なるものの,大半の紙面は,今回の予備選挙の結果が10月27日の本選挙にそのままの形で反映されることになれば,本年12月以降の2年間も,与党が上下両院で現在と同じ規模の勢力,すなわち過半数(但し,3分の2には届かない)を維持し,第一党としてとどまることになるだろうと報じた(注:現在,FPVは複数の小政党との連立により,上下両院において法案可決に必要な過半数(上院37議席,下院129議席)をほぼおさえている。下院の場合,本年の改選議席の多くは,2009年に与党勢力が大敗した選挙で勝利した野党議員の議席であるため,今次選挙は与党にとってはさほど困難な戦いとは見なされていない)。

 

(カ)11日深夜,30分間の演説を行ったフェルナンデス大統領は,予備選挙の結果に動揺の色を見せること無く終始笑顔で振る舞い,無名だったインサウラルデ市長(注:ブエノスアイレス州ローマス・デ・サモラ市の市長。同州選出の連邦下院議員選挙の与党筆頭候補として,FPVの投票用紙の「顔」になっている人物)がブエノスアイレス州で良い戦いをした旨褒め称えた上で,10月の本選挙までの2ヶ月半の間に更なる努力をするよう,各候補者及び与党関係者に呼びかけた(注:会場にはインサウラルデ市長の他に,ブドゥー副大統領,アバル・メディーナ官房長官,ランダッソ内務・運輸大臣,シオリ・ブエノスアイレス州知事,ドミンゲス下院議長,一部のFPVの候補者等が同席した)。

 

(キ)「刷新戦線」のマサ市長は11日夜22時半過ぎに演説を行い,予備選挙での勝因として,多様なバックグラウンドを持つ候補者が多様な政策提言を行ったことという点を挙げるとともに,「刷新戦線」は治安の悪化,インフレ及び所得税(の負担増)の3点に立ち向かう政治勢力を代表していると発言した。また,マサ市長は,フランシスコ・ローマ法王が重視する「多様性における団結及び融和」の理念を守っていくというメッセージを発信した。

 

(ク)08年〜09年のスライド制輸出課徴金の導入をめぐる政府と農牧団体の対立の際に,フェルナンデス大統領の副大統領でありながら政府を裏切り,採決で反対票を投じたコボス元副大統領(急進党)は,今回,メンドーサ州選出の連邦下院議員候補として出馬し,同元副大統領率いる急進党系選挙連合が,2位のFPVに得票率で17.61%の差をつけ,メンドーサ州全土で勝利した。

 

(ケ)今回の予備選挙では,地方での急進党系勢力(急進党単独もしくは急進党と他党の選挙連合)の躍進が目立ち,歴史上初めて,急進党の選挙連合がラ・リオハ州で同州与党のキルチネル派を破り,得票率1位を獲得した。

 

(コ)反政府派ペロニスタのデ・ラ・ソタ州知事が治めるコルドバ州(国内第2の州)及び社会党のボンファッティ州知事が治めるサンタフェ州(国内第3の州)では,両州知事が後押しする政治団体がそれぞれFPVを破り,得票率1位を獲得した。

 

(サ)故キルチネル前大統領の地元であるサンタクルス州においては,今回,20年以上ぶりにキルチネル派が急進党系の選挙連合に得票率で敗れた。南部5州では,リオネグロ州とティエラ・デル・フエゴ州の2州を除く3州でFPVが敗北した。

 

(シ)今回の予備選挙結果を受け,当地メディアの大半が,10月の本選挙以降,両院で3分の2以上の賛成票を必要とする憲法改正を与党が行うことはまず不可能になったとの見方を報じ,フェルナンデス大統領の再々選の可能性は殆ど無くなったと伝えた。クラリン・グループ等の反政府メディアは,今回の予備選挙の結果を受け,11日を「キルチネリスモの終わりの始まり」の日として捉えた。

 

(ス)12日の各紙1面の見出しは以下の通り。
(@)ラ・ナシオン紙:「政府にとって厳しい敗北の日にマサは圧勝」
(A)クラリン紙:「マサが勝利,(全国で)キルチネル派に罰を与える厳しい投票となった」
(B)パヒナ12紙(政府系):「次は,10月」
(C)ティエンポ・アルヘンティーノ紙(政府系):「10年間の政権運営を経て,FPVは亜で最も投票された勢力となっている」
(D)エル・クロニスタ紙:「野党の勝利によりクリスティーナの再々選の機会はなくなった」
(E)アンビト・フィナンシエロ紙:「ブエノスアイレス州ではマサが勝利,FPVは議会で第一党を維持,PROは低調な選挙戦」
(F)ブエノスアイレス・ヘラルド紙(英字紙):「レイムダックが始まる。全国レベルでは,FPVは2003年(に政権に就いて)以降最低のパフォーマンス」

 

(2)予備選挙後のフェルナンデス大統領の演説

 

(ア)14日,フェルナンデス大統領はテクノポリスにおいて演説を行い,予備選挙結果に関する反政府系メディアの報道の在り方を酷評した。今次演説は11日の予備選挙後2回目の演説であり,フェルナンデス大統領の態度の硬化が当地報道で注目された。

 

(イ)フェルナンデス大統領の演説概要は以下の通り。
「情報を歪め,世論を間違った方向に導くマスメディアを通じて,人々は多くの情報を得ている。このことに関し,人々には罪はない。ただ,人々が(マスメディアに騙されているということに)気がついた時はもう遅いのである。だからこそ自分(「フェ」大統領)が言いたいのは,「勝利のための戦線」(FPV)の選挙キャンペーンのスローガンにもあるように,「人生においては選択が必要である」(En la vida hay que elegir)ということであるが,右に加えて,「政治においては, もうこれ以上嘘をついてはならない」(En la politica no hay que mentir mas)ということも言いたい。(中略)(10月の本選挙前の)この時期は議論をするにはいい時期だが,細かいことを話すのではなく,現政権が,政治的立場や肩書きによって分け隔てをすることなく全国民のために構築した,このマクロ経済モデルについて,真面目に議論するべきである。世の中には,常に特権に守られた少数の利益集団がおり,彼らは自らのより多くの利益を求めて行動する。我々(現政権)が皆のためになることをしようとすると,(自分たちだけの利益を守りたい特権階級は)政府に反発するのである。(中略)前から何度も申し上げているが,自分(「フェ」大統領)は(大統領として)永遠の存在ではなく,そうなりたいとも思っていない。自分(同)が永遠の存在でないのと同じように,多くの果実を生み出した現政権の経済政策も永遠の存在ではないのである。我々の政権が実現してきた賃上げや住宅政策等により国民が手に入れたものは,現実に手にした果実としてずっと残るのではなく,(政権が変わり)経済政策が変われば,失われる可能性もあるのである。(中略)我々(現政権)は10月27日の本選挙に向けて前進していく。誰も亜(の勢い)を止めることはできないと我々(同)は確信している。若者及び未来とは我々(同)のことを言うのである。未来を手にするためには(現政権が実施している)この政策を深化させていかなければならない。(経済危機から立ち直れない)スペインやその他の国々の状況と(亜の状況を)見比べて欲しい。(中略)新聞がどんな見出しをつけ,(社会を)混乱に陥れようと,我々(現政権)は政治活動家として,一軒一軒の家を回り,(政策モデルを)説明し,間違いがあれば,それを正していく覚悟がある。(異論があるなら,経済界及び労組等の反政府勢力は)代表者本人が出てくればいい。自分(「フェ」大統領)は,代理人(注:マサ・ティグレ市長を指している)には用はなく,真のプレーヤーと大きな卓で議論がしたいと思っている。自分(同)は誰の代理人でもなく,4,000万人の(国民の)大統領であり,大統領自らが議論に応じる用意がある。ご静聴どうもありがとう。亜国民よ,これまでの成果と今後のために頑張りましょう。」

 

(3)政府・企業・労組間の「社会的対話」会合の実施

 

(ア)21日,フェルナンデス大統領及は,サンタクルス州のホテルにおいて企業家及び政府支持派の労組団体代表と3時間以上に及ぶ「社会的対話」会合を行い,現政権の経済政策である「社会的包摂を伴う成長路線」を今後も継続して進めていくこと確認した。右会合には政府側の代表として,デビード公共事業大臣,トマーダ労働大臣,ジョルジ産業大臣,ロレンシーノ経済・財政大臣,キシロフ経済政策長官,マルコ・デル・ポント中銀総裁,エチェガライ連邦歳入庁(AFIP)長官,サニーニ大統領府法制長官及びパリーリ大統領府長官等が出席した。また,企業側の代表として,亜銀行協会(ABA),亜官民銀行協会(ABAPPRA),亜資本銀行協会(ADEBA),亜商工会議所(CAC),亜工業連盟(UIA),亜建設業会(CAC)及び亜中規模企業連合(CAME)等が出席し,労組団体代表としては労働総同盟(CGT)のカロー書記長,亜労働者連盟(CTA)のジャスキー代表,マルティネス建設業労組(UOCRA)代表及びピニャネリ自動車機械工労組(SMATA)代表(注:いずれも政府支持派)等が出席した。当地メディアは,政府が所得税の課税最低限度額の引き上げ及びそれに要する財源とするための新税の創設等の可能性を検討している旨,本会合出席者に説明したと報じた。

 

(イ)27日,フェルナンデス大統領は,大統領府において,企業家及び政府支持派の労組団体代表との「社会的対話」会合を再び実施し,同会合で所得税課税最低限度額の引き上げ及び控除額の変更等を発表した他,「家族手当」を受給するための月収上限を9月1日以降に引き上げる旨発表した。

 

(ウ)28日,官報に政令第1,242号が掲載され,9月1日以降,所得税の課税最低限度額が15,000ペソに引き上げられることとなった。これまで,独身の場合は税抜き前月収8,360ペソ,既婚で子供が2人いる場合は税抜き前月収11,563ペソがそれぞれ所得税の課税最低限度額となっていたが,今後は月収15,000ペソ未満の場合,独身・既婚の区別を問わず,一律,所得税が非課税となることになった。また月収が15,000ペソ以上,25,000ペソ未満の被雇用者の場合は,所得税控除額が20%増額となり,税負担が軽減されることになった。なお,月収25,000ペソ以上の被雇用者の所得税負担に変更はない。政府は本年2月にも所得税課税最低限度額の20%の引き上げを発表しており,右措置は3月1日以降に適用されていた。当地報道は,今次措置により,新たに150万人が所得税非課税の対象になり,本措置の財政負担を45億ペソ/年と報じた。

 

(エ)正規雇用の労働者を対象とする「家族手当」に関し,これまでは,受給基準となる世帯月収上限が16,800ペソと規定されていたところ,27日に実施された第2回目の「社会的対話」会合において,政府は右上限を30,000ペソまで引き上げる旨発表し,それとともに,父母のいずれかの単独月収の上限も,8,400ペソから15,000ペソに引き上げとなる旨発表した(注:右を定めた政令第1,282号が9月4日に官報に掲載された)。今回の変更にともない,9月以降の「家族手当」の受給額は以下の通りとなる。
(@)世帯月収4,800ペソまで:子供一人当たり460ペソの手当。
(A)世帯月収4,801ペソ〜6,000ペソ:子供一人当たり320ペソの手当。
(B)世帯月収6,001ペソ〜7,800ペソ:子供一人当たり200ペソの手当。
(C)世帯月収7,801ペソ〜30,000ペソ:子供一人当たり110ペソの手当。

 

(4)サンタフェ州ロサリオ市のマンション大爆発

 

(ア)6日午前9時45分頃,ブエノスアイレス市から300キロほど離れたサンタフェ州ロサリオ市(当国第3の都市)の住宅街において,ガス漏れにより10階建て(注:一部報道には9階建てとの情報も有り)のマンション一棟が大爆発の後に全壊し,同じ敷地内に建てられていた隣接する2棟のマンション等も激しく損壊する事故(事件)が発生,同爆発により最終的に21人が死亡したとされている。

 

(イ)当地報道によると,爆発が起きた周辺一帯には,爆弾が投下された後のような光景が広がり,爆発した建物自体はもちろん,周辺の建物にも,爆圧によりバルコニーが吹き飛ばされる等,甚大な被害が出た。爆発音は40ブロック(1ブロック=100メートル)先にまで届くほど大きかったと報じられ、爆発を起こした建物の半径250メートル以内の道路は,吹き飛ばされたガラスの破片,瓦礫及び家財道具等で敷き詰められた状態となった。

 

(ウ)爆発の後に大規模な火災が発生したが,ロサリオ市の当該地区にはガスの流出を止めるバルブ(弁)が存在しなかったため,消防隊による消火活動が長引いた。

 

(エ)6日夜,ロサリオ地裁のクルト予審判事の命により,サンタフェ州警察は,爆発を起こしたマンションの地下にあったガスのレギュレーターを新しいものと交換したガス技師及びそのアシスタントの計2名を逮捕した。また,爆発を起こしたマンションにガスを供給していたリトラル・ガス社の複数のオフィスが家宅捜索を受けた。当地報道によると,周辺住民は爆発の数日前からガス漏れを訴えていた由。

 

(オ)6日,ボンファッティ・サンタフェ州知事は,今回の惨事を受けて,6日から3日間の服喪を州政令第2,210号により発表した。また,8月11日の国会議員予備選挙及び地方議会予備選挙のため,選挙キャンペーン中だったサンタフェ州の与野党の政治団体は,同キャンペーンの中止を決定した。

 

(カ)7日,フェルナンデス大統領は,今回の惨事を受けて,7日以降2日間にわたり国喪に服する旨,政令第1,077号(注:8日に官報に掲載)により発表した。なお,同大統領は7日に現地を視察した。

 

(5)全国規模のカセロラッソの実施

 

(ア)8日夜(国会議員予備選挙の3日前),国内各地でカセロラッソ(注:政府の施政に反対する抗議の鍋叩き)が実施され,参加した市民等により政府の汚職と治安の悪化等に対する不満が訴えられた。6日にサンタフェ州ロサリオ市で発生したマンション大爆発(上記(4))の影響から,今回は従来に比べて全国で鍋叩きへの参加者が大幅に減り,小規模なものに終わったと当地報道は伝えた。

 

(イ)カセロラッソの実施場所は以下の通り。
ブエノスアイレス市内とその近郊(オベリスコ,5月広場,市内の幹線道路及びオリーボスの大統領官邸前等)及び地方都市(ブエノスアイレス州ラプラタ市,コルドバ州,メンドーサ州及びサルタ州等)。

 

(ウ)具体的な参加人数に関する報道はなかったが,ラ・ナシオン紙は,これまでの大型カセロラッソ(注:2012年9月13日,11月8日及び本年4月18日の3度の大型カセロラッソ)に参加してきたブエノスアイレス市民のコメントとして,今回は,従来の10〜20%の参加者にとどまった,との情報を掲載した。

 

(エ)前回の4月18日のカセロラッソには,野党勢力が一市民としてではなく,政治家として参加し,フェルナンデス政権への批判を行ったが,今回は予備選挙直前ということもあり,若干名の例外を除いて,殆どの野党は参加しなかった。

 

(オ)これまでの全国規模のカセロラッソ同様,今回もツイッターやフェイスブック等で鍋叩きへの参加が呼びかけられた。

 

(カ)ロサリオ市では,6日に発生したガス漏れによるマンション大爆発の影響から,予定されていたカセロラッソが,急遽,被害者の追悼集会に変わり,約100名の市民が,鍋では無く蝋燭を持参して,同市の中心部にある国旗モニュメントの前に集合し,国歌を斉唱した。

 

(6)メネム元大統領の起訴(テルセロ川軍需工場爆破事件)

 

6月13日,メネム元大統領は,在職中(1989〜1999年)に当たる1991年及び1995年にパナマ及びベネズエラ向けに武器を輸出すると偽って,クロアチア及びエクアドルに対して6,500トンの武器及び軍需品を密売したとして,経済刑事口頭裁判所(注:第一審にあたる)により懲役7年の有罪判決を言い渡されたが,2ヶ月後の8月13日,同元大統領は,95年11月に発生したテルセロ川軍需工場爆破事件への関与を疑われ起訴された。同爆破事件に関しては,武器の密輸の証拠隠滅のために何者かによって同軍需工場が故意に爆破されたと指摘されており,本爆発では7名が死亡し,300名以上が負傷した。

 

(7)連邦刑務所所長の交代

 

19日に発生したエセイサ刑務所からの13人の集団囚人脱獄事件を受け,20日,連邦刑務所のオルテル所長は「今回の(トンネル掘削による)脱獄は,刑務所内部及び外部の共犯者無くしては起こり得なかった」と発言し,19名の職員を更迭した上で自らも責任をとって辞任した。右を受け,21日,マランビオ新所長が就任した。

 


3 外交

 

(1)亜の国連安全保障理事会議長国就任

 

(ア)6日,亜が国連安全保障理事会の議長国に就任した。

 

(イ)安全保障理事会会合におけるフェルナンデス大統領演説
6日,フェルナンデス大統領は,同理事会の会合において,一部の国だけが拒否権を行使できる現在の安保理システムを非難し,国家主権と市民のプライバシーを保障する全世界的なルールを確立する必要性を訴える演説を行った。

 

(2)フェルナンデス大統領等の国連訪問に際する各種会談

 

(ア)フェルナンデス大統領と潘基文事務総長の会談
5日,国連本部において潘基文事務総長と会談したフェルナンデス大統領は,安保理改革について,常任理事国の数を増やすのではなく,より効果的な安保理へ改変することを提案した他,フォークランド(マルビナス)諸島領有権問題に関しては,英国が亜との二国間対話に応じるよう仲介役を担うよう要請した。右に対し,潘基文事務総長は仲介するのは極めて困難と回答した。また,フェルナンデス大統領は,米による情報収集活動を批判すると共に,モラレス・ボリビア大統領の専用機が欧州諸国の領空通過及び着陸を拒否されたことはボリビアの国家主権の明白な侵害に当たるとの認識を伝えた。

 

(イ)メルコスール加盟国5ヵ国外務大臣と潘基文事務総長の会談 
5日,ティメルマン外務大臣,パトリオッタ・伯外務大臣,アルマグロ・ウルグアイ外務大臣,チョケワンカ・ボリビア外務大臣及びハウナ・ベネズエラ外務大臣のメルコスール加盟国5ヵ国の外務大臣は,潘基文事務総長と会談し,米による情報収集活動に対する南米地域の懸念を伝えるとともに,モラレス・ボリビア大統領の専用機の欧州諸国の領空通過及び着陸拒否を問題であると述べた。

 

(ウ)フェルナンデス大統領とパトリオッタ伯外務大臣の会談
 5日,フェルナンデス大統領はパトリオッタ伯外務大臣と会談した。ティメルマン外務大臣の発表によると,パトリオッタ伯外務大臣は,フェルナンデス大統領に対し,メルコスール諸国5ヵ国の外務大臣が,潘基文事務総長に,欧州諸国によるモラレス・ボリビア大統領の専用機の領空通過・着陸拒否及び,米国による情報収集活動に対する懸念を共同で示したことは,賞賛に値する行為であるとの認識を示した。

 

(エ)フェルナンデス大統領とモレーノIDB総裁の会談
 5日,フェルナンデス大統領はモレーノ米州開発銀行(IDB)総裁と会談した。ティメルマン外務大臣の発表によると,同総裁は,亜が社会及び経済の発展のために実施する全ての政策に対し,IDBは亜を支援し続ける用意がある旨,フェルナンデス大統領に確約した。また,モレーノ総裁は,YPF社の経営陣との2日の会談に言及し,(石油)開発鉱区の今後の発展見通しに,大変良い印象を持ったとコメントした(注:モレーノIDB総裁は,今月2日に訪亜し,ネウケン州及びサンタクルス州に対する融資(IDBの新興・持続可能都市イニシアティブ)の細部に関し協議する目的で,ガルッチオYPF社CEOと会談した)。
 
(3)パラグアイ

 

 14日〜15日にかけ,フェルナンデス大統領はカルテス新パラグアイ大統領就任式出席の為パラグアイを訪問した。15日,フェルナンデス大統領及びカルテス・パラグアイ大統領は,二国間首脳会談を実施し,二国間関係の将来について協議した。また,同会談において,フェルナンデス大統領は,エントレ・リオスの博物館に保存されているフランシスコ・ソラノ・ロペス元帥(元パラグアイ大統領)の所有物をパラグアイに返還する決定を伝えた。同日,ティメルマン外務大臣は,ロイサガ・パラグアイ外務大臣と会談し,両国首脳が,それぞれ自国への招待を申し出ている件に関し協議した。また,ティメルマン外務大臣は,ロイサガ・パラグアイ外務大臣をブエノスアイレス市に招待する意を表明した。

 

(4)フォークランド(マルビナス諸島)領有権問題

 

(ア)カストロ駐英亜大使発言
20日,カストロ駐英亜大使は,フランシスコ法王がブエノスアイレス司教時代に,フォークランド(マルビナス)諸島に対する亜の領有権を支持する発言をしたことを批判したキャメロン英首相は,「まぬけ(tonto,bobo)」であると発言した。翌21日,英国政府は,在英亜大使館に対し,カストロ大使の発言に対する説明を求めたところ,カストロ大使自身が,侮辱するつもりはなかった旨釈明し,謝罪の意を表明した。

 

(イ)プレミア・オイル社による開発
 22日,石油企業のプレミア・オイル社は,亜及び英国の間で領有権を巡り問題となっているフォークランド(マルビナス)諸島周辺海域に位置するシーライオン油田での大規模採掘を実施する旨発表した。

 

(ウ)英国石油企業の採掘活動資格剥奪に関する決議
 22日,亜政府は,英国石油企業4社の今後20年間のフォークランド(マルビナス)諸島周辺での石油採掘活動資格を剥奪する内容を定めた4つの決議を官報に掲載した。

 

(エ)フォークランド(マルビナス)諸島の英国系企業委員会の伯訪問
 27日,フォークランド(マルビナス)諸島にある主要な英国系企業関係者から成る企業委員会は,伯の企業家及び政治家と同諸島の石油事業及び漁業に対する投資に関して協議する目的で,伯を訪問した。

 

(5)シリア

 

 29日,亜外務省は,シリアでの内戦に関し,亜政府は第3国による軍事介入に対し断固として反対する旨声明を発出した。同声明は,スリナムで開催されたUNASUR会合に出席していたティメルマン外相により読み上げられた。

 

(6)中国

 

 23日,中国を訪問したブドゥー副大統領は,李源潮(LiYuanchao)中国国家副主席と会談し,二国間外交日程及び国際経済問題に関し協議した。ブドゥー副大統領は,李源潮副主席が,国連安全保障理事会における亜の役割の重要性を強調した旨述べた。また,中国政府からのフォークランド(マルビナス)諸島領有権問題における亜の立場に対する支持に感謝の意を表した。

 

(7)米国

 

 12日,米国上院議員団が来亜し,ティメルマン外務大臣と会合した。亜外務省のプレスリリースによると,同会合の機会にティメルマン外務大臣は,米国議会でハゲタカ・ファンドが促進している反亜キャンペーンに関し言及した。また,亜・米両国は,一定の機関の関心事項が二国間関係に悪影響を与える事態を回避するため協働していくこと及び二国間通商関係を拡大していくことで一致した。

 

(8)イラン

 

12日,ブエノスアイレス市内のホテルで開催された在亜イスラエル協会(DAIA)主催のカクテルに出席したジャック・ターピンス・ラテンアメリカ・ユダヤ議会代表は,イランとの覚書への署名を行ったティメルマン外務大臣は,「今次交渉を通じて,(ユダヤ人)コミュニティーの良き友ではないと証明された」と述べると同時に,今次覚書は「ばかげたもの」であると発言した。

 

(9)スペイン

 

 5日,クラリン紙の情報によると,亜政府は,スペイン空軍が38年間使用した中古の戦闘爆撃機(ミラージュ)20機をスペイン政府より購入する旨交渉し,同交渉にはスペインのパイロットによる亜側パイロットへの訓練も含まれている旨発表した。他方,亜国防相は,交渉内容については発表する段階にないとの姿勢を表明した。

 

(10)タイ

 

 9日,当地を訪問したプアンケートケーオ・タイ外務次官は,スアイン筆頭外務副大臣と共に,ブエノスアイレスにて開催された第2回亜・タイ政策協議の議長を務めた。スアイン筆頭外務副大臣は,フォークランド(マルビナス)諸島領有権問題解決に向け,英国に亜との交渉再開を促す国連決議に対するタイ政府の支持に感謝の意を表した。同会合にて,両国は原子力分野での協力,両地域における統合,国連改革及び平和維持における安全保障理事会の役割について協議した。

 

(11)OPNAL

 

 22日,亜にてラテンアメリカ及びカリブ地域における核兵器追放機構(OPNAL)第23回会合が開催され,スアイン筆頭外務副大臣が開会宣言,フェルナンデス大統領が閉会宣言を行った。フェルナンデス大統領は,演説のなかで,南大西洋地域を核兵器のない平和的地域として保護することは主要テーマであると述べると同時に,英国との間でのフォークランド(マルビナス)諸島領有権問題について言及し,英国は核兵器を搭載した潜水艦を同地域に送り込む等の行為を通じて,核兵器追放を促進するのではなく,反対に南大西洋地域に核兵器問題を持ち込んでいると非難した。右に対し,英国大使館スポークスマンはフェルナンデス大統領の演説中で言及された英国のフォークランド(マルビナス)諸島領域の軍事化は全くの虚偽であると返答した。

 

(12)要人往来

 

(ア)往訪
●5日〜6日:フェルナンデス大統領の米国訪問(国連安全保障理事会出席)
●14日〜15日:フェルナンデス大統領のパラグアイ訪問(カルテス新パラグアイ大統領の就任式出席)
●19日:プリチェリ治安大臣のペルー訪問(治安,司法,UNASUR地域における国際犯罪取り締まりに向けた活動に関する第1回南米委員会会合出席)
●20日:ブドゥー副大統領のアラブ首長国連邦訪問
●23日〜24日:ブドゥー副大統領の中国訪問
●23日:ティメルマン外務大臣,デビード公共事業大臣,ロレンシーノ経済・財務大臣,ロッシ国防大臣のチリ訪問(第5回亜・チリ大臣会合及び第3回亜・チリ県知事・市長会合出席)
●27日:フェルナンデス大統領のウルグアイ訪問(ANCAP(ウルグアイ国営石油会社)の脱硫プラント竣工式出席)
●29日〜30日:ブドゥー副大統領,ティメルマン外務大臣スリナム訪問(第7回UNASUR首脳会合出席)

 

(イ)来訪
●1日:ヌコアナ・マシャバネ南アフリカ国際関係・協力大臣
●2日:モレーノIDB総裁
●6日:Xiaoping中国国家開発銀行副総裁
●9日:プアンケートケーオ・タイ外務次官
●12日:米国上院議員団一行
●22日:パティーニョ・エクアドル外務大臣
●26日:ラ・リュ意見・表現の自由への権利促進・保護に関する国連特別委員