アルゼンチン政治情勢(月1回更新)
アルゼンチン政治情勢(2024年11月)
1 内政
(1)議会
●予備選挙(PASO)廃止に関する法案の提出(1日)
22日、政府は、予備選挙(PASO)廃止に関する法案を議会に提出した。
●シフェリ大統領府文化長官の就任(6日)
6日、文化担当部局が大統領府の所掌範囲に変更され、シフェリ人的資本長官(文化担当)が、大統領府文化長官に任命された。
●ミレイ大統領とビジャルエル副大統領の確執(21日)
21日、ミレイ大統領は、メディアインタビューの中で、ビジャルエル副大統領を政治的「カースト」に近い存在と形容し、同副大統領が閣僚会議に参加しておらず、政権のいかなる意思決定にも関与していない旨述べた。
●フランコス内閣官房長官の上院への活動報告(27日)
ア 27日、フランコス内閣官房長官は上院議会へ出席し、活動報告を行い、最高裁判事の任命や規制緩和の進捗、大型投資奨励制度(RIGI)による投資の状況に言及した。
イ なお、同官房長官は、上院議員からのフォークランド(マルビーナス)諸島の主権を巡る問題に関する質問に対する回答の中で、G20リオデジャネイロサミットの際の習近平中国国家主席との首脳会談時に、ミレイ大統領が中国側の主張(一つの中国)を認めたのと同様に、習主席も、アルゼンチンの主張する同諸島の主権を認めた旨述べた。
(2)野党動向
●CFK前副大統領を巡る動き
ア 5日、クリスティーナ・フェルナンデス(CFK)前副大統領は、党選挙管理委員会により、ペロン党の党首として宣言された。
イ 13日、連邦最高裁判所は、「公共事業・有料道路事件」に関し、CFK前副大統領に6年の禁固判決を宣告した。なお、同前副大統領は最高裁に上訴できるため、直ちに収監されることはない。
ウ 14日、政府は、CFK前副大統領の過去の大統領及び副大統領の任期に対する年金は、CFK前副大統領の任期中の罪状と両立しないとして、元配偶者の故ネストル・キルチネル元大統領の逝去後に受領している年金と併せ、右支給を取り消した旨発表した。
エ なお、11月20日には、野党「共和国提案(PRO)」所属議員が、汚職により第二審で有罪判決が確定した政治家の国政選挙への出馬を禁ずる法案(当館注:CFK前副大統領を想定した法案と思われる)を下院に提出したものの、最終的な議決時における野党連合「祖国のための同盟(UP)」及び与党「自由の前進(LLA)」の議員等の欠席により成立には至らなかった。
(3)その他
●インターカーゴ社のストライキ(6日)
ア 6日、旅客荷物等のハンドリングサービスを行うインターカーゴ社が事前予告なしのストライキを行い、アエロパルケ空港及びエセイサ空港を発着する一部の便に遅延及び運休が発生した。
イ 7日、カプート経済相は、同社の従業員15名の解雇の決定を発表した。
●バカ・ムエルタ油田の封鎖に対する政府の対応(4日)
ア 9月16日、バカ・ムエルタ油田にある5つの有害廃棄物処理施設の入り口が同州の先住民族団体の抗議活動により、48時間以上にわたり封鎖された。
イ 9月17日、ブルリッチ治安相は、石油関連の企業家との会合で、この問題に言及し、解決が見られなければ国境警備隊300名を派遣する旨述べ、(将来的に)国境警備隊の一部部隊を同油田に配置する構想を明らかにした。
ウ 11月4日、同治安相は、国境警備隊員130名と共にネウケン州を訪問し、同地に生産治安統合司令部を設置する旨発表した。これは、「反ピケテロ・プロトコル」の一環で、同油田保護のため、右国境警備隊員が同州に駐在する治安部隊と共同で警備にあたる活動。今回の発表を行った式典で、同治安相は、ペトリ国防相、クーネオ・リバロナ司法相と国境警備隊の扱いに関する協定に署名した。
2 外交
(1)首脳級
●ミレイ大統領の訪米(14日)
ア 14日、ミレイ大統領は、米フロリダ州マル・ア・ラゴで開催されたアメリカ・ファースト政策研究所の祝賀会に出席し、トランプ次期米大統領と写真撮影を行った他、出席した次期米政権幹部や投資家等に向け演説した。これによりミレイ大統領は、トランプ次期米大統領当選後、初めて面会した国家元首となった。
イ 15日、ミレイ大統領は、同地で開催された保守政治活動協議会(CPAC)に出席し、社会主義を批判する内容の演説を行った。
ウ なお、6日のトランプ次期米大統領の当選に際しては、ミレイ大統領が自身のXに英語で祝意を投稿し、多くの政権関係者が右投稿をリポストした他、外務省からも祝意を表明するプレスリリースが発出された。また、12日、ミレイ大統領は、トランプ次期米大統領と電話会談を行った。
●ミレイ大統領とマクロン仏大統領との会談(17日)
17日、ミレイ大統領は、アルゼンチンを訪問したマクロン仏大統領と会談した。会談後、マクロン大統領は、ミレイ大統領に対し、仏は現状のままではEU・メルコスールに署名しない旨明確に伝えた旨明らかにした。
●ミレイ大統領のG20リオデジャネイロサミット出席(18、19日)
ア 18日、ミレイ大統領はG20リオデジャネイロサミットに出席し、演説した。アルゼンチンは、G20メンバーとなって以降初めて首脳宣言に署名したが、サミット後、2030年アジェンダに関する部分には同意しない旨発表した。
イ 同大統領は演説で、2030年アジェンダや超高所得者層への課税に反対し、貧困の撲滅には政府の不介入が必要である旨強調した他、「グローバル・ガバナンス」という概念は、世界市民の各権利を侵害しているとして批判した。
ウ 19日、同大統領は、習近平中国国家主席、モディ・インド首相、ゲオルギエバIMF専務理事、バンガ世銀総裁とそれぞれ会談した。
●ミレイ大統領とメローニ伊首相との会談(20日)
20日、ミレイ大統領は、アルゼンチンを訪問したメローニ伊首相と会談した。会談後、両首脳は共同記者会見を実施した。右会見で、メローニ首相は、(1)二国間の政治的協力、(2)組織的犯罪等への対処等、(3)貿易・投資の拡大及び強化、の3つの指針に基づき協働することを発表し、(1)に関し両首脳が、二国間行動計画2025ー2030の策定に関し合意した旨明らかにした。
(2)閣僚級
●ブルリッチ治安相の訪米(11~13日)
ア 11日、ブルリッチ治安相は、訪問先のワシントン市でゴピナートIMF筆頭副専務理事、アルマグロOAS事務総長、バンガ世銀総裁もそれぞれ会談した他、IMF主催のイベントで講演した。
イ 12日、ブルリッチ治安相は、訪問先のニューヨーク市で、ウォーカー国土安全保障捜査局(HSI)同市特別捜査官と会談し、マネーロンダリング及び金融犯罪に対処するための捜査協力強化の意向書に署名した。
ウ 13日、同治安相は、ヴォロンコフ国連テロ対策オフィス(UNOCT)事務次長と会談し、国連のテロリスト渡航対策プログラムに係る協定に署名した。
●パソ経済省調整担当長官のアジア訪問(6~12日)
ア 6日、パソ経済省調整担当長官は上海を訪問し、アルゼンチン・中国商工会議所所属企業幹部等と会談した他、中国国際輸入博覧会(CIIE)を視察した。
イ 8日、同長官は北京を訪問し、王文濤中国商務部長、王令浚中国税関総署副署長とそれぞれ会談した他、化学メーカー企業や鉱物資源関連企業、及び通信関連企業等、複数の中国企業幹部と個別に会談した。
ウ 12日、同長官は、日本を訪問し、松尾経済産業審議官、渡邉農林水産審議官、高島日本貿易振興機構(JETRO)副理事とそれぞれ会談し、二国間貿易や大型投資奨励制度(RIGI)等の議題につき協議した。
(3)イスラエル・パレスチナ情勢
●イランの対イスラエル攻撃を非難する大統領府声明(21日)
21日、大統領府は、国際刑事裁判所(ICC)が発行したネタニヤフ・イスラエル首相に対する逮捕状を拒否する声明を発出した。
(4)対中関係
●ネウケン州の宇宙観測施設の政府・メディア関係者向け見学会の開催(5日)
ア 5日、中国は、ネウケン州の宇宙観測施設にて、政府関係者やメディア関係者を招いての施設内部の見学会を初めて実施した。
イ 今次見学会には、ヘヌア内閣官房イノベーション・科学・技術長官を団長とする政府代表団や国立科学技術研究評議会(CONICET)、アルゼンチン宇宙活動委員会(CONAE)等所属の研究者、当地メディア関係者が招待された。
ウ 中国からは、Wang Wei当地中国大使が開会式に出席した。
(5)マルチ外交
●アルゼンチン代表団のCOP29からの離脱
ア 13日、COP29に参加していたアルゼンチン代表団は、ミレイ大統領の指示を受け、交渉から離脱した。他方、アルゼンチン中央政府の指示を受けていないコルドバ州やサンタフェ州等の地方政府関係者等はその後も参加していた。
イ 21日、ウェルテイン外相は、G20リオサミット後のインタビューで、アルゼンチンはパリ協定から離脱しない旨明らかにした。
●国連決議への反対票
ア 11日、アルゼンチンは、先住民の権利を保護し、先住民の領土や天然資源に関わる意思決定への参加を促進する決議案に、参加国で唯一反対票を投じた。
イ 14日、アルゼンチンは、女性及び女児に対する暴力の根絶及び予防に関する国連決議に、参加国で唯一反対票を投じた。
(6)その他
●英戦闘機のブラジルへの着陸を懸念する外務省声明(11日)
11日、アルゼンチン外務省は、8日に英空軍の戦闘機がブラジル(当館注:声明本文では、近隣諸国(países vecinos)と表記)に着陸したことを受け、英関係当局に報告を求めた他、右懸念を英政府に伝達した旨明らかにし、フォークランド(マルビーナス)諸島の主権を再確認する声明を発出した。
●バカ・ムエルタ産天然ガス輸出に係るブラジルとの協定締結(18日)
18日、カプート経済相は、G20リオサミットのマージンでシルヴェイラ・ブラジル鉱山・エネルギー大臣と会談し、バカ・ムエルタ産天然ガスのブラジル向け輸出に関する協定を締結した。右協定では、目標値として2030年までに一日当たり3000万立方メートルの量の天然ガス輸出が定められており、右実現に向けた二国間作業部会の設置等が盛り込まれている。
●ウルグアイ大統領選挙決選投票に係る祝意表明(24日)
24日、アルゼンチン外務省は、同省のXアカウントを通じ、同日に実施されたウルグアイ大統領選挙決選投票でのヤマンドゥ・オルシ次期ウルグアイ大統領の選出に関する祝意表明を発出した。
●アルゼンチン・チリ平和友好条約40周年記念式典(25日)
25日、教皇フランシスコは、アルゼンチン・チリ平和友好条約40周年記念式典を主宰し、右式典の中で、右条約を平和的な紛争解決モデルとして強調した。ウェルテイン外相は当初右式典に出席予定であったが、G20リオサミットにおけるミレイ大統領とボリッチ・チリ大統領との見解の相違を理由に欠席した。
(7)要人往来
往訪:
米国:ミレイ大統領、カリーナ・ミレイ大統領府長官、ウェルテイン外相(14、15日:CPAC等への参加)、ブルリッチ治安相(11日:IMF及び米国土安全保障省関係者との会合等)、ロランディ内閣官房副長官(行政・立法担当)、ルストー上院議員、リトンド下院議員(PRO下院会派長)、デ・ロレド下院議員(UCR下院会派長)(4日:当地米商工会議所等主導の米大統領選視察)、ペトリ国防相(8日:ホールシー米南方軍司令官就任式)
ブラジル:ミレイ大統領、カリーナ・ミレイ大統領府長官、ウェルテイン外相、カプート経済相(18、19日:G20リオデジャネイロサミット)
イスラエル:ペトリ国防相(11月27日~12月3日)
ポルトガル:ペトベージョ人的資本相(4日:社会保障に関するイベロアメリカ会議)
メキシコ:ブルリッチ治安相(8日:安全保障関連セミナーでの講演)
中国:パソ経済省生産調整担当長官(6~9日)
日本:パソ経済相生産調整担当長官(12日)
来訪:
エストニア:ツァフクナ外相(5日:外相会談)
シンガポール:マリキ・オスマン首相府大臣兼第二外務大臣(5日)
ハンガリー:シーヤールトー外務貿易大臣(8日:外相会談)
仏:マクロン大統領(16、17日:二国間会談)
伊:メローニ首相(19、20日:二国間会談)
(了)
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