アルゼンチン政治情勢(月1回更新)
アルゼンチン政治情勢(2023年7月)
1 内政
(1)大統領選挙に向けた動き
●ネストル・キルチネル・ガスパイプライン開業式典(9日)
9日、ブエノスアイレス州サリケロ市で、ネストル・キルチネル・ガスパイプライン第一区間開業式典が行われ、フェルナンデス大統領、クリスティーナ・フェルナンデス(CFK)副大統領、マサ経済相らが演説した。CFK副大統領は、マサ経済相のパイプライン完成への尽力を讃える旨述べた。マサ経済相は、CFK副大統領が2012年に国営石油公社の再国有化に踏み切ったことに感謝し、フェルナンデス大統領に対しては、国際通貨基金(IMF)が工事を止めるよう要請した際に、同パイプライン計画継続を決断した点に謝意を表した。
●アルゼンチン航空再国有化15周年記念式典
17日、エセイサ国際空港でアルゼンチン航空の再国有化15周年記念式典及びボーイング737航空機のパイロット用最新式シミュレーターの披露式典が行われ、CFK副大統領、マサ経済相が登壇した。
●マサ経済相の労働総同盟(CGT)訪問
19日、マサ経済相は、与党連合副大統領候補のロッシ大統領府官房長官とともに、労働総同盟(CGT)本部を訪問した。同経済相は、労働者の賃金改善への意欲を示し、現政権が右を達成できなかった点を認めつつ、「幻滅した同志」(=労働者)に向け支持を呼びかけたほか、マクリ前政権の政権運営を厳しく批判した。また、ダエルCGT書記長は、CGTが、同経済相の選挙キャンペーンを全面的に支持する旨表明した。
(2)地方選挙
●サンフアン州知事選挙
2日、サンフアン州知事選挙が行われ、野党連合のオレゴ下院議員(「生産と労働」)が、49%の得票率で当選し、2003年以来の政権交代を果たした。セルヒオ・ウニャク現知事(ペロン党)は最高裁により出馬資格を停止されたため、与党連合からは同知事の兄のルベン・ウニャク氏が出馬したものの敗北した。
●サンタフェ州知事選挙予備選挙
16日、サンタフェ州知事選挙予備選挙が行われ、野党連合のプジャロ下院議員(「共和国提案(PRO)」)が、ロサダ下院議員(急進市民同盟(UCR))を破り、32.55%の得票率で一位通過し、野党連合統一候補となった。与党連合のレワンドフスキ上院議員(ペロン党)は17.89%の得票率で与党連合統一候補となった。本選挙は、9月10日に行われる。
●コルドバ州コルドバ市長選挙
23日、コルドバ州コルドバ市長選挙が行われ、ペロン党系地方政党(スキアレッティ同州知事が設立)のパッセリーニ現副市長が、野党連合のデ・ロレド下院議員(地方政党、得票率40.56%)を破り、47.48%の得票率で当選した。これにより、次期同州知事、次期同市長とも、スキアレッティ現知事派が務めることとなった。
●チュブト州知事選挙
30日、チュブト州知事選挙が行われ、野党連合のトーレス上院議員(PRO)が、35.71%の得票率で、与党連合のルケ・コモドロ・リバダビア市長(ペロン党、得票率34.11%)を僅差で破り当選した。
(3)その他
●マクリ・ブエノスアイレス市政大臣の選挙資格に関する裁判
ア 11日、野党左派勢力が、マクリ・ブエノスアイレス市政大臣の同市長選挙出馬資格につき異議申し立てをしていた件に関し、連邦最高裁は、「裁判所の本来の権限の範囲外」だとして、判断する立場にない旨表明した。14日、同市連邦裁判所は、同大臣への訴えを棄却し、同市長選出馬を認める判決を下した。野党左派勢力は最高裁に再度上訴したが、認められなかった。
イ 同大臣は、自身がブエノスアイレス州ビセンテ・ロペス市長の任期中、同市に居住しており、したがって同市憲法が定める出馬要件である、ブエノスアイレス市の居住歴5年を満たしていないことから、選挙資格が無いとして一部の野党左派勢力から異議申し立てを受けていた。
●イスラエル共済組合(AMIA)会館爆破事件29周年式典
18日、ブエノスアイレス市バルバネラ地区で、29年前の同日にイスラエル共済組合(AMIA)会館が爆破された事件を追悼する式典が行われた。本式典に際し、フェルナンデス大統領が(EU・CELAC首脳会合出席のため不在)、SNSを通じてコメントを発出したほか、ペルシック教育相が参列した。大統領候補としては唯一、「自由の前進」のミレイ下院議員が参列したほか、野党連合からは副大統領候補のペトリ元下院議員(ブルリッチ大統領候補とのペア)が参列した。また、同市長選挙候補のサントロ下院議員(UP)、マクリ市政大臣(PRO)、ルストー上院議員(UCR)らも参列した。
2 外交
(1)要人往来(首脳級)
●メルコスール首脳会合
4日、ミシオネス州プエルト・イグアス市で第62回メルコスール首脳会合が開催され、ウルグアイを除くメルコスール加盟国が、域内交流の活発化に係るインフラ、エネルギー分野を中心とする各種制度改正推進の承認、ボリビアのメルコスール加盟推進等の内容を含む共同コミュニケに署名した。ウルグアイは、貿易の柔軟化等に関し他の加盟国の反対を受け、自由貿易圏形成や柔軟なアプローチによる同地域の現代化を主張する独自のコミュニケを発出した。
●EU・CELAC首脳会合
17~18日、フェルナンデス大統領は、ブリュッセルで開催された、EU・CELAC首脳会合に出席した。同大統領は、両地域間の対話や相互協力に基づく関係構築及び地域間の非対称性に配慮した交流、また気候変動等に向けた課題解決のための国際金融アーキテクチャ構築等を主張した。全体会合では、EU・CELAC首脳宣言が発出され、初めてマルビーナス諸島(ママ)の領有権問題におけるCELACの立場に言及し、対話及び紛争の平和的解決における国際法遵守の重要性が強調された。
●ネルソンNASA長官の訪亜
27日、フェルナンデス大統領は、訪亜したネルソン米国航空宇宙局(NASA)長官と会談し、亜は、アルテミス合意への参加を正式に表明した。また、本会合に際し、同席したフィルムス科学・技術・イノベーション相は、月、火星、その他の天体の民間探査と平和利用における協力に関するNASA及び亜宇宙活動委員会(CONAE)間の合意に署名した。
(2)要人往来(閣僚級)
●メルコスール共同市場理事会会合
3日、メルコスール首脳会合に先立ち、ミシオネス州プエルト・イグアス市で、第62回メルコスール共同市場理事会会合が開催された。議長国の亜は、地域の統合と拡大、及び議長国任期中の成果として地域エネルギー大臣会合の開催を強調したほか、EUとのFTAに関しては、戦略的分野への投資を促進するものとして期待を示しつつ、その非対称性に触れ、二地域双方に良い結果をもたらすためには、2019年の合意事項の更新が必要である旨述べた。
●タイアナ国防相の訪印
18日、タイアナ国防相はインドを訪問し、シン印国防相と会談を行った。会談後、双方は、防衛協力を深化する覚書及び訓練協定に署名した。また、タイアナ国防相は、マルビーナス諸島(ママ)の主権を巡る問題に関し、国連脱植民地化特別委員会での印の支援に謝意を表した。19日には現地シンクタンクで講演したほか、20日にはバンガロール市のヒンドスタン航空株式会社を訪問し、亜軍が、軍隊向けの軽中型ヘリコプター協力を同社と進める覚書に署名した。
(3)日亜関係
●北村参議院議員他の訪亜
6月30日から7月4日、北村経夫参議院議員、大野泰正参議院議員、生稲晃子参議院議員、堀井巌参議院議員が訪亜し、テタマンティ筆頭外務副大臣、ファマ上院亜日友好議連会長らと会談した。
●経団連ミッションの訪亜
12日、経団連ミッション団(代表:加瀬同中南米委員長)が訪亜し、マサ経済相、カフィエロ外相ら亜政府ハイレベルを表敬訪問した。
(4)対中関係
●駐亜中国大使の大統領表敬
25日、フェルナンデス大統領は、離任挨拶のため表敬訪問したZou Xiaoli駐亜中国大使と会談した。同大統領は、同大使の二国間関係強化への貢献に感謝し、コロナ禍でのコミットメントを強調した。また、同大使は、離任に際し、カフィエロ外相、タイアナ国防相、マサ経済相とも会談した。
●中国人民解放軍創立96周年記念式典
31日、タイアナ国防相は、ブエノスアイレス市内のホテルで開かれた、在亜中国大使館主催の中国人民解放軍創立96周年記念式典に出席した。同防衛相は、防衛分野における両国の協力の幅広い可能性を強調するとともに、マルビーナス諸島の主権を巡る問題に対する中国の支援に謝意を表した。
(5)フォークランド(マルビーナス)諸島問題
●EU・CELAC首脳宣言を巡る反応
18日、亜外務省は、EU・CELAC首脳宣言でのマルビーナス諸島(ママ)に係る記述に関し、「大きな外交的勝利」とするコミュニケを発表した。20日、当地主要紙クラリンは、EUは同諸島に対する立場を変更していないにも関わらず、亜政府が本件を「外交成果」と喧伝していると批判した。同日、亜外務省は、同紙が引用した亜政府発表は、事実に反するものではないとして、クラリン紙を批判した。
●英国の活動に対する抗議
28日、亜外務省は、同諸島における金等の鉱物探査のための新たな認可を付与するという英国の行動に対し、同諸島の主権に関する国連決議等に反するものだとして、抗議する声明を発出した。また、8月2日には、英国が、同諸島で軍事演習を実施することに関し、国際法や国連関連決議に反するのみならず、南大西洋における英軍駐留は、地域全体に対する脅威でもあるとして、抗議する声明を発出した。
(6)その他
●原子力供給国グループ(NSG)総会
13~14日、亜は議長国として、原子力供給国グループ(NSG)総会を主催した。カフィエロ外相は、亜が原子力分野において、気候変動やエネルギー開発につながる新たな応用可能性を有している点述べるとともに、核拡散防止条約(NPT)を遵守し、ラ米地域から核兵器がなくなるよう貢献してきた点強調した。
(7)要人往来一覧
ア 往訪
ブラジル:カフィエロ外相
ベルギー:フェルナンデス大統領、カフィエロ外相、トデスカ外務副大臣(国際経済関係担当)、セルッティ大統領府報道官
米国:ルビンステイン経済副大臣(経済政策担当)
インド:タイアナ国防相、カフィエロ国防副大臣
イ 来訪
ブラジル:ルーラ伯大統領
ウルグアイ:ラカジェ・ポウ大統領
パラグアイ:アブト大統領、ペーニャ次期大統領
米国:ネルソンNASA長官
日本:北村経夫参議院議員、大野泰正参議院議員、生稲晃子参議院議員、堀井巌参議院議員、経団連ミッション(代表:加瀬同中南米委員長)
(了)
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