アルゼンチン政治情勢(月1回更新)

令和5年10月23日

アルゼンチン政治情勢(2023年9月)

1 内政

(1)大統領選挙に向けた動き
●本選挙に向けた選挙キャンペーンの開始(2日)
2日、大統領選挙本選挙の候補者登録が締め切られ、本選挙に向けた選挙キャンペーンが正式に開始された。17日にはTVスポット等メディアでのキャンペーン活動が解禁された。今次選挙キャンペーンは、10月20日の午前8時に締め切られる。
●ビジャルエル下院議員主導の左派ゲリラによる暴力行為の犠牲者への追悼会合(4日)
4日、ビジャルエル下院議員(野党「自由の前進」副大統領候補)は、ブエノスアイレス市議会で、1976年の軍事クーデターに至るまでに生じたモントネロスや人民革命軍(ERP)等の左派ゲリラによる暴力行為の犠牲者に追悼の意を表する会合を主導した。
●ミレイ下院議員(大統領候補)のインタビュー動画(14日)
14日、米国のジャーナリストのタッカー・カールソン氏が、32分にわたるミレイ下院議員へのインタビュー動画を自身のXで公開し、24時間以内に3億回以上、合計で4.2億回再生され、X史上最多の再生回数を記録した。同下院議員は、右動画内で、特にローマ教皇フランシスコへの批判及びトランプ前米大統領に対する共感を表明していた。
●イベロアメリカ右派大統領経験者サミット(22日)
22日、ブエノスアイレス市議会で、シンクタンク「自由と民主主義グループ」主催による「第2回自由と民主主義グループ会合」が開催され、マクリ前大統領、ピニェラ前チリ大統領、ドゥケ前コロンビア大統領等、オンライン参加を含め22名の右派の大統領経験者が出席した。ブルリッチ大統領候補(野党連合)も出席した。出席した大統領経験者等は、ブルリッチ候補への支持を表明したほか、左右双方のポピュリズムへの懸念を明らかにした。

(2)地方選挙
●サンタフェ州知事選挙本選挙(10日)
10日、サンタフェ州知事選挙が行われ、野党連合のプジャロ同州下院議員(UCR)が得票率58.61%で、与党連合のレバンドウスキ上院議員(ペロン党、得票率36%)を破り、次期同州知事に選出された。
●チャコ州知事選挙本選挙(17日)
17日、チャコ州知事選挙が行われ、野党連合のズデロ同州下院議員(UCR)が、得票率46.61%で、与党連合のカピタニッチ同州知事(ペロン党、得票率54.95%)を破り、次期同州知事に選出された。
●メンドーサ州知事選挙本選挙(25日)
24日、メンドーサ州知事選挙本選挙が行われ、野党連合のコルネホ上院議員(UCR)が得票率39.50%で、二位のデ・マルチ下院第一副議長(野党「自由の前進」系、得票率29.67%)を破り、次期同州知事に選出された。同上院議員は、2015年から2019年に同州知事を務め、今回が二期目となる(同州知事を二期務めるのは、民主化後では同上院議員が初)。

(3)経済
●マサ経済相の一連の経済政策
インフレに対応するための様々な経済政策が発表された。主なものとして、12日には、所得税の非課税限度額基準となる最低月収ラインの引き上げ、及び公務員の給与引き上げが発表された。更に、15日には一定以下の月収の正規労働者に対する優遇融資制度が、17日には一定の条件を満たす年金受給者への一時金支給政策が発表されたほか、減税措置や最低賃金引き上げ等が決定された。

(4)社会情勢
●トルコ外交官の車両強奪事件(24日)
24日、ブエノスアイレス市パレルモ地区でトルコ外交官を乗せた一般車両が、停車中に2人組のモトチョロス(バイクによる強盗犯)に拳銃を突きつけられ、車両を強奪された。その後、犯人グループは車両で逃走を図ったものの、警察の追跡中に駐車車両に衝突し、降車後に警官に対し発砲する等抵抗したため、2人のうち1人が射殺され、もう1人は逃走した。

(5)その他
●ESMAのユネスコ世界遺産登録(19日)
19日、フェルナンデス大統領は、第45回ユネスコ世界遺産委員会で旧ESMA(海軍機械学校)記憶の場ミュージアムが世界遺産登録に決定したことを受け、ビデオメッセージを公開し、同委員会及び各委員国に対し謝意を表すとともに、軍政時代にESMAで行われた凄惨な過去の歴史に触れながら、亜が民政移管40周年を迎える年にESMAが世界遺産に登録されたことは、そこで行われた恐ろしい出来事を亜の誰もが否定したり忘れたりしないことにつながるだろう、と述べた。
 
2 外交


(1)要人往来(首脳級)
●フェルナンデス大統領のG20ニューデリー・サミットへの出席(9日)
9日、フェルナンデス大統領は、インドを訪問し、G20ニューデリー・サミットに出席した。同大統領は、本会議で、各国首脳に対し、より健全かつ公正な世界の実現を呼びかけた。また、アフリカ連合(AU)のG20加盟を歓迎し、将来的なCELACのG20参加にも期待を示した。その他、グローバルサウスの状況や気候変動等について述べた。また、同大統領は、尹韓国大統領やムハンマドUAE大統領らと会談した。
●フェルナンデス大統領のG77+中国首脳会合への出席(15日)
15日、フェルナンデス大統領は、キューバで開催されたG77+中国首脳会合に出席した。同大統領は、9日のG20首脳会合でアフリカ連合(AU)の加盟が承認されたことに触れ、来年のG20でのCELACの加盟を提案した。また、同大統領は、ディアスカネル・キューバ大統領と会談した。
●フェルナンデス大統領の第78回国連総会出席(18~19日)
18~19日、フェルナンデス大統領は、第78回国連総会に出席した。18日には、持続可能な開発目標(SDGs)サミットで演説したほか、シーガル米州評議会会長兼CEOらと会談した。19日には、一般討論演説を行い、現在の国際的な金融構造やIMFを批判したほか、開発を目的とするソブリン債の取り扱いに関する新たな枠組み構築を要請した。また、グテーレス国連事務総長と会談した。
●第2回国連平和維持活動に関するラ米・カリブ地域会議(12日)
12日、フェルナンデス大統領は、亜国防省で開催された第2回国連平和維持活動(PKO)に関するラ米・カリブ地域会議の開会式に出席した。本会合には、タイアナ国防相及びカフィエロ外相らも出席したほか、域内外24カ国の国防相や政府関係者が出席し、本会議では、「平和維持協力のためのラ米・カリブ地域ネットワーク(RELACOPAZ)」の設立承認等を定める「ブエノスアイレス宣言」が署名された。

(2)要人往来(閣僚級)

●カフィエロ外相の訪米(18日~19日)
18~19日、カフィエロ外相は、米国を訪問し、二国間会談や各種会合に出席した。17日には、アブダッラーUAE外相と会談し、貿易・投資の拡大、多様化、海外直接投資強化の継続に関し合意した。18日には、米国主要ユダヤ組織会長会議(CoP)幹部と会談したほか、19日には、大西洋協力パートナーシップローンチイベント及びLGBTIコアグループ会合に出席した。
●駐亜中国大使のカフィエロ外相表敬
25日、カフィエロ外相は、新たに着任したWang Wei駐亜中国大使の表敬を受けた。双方は、フェルナンデス大統領が、10月17~18日に北京で開催される「第2回一帯一路国際協力フォーラム」に出席することを確認した。
●フィルムス科学・技術・イノベーション相の訪中
5~8日、フィルムス科学・技術・イノベーション相は、中国を訪問した。5日には、重慶でZhang Kejian工業情報化部副部長と会談し、衛星開発、自動車産業向けリチウム開発の産業化及び中小企業向けハイテクパークに関する覚書の実施に関し協議した。6日には、北京でWang Zhigang(王志剛)科学技術部長と会談し、現在の協力協定の深化、及びリチウム開発の産業化、学生交流、エネルギー・トランジションに関する協定締結を進めることで合意した。7日には、北京でWang Guanghua(王広華)自然資源部部長と会談し、天然資源及びエネルギー・トランジション分野でのバーチャル二国間研究センターの創設や海洋及び南極地域での協働等に関する覚書に署名した。このほか、同大臣は、中国科学院、国家衛星海洋応用センター、中国社会科学院を訪問し、それぞれの機関の幹部と会談した。
●パラグアイーパラナ河川における通航料徴収問題
10日、伯、パラグアイ、ボリビア、ウルグアイ政府が、パラグアイーパラナ河川水路での亜による通航料徴収等の措置の停止、及び自由な航行を求める共同声明を発出したことを受け、11日、ロジョン経済副大臣(エネルギー担当)はパラグアイを訪問し、ラミレス同国外相と会談し、料金の見直しに係る両国共同の技術委員会を設置することで合意した。また、12日には、フクス外務次官(ラテンアメリカ問題担当)が、カノ駐亜パラグアイ臨時代理大使と会談し、双方が、各種問題に関し引き続き協力していくことを確認した。上記に関し、18日、パラグアイ政府は、(亜が同国に負っているダム開発に係る債務等を理由に、)ヤシレタ二国間ダムで発電される電力の100%を、熱波により増加している同国内での電力需要に当てることを発表した(通常は電力の85%を亜向けに供給)。その後、交渉を重ね、28日、両国は、通航料の徴収継続、亜の債務支払い、パラグアイの対亜電力輸出継続で合意した。

(3)その他
●YPFに係る判決(15日)
15日、米国のプレスカ裁判官は、2012年にクリスティーナ・キルチネル(CFK)政権(当時)のYPF国有化の際の手続きに問題があったとして、亜に対し、投資ファンドのバーフォード・キャピタル(Burford Capital)への160億米ドルの支払いを求める判決を下した。右判決に対し、亜政府は上訴する意向を発表した。本件に関し、オカシオ=コルテス米下院議員(民主党)は、右訴訟を推進したハゲタカファンドの関係者であるポール・シンガー氏と米最高裁判事ら米司法との間で行われた贈収賄を指摘した。CFK副大統領は自身のXで、右に同意する投稿を引用リポストした。
●マルビーナス諸島におけるイスラエル企業の活動に対する声明(20日)
20日、亜外務省は、マルビーナス諸島(ママ)におけるイスラエルのナビタス・ペトロレウム社(NAVITAS PETROLEUM LP)の活動に抗議する声明を発表した。同社は客年、亜当局の認可を受けずに行った亜領内の大陸棚における炭化水素開発が2022年経済省決議240号により違法行為と指摘され、亜領内での活動が20年間禁止されていた。
●グロッシー国際原子力機関(IAEA)長官の再選(25日)
25日、ウィーンで行われていた第67回IAEA総会の中で、グロッシーIAEA事務局長(任期:2019ー23)が、次期事務局長に再選された。これにより、同事務局長の任期は、新たに2027年までとなった。

(4)要人往来一覧
ア 往訪
韓国:カフィエロ外相
中国:フィルムス科学・技術・イノベーション相
ウルグアイ:ペッシェ中銀総裁
インド:フェルナンデス大統領、カフィエロ外相(G20ニューデリー・サミット)
キューバ:フェルナンデス大統領、カフィエロ外相(G77+中国首脳会合)
米国:フェルナンデス大統領、カフィエロ外相(第78回国連総会)
 
イ 来訪
日本:藤丸敏日亜友好議連会長、山本幸三日亜友好議連特別顧問
仏:ラクロワPKO局長(第二回PKOに関するラ米・カリブ地域会議)
セネガル:ジョップ・セネガル軍大将(国連軍事顧問、第二回PKOに関するラ米・カリブ地域会議)
フィリピン:マナロ外相(亜比外交関係樹立75周年記念に際しての訪亜)
スイス:マルディーニ赤十字国際委員会(ICRC)事務局長
 

(了)

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