アルゼンチン政治情勢(月1回更新)
アルゼンチン政治情勢(2023年10月)
1 内政
(1)大統領選挙
●第一回候補者討論会(1日)
1日、大統領選挙第一回投票に向けた第一回候補者討論会が行われ、経済、教育、人権をテーマに候補者5人が議論を行った。
●第二回候補者討論会(8日)
8日、大統領選挙第一回投票に向けた第二回候補者討論会が行われ、治安、労働等のテーマに関し候補者5人が議論を行った。
●大統領選挙第一回投票及び議会選挙(22日)
22日、大統領選挙第一回投票が行われ、マサ候補(与党連合)が36.68%、ミレイ候補が29.98%、ブルリッチ候補が23.83%、スキアレッティ候補が6.78%、ブレグマン候補が2.70%の得票率をそれぞれ獲得し、いずれの候補も当選に必要な条件を満たさなかったため、マサ候補とミレイ候補の上位2候補による決選投票(11月19日)の実施が決定した。また、議会選挙も実施され、上下院とも与党連合が最多議席数を獲得した。
●大統領選挙第一回投票後の野党連合の動向
ア 25日、ブルリッチ共和国提案(PRO)前党首が記者会見を開き、決選投票では、ミレイ候補を支持することを発表した。同前党首は、「亜がキルチネル派により危機に瀕している現状」に鑑み、一方的にミレイ候補を支持するものであり、PROを含む野党連合には、決選投票でどちらの候補を支持するかに関し「行動の自由」があると説明した。
イ 25日、PROと共に野党連合を構成する急進市民同盟(UCR)が理事会を開催し、同会合終了後の記者会見で、モラレスUCR党首(フフイ州知事)は、決選投票に進むどちらの候補も支持しない旨発表するとともに、野党連合全体での協議を経ることなくミレイ候補への支持を表明したブルリッチ前PRO党首、及び右決定に関わったマクリ前大統領を厳しく批判した。
ウ 25日、ラレタ・ブエノスアイレス市長(PRO)も記者会見を開き、決選投票における二つの選択肢は亜国民にとり悪しきものであるとして、どちらの候補も支持しない旨表明し、ブルリッチ前党首及びマクリ前大統領との態度の違いを打ち出すとともに、野党連合の結束を取り戻すことに引き続き取り組むことを表明した。
(2)地方選挙動向
●インサウラルデ・ブエノスアイレス州官房長官の辞任(1日)
1日、選挙期間中に、モデルのソフィア・クレリチ氏との欧州でのヨット周遊旅行がスキャンダルとして報じられたインサウラルデ・ブエノスアイレス州官房長官が、選挙への影響を考慮し辞任することを表明した。
●ブエノスアイレス州知事選挙本選挙(22日)
22日、ブエノスアイレス州知事選挙本選挙が行われ、与党連合のキシロフ知事(ペロン党)が得票率44.88%で再選した。
●カタマルカ州知事選挙本選挙(22日)
22日、カタマルカ州知事選挙本選挙が行われ、与党連合のハリル知事(ペロン党)が得票率54.08%で再選した。
●エントレリオス州知事選挙本選挙(22日)
22日、エントレリオス州知事選挙本選挙が行われ、野党連合「エントレリオスのために共に」のフリヘリオ下院議員(PRO)が得票率41.67%で、与党連合から出馬のバール・パラナ市長(ペロン党、得票率39.45%)を僅差で破り当選した。
●ブエノスアイレス市長選挙本選挙(22日)
22日、ブエノスアイレス市長選挙本選挙が行われ、マクリ同市市政大臣(PRO)が49.51%、サントロ下院議員(ペロン党)が32.20%の得票率をそれぞれ獲得。第一位の候補が過半数の得票率に達しなかったため、決選投票の実施が決定した。
●サントロ下院議員のブエノスアイレス市長選挙決選投票の辞退(24日)
24日、サントロ下院議員は、ブエノスアイレス市長選挙決選投票への出馬取り下げを発表した。
(3)経済
●非正規レートの急騰(10日以降)
ア 9月中は非正規レートが1ドル=710~740ペソ程度で推移していたが、世界的なドル高傾向や大統領選挙を巡る不確実性により、10月に入り急速なドル高ペソ安が進行した。
イ 加えて、9日、ミレイ下院議員(野党「自由の前進」大統領候補)が、「ペソは肥料にさえならない」と発言する等、同政党所属政治家のペソを軽視する発言が市場の混乱に追い打ちをかけ、10日時点で非正規レートは一時1ドル=1010ペソまで高騰した。
ウ 10日、亜銀行協会(ABA)等4つの当地銀行協会が共同声明を発出し、大統領選挙候補者に対し、選挙キャンペーンや公の場での言動には責任を持ち、亜経済に不確実性と不安定性をもたらす発言は避けるよう呼びかけた。
●フェルナンデス大統領のミレイ下院議員提訴(11日)
ア 11日、フェルナンデス大統領は記者会見を開き、上記の混乱をもたらしたミレイ下院議員の発言は民主主義体制に対する深刻な侮辱であり、亜通貨の信用を貶め、国民に恐怖を引き起こしたとして、刑法第211条に基づき、2~6年の懲役を課す公共脅迫罪で連邦裁判所に提訴したことを発表した。
イ それに対し、ミレイ下院議員は同日に記者会見を開き、「キルチネル派は、選挙プロセスを不透明なものにし、予備選挙で最も投票された勢力を妨害しようとしている」と反論した。
●5G入札(24日)
24日、国家通信機構(ENACOM)は、5G周波数として割り当てた3,300~3,600メガヘルツ(MHz)の帯域のうち、3つのロットの合計250MHz帯について入札を実施し、3,300~3,400MHz帯はClaro社が、3,400~3,500MHz帯はTelecom社がともに約3億5,000万ドルで落札し、3,550~3,600MHz帯はTelefonica社が1億7,500万ドルで落札した。
●ガソリン不足(27日~)
27日前後から、亜国内でガソリン不足が深刻化した。マサ経済相は、国内の石油生産量が記録的水準にあるにもかかわらず、一部の生産者が、選挙後に平価切下げが行われることを期待して石油を備蓄していると指摘し、事態の正常化に向け、生産者に国内市場への燃料供給を優先するよう呼びかけた。これを受け、燃料不足は、31日から11月1日にかけて緩和傾向を見せた。
(4)その他
●公共交通機関運賃の任意の補助金辞退に関する発表(16日)
16日、ジュリアーノ運輸相は、公共交通機関の利用者は、任意で右運賃に係る補助金を辞退できるシステムを20日より導入することを発表した。同運輸相によれば、この措置はより脆弱な層に有利な再分配を行うことを目的としたもので、補助金辞退を申請した場合、電車賃であれば、補助金ありの場合11~52ペソの運賃が1100ペソに、バス運賃であれば、補助金ありの場合52~72ペソの運賃が700ペソへと値上げされる。本措置は、ミレイ候補やブルリッチ候補の掲げる補助金廃止に関する公約に対抗するものと見られ、第1回投票直前には、「マサ候補の電車料金:56.23ペソ、ミレイ候補の電車料金:1100ペソ、ブルリッチ候補の電車料金:1100ペソ」と記された政府によるキャンペーン広告も駅等に掲げられた。
●亜国内での爆破予告
イスラエル・パレスチナ情勢を受け、ブエノスアイレス市内の複数施設等に爆破予告が相次いだ。18日には当地米国大及び当地イスラエル大に対し爆破予告が電子メールで届き、イスラエル大使館員が建物から避難する事態に発展した。後に、右予告は偽物であることが判明した。このほか、19日にはイスラエル共済組合(AMIA)会館、20日にはアエロパルケ空港、22日には大統領府に爆破予告が届いたが、いずれも偽物であった。
2 外交
(1)要人往来(首脳級)
●フェルナンデス大統領の訪中(上海市)(14~17日)
ア 15~16日、フェルナンデス大統領は、上海を訪問し、亜国内で自動車バッテリー向けリチウムの開発を行うGotion Argentina社をはじめとする複数の企業関係者と会談した。また、ファーウェイ社幹部とも会談し、同社による対亜直接投資の重要性や、亜が持つ将来的なポテンシャル等を強調した。また、16日には、Gong Zheng上海市長と会談した。
イ 17日、同大統領は、ルセーフBRICS新開発銀行(NDB)総裁と会談し、亜のNDB加盟手続きを正式に開始した。
●フェルナンデス大統領の訪中(北京市)(17~18日)
ア 18日、フェルナンデス大統領は、第3回一帯一路国際協力フォーラムに出席し、開会式の演説の中で、中国は亜にとって重要なパートナーであると強調したほか、パンデミックやリチウム開発、クリーンエネルギー分野等における中国の対亜貢献の大きさを強調した。また、あらゆる国の経済的・社会的発展に向け、共通の課題解決に取り組むことの必要性を強調し、「一帯一路」構想をはじめとする習近平国家主席の提案への支持を表明した。
イ 18日、フェルナンデス大統領は、習近平国家主席と首脳会談を行い、人民元スワップ協定を延長し、第二段階として、470億元(65億ドル相当)を利用可能にすることを確認した。
ウ 同大統領は、会談後の記者会見で、今次スワップ延長によりもたらされる期待を述べるとともに、IMFへの批判を繰り返した。また、首脳会談でマルビーナス(ママ)諸島問題への言及があったことを明らかにし、亜の主張に対する中国の支持に謝意を表するとともに、亜は「一つの中国」原則を完全に支持し、中国が台湾の領土を回復することを期待する旨述べた。
(2)イスラエル・パレスチナ情勢
●ハマスの攻撃に関する亜政府の対応(7~8日)
ア 7日、フェルナンデス大統領は、自身のXアカウントに、「ハマスがイスラエルに対し行った残忍なテロ行為に対し強い非難と拒絶を表明する。イスラエルに対して亜国民の全面的な連帯を表明する」と投稿した。
イ 7日、亜外務省は声明を発出し、ガザ地区からイスラエル南部に対し行われた武力攻撃に遺憾の意を表明し、ハマスのテロ行為を非難するとともに、暴力の停止及び民間人の保護を呼びかけた。
ウ 8日、第二回候補者討論会の冒頭演説で、マサ候補(与党連合)、ミレイ候補、ブルリッチ候補、スキアレッティ候補(以上いずれも野党)がイスラエル国民との連帯を表明した他、マサ候補は質疑応答の中で、次期大統領に就任した際にはハマスを亜の指定テロリストのリストに加える旨述べた。ブレグマン候補(野党)は民間人の犠牲者に哀悼の意を示した。
●在イスラエル亜国民退避計画の開始(8~10日)
8日、亜外務省は、在テルアビブ亜総領事館が進めているイスラエル滞在中の亜国民の避難計画実施に向け、該当する者の個人情報登録を呼びかけた。10日、カフィエロ外相は、タイアナ国防相及びセリアーニ・アルゼンチン航空社長と会談し、同地における亜国民の避難計画を策定した。右計画は、避難を希望する亜国民を、Cー130「ハーキュリーズ」に乗せてテルアビブからローマに送還し、ローマからアルゼンチン航空の便で亜に帰還させるもの。
●イスラエル・パレスチナ情勢に対する亜政府の声明(14~18日)
ア 14日、亜政府は、亜国民を含むあらゆる国籍の人質の即時且つ無条件の解放を要請し、人質の身の安全に関し、連行した者に対し直接的な責任を求める声明を発出した。また、中東情勢の悪化及び暴力のエスカレーションに対する懸念を表明し、国際的な人道援助のアクセスを保証することを呼びかけた。
イ 18日、多数の死傷者を出したガザ地区北部の病院に対する攻撃を非難し、犠牲者の家族を追悼するともに、国際人道法を尊重し、文民の保護を保証することを呼びかける政府声明を発出した。また、右声明では、亜政府による人道支援を提供することが表明された。
●ガザ地区における人質解放に向けた亜政府の取組(26~27日)
ア 26日、カフィエロ外相は、亜イスラエル協会(DAIA)を訪問し、DAIA及びイスラエル共済組合(AMIA)の幹部らと会談した。カフィエロ外相は、右幹部らとともに、アルゼンチン人の人質の解放に向けた亜政府の更なる取組について協議した。
イ 27日、カフィエロ外相は、グテーレス国連事務総長と電話会談を行い、ガザ地区にいるアルゼンチン人の人質解放に向けた国連の仲裁を要請した。
●中東問題に関する国連総会緊急特別会合の決議への支持(27日)
27日、亜は、中東地域の問題に対処するため開催された第10回国連総会緊急特別会合で可決された国連決議に賛成票を投じた。
(3)要人往来一覧
ア 往訪
中国:フェルナンデス大統領、ペッシェ中銀総裁(第3回一帯一路国際協力フォーラム)
ウルグアイ:フェルナンデス大統領(W杯100周年記念試合に関する会合)
イ 来訪
伯:バルボサ汎米保険機構(PAHO)事務局長
スイス:マルディーニ赤十字国際委員会(ICRC)事務局長
(いずれも第5回世界メンタルヘルス・サミット出席のため訪亜)
(了)
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