政治情報
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2009年12月アルゼンチンの政治情勢(内政・外交)

2010年1月作成
在アルゼンチン大使館

 

I.概要


(1)内政面では、10日に上院1/3及び下院1/2の議員の交代が行われ、新連邦議会が発足した他、急進党執行部会合が開催され、サンス上院議員が急進党党首に選出された。また、雇用や社会保障の拡充等を求める労組及びピケテロ・グループ(失業者団体)等による道路封鎖及びデモ行進が頻繁に行われた。その他、10月に成立した放送法改正法の一部条項が亜憲法等に違反するとして、複数の判事が同法の一時停止を命じる仮処分を下した。


(2)外交面では、フェルナンデス大統領が、第38回メルコスール首脳会合に出席するため、ウルグアイを訪問し、ムヒカ・ウルグアイ次期大統領とも会談した。また、タイアナ外相が、第7回WTO閣僚会議に出席するためジュネーブを訪問した他、気候変動締約国会議COP15に出席するため、コペンハーゲンを訪問した。他方、チャベス・ベネズエラ大統領、ペレス・ペルー通商観光相、バレンスエラ米国務省西半球問題担当次官補等が訪亜した。

 

II.内政


1.社会闘争


(1)1〜2日、非キルチネル派ピケテロ・グループ(Movimiento Barrios de Pie、 Polo Obrero、MST-Teresa Vive、Movimiento Territorial de Liberacion等)約3000名が、政府が8月に発表した10万人の雇用創出プログラムの不公平な実施に反対し、ブエノスアイレス市内5月広場付近の主要道路(5月通り)にテントを設置し、道路封鎖を行った。政府は、抗議を行っているグループに対する恩恵が速やかに届けられるよう、手続きを迅速化すること等を約束し、同グループは道路封鎖を解除した。


(2)9日、マクリ・ブエノスアイレス市長の市政府運営に反対する労組及びピケテロ・グループが、ブエノスアイレス市庁舎に向けてデモ行進を行い、社会保障、教育、治安等の政策改善を求めた。同デモ行進には、ジャスキー亜労働者連盟(CTA)書記長の他、ピケテロ・グループのデリアFTV代表、サラTupac Amaru代表等も参加した。


(3)9日、米食品大手クラフト・フーズ社を解雇された失業者が再雇用を求め、ブエノスアイレス州とブエノスアイレス市を結ぶ主要高速道路を封鎖した他、亜工業連盟(UIA)前でデモ行進を行った。


(4)15〜16日、非キルチネル派ピケテロ・グループ(Movimiento Barrios de Pie、Movimiento Territorial de Liberacion等)が、10万人雇用創出プログラムの不公平な実施に反対し、ブエノスアイレス市内の社会開発省前の主要道路(7月9日通り)にテントを設置し、道路封鎖を行った。16日、同ピケテロ・グループは、政府に対する要求が受け入れられなかったものの、道路封鎖を解除することを決定したが、今後新たに抗議活動を実施する旨警告した。

 

2.成人年齢の変更


 2日、上院において、成人年齢を21歳から18歳に引き下げるために民法を改正する法案が、賛成多数で可決・成立した(22日付官報掲載)。同民法の改正により、満18歳より、親の許可なく、結婚、海外渡航、銀行口座開設、不動産売買等が可能となる(注:選挙権年齢は現行でも18歳)。なお、引き続き、親は21歳まで子を扶養する義務がある。

 

3.政界の動向


(1)4〜5日、急進党執行部会合が開催され、党執行部役員が選出された。急進党内は、現在大きく主流派とコボス副大統領派に分かれており、同会合においても執行部役員選出を巡り両派閥間で交渉が難航したが、執行部幹部役員を以下のとおりとすることで合意に至った(任期は2年)。


【党首】エルネスト・サンス上院議員
【第一副党首】アンヘル・ロサス元チャコ州知事(主流派)
【第二副党首】パブロ・ベラーニ上院議員(コボス派)
【第三副党首】カルロス・ベセッラ元大統領府長官(コボス派)
【幹事長】ヘスス・ロドリゲス元下院議員(主流派)


(2)23日、ペロン党のドゥアルデ元暫定大統領は、「我々は、馬鹿げた争いにより、アルゼンチンの可能性を駄目にしている。対立を利用した、権力構築はうんざりである」等述べ、キルチネル前大統領及び政府を批判するとともに、「自分は、次期大統領選挙に出馬する意向である」旨表明した。

 

4.ブエノスアイレス州における政治改革法の成立


 7日、ブエノスアイレス州議会上院において、政治改革修正法案が賛成多数で可決・成立し、同州選挙も予備選挙を義務づけ、予備・本選挙ともに国政選挙と同日(予備選挙:8月第2日曜日、本選挙:10月第4日曜日)に実施すること等が規定された。同法案には、ペロン党キルチネル派のみならず、ペロン党反キルチネル派、急進党、共和国提案(Pro)等も賛成票を投じた。

 

5.労組の組合代表権を巡る最高裁の違憲判決


(1)亜では、労働組合法が定める組合代表権(Personeria gremial。より代表的な労組に付与される特権的な労働権)を有しない労組は、様々な権利を制限されており、健康保険の運用、団体交渉権、組合費の徴収等の権利を有していない。こうした中、組合代表権を有しない労組に属するロッシ海軍病院医療労組(Prosana)代表は、抗議活動を主導したため、停職処分を受けた上、職場を移動させられた。ロッシ代表は、組合代表権を有していないとの理由により、労働組合法の保護を受けずに停職処分及び強制転勤措置を受けたとし、「組合代表権を有する労組の代表のみが、正当な理由がない限り、解雇、停職処分等の対象となることを禁じる」労働組合法第52条は、労働者の民主的かつ自由な権利を保証する亜憲法14条に違反するとして、提訴した。


(2)9日、最高裁判所は、原告の訴えを認め、労働組合法第52条は、労働者の民主的かつ自由な権利を保証する亜憲法14条に違反するとして、違憲判決を下した。

 

6.新連邦議会の発足


(1)10日、上院1/3及び下院1/2の議員の交代が行われ、6月28日の連邦議会選挙で当選した上院議員24名及び下院議員127名が就任し、新連邦議会が発足した(注:通常議会の会期は3月1日〜11月30日)。なお、キルチネル前大統領は下院議員に就任したものの、同前大統領の名目候補戦略に協力して連邦下院選に出馬したシオリ・ブエノスアイレス州知事、マサ・ティグレ市長(前首相)及びナチャ・ゲバラ(女優)は、議員就任を辞退した。


(2)下院の新執行部役員は以下のとおり(注:上院の新執行部役員は2月に決定予定)。


【議長】エドゥアルド・フェルネル下院議員(再任。ペロン党キルチネル派「勝利のための戦線」)
【第1副議長】リカルド・アルフォンシン下院議員(急進党)
【第2副議長】パトリシア・ファデル下院議員(ペロン党キルチネル派「勝利のための戦線」)
【第3副議長】ラモン・プエルタ
下院議員(ペロン党反キルチネル派)


(3)また、45ある下院常設委員会のうち、与党キルチネル派が20の委員会の委員長を務め、野党側は25の委員会の委員長を務めることが決定された。

 

7.農牧団体による集会開催


 新議会が発足した10日、ブエノスアイレス市内のパレルモ公園において、農牧団体主催の集会が開催され、農牧関係者、農牧族議員、主要野党政治家(急進党、市民連合、共和国提案、ペロン党反キルチネル派等)、亜工業連盟(UIA)幹部等の企業関係者等が出席した。主要農牧4団体代表はそれぞれ演説を行い、政府の貧困対策、政府及びブエノスアイレス州政府の治安対策、蔓延する政府の汚職等を批判するとともに、地方交付金制度の改革、司法審議会の改革等を求めた。

 

8.フェルナンデス大統領に対する脅迫事件


(1)14日、政府は、11日にフェルナンデス大統領が大統領官邸から大統領府までヘリコプターで移動中に、ヘリ操縦席と航空管制の間に妨害電波が入り、「雌馬を殺せ(Maten a la yegua)」との脅迫メッセージを傍受していたことを明らかにした。


(2)同日、フェルナンデス首相は同事件を糾弾し、11日にESMA(注:元海軍機械学校。軍事政権(1976〜83年)下で反体制活動家等の収容所となり、激しい拷問が行われた場所)で行われた暗殺事件の裁判が開始されたことから、同事件と同裁判の関わりの可能性に言及し、政治的意図が背景にあるとの見方を示した。

 

9.放送法改正法を巡る動き


(1)亜最大マスコミ・グループ「クラリン・グループ」は、10月に成立した放送法改正法の複数の条項が亜憲法等に違反するとして、連邦民事商業裁判所に対して仮保全措置を求めていたが、16日、カルボーネ連邦判事(ブエノスアイレス市)は、同法第41条(「連邦視聴覚コミュニケーション・サービス機構」の許可なく放送ライセンスを譲渡することを禁止する条項)及び第161条(同法に反する企業は1年以内に事業削減・縮小等義務づける条項)が憲法及び民法が保障する既得権、所有権等に違反するとして、両条項の一時停止を命じる仮処分を下した。


(2)また、同日、メディーナ連邦判事(サルタ州)は、放送法改正法の第45条(ライセンス規制)、第62〜65条(放送コンテンツ規制等)、第161条が違憲であるとして、これら条項の一時停止を命じる仮処分を下した。


(3)21日、デ・アラバル連邦判事(メンドサ州)は、放送法改正法案の議会審議過程において不正が行われ、また、同法は表現の自由を保障する憲法第32条等に違反するとして、同法の執行停止を命じた。


(4)30日、ラゴ・ガジョ連邦判事(サンフアン州)は、マスコミ・グループ「エストルネル・グループ」等による訴えを認め、放送法改正法の第42〜43、45〜46、48条(ライセンス規制等)及び第161条は、憲法及び国際条約が保障する表現の自由、既得権、所有権等に違反するとして、これら条項の一時停止を命じる仮処分を下した。

 

10.キルチネル夫妻の不正蓄財容疑に関する判決


(1)キルチネル夫妻の財産が2007〜08年の1年間に約158%急増(約17.8百万ペソから約46百万ペソに増加)し、不正蓄財の容疑で提訴されていた件について、21日、オジャルビデ連邦判事は、同夫妻の財産報告書に不適切さは見受けられず、証拠不十分であるとして、同提訴を却下した。


(2)これに対し、野党側(市民連合・共和国平等党、急進党等)は、オジャルビデ連邦判事は公平さに欠け、また、汚職に加担している等として、同判事の弾劾裁判を要求する予定である旨述べた。


(3)なお、オジャルビデ連邦判事による上記判決に対して、28日までに控訴が行われなかったため、本裁判は終了した。

 

11.ブエノスアイレス市警察創設


 22日、マクリ・ブエノスアイレス市長は、ブエノスアイレス市警察創設式典を開催し、来年配置される予定の同市警察官850名を披露した。

 

III.外交


1.ペルー


 3〜4日、ペレス・ペルー通商観光相が、約70名の同国企業関係者を率いて訪亜し、3日、「投資フォーラム」の議長を務め、4日、タイアナ外相と会談した。ペレス通商観光相は、タイアナ外相との会談後、「我々は、二国間統合、メルコスール・ペルー統合、リマ・ブエノスアイレス間航空便、中小企業間交流等、多岐に亘る分野につき協議した。我々は、統合を、貿易のみならず、投資、観光分野も含むより包括的なものと理解すべきである」等述べた。

 

2.第38回メルコスール首脳会合


 7〜8日、フェルナンデス大統領はウルグアイを訪問し、8日、第38回メルコスール首脳会合に出席した。フェルナンデス大統領は、同会合において、メルコスール加盟国間の格差是正のために経済規模の大きい国ほどより一層の責任を負うべきこと、メルコスール・EU間地域パートナーシップ協定締結協議に尽力する亜の意向等につき言及した。また、同日、亜は、メルコスール議長国に就任した。

 

3.ウルグアイ


(1)第38回メルコスール首脳会合に出席するためウルグアイを訪問したフェルナンデス大統領は、7日及び8日の2度に亘り、ムヒカ・ウルグアイ次期大統領と会談した。フェルナンデス大統領は、明年3月1日のムヒカ次期大統領就任式に、キルチネル前大統領と共に出席する意向である旨表明した。


(2)8日、第38回メルコスール首脳会合終了後、フェルナンデス大統領は、バスケス・ウルグアイ大統領との共同記者会見を実施した。記者から紙パルプ工場建設問題につき数次に亘り質問がなされたが、両大統領は、同問題は二国間問題であり、メルコスールの枠組みにおいて言及することは相応しくない旨述べ、本問題に関する発言を控えた。

 

4.ベネズエラ


 8〜9日、チャベス・ベネズエラ大統領が多くの閣僚を率いて訪亜し、9日、フェルナンデス大統領と、二国間関係の進捗状況を分析するために3ヶ月毎に実施している二国間首脳会談を実施した。9日、両国は、二国間協力関係を強化するため、造船会社Fluvialba社(ベネズエラ石油公社(PDVSA)が70%、亜Fluviomar社が30%の株式を保有)・亜造船会社Tandanor社間の協定(ベネズエラ産石油を、パラナ川・パラグアイ川交通路を通じて、亜、パラグアイ及びボリビアに輸送するための船の亜Tendanor社による造船(小型船50隻・曳舟10隻・大型船6隻の造船)、亜Fluviomar社によるFluvialba社所有船の修理)を始めとする15件の協定等に署名した。

 

5.気候変動締約国会議COP15


 14〜17日、タイアナ外相は、COP15に出席するためコペンハーゲンを訪問した。17日、同外相は、COP15における演説前に、「産業革命以来の汚染につき、その大半の責任を有する先進国こそ、解決のために行動すべきである。気候変動に対処するため、新技術の開発がなされているところであるが、我々発展途上国は、未知の新技術を売りつけられるのみといった新たな従属形式の犠牲とならずに済むよう、同開発に当初から参画することを望んでいる。また、技術移転に関しては、我々発展途上国に都合の良い条件下で実施されるべきである」等述べた。

 

6.米国


 15〜16日、バレンスエラ米国務次官補(西半球担当)が訪亜し、コボス副大統領、フェルナンデス首相、タチェッティ筆頭外務副大臣(外相代行)等と会談した。16日、バレンスエラ次官補が記者会見で亜における法的安定の欠如等を指摘したのに対し、亜政府(ランダッソ内務相、アラク司法・治安・人権相、タイアナ外相等)は同発言への抗議を行った。

 

7.ブラジル


 17〜18日、マンスール厚生相はブラジルを訪問し、テンポラン伯保健相と、二国間技術移転協定に署名した。同協定は、亜が黄熱病ワクチンを製造することを可能とするものである。

 

8.要人往来


(1)往訪

1〜2日 タイアナ外相のスイス・ジュネーブ訪問(第7回WTO閣僚会議に出席)
7〜8日  フェルナンデス大統領のウルグアイ訪問(第38回メルコスール首脳会合に出席、ムヒカ・ウルグアイ次期大統領と会談)
14〜16日 タイアナ外相のデンマーク・コペンハーゲン訪問(COP15に出席)
17〜18日 マンスール厚生相の伯訪問(テンポラン伯保健相と会談)


(2)来訪

2〜3日 ラボルデ国連薬物犯罪オフィス・テロ防止課長(フェルナンデス大統領、タイアナ外相、フェルナンデス首相、アラク司法・治安・人権相等と会談)
4日  ペレス・ペルー通商観光相(タイアナ外相と会談)
8〜9日 チャベス・ベネズエラ大統領(フェルナンデス大統領と定期首脳会合)
15〜16日

バレンスエラ米国務省西半球問題担当次官補(フェルナンデス首相、コボス副大統領、マクリ・ブエノスアイレス市長等と会談)

 

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