アルゼンチン政治情勢(月1回更新)

令和7年1月7日

アルゼンチン政治情勢(2024年10月)

※肩書は全て当時

 1 内政

(1)議会

●単一投票用紙方式の採用(1日)
 1日、下院は、上院で可決され修正された単一投票用紙に関する法案の再審議を行い、可決した。なお、18日、国政選挙の投票に単一投票用紙が使用される内容の法律が公布された。

●大学関係者によるデモ行進の実施(2日)
ア 2日、大学関係者等によるデモ行進がブエノスアイレス市内の連邦議会前広場をはじめ全国各地で実施された。これは、議会で承認された野党提出の大学予算拡充法案に対する大統領拒否権の行使に抗議することを目的としている。
イ 3日、大学予算拡充法案に対する大統領拒否権が発動された。
ウ 9日、下院は、右大統領拒否権に対する下院審議を行ったものの、拒否権を無効化するために必要な出席議員の3分の2の票数に達しなかったため、拒否権発動の維持が決定した。
エ 17日にも全国の大学で24時間のストライキが実施された他、21、22日には、大学関係者及び医療従事者が共同でストライキ、抗議活動等を実施した。

●アルゼンチン航空の民営化対象化(2日)
 2日、政府は、アルゼンチン航空を民営化対象とする大統領令873/2024を公布した。右政令は、今回の民営化対象化に関し、貧困が人口の53.9%に達するような状況では、国家は限られた財政資源をより貧しい人々のニーズを満たすために割り当てなければならない、と述べている。

●「落ち葉法(規制一掃法)」法案の議会提出(11日)
 11日、ミレイ大統領は、70以上の「時代遅れで役に立たない、あるいは我々の自由を制限する」規制を撤廃するための法案「落ち葉法」を議会に提出した(「」内の表現は、右提出した旨を自身のXに投稿したスツルツェネッガー国家規制撤廃・変革相が述べた内容)。

●チリージョ経済副大臣(エネルギー担当)の辞任(17日)
 17日、チリージョ経済副大臣(エネルギー担当)が辞任した。辞任理由は、健康上の問題とされる。後任には、民間のエネルギー企業NRG Energía社でゼネラル・マネージャーを務めていたマリア・テタマンティ氏が就任した。

●連邦歳入庁(AFIP)の廃止及び税務・税関庁(ARCA)の新設(21日)
 21日、政府は、連邦歳入庁(AFIP)の廃止、及び税務・税関庁(ARCA)の新設を発表した。これにより、人員削減や幹部の給与減額等が行われる。ARCA長官には、ミスライAFIP長官が就任した。

●キルチネル文化センター(CCK)の名称変更(10日)
ア 10日、政府は、キルチネル文化センター(CCK)の名称を、「ドミンゴ・ファウスティーノ・サルミエント自由の宮殿文化センター(以下自由の宮殿)」とする大統領令897/2024を公布した。
イ 12日、ミレイ大統領は、「自由の宮殿」で開催された、同施設の名称変更に係るイベントで演説し、CCKの名称を「自由の宮殿」に変更することを公式に発表し、「これは名称のみならず、時代の変化の始まりである」と述べた。

●サオーレス筆頭外務副大臣の辞任(17日)
ア 17日、サオーレス筆頭外務副大臣が辞任した。24日、後任として、ブスタマンテ駐モンテビデオ総領事が筆頭外務副大臣に就任した。

●大学監査実施の発表(22日)
 22日、政府は、ブエノスアイレス大学等の会計監査を行うことを発表した。これに対し、同大学は、右監査の法的妥当性に関し司法判断を求める旨発表した。

(2)野党動向

●ペロン党党首選挙を巡る動き(7日)
ア 7日、クリスティーナ・フェルナンデス(CFK)前副大統領は、自身のXを通じ、11月のペロン党党首選挙に立候補することを発表した。
イ 27日、ペロン党選挙管理委員会は、キンテラ・ラリオハ州知事が提出した自身の党首立候補含む党役員の候補者リストを、規定要件における不備を理由に拒否することを決定した。

●ペロン党「忠誠の日」記念式典(17日)
ア 17日、ブエノスアイレス州ベリッソ市で、ペロン党の記念日である「忠誠の日」の式典が実施された。本式典には、キシロフ同州知事の他、ダエル労働総同盟(CGT)書記長、モジャーノCGT書記長や同州の市長30名が出席した。本式典で、キシロフ知事は、「最高の日々はいつもクリスティーナ(CFK前副大統領)と共にあった」と述べつつも、同前副大統領のペロン党党首選挙立候補に対する支持等は明言しなかった。また、同党の党内対立に関心はなく、ミレイ大統領の政策に反対することが重要であると強調した。
イ 同日、CFK前副大統領は、アベジャネーダ大学で講演した。

●急進市民同盟(UCR)所属議員の分裂(23日)
ア 23日、急進市民同盟(UCR)のルストー上院議員(UCR党首)の他、マネス下院議員等12名の議員が従来のUCR会派から離脱し、新会派「永遠の民主主義(Democracia para siempre)」を創設した。
イ 今回の新会派創設により、デ・ロレド下院議員率いる従来のUCR会派は、下院において、33名から21名へと減少した。

 
2 外交

(1)首脳級

●ミレイ大統領とジョンソン元英首相との会談(14日)
ア 14日、ミレイ大統領は、アルゼンチンを訪問したジョンソン元英首相と会談した。会合は非公式な形で行われ、ジョンソン元英首相が自著をミレイ大統領に手交した他、同元英首相は、英国でミレイ大統領が自由主義に関する講演を行えるよう、訪英を計画する旨約束した。
イ 報道によれば、本会合において、フォークランド(マルビーナス)諸島の主権を巡る問題に関しては言及なしの由。

●ビジャルエル副大統領の欧州訪問(6~14日)
ア 6~14日、ビジャルエル副大統領は、自身初となる公式外遊を行った。
イ 7日、同副大統領は、訪問先のマドリードで、ロジャン・オヘダ・スペイン上院議長(スペイン人民党)、フェイホー・スペイン人民党党首、オルテガ・スミス・スペインVOX党報道官兼下院議員とそれぞれ会談した他、複数の企業家等とも会談した。他方、政権及び与党関係者との会談は行わなかった。同日、同副大統領はサラマンカを訪問し、アラマン・イベロアメリカ事務局長と会談した。
ウ 8日、同副大統領は、バスク地方で開催された、国連主催のテロリズムに関する国際会議で演説した。右演説の中で、同副大統領は、テロリズムを正当化する権力集団や政治家を批判した。また、本会合で、同副大統領は、スペイン国王フェリペ6世に挨拶した。
エ 14日、同副大統領はバチカン市国を訪問し、教皇フランシスコに謁見した。
オ 17日、スペイン訪問時に表敬したと見られるイサベル・ペロン元大統領との写真を公開した(同日は、ペロン党の記念日である「忠誠の日」にあたる)。同日、上院にイサベル・ペロン元大統領の胸像が設置された。

(2)閣僚級

●カリーナ・ミレイ大統領府長官の訪仏(18~20日)
ア 18日、カリーナ・ミレイ大統領府長官は、訪問先のパリで、ブリジット・マクロン大統領夫人と会談した。本会合で、双方は、仏の対アルゼンチン投資や大型投資奨励制度(RIGI)等につき協議し、両国の関係深化につき合意した。
イ 19日、同長官は、複数の仏企業幹部と会談した他、国際食品見本市「SIAL Paris 2024」のオープニングイベントに参加した。
ウ 20日、同長官は、アルマン仏経済・財務・産業相と会談した。本会合には、パソ経済省調整担当大臣が同席した。
エ 同長官の単独の外遊は今回が初めて。また、今次訪仏には、スカレスカ・アルゼンチン投資貿易庁長官が同行した。

●モンディーノ外相のインド訪問(6~8日)
ア 7日、モンディーノ外相は、ジャイシャンカル・インド外相と会談し、エネルギー・トランジション、鉱物資源、保健、農業、国防、技術等の分野における二国間投資と貿易拡大につき協議した。また、8日、両外相を議長として、インド政府の様々な省庁関係者が出席した第7回二国間合同委員会が開催された。
イ 同日、モンディーノ外相は、ハルディープ・シン・プリ・インド石油・天然ガス相と会談し、二国間協力深化におけるエネルギーの重要性を旨確認した。
エ 8日、モンディーノ外相は、ゴヤル・インド商工相と会談し、両国間の貿易状況につき協議した他、同外相は、ゴヤル商工相に対し、大型投資奨励制度(RIGI)につきプレゼンテーションを行った。
ウ また、今回の訪問期間中、モンディーノ外相は、複数のインド企業関係者等とも会談した他、ビジネス関連の会合に多く出席した。

●モンディーノ外相の辞任(30日)
ア 30日、モンディーノ外相が辞任した。報道によれば、解任理由は、米国によるキューバの経済制裁の解除を求める決議案に賛成票を投じたことによるものとされる。
イ 11月1日、ウェルテイン外相が新たに任命された。

(3)イスラエル・パレスチナ情勢

●イランの対イスラエル攻撃を非難する外務省声明(1日)
 1日、アルゼンチン外務省は、イランによる、イスラエルの民間人に対するミサイル攻撃を非難し、攻撃中止を要請する声明を発出した。

(4)対中関係

●租税条約の承認(1日)
 1日、下院は、アルゼンチンの中国との二重課税防止協定を承認した。

●ビダル・サンタクルス州知事の訪中(14~19日)
ア 14日、ビダル・サンタクルス州知事は中国を訪問し、同州におけるダム建設再開に関し、Gezhouba社のLiu社長と会談した。報道によれば、右再開に向け、同社から5億ドルの追加投資や技術提供等を受けることで合意した由。
イ 15日、ビダル知事は、鉱物資源に関するChina Mining 2024に参加した他、イノベーション関連の中国企業を訪問した。
ウ 17日、ビダル知事は福建省を訪問し、中国炭鉱(China COAL、中国最大の国営石炭企業)幹部及び浙江稠州商業銀行幹部と会談し、中国炭鉱が同州の石炭を購入することに関し協定を締結した。
エ 18日、ビダル知事は、HONG DONG Fisheries社幹部と会談し、同州から201海里の水域で操業する中国漁船に対する後方支援に係る協定を締結した。右協定では、同州の港湾の近代化、造船所の建設、新たな工業用漁業プラント設置が盛り込まれている。右協定締結により、アルゼンチンの水産資源のバリューチェーンが強化され、雇用創出、港湾の近代化に貢献するとしている。
オ 19日、ビダル知事は、福建省の人工知能(AI)関連企業を訪問した。
カ 25日、中国から帰国したビダル知事は、同州におけるダム開発開発を主導する労組(UTE)の代表者と会談し、右開発の再開に関し協議した。

●ミレイ大統領の誕生日に対する習近平中国国家主席の挨拶状の送付(22日)
 22日、ミレイ大統領はメディアインタビューの中で、自身の54歳の誕生日に際し、Wang Wei当地中国大使を通じ、習近平中国国家主席から挨拶状の送付を受けた旨明らかにした。

(5)その他

●政府公式資料におけるフォークランド(マルビーナス)諸島の表記等の問題
ア 12日、内閣官房主催の大型投資奨励制度(RIGI)に関する外交官向け説明会において、フォークランド(マルビーナス)諸島が掲載されていない地図が使用された。
イ 23日、外務省及び国防省は、22日に行われたモンディーノ外相とカルボニエ国際赤十字委員会(ICRC)副総裁との会談に関するプレスリリースを発表したが、右プレスリリース内にFalklands/Malvinasとの記載があったため、公開から24時間以内に削除された。

●エボ・モラレス前ボリビア大統領の政治難民認定取り消し(2日)
 2日、アルゼンチン司法省は、フェルナンデス前政権により付与されていたエボ・モラレス・前ボリビア大統領に対する難民認定を解除したと発表した。

(6)要人往来

往訪:
メキシコ:キシロフ・ブエノスアイレス州知事(1日:メキシコ大統領就任式)
バチカン市国:ビジャルエル副大統領(14日)、ソテロ外務副大臣(宗務・文明担当)(11日)
スペイン:ビジャルエル副大統領(7、8日:欧州外遊)
インド:モンディーノ外相(6~8日:外相会談等)
中国:ビダル・サンタクルス州知事(14~19日:企業関係者等との会談)

来訪:
伊:タヤーニ外相(8日)
国際赤十字(ICRC):カルボニエ副総裁(16日)
 

(了)

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