政治情報
月1回更新

2013年10月アルゼンチンの政治情勢(内政・外交)

2013年11月作成
在アルゼンチン大使館

 

 

1 概要


(1)内政:5日夜、慢性硬膜下血腫によりフェルナンデス大統領が1ヶ月間の静養に入るとの発表がなされ、8日、同大統領は同血腫の摘出手術を受け、13日から30日間の「厳密な静養」に入った。その間の行政権の行使は、憲法第88条に基づき、ブドゥー副大統領により代行された(注:医師団の許可を得たフェルナンデス大統領は、11月18日にオリーボスの公邸で公務に復帰した)。27日に国会議員選挙(上院24議席改選、下院127議席改選)が実施され、与党PJ「勝利のための戦線」が、協力政党とともに、12月10日の新議会発足後も上下両院において過半数を維持する見通しとなった。但し、同戦線は、全国の有権者の約4割が集中するブエノスアイレス州選挙区を始め、13の選挙区で得票率1位を獲得できなかったため、当地メディアでは、与党の「大敗」との趣で報じられた。違憲性を巡って、政府とクラリン・グループが係争中であった「視聴覚コミュニケーション・サービス法」(法律第26,522号、通称「放送法改正法」)につき、亜の最高裁判所は、29日、右法律の全条項は「合憲」であるとの判決を下し、政府側に軍配を上げた。同判決が政府・与党にとって「厳しい」結果が出た国会議員選挙の2日後に下されたことから反響を呼んだ。


(2)外交:ウルグアイ政府がUPM社(旧ボトニア社)製紙工場の生産拡大を発表したのに対し、ティメルマン外務大臣は、国際司法裁判所に本件を持ち込む構えを見せた。ブドゥー副大統領がブラジルを訪問し、マンテンガ伯福祉大臣等と会談した。イベロアメリカ・サミット出席の為、ティメルマン外務大臣及びドミンゲス下院議長がパナマを訪問した。ゴンサルベス・セントビンセント及びグレナディーン諸島首相が来亜し,ブドゥー副大統領、ティメルマン外務大臣及びプリチェリ治安大臣等と会談した。アール・マクトゥーム・アラブ首長国連邦財務大臣が来亜し、ブドゥー副大統領、ティメルマン外務大臣、ロレンシーノ経済・財政大臣及びメイヤー観光大臣等と会談した。モラレス・ボリビア大統領が来亜し、ラプラタ大学ジャーナリズム学部の南米研究・コミュニケーション学科の名誉博士号を授与された。

 

 

2 内政


(1)フェルナンデス大統領の健康問題


(ア)5日夜、スコッチマーロ内閣府報道長官が、「フェルナンデス大統領は慢性の頭痛があったため、ファヴァロロ財団病院(心臓血管系の専門病院)において検査を受けたところ、慢性硬膜下血腫と診断され、1か月間の静養を医師団から命じられた」と発表した。


(イ)スコッチマーロ報道長官及び大統領付医療チーム(ルイス・ブオノモ医師及びマルセロ・バジェステロス医師)によれば、フェルナンデス大統領は、8月12日に転倒し、頭部に衝撃を受けたが、その際に受診したオタメンディ病院での当初の検査では異常は発見されず、後遺症もなかった。5日に同大統領は不整脈の検査を受けるためファヴァロロ財団病院に赴いたが、慢性頭痛を訴えたため、同病院の神経科でファクンド・マネス医師の診察を受けたところ、慢性硬膜下血腫と診断された。この診断に基づき、1か月間の静養が医師団より指示された。


(ウ)フェルナンデス大統領の静養の決定を受け、ブドゥー副大統領はブラジル訪問を途中で切り上げて帰国の途に就き、その後予定されていたフランス訪問をキャンセルした。


(エ)フェルナンデス大統領は、6日19時半に左腕のしびれを訴え、7日13時過ぎにファヴァロロ財団病院に入院し、翌8日午前、慢性硬膜下血腫の摘出手術を受けた。ファヴァロロ財団病院の公式診断書は、手術は2時間ほどで無事に終わった旨発表した。


(オ)7日、ブドゥー副大統領は政府公証人の前で行政権委譲文書に署名し、フェルナンデス大統領が職務に復帰するまでの間、憲法第88条に基づき、行政権を行使することとなった。


(カ)10日及び11日、スコッチマーロ内閣府報道長官がファヴァロロ財団病院の医師団の診断書を読み上げ、集中治療室に入院しているフェルナンデス大統領の術後の経過は良好であり、合併症もなく精神的にも安定していると発表した。同大統領の血圧、体温、心拍数及び呼吸の頻度は正常値の範囲内にあり、CTで撮影した脳の断面図にも異常は確認されない旨、併せて報告された。


(キ)13日、フェルナンデス大統領はファヴァロロ財団病院を退院し、オリーボスの公邸に車で向かい、そのまま30日間の「厳密な静養」(Estricto Reposo)期間に入った。ファヴァロロ財団病院の医師団及び大統領府の医療チームが、公邸で同大統領の病状の経過を常時見守ることが発表された。


(ク)フェルナンデス大統領の公邸での静養中の過ごし方につき、15日付の当地報道は、同大統領が、家族とともに映画を見るなどしている旨伝えるとともに、家族としては、少なくとも退院後1週間程度は、閣僚等とのコンタクトも避けたいという意向を持っていると報じた。


(ケ)21日付及び22日付当地各紙は、手術から約2週間後の20日に、公邸において、フェルナンデス大統領の頭部縫合線の抜糸が行われたと報じた。当地報道は、13日にファヴァロロ財団病院が発表した診断書以降、同大統領の術後の経過に関する一切の公式発表が行われておらず、抜糸の実施に関しても、当局による発表はなかった旨強調した。また、当地報道は、同大統領は家族以外では唯一、側近のサニーニ大統領府法制長官及びパリーリ大統領府長官とのみ公邸で話をしており、閣僚とすら面会していない旨伝えるとともに、同大統領にストレスを与ることを回避するために、家族及び医師団が情報を厳しくブロックしており、同大統領は亜情勢に関する情報には接していないと報じた。


(コ)23日、スコッチマーロ内閣府報道長官が会見を行い、以下の通り発表した。
  23日21時頃、フェルナンデス大統領はファヴァロロ財団病院で脳の断層撮影の検査を受け、(8日に行われた慢性硬膜下血腫の摘出)手術後の脳の経過観察を行ったが、同大統領の脳内には特段の異常は見られなかった。
  また、フェルナンデス大統領には、元々、動脈性低血圧(ママ)の症状が見られ、また、心臓の左脚ブロック(心臓の左側における神経刺激伝達の途絶が起こること)による心機能の不調があるため、10月5日以降、同大統領は心臓血管系の検査も受けてきた。現時点では、フェルナンデス大統領に心臓血管系の症状は出ていない。
  24時間心電図記録法であるホルター心電図検査の所見によると、フェルナンデス大統領に重大な心房細動は認められない。また、心臓の間欠性左脚ブロックが確認された。
  精密検査の結果、フェルナンデス大統領には、血圧調整に関わる迷走神経機能の機能不全の傾向が確認された。
  フェルナンデス大統領の術後の回復が済み次第、通常活動時のホルター心電図検査が行われる予定となっている。
  今後、フェルナンデス大統領は、(術後)30日間の静養を続け、その間に適宜、術後の経過観察を行うことになる。同大統領は歩行するのは問題ないが、体力を使う動作やストレスにさらされる状況は避けなければならない。
  (11月18日、フェルナンデス大統領は、オリーボスの公邸にて執務を再開し、内閣改造を行った。)
 
(2)国会議員選挙の実施


(ア)27日、国会議員選挙(上院24議席改選、下院127議席改選)が実施された。上院議員選挙は国内の8選挙区で実施され、各選挙区で3議席ずつ改選となった。下院議員選挙は国内の全24選挙区で実施された(改選議席数は各選挙区の人口によって異なる)。内務・運輸省の発表によると、今次選挙の投票率は79.2%。


(イ)内務・運輸省のHPに掲載された暫定結果によると、与党PJ「勝利のための戦線」(キルチネル派)は、全24選挙区のうち、全国の有権者の約4割が集中するブエノスアイレス州選挙区を始め、13の選挙区で得票率1位を獲得できなかった(注:国内の全24選挙区で実施された下院議員選挙の結果に基づくデータ)。また、与党が得票率2位以下になった選挙区では、1位と大差をつけられているケースが目立った。そのため、今回の選挙結果に関し、当地報道は与党の「大敗」との評価を下した。但し、各政治団体の全国レベルの得票率ランキングでは、依然として与党PJ「勝利のための戦線」が第1位であり、12月10日の新議会発足後も、同戦線が協力政党とともに、上下両院において過半数を維持することになると伝えられた。


(ウ)上院(定員72名、過半数37名)の24改選議席中、与党PJ「勝利のための戦線」の今回の暫定獲得議席数は11議席であり、同戦線の協力政党の想定獲得議席数は5議席であると報じられた。現在、与党勢力の議席は41議席程度とされているが、12月10日の新国会議員の就任以降は38議席に減る模様。いずれにしても、大半の法案可決に必要な過半数37議席は維持する見通し。


(エ)下院(定員257名、過半数129名)の127改選議席中、与党PJ「勝利のための戦線」の今回の暫定獲得議席数は42議席であり、同戦線の協力政党の想定獲得議席数は6議席であると報じられた。現在、与党勢力の議席は129議席程度とされているが、12月10日の新国会議員の就任以降は132議席程度になる見込みであり、大半の法案可決に必要な過半数129議席は引き続き上回る見通し。


(オ)今回の選挙で与党が得票率を下げた原因に関し、当地報道は、国民の関心が高い治安の悪化及びインフレ等において、政府が具体的な成果を挙げていないことから、国民が政治に変化を求めたという点を挙げた。また、フェルナンデス大統領の健康問題による同情票の影響は見られなかったとも伝えた。


(カ)今回の選挙結果を受け、フェルナンデス大統領の3選を可能とする憲法改正を行うのは、もはや不可能との分析が殆どの報道機関でなされた(注:改憲には上下両院の3分の2以上の賛成票が必要)。


(キ)今次選挙結果は、8月11日に実施された予備選挙の結果とほぼ重なっており、本選挙は予備選挙の流れを受けるだろうという事前の予想通りの展開となった。予備選挙と本選挙の結果が異なった点で注目されたのはブエノスアイレス市選挙区の上院議員選挙(3議席改選)であり、予備選時は得票率2位であった与党PJ「勝利のための戦線」が、本選挙で3位に落ちたため、議席を失うことになった。


(ク)さらに予備選挙の結果との注目すべき相違が出たのは、最大の有権者数を抱えるブエノスアイレス州選挙区の下院議員選挙であり、ここでは、同州のインサウラルデ市長(ローマス・デ・サモラ市)が与党から筆頭候補として出馬したものの、得票率は32.1%に留まり、43.8%を獲得したマサ・ティグレ市長率いる「刷新戦線」に11.7ポイント差で敗北した。予備選挙時の両候補者の得票率の差は5.4ポイントであったところ、その差が2倍以上に開く結果となった。今回、ブエノスアイレス州の全135市中、与党が得票率1位を獲得できたのは、わずか21市のみであり、それ以外の殆どの市で「刷新戦線」に敗れた。また、今回与党はブエノスアイレス州のみならず、有権者数の多いその他の選挙区(ブエノスアイレス市、コルドバ州及びサンタフェ州等)でも1位の政党に大差をつけられた。


(ケ)今次選挙を通じて、2015年の大統領選挙を目指す野党の指導者の動向が注目されたが、今回与党PJ「勝利のための戦線」を離脱して「刷新戦線」を形成したペロニスタのマサ・ティグレ市長(ブエノスアイレス州選挙区下院議員選挙当選)、急進党のコボス前副大統領(メンドーサ州選挙区下院議員選挙当選)、社会党のビーネル党首(サンタフェ州選挙区下院議員選挙当選)及びUNENのカリオー下院議員(ブエノスアイレス市選挙区下院議員選挙当選)等はいずれも今次選挙で躍進した。自身の出馬はなかったものの、マクリ・ブエノスアイレス市長も自派(共和国提案(PRO))を同市で勝利に導き、大統領選挙に向けた可能性を残した(注:PROは今回初めて上院で議席を獲得した)。今後、与党PJ「勝利のための戦線」の大統領候補者(注:現時点では、シオリ・ブエノスアイレス州知事、ウリバリ・エントレリオス州知事及びカピタニッチ・チャコ州知事(11月18日の内閣改造により官房長官に就任)等の名前が挙がっている)の対抗馬として、野党の統一候補擁立のための野党間の協調及び駆け引き等が展開される可能性がある旨報じられた。


(コ)当地報道で与党の大統領候補になる可能性を指摘されているウリバリ・エントレリオス州知事は、自らの出馬はなかったものの、今回、同州で上院・下院議員選挙ともに与党を勝利に導き、ブエノスアイレス州で与党を勝たせることが出来なかったシオリ同州知事と比較された。また、同じく大統領候補になる可能性を指摘されているカピタニッチ・チャコ州知事も、自身の出馬はなかったものの、同州で与党の勝利を実現したとして、当地報道で「勝者」の扱いを受けた。


(サ)28日の各紙1面の見出しは以下の通り。
(@)ラ・ナシオン紙:「亜は変化の為に投票した」(El pais voto por un cambio)
(A)クラリン紙:「マサが圧勝し、新たな政局が始まる」(Massa arraso y se abre una nueva etapa politica)
(B)パヒナ12紙(政府系):「新しい地図」(El nuevo mapa)
(C)ティエンポ・アルヘンティーノ紙(政府系):「『勝利のための戦線』が国会両院で過半数を補強」(El FPV consolido su mayoria en ambas camaras del congreso)
(D)エル・クロニスタ紙:「マサの明らかな勝利は政府に衝撃を与え、変化を要求する」(El rotundo triunfo de Massa impacta al gobierno e impone cambios urgentes)
(E)アンビト・フィナンシエロ紙:「マサがブエノスアイレス州で予備選以上の善戦、国会では政府与党が第一党の座を維持」(Massa amplio triunfo en provincia de Buenos Aires; retiene gobierno la primera minoria en el congreso)
(F)ブエノスアイレス・ヘラルド紙:「多くの勝利の中で勝者は一人:マサ」(Many victories but one winner: Massa)

 

(3)放送法改正法に対する最高裁の合憲判決


(ア)29日、亜の最高裁判所は、違憲性を巡ってクラリン・グループと政府が係争中であった「視聴覚コミュニケーション・サービス法」(法律第26,522号、通称「放送法改正法」)につき、右法律の全条項は「合憲」であるとの判決を下した(注:同法は視聴覚メディアを対象としており,新聞や雑誌等の「紙」メディア及びインターネット・メディア等は対象としていない)。政府側に軍配を上げた今次判決を巡っては、政界及びマスコミ等、各方面から賛否両論が上がり、とりわけ、同判決が、政府・与党にとって「厳しい」結果が出た国会議員選挙の2日後に下されたことから、大きな反響を呼んだ。


(イ)「視聴覚コミュニケーション・サービス法」は2009年10月に成立し、2010年9月に施行されたが、4つの条項の適用が、当地最大のメディア・グループであるクラリン・グループからの違憲性を理由とする執行停止請求(注:同グループは、放送法改正法の当該条項が、表現・報道の自由、既得権・私有財産の保障等を規定する亜憲法に違反するとして提訴)を認めた司法判断により、2009年12月より停止されていた。当地報道によると、これまで政府は、クラリン・グループ等の大手メディアの「寡占状態」を解消し、メディア業界をより「公平な」ものにするとの名目のもと、司法に圧力をかけ、放送法改正法の完全施行によって、政府に批判的な報道を行うメディア、とりわけクラリン・グループを解体に導こうと躍起になってきた経緯があるとされている。


(ウ)執行停止状態にあったが、今回合憲と判断された4条項の概要は以下の通り。
(@)第41条:放送ライセンスの譲渡は認められない。但し、(所有から)5年を経たライセンスの株式等は譲渡可能。
(A)第45条:マスメディアの多様性を保障するため,単一放送事業者が保有する放送ライセンス数に上限を設け,また事業形態にも制約を設ける。
(B)第48条:放送ライセンスの授与または株式等の譲渡の許可に際し、事前に当該団体がソーシャル・コミュニケーション関連グループとの結びつきを有するか否かを実証しなければならない。本法で想定されている多数のライセンスを保有する体制は、既得権として主張されることはできない。
(C)第161条:放送ライセンス数の上限等を定める条項(第45条)に違反するメディア・グループは、1年以内に事業の削減・縮小等を行わなければならない。


(エ)亜の最高裁判所の判事は全員で7名であるが、29日の判決で問題となっていた4条項を全て違憲としたのはファイト判事1名だけであった。2名の判事は、一部を合憲、その他を違憲とし、ロレンゼッティ最高裁長官を含む残りの4名の判事は、4条項全てを合憲とした。


(オ)最高裁は、放送法改正法の第161条にある、「ライセンス数の上限等を定める条項(第45条)に違反するメディア・グループは,1年以内に事業の削減・縮小等を行わなければならない」という条文の「1年」の期限は既に切れており、クラリン・グループは放送法改正法に適合すべく、直ちに事業解体に着手しなければならない旨判決で明らかにした。


(カ)また、最高裁判所は、放送法改正法の運用を担う「連邦視聴覚コミュニケーション・サービス機構」(AFSCA)は、専門性と独立性を有し、政府やその他の圧力団体の干渉から護られた組織でなければならない旨、判決に明記した(注:AFSCAの幹部は7名で構成されるが、代表及び執行部のディレクターは行政府により任命され、また、国会(両院)の第一党が推薦する人物1名が執行部に入るため、少なくとも政府・与党寄りの人物が3名は入れる仕組みになっている。現在のサバテラAFSCA代表(注:下院議員を休職してAFSCA代表を務めている人物)及びサアベドラ・ディレクターは、かなり政府寄りの立場にある人物として知られている)。


(キ)最高裁の判決に対する与党の反応
(@)最高裁による合憲判決を受け、29日、ブドゥー副大統領をはじめとする政府・与党関係者は、大統領府での式典で祝賀した。また、政府を支持する若手左派活動家組織は国会議事堂前に集合し、政府・与党関係者とともに祝賀式典を行った。当地報道によると、右式典には約5千人が参加した。
(A)31日、アバル・メディーナ官房長官は、10月8日に実施された慢性硬膜下血腫の摘出手術の後、オリーボスの公邸で30日間の「厳密な静養」に入っているフェルナンデス大統領も、今次判決に関する連絡を受けた旨発表した。


(ク)最高裁の判決に対する野党の反応
(@)29日、野党のカリオ−下院議員(UNEN)は、今次判決をロレンゼッティ最高裁長官とサニーニ大統領府法制長官(注:フェルナンデス大統領の側近ブレーンとされている人物)の間で結ばれた政治協約の結果であると酷評し、ロレンゼッティ長官を提訴する姿勢を明らかにした。またマクリ・ブエノスアイレス市長(「共和国提案」(PRO))は、最高裁の合憲判決を遵守する第一歩は、サバテラAFSCA代表の辞任にあるとした。
(A)30日、野党議員グループは、AFSCAの幹部の公平性が保たれていることが保証されるまで、放送法改正法の当該4条項が執行に至らないよう、保護請求を行う旨発表した。
(B)31日、野党議員グループは、最高裁判所に対し、放送法改正法の執行を一時停止するよう求める保護請求を提出した(注:11月5日、最高裁は右請求を棄却した)。


(ケ)最高裁の判決に対する反政府系マスメディアの反応
(@)30日付の当地報道は、今回の最高裁の合憲判決が、政府が「大敗した」とされる国会議員選挙の48時間後に出された点を強調する報道を行った。
(A)30日付の当地報道は、最高裁の合憲判決の裏には、ロレンゼッティ最高裁長官が推し進めていた亜民法と商法の合体を伴う同法改正法案の国会での審議再開の約束があるとし、政府は合憲判決の見返りに、立法府において右法案の審議を再開し、年内の可決に持ち込むだろうとの見方を示した。


(コ)31日、サバテラAFSCA(「連邦視聴覚コミュニケーション・サービス機構」)代表は、クラリン・グループ社屋に赴き,29日の最高裁判決を受け,放送法改正法の全条項が執行に至ったことにより,同グループの放送ライセンスの分割作業及び放送事業の見直しに着手する旨通達した。サバテラ代表は、クラリン・グループは自主的にライセンス分割案を提出することができる点を確認するとともに、同グループが現在の体制からライセンス分割後の新体制に移行するまでの間、同グループ所有のメディア・サービスの維持並びに従業員の職は保証されるとした。また、サバテラ代表は、クラリン・グループは、15日以内に所有する全てのラジオ、地上波テレビ及びケーブルテレビのライセンスの所有者情報を明らかにしなければならないとし、その間に司法が同グループの各メディアの財産価値を査定するとした。

 

(4)オンセ駅での電車事故の再発


(ア)19日午前7時25分、サルミエント線オンセ駅(ブエノスアイレス市)において、終点の同駅に到着しようとしていた約400名の乗客を乗せた電車が,線路末端の列車止めで止まらずに直進し、改札手前までの8メートルほどホームに乗り上げる事故が発生した。この事故により、軽傷者が105名発生した。


(イ)サルミエント線では、2012年2月にも同じオンセ駅において大規模人身事故が発生しており、その時は、今回事故が起きたホームと同じ2番ホームの列車止めに電車が衝突し、51名(及び妊婦1名のお腹の中にいた胎児)が死亡、700名以上の負傷者が出た。また、本年6月13日には、サルミエント線のカステラ−ル駅手前で列車同士が衝突し、死者3名、負傷者315名が出る事故が発生した。当地報道では、政府の鉄道管理の不備に対する不満の声が高まっていたが、今回の事故を含め、20ヶ月の内にサルミエント線で3度も事故が起きたということで、電車利用客を中心に呆れとともに怒りや批判が強まっていると指摘された。


(ウ)19日,ランダッソ内務・運輸大臣は大統領府で記者会見を行い、今回の事故原因等に関し、詳細は司法による捜査を経てから判明するとしたものの、15日に当該電車が点検を受けた際には(技術的な)問題は見られなかったと述べた。


(エ)鼻中隔を骨折するなどして軽傷を負ったベニテス運転手は、事故現場から病院に搬送された後、本件担当のリホ連邦判事の命により逮捕され、接見禁止の状態に置かれた。司法当局の発表によると、同運転手は事故後、運転席にあったハードディスク(注:運転席監視用の防犯カメラの情報が入ったディスク)を取り出し、自分の鞄に隠したとされ、証拠隠滅の疑いがかけられた。同ハードディスクは血だらけの状態で同運転手の鞄の中に入っていたと報じられた。


(オ)鉄道労組(Union Ferroviaria)のソブレロ代表は,ベニテス運転手がハードディスクを盗んだという説を全面的に否定し、ランダッソ内務・運輸大臣の辞任を求めた。当地報道によると、労組側は、事故を起こした電車は中古車両であり、ブレーキに問題があったと指摘している。

 

(5)ヒオハ・サンフアン州知事等を乗せたヘリコプターの墜落事故


(ア)11日午後15時半過ぎ、ヒオハ・サンフアン州知事等5名を乗せたヘリコプターが州内で墜落し、同乗していたフェラ・デ・バルトル連邦下院議員(女性)が死亡、州知事秘書(男性)が重傷となる事故が発生した。ヒオハ知事は墜落により骨折した他、胸部を強打したものの、意識は有り、命に別状はなく、州都のラウソン病院に搬送された(注:11月15日現在、ヒオハ州知事はいまだ入院中だが、順調に回復に向かっているとの報道がある)。


(イ)サンフアン州当局の発表によると、問題のヘリコプターは、同州のバジェ・フェルティル市(注:同市でヒオハ州知事等は公共事業の完成式典に出席)から州都のサンフアン市に向かっていた途中で墜落した。ヘリコプターは離陸しようとしていたところを突風に煽られ、バランスを失い、プロペラが電線にからまって民家裏の空き地に墜落したと報じられた。


(ウ)ヒオハ州知事は与党PJ「勝利のための戦線」に所属しており、フェルナンデス大統領に対する忠誠心の強い人物として知られている。亡くなったフェラ・デ・バルトル連邦下院議員(与党PJ「勝利のための戦線」)は、27日投開票の国会議員選挙にサンフアン州選挙区から出馬していた。

 

(6)ボンファッティ・サンタフェ州知事宅に対する銃弾乱射事件


(ア)11日22時頃、サンタフェ州ロサリオ市にあるボンファッティ州知事(社会党)宅前に4人の覆面男が2台のバイクで接近し、合計14発の9ミリ口径の銃弾を同宅に乱射する事件が発生した。当時、家の中にはボンファッティ州知事夫妻及び家政婦1名がいたが、人的被害は出なかった。


(イ)当地報道によると、サンタフェ州当局の調べでは、犯人はロサリオ市内で活動している麻薬密売組織のメンバーと見られており、同州司法当局が麻薬密売組織の解体に乗り出していることに対する脅し目的の犯行との見方が有力との報道がなされた(注:11月9日の当地報道によると、4名の容疑者が逮捕された)。

 

 

3 外交

 

(1)ウルグアイ


2日,ムヒカ・ウルグアイ大統領は,UPM社(旧ボトニア社)製紙工場の生産を一時的に拡大する旨正式に発表した。また,ウルグアイ政府は,同社に対し,排水の温度を30度以下に保つために冷却塔を設置するよう要請した。同日,ティメルマン外務大臣は,同決定は亜・ウルグアイ二国間条約及びハーグ国際司法裁判所の判決に違反するものであると批判し,本件を現在亜が抱えるハゲタカ・ファンドとの問題と比較し,亜は「環境主権」に悪影響を与える多国籍企業を前に,引き下がることはない旨述べた。また,ティメルマン外務大臣は,同製紙工場によるウルグアイ河の汚染の証拠を提示した。
9日,ティメルマン外務大臣は,大統領府で実施された記者会見にて,ウリバリ・エントレリオス州知事と共に,同製紙工場のウルグアイ河汚染に関する報告書を提出し,亜は,ウルグアイ側の一方的な決定を拒絶する旨発表した。他方,亜は本件を直ちにハーグ国際司法裁判所に告訴することはせず,数日間ウルグアイ政府からの返答を待つ旨述べた。
右に対し,11日,ムヒカ・ウルグアイ大統領は,同製紙工場による汚染及びその危険性は存在しないと述べ,ウルグアイ側が一方的に工場の生産量増加を決定することも国際条約に違反していないとの立場を表明した。右反応を受け,15日,亜外務省は在亜ウルグアイ大使館に,ウルグアイ側が本件に関し交渉する姿勢を見せないのであれば,亜は国際司法裁判所に本件を持ち込む手続きをせねばならない旨警告するティメルマン外務大臣発アルマグロ・ウルグアイ外務大臣宛の書簡を送付した。

 

(2)イラン


1994年の亜イスラエル共済組合(AMIA)会館爆破事件解決に向けた亜・イラン二国間覚書に対し、AMIA及び在亜イスラエル協会(DAIA)がその違憲性を巡って提訴した件に関し,カニコバ連邦判事(刑事部)とビオティ連邦判事(行政訴訟部)の両者が,本件は自らの部署の管轄ではないと主張していたが,15日,最高裁判所は,カニコバ連邦判事が本件を担当する旨確認した。

 

(3)ブラジル


(ア)ブドゥー副大統領の伯訪問
3日〜4日にかけ,ブドゥー副大統領がブラジルを訪問し,3日,サンパウロにて,マンテンガ伯福祉大臣と約45分間に亘る会合を実施したが,友好的な雰囲気の中で,二国間案件について協議したとのコメントのみで,共同声明等は発出されなかった。4日,ブラジリアにて,上院議会のカリェイロス議長と会合し,同議長は,スパイ行為を防止する為のインターネット規定プロジェクトに関する亜との協議実施に対する関心を再表明した。なお,フェルナンデス大統領の病気療養を受けて,同副大統領は伯訪問を途中で切り上げて帰国した。


(イ) ルーラ前伯大統領訪亜
16日,ルーラ前大統領が亜を訪問し,企業の社会的責任に関する第1回国際会議に出席,ブエノスアイレス大学より,名誉博士号を授与された。なお,オリーボスの大統領公邸で休養中のフェルナンデス大統領との面会は行われなかった。

 

(4)セントビンセント及びグレナディーン諸島


7日〜8日にかけて,フェルナンデス大統領の招待を受けたゴンサルベス・セントビンセント及びグレナディーン諸島首相が亜を訪問し,ブドゥー副大統領(静養中のフェルナンデス大統領の代理)(7日),ティメルマン外務大臣(8日),プリチェリ治安大臣(7日)等と会合し,二国間関係について協議した他, フォークランド(マルビナス)諸島,南ジョージア・南サンドイッチ諸島での亜の合法的権利に対する同国からの支持への感謝の印として,亜政府より解放者サンマルティン将軍大十字勲章が授与された。

 

(5)アラブ首長国連邦


28日,アール・マクトゥーム・アラブ首長国連邦財務大臣が亜を訪問し,ティメルマン外務大臣と両国の経済・貿易関係に関し協議した。同会合にて両国は,原子力協力,二国間貿易及び投資の拡大等の促進,及び各分野での二国間協力プロジェクトを分析・延長する目的で,経済合同委員会の設置に関し合意した。また,アール・マクトゥーム・アラブ首長国連邦財務大臣は,食品を多く輸出している同国は,亜の生産,食品加工分野での投資拡大に関心がある旨表明した。同滞在中には,静養中のフェルナンデス大統領に代わり,ブドゥー副大統領との会合も実施された(ロレンシーノ経済・財政大臣及びメイヤー観光大臣同席)。

 

(6)ボリビア


15日, モラレス・ボリビア大統領が亜を訪問し,ラプラタ大学ジャーナリズム学部の南米研究・コミュニケーション学科の名誉博士号を授与され,マスコミによる被害者にならぬよう、報道においては情報源を確認する必要性がある旨強調する演説を行った(同式典には,アバル・メディーナ官房長官,アラク司法・人権大臣,シレオニ教育大臣等列席)。なお,オリーボスの公邸で静養中のフェルナンデス大統領との面会は行われなかった。

 

(7)中国


30日〜11月3日にかけて,中国海軍の軍艦隊が亜を親善訪問した。それに合わせてLi Xiaoyan中国海軍少将が亜を訪問し,31日、ロッシ国防大臣と昼食を取った。中国新華社通信によると,今次中国艦隊の訪問の目的は,相互理解促進,友好関係及び協力関係の強化であった。

 

(8)ロシア


9月19日に,北極のロシア領の自然保護区におけるロシアの油田開発プロジェクトを妨害したとして、グリンピースの活動家30名(内、亜国籍保有者2名)が逮捕された件に対し,9日,上院議会は,満場一致で,本件に対し懸念を示すと同時に,逮捕された活動家の早期解放を要請する声明を発出した(注:当地報道によると、グリンピースが保釈金を支払ったことにより、11月21〜22日に上記の亜国籍保有者2名の刑務所からの釈放が決定した。同2名に関しては、今後ロシアで裁判が実施される予定)。

 

(9)イベロアメリカ・サミット


18日〜19日にかけ,ティメルマン外務大臣及びドミンゲス下院議長は,イベロアメリカ・サミット出席の為,パナマを訪問した(当初、同サミットには,ブドゥー副大統領の出席が予定されていたが,直前にドミンゲス下院議長が出席することとなった)。
同サミットにおいて,ティメルマン外務大臣は,米国によるキューバへの経済封鎖に対する亜政府の強い非難及び,コロンビアのみでなく地域全体での平和構築に貢献するコロンビア政府とFARC間の対話への支持を表明した。また,英国との間でのフォークランド(マルビナス)諸島領有権問題に関し,同地域に属する国々からの伝統的な支持に感謝の意を表し,亜が英国と早急に対話を再開する必要性を表明した。
ドミンゲス下院議長は,ラテンアメリカの更なる自立に対し喜びを表明すると同時に,最近の国家間の経済関係の変化に対応するための改革を考慮し,イベロアメリカの意味を再定義する必要があると述べた。

 

(10)要人往来


(ア)往訪
●2日〜3日:ロレンシーノ経済・財政大臣米国訪問
●3日〜4日:ブドゥー副大統領ブラジル訪問
●8日〜13日:ロレンシーノ経済・財政大臣米国訪問(国際通貨基金(IMF)及び世界銀行年次総会出席)
●15日〜19日:パグリエリ国際通商長官率いる商業ミッションがアルメニア及びグルジア訪問
●13日〜17日:サバテラ金融情報機構(UIF)長官仏訪問(マネーロンダリングに関する金融活動作業部会(FATF)出席)
●18日〜19日:ティメルマン外務大臣及びドミンゲス下院議長のパナマ訪問(第23回イベロアメリカ・サミット出席)
●23日:アラク司法・人権大臣米国訪問
●30日:ティメルマン外務大臣ベネズエラ訪問(メルコスール外相会合出席)


(イ)来訪
(以下の日程で下記要人が当地で会談等を実施したとの情報あり)
●7日〜8日:ゴンサルベス・セントビンセント及びグレナディーン諸島首相
●15日:モラレス・ボリビア大統領
●15日:ルーラ前伯大統領
●22日:バンクール「基地難民」グループリーダー
●28日:アール・マクトゥーム・アラブ首長国連邦財務大臣
●30日:アファラ・パラグアイ副大統領
●30日〜11月3日:Li Xiaoyan中国海軍少将