アルゼンチン政治情勢(月1回更新)

令和7年1月27日

アルゼンチン政治情勢(2024年12月)

1 内政

(1)ミレイ政権

●ミレイ大統領の政権発足一周年演説(10日)
ア 10日、ミレイ大統領は、政権発足から一周年を迎えるにあたり演説した。
イ 右演説では、経済・財政・規制改革・治安・社会政策での実績を強調した。
ウ また、メルコスールに関し、米国とのFTA締結を2025年に進める点や、アルゼンチンにおける人工知能(AI)産業の将来性を強調し、右産業で需要増が見込まれる原子力に関し、新しい計画を発表予定である旨述べた。
エ また、2025年の中間選挙に向けては、票集めを目的とした財政・金融政策は行わず、構造調整を継続し、税金の引き下げを行う旨述べた。

●国家原子力計画の発表(20日)
ア 20日、ミレイ大統領は、アルゼンチン国家原子力計画を発表した。
イ 今次発表に際し、同大統領は、アルゼンチン南部はエネルギー資源に恵まれ、寒冷な気候から人工知能(AI)サーバーの設置にも適している点を強調した。
ウ アルゼンチンは、本計画で原子力の平和利用に関し世界的リーダーとなり、AIのハブになるという目標に邁進するとしている。

●閣僚人事
ア 9日、ミスライ税務・税関庁(ARCA)長官の辞任が発表され、右後任に、パソ外務副大臣(国際経済関係担当、前経済省調整担当長官)が就任した。
イ 9日、キルノ経済副大臣(財務担当)が、外務副大臣(国際経済関係担当)を(一時的に)兼任する旨発表された。18日、右外務副大臣ポストに、クレクレル駐サンパウロ総領事が就任する旨報じられた。

●世論調査企業の入札(17日)
17日、大統領府は、政府が指定する特定の項目に関し世論調査を行う調査会社17社を発表した。政府指定の項目には、電話調査の他、対面調査等が含まれ、半年間の契約でそれぞれの企業が指定の項目につき調査を行う。

●政府報告による貧困率の発表(19日)
19日、政府は、2024年第3四半期の貧困率が38.9%である旨発表した。これは、国家社会政策調整評議会(CNCPS)が人的資本省の分析を基に算出したもので、国家統計局(INDEC)が発表した所得分配報告書に基づく。

(2)議会

●メネム下院議長の再選(4日)
4日、下院議長選挙が行われ、メネム下院議長が再選された。

●クエイデル上院議員の汚職事件(5日)
ア 5日、クエイデル上院議員(ペロン党、エントレリオス州選出)が、パラグアイ入国時に未申告の多額のドルを所持していたため、同議員秘書と共に逮捕された。
イ 10日、同議員の逮捕を受け、野党連合「祖国のための同盟(UP)」の発案により(当館注:議会審議で政権寄りの議決を行う同議員が解任されれば、キルチネル派内急進派閥「ラ・カンポラ」のコーラ氏が後任となり、UPに有利になる)、同議員の解任に関する上院審議が行われ、賛成60票、反対6票、棄権1票、欠席3名で同議員の解任が決定した。
ウ 他方、審議後、議決時にミレイ大統領が訪伊のため渡航していたことにより、ビジャルエル副大統領に大統領権限が委譲されていたとして、右議決のための上院会期の有効性が疑問視された。クエイデル議員は、右行政上の不備を理由に、右議決の無効を要請した(2025年1月現在、同議員は解任されていない)。

(2)野党動向

●ペロン党の動き
ア 11日、クリスティーナ・フェルナンデス(CFK)前副大統領は、正式にペロン党党首に就任した。
イ 9日、ブエノスアイレス州で、CFK前副大統領、キシロフ同州知事、マサ前経済相が会談を行った。本会合には、マクシモ・キルチネル下院議員が同席した。

●地方選挙実施日程に係る動き
ア 10日、プジャロ・サンタフェ州知事は、同州の2025年州議会選挙等の投票日に関し、PASOを4月13日に、本選挙を6月29日に行う旨発表した。
イ 18日、スデロ・チャコ州知事は、同州の2025年州議会選挙の投票日を5月11日とし、予備選挙(PASO)は実施しないことを発表した。
ウ 27日、マクリ・ブエノスアイレス市長は、同市の2025年市議会選挙の投票日を、国政選挙とは別日程の7月6日に実施する旨発表した。

(3)その他

●ブルリッチ治安相に対する脅迫動画の公開(1日)
ア 1日、麻薬関連組織によるものと思われるブルリッチ治安相及びプジャロ・サンタフェ州知事宛の脅迫動画がSNS上で拡散された。
イ 同日、大統領府は、右動画の内容に抗議する声明を発出した。
ウ 5日、サンタフェ州ロサリオ市近郊の都市で、右動画で脅迫行為を行ったと見られる4人の容疑者が、アルゼンチン国境警備隊により逮捕された。

●CGT書記長の任命(9日)
9日、11月22日に辞任したパブロ・モジャーノ労働総同盟(CGT)書記長(トラック労組会長)に代わり、同氏の父親であるウゴ・モジャーノ元CGT書記長が指名したアルグエージョ・トラック労組幹部が同書記長に就任した。

●国家原子力委員会(CNEA)に対するサイバー攻撃
10日、国家原子力委員会(CNEA)は、11月27日に外部からのサイバー攻撃を受けた旨発表した。他方、同委員会は、調査の結果、いずれの原子力関連施設もその安全性を損なわれておらず、機密情報の流出等もなかった旨述べた。
 

2 外交

(1)首脳級

●ブエノスアイレス市での保守政治活動協議会(CPAC)開催(4日)
ア 4日、ブエノスアイレス市内で保守政治活動協議会(CPAC)が開催され、ララ・トランプ米共和党全国委員会副委員長(トランプ次期米大統領の義娘)、ブルリッチ治安相、カプート経済相等が講演した。
イ この他、本会合では、ボルソナーロ前ブラジル大統領、マチャード・ベネズエラ野党「ベンテ・ベネズエラ」党首等のビデオメッセージが公開された。
ウ ミレイ大統領は、本会合の最終登壇者として演説し、左派的な既存のアルゼンチン政治体制を批判し、自身の政権の成果を強調した他、自由の思想を広め、社会主義に対抗するための連携を各国に呼びかけた。

●ミレイ大統領のイタリア訪問(13~15日)
ア 13日、ミレイ大統領は、訪問先のローマで、メローニ伊首相と会談した。
イ 14日、ミレイ大統領は、メローニ首相の与党「イタリアの同胞」(FDI)青年部門(Atreju)のイベントで演説し、二国間の歴史的な関係に言及した他、直前(10日)に一周年を迎えた自身の政権運営の実績を強調した。
ウ 今次訪問で、ミレイ大統領は、多国籍企業や大手自動車メーカーの幹部とそれぞれ会談した他、伊リベラル系非営利団体及び現地メディア「イル・テンポ」紙からミルトン・フリードマン国際賞を授与された。

●イスラエルとの外交関係樹立75周年記念式典への大統領書簡送付(16日)
 16日、ミレイ大統領は、エルサレムで開催されたイスラエル・アルゼンチン外交関係樹立75周年記念式典に際し書簡を送付した。右書簡で、ミレイ大統領は、二国間関係の基盤は自由と民主主義の価値観である点を強調し、2023年10月7日のテロ攻撃を非難し、アルゼンチン人を含む人質の解放を要請した。

(2)閣僚級

●ペトリ国防相のイスラエル訪問(11月27日~12月3日)
ア 11月28日及び12月2日、ペトリ国防相は、カッツ国防相と会談した。2日の会合で、双方は、防衛協力拡大に関し合意し、サイバー防衛や衛星通信、防衛装備等に関する将来的な政府間契約、投資誘致等について協議した。なお、報道によれば、ペトリ国防相は、今回の訪問中、カッツ国防相と3度会談した由。
イ 12月3日、ペトリ国防相は、2023年10月7日のテロ攻撃の対象地の一つとなったキブツ・ニール・オズを視察し、右テロ攻撃により亡くなったアルゼンチン人犠牲者の家族等と面会した。

(3)メルコスール情勢

●メルコスール首脳会合におけるミレイ大統領の演説(6日)
ア 6日、ミレイ大統領は、ウルグアイで開催されたメルコスール首脳会合で、メルコスールの現状(特に域外共通関税)を批判し、右改革を訴えるとともに、自由貿易促進の重要性を強調する演説を行った。また、今回の首脳会合で、欧州連合(EU)との地域間協定が妥結された。
イ また、ミレイ大統領は、アルゼンチンのメルコスール議長国(任期:2025年前半)就任に際しても演説し、議長国任期中は、過剰な規制や対外共通関税等を対象にメルコスールの改革に取り組む旨述べ、柔軟で自律的な貿易体制を探求する意向を明らかにした。

(4)アルゼンチン・ベネズエラ関係

●ベネズエラ当局によるアルゼンチン国境警備隊員の拘束(8日)
ア 8日、私的な訪問のためベネズエラ領内に入ったガジョ・アルゼンチン国境警備隊員は、スパイ容疑でベネズエラの治安当局に身柄を拘束された。
イ 13日、アルゼンチン外務省及び治安省は、ベネズエラ政府のこのような対応を非難し、同隊員の即時解放を要請する声明を発出した。

●ウェルテイン外相の亡命希望者に関するOAS会合での発言(11日)
 11日、ウェルテイン外相は、米州機構(OAS)常任理事会特別会合に出席し、ベネズエラ政府に対し、在ベネズエラ・アルゼンチン大使館の庇護下にある6名の亡命希望者の身体の安全の確保を要請した。

●在ベネズエラ大使館の現地職員の不当な拘束を非難する外務省声明(13日)
ア 13日、アルゼンチン外務省は、ベネズエラ政府による在ベネズエラ・アルゼンチン大使館の現地職員の不当な拘束を強く非難し、同職員の即時釈放と同大使館にいる亡命希望者の安全な身柄引き渡しを要求する声明を発出した。
イ 右声明は、国連事務総長に対し行動を促すとともに、国際社会に対し、可能な限り右声明の要求に参加するよう呼びかけている。

●在ベネズエラ・アルゼンチン大使館庇護下の亡命希望者1名の出頭(20日)
19日、ベネズエラ検察庁は、在ベネズエラ・アルゼンチン大使館の庇護下にある亡命希望者6名のうち、マルティネス・モトラ元ベネズエラ交通・通信相が、自発的に出頭した旨発表した。

(5)マルチ外交

●アルゼンチンの女性に対する暴力を予防する国連決議の投票修正(19日)
19日、アルゼンチンは、11月に参加国で唯一反対票を投じた、(デジタル空間での)女性への暴力を予防するための国連決議の投票を修正し、内容面では「全ての段落に賛同しない」としつつ、表題(título)に関し賛成票を投じた。

(6)対中動向

●中国との二重課税防止協定の発効(19日)
19日、中国・アルゼンチン間の二重課税防止協定が発効した。

●連邦議会亜中友好議連議員の中国訪問(20日)
ア 20日、サンティジャン下院議員(与党「自由の前進」)を会長とする亜中友好議連所属議員8名は、中国全人代の招待により、北京及び上海を訪問した。
イ 北京では、Peng Qinghua全人代常務委員会副委員長、Bayin Chaolu中亜友好議連会長等と会談し、自由貿易に関し協議した他、商業、金融、文化、スポーツ及び教育分野での協力深化を進める意向を確認した。
ウ また、中国側は、フォークランド(マルビーナス)諸島の主権を巡る問題に関し、アルゼンチン側の主張を支持する旨再確認し、アルゼンチン側は、「一つの中国」原則を支持する旨確認した。

(7)その他

●マルビーナス訪問の実現(4日)
 4日、1982年のフォークランド(マルビーナス)紛争のアルゼンチン兵士の親族等が、フォークランド(マルビーナス)諸島のダーウィン墓地を訪問した。

●Fー16戦闘機の運用に係る米国との提案書の署名(6日)
 6日、ペトリ国防相は、スタンリー当地米国大使と、アルゼンチン空軍が、Fー16戦闘機の運用での協力に加え、技術導入や兵站支援、パイロット向け訓練の提供等を可能にする最初の提案書に署名した。

●米アルゼンチンFTAに関するトランプ次期政権関係者の発言(18日)
18日、トランプ次期米政権の報道官は、トランプ次期米大統領が、資本主義と自由貿易を通じ両国に利益をもたらすため、ミレイ大統領と協力する意向である旨発表した。

●カプート経済相とボリッチ・チリ大統領との軋轢(19日)
ア 17日、カプート経済相は、ラジオインタビューで、チリに関し、「今日、実質的に共産主義者によって統治されており、その共産主義者は彼ら(当館注:チリ国民を指すと思われる)を沈めようとしている」と述べた。
イ 右発言を受け、チリ大統領府は、駐チリ・アルゼンチン大使館に抗議の書簡を送付した他、バン・クラベレン・チリ外相も、右発言を「不適切で容認できるものではなく、誤解を招く」と述べた。

●PAIS税の廃止(23日)
 23日、PAIS税(為替アクセス税)が廃止された。これにより、例えば、個人的な理由の外貨購入に課されていた同税の税率30%が廃止される。

(8)要人往来

往訪:
伊:ミレイ大統領、カリーナ・ミレイ大統領府長官(13、14日:首脳会談) 
イスラエル:ペトリ国防相(11月27日~12月3日)
ブラジル:カプート経済相(2日:サンパウロ州産業連盟との会談)
ウルグアイ:ミレイ大統領、カリーナ・ミレイ大統領府長官、ウェルテイン外相、カプート経済相(6日:メルコスール首脳会合等)
米国:ウェルテイン外相(11日:OAS常任理事会特別会合)
 
来訪:
スペイン:アバスカルVOX党首(4日:CPAC登壇)
米:ララ・トランプ米共和党全国委員会副委員長(4日:CPAC登壇)

(了)

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