アルゼンチン政治情勢(月1回更新)

令和5年9月26日

アルゼンチン政治情勢(2023年8月)

1 内政

(1)大統領選挙
大統領選挙予備選挙(PASO)(13
 13日、大統領選挙予備選挙が行われた。31日に発表された最終結果では、政党別では野党「自由の前進」が29.86%、野党連合「変革のために共に」が28.00%、与党連合「祖国のための同盟」が27.28%、野党「我々の国のための行動」が3.71%、野党「左派戦線」が2.61%を獲得した。候補者単独では、ミレイ下院議員(「自由の前進」)が29.86%を獲得し、マサ経済相(「刷新戦線」)が21.43%で二番手となった。野党連合からは、ブルリッチ共和国提案(PRO)前党首が16.81%を獲得し、11.19%を獲得したラレタ・ブエノスアイレス市長を破り、野党連合の統一候補となった。

(2)地方選挙
●ブエノスアイレス市長選挙予備選挙(13日)
 13日、ブエノスアイレス市長選挙予備選挙が行われ、野党連合(注:同市においては野党連合が多数派を占めている)のマクリ同市市政大臣(PRO、マクリ前大統領のいとこ)が、28.71%の得票率で同じく野党連合から出馬していたルストー上院議員(急進市民同盟(UCR)、得票率27.21%)を僅差で破り、野党連合の統一候補となった。野党連合全体の得票率は55.92%であった。また、与党連合「祖国のための同盟」のサントロ下院議員の得票率は22.17%、野党「自由の前進」のマラ同市議会議員の得票率は12.95%であった。
●ブエノスアイレス市長選挙における電子投票システムの取りやめ(22日)
22日、ブエノスアイレス市は、13日の同市市長選挙予備選挙での電子投票システムによる集計遅延を受け、10月の大統領選挙・市長選挙本選挙(及び決選投票)では、紙の投票用紙を使用する方式で統一することを決定した。
●ブエノスアイレス州知事選挙予備選挙(13日)
 13日、ブエノスアイレス州知事選挙予備選挙が行われ、再選を目指す与党連合のキシロフ同州知事が36.41%を獲得し、最多得票候補となった。また、野党連合のグリンデッティ同州ラヌース市長(PRO)が、16.64%の得票率で、同じく野党連合のサンティリ下院議員(PRO、得票率16.32%)を破り、野党連合の統一候補となった。野党「自由の前進」から出馬したピパロ下院議員の得票率は、23.76%であった。
●カタマルカ州知事選挙予備選挙(13日)
 13日、カタマルカ州知事選挙予備選挙が行われ、与党連合のハリル同州知事が54.95%の得票率で最多得票候補となった。
●エントレリオス州知事選挙予備選挙(13日)
 13日、エントレリオス州知事選挙予備選挙が行われ、野党連合「エントレリオスのために共に」のフリヘリオ下院議員(PRO)が、得票率32.80%で統一候補となった。野党連合全体の得票率は39.91%であった。また、与党連合「エントレリオスのために更に」のバール・パラナ市長(ペロン党)が、33.08%で最多得票候補となった。
●サンタクルス州知事選挙(13日)
 13日、サンタクルス州知事選挙が行われ、地方政党のクラウディオ・ビダル下院議員(「サンタクルスのために」)が、33.16%の得票率で当選した。同党全体の得票率は46.48%であった。

(3)経済情勢
●公定レート切り下げ及び政策金利の引き上げ発表(14日)
 14日、政府は公定レートを、前週金曜日と比べて22%切り下げ、1ドル=350ペソで固定することを発表した。また、政策金利を21ポイント引き上げて名目ベースで年率118%とすることを発表した。
●非公式レートの急騰(14日~)
 14日以降、13日の大統領選挙予備選挙の結果を受けて市場に不安が広がり、予備選挙直後には非公式レートが1ドル=695ペソまで上昇し、16日には780ペソまで上昇した。また、債券価格も、選挙結果が判明した後に10%以上の下落を見せた。
●購買力回復のための経済政策の発表(27日)
27日、マサ経済相は、予備選挙後通貨切り下げを受け、給与所得者を対象とする6万ペソのボーナス支給や、年金・恩給受給者を対象とする本年11月までの3か月間の3万7000ペソのボーナス支給等を含む、購買力回復及び消費維持のための一連の経済政策を発表した。

(4)社会情勢
●ブエノスアイレス市郊外での犯罪被害の発生と選挙への影響(9日)
9日、ブエノスアイレス州ラヌース市で、登校中の児童(11歳)が強盗に携帯電話を強奪された際、腹部を強く打ち死亡する事件が発生した。同日、右事件を受け、児童の家族や関係者が学校や警察署前で抗議し、警官隊と衝突した。事件後、主犯と見られる20代2人のほか、未成年を含む計7人が逮捕された。この事件を受け、与野党連合及びミレイ候補を除く大統領選挙・州知事選挙の各候補者は、10日に予定していた予備選挙キャンペーンの閉幕式の中止を発表した(ミレイ候補は、右式典を7日に実施していた)。
●デモ隊と警官隊の衝突(10日)
10日、ブエノスアイレス市中心部のオベリスク周辺で、13日に行われる大統領選挙予備選挙に対する抗議活動を行っていたデモ隊がブエノスアイレス市警察と衝突し、参加者一名が死亡した。
●スーパーマーケット強奪被害の頻発(19日~)
19日から21日の連休中、メンドーサ、ネウケン、コルドバでスーパーマーケットでの強奪被害が多発し、ブエノスアイレス州でも、23日までに少なくとも150件の襲撃があり、94人が同様の容疑で逮捕された。本件に関し、セルッティ大統領府報道官は、治安の不安定化を図る目的でミレイ候補が関与しているとして批判したが、同候補は、「自由主義は暴力を支持するものではない」として、上記の批判に反論した。

(5)その他
●5G周波数一部帯域の入札の発表
 28日、アルゼンチン国家通信機構(ENACOM)は、5G周波数として割り当てられた帯域のうち、3つのロットを対象に入札する旨発表した。これに対し、大手通信会社3社(パーソナル、モビスター、クラロ)は、亜における5G導入には肯定的であるものの、現在の入札条件に関しては見直しを求める旨表明した。
 
2 外交

(1)要人往来(首脳級)
●フェルナンデス大統領のパラグアイ大統領就任式への出席(15日)
15日、フェルナンデス大統領はパラグアイを訪問し、首都アスンシオンで開かれたペニャ同国大統領の就任式に出席した。
●亜のBRICS正式加盟招請(第15回BRICS首脳会合)(24日)
24日、フェルナンデス大統領は、第15回BRICS首脳会合にオンラインで出席した後、全テレビ局放送を通じて、亜のBRICSへの正式加盟招請を発表した。右に対し、ブルリッチ候補は、同じく招請を受けた5カ国の中に、亜国内のテロ事件に関与したとされるイランがいることを指摘し、「野党連合が政権を取ったならば、BRICSに加盟することはない」と述べた。また、共産主義国との断交を掲げるミレイ候補も反対の姿勢を示した。こうした野党側の反応に対し、カフィエロ外相は、右を単なる選挙キャンペーン向けの主張であるとして、ある国が別の国を侵略したという理由で多国間メカニズムを脱退する国はなく、亜はできる限り多くのメカニズムに参加しようとしていると述べた。

(2)要人往来(閣僚級)
●カフィエロ外相の訪日(29日~30日)
 29日から30日、カフィエロ外相は、日本を訪問し、岸田総理を表敬したほか、林外務大臣(当時)、西村経済産業大臣、永岡文部科学大臣(当時)、及び日本企業関係者と会談した。総理表敬では、日亜外交関係樹立125周年に際し、アグロインダストリー、エネルギー、鉱業分野での貿易・投資拡大の重要性や、エネルギー・トランジションにおける水素やリチウム等の戦略的分野が強調された。なお、今次訪日に際し、28日、トデスカ外務副大臣(国際経済関係担当)は、JICA、JETRO、NECを訪問し、それぞれの幹部らと会談した。
●カフィエロ外相の訪韓(31日~9月2日)
 31日から9月2日、カフィエロ外相は、韓国を訪問し、韓悳洙(ハン・ドクス)同国国務総理を表敬したほか、朴振(パク・チン)外相等との会談、ポスコ社(亜国内でリチウム開発を実施している)訪問を実施した。韓国務総理表敬では、亜産鶏肉の対韓輸出が確認されたほか、様々な分野における協力拡大の必要性が強調された。朴外相等との会談では、ICT、南極協力、リチウム等の鉱業分野、宇宙、原子力の平和利用等につき韓国と協力を進める旨表明した。
●マサ経済相のパラグアイ訪問(24日)
 24日、マサ経済相はパラグアイを訪問し、ペニャ同国大統領と会談した。双方は、パラグアイーパラナ河川水路の通行料を巡る問題や、ヤシレタ二国間ダムの債務を巡る問題解決のためのプログラム創設に向けた委員会を設立することで合意した。
●マサ経済相の訪伯(28日)
28日、マサ経済相は、伯を訪問し、ルーラ伯大統領と会談した。本会談で双方は、外貨不足問題を緩和し、二国間貿易を促進するため、伯企業の自動車・食品の対亜輸出向け決済のための6億ドルの融資を保証する資金調達メカニズムを設けることで合意した。
●トデスカ外務副大臣のG20貿易投資会合出席(24日)
 24日、トデスカ外務副大臣(国際経済関係担当)は、インドのジャイプール市で開催されたG20貿易投資会合に出席した。同副大臣は、世界経済が直面する課題に対し、多国間主義の重要性を強調した。また、開発途上国のグローバルバリューチェーンへの参画は、付加価値向上、雇用創出をもたらし、中小企業の利益拡大とプレゼンス向上につながる点強調した。

(3)その他
●海上自衛隊練習艦隊のブエノスアイレス寄港(5日~8日)
 5日から8日、海上自衛隊練習艦隊「かしま」及び「はたかぜ」がブエノスアイレスに寄港し、入港歓迎行事や艦上昼食会、練習艦隊・在亜日本大使館共催の艦上レセプションのほか、艦内公開や当地日本庭園での武道展示、楽器演奏等の文化行事を実施した。また、練習艦隊の今野司令官は、タイアナ国防相ほか、亜海軍幹部、亜水上警察幹部らを表敬訪問した。
●ティエラ・デル・フエゴ州における英国製レーダーの運用中止(1日)
1日、政府は、ティエラ・デル・フエゴ州における、英国企業のLeoLabs社製レーダーの運用停止を決定した。亜国防省の発表によれば、今回の決定は、同レーダーが、衛星監視や航空機検出の機能を備えており、軍事地政学的な安全性や、マルビーナス諸島(ママ)の領土主権に関する問題を巡る英国との関係に対する懸念に基づいてなされた。

(4)要人往来一覧
ア 往訪
 ブラジル:マサ経済相、トデスカ外務副大臣(国際経済関係担当)(メルコスール共同市場グループ調整官非公式会合) 
 パラグアイ:フェルナンデス大統領、カフィエロ外相、マサ経済相
 コロンビア:テタマンティ筆頭外務副大臣(第6回亜コロンビア政策協議)
 インド:トデスカ外務副大臣(国際経済関係担当)(G20貿易投資会合)
 日本:カフィエロ外相、トデスカ外務副大臣(国際経済関係担当)
 韓国:カフィエロ外相、トデスカ外務副大臣(国際経済関係担当)
 
イ 来訪
 サウジアラビア:ファーレハ投資大臣
 

(了)

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