アルゼンチン政治情勢(2015年7月)
2015年8月作成
在アルゼンチン日本大使館
概要
(1)内政:
(ア)5日,ブエノスアイレス市において市長選本選挙が行われ,ロドリゲス・ラレタ候補(共和国提案)が最多票を得たものの,本選挙での勝利要件である過半数の得票率には至らなかった。19日,決選投票が行われた結果,ロドリゲス・ラレタ候補が当選した。
(イ)7日,政府は,大統領府情報庁に代わって「連邦情報局」を創設し,初代局長として旧大統領府情報庁の長官を務めていたオスカル・パリーリ氏を任命した。
(2)外交:
(ア)15日,2014年5月に主要債権国会合であるパリクラブにおいて到達した結論に基づき,日本とアルゼンチンの間で債務返済の署名が行われた。
(イ)15日,モラレス・ボリビア大統領がアルゼンチンを訪問し,フェルナンデス大統領と会談を行い,エネルギー等に関する11件の合意文書への署名を行った。
(ウ)17日,フェルナンデス大統領は,第48回メルコスール首脳会合に出席した他,ルセーフ伯大統領との間で2時間半に及ぶ首脳会談を実施した。
内政
(1)大統領・政府
(ア)連邦情報局の創設
7日,政府は,大統領府情報庁に代わって「連邦情報局(AFI:Agencia Federal de Inteligencia)」を創設し,初代局長として旧大統領府情報庁の長官を務めていたオスカル・パリーリ氏を任命した。
(イ)フェルナンデス大統領の独立記念演説
9日,フェルナンデス大統領は,トゥクマン州にて,独立199周年記念の式典に出席した。演説内で,社会包摂プロジェクトの重要性を強調する一方で,1990年代のネオリベラリズム政策に回帰させようという試みが国内にあると批判した。
(ウ)ティメルマン外務大臣の肝腫瘍摘出手術
14日,肝腫瘍により複数の公務を欠席していたティメルマン外務大臣は腫瘍の摘出手術を行い,無事成功した。
(エ)サンタ・クルス州-ティエラ・デル・フエゴ州間の海上交通網整備計画の発表
23日,キシロフ経済・財政大臣は,最大10億ペソの国債を発行し,サンタ・クルス州とティエラ・デル・フエゴ州を結ぶ海上交通網の整備のための信託基金(予算年度をまたぐプロジェクトのための基金)の制定を発表し,28日,その政令が公布された。
(オ)フェルナンデス大統領の咽喉頭炎発症
27日,大統領府医師団は,フェルナンデス大統領が,2014年7月及び10月にも発症した急性の咽喉頭炎(laringitis)を再度発症したところ,適切な治療と経過観察のために,静養を要する旨発表した。31日,同大統領は,公務に復帰した。
(2)連邦議会
(ア)社会給付の物価スライド式調整法案の可決
15日,「公共予算制度における給付可変法(Movilidad de las Prestaciones del Régimen Previsional Público)」が可決された。新法は,子供手当,家族手当,障害者手当といった社会給付の支給月額を物価に合わせてスライド式に調整するもので,2016年3月より新法に合わせ額が更新される。
(イ)アルゼンチン航空保安公社の設立法の可決
15日,最低限の航空サービスを保障するため,関連業務を担当する「アルゼンチン航空保安公社(EANA:Empresa Argentina de Navegación Aérea S.E.)」を設立する法案が可決され,29日に公布された。同法により,航空機の整備状況や気象情報等の管理を同社が一括して行うこととなった。
(3)司法・検察
(ア)アルゼンチン法曹協会によるデモ
7日,アルゼンチン法曹協会(Asociación de Magistrados)が中心となって,ブエノスアイレス市の最高裁判所前の広場にて,司法の独立を求めるデモが行われた。(参加人数は報道により差があるが,5,000~10,000名とされている。)
(イ)フェルナンデス大統領所有会社への捜査担当判事の交替
16日,フェルナンデス大統領の関与する司法案件である「Hotesur」事案を担当するボナディオ連邦判事に対し,連邦裁判所は,一連の捜査において職権乱用や不適切な対応があったとして,担当判事から外し,抽選により,ラフェカス連邦判事を担当判事に指名した。
(4)労働組合
(ア)最低賃金の増額
21日,トマーダ労働大臣は,フェルナンデス大統領とともに,最低月例賃金を4,716ペソから28.5%増の6,060ペソに引き上げる方針を発表した。同増額は,8月に18.5%,2016年1月に10%と2段階に分けて行われる予定。
(イ)市バス運転手による抗議活動
28日,6月後半より従業員の解雇に対する抗議を行ってきたブエノスアイレス市バス60番の運転手の組合員(地下鉄・バス労組)は,パンアメリカン高速道路の封鎖を試みた際,国境警備隊と衝突し,38名の負傷者を出した。
(5)選挙
(ア)ブエノスアイレス市長選本選挙
5日,ブエノスアイレス市(有権者人口4位)において地方選本選挙が行われたところ,マクリ・ブエノスアイレス市長(反現政権派「共和国提案」)が推すロドリゲス・ラレタ候補(共和国提案)が最多票を得たが,本選挙での勝利要件である過半数の得票率に届かなかったため,同市憲法の規定により19日に得票率第2位のルストー候補(反現政権派「組織市民エネルギー(ECO)」)との間で決選投票が行われた。決選投票の結果,ロドリゲス・ラレタ候補が当選した。
(イ)コルドバ州地方選本選挙
5日,コルドバ州(有権者人口2位)において地方選本選挙が行われたところ,知事選では,デ・ラ・ソタ現州知事が推すスキアレティ候補(反現政権派「コルドバ連合」)が当選した。
(ウ)ラ・リオハ州地方選本選挙
5日,ラ・リオハ州において地方選本選挙が行われたところ,知事選では,カサス候補(勝利のための戦線)が当選した。
(エ)ラ・パンパ州地方選予備選挙
5日,ラ・パンパ州において地方選予備選挙(有権者が党派内の複数の候補者を1人に絞る目的で行われる)が行われたところ,知事選では,ベルナ候補(反現政権派「ラ・パンパ・ペロン党」)及びトロバ候補(「ラ・パンパ市民社会戦線」:急進党・共和国提案等が支持)等が,10月25日実施予定の本選挙に進出することとなった。
(6)その他
(ア)貧困率データの公表
15日付「クラリン」紙は,アルゼンチン・カトリック大学の社会調査結果につき報じ,高インフレ率及び雇用の喪失により,貧困率が2013年には27.5%から,2014年には28.7%に増加し,極貧困率は5.4%から6.4%に上昇したとした。
(イ)農牧団体による対政府抗議活動
17日,農牧協会(SRA)等が中心となり,政府による輸出課徴金等に対する抗議を目的に,主にエントレ・リオス州,コルドバ州,サンタ・フェ州を含め,全国で50の集会が開かれた。
外交
(1)日本
15日,2014年5月に主要債権国会合であるパリクラブにおいて到達した結論に基づき,日本とアルゼンチンの間で債務返済の署名が行われた。
(2)キューバ
(ア)米・キューバ外交関係等再開を祝すアルゼンチン外務省声明発出
1日,アルゼンチン外務省は,7月20日より,米・キューバ外交関係及び両国大使館が再開するとの(米・キューバ)両国からの通知に対し,満足の意を表する声明を発出した。
(イ)シオリ・ブエノスアイレス州知事のキューバ訪問
21~22日,与党大統領候補のシオリ・ブエノスアイレス州知事(与党連合「勝利のための戦線」)はキューバを訪問し,22日,ラウル・カストロ・キューバ国家評議会議長と会談を行った。また,ラウル・カストロ議長は,同州知事が大統領になる際には,本年12月の大統領就任式に出席する旨約束した。
(3)ロシア
6日から12日かけて,ジョルジ産業大臣はロシアを訪問した。6日,ロシアのエネルギー企業Eriel社とRosnet社とアルゼンチンにおける非在来型エネルギー等の開発につき合意,7日,マントゥロフ露産業貿易大臣と両国間の産業協力関係を進展させる覚書に署名を行った。また,8日,同大臣は,エカテリンブルグ市で企業エキスポ「Innoprom 2015」の開幕式に出席し,包括的発展にはパートナー諸国との貿易における密な相互関係が必要であると述べた。(マントゥロフ露大臣及び汪中国国務院副総理等も同席)
(4)ギリシャ
5日,フェルナンデス大統領は,財政緊縮策を巡るギリシャでの国民投票結果を「民主主義と国の威信の完全なる勝利である」として,歓迎するメッセージをツイッター上に投稿した。
(5)米国
13日付当地主要紙は,米誌「ザ・ニューヨーカー」によって本年3月に実施されたフェルナンデス大統領のインタビューにて,米国と疎遠になる必要はなく,米国は二番目の対アルゼンチン投資国であり,貿易面でも活発な交流がある旨述べた。
(6)イラン
P5+1とイランとの間で成立した核に関する合意に関し,14日,アルゼンチン政府は,外務省声明にて,本合意について満足の意を示すとともに,「包括的な共同行動計画」で,問題の全面的解決や不拡散,国際安全保障に資するものであるとした。
(7)パラグアイ
南米外遊中のフランシスコ・ローマ法王によるパラグアイ訪問に際し,12日,フェルナンデス大統領は,アスンシオンで開かれた同法王によるミサに出席した。
(8)ボリビア
(ア)モラレス・ボリビア大統領の訪問
15日,モラレス・ボリビア大統領がアルゼンチンを訪問し,フェルナンデス大統領と会談を行い,エネルギー,保健,国境管理,金融等に関する11件の合意文書への署名を行った。16日,モラレス大統領は,デ・ビード連邦企画大臣とともに,アトーチャ原子力発電所第2号機を視察した。
(イ)フェレイラ・ボリビア国防大臣の訪問
28日,フェレイラ・ボリビア国防大臣は,ロッシ国防大臣と会談を行い,両国の防衛協力関係を再強化する共同宣言に署名した。またフェレイラ国防大臣は,ジョルジ産業大臣とも会談し,装備品や車両等の軍用品の対ボリビアへの供給につき詳細を協議した。
(9)メルコスール
17日,フェルナンデス大統領は,ブラジルのブラジリアにて開催された第48回メルコスール首脳会合に出席し,演説で,南米地域の団結の重要性等について訴えた。なお,フェルナンデス大統領は,ルセーフ伯大統領との間で2時間半に及ぶ首脳会談を実施した。
(10)イスラエル
(ア)AMIA会館爆破事件追悼式典の開催
17日,1994年の当地イスラエル共済組合(AMIA)会館の爆破事件の第21回追悼式典がブエノスアイレス市内で行われ,同事件の捜査を担当していた故ニスマン連邦検事に対する追悼も併せて行われた。当地人権団体等は,次期政権でも同捜査が継続することを期待する発言を行った。なお,政府閣僚,大統領候補者等はいずれの式典にも出席しなかった。
(イ)米・EUに対するAMIA会館爆破事件捜査に関する情報提供依頼
先般イランと米国等の間で結ばれた核開発に関する合意の中に,1994年の当地イスラエル共済組合(AMIA)会館爆破事件の容疑者として起訴され,国際指名手配もされているバヒーディ元イラン国防大臣等に対する制裁解除が規定されている可能性が浮上した。これを受けて,29日,ティメルマン外務大臣は,ケリー米国務長官及びモゲリーニEU外務・安全保障政策上級代表に対し,関連の情報提供を求める書簡を発出した。
(11)国連
28日,ビアンコ外務副大臣(国際経済関係担当)は,米ニューヨークで開催された国連の国家債務再編プロセスに関する多国間法的枠組を検討するアドホック委員会に出席した。また,アルゼンチン外務省は,「国家債務再編プロセスに関する基本原則」と称される決議が本年の国連総会で採択されるとの期待を示した。
(12)要人往来
(ア) 往訪
6月30日~7月2日 |
スアイン筆頭外務副大臣のインド訪問 |
6~12日 |
ジョルジ産業大臣のロシア訪問 |
8日 |
ブドゥー副大統領のロシア訪問 |
11~12日 |
フェルナンデス大統領のパラグアイ訪問 |
16~17日 |
フェルナンデス大統領等のブラジル訪問(第48回メルコスール首脳会合出席) |
21~22日 |
シオリ・ブエノスアイレス州知事のキューバ訪問 |
26日 |
メイエル観光大臣のフランス訪問 |
27日 |
カサミケラ農牧・漁業大臣の中国訪問 |
27~28日 |
ビアンコ外務副大臣(国際経済関係担当)の米国訪問(国家債務再編プロセスに関する多国間法的枠組を検討する国連アドホック委員会出席) |
(イ)来訪
15~16日 |
モラレス・ボリビア大統領 |
21日 |
ネト・アンゴラ漁業大臣 |
27日 |
ジョーンズ・ウェールズ首席大臣 |
28日 |
フェレイラ・ボリビア国防大臣 |
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