アルゼンチン政治情勢(2015年12月)
2016年1月作成
在アルゼンチン日本大使館
内政
(1)大統領府・政府
(ア)フェルナンデス大統領の同職最後の演説
9日,フェルナンデス大統領は,5月広場で,大統領として最後の演説を行った。同大統領は,夫のキルチネル元大統領から12年続いた政権の成果を強調しつつ,それまでの両大統領に対する民衆の支持に謝意を示す発言を行った。
(イ)マクリ大統領の就任
10日,連邦議会において,マクリ大統領は大統領就任の宣誓を行い,その後27分間の就任演説を行った。同演説では,「チーム(及び協働)」「貧困撲滅」「麻薬取引撲滅」「教育改善」「汚職との戦い」「司法の独立」「自由」「合意」「対話」等の言葉が用いられた他,アルゼンチン国民の統合が呼びかけられた。なお,フェルナンデス前大統領は,同宣誓・演説及びその後の行事も欠席した。
(2)連邦議会
(ア)上院の新議会執行部役員の選出
3日,上院で新議会執行部役員を選出する準備委員会が実施され,下記メンバーが選出された。(姓に下線)
・議長: ガブリエラ・ミケティ(副大統領)(共和国提案)
・議長代理: フェデリコ・ピネド(共和国提案)
・第1副議長: ヘラルド・サモラ(急進党)
・第2副議長: フアン・カルロス・マリノ(市民連合)
・第3副議長: カルロス・レウテマン(共和国提案)
(イ)下院の新議会執行部役員の選出
4日,下院で新議会執行部役員を選出する準備委員会が実施され,下記メンバーが選出された。(姓に下線)
・議長: エミリオ・モンソー(共和国提案)
・第1副議長: ホセ・ルイス・ヒオハ(勝利のための戦線)
・第2副議長: パトリシア・ヒメネス(急進党)
・第3副議長: フェリペ・ソラー(刷新戦線)
(3)司法・検察
(ア)フェルナンデス大統領の権限終了とマクリ次期大統領の権限開始に関する司法判決
9日,連邦裁判所はフェルナンデス大統領の権限が9日をもって終了する旨の判決を下した。その結果,マクリ次期大統領及びミケティ次期副大統領がそれぞれ就任の宣誓を行うまでの間は,副大統領に次いで大統領継承順位第2位の地位にあるピネド上院議長代理が大統領職を担うこととなった。
(イ)地方交付金支払いに関する大統領令への一時停止措置
11月24日,2001年に公布された国税の地方交付金を15%減額するという大統領令に対し違憲判決が出された。これに対し,11月30日にフェルナンデス大統領(当時)は関係州に約981億ペソの支払いを約束したが,12月9日,連邦裁判所行政訴訟予審部は,支払いの一時停止措置を命じる判決を下した。
(ウ)最高裁判事の任命
15日,マクリ大統領は,憲法上の規定に基づき,空席となっていた2つの最高裁判事ポストに,カルロス・フェルナンド・ロセンクランツ氏及びオラシオ・ダニエル・ロサティ氏の2名を暫定的に任命する旨の大統領令を公布した。同任命は,議会の承認無しに行われたため,司法府内では違憲とする見解も出された。
(4)労働組合
(ア)年末ボーナスの所得税課税対象額の引き上げ
18日,政府は,急な通貨切り下げに伴う実質賃金の目減り分を補填する目的の年末ボーナス支給及び所得税撤廃等を労組が要求していたことに対し,被雇用者に対する12月の年末ボーナスの所得税課税対象者を,所得税の税引前の月収が1万5千ペソ以上の者としていたところ,その額を引き上げ3万ペソ以上の者のみとする旨官報にて公表した。
(イ)鶏精肉企業経営悪化に伴う賃金無払いに対する抗議の道路封鎖
17~22日,鶏精肉企業「クレスタ・ロハ」社の経営悪化に伴う賃金未払い等が続いたことに対する抗議として,ブエノスアイレス市とエセイサ国際空港を結ぶ高速道路上で道路封鎖が行われ,国境警備隊による鎮圧により複数の負傷者が出た。22日,裁判所は同社に対する破産宣告を通達するとともに,トゥリアカ労働大臣は6000ペソを被雇用者に支払う等の対処を示し,道路封鎖は解除された。
(5)その他
(ア)アルゼンチン北部でのバス転落事故
14日早朝,治安省の国境警備隊を乗せたバスが,サンティアゴ・デル・エステロ州からフフイ州に向かう途中,サルタ州リオ・バルボア市における橋にさしかかったところで,コントロールを急遽失い,橋の下に転落し,40名以上の死者と多くの負傷者が出た。これに対し,同日,マクリ大統領は,24時間国家として喪に服すとの大統領令を発した。
(イ)フェルナンデス前政権派の者によるデモ
17日,約2万人のフェルナンデス前政権派の者による抗議デモが連邦議会前で行われ,2名の最高裁判事の大統領令による任命,外貨取引規制の撤廃による実質的なペソ価の切り下げ等に対する抗議がなされた。
(ウ)アルゼンチン等4ヵ国にまたがる洪水・浸水被害
12月下旬,アルゼンチン,パラグアイ,ウルグアイ,ブラジルの4ヵ国にまたがって大規模な洪水・浸水被害が発生し,アルゼンチンではパラナ川,ウルグアイ川に隣接するエントレ・リオス州,サンタ・フェ州,フォルモッサ州等を中心に,一時2万人以上が避難した。27日,被災地を訪問したマクリ大統領は,洪水・浸水対策の公共事業及び被災者への支援金を約束する旨述べた。
外交
(1)日本:鳩山特派大使のアルゼンチン御訪問
9日,大統領就任に際しアルゼンチンを訪問した鳩山邦夫特派大使(衆議院議員,日亜友好議員連盟会長)は,ミケティ次期副大統領(9日時点)と会談を行い,今後の二国間関係につき協議した。また,10日,同特派大使は,マクリ大統領による各国代表者との挨拶に際し,同大統領,ミケティ副大統領,マルコーラ外務大臣等と挨拶を交わした。
(2)大統領就任式に伴う来訪首脳及び特派大使との二国間会談
(ア)9日(大統領就任前日)
9日,マクリ次期大統領は,大統領就任式出席のためアルゼンチンを訪問したフアン・カルロス・スペイン前国王,ドムブロフスキス欧州委員会副委員長,ヴルフ元ドイツ大統領,サンペールUNASUR事務総長,吉炳軒中国全国人民代表大会常務委員会副委員長,及びパトルシェフ露安全保障会議書記と会談を行った。また,モラレス・ボリビア大統領と共にサッカーをした。
(イ)10日(大統領就任当日)
10日,マクリ大統領は,各国代表(鳩山特派大使を含む)と挨拶を交わした他,ルセーフ・ブラジル大統領,サントス・コロンビア大統領,ウマラ・ペルー大統領,カルテス・パラグアイ大統領と,それぞれ二国間会談を行った。
また,ペニャ官房長官は,フォックス米運輸長官と会談を行った。会談後,同官房長官は,投資,貧困撲滅,気候変動問題対処,麻薬取引撲滅,テロとの戦いにおいて協力し合う可能性について話し合った旨公表した。
(3)ブラジル:マクリ次期大統領のブラジル訪問
4日,マクリ次期大統領は,マルコーラ次期外務大臣とともに,ブラジルのブラジリアを訪問し,ルセーフ伯大統領と会談した。同会談につき,マルコーラ外務大臣は,同会談では大統領就任に伴う挨拶等の儀礼の他にも,ベネズエラ政府による社会の抑圧の問題等について協議されたと述べた。会談後,マクリ大統領は,サンパウロにて,同州工業連盟の約200名の企業家と昼食会を行い,ブラジルとの交易拡大等について協議した。
(4)チリ:マクリ次期大統領のチリ訪問
4日,マクリ次期大統領は,チリのサンティアゴを訪問し,バチェレ・チリ大統領と会談を行った。アルゼンチンと太平洋同盟との関係強化の他,バカ・ムエルタ・シェールガス・油田の開発の進展に伴いアルゼンチンがチリにとって長期的に信頼のあるエネルギー供給国になると述べた。
(5)ベネズエラ
(ア)国会議員選挙に対するマクリ次期大統領によるツイッター上のコメント等
8日,マクリ次期大統領(8日時点)は,6日に行われたベネズエラ国会議員選挙に関し,大きく議席数を伸ばした野党連合MUD,及びベネズエラ国民等に対して祝福するコメントを,ツイッター上に投稿した。また,反政権派勢力のレオポルト・ロペス等の政治囚問題につき,ベネズエラ現政権が速やかに釈放するよう期待する旨発言した。
(イ)マクリ政権に対するベネズエラ大統領等の発言
8日,マドゥーロ・ベネズエラ大統領は,マクリ次期大統領(8日時点)につき,「エリート・ブルジョア」であり,「(政権運営に)失敗するだろう」と述べた。また,17日,ロドリゲス・ベネズエラ外務大臣は,マルコーラ外務大臣がベネズエラ政府による政治的抑圧に懸念を示したことに対し,他国の事情に敬意を払うよう述べつつ,マクリ大統領を批判した。
(6)米国:マメット駐アルゼンチン米大使による対アルゼンチン投資活性化に関する発言
17日,マメット駐アルゼンチン米大使は,新政権につき,投資を誘致するに相応しいチームであるとし,米企業による,特に,在来・非在来型エネルギー分野への投資が促され,経済活性化につながるだろうと述べた。
(7)イラン:二国間覚書の無効確定
12日,ガラバノ司法・人権大臣は,アルゼンチン・イラン二国間覚書が違憲であるとの連邦裁判所による判決に関し,フェルナンデス前政権が行ってきた上訴を取り下げる旨,ラジオ放送にて発言した。22日,連邦刑事上告裁判所は政府による上訴の取り下げ及び違憲判決を承認し,同覚書の無効が確定した。
(当館注:アルゼンチン・イラン二国間覚書は,1994年にアルゼンチンで発生したイスラエル共済組合(AMIA)会館爆破事件の真相解明に向けた協力を行うべく,2013年1月に両国外務大臣により締結されたが,同覚書の締結そのものが政府による司法案件に対する「不当な介入」であるとの理由から,2014年5月に違憲との判決が下されていた。)
(8)イベロアメリカサミット:マルコーラ外務大臣の外務大臣会合への出席
12日,マルコーラ外務大臣は,コロンビアのカルタヘナで開催された,イベロアメリカサミット(2016年開催予定)の枠組みにおける第1回外務大臣会合に出席した。同大臣は,新政権が掲げる貧困撲滅の目的を達成するにあたり,国際社会の協力が必要であると呼びかけた。また,同外務大臣は,メキシコ,スペイン,パナマ,ボリビア,アンドラの各外務大臣及びイベロアメリカ事務総長との会談を行った。
(9)ロシア:マクリ大統領とプーチン露大統領との電話会談
16日,マクリ大統領は,プーチン露大統領と電話会談を行った。マクリ大統領は,現存の二国間関係及び多国間外交におけるロシアとの協力関係の継続を約束した。さらに,両大統領は,アルゼンチン国内のガス開発の共同プロジェクトやメルコスール・ユーラシア経済連合間での協力合意に関する交渉の継続等につき協議した。
(10)メルコスール:マクリ大統領の首脳会合出席
21日,マクリ大統領は,パラグアイのアスンシオンで開催された第49回メルコスール首脳会合に出席した。同大統領は,メルコスール・欧州連合(EU)との自由貿易協定の締結を優先的課題に据えた他,太平洋同盟の加盟国への接近の必要性を唱えた。また,ベネズエラ政府により拘束されている反政府陣営の人々を釈放するよう求めた。
(11)要人往来
(ア) 往訪
1日 |
ブドゥー副大統領のフランス訪問(気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)出席) |
4日 |
マクリ次期大統領(4日時点)のブラジル訪問 |
4日 |
マクリ次期大統領(4日時点)のチリ訪問 |
7日 |
カプト次期財務・金融副大臣(金融担当)(7日時点)の米国訪問(ニューヨークでのホールドアウト問題交渉) |
12日 |
マルコーラ外務大臣のコロンビア訪問(イベロアメリカサミット外務大臣会合出席) |
21日 |
マクリ大統領のパラグアイ訪問(第49回メルコスール首脳会合出席) |
21日 |
カプト財務・金融副大臣(金融担当)等の米国訪問(ニューヨークでのホールドアウト問題交渉) |
(イ)来訪
7日 |
アスナール元スペイン首相 |
9~12日 |
鳩山邦夫特派大使(衆議院議員,日亜友好議員連盟会長)(大統領就任式出席) |
9~10日 |
クラーク元カナダ首相(大統領就任式出席) |
9~10日 |
フォックス米運輸長官(大統領就任式出席) |
9~10日 |
ルイス=マシュー・メキシコ外務大臣(大統領就任式出席) |
10日 |
モラレス・グアテマラ外務大臣(大統領就任式出席) |
10日 |
ゲバラ・ピント・ホンジュラス大統領代行(大統領就任式出席) |
10日 |
オルティス・エルサルバドル副大統領(大統領就任式出席) |
10日 |
チャコン・コスタリカ副大統領(大統領就任式出席) |
10日 |
エンリケス・パナマ内務大臣(大統領就任式出席) |
10日 |
マルミエルカ・キューバ外国貿易・外国投資大臣(大統領就任式出席) |
10日 |
ナバロ・ガルシア・ドミニカ共和国外務大臣(大統領就任式出席) |
10日 |
サントス・コロンビア大統領(大統領就任式出席) |
10日 |
コレア・エクアドル大統領(大統領就任式出席) |
10日 |
ウマラ・ペルー大統領(大統領就任式出席) |
10日 |
ルセーフ・ブラジル大統領(大統領就任式出席) |
9~10日 |
モラレス・ボリビア大統領(大統領就任式出席) |
10日 |
カルテス・パラグアイ大統領(大統領就任式出席) |
10日 |
バチェレ・チリ大統領(大統領就任式出席) |
10日 |
バスケス・ウルグアイ大統領(大統領就任式出席) |
9~10日 |
サンペールUNASUR事務総長(大統領就任式出席) |
9~10日 |
ケアンズ英ウェールズ大臣(大統領就任式出席) |
9~10日 |
ヴルフ元独大統領(大統領就任式出席) |
9~10日 |
ベル前仏元老院議長(大統領就任式出席) |
9~10日 |
マルティナ伊農業大臣(大統領就任式出席) |
8~10日 |
フアン・カルロス前スペイン国王(大統領就任式出席) |
9~10日 |
パトルシェフ露安全保障会議書記(大統領就任式出席) |
9~10日 |
ドムブロフスキス欧州委員会副委員長(大統領就任式出席) |
9~10日 |
キム・ジェキュン韓国国会議員(大統領就任式出席) |
9~10日 |
吉炳軒 中国全国人民代表大会常務委員会副委員長(大統領就任式出席) |
18日 |
モレノ米州開発銀行(IDB)総裁 |
|