アルゼンチン政治情勢(月1回更新)
アルゼンチン政治情勢(2023年12月)
(※肩書はすべて当時)
1 内政
(1)新政権発足
●上院議長代理及び下院議長の任命(7日、13日)
7日、メネム次期下院議員(自由の前進)が下院議長に選出された。
13日、アブダラ上院議員(自由の前進)が上院議長代理に選出された。
●大統領就任式(10日)
10日、大統領就任式が行われた。ミレイ大統領は、連邦議会下院本会議場で大統領就任宣誓を行い、フェルナンデス前大統領から大統領綬と大統領杖を受領。その後、議会広場前階段に移動し、同広場に集まった聴衆に演説を行った。右演説では、独立当初のアルゼンチンのような、自由主義的モデルを追求する旨アピールし、前政権の失敗がハイパーインフレをもたらす可能性を示唆。右を回避するためには緊縮財政以外に方法がないことを強調。
●閣僚人事発表(11日)
11日、閣僚人事が発表された。また省庁再編により、従来の18省庁を9省庁に統合・削減。大臣ポストも同様に18から9に削減。
●公定レート切り下げ等経済改革政策の発表(12日)
12日、カプート経済相は、通貨切り下げ含む経済改革政策を発表。公定レート切り下げ(1ドル=365ペソ→1ドル=800ペソ)、中央政府における1年未満の雇用契約の更新停止、1年間の政府広報の停止、新規公共事業の停止、アルゼンチン共和国輸入システム(SIRA)廃止及び新制度の導入、養育手当支給額倍増等、10施策の実施が含まれた。同日、IMFは、右政策を歓迎し、アルゼンチン政府と協力していく旨発表。
●必要緊急大統領令(DNU)による政策パッケージの発表(20日)
20日、ミレイ大統領は、必要緊急大統領令(DNU)に署名し、法改正を含む政策パッケージを発表。同大統領は、右発表に係る演説で、今次政策は、財政赤字削減、国有企業民営化、複数の業界における企業の新規参入、競争促進のための規制緩和による民間部門活性化を目的とする旨説明。本政策案では、国営企業民営化に関する規制の撤廃等の変革が掲げられた。同発表は、ペロン党、左派戦線等野党、労働総同盟(CGT)の強い反発を引き起こした。同日及び翌21日の夜、ブエノスアイレス市を含む国内各地で、右法案に対する抗議活動が発生。
●特別議会招集(26日)
26日、政府は連邦議会特別議会の招集を正式に決定。26日から2024年1月31日まで開催される。国家機能改革法案(下記のオムニバス法案等が相当)、所得税法改正法案、日・アルゼンチン租税条約承認のための法案等、11の事項が審議される。
●オムニバス法案の提出(27日)
27日、政府は全183ページの大型法案である「オムニバス法案」を下院に提出。本法案は、税制や刑法等、憲法上議会の承認が必要とされる事項が多く含まれている。主な項目には、2025年末までの緊急事態の宣言、経済規制緩和、道路封鎖を伴うデモ活動の規制、国家機構の再編成、選挙制度改革等に加え、上記DNUの批准も含まれている。
(2)治安情勢
●反ピケテロ・プロトコルの発出(16日)
ア 16日、ブルリッチ治安相は、道路封鎖を伴うデモ活動を規制する治安大臣決定(通称:反ピケテロ・プロトコル)を発出。道路封鎖を伴うデモ活動の実施は認められず、武器等の携行、未成年の参加等も禁止される。右プロトコルを遵守しない者には刑事罰が適用される。政府によるデモ対処費用を、デモ主催団体及び個人に請求すること等も併せ発表。
イ 18日、ペトベージョ人的資本相は、デモ活動で道路封鎖を行う者に生活保護を支給しない旨発表。
●反ピケテロ・プロトコル発出後のデモ活動
ア 20日、左派系社会運動団体ポロ・オブレロ主導のデモ活動が行われた。当日は、ブエノスアイレス州からブエノスアイレス市に入る交通の要所で大型車両に対する検問が多く行われたことから、参加者は公共交通機関を利用してデモに参加。デモ行進は狭い範囲のみで参加者と治安部隊との大きな衝突は発生せず。
イ 27日、労働総同盟(CGT)は、同市中心部で、ミレイ大統領が20日に公布した必要緊急大統領令(DNU)に反対する抗議デモを行った。CGTは、公共の場でのデモ活動の許可を得るため、事前に1000万ペソの保証金を支払った。デモは交通への影響等なく平和裡に終了。
翌28日にはCGTの連邦中央委員会が開催され、2024年1月24日にゼネストを行うことが決定。
ウ 27日夜、議会広場前等市内の複数の地域で自発的なデモ隊の結成が起こり、道路封鎖を伴う抗議活動が展開された。
2 外交
(1)大統領就任式
●大統領就任式に際しての二国間会談
ア 9日、ミレイ次期大統領は、グランホルム米エネルギー長官と会談。本会合で、双方は、「戦略的同盟」確立等につき協議。その他、対アルゼンチン直接投資、安全保障、人権、クリーンエネルギー分野への投資等相互利益に関する分野での関係強化を確認。
イ 9日、ミレイ次期大統領は、コーエン・イスラエル外相と会談。本会合で、双方は、二国間関係の深化及び二国間貿易の拡大につき協議。同外相は、在イスラエル・アルゼンチン大使館をエルサレムに移転する意向に謝意を表した。同次期大統領は、同外相に対し、ハマスをテロ組織と宣言するよう努める旨伝達。
ウ 10日、ミレイ新大統領は、ゼレンスキー・ウクライナ大統領と首脳会談を行い、アルゼンチンのウクライナに対する支持につき協議。その他、経済、雇用創出等に向けた二国間協力を含む、今後の二国間関係についても協議した。
エ 11日、ミレイ大統領は、山東昭子特派大使の表敬を受けた。右表敬に際し、山東特派大使は、岸田総理からの祝意を伝達する親書を手交。ミレイ大統領は、価値を共有する重要なパートナーである日本との間で貿易関係を含めた二国間関係を強化していくことに意欲を示した。
オ 11日、ミレイ大統領は、Wu Weihua全国人民代表大会常務委員会副委員長と会談。中国側から、困難な経済状況に直面しているアルゼンチンに対し、習近平国家主席が支援に意欲的である旨、及び、在中国アルゼンチン大使館で高官が不在であることへの懸念が伝達された(注:21日、大使が任命された)。ミレイ大統領から、会談後、スワップ協定更新及び中国人民銀行からの送金を要請する習国家主席宛書簡が手交された。
カ その他、ミレイ次期大統領が会談した各国要人は以下のとおり。
(ア)ボルソナーロ前ブラジル大統領(8日、ブルリッチ治安相が同席)
(イ)ハチャトゥリヤン・アルメニア大統領(9日)
(ウ)ファイサル・サウジアラビア外相(9日)
(エ)フェリペ6世西国王(9日)
(オ)アバスカル西VOX党首(9日)
(カ)ペーニャ・パラグアイ大統領(9日)
(キ)オルバン・ハンガリー首相(9日)
(2)要人往来(首脳級)
●第63回メルコスール首脳会合(7日)
7日、フェルナンデス大統領は、リオデジャネイロで開催された第63回メルコスール首脳会合に出席。同大統領は、演説の中で、EU・メルコスールFTAの締結は、全ての加盟国が恩恵を享受できる場合に限り重要であると述べた。また、習近平中国国家主席のアルゼンチンへの支援に対し謝意を表し、ベネズエラのガイアナとの領土問題を批判。本会合では、ボリビアを新たな加盟国とすることが正式に決定された。また、シンガポールとのFTAが締結された。他方、ミレイ次期大統領は、本会合に関係者を派遣しなかった。
(3)要人往来(閣僚級)
●モンディーノ外相の訪仏(19~21日)
19~21日、モンディーノ外相は仏を訪問し、コロンナ仏外相と会談。同仏外相は、マクロン仏大統領及び仏政府が、IMF交渉においてアルゼンチンを支持することを強調し、ミレイ大統領を仏に招待する旨改めて言及。モンディーノ外相は、ボンヌ仏大統領府主席外交補佐官、ゲリーニ仏改革・公共部門相とも会談した他、アルゼンチンでリチウム開発を行う仏エラメット社等、複数の企業幹部とも会談。
なお、同外相は、今次訪仏に先立ち、14日、EU各国外交団代表と会談し、EU・メルコスールFTA締結は新政権の最重要課題である旨を強調。また、18日、同外相は、アルゼンチンを訪問した欧州議会議員代表団(対メルコスール関係担当)とも会談。
(4)イスラエル・パレスチナ情勢
●アルゼンチンの国連決議棄権
12日、アルゼンチンは、ガザ地区での停戦を呼びかける国連決議案の投票を棄権。右決議案は、賛成153票、反対10票、棄権23票で採択された。ミレイ大統領は選挙キャンペーン中、イスラエルの自衛権を擁護すると宣言していた。
(5)BRICS
●アルゼンチンのBRICS加盟取り下げ(29日)
29日、アルゼンチン政府は、BRICSへの加盟を正式に取り下げる旨発表し、BRICS諸国首脳宛に右伝達する書簡を送付したことを明らかにした。
(6)その他
●キューバ、ニカラグア、ベネズエラに対する外交方針の転換(19日)
19日、政府は、ベネズエラ、キューバ、ニカラグアには大使を置かず、臨時代理大使が右政府との外交を担当することを明らかにした。なお、4日、ニカラグア政府は、同国を「共産主義」国家として批判していたミレイ大統領の就任に先立ち、駐アルゼンチン・ニカラグア大使を帰任させていた。
(7)要人往来一覧
ア 往訪
ブラジル:フェルナンデス大統領(第63回メルコスール首脳会合出席)
仏:モンディーノ外相
イ 来訪
米国:グランホルム・エネルギー長官
アルジェリア:ブガリ下院議長
アルメニア:ハチャトゥリヤン大統領
英:ラトリー外務・開発省米州・カリブ担当政務次官
イスラエル:コーエン外相
伊:ベルニーニ大学・研究大臣
ウクライナ:ゼレンスキー大統領
ウルグアイ:ラカジェ・ポウ大統領
エクアドル:ノボア大統領
韓国:方基善(パン・ギソン)国務調整室長
サウジアラビア:ファイサル外相
西:フェリペ6世国王、アバスカルVOX党首
セルビア:オルリッチ国民議会議長
中国:Wu Weihua全国人民代表大会常務委員会副委員長
チリ:ボリッチ大統領
日本:山東昭子特派大使
パラグアイ:ペーニャ大統領
ハンガリー:オルバン首相
ブラジル:ヴィエイラ外相、ボルソナーロ前ブラジル大統領
ペルー:ゴンサレス-オラチェア外相
ホンジュラス:ピネダ第三副大統領
モロッコ:タールビー・エル・アラミー衆議院議長
(いずれも大統領就任式出席のため来訪)
(了)
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