政治情報
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2013年5月アルゼンチンの政治情勢(内政・外交)

2013年6月作成
在アルゼンチン大使館

 

1 概要


(1)内政:フェルナンデス大統領は,「5月革命203周年記念」及び「キルチネル派政権誕生10周年記念」の祝賀式典をブエノスアイレス市内の5月広場で行った。第2期フェルナンデス政権初の内閣改造が行われ,国防大臣,治安大臣及び米州機構(OAS)亜代表部大使の交代が発表された。本年の国会議員選挙の公示が行われ,国会議員(上院・下院)選挙の候補者を選出するための予備選挙を8月11日に実施し,国会議員(上院・下院)の本選挙を10月27日に実施する旨発表された。終身刑により服役中であった軍事政権時代のホルヘ・ラファエル・ビデラ元大統領(1976〜1981年)が,87歳で老衰により,マルコス・パス刑務所の独房内で死去した。

 

(2)外交:フェルナンデス大統領は,亜を公式訪問したマドゥーロ・ベネズエラ大統領と二国間首脳会談を行った。また,フェルナンデス大統領は亜を公式訪問した李源潮(Li Yuanchao)中国副主席とも会談を行った。イラン政府が,真実委員会設置に関する亜・イラン二国間覚書を,イラン議会における審議を経ずに承認したとした件に関し,亜外務省はイラン側からの正式な通報は受けていないとホームページ上で発表した。ティメルマン外相は来亜したアルマグロ・ウルグアイ外相と会談を行った。

2 内政


(1)5月革命203周年記念及びキルチネル派政権誕生10周年記念式典 

 

(ア)25日,フェルナンデス大統領は,「5月革命203周年記念」及び「キルチネル派政権誕生10周年記念」の祝賀式典をブエノスアイレス市内の5月広場で行い,その際に,約50分間にわたって演説を行った。今回の式典には,閣僚及び政府関係者の他,大半の州知事,各市長,各国外交団,人権団体,労組団体関係者等が出席した。また,キルチネル派の若手活動家組織の連合「Unidos y Organizados」(ラ・カンポラ、コリーナ、モビミエント・エビータ等,7団体ほどで形成されるキルチネル派応援団組織)のメンバーが,国内各地から長距離バス等で駆けつけた。政府系のメディアは,今回の5月広場での式典に70万人が参加したとし,中央政府の管轄下にある連邦警察もその数を65万人と高く見積もったが,反政府系の新聞は30万人程度が参加したと報じた。

 

(イ)フェルナンデス大統領の演説概要は以下の通り。

 「これまで教えられてきた,つまらない無味乾燥な歴史的説明のバージョンとは異なる方法で,自分(「フェ」大統領)は皆に,5月革命の203周年を思い起こさせたい。ここにいる若者の顔に,これまで忘れられてきた5月革命の真の知的指導者,即ちフレンチ,ベルーティ,モレノ,モンティアグードの顔を見ることができる。理想を持った若者が,軍とともに祖国を防衛し,国家の基礎を築き,歴史を創ったのである。

 その後,亜は長い間,すれ違いと浮き沈みを経験したが,20世紀にペロニズムが祖国の歴史を決定的に変えた。これは(自分(「フェ」大統領)の)政党をひいきしているわけではなく,ただ単に,紛れもない史実である。一人の男(ペロン元大統領)と一人の女(エバ・ペロン元大統領夫人)が,亜国民に対し,全ての必要性(necesidad)は権利(derecho)を伴うことを教えた。

 (中略)ペロン元大統領とエビータの時代が去り、その後の亜の歴史において、最も中傷され,攻撃され,侮辱され,過小評価されているのは,故キルチネル前大統領とこの大統領(「フェ」大領領)であるということは明白な事実であるが,自分(「フェ」大統領)はそのことに対し文句を言わない。特権階級の権益に影響を及ぼし,最も虐げられた階層を守り,雇用を創出し,貧困層に対する手当を整えると,誰も労働者を搾取できなくなることを我々は知っている。この「勝利の10年」は(キルチネル派)政権(2003年〜2013年)が勝ち取ったものではなく,国民が勝ち得たものである。

 (中略)しかし,まだ成し遂げられていないことがある。我々は「自由」は得たが,「平等」はまだ得られていない。平等を希求する戦いは,この10年の特徴であり,この戦いは今後の10年間も続いて行く。

 全亜国民に呼びかけたいのは,この「勝利の10年」の後に,更なる勝利の10年が続いていってほしいということである。(「永遠のクリスティーナ」(Cristina eterna)と言う人もいるが,)自分(「フェ」大統領)は永遠の存在ではなく,そうなりたいとも思っていない。この(「勝利の10年」の)改革と戦いによって,亜国民と亜社会を強化することが必要である。」

 

(2)内閣改造

 

(ア)30日夜,スコッチマーロ内閣府報道長官が大統領府で記者会見を行い,フェルナンデス大統領の決定として,国防大臣,治安大臣及び米州機構(OAS)亜代表部大使の交代を発表した。

 

(イ)国防大臣(Ministro de Defensa)の交代  

 現職のプリチェリ国防大臣が治安大臣に任命され,ロッシ・キルチネル派下院院内総務が新国防大臣に任命された(注:当地報道によると,ロッシ下院院内総務の後任はディトゥリオ下院議員。ロッシ議員は今回の人事異動を受け,議員職を辞職した)。

 

(ウ)治安大臣(Ministro de Seguridad)の交代  

 現職のガレー治安大臣が米州機構(OAS)亜代表部大使に推薦されることとなり,プリチェリ現国防大臣が新治安大臣に任命された。

 

(エ)米州機構(OAS)亜代表部大使の交代  

 新米州機構(OAS)亜代表部大使として,ガレー現治安大臣が推薦されることとなった(注:これまで同ポストは欠員の状態にあり,ブスティージョOAS亜代表部次席が,臨時代理大使を務めていた)。

 

(オ)ロッシ新国防大臣及びプリチェリ新治安大臣は,6月3日に正式に新しいポストに就任した。ガレー前治安大臣の米州機構(OAS)亜代表部大使への推薦は,政府により上院に提出された後,同院の出席議員の3分の2以上の賛成をもって可決される必要がある(注:6月6日,上院の合意委員会(Comisión de Acuerdos)は,ガレー前治安大臣を,OAS亜代表部の新大使として推薦する件につき協議し,上院本会議での採決に回す旨決定した。6月14日現在,採決日は未定)。

 

(カ)フェルナンデス大統領が内閣を改造したのは,2011年に2期目に入って以降,今回が初めてのことであり,事前に噂レベルでも特段の情報がなかったため,当地報道上では,今回の同大統領の決定は驚きをもって受け止められた(注:異動する本人等もスコッチマーロ報道長官の発表の直前に異動の事実を知った由)。今次内閣改造で最も注目されたのは,ガレー治安大臣の異動であり,当地報道は,同大臣が内閣から追放されたとの趣で報じた。ガレー治安大臣は,キルチネル前政権及びフェルナンデス政権において,8年間にわたって国防大臣(2005年〜2010年)と治安大臣(2010年〜2013年)を歴任してきた人物であるが,当地報道によると,治安回復に向けての成果も挙がらず,最近はフェルナンデス大統領との距離が開き,実質的に,フェルナンデス大統領の信頼は,治安省のナンバー2であるベルニ治安活動長官に向けられ,ガレー大臣は権力を奪われた状態となっていた。

 

(キ)当地報道は,ガレー治安大臣が「追放」されたと映らないよう,フェルナンデス大統領が同大臣に対し,OAS大使就任への花道を用意したのではないかと分析したが,他方,UNASURの設立以降,(キルチネル派が治める)亜においては,OASは重要性を失っているとも報じられた。

 

(ク)ロッシ下院議員の異動は,同議員の地元であるサンタフェ州内でのキルチネル派間の対立が原因と当地報道上では見られている。本年の国会議員選挙に同州から出馬する意図があったロッシ議員は,同じく同州から出馬予定のビエルサ議員と対立した状態にあり,集票力のあるビエルサ議員は,政府中枢に対し,ロッシ議員が自分(ビエルサ議員)の邪魔をするのならば,キルチネル派(Frente Para la Victoria)から抜けるとの圧力をかけていたとされている(注:実際に同派を抜けたとの報道もあった)。フェルナンデス大統領としては,サンタフェ州をビエルサ議員に任せたいとの思惑があったため,ロッシ下院議員に議員職を辞職させるべく仕向けた由。

 

(ケ)プリチェリ国防大臣は,ガーナにおける亜海軍練習船「リベルタット」号の拘留の責任を追及された他,亜の南極基地に食糧及び燃料を輸送する砕氷船の入札を不正に行ったとして係争中であり(注:亜の砕氷船は2007年に火災を起こし使用不可能となったため,亜では毎年,他国の砕氷船と契約するべく,入札を実施している),今回の異動からは,プリチェリ大臣をこのスキャンダルから切り離して,擁護しようとのフェルナンデス大統領の意図があったのではないかと報じられた。

 

(3)本年の国会議員選挙の公示

 

(ア)9日,政令第501号が官報に掲載され,本年の国会議員選挙の公示が行われた。

 

(イ)国会議員(上院・下院)選挙の候補者を選出するための予備選挙を,8月11日に実施する。

 

(ウ)国会議員(上院・下院)選挙を10月27日に実施する。

 

(エ)下院は定員の半数(127議席)が改選となり,上院は定員の3分の1(24議席)が改選となる(注:下院の定員は257議席であり,前回の2011年の選挙の際には130議席が改選となり,前々回の2009年の選挙の際には127議席が改選となったように,130議席と127議席が交互に改選される仕組みになっている)。

 

(オ)本年,上院議員選挙が実施される選挙区は,ブエノスアイレス市,チャコ州,エントレリオス州,ネウケン州,リオネグロ州,サルタ州,サンティアゴ・デル・エステロ州,ティエラ・デル・フエゴ州の8州となる(注:各州で3議席ずつ改選となる)。

 

(カ)各州の下院議員の改選議席は次の通りとなっている(注:官報に掲載されている順番)。

ブエノスアイレス市 13議席
ブエノスアイレス州  35議席
カタマルカ州   3議席
コルドバ州  9議席
コリエンテス州    3議席
チャコ州       4議席
チュブット州     2議席
エントレリオス州   5議席
フォルモッサ州    2議席
フフイ州      3議席
ラ・パンパ州    3議席
ラ・リオハ州    2議席
メンドーサ州    5議席
ミシオネス州    3議席
ネウケン州     3議席
リオネグロ州    2議席
サルタ州      3議席
サンフアン州    3議席
サンルイス州    3議席
サンタクルス州   3議席
サンタフェ州    9議席
サンティアゴ・デル・エステロ州   3議席
ティエラ・デル・フエゴ及び南極・南大西洋諸島州 2議席
トゥクマン州 4議席

 

(4)フェルナンデス大統領による「司法の民主化」及び憲法改正に関する演説

 

(ア)14日,フェルナンデス大統領は,ブエノスアイレス州にあるマタンサ大学において,「社会が司法にもの申す」と題する演説を行い,政府・与党が推し進めた「司法の民主化」プロジェクトの意義を再度正当化するとともに,亜憲法(94年憲法)が不完全なものであり,改正の余地がある旨指摘した

 

(イ)フェルナンデス大統領の演説概要は以下の通り。

 「まず第一に,亜においては,司法と治安の密接な関係を構築する必要がある。第二には,司法と平等の概念を結び直すこと,すなわち法の前の平等を実現する必要もある。今の亜の司法は,判事,検事及び政治家に圧力をかける力を有する強力なコーポラティズムが当事者の場合は,一般的とは言わないが(往々にして,コーポラティズムに資するよう,訴訟の)スピードが調整される傾向がある。

 (中略)現行の亜憲法(94年憲法)は,特定の思想に影響を受けることなく,まっさらな目で最初のページから最後のページまで,通読されるべきである。この憲法は完璧なものではない。真の司法改革及び抜本的な司法改革を実現させるためには,この憲法は改正される必要がある。しかし,自分自身(「フェ」大統領)は憲法改正を提案することはしない。だからこそ,(自分(「フェ」大統領)は)今回の「司法の民主化」6法案を国会に提出したのである。

 (中略)我々(亜国民)は,亜を荒廃させ,破壊し,蓄財によってさらに強大な力をつけたコーポラティズムに立ち向かう厳格な司法を求めている。社会全体が正義と平等と正当性を要求する時,コーポラティズムはそのようなことができなくなる。」

 

(5)「司法の民主化」6法案の成立

 

(ア)27日,政令第577号が官報に掲載され,本年の司法評議会メンバー(判事,弁護士及び学者枠)の選挙の公示が行われた。右公示によると,同メンバーの選挙は,国会議員(上院・下院)選挙と同日に実施されることになっており,予備選挙が8月11日に,本選挙が10月27日に実施されるとされている。

 

(イ)29日,フェルナンデス大統領が4月8日に発表した「司法の民主化」6法案の最後の法案が下院において可決成立した。「司法の民主化」の各法案の成立日,官報への掲載日及び施行日は次の通り。

(@)「執行停止措置規制法」(法律第26,854号)

4月24日成立,4月30日官報掲載,5月9日施行。

(A)「上級控訴裁判所増設法」(法律第26,853号)

4月24日成立,5月17日官報掲載,同日施行。

(B)「判決等のオンライン無料公開法」(法律第26,856号)

5月8日成立,5月23日官報掲載,同日施行。

(C)「所得申告書のオンライン無料公開法」(法律第26,857号)

5月8日成立,5月23日官報掲載,6月1日施行。

(D)「司法評議会改革法」(法律第26,855号)

5月8日成立,5月27日官報掲載,同日施行。

(E)「司法組織への就職に関する法律」(法律第26,861号)

5月29日成立,6月3日官報掲載,12日に施行予定。

 

(ウ)6法案の成立により,行政府が推進する司法改革の法的整備がひとまず終了したが,同6法のうちの「司法評議会改革法」及び「執行停止措置規制法」の2法が,違憲性を理由に,法曹界,野党及びマスコミ等から鋭く批判され,特に「司法評議会改革法」に対しては,100件以上の保護請求及び違憲性の指摘が提出されたと報じられた。

 

(エ)31日,マル・デル・プラタ連邦第一審裁判所及びサン・ニコラス連邦第一審裁判所(いずれもブエノスアイレス州の第一審裁判所)が,「執行停止措置規制法」のいくつかの条項に違憲性が認められるとの判決を下した。また同第一審裁判所は,「司法評議会改革法」のいくつかの条項に違憲の可能性が認められるとして,違憲性の有無の判断を司法の場で行う間,同法に対して執行停止措置を講じた(注:右執行停止措置は,違憲判決を受けた「執行停止措置規制法」に拘束されない執行停止措置,すなわち,同規制法が成立する以前に適用されていた従来の執行停止措置)。これに伴い,同第一審裁判所は,政令第577号(上記(ア))にある司法評議会メンバーの選挙を中止するよう命じた。政府はこれら第一審判決を不服として,控訴もしくは跳躍上告(第一審から最高裁への直接の上訴)をするとした。

 

(6)パペル・プレンサ社の株式接収法案の提出

 

9日,クンケル下院議員及びコンティ下院議員等のキルチネル派議員は,パペル・プレンサ社(注:国内最大の新聞紙製造企業であり,当地の主要紙であるクラリン紙やラ・ナシオン紙の新聞紙の大半は,同社から調達されている)が新聞紙の生産において,独占的地位にあるのは明らかな事実であるとした上で,右独占による弊害を防ぐために,国が同社の株式の24%を接収するとした法案を提出した(注:クラリン・グループはパペル・プレンサ社の株式の49%を保有しており,ラ・ナシオン紙は22.5%の株式を保有している)。現時点では,国はパペル・プレンサ社の株式の27.5%を有しているが,今次法案が成立すれば,国が所有する同社株は51.5%になり,事実上,同社は国有化されることになる。当地反政府系メディアによる報道では,かかる事態が発生すれば,国有化されたパペル・プレンサ社がクラリン・グループ等の反政府系メディアには新聞紙を販売しないなどの対応を取ることも想定され,反政府系メディアの新聞発行部数が減少するようなことにもなりかねないと危惧された。

 

(7)ブエノスアイレス市内における報道の自由を保障するための緊急市長令の発出

 

(ア)14日,マクリ・ブエノスアイレス市長は記者会見を開き,市内全域における報道の自由を守るための「緊急市長令」に同日,署名した旨表明した。同市側の発表によると,右緊急市長令は,(政府系ではない)独立系のマスコミ(注:クラリン・グループ等を指す)に対する中央政府の執拗な攻撃に対抗するための措置とされており,市内にいるジャーナリスト及びマスコミの保護が明記された。記者会見の席で,マクリ市長は「フェルナンデス大統領は亜に自由な報道機関が存在してほしくないと思っている。(中略)中央政府がジャーナリストとマスコミを黙らせようとしている」と強く批判した。また,民主主義体制下にあっては,一度選挙に勝った者が好き放題をやっていいものだと思い込んでいる人たちがいるが,それは民主主義の精神ではなく,独裁主義の精神である,と述べた。

 

(イ)当地報道は,今回の市政府の措置につき,中央政府によるクラリン・グループに対する監査の噂や,国による新聞紙製造会社(注:パペル・プレンサ社)の株式接収法案が下院に提出されるなど,クラリン・グループに対する政府の圧力が強まる中での対応となったと報じた。

 

(ウ)キルチネル派のサバテラ「連邦視聴覚コミュニケーション・サービス機構」(AFSCA)代表は,マクリ市長の緊急市長令に対し,同市長令は報道の自由を支持するものではなく,クラリン・グループを支持するものであり,メディア企業を放任する(注:原文は「処罰されないよう『免罪』の柵で囲う」)ことを意図するものであると発言した。

 

(エ)16日,市議会のキルチネル派(反マクリ市長派)は,マクリ市長の「緊急市長令」の内容が違憲であるとし,裁判所に対し,同市長令を無効化するよう申し立てた。21日,市の裁判所は,同市長令の2条項に対し,執行停止措置を講じた。

 

(オ)24日,マクリ市長率いる市議会与党のPRO(「共和国提案」)は,市議会の憲法委員会において,南プロジェクト及び市民連合の2党の協力を得て,緊急市長令の内容の一部を修正し,緊急市長令としてではなく,別の法律として議会に提出することで合意した(注:「緊急市長令」自体は修正できないため,市政府は,同様の内容をもつ別の法律を改めて議会に提出しなければならなかった)。

 

(カ)30日,ブエノスアイレス市議会は,上記の報道の自由の保護法案を賛成35票,反対15票,棄権7票の賛成多数で可決し,成立させた。

 

(8)価格凍結の対象品目の限定

 

(ア)13日,モレーノ国内取引長官(経済・財政省)は,亜国内の主要なスーパーマーケット(全店舗)に対して,本年2月1日から6月1日まで価格の凍結を要請していたが,6月以降も対象商品を500品目に絞って続行する意向である旨報じられた。対象となる商品には,砂糖,塩,小麦粉,米,食肉,乳製品,果物野菜,マテ茶,食用油,シャンプー,洗剤,清掃用品などの基本的な生活必需品が含まれる。

 

(イ)22日,フェルナンデス大統領は,主要なスーパーマーケットにおいて,上記の500品目の価格凍結が遵守されているか否か,また品不足が発生していないかどうかの見張り番として,キルチネル派の左派若手活動家組織のメンバー等を,スーパー各店舗に監査目的で一時的に派遣する旨発表した(注:同監視員は一日に複数のスーパーマーケットを巡回し,価格等の調査を実施している模様)。同大統領は右活動を「護るために見張る(Mirar para Cuidar)」プランと名付けた。

 

(9)小麦輸出課徴金の生産者への還付

 

(ア)6日,フェルナンデス大統領は、小麦の輸出課徴金を生産者に還付する旨発表した。右発表には,ブドゥー副大統領,アバル・メディーナ官房長官,ジャウアル農牧・漁業大臣,ロレンシーノ経済・財政大臣,小麦に関係する生産者団体,経営者団体及び労働者団体の代表者が同席した。

 

(イ)フェルナンデス大統領の発表概要は以下の通り。 今後,小麦輸出課徴金は,信託基金に一旦移された後,信託基金から各小麦生産者に対し,生産量に応じた額を還付することとする(注:「生産量」とされており,「輸出量」とはされていない)。信託基金は,ナシオン信託銀行及び新たに小麦生産分野の代表者で構成される評議会により管理される。政府は,生産者が受領する還付金は1トン当たり約30ドルになると試算している。今回の措置の目的は,亜産小麦の国際競争力の強化,生産性の向上,小麦の輸出拡大,(小麦を原料とする食品を含む)小麦の国内価格に影響を及ぼさないように配慮すること,各セクター間及び民間と政府間の論争を終結させることである。仮に小麦生産量を1,650万トンとした場合,政府は5億ドル(の歳入)を失い,小麦生産者がそれを得ることとなる。小麦生産者は生産量を政府に自己申告し,政府は証明書を発行する。近年,小麦に代わって,収益性のより高い大豆生産が行われてきたため,小麦の作付け面積が減少してきているが,今回の措置により,再び小麦生産量が増加し,土壌の質が改善される(注:大豆の連作によって劣化した土壌が回復する)ことも期待される。

 

(ウ)同発表会の席において,フェルナンデス大統領は,亜ペソ通貨の切下げの可能性を全面的に否定した。同大統領は,「通貨切下げの被害を被るのは一般市民である。このため,自分(「フェ」大統領)が大統領に在任している間は,通貨切下げを行わない。通貨切下げで金儲けを考えている者は,次の政権を待つ必要がある。亜で過去に行われた通貨切下げは,深刻な経済危機をもたらした。現政権のモデルは,生産,工業化及び雇用創出を優先するものであり,このモデルの核の考え方に反し,又は矛盾するような措置を現政権に期待してはならない。現在,通貨切下げが世間の話題に上っているが,これは人々の生活を脅かし,スキャンダラスな新聞の見出しを書くためのものである」と発言し,通貨切下げに言及する元大臣やエコノミストを痛烈に批判するとともに,選挙(注:本年10月に実施されている国会議員選挙)を控える時期にありがちな傾向であるとした。

 

(10)児童手当及び家族手当等の引き上げ

 

(ア)22日,フェルナンデス大統領は,失業者,インフォーマル・セクター及び一部の低所得者を対象とする「児童手当」(Asignación Universal por Hijo:AUH)を6月1日以降,月額340ペソから同460ペソに35.3%引き上げる旨発表した(注:国家社会保障機構(ANSES)によると,右引き上げは,妊娠12週以降の妊婦に対する児童手当にも同様に適用される)。また,障害児に対する児童手当も月額1,200ペソから同1,500ペソに引き上げられた。さらに,今回の措置により,児童手当を受給する子供の数も69万4.668人増加し,404万1,726人となった。

 

(イ)また同日,フェルナンデス大統領は,正規雇用の労働者に対して給付される「家族手当」(Asignación Familiar)の7月以降の引き上げ及び同手当を受給するための月収上限の引き上げについても発表した。「家族手当」を受給するためには,2013年5月現在,父親と母親の両方の月収が審査の対象となっているが,今回の政府の措置により,一世帯の月収上限が14,000ペソから16.800ペソに引き上げられた。なお,父母のいずれかが単独で8,400ペソ以上の月収がある場合は,本手当支給の対象外となる。

 

(ウ)7月以降に引き上げられる「家族手当」の受給額は以下の通り。

(@)世帯月収4,800ペソまで:子供一人当たり460ペソの手当。(障害をもった子供の場合は1,500ペソ)

(A)世帯月収4,801ペソ〜6,000ペソ:子供一人当たり320ペソの手当。(障害をもった子供の場合は1,100ペソ)

(B)世帯月収6,001ペソ〜7,800ペソ:子供一人当たり200ペソの手当。(障害をもった子供の場合は720ペソ)

(C)世帯月収7,801ペソ〜16,800ペソ:子供一人当たり110ペソの手当。

 なお,障害をもった子供がいる家庭には月収上限額が設けられておらず,6001ペソ以上の月収がある家庭は,子供一人当たり一律720ペソの家族手当を受給するシステムとなっている。

 

(エ)上記家族手当の対象になるのは,18歳以下の(注:障害をもった子供の場合は年齢制限はなし),義務教育を受け,然るべき健康診断を受けている子供に限られ,母親一人に対し,該当の子供5名までが家族手当の給付対象となるとされている。

 

(オ)フェルナンデス大統領は,今回の演説において,今後は「児童手当」及び「家族手当」等は,司法により親権が父親にあるとされていない限り,父親ではなく母親に対して全て支払われることになると発表した。

 

(カ)今回のフェルナンデス大統領の発表により,上記各種手当て向けの国家予算は,約242億ペソから約410億ペソに増大することとなった。当地各紙は今次措置の狙いにつき,政府の汚職疑惑の打ち消しならびに政権支持率の改善にあるとした他,10月の国会議員選挙を視野に入れた貧困層対策であるとした。

 

(キ)今回のフェルナンデス大統領による「児童手当」及び「家族手当」等の引き上げ措置につき,反政府系労組団体からは批判の声が沸き上がった。反キルチネル派のモジャーノ労働総同盟(CGT)書記長は,「家族手当」の受給条件に設けられている父親と母親のそれぞれの月収上限額が8,400ペソとされたことに関し,今年の平均的な賃上げ率が24%である以上,自動的に,大半の労働者が改めて8,400ペソの月収上限額にひっかかることになってしまい,結局は「家族手当」を受給できなくなると批判した(注:反政府系の労組団体は,かねてより「家族手当」に設けられている月収上限を撤廃するよう求めている)。

 

(11)ベルグラーノ貨物鉄道の国営化

 

(ア)22日,政府は「必要性及び緊急性を根拠とする政令」の第566号を官報に掲載し,ベルグラーノ貨物鉄道を国営化する旨発表した。同貨物鉄道は,今後,新たに設立される国営企業「ベルグラーノ貨物・ロジスティックス株式会社」(内務・運輸省の管轄)によって運営されることになる。同社は鉄道インフラ管理局(ADIF),鉄道技師協会(SOE),総合港湾管理局(AGP)の3機関で構成される。ベルグラーノ貨物鉄道は1997年に民営化され,その後,幾つかの国営化計画があったものの,これまで実行されてこなかった(注:2012年10月以降,政府はベルグラーノ貨物鉄道の監査に入っており,政府側の臨時代表者としてマルセロ・ボッシュ氏が就任していたが,同氏が今後「ベルグラーノ貨物・ロジスティクス株式会社」の社長を務めることになる)。

 

(イ)政府のプレスリリースによると,ランダッソ内務・運輸大臣は今次決定につき,「製品の競争力において極めて重要な意味を持つロジスティクス(物流)のコストを下げるため,貨物輸送の鉄道システムは政府が管理するべきである」と発言した。

 

(ウ)政府は将来の目標として,トラックによる鉄道駅までの輸送をさらに増強し,鉄道が港湾までの長距離を運ぶような統合貨物システムを構築することを挙げた。

 

(12)ビデラ元大統領の死去

 

(ア)17日午前,終身刑により服役中であった軍事政権時代のホルヘ・ラファエル・ビデラ元大統領(1976〜1981年)が,87歳で老衰により,マルコス・パス刑務所の独房内で死去した。ビデラ元大統領は,独房内で脈がない状態で発見され,その時,すでに瞳孔反射も消失していた。すぐに心電図により心臓の動きを診断したが,8時25分に死亡が確認された。

 

(イ)司法・人権省のフレスネダ人権長官はビデラ元大統領の死に関し,以下のようにコメントした。「多くの亜国民は,ビデラの死が我々(亜国民)に何をもたらすかについて思いをめぐらせていることだろう。ビデラの死により考えさせられることは,亜は(本年)民政移管30周年を迎えるにあたり,人の死を祝福することは決して無いということである。(中略)亜という国家は,人類が消滅する前に正義に到達できたということ,これらの人間(ビデラ元大統領等)が犯した罪の大半を裁くことができたということを,ここに正式に認めることができる。(中略)ビデラが一般の刑務所で自然死した(老衰)ことは重要である。」

 

(ウ)政界の発言内容は主に以下の通り。

(@)アバル・メディーナ官房長官:「ビデラは裁かれ,罪を宣告され,一般の刑務所に入れられ,全亜国民に拒絶されて,死亡した。決して我々(亜国民)は人の死を祝ったりはしない。(ビデラ元大統領の)死が,裁かれ,収監され,刑に処せられたという(彼に)ふさわしい状況下で発生したことには,我々(同)は喜びを感じる。」

(A)マクリ・ブエノスアイレス市長:「ビデラは,我々(亜国民)が二度と亜において経験したくないことを想起させる。」

(B)シオリ・ブエノスアイレス州知事:「失踪者の問題,制度,経済,社会上の問題といった人道主義的な観点から見れば,(ビデラ元大統領は)軍事政権,国家によるテロリズム及び亜にとっての悲劇の時代の象徴(Simbolo)の中の象徴(Simbolo)である。」

(C)ビーネル・社会党党首:「ビデラが死亡した。同人の軍事政権下の犠牲者3万人のために涙を流そう。」

(D)ラベドラ下院議員(急進党):「ビデラは亜に死を植え付け,最も血にまみれた極悪非道な軍事政権を築いた独裁者として記憶されるであろう。ビデラは事実(自らが犯したこと)を反省する態度を決して見せず,被害者に対する償いの言葉も示さなかった。」

 

(エ)ビデラ元大統領は,76年の軍事クーデターで,当時のイサベル・ペロン大統領を失脚させ,亜の暗黒時代の幕を切り,右軍事政権下において,イデオローグとしての役割を果たしつつ,81年まで大統領を務めた。83年に亜が民政移管されると,ビデラ元大統領は85年の軍事裁判(Juicio a las Juntas)にかけられ,人道に対する罪を犯したとして,軍籍を剥奪され,無期懲役に処された。同判決は,86年に最高裁でも承認されたが,90年に当時のメネム大統領により恩赦され,釈放された。

 

(オ)98年,軍事政権下に拘束された左派活動家が拘留中に出産した乳児を,(軍事政権が)組織的に奪ったことは,人道に対する罪にあたるとし,裁判所はビデラ元大統領に対し,自宅軟禁を言い渡した。08年,フェルナンデス大統領により自宅軟禁の配慮が解かれ,ビデラ元大統領は刑務所に送還された。2010年に裁判所は同元大統領に終身刑を言い渡し,2012年には同元大統領は乳児略奪の罪で懲役50年の判決を受けた。

 

(13)反政府系労組団体等によるゼネスト及び道路封鎖

 

(ア)29日,反政府系労組団体等が,最低賃金等の待遇面の改善を求めてゼネストを決行し,全国各地で道路封鎖を実施した。今回は,反政府系労組団体のボス的存在であるモジャーノ労働総同盟(CGT)書記長(トラック労組代表)が参加しなかったことから,前回(昨年11月20日)の抗議行動に比べると小規模なものとなり,その点が当地報道で注目された。なお,モジャーノ書記長の不参加の理由に関しては,10月の国会議員選挙に向けての政党の基盤固め等の準備のためと報じられた。

 

(イ)今次抗議運動を実施した労組団体等

(@)亜労働者連盟(CTA)の反政府派(注:CTAは現在,政府支持派と反政府派の2つに割れており,前者をジャスキー代表が,後者をミチェリ代表が率いている。ジャスキー代表は教育労組のCTERAに,ミチェリ代表は国家公務員労組のATE(公立病院及び市役所等を管轄)に各々所属している。)

(A)反政府系失業者団体(CCC,Barrios de Pie等)

(B)その他,亜農業連盟(FAA)のブッシ会長ら農業関係者,極左セクター(MST),労働者党(Partido Obrero)及びブエノスアイレス大学連盟(FUBA)等の参加があった。

 

(ウ)抗議者側の主な要求は,所得税の課税最低限度額の引き上げ,家族手当の受給のための所得上限の撤廃,年金支給額の引き上げ,最低賃金の5,000ペソまでの引き上げ(注:現在は月額2,875ペソ)であったが,この他,「反テロリスト法」(注:マネーロンダリング対策を目的とするも,行政に深刻な影響を与える行為一般をテロ行為とみなし,拡大解釈による政府の介入を可能とする法律,2011年制定)の廃止を訴える声や,今般政府が推し進めた「司法の民主化」改革,キルチネル一家とそのビジネスパートナー等によるマネーロンダリング等の汚職疑惑に対する批判もあった。

 

(エ)今回の道路封鎖では,午前10時頃より,ブエノスアイレス市内の主要な幹線道路の交差点が封鎖された他,ブエノスアイレス州から同市内への入り口となっている幹線道路及び橋等が封鎖された。また,国内のその他の州(約13州)でも道路封鎖が実施されたと当地報道は伝えた。

 

(オ)ミチェリCTA代表は,4月に今回の抗議運動の実施を発表して以降,モジャーノ書記長に対し参加を促し続けてきた。当初,同抗議運動は5月15日の実施に向け準備されてきたが,モジャーノ書記長が,期日が迫っても話に乗ってこなかったので,ミチェリ代表は同抗議運動を29日に延期した。しかしながら,最終的にモジャーノ書記長は不参加を表明した。モジャーノCGT書記長の不在に関し,ミチェリCTA代表は「我々労働者には誇りがあり,我々は自らの権利のために戦おうとする時に,本年が選挙の年かどうかということを考えたりはしない」と発言した。他方,モジャーノ書記長の側近は「(同書記長にとって)現時点で優先順位が高いのは,10月の選挙戦を見据えた自身の政党(「文化・教育・労働党(Partido por la Cultura, la Educacion y el Trabajo)」)の基盤固めであり,同党に反キルチネル派のペロニスタやキルチネル派の離反者を取り込むことを狙っている」と述べた。

 

3 外交

 

(1) ベネズエラ

 

 8日〜9日にかけ,マドゥーロ・ベネズエラ大統領は,南米諸国外遊(ウルグアイ,亜及び伯)の一環として,亜を公式訪問した。8日,大統領府の大統領執務室でのアウグスティン・ラドリサーニ・メルセデス・ルハン市大司教によるマドゥーロ大統領への祝福及び亜の守護聖人であるルハンの聖母像の贈呈に続き(8日は,ルハンの聖母の記念日),両国首脳は,他の関係者を交えず会談を行った。また,右会談後,大統領府内のエバ・ペロンの間にて,両国の代表団の関係者同席のもと,11件の合意文書への署名式,21時からは,大統領府に隣接する建国200周年記念博物館にて,フェルナンデス大統領主催の晩餐会が開かれた。また,同日午後には,「彼ら(故チャベス前ベネズエラ大統領及び故キルチネル前大統領)の様な人物は死ぬのではなく,後に何かを残していく」というスローガンのもと,キルチネル派の若手活動家組織である「Unidos y Organizados」の呼びかけにより,オール・ボーイズ・スタジアムにて,故チャベス前ベネズエラ大統領及び故キルチネル前大統領の追悼記念式典が開催され,数万人が集まった。  

 今次マドゥーロ・ベネズエラ大統領の訪問に合わせ,レオポルド・ロペス議員率いるベネズエラの反チャベス派議員代表団(ノラ・ブランチョ議員,フレディ・ゲバラ議員及びロペス議員)が,ブエノスアイレスを訪問し,国会議事堂内にて,4月14日に実施されたベネズエラ大統領選挙が不正選挙であった旨訴えた他,市内中心部のオベリスクでは,在亜ベネズエラ人が,マドゥーロ大統領訪問に対する抗議行動を実施した。

 

(2)中国

 

 9日〜11日にかけ亜を公式訪問した李源潮(Li Yuanchao)中国副主席は,10日,大統領府でのフェルナンデス大統領との会談(亜側:ティメルマン外務大臣,ジョルジ産業大臣,デビード公共事業大臣,ジャウアル農牧・漁業大臣,キシロフ経済政策長官,パグリエリ国際通商長官,モレーノ国内取引長官,ロペス公共事業長官,中国側:Yiting He中国共産党中央政治調査研究室副委員長,Jun Zhai外務副大臣,Fengxiang Chen中国共産党中央国際協力委員会次官,Chao Wanga通商次官,Hengmin駐亜中国大使,同席)後,外務省で開催されたブドゥー副大統領主催の昼食会に出席した。また,今次李源潮中国副主席訪問中に,両国は,農作物の商品化における協力に関する覚書,亜農牧・漁業省及び中国品質管理・検査・検疫管理局間の亜から中国への馬の輸出の為の検疫条件に関する協力議定書,ブエノスアイレス大学経済学部及びHuawei Tech Investment社(テレコムサービス会社)間の技術協力枠組協定,ブエノスアイレス大学工学部及びHuawei Tech Investment社間の技術協力協定,及び,亜・中国間犯罪人引渡条約の5件の合意文書への署名を行った他,各種報道によれば,ブドゥー副大統領及び李源潮副主席は,一方の国で通貨危機が発生した場合,相手国が100億ドル相当の自国通貨を融通するという内容で,亜・中国間での通貨スワップ協定締結の可能性に関し協議した由(両国は2009年に通貨スワップ協定を締結したが,同協定は現在では失効している)。  

 副大統領主催の昼食会にて,ブドゥー副大統領及び李源潮副主席は,今次会合の成功と,国際関係,経済,財政,生産分野での協力を維持していく意図を表明した。ブドゥー副大統領は,フォークランド(マルビナス)諸島領有権問題において,中国が常に亜の要求を支持してきたことに対し感謝の意を表すると同時に,亜は常に「1つの中国」の概念に基づき活動している旨述べた他,亜及び中国には戦略の一致があるとし,新たな世界経済・金融の構造において,人々の生活の質や真の経済発展に,より注意が向くよう国際機関やG20で引き続き力強く行動していく必要がある旨指摘した。さらに,農業,産業,投資分野での努力及び,特に新たな生物多様性と生産増加を考慮した両国間の技術進歩の面での交流を続けていく旨再表明した。李源潮中国副主席は,フェルナンデス大統領の指導のもと,亜は近年新たな市場となっており、重要な発展を遂げ,国際社会での役割も増大している旨述べた。また,新興諸国の利益を擁護すべく国際場裡における両国間の協調を強化していくとともに,亜・中国二国間の人的,文化的な交流,特に若年層の結びつきを促進していくとする方針を表明した。

 

(3)イラン

 

(ア)イラン政府による覚書承認 19日,イラン政府は,アフマディネジャード・イラン大統領の判断により政令を発出し,1994年のイスラエル共済組合(AMIA)会館爆破事件の解決に向けた真実委員会設置に関する亜・イラン二国間覚書をイラン議会における審議を経ずに承認した。他方,同日,亜外務省は,本覚書承認に関するイラン政府からの正式な通報は現時点では受けていない旨ホームページ上で発表した。イラン政府による同覚書の承認に対し,亜国内のユダヤ人コミュニティーは,「本件は裁判の進展に貢献するのではなく,犯人の無処罰を保障するものだ」「本覚書は,違憲である」等主張し,拒絶を表明した。

 

(イ)ニスマン検事による報告書提出 29日,ニスマン・イスラエル共済組合(AMIA)会館爆破事件担当検事は,事件概要についてまとめた500ページにわたる報告書を提出した。1982年よりイランは,亜,伯,パラグアイ,ウルグアイ,チリ,コロンビア,ガイアナ,トリニダード・トバコ及びスリナムに情報機関を設置し,1994年のイスラエル共済組合(AMIA)会館爆破テロに向け準備を進めていた旨説明する同報告書の発表に伴い,亜国内のユダヤ人コミュニティーをはじめ,今次イランとの覚書署名に反対している人々は,テロリストであるイラン政府と交渉するべきではないとの立場を強めたが,イラン側は,ニスマン検事はシオニストであり,米国やイスラエルの要求に応えようとしているだけとし,同報告書の内容を拒絶する姿勢を表明した。30日,ティメルマン外務大臣は,ニスマン検事の報告書は,亜・イラン二国間覚書の実行を妨げるものではないとし,同報告書を評価する旨発言した。

 

(ウ)ティメルマン外務大臣の訪仏  仏リヨンにて,ノーブル・インターポール事務総長と会合したティメルマン外務大臣は,会合後,イスラエル共済組合(AMIA)会館爆破事件に関与したイラン人5名に対する尋問のテヘランでの実施を目的とした亜・イラン二国間覚書対し,ノーブル事務総長より強い支持を得たと述べた

 

(4)フォークランド(マルビナス)諸島領有権問題

 

(ア)エリザベス女王発言  

 8日,英国議会開会式で挨拶を行ったエリザベス女王は,「フォークランド諸島及びジブラルタルの住民が,自ら将来の政策を決定する権利を保護することを含め,英国政府は,海外領土における安全,統治及び発展を保障する」旨述べた。右発言に対し,フィルムス上院議員は,エリザベス女王は,我々が21世紀社会に生きていることに気づいておらず,英国の植民地時代の伝統と歴史を忠実に守っているようだと批判した。

 

(イ)仏領ポリネシアの自決権を巡る国連決議案:亜による英国の投票態度批判  

 17日,国連総会で,英国政府が,仏領ポリネシアの自決権を認める決議案を支持しなかったことに対し,18日,亜外務省は,フォークランド(マルビナス)諸島領有権問題において,英国が島民の自決権を主張し続けている点を指摘し,今次国連総会における投票姿勢には,自決権を巡る英国のダブル・スタンダードを見ることができると批判した。

 

(ウ)コレア・エクアドル大統領発言  

 24日,コレア・エクアドル大統領就任式の為,エクアドルを訪問したブドゥー副大統領に対し,コレア大統領は,フォークランド(マルビナス)諸島にて「(英国の)植民地状態」が続いている現状に対し遺憾の意を表すると同時に,米州機構(OAS)の役割は,本件を含む緊急性のある問題解決に向け,地域としての一貫した立場を固めることだとし,(亜の領有権を支持するべく)「フォークランド(マルビナス)諸島は,亜だけでなく,ラテンアメリカ全体のものだ」と述べた。

 

(5)米国

 

(ア)C40サミット

 6日,マクリ・ブエノスアイレス市長は,クリントン元米大統領,ヒラリー・クリントン前米国務長官,ブルーンベルグ・ニューヨーク市長等と共に,ニューヨークで開催されたC40(世界大都市気候先導グループ)サミットに出席した。同サミットにて,マクリ市長は,豪雨による最近のブエノスアイレス市近郊での洪水被害の例を取り上げ,気候変動による被害を軽減する為に,都市計画及び持続可能な政策を推進する更なる努力が必要であると述べた。

 

(イ)米国務省によるテロ活動に関する年間報告書の公表  

 30日,米国務省は,2012年の世界各地でのテロ活動に関する年間報告書を公表し,亜については,テロ対策に関する米亜二国間協力が減少傾向にある旨警告した。また,亜のイランへの接近及び,パラグアイ・亜・伯の3ヵ国が接する国境地帯がテロリストの活動地域となる危険性を指摘した。

 

(6)ブラジル

 

(ア)ルーラ前伯大統領訪問  

 15日〜17日にかけ,ラテンアメリカ社会科学委員会(CLACSO)の企画により,訪亜したルーラ前伯大統領は,15日,フィルムス上院議員(外交委員長)及びヘンティリCLACSO実行委員長主催の式典に出席した他,16日には,大統領府でのフェルナンデス大統領との会談及び夕食の他,フェルナンデス大統領と共に,メトロポリタン教育・職業大学のスタディー・センター竣工式に出席した。

 

(イ)亜に保有する資産を巡る伯ペトロブラス社の決定

 伯ペトロブラス社が,亜に保有する亜ペトロブラス社株を,キルチネル派の実業家であるクリストバル・ロペス氏が経営する亜インダロ・グループに売却する件に関して交渉が続いていたが,24日,伯ペトロブラス社は,右売却を承認しない旨決定したとの発表を行った。

 

(ウ)伯バーレ社の亜からの撤退問題

 4月25日に実施されたフェルナンデス大統領及びルセーフ伯大統領の亜・伯二国間首脳会談にて,両国首脳は,メンドーサ州でのカリウム採掘プロジェクトに多額の投資を行ってきた伯バーレ社が亜から撤退すること,及び同社が採掘したカリウムを伯に輸送するために計画されていた,メンドーサ州(亜)−バイア・ブランカ港(伯)間の鉱物輸送用鉄道の建設計画の中止に関して合意した。しかしながら,当地報道によると,5月に入り,亜側はバーレ社に対し,メンドーサ州でのカリウム採掘プロジェクトを続行するために,採掘したカリウムをチリ側から伯に輸送する計画を提案したとされている。

 

(エ)多様性原子炉の基礎設計に関する合意文書への署名

 6日,亜及び伯は,リオデジャネイロにおいて,亜のINVAP社が伯の多様性原子炉(RMB)の基礎設計を行う旨合意し,文書への署名を行った。

 

(7)ウルグアイ  

 

13日,当地を訪問したアルマグロ・ウルグアイ外務大臣は,外務省にてティメルマン外務大臣と会談し,二国間案件及び6月にモンテビデオにて開催予定のメルコスール首脳会合詳細に関し協議した。両国外務大臣は,今次会合にて,マルティン・ガルシア運河浚渫事業に関する協議を進めると同時に,本年2月に公布された亜・ウルグアイ租税情報交換協定に基づき,租税に関する情報交換を行った。また,ウルグアイ側はこの機会を利用して,再度,亜側に対し,亜が実施している輸入制限措置に対する懸念を示した。

 

(8)シリア

 

15日,国連総会でのシリアに暫定政権の樹立を求める決議案採択に際し,亜は,本件は対話により解決されるべき問題であると主張し,バシャル・アル=アサド政権への反対勢力による暴力を非難する文言の追加を求めたが,右要求は却下され,結果,亜は同決議案に対し棄権票を投じた。

 

(9)国際関係

 

(ア)WHO  

 スイス・ジュネーブで開催された第66回世界保健機関(WHO)総会にて,亜は18年ぶりに同機関の執行理事会理事に選出された。

 

(イ) 強制失踪委員会  

 28日,ニューヨークの国連本部にて開催された強制失踪委員会委員選挙にて,「5月広場の祖母たち(ブエノスアイレス市の大統領府前の5月広場において,軍政時代に行方不明となった子供たちの生還や情報を求めて活動を行う団体)」の弁護士であるルシアノ・ハサン氏が再選を果たした。

 

(10)要人往来

 

(ア) 往訪

●2日〜3日:デビード公共事業大臣ボリビア訪問

●6日:マクリ・ブエノスアイレス市長米国訪問(C40サミット出席)

●7日〜9日:バラニャオ科学技術大臣独訪問

●13日〜14日:ティメルマン外務大臣ボリビア訪問(第2回人権米州会議出席)

●19日〜20日:ブドゥー副大統領カタール訪問(第13回ドーハ・サミット出席)

●20日:ティメルマン外務大臣チリ訪問

●19日〜23日:フックス亜外務省ホワイト・ヘルメット委員長スイス訪問(国連防災世界会議出席)

●24日:ブドゥー副大統領エクアドル訪問(コレア大統領就任式出席)

●25日:ティメルマン外務大臣エチオピア訪問(アフリカ連合50周年記念式典出席)

●27日〜29日:ジョルジ産業大臣ペルー訪問

●28日〜29日:スアイン筆頭外務副大臣ポーランド訪問(大量破壊兵器拡散禁止イニシアティブ10周年式典,ワルシャワ・ゲットー蜂起70周年追悼式典等出席)

●29日:ブドゥー副大統領及びティメルマン外務大臣イタリア訪問(第55回国際芸術ビエンナーレ出席)

●29日〜31日:ジョルジ産業大臣コロンビア訪問

●30日:ティメルマン外務大臣仏訪問

 

(イ)来訪

●8日〜9日:マドゥーロ・ベネズエラ大統領

●9日〜11日:李源潮中国副主席

●13日:アルマグロ・ウルグアイ外務大臣

●15日〜17日:ルーラ前伯大統領

●28日:ゴンサレス・キューバ外務次官(キューバ・亜外交・経済・領事関係樹立40周年記念式典出席)

●29日:Cheng Xiao Ping中国国家開発銀行副総長

 

(11)今後の主要外交日程

 

●3日〜7日:バラニャオ科学技術大臣中国訪問

●3日:ティメルマン外務大臣米国訪問

●4日:ブドゥー副大統領ハイチ訪問

●5日〜6日:ティメルマン外務大臣グアテマラ訪問(第43回米州機構(OAS)総会出席)

●10日:ラブロフ露外務大臣訪亜

●13日〜14日:ティメルマン外務大臣インドネシア訪問(第6回FEALAC外相会合出席)

●19日:ロッシ国防大臣仏訪問

●ジャウアル農牧・漁業大臣中国訪問

●28日:フェルナンデス大統領ウルグアイ訪問(メルコスール首脳会合出席)