アルゼンチン政治情勢(月1回更新)
アルゼンチン政治情勢(2025年7月)
1 内政
(1)ミレイ政権
●権限委任期間の終了(17日)
ア 8日、政府は、国道局等国有道路関連機関の廃止を発表した。
イ 同日は、2024年7月8日に公布された自由推進法が定める立法府から行政府への一年間の権限委任期間の最終日にあたる(往電第765号)。
ウ 17日、連邦裁判所は、ブエノスアイレス州国道労組の要請に基づき、上記アの廃止命令の半年間の差し止めを決定した。
●農産物の輸出税引き下げに関する発表(26日)
26日、政府は、農産品、牛肉及び鶏肉に対する輸出税の恒久的な引き下げを発表した。今回の発表に際し、ミレイ大統領は、財政黒字の拡大に応じて減税を継続する意向を表明した。
●ミレイ大統領の地方訪問
ア 5日、ミレイ大統領は、チャコ州の州都レシステンシアを訪問し、ズデロ同州知事と共に、福音派教会「Portal del Cielo」の落成式に出席し、演説した。
イ 22日、同大統領は、コルドバ州で開催された与党「自由の前進(LLA)」主催のイベント「Derecha Fest」に出席し演説した。
(2)議会
●年金増額法案の可決(10日)
ア 10日、野党主導の上院特別審議(議員の要請により招集が可能な審議)で開催された特別会期において、年金の7.2%の引き上げを定める法案や障害者支援に関する法案等を可決した(下院通常審議での可決は6月4日)。
イ 上記法案の可決後、ミレイ大統領は、拒否権発動の意向を表明するとともに、議会で拒否権が差し止められた場合、同特別審議の有効性を司法に訴える可能性も示唆した(8月4日、ミレイ大統領はこれらの法案への拒否権を発動)。
(3)ブエノスアイレス州議会選挙
●候補者リスト提出締切と停電(19日)
18日に起きた停電により、ブエノスアイレス州選挙管理委員会は、19日の候補者リスト提出締切を21日14時に延期した。21日、リストが締切られた。
●警察官24名の解任(24日)
24日、キシロフ・ブエノスアイレス州知事は、ブエノスアイレス州議会選挙のLLA候補者と接触したとして、24名の同州警察の警察官を解任した。
(4)その他
●AMIA会館爆破テロ事件31周年記念式典の実施(18日)
18日、1994年の同日に発生した、イスラエル共済組合(AMIA)会館爆破テロ事件の31周年記念式典が、ブエノスアイレス市内のテロ発生場所で行われた。本式典には、ミレイ大統領の他、政権閣僚等の関係者が多く出席した。
●フェンタニル薬害の発生
ア 5月下旬、当地製薬会社HLB Pharma社が製造・販売した臨床用フェンタニルによる細菌感染が原因とみられる死亡事例が、主に首都圏で相次いで発生。
イ 5月27日、連邦判事は、保健省国家医薬品・食品・医療技術監督庁(ANMAT)に対しフェンタニルの汚染ロットの回収・隔離・保全を指示した。
ウ 7月8日には52人の死亡が報告。使用されたフェンタニルのアンプルからは、多剤耐性菌や致死性細菌が検出された。
エ 7月31日、ラプラタ市のイタリア病院(Hospital Italiano、最初に多数の死亡・感染事例が確認された病院)周辺で本件への抗議デモが発生した。
2 外交
(1)首脳級
●ミレイ大統領とモディ印首相との会談(5日)
ア 5日、ミレイ大統領は、アルゼンチンを訪問したモディ印首相と会談した。
イ 上記会談後、両国関係者が同席しての拡大会合が行われ、農業、国防、治安、エネルギー等、様々な分野での関係深化につき協議した。
(2)対米関係
●ノーム米国土安全保障長官のアルゼンチン訪問(28日)
ア 28日、ミレイ大統領、ブルリッチ治安相、ウェルテイン外相等は、アルゼンチンを訪問したノーム米国土安全保障長官と会談した。
イ 本会談で、両国政府の代表者は、米国のビザ免除プログラム(VWP)への参加意向書に署名した。
●ペトリ国防相の訪米(1~4日)
ア 3日、ペトリ国防相は、米国を公式訪問し、ヘグセス米国防長官と会談した。
イ 本会合で、双方は、サイバー防衛、国境保護、軍事の相互運用、戦略的装備に関する新たな協力ラインを含む包括的な協定を締結した。
ウ また、アルゼンチンが、米国から装甲歩兵輸送車「ストライカーM 1126 8×8」を、三段階に分けて取得することが正式に合意された。
●ラメラス次期駐アルゼンチン米国大使に対する米上院公聴会の実施(22日)
ア 22日、米上院外交委員会は、ラメラス次期駐アルゼンチン米国大使に対し、米大統領による指名承認のための公聴会を実施した。
イ 本公聴会で、同次期大使は、アルゼンチンを南米における米国のパートナーと位置づけるとともに、キューバ、ベネズエラ、中国等、民主主義を損なおうとする勢力や独裁政権の影響力に立ち向かう意向を明らかにした。
ウ また、ミレイ政権との関係構築の他、中国の影響力を念頭に、地方政府との関係構築にも取り組む意向を明らかにした。
エ 上記公聴会実施後、キシロフ・ブエノスアイレス州知事等ペロン党系州知事(主にキルチネル派)や当地中国大使館は、同次期大使の発言内容を批判した。
●YPF訴訟
ア 6月30日、NY連邦地裁のプレスカ判事は、2012年のYPF社国有化に関する訴訟を巡り、アルゼンチン政府に対してYPF社株式の51%(60億ドル相当)の14日以内の引き渡しを命じた。
イ 7月10日、アルゼンチン政府が本件に関し控訴した。
ウ 7月18日、米司法省は、法廷助言人として、控訴期間全体にわたり同命令の差し止めを求める意見書を提出した。
(3)メルコスール首脳会合
●メルコスール首脳会合の開催(3日)
ア 3日、ブエノスアイレス市で、第66回メルコスール首脳会合が開催された。
イ 本会合で、ミレイ大統領は、アルゼンチンのメルコスール議長国任期中の成果として、対外共通関税の例外品目リストの拡大及び対外共通関税の見直しに係る提案の前進を強調した。
ウ また、本会合では、マルビーナス(ママ)諸島に関するメルコスール加盟国首脳特別宣言が発出された。
エ なお、2日、メルコスール加盟国(アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ)及び欧州自由貿易協定(EFTA)加盟国(アイスランド、スイス、リヒテンシュタイン、ノルウェー)は、メルコスール首脳会合において、自由貿易協定交渉の完了を発表した。
オ なお、3日、ルーラ・ブラジル大統領は、同会合終了後、ブエノスアイレス市内の自宅で服役中のクリスティーナ・フェルナンデス元大統領を訪問した。
(4)イスラエル・パレスチナ問題
●イスラエルのガザ地区攻撃を懸念するアルゼンチン政府声明(17日)
17日、アルゼンチン政府は、イスラエルがガザ地区唯一のカトリック教会とされる聖家族カトリック教会を攻撃し、同教会で活動するアルゼンチン神父が負傷したことに関し懸念を表明する声明を発出した。
(5)対中関係
●サンタクルス州の水力発電所プロジェクト再開に向けた覚書の署名(18日)
18日、国営エネルギー企業ENARSA社は、サンタクルス州の水力発電所プロジェクトを運営する中国Gezhouba社と、同州のダム建設工事再開に関する覚書に署名した。署名式には、フランコス内閣官房長官、ビダル・サンタクルス州知事、ソカスENARSA社長等が参加した。
(6)要人往来
往訪:
米国:ペトリ国防相(1~3日)
来訪:
ウルグアイ:オルシ大統領(3日、メルコスール首脳会合)、ルベツキン外相(2日、メルコスール共同市場理事会(CMC)会合)、オドネ経済・財務大臣(2日、経済・財務大臣及び中銀総裁会合)
スイス:パルメラン連邦経済・教育・研究大臣(3日、メルコスール首脳会合)
パナマ:ムリノ外相(3日、メルコスール首脳会合)
パラグアイ:ペーニャ大統領(3日、メルコスール首脳会合)、ラミレス外相(2日、メルコスール共同市場理事会(CMC)会合)、フェルナンデス経済・財務大臣、ヒメネス商工相、セントゥリオン公共事業通信相(2日、経済・財務大臣及び中銀総裁会合)
ブラジル:ルーラ大統領(3日、メルコスール首脳会合)、ヴィエイラ外相(2日、メルコスール共同市場理事会(CMC)会合)、アダッジ財相(2日、経済・財務大臣及び中銀総裁会合)
ボリビア:アルセ大統領(3日、メルコスール首脳会合)、ソサ外相(2日、メルコスール共同市場理事会(CMC)会合)
印:モディ首相(5日)
米国:ノーム米国土安全保障長官(27~29日)
(了)