I 概要
(1)内政面では,下院本会議において尊厳死合法化法案及び性別変更合法化法案が可決された他,上院ではロケス上院議員が次期議長代理に選出された。また,カトリック司教会議の次期執行部が選出された。その他,アルゼンチン航空の経営陣と航空整備士労組との間で対立が生じ,フェルナンデス政権は同経営陣を支持し,同労組に対し批判的な姿勢を示した。
(2)外交面では,フェルナンデス大統領がフランスを訪問してG20カンヌ・サミットに出席した他,同地においてオバマ米大統領と会談した。また,亜において米州機構(OAS)第50回全米麻薬濫用取締委員会(CICAD)会合及び南米諸国連合(UNASUR)第2回経済・財務評議会会合が開催された。その他,プリチェリ国防相は,UNASUR国防評議会会合に出席するためペルーを訪問した。
TT 内政
1 国会の動向
(1)9日,下院の予算委員会において2012年予算法案が審議されたところ,同法案の本会議での審議を承認するキルチネル派の意見書が賛成多数を占め採択された。
(2)30日,下院本会議において尊厳死合法化法案が審議されたところ,賛成票142,反対票6,棄権2により可決され,上院に送付された。
(3)同日,下院本会議において性別変更合法化法案が審議されたところ,賛成票167,反対票17,棄権7により可決され,上院に送付された。同法案は,各人の性別の自覚に応じて,身分証明書等に登録される性別や名前を変更することを可能にするもの。
2 次期上院議長代理等の選出
(1)30日,上院において,新任議員の就任式が開催され,その場で同院の次期議長代理及び副議長が下記の通り選出された。
(ア)議長代理:ロケス上院議員(ペロン党キルチネル派)(注:アルペロビッチ・トゥクマン州知事の夫人であり,ペロン党同州支部代表兼ペロン党第3副党首。)
(イ)副議長:モラレス上院議員(急進党)
(注:上院議長は副大統領が兼任する旨憲法において定められている。)
(2)なお,副議長の下位の役職である第1副議長及び第2副議長については,来年2月に開催される準備セッションにおいて選出されることになる(注:上院の執行部を選出するための準備セッションは毎年2月24日に開催される旨,上院規則において規定されている。議長代理及び副議長も同日に選出されるのが通例であった)。
3 カトリック司教会議の次期執行部選出
(1)7〜12日,亜カトリック司教会議の総会が開催され,8日,同会議の次期執行部(任期は2012〜2014年の3年間)が下記の通り選出された。
(ア)会長:アランセド・サンタフェ市大司教区大司教(現司教会議第2副会長)
(イ)第1副会長:ブレッサネリ・ネウケン州大司教区大司教
(ウ)第2副会長:カルニェロ・サルタ州大司教区大司教
(エ)事務局長:エギア・セギ・ブエノスアイレス市大司教区補佐司教(再選)
(2)アランセド次期会長の選出を受け,当地各紙は,現在の司教会議会長であるベルゴグリオ枢機卿(ブエノスアイレス市大司教区大司教)がキルチネル派政権に対して常に批判的な姿勢を取ってきたのに対し,アランセド次期会長はより穏健な人物で,政府との関係においても対話や協調を重視すると考えられることから,政府と教会との間の関係が改善に向かうことが見込まれる旨報じた。
(3)10日,フェルナンデス大統領は,大統領府において,アランセド次期会長を始めとする司教会議の次期執行部らと会談した(フェルナンデス首相,ティメルマン外相等同席)。同会談の後,アランセド次期会長は,「とても良い会談であった」旨述べた。
4 アルゼンチン航空を巡る問題
(1)12〜13日,アルゼンチン航空の国際線が全面的に欠航となり,その後の運航にも大幅な乱れが生じた。スキアビ公共事業省運輸長官,レカルデ・アルゼンチン航空社長(注:キルチネル派若手グループ「ラ・カンポラ」の主要メンバーの一人)等は,上記欠航の原因は航空整備士労組のストライキであるとして同労組を批判した。これに対し,シリエリ航空整備士労組書記長は,ストライキなど行っていない旨主張し,スキアビ長官,レカルデ社長等の上記発言を虚言であるとして批判した。
(2)14日,フェルナンデス大統領は,トマダ労働相,デビード公共事業相,スキアビ長官及びレカルデ社長と上記問題について協議した由であり,その後,トマダ労働相は,司法府に対し,航空整備士労組が不当なストライキを行っている旨告発し,同労組の法人格を取り消すよう求めた由。
(3)15日,労働総同盟(CGT)は,上記問題に関して航空整備士労組を支持する旨表明し,同労組の法人格の取り消しを求めたフェルナンデス政権の上記措置を批判するコミュニケを発出した(注:なお,航空整備士労組は,モジャーノ書記長が率いるCGTに所属する労組ではなく,バリオヌエボ飲食業労組書記長が率いる「CGT青と白」(ドゥアルデ派)に所属する労組)。また,亜労働者連盟(CTA)ミチェリ派(注:反キルチネル派),「CGT青と白」等も同様のコミュニケを発出した。
5 ペロン党全国大会
17日,サンタクルス州においてペロン党全国大会が開催された。同大会において,キルチネル前大統領を追悼するための式典が実施された他,フェルナンデス大統領に対するペロン党員の支持等を表明する文書が採択された。
III 外交
1 外務省人事
(1)7日付亜外務省プレスリリースは,フェルナンデス大統領が,クレックレル外務副大臣(通商・国際経済担当)を次期駐ブラジル大使に任命した旨発表した。
(2)9日付亜外務省プレスリリースは,フェルナンデス大統領が,アルグエジョ国連代表部大使をキアラディア駐米大使の後任に任命した旨発表した。なお,キアラディア駐米大使は,個人的事情を理由として辞表を提出していた。
2 米国
(1)1日,フェルナンデス大統領は,クリントン米国務長官の母親の逝去に関し,同長官宛てに亜政府と亜国民の弔意を表明する書簡を送付した。
(2)4日,G20サミットに出席するためフランスを訪問したフェルナンデス大統領は,オバマ米大統領と55分間に亘り会談した。同会談には,亜側から,ティメルマン外相,スコッチマーラ大統領府報道官,ロレンシノ経済省金融長官及びアボナ訟務長官が,米側から,レストレポ西半球担当大統領補佐官,ホーマッツ経済担当国務次官,ドニロン国家安全保障担当大統領補佐官及びブレイナード財務次官が同席した。両大統領は,これまでに生じた二国間問題を克服し,二国間関係を活性化させるために必要な都度,首脳間及び閣僚間で対話を行うことで合意するとともに,経済・社会・科学技術・安全保障分野における協力,テロ・麻薬・人身売買に対する闘いへのコミット,次期米州サミットのアジェンダ等につき協議した。また,フェルナンデス大統領は,米国の黒字となっている二国間貿易収支の均衡を図る必要性につき述べ,それに対し,オバマ大統領は,特に農牧分野の亜産品に米市場を開放することを検討する旨約束した。
(3)17日,カントリーマン米国務次官補(国際安全保障・不拡散局担当)が訪亜し,ダロット筆頭外務副大臣と会談した。両者は,核不拡散,12月5〜22日にジュネーブにおいて開催される生物兵器禁止条約(BWC)第7回運用検討会議等につき協議した。
3 G20
(1)2〜4日,フェルナンデス大統領は,大統領再選後初の外遊として,G20カンヌ・サミットに出席するためフランスを訪問した。3〜4日,フェルナンデス大統領は,G20サミットに出席し,信用格付会社の規制の必要性,緊縮財政政策に反対する亜の立場,雇用を保障し消費を刺激することの重要性,ギリシャ財政危機への根本的解決策を見つける必要性,タックスヘイブンの廃止を条件とした国際金融取引税に対する亜の支持等につき発言した。
(2)また,2日,フェルナンデス大統領は,ビジネス・サミット(B20)に出席し,食料安全保障に関する演説を行い,亜における食料安全政策,雇用を保障しながらの食料安全保障の重要性,実体経済への資金投入の必要性,投機を規制する必要性,真に規制が必要であるのは一次産品市場ではなく金融市場であること,緊縮財政政策ではなく消費刺激政策が重要であること等につき述べた。なお,B20には,亜経済界から,デ・メンディグレン亜工業連盟(UIA)会長やエウルネキアン亜商工会議所副会頭等が出席した。
(3)更に,3日,フェルナンデス大統領は,バロウ国際労働組合総連合(ITUC)書記長,メンデス・スペイン労働者総同盟(UGT)書記長,フェリシオ・ブラジル中央統一労働組合(CUT)書記長等の労組関係者と会合した。亜労組からは,マルティネス労働総同盟(CGT)国際関係局長及びジャスキー亜労働者連盟(CTA)書記長が出席した。労組側は,フェルナンデス大統領に対し,各国の経済状況に対する懸念を表明した。また,バロウ書記長は,フェルナンデス大統領の再選を祝福するとともに,同大統領の雇用重視の姿勢を賞賛した。
4 米州機構(OAS)
2〜4日,ブエノスアイレス市において,OAS第50回全米麻薬濫用取締委員会(CICAD)会合が開催された。今次会合はCICAD設立25周年を記念しての開催ともなった。議長を務めたダロット筆頭外務副大臣は,今次会合に出席するため訪亜したインスルサOAS事務局長と会談し,CICADに関するテーマ,17〜18日にトリニダード・トバゴにて開催のOAS第3回治安関係閣僚会議,OAS憲章及び米州人権委員会につき協議した。
5 ベトナム
5日,アン・ベトナム産業貿易副大臣が訪亜し,ビアンチ産業省商工長官と会談した。両者は,二国間貿易を強化するために,貿易分野における技術協力の推進や,貿易情報の交換を行うことで合意した。
6 ノルウェー
7日,アイデ・ノルウェー外務副大臣が訪亜し,国際人道法の枠組みにおける文民擁護に関する亜・ノルウェー共催セミナー開会式に出席したほか,ダロット筆頭外務副大臣と会談した。両者は,二国間貿易・投資促進のための今後の措置,G20,国連安保理改革,人権,パレスチナ情勢,リビア情勢,南極分野における協力等につき協議した。
7 エルサルバドル
亜政府は,8日付外務省プレスリリースを通じ,エルサルバドルでの洪水被害に関し,エルサルバドル政府からの要請を受け,ホワイト・ヘルメット委員会(注:国連の下で活動する当国緊急援助隊)を通じて,緊急人道支援物資(テント10張り,8百万リットル分の水の浄化剤及び毛布千枚)を送付するとともに,緊急援助チームを派遣したこと,また,ニカラグア及びホンジュラスに対しても,水の浄化剤,毛布,テント等の物資を送付したことを発表した。
8 南アフリカ
9日,デービス・南アフリカ貿易産業相が訪亜し,ティメルマン外相とともに亜・南アフリカ合同委員会セミナーに出席した。ティメルマン外相は,2005年の亜・南アフリカ合同委員会設置に関する協定署名以降,二国間関係は大きく進展した旨述べるとともに,亜外交における南アフリカの重要性につき説明した。また,ティメルマン外相は,デービス産業相に対し,フォークランド(マルビナス)諸島領有権問題に関する南アフリカの支持に謝意を表明した。
9 南米諸国連合
(1)10〜11日,プリチェリ国防相は,ペルーを訪問し,11日,南米諸国連合(UNASUR)国防評議会会合に出席した。同会合において,訓練用飛行機の南米における開発・生産,及び南米宇宙機関の創設という2つの亜提案が採択された。また,プリチェリ国防相は,アモリン・ブラジル国防相,フィゲロア・ベネズエラ国防相,ポンセ・エクアドル国防相及びセバージョス・ペルー国防相とそれぞれ二国間会談を行った。
(2)25日,ブエノスアイレス市において,UNASUR第2回経済・財務評議会会合が開催され,域内貿易促進のための措置,自国通貨決裁メカニズム等につき協議された。同会合には,ブドゥー経済相,マルコ・デル・ポント中銀総裁,メヒーアUNASUR事務局長,ボルダ・パラグアイ蔵相等が出席した。
10 ドイツ
14〜15日:クレッチュマン・ドイツ・バーデン=ヴュルテンベルク州首相は,企業関係者,科学者等約130名から成る貿易・投資ミッションを率いて訪亜した。15日,同州首相は,ティメルマン外相と会談した。
11 イスラエル
15日:メリドール・イスラエル副首相兼諜報相が訪亜し,ティメルマン外相と会談した。両者は,二国間関係における諸点をレビューしたほか,中東情勢につき分析した。
12 要人往来
(1)往訪
2〜4日 |
フェルナンデス大統領のフランス訪問(G20カンヌ・サミットに出席) |
4日 |
バッソ農牧漁業省農牧漁業庁長官の中国訪問(于康震(Yu Kangzhen)中国農業部国家首席獣医官と会談) |
10〜11日 |
プリチェリ国防相のペルー訪問(UNASUR国防評議会会合に出席) |
24日 |
ビアンチ商工長官のブラジル訪問(テイシェイラ・ブラジル開発商工省次官と会談) |
25日 |
アラク司法相及びガレ治安相のウルグアイ訪問(第36回メルコスール司法相・内相会合に出席) |
(2)来訪
2〜4日 |
インスルサOAS事務局長(第50回CICAD会合に出席) |
5日 |
アン・ベトナム産業貿易副大臣(ビアンチ産業省商工長官と会談) |
7日 |
アイデ・ノルウェー外務副大臣(ダロット筆頭外務副大臣と会談) |
9日 |
デービス・南アフリカ貿易産業相(亜・南アフリカ合同委員会セミナーに出席) |
11日 |
ムヒカ・ウルグアイ大統領(ラヌス大学名誉博士号授与式に出席) |
14日 |
クレッチュマン・ドイツ・バーデン=ヴュルテンベルク州首相(ティメルマン外相と会談) |
15日 |
メリドール・イスラエル副首相兼諜報長(ティメルマン外相と会談) |
17日 |
カントリーマン米国務次官補(国際安全保障・不拡散局担当)(ダロット筆頭外務副大臣と会談) |
25日 |
UNASUR諸国経済相・中央銀行総裁(第2回UNASUR経済・財務評議会会合に出席) |