アルゼンチン政治情勢(月1回更新)
アルゼンチン政治情勢(2025年8月)
1 内政
(1)ミレイ政権
●国家障害者庁(ANDIS)を巡る汚職疑惑(20日)
ア 20日以降、スパヌオロ国家障害者庁(ANDIS)長官(当時、21日に解任)の発言とされる音声が流出。その中で、医薬品供給に関する贈収賄疑惑の関係者として、カリーナ・ミレイ大統領府長官、メネム大統領府次官及びメネム下院議長の名前に言及があったとされた。
イ 21日、政府はスパヌオロ長官を解任し、ビルチェス保健副大臣(衛生管理担当)をANDIS監査官に任命した。
ウ 25日、カサネロ連邦判事は、スパヌオロ前長官やANDISへの医薬品の供給元とされるアルゼンチン企業のスイソ・アルヘンティーナ社CEO等本件関係者の口座凍結、国外出国禁止、家宅捜索、携帯電話の提出等を要請した。
エ 27日、フランコス内閣官房長官は、下院における議会答弁に出席した際、本件は野党による政治工作であると主張した。
オ 28日、下記の投石事件の発生直後、ミレイ大統領はメディアに対し、「スパヌオロ(前長官)の発言は全て嘘である」と主張した。音声流出後に同大統領が直接的な言及を行ったのは、同日が初めて。
カ なお、20日に障害者支援法案への大統領拒否を覆すことに賛成票を投じた与党「自由の前進(LLA)」の一部議員は、本件汚職疑惑等を理由として、下院LLA会派からの離脱及び新会派の設立を発表した。
●経済省の組織改編
ア 6日、マルソラティ経済副大臣(産業・商業担当)及びアジェラ経済副大臣(中小企業・起業家・知識経済担当)が辞任した。
イ 18日、国立工業技術院(INTI)、国立農牧技術院(INTA)等の機関の機能を、経済省内の関連部局に再編する政令が公布された(後に下院で承認されず)。
(2)議会
●年金増額法案及び障害者支援法案に対する大統領拒否権の発動を巡る動き
ア 4日、ミレイ大統領は、7月に上院が野党主導の特別議会で可決した、年金の引き上げや障害者支援等を拡充する法案に対し拒否権を発動した。
イ 6日、下院は、大学予算の増額や小児科における緊急事態宣言に関する法案(5月以降、小児科専門病院の研修医が最低賃金の改善を求めるデモが頻発)を可決した。また、INTI、INTA等の政府機関の再編を命じる大統領令を否決した。
ウ 8日、ミレイ大統領は、現政権の経済政策の成果をアピールしつつ、財源の裏付けなく一連の公共支出拡大を要する法案を可決した議会(主にペロン党等の野党)を批判した。また、財政赤字の原因となる国家予算の承認を犯罪とする法案を議会に送付予定の旨発表し、議会及び国民に、現政権への支持を呼びかけた。
エ 20日、下院は、障害者支援法案に対する大統領拒否権の拒否権を覆した。
オ 21日、上院は、大学予算増額法案及び小児科緊急事態法案を可決し、INTI、INTA、国道局等の機関の組織再編に係る5つの大統領令を否決。
(3)地方選挙関連
●投石事件の発生(28日)
ア 28日、ブエノスアイレス州ローマス・デ・サモラ市で、ミレイ大統領、カリーナ・ミレイ大統領府長官、エスペール下院議員(中間選挙における同州選出下院議員筆頭候補)等は、選挙カーを用いた街頭での選挙キャンペーンを行った。
イ 大統領一行の周囲には与野党の支持者が多く集まり、両勢力間での衝突が見られた。その最中、野党支持者等から大統領一行に向けた投石が発生した。
ウ ミレイ大統領等は、これを野党の攻撃として強く非難した。
●コリエンテス州知事選挙(31日)
31日、コリエンテス州知事選挙が行われ、バルデス現同州知事の実弟であるバルデス・イトゥサインゴ市長が得票率51.89%で当選した。第2位は19.97%でアスクア候補(ペロン党)が、第3位には16.69%でコロンビ元同州知事が続き、与党LLAから出馬したアルミロン下院議員は9.51%で第4位であった。投票率は72.4%とされる。
(4)その他
●航空管制ストの実施(22日)
ア 19日、航空管制労組(ATEPSA)は、22日以降、隔日で計5日間、全国的な航空管制のストライキを実施することを発表した。
イ 22日、24日、26日、ストライキが実施され、2万人以上の乗客に影響が生じた。
ウ 27日、ATEPSAは政府と協議することを発表し、28日のストライキを解除した。両者の協議後、同労組は、予定していた30日のストライキの解除を発表した。
●フェンタニル薬害
ア 12日、連邦裁判所は、5月末に確認されたフェンタニル薬害により、少なくとも96名が死亡したとの見解を発表した。他方、アルゼンチン政府は14日、汚染されたフェンタニルによる死者数を100名以上とする見解を発表。
イ 21日、同裁判所裁は、ガルシア・フルファロHLB Pharma社オーナー及びその家族に逮捕命令を発出。同日、同氏はエセイサ空港警察に出頭し逮捕された。
ウ 29日、世界保健機関(WHO)は、アルゼンチン製フェンタニル6ロットを対象とする医療アラートを発出した。
2 外交
(1)首脳級
●ミレイ大統領とノボア・エクアドル大統領との会談(5日)
ア 5日、ミレイ大統領は、アルゼンチンを訪問したノボア・エクアドル大統領と会談し、安全保障、貿易、教育等の分野での二国間関係強化につき協議した。
イ 本会合では、犯罪組織への対処のための協力を目的とした協定や汚職に対処するための二国間協力強化を目的とした協定、マネーロンダリング、テロ資金供与及びその他の犯罪に関する覚書等が署名された。
(2)対米関係
●南米防衛会議(SOUTHDEC)の開催(20日)
ア 20日、ブエノスアイレス市内で、南米防衛会議(SOUTHDEC)が、当地統合参謀本部と米南方軍の共催で開催された。
イ 本会合では、アイザック統合参謀本部長やホールジー米南方軍司令官等が登壇し、中国や国際的な犯罪組織等の国家主権を脅かす脅威に対抗するため、軍の強化の重要性等を強調した。
(3)その他
●サッカーの試合における流血事件の発生(20日)
ア 20日、ブエノスアイレス州内で行われた、サッカーの南米クラブリーグの当地クラブ対チリの試合中、双方のサポーター間で流血を伴う衝突が発生した。負傷者は20名以上、逮捕者は90名以上とされる。
イ 21日、本件の発生を受け、ブルリッチ治安相は、当地を訪問したエリサルデ・チリ内相と会談した。その後、両大臣は、共同記者会見を行った。
ウ また、キシロフ同州知事もエリサルデ内相と会談した。
●アルゼンチン政府による「太陽のカルテル」のテロ組織指定(26日)
26日、アルゼンチン政府は、ベネズエラの「太陽のカルテル(Cartel de los Soles)」をテロ組織に指定した旨発表した。
(4)要人往来
往訪:
米国:ラビグネ経済省調整担当長官(生産・商業・産業・農業総括担当)、クレクレル前外務副大臣(13日、二国間関税交渉)
来訪:
エクアドル:ノボア大統領、レインベルク内相、ソメルフェルド外相、ハラミージョ生産貿易投資漁業相(21日、二国間会合)
チリ:エリサルデ内相(21日、サッカーの試合中の暴動に関する二国間協議)
(了)