1 概要
(1)内政:10月に実施される国会議員選挙の候補者を選出するための予備選挙(8月11日実施)に出馬する政党及び選挙連合の登録が締め切られ,同予備選挙の立候補者の顔ぶれが明らかになった。フェルナンデス大統領が推し進めた「司法の民主化」改革に関し,最高裁判所は同改革の目玉となった「司法評議会改革法」の4条項に対して「違憲」判決を下した。経済刑事口頭裁判所は,メネム元大統領が,在職中にクロアチア及びエクアドルに武器及び軍需品を密売したとして,同元大統領に対し,懲役7年を言い渡した。サルミエント線カステラ−ル駅の手前で列車同士の衝突事故が発生し,3名が死亡,315名が負傷した。
(2)外交:第43回米州機構総会において,フォークランド(マルビナス)諸島領有権問題の平和的解決に向けた,亜・英国間の交渉再開を呼びかける内容が盛り込まれた共同宣言が採択された(ティメルマン外相出席)。ティメルマン外相は国連非植民地化特別委員会会合に出席し,フォークランド(マルビナス)諸島領有権問題に関する亜政府の立場を主張するプレゼンテーションを行った。その他,第6回FEALAC外相会合出席の為,インドネシアを訪問したティメルマン外相は,ユドヨノ・インドネシア大統領を表敬した。また,同外相はインドを公式訪問し,クルシード・インド外相と会談した。当地を公式訪問したラブロフ露外相は,フェルナンデス大統領及びティメルマン外相と会談した。ガルッチオYPF社CEO及びラミレス・ベネズエラ石油鉱業大臣(兼PDVSA総裁)は,両国の炭化水素エネルギー分野での共同プロジェクトにおける戦略的協力関係を具体化する目的で,カラカスにおいて覚書への署名を行った。
2 内政
(1)2013年国会議員選挙:予備選挙の動向
(ア)12日,10月に実施される国会議員選挙(上院8選挙区24議席改選,下院全24選挙区127議席改選)の候補者を選出するための予備選挙(8月11日実施)に出馬する政党及び選挙連合の登録が締め切られ,22日,同予備選挙の候補者登録が締め切られた。
(イ)有権者数が最も多いことから改選議席数が国内最多であり,混戦が予想されるブエノスアイレス州選挙区(注:下院議員選挙のみ実施,改選議席数は35議席)では,全部で10の政党及び選挙連合が出馬登録を行った(注:右の10の政党及び選挙連合の内,5つがペロニズム系の連合となっている)。当地報道では,マサ・ティグレ市長が,フェルナンデス大統領の選挙連合であるPJ「勝利のための戦線」(Frente para la Victoria)を離脱し,自身の選挙連合「刷新戦線」(Frente Renovador)を立ち上げた点が最も注目された。内務・運輸省に登録された同州の主要な政党及び選挙連合の名称,並びに当地報道の情報に基づく各党,各連合の主要候補者名は以下の通り(注:内務・運輸省による各党・各連合の主要候補者名の発表は,7月14日現在,まだ行われていない)。
(@)PJ「勝利のための戦線」(Frente para la Victoria)
主な候補者は,インサウラルデ市長(ブエノスアイレス州ローマス・デ・サモラ市長)を筆頭に,ディ・トゥリオ下院議員(「勝利のための戦線」下院院内総務),マガリオ・マタンサ市議会議長,エクトル・レカルデ下院議員(マリアノ・レカルデ・アルゼンチン航空社長の父親),(中略)クンケル下院議員,(中略)コンティ下院議員等(注:亜の選挙制度では,各政党及び選挙連合の得票率に応じて,リストの上位に名前が記載されている人から順に比例で当選していく仕組みになっている)。
(A)「刷新戦線」(Frente Renovador)
主な候補者は,マサ市長(ブエノスアイレス州ティグレ市長)を筆頭に,ヒウストッシ市長(ブエノスアイレス州アルミランテ・ブラウン市長),トゥンディス元ジャーナリスト(クラリン・グループの元ジャーナリスト),フェリペ・ソラ下院議員,メンディグレン亜工業連盟元会長(注:現在、亜工業連盟の秘書として登録されているが,今回の出馬に当たって秘書職を休職した),(中略)アドリアン・ペレス下院議員(元「市民連合」所属の下院議員),グスマン市長(ブエノスアイレス州エスコバル市長)等。
(B)「自由と労働のための連合戦線」(Frente Unidos por la Libertad y el Trabajo)
主な候補者は,デ・ナルバエス下院議員及びプライニ・新聞販売労組代表等(注:この連合にモジャーノ労働総同盟(CGT)書記長兼トラック労組代表が所属している)。
(C)「革新・市民・社会戦線」(Frente Progresista, Cívico y Social)
主な候補者は,エストルビッセル下院議員(社会党系のGEN党)及びリカルド・アルフォンシン下院議員(急進党)等。
(ウ)当地報道では,フェルナンデス大統領が,マサ市長の離脱及び出馬を意識して,自身の選挙連合「勝利のための戦線」の筆頭候補にインサウラルデ市長を置いた点が注目された(注:同市長が治めるローマス・デ・サモラ市は,州内でも人口が多い市)。なお,反キルチネル派のデ・ナルバエス候補の選挙連合に対し,水面下で資金協力をしていると報じられているシオリ・ブエノスアイレス州知事に関しては,同州知事が所属する「勝利のための戦線」の候補者リストに,同州知事の派閥が入っていない点が注目された。
(エ)上院及び下院議員選挙が実施されるブエノスアイレス市では,「共和国提案連合」(Unión PRO),「勝利のための戦線」及びUNEN(「市民連合・ARI」,「南プロジェクト」,「急進党」及び「社会党」等の連合)等,全部で10の政党及び選挙連合が出馬登録を行った(注:同市における改選議席数は,上院3議席及び下院13議席)。
(2)司法の民主化:「司法評議会改革法」の一部の条項に対する最高裁の違憲判決
(ア)11日,セルビーニ・デ・クブリーア連邦第一審裁判所(選挙部)判事は, 政府が推し進めた「司法の民主化」改革の目玉の一つである「司法評議会改革法」(法律第26,855号,5月8日成立,5月27日官報掲載,同日施行)の第2条,第4条,第18条及び第30条を「違憲」と判断した上で,5月27日の官報に掲載された政令第577号(司法評議会の一部のメンバー(判事,弁護士及び学者枠)の選挙の公示)を無効とし,司法評議会メンバーに関する右選挙の実施不可を言い渡した。違憲とされた条項の主な内容は以下の通り。
(@)第2条:司法評議会のメンバーを13名から19名に増員する(注:法案成立以前の司法評議会は,行政府の代表1名,立法府の代表6名(上院から3名,下院から3名),判事3名,弁護士2名,学者1名の計13名で構成されていたが,新法成立により,弁護士が2名から3名に増員,学者が1名から6名に増員され,合計19名で構成されることになっていた)。
(A)第4条:司法評議会のメンバーのうち,判事,弁護士及び学者の枠のメンバーを,4年に一度行われる大統領選挙と同時に,選挙によって選出する。
(B)第18条:司法評議会メンバーの選挙に関し,第1回目の選挙である本年は,例外的に大統領選挙ではなく,国会議員選挙(8月予備選挙,10月本選挙)と同時に選挙を実施することとし,「司法評議会改革法」にある「大統領選挙と同時に選出する」という規定は適用されない。
(C)第30条:「司法評議会改革法」の公布は,司法評議会の一部のメンバーの候補者を選出する予備選挙の公示を伴うものである。
(イ)13日,政府はセルビーニ・デ・クブリーア連邦第一審裁判所(選挙部)判事の上記判決を不服とし,第一審から最高裁への直接の跳躍上告を申し立てた。同日,最高裁は右跳躍上告を許可した。
(ウ)18日,最高裁判所は,第一審のセルビーニ・デ・クブリーア連邦判事(選挙部)の判決をそのまま支持し,「司法評議会改革法」の第2条,第4条,第18条及び第30条を「違憲」と判断した。その理由として,最高裁は「現行の憲法は,判事選出の際のプロセスの脱政治化を謳っており,政治家及び政党と結びついた判事の選出システムを放棄している。(中略)また,司法の民主的正当性は憲法によって付与されるものであり,国民の直接投票によって保障されるものではない。(中略)仮に判事が選挙に出馬すれば,政党に属することになり,判事としての独立性が失われることになる」と指摘した。
(エ)最高裁の上記違憲判決により,司法評議会の一部のメンバーを国民が直接投票により選ぶ選挙が実施されないことになった他,「司法評議会改革法」のうち,上記の(@)〜(C)の4つの条項に関しては,右改革法施行以前の内容に戻されることとなった。なお,今回の最高裁の判決は,8月と10月に予定されている国会議員予備選挙及び同本選挙の実施には何ら影響を与えない。
(オ)今回の違憲判決に関し,最高裁判事全7名の内,ロレンゼッティ最高裁長官を含む6名が,「司法評議会改革法」の上記4条項を「違憲」と判断したのに対し,フェルナンデス政権に立場が近いとされているサファロニ判事は,同4条項を「合憲」と判断した。
(カ)今回,最高裁では,第一審のセルビーニ・デ・クブリーア連邦判事(選挙部)が違憲とした第2条,第4条,第18条及び第30条に関する審議のみが行われたため,法曹界や野党等,各方面から違憲性が指摘されていた別の条項(第6条第7項及び第15項:司法評議会による判事候補者の選出及び判事の罷免手続きの開始の決定等に必要な得票数を,3分の2以上から2分の1以上に引き下げる条項)に関しては,特段の判断はなされなかった。右条項については,フルナリ第一審連邦判事(行政訴訟部)により,17日に違憲判決が出されており,今後,上級審でその違憲性の有無が審議されることとなる。
(キ)20日,フェルナンデス大統領はサンタフェ州ロサリオ市で行われた「国旗の日」(別名,「マヌエル・ベルグラーノ将軍の日」)の演説の中で,「司法評議会改革法」の4条項に対して最高裁判所が下した違憲判決に言及し,同大統領自らが推し進めた改革を阻んだ司法を強く批判した。同演説の概要は以下の通り。
(@)民意が如何なる権力にも勝ることを真に望むのは素晴らしいことである。21世紀にもなって,(最高裁の違憲判決により)亜国民が(「司法評議会」の一部のメンバーを選出する)投票権を妨げられるとは,実に理解に苦しむことである。遅かれ早かれ,右投票権を我々(亜国民)が獲得する日がやって来る。何故なら,それこそが,行政,立法及び司法の国家三権を民主化するという約束だからである。
(A)今回は(最高裁の違憲判決により)民主主義と国家組織にとって重要な機会を逃すこととなったが,自分(「フェ」大統領)は(次の機会を)待つつもりである。亜の歴史における自分(同)の役割は,「民主的な司法」及び「正当且つ健全な司法」に関する議論を開始したということであり,(右を達成するために,)自分(同)は如何なる困難をも乗り越える所存である。
(3)政府による最高裁に対する圧力
(ア)18日の最高裁による「司法評議会改革法」の4条項に対する違憲判決(上記(2)の(ウ))以降,連邦歳入庁(AFIP)が,ロレンゼッティ最高裁長官及びその子息の脱税疑惑を非公式に調査しているとの報道が流れた。
(イ)24日,ロレンゼッティ最高裁長官は,他の最高裁判事等と会合した際,上記のAFIPによる調査の存在につき言及した。これに対し,26日,AFIP側は右調査の存在を否定した。当地報道は,同脱税調査の開始は,最高裁が下した上記の違憲判決に因るものとの見方を示した上で,政府にとって関心のある訴訟(注:放送法改正法の一部条項の違憲性をめぐる裁判,亜農牧協会所有の大型展覧会施設「ラ・ルラール」の再国有化をめぐる裁判,年金の未払い問題をめぐる裁判等)で政府寄りの判決を下すよう,政府が最高裁に対して圧力をかけているとの見方を示した(注:7月1日,AFIPのエチェガライ長官は,ロレンゼッティ最高裁長官の息子が経営する株式会社が,プエルトマデロの不動産を購入した際のオペレーションにつき調査していることを認めた)。
(ウ)27日,キルチネル派のクンケル下院議員は,現在,最高裁が有している司法組織の予算管理の権限を,最高裁から司法評議会に移す内容を定めた法案を下院に提出した。右動きに関しても,当地報道は,上記の最高裁による違憲判決に対する政府の「復讐」との趣で報じた。
(4)メネム元大統領に対する有罪判決
(ア)13日,経済刑事口頭裁判所(注:第一審にあたる)は,メネム元大統領が在職中(1989〜1999年)に当たる1991年及び1995年に3つの秘密の政令を発出し,パナマ及びベネズエラ向けに武器を輸出すると偽って,クロアチア及びエクアドルに対して,6,500トンの武器及び軍需品を密売したとして,メネム元大統領に対して最も重い懲役7年,カミリオン元国防大臣に対して懲役5年半,その他,公営軍需工場の元幹部等10名に対して懲役4〜5年の有罪判決を宣告した(注:メネム元大統領(82歳)は,同日,高血圧,動脈硬化,糖尿病及び不安神経症といった健康上の理由により出廷しなかった。また,カミリオン元国防大臣(83歳)も腎不全により出廷しなかった)。
(イ)本件に関しては,2011年9月に経済刑事口頭裁判所が,メネム元大統領等に対し無罪判決を下していたが,本年3月に,連邦上級控訴裁判所が右判決を覆し,有罪を認めた上で,4〜12年の範囲で刑期を確定するよう,経済刑事口頭裁判所に指示していた。このため,経済刑事口頭裁判所に本訴訟が差し戻され,その結果として,今回,同裁判所により,メネム元大統領に対し,刑期7年の有罪判決が下された。当地報道によると,メネム元大統領側は,今回の判決を不服として上訴手続きに入った。
(ウ)今回の有罪判決により,メネム元大統領は,83年の亜の民政移管後に誕生した大統領として,初めて汚職により実刑判決を受けた大統領となった。同元大統領は現在,ラ・リオハ州選出の連邦上院議員であり(任期は2017年まで),議員特権を有しているため,上院の許諾がなければ逮捕はされない。服役することになる場合は,刑確定後に上院が逮捕を承認してからとなる。また亜では,法律により,70歳以上の者や病気を患っている者に対しては,自宅軟禁もしくは病院での服役等が認められる場合があるとされているため,当地報道は,メネム元大統領が服役するとなると,自宅軟禁になる可能性が高いと報じた。
(5)サルミエント線カステラ−ル駅手前での列車同士の衝突事故
(ア)13日午前7時7分,サルミエント線カステラ−ル駅(ブエノスアイレス州モロン市)の350m手前で,モレーノ駅に向かう為に一時停止し,発車目前であった乗客を乗せた電車(Chapa19)に,同じくモレーノ駅に向かっていた乗客を乗せた電車(Chapa1)が後ろから衝突し,死者3名(男性2名,女性1名),負傷者315名が発生した。
(イ)13日,ランダッソ内務・運輸大臣は記者会見を行い,今回の事故原因等に関し,詳細は実況見分及び捜査を経てから判明するとしたものの,後続電車の運転手の運転ミスの可能性を示唆した。同日夜に住宅建設融資プランに関する演説を行ったフェルナンデス大統領も,同演説の最後に今回の事故に言及し,哀悼の意を表明するとともに「(政府が鉄道政策に力を入れているにもかかわらず,今回のような事故が発生したということで)若干の怒りと無力感を感じる」と発言した。
(ウ)内務・運輸省プレスリリースによると,追突した編成(Chapa1)は,2012年第1四半期に車両全体の整備・点検を受けたばかりであり,その際には,ブレーキが性能のよいものに交換されていた。全地球測位システム(GPS)の確認によると,事故を起こした電車(Chapa1)は,(モレーノ駅より前の)フローレス駅,リニエルス駅及びモロン駅では特段問題無く停車していたが,モロン駅を過ぎた辺りから同編成の速度計が上昇の一途を辿り始め,停車中の電車(Chapa19)に衝突する前には,「減速」を意味する黄色信号1機及び「停車」を意味する赤信号2機を通過していたにも関わらず,事故電車のスピードは落ちず,衝突時には,時速62キロで走行していたと発表された。
(エ)他方,鉄道労組(Union Ferroviaria)のソブレロ代表は,Chapa1は半年間,ブレーキの故障により整備場に入っており,今回の事故の数日前にカステラ−ル駅とモレーノ駅の間で運転を再開したが,再びブレーキの問題が発生したため,その旨,サルミエント線の運行を担っているミトレ・サルミエント運営組織(UGOMS)に報告されていたと述べた。
(オ)サルミエント線では,2012年2月にも,オンセ駅において大規模人身事故が発生しており,その時は,電車が駅端に衝突し,51名(及び妊婦1名のお腹の中にいた胎児)が死亡,700名近くの負傷者が出た。当地では,この事故以来,政府の鉄道運営及び管理の不備に対する不満の声が高まっていたが,今回,再び事故が発生したということで,電車利用客を中心に怒りや批判が強まった。
(カ)今回の事故を受け,ランダッソ内務・運輸大臣は,「鉄道サービスを向上するために,予算を倍増するつもりである。今回の事故で挫けるわけにはいかない。我々(政府)は,毎日,多くの時間を鉄道サービスの改善のために割いており,これまでに多くの事が成し遂げられてきたが,それではまだ足りなかったということである」と述べ,「鉄道サービスの向上のために多くの仕事がなされているが,困難な課題であり,50年間で変えられなかった事を,我々(現政権)に1年で変えろとは言わないでほしい」と発言した。
(キ)鉄道の信号労組(ASFA)のマイグア代表は,人々が鉄道インフラと各車両の実際のコンディションを知ったら,事故の発生の有無は運によるものだと気づくであろうと述べ,(キルチネル派政権が誕生した)2003年以降に行われてきたことは,(現政権が敵視する90年代の)メネム元大統領時代と同じことであり,単に車両や駅舎の塗装等が行われたに過ぎないとし,政府による鉄道事業への投資の不足を批判した。
(6)鉄道国営化
4日,ランダッソ内務・運輸大臣は記者会見を行い,深刻な契約不履行のため,伯のALL社(América Latina Logística社)が運営するサン・マルティン貨物鉄道及びウルキサ貨物鉄道の国営化,並びに亜資本のSCP社(Sociedad Comercial del Plata社)が運営する沿岸鉄道(Tren de la Costa,ビセンテ・ロペス市とティグレ市を結ぶ旅客鉄道)及びティグレ市にある沿岸遊園地(Parque de la Costa)を国営化する旨,フェルナンデス大統領が決定したと発表した。サン・マルティン貨物鉄道及びウルキサ貨物鉄道に関しては,今後,ベルグラーノ貨物・ロジスティックス株式会社(注:5月22日に発表されたベルグラーノ貨物鉄道の国営化に際し新設された会社)に運営が委ねられることになる。ランダッソ内務・運輸大臣は,貨物鉄道の国営化の決定に関し,亜国製品を益々競争力あるものにするため,ロジスティクスのコストを削減することを政府として約束するものであると述べた。
(7)ブエノスアイレス州政府と同州教員労組による賃上げ交渉
7日,ブエノスアイレス州の教員労組団体は,合計12日間のストライキを伴う,約半年間に及ぶ賃上げ交渉を終え,年次や契約内容により賃上げ率は異なるものの,最大24.5%の賃上げ率で,ブエノスアイレス州政府と妥結した(注:半年に及ぶ賃上げ交渉というのは,10年前に現行の賃上げ交渉制度が採用されて以降,最長のもの)。また,今次交渉において,労組側は,2月及び3月にストライキを実施した際に差し引かれた給料を,今後の給料に補填することで州政府と合意した。
(8)その他の労組の賃上げ交渉
(ア)12日,反キルチネル派のモジャーノ労働総同盟(CGT)書記長率いるトラック労組は,26%の賃上げ率で経営者側のアルゼンチン物流企業連合(Fadeeac)と妥結した。同賃上げは3回に分割される仕組みになっており,7月に13%,11月に7%,2014年3月に6%,それぞれ引き上げられる。トラック労組側は,年末に(ボーナスとは別の)非課税の特別手当の支給につき,経営者側と交渉する約束をして,本年の賃上げ交渉をひとまず終えた。
(イ)14日,食品労組(ロドルフォ・ダエル代表)は,26.5%の賃上げ(5月に17%,8月に7%,来年1月に2.5%)及び450ペソの特別手当支給(9月と11月にそれぞれ225ペソずつ支給)によって,経営者側と妥結した。他方,観光・ホテル・飲食業労組(バリオヌエボ代表)は,当該業種の経営者団体4団体中,3団体と28%の賃上げ率で合意した。
(ウ)27日,電話労組連合(注:4つの電話労組の連合体で形成される)は,テレフォニカ社及びテレコム社と,2回に分割した計25%の賃上げ率で合意した。
(エ)27日,衛生労組(エクトル・ダエル代表)は,3回に分割した計26%の賃上げ率で経営者側と妥結し,実施中であったストライキを解除した。
(9)コロンブスの記念碑の移転を巡る問題
ブエノスアイレス市の中心部に位置する大統領府の裏にある,コロンブス広場に置かれたコロンブスの記念碑(注:1907年に在亜イタリア系移民が亜政府に寄贈)を,政府が,今後建造予定のフアナ・アスルドゥイ(注:ラプラタ副王領の解放のために当時の宗主国スペインと戦った英雄)の記念碑と置き換えるために,マル・デル・プラタ市に移転しようと試みている件に関し,18日,連邦行政訴訟裁判所は,コロンブスの記念碑の修復作業を国が行うことは認めるが,同記念碑の移転は,少なくとも3ヶ月間は実施してはならないとの判決を下した。コロンブスの記念碑の移転問題を巡っては,複数の在亜イタリア系住民団体及びNGO等が猛反発しており,また,ブエノスアイレス市政府も異を唱えている。29日,同市はコロンブス広場に見張り番を置き,記念碑が別の場所に移されないように監視する体制を整えた。
(10)ミシオネス州地方議会選挙
30日,ミシオネス州で地方議会選挙が実施され,昨年10月に選挙制度法が改正され,選挙権取得年齢が18歳から16歳に引き下げられて以降,初めて,16歳及び17歳の有権者が投票を行った(注:州によっては,選挙権取得年齢が引き下げられておらず,18歳のままのところもある。なお,亜では有権者の投票は国民の義務とされているが,16歳及び17歳の有権者による投票は,義務ではなく任意となっている)。ミシオネス州議会は1院制(定員40名)であり,今回は,その半分の20議席が改選となった。今次選挙の結果は,州議会与党でキルチネル派の「融和刷新戦線」(Frente Renovador de la Concordia)(注:ブエノスアイレス州ティグレ市のマサ市長率いる「刷新戦線」(Frente Renovador)とは全く別の組織)の勝利に終わったものの,前回の2011年の選挙時と比較すると,クロス州知事率いる「融和刷新戦線」は,大きく得票率を下げた。一方,2位につけた急進党(UCR)は,前回に比べ,得票率を伸ばした。なお,今回の議会選挙において,一部の投票所で電子投票のシステムが試験的に導入された。
3 外交
(1) フォークランド(マルビナス)諸島領有権問題
(ア)第43回OAS総会 6日,グアテマラで開催された第43回米州機構(OAS)総会において共同声明が採択され,例年通り,英国及び亜に対し,フォークランド(マルビナス)諸島領有権問題の平和的解決に向けた交渉再開を呼びかける内容が盛り込まれた。同総会にてティメルマン外相は,本年3月に同諸島で実施された島民投票は,植民地時代に入植した英国人を被害者にすり替える為の英国政府の試みであったと非難し,本件の平和的解決に向け,亜は既に交渉のテーブルに着いており,後は英国次第であると述べた。
(イ)「マルビナス諸島及び南極地域における亜の主権主張の日」
10日,「マルビナス諸島及び南極地域における亜の主権主張の日」(注:1829年に,亜がフォークランド(マルビナス)諸島に政治・軍事司令部を設置した記念日)を祝う式典がサンタクルス州リオ・ガジェーゴスにおいて執り行われ,フェルナンデス大統領が出席した。
(ウ)国連非植民地化特別委員会会合
20日,ニューヨークで行われた国連非植民地化特別委員会会合に出席したティメルマン外相は,フォークランド(マルビナス)諸島領有権問題に関する亜政府の立場を主張するプレゼンテーションを行い,英が本件解決に向けた亜との二国間対話の再開に応じない点を強調すると同時に,国連が本件を領土主権の問題として扱っている点を繰り返し述べた。また同外相は,本年3月にフォークランド(マルビナス)諸島で実施された島民投票は,単なるアンケート調査であったと主張した。
他方,グラント英国連代表部大使は,「おそらく,宗教が本件解決の助けになることはないだろう」と述べ,フランシスコ法王に対する本件への仲介依頼が(英・亜間の)交渉を容易にするとは考えられない旨主張した(注:3月18日,フランシスコ・ローマ法王就任式列席の為,バチカンを訪問し,フランシスコ法王と会談したフェルナンデス大統領は,亜・英二国間対話の再開に向けた仲介を依頼した)。
(エ)マルビナス戦争(フォークランド紛争)の亜帰還兵等による行進
20日,軍服と従軍記章を身に纏ったマルビナス戦争(フォークランド紛争)の亜帰還兵等は,亜国旗及び亜の守護聖人であるルハンの聖母の絵を掲げて,ブエノスアイレス市中心部のサンマルティン広場にある,649名の「マルビナス戦争戦没者慰霊碑」まで行進した。
(2) ロシア
10日,当地を公式訪問したラブロフ露外相は,亜外務省にてティメルマン外相と会談した。両国外相は,昼食会に出席後,同席者なしでの会談及び両国の代表団を交えた二国間会談を行い,国連,特に安保理における両国の協力,並びにフォークランド(マルビナス)諸島領有権問題をはじめとする両国の関心事項及び亜・露二国間協力関係等に関して言及した28のポイントから成る共同声明に署名した。また,同日夜,ラブロフ露外相は,フェルナンデス大統領と会談した。
(3)イラン
3日,イラン政府は,同国外務省情報局のホームページ上で,「イランが中南米諸国にテロリスト部隊を送り込んでいた」とする,二スマン・イスラエル共済組合(AMIA)会館爆破事件担当検事の提出した報告書の内容を拒絶する声明を発表した。また,18日,イラン政府は,同国外務省スポークスマンを通じて,AMIA事件の解決に向けて採択された亜・イラン二国間覚書は,「合理的なプロセス」に従って進んでいるとの認識を示した。その際,イラン政府は,AMIA事件へのイラン人の関与を改めて否定し,同事件の裏には,外国人及びシオニスト系の秘密部隊の存在があったと述べた。
(4)インド
17日,インドを公式訪問したティメルマン外相は,ニューデリーでクルシード・インド外相と会談した。両国外相は,第9回WTO閣僚会議における新興国の立場,G20における主要な議題及びIMFの改革等に関する協議を行い,二国間関係に関しては,核エネルギーの平和的利用,農牧技術及び宇宙事業等の分野で,両国の貿易関係を強化していく必要性があるとの認識で合意した。今次会談では,インドにとって,亜が食糧の戦略的な供給国であり,また農牧分野の技術開発の理想的なパートナーであるとの点が確認され,さらに今後,インドが亜産フルーツに対して市場を開放する方針である旨発表された。これに対しインド側は,亜における石油・天然ガス,再生可能エネルギー及び鉱山開発,とりわけカリウム採掘事業への将来の投資に対する関心を示すとともに,医薬品分野での投資に対しても関心を示した。
(5)中国
7〜9日にかけ中国を訪問したジャウアル農牧・漁業大臣は,韓長賦(Han Chang Fu)農業部長と会談した。同会談後,ジャウアル農牧・漁業大臣は,中国が3種類の品種改良された大豆及び1種類の品種改良されたトウモロコシの輸入を承認した旨発表した。9日,北京で開催された第1回中国・ラテンアメリカ及びカリブ地域農業大臣フォーラムに出席したジャウアル大臣は,メキシコ及びブラジルの農業大臣と個別に会談した。また,今次訪問中,ジャウアル大臣は,国家開発銀行の副頭取とも会談した。同銀行は,中・亜両国の企業間合意に基づく生産プロジェクトに対し,最大50億ドルまでの投資が可能である旨述べた。右に対し,ジャウアル大臣は,右大型投資の対象となり得る農業分野のプロジェクト・リストを,数週間中に北京に送付するとした。
(6)コロンビア
26日,当地を公式訪問したオルギン・コロンビア外相は,ティメルマン外相と会談を行い,ラテンアメリカ統合を中心とした二国間・多国間案件に関する協議を行った。また,両国外相は,2011年8月にサントス・コロンビア大統領が来亜した際に署名された二国間の協力及び統合に関する覚書以降,亜・コロンビア二国間関係は,大変深化した段階にあるとの共通認識を示し,7月18日に予定されているフェルナンデス大統領のコロンビア公式訪問に向けた準備を進めた。
(7)ベネズエラ
14日,ガルッチオYPF社CEO及びラミレス・ベネズエラ石油鉱業大臣(兼PDVSA総裁)は,両国の炭化水素エネルギー分野での共同プロジェクトにおける戦略的協力関係を具体化する目的で,カラカスにおいて,覚書への署名を行った(注:YPF社が外資と覚書を締結するのは,2012年に5月に同社が国有化されて以降,これで4件目)。同覚書への署名により,YPF社及びPDVSA社は,ネウケン州のバカ・ムエルタ鉱区及びチュブット州のD-129鉱区での,シェールガス鉱脈の探査に係わるプロジェクトの査定を開始することになる。
(8)スペイン
12日,スペイン政府が,亜の軍事政権下に亜国内で行方不明になったスペイン人に関する資料の存在を正式に認めてから16年が経ち,今般,スペイン司法の命令により,亜の人権団体「5月広場の祖母たち」に対し,同資料の電子データが手交された。
(9)OAS
(ア)第43回OAS総会へのティメルマン外相の出席
5〜6日にかけ,第43回米州機構(OAS)総会出席の為,グアテマラを訪問したティメルマン外相は,ベリーズ及びガイアナの外相と会談し,亜が実施している南南協力に関する二国間日程の見直しを行った他,米州人権委員会(IACHR)委員との会合の機会を設け,同委員会の資金調達面で,各国が責任を持って行動するよう,いくつかのメカニズムの分析を行った。
(イ)ガレー前治安大臣(OAS亜代表部の次期大使に推薦されている人物)の発言
6日,亜上院合意委員会によりOAS亜代表部の新大使に推薦されることになったガレー前治安大臣は,同委員会において,OASにおける公平性の確立を促進する必要性がある旨発言し,現在,OAS本部が,コスタリカの「サンホセ合意」に署名しなかった米国(ワシントン)に置かれている点を指摘し,正式に大使に就任した際には,OASの本部の移転を提案するとの意欲を見せた。また,パラグアイでのルゴ前大統領の弾劾に際して,OASが消極的な姿勢を取ったとして批判した。また,ガレー前治安大臣は,亜のOASにおける目的は,米州の人権システムの保護及び強化であると述べた(注:26日,上院本会議は,キルチネル派議員5名の欠席により定足数に達しなかったため,ガレー新OAS大使の任命は延期となった)。
(10)FEALAC(アジア中南米協力フォーラム)
13〜14日にかけ,第6回FEALAC外相会合出席の為,インドネシアを訪問したティメルマン外相は,ラテンアメリカ地域代表に任命され,14日には,東アジア地域代表と共に,ユドヨノ・インドネシア大統領を表敬した。同会合において,ティメルマン外務大臣は,FEALACがより平等な国際貿易促進に貢献することが,ラテンアメリカ地域にとって鍵となってくる旨発言した。また,亜は経済ワーキング・グループの議長国に選出された。
同訪問中,ティメルマン外相は,マルティ・インドネシア外相と会合し,亜とインドネシアがともに,欧州委員会が採用しているバイオディーゼルに対する保護貿易の被害国となっているとした上で,欧州市場へのバイオディーゼル輸出において,両国で協力していく旨決定した。
(11)国連
(ア)武器貿易条約の署名式
3日,ティメルマン外相は,ニューヨークの国連本部で武器貿易条約(ATT)に署名した(注:武器貿易に係る国連総会決議の原共同提案国は,日本,亜,英国,ケニア,オーストラリア,コスタリカ及びフィンランドの7カ国)。
(イ)国連薬物犯罪事務所(UNODC)報告書
26日,ウィーンで提出された国連薬物犯罪事務所(UNODC)による年間報告において,亜は,伯及びコロンビアに続き,世界3番目のコカイン仕出地であるとされた。右に対し,亜上院は亜外務省を通じて,国連に対し,同データの集計方法等を公表するよう要請した。
(12)要人往来
(ア) 往訪
●3日〜7日:バラニャオ科学技術大臣中国訪問
●3日:ティメルマン外相米国訪問
●4日:ブドゥー副大統領ハイチ訪問(コライユ市での「ネストル・キルチネル・コミュニティー病院」落成式出席)
●5日〜6日:ティメルマン外相グアテマラ訪問(第43回米州機構(OAS)総会出席)
●6日:ジャウアル農牧・漁業大臣南アフリカ共和国訪問(農牧分野における協力協定に署名)
●7日〜9日:ジャウアル農牧・漁業大臣中国訪問
●11日:ジャウアル農牧・漁業大臣イタリア訪問(FAO本部でダ・シルバ事務局長と会合)
●11日:ガルッチオYPF社CEOボリビア訪問
●12日:ロレンシーノ経済・財政大臣ベネズエラ訪問(第一回南米銀行(Banco del Sur)閣僚級会合出席)
●13日〜14日:ティメルマン外相インドネシア訪問(第6回FEALAC外相会合出席)
●14日:ガルッチオYPF社CEOベネズエラ訪問
●17日:ティメルマン外相インド訪問
●18日:トマーダ労働・雇用・社会保障大臣スイス訪問(第102回ILO総会出席)
●19日〜21日:サバテラ金融情報機構(UIF)長官ノルウェー訪問(金融活動作業部会(FATF)サミット出席)
●20日:ティメルマン外相米国訪問(国連非植民地化特別委員会会合出席)
●25日:カメロン・エネルギー長官英国訪問
●26日:エチェガライ連邦歳入庁(AFIP)長官仏訪問(OECD租税委員会(CFA)税務長官会議出席)
●27日:エチェガライAFIP長官ベルギー訪問(世界税関機構(WCO)総会出席)
●27日:デビード公共事業大臣ロシア訪問(21世紀の原子力エネルギーに関する国際閣僚会議出席)
(イ)来訪
●10日:ラブロフ露外相
●12日:ビジェガス・ベネズエラ情報・通信大臣
●17日:ピメンテル伯開発商工大臣
●18日:Yu Xinrong中国農業副大臣
●26日:オルギン・コロンビア外相
●26日:エティエンヌ・パンアメリカン保健機構(PAHO)局長
●27日:ガルシア・リネラ・ボリビア副大統領
(13)今後の主要外交日程
●1日:ティメルマン外相オーストリア訪問(核の安全保障閣僚級会合出席)
●4日〜5日:ジョルジ産業大臣訪日
●12日:フェルナンデス大統領ウルグアイ訪問(メルコスール首脳会議出席)
●18日:フェルナンデス大統領コロンビア訪問
●28日:フェルナンデス大統領伯訪問(「ワールドユースデー」リオデジャネイロ大会出席)