2009年5月アルゼンチンの政治情勢(内政・外交)
2009年6月作成
在アルゼンチン大使館
I.概要
(1)内政面では、9日、6月28日に実施される連邦議会選挙等に出馬する候補者の選挙裁判所への登録が締め切られた。野党が与党キルチネル派の「名目候補」等の違法性を訴えたが、ブエノスアイレス州選挙裁判所は、キルチネル前大統領、シオリ・ブエノスアイレス州知事等の選挙出馬に違法性は認められない旨判決を下した。
(2)外交面では、ガレ国防相は、第1回軍オンブズマン制度に関する会議に出席するため、独を訪問した。他方、チャベス・ベネズエラ大統領、ヘリル・アルジェリア・エネルギー鉱業相、コグニャタ・パラグアイ外相等が亜を訪問した。また、亜の革命記念日(5月25日)に際して、フェルナンデス大統領は、オバマ米大統領より送られた親書を受領した。
II.内政
1.連邦議会選挙に向けた動向
(1)9日、6月28日に実施される連邦議会選挙(上院1/3(24議席)、下院1/2(127議席)の改選)等に出馬する候補者の選挙裁判所への登録が締め切られ、各政党及び選挙連合が候補者の登録を行った。
(2)主要2選挙区おける主要な政党・選挙連合の上位候補者は以下のとおり。
(イ)ブエノスアイレス州選挙区(全国の有権者の約37%。下院35議席の改選)
(i)勝利のための正義戦線(Frente Justicialista para la Victoria。キルチネル派)
@ネストル・キルチネル前大統領(ペロン党党首)、Aダニエル・シオリ・ブエノスアイレス州知事、Bナチャ・ゲバラ(女優)、Cセルヒオ・マサ首相
(ii)UNION-PRO(マクリ・デナルバエス・ソラによる選挙連合)
@フランシスコ・デ・ナルバエス下院議員(ペロン党反キルチネル派)、Aフェリペ・ソラ下院議員(ペロン党反キルチネル派)、Bグラディス・ゴンサレス(マクリ市長側近)
(iii)市民社会合意(Acuerdo Civico y Social。市民連合・急進党・コボス派による選挙連合)
@マルガリータ・ストルビセル元下院議員(市民連合)、Aリカルド・アルフォンシン元ブエノスアイレス州議会議員(急進党。アルフォンシン元大統領の子息)、Bマリオ・バルビエリ・サンペドロ市長(コボス派)
(ロ)ブエノスアイレス市選挙区(全国の有権者の約9.5%。下院13議席の改選)
(i)勝利のための人民会合(Encuentro Popular para la Victoria。キルチネル派)
@カルロス・エジェルCredicoop銀行総裁、Aノエミ・リアル労働省労働長官、Bフリオ・ピウマト司法労組書記長
(ii)共和国提案(PRO:Propuesta Republicana。マクリ派)
@ガブリエラ・ミチェッティ前副市長(共和国提案)、Aエステバン・ブルリッチ下院議員(国家再建党)、Bパウラ・ベルトル下院議員(共和国提案)
(iii)市民社会合意(Acuerdo Civico y Social。市民連合・急進党による選挙連合)
@プラットガイ前中銀総裁(市民連合)、Aリカルド・ヒル・ラベドラ弁護士(急進党)、Bエリサ・カリオ市民連合代表
(3)政府与党キルチネル派は、キルチネル前大統領(ペロン党党首)がブエノスアイレス州選挙区連邦下院選挙に筆頭候補として出馬し、また、現職閣僚・首長等を名目候補(Candidatos
testimoniales:当選しても実際には同ポストに就任することなく、現職に留まる意向を表明している候補)として選挙に出馬させるという同前大統領の選挙戦略に応じる形で、マサ首相及びシオリ・ブエノスアイレス州知事が連邦下院選挙に、市長約45名が州議会或いは市議会選挙に、それぞれの選挙区から出馬することとなった。
他方、これを受けて、市民連合・急進党は、(イ)名目候補は正当な候補者とは認められず、特にシオリ・ブエノスアイレス州知事は現職知事が同州選出連邦議員に就任することを禁じた憲法第73条に反する、(ロ)キルチネル前大統領は、連邦政府管轄の大統領官邸に居住していたところ、憲法第48条(注:下院議員になるためには、当該州に2年間居住していなければならない)の要件を満たしていないとして、ブエノスアイレス州選挙裁判所に提訴した。
(4)20日、ブエノスアイレス州選挙裁判所のブランコ判事は、市民連合・急進党の上記訴えついて、以下を根拠に違法性は認められない旨判決を下した。
(イ)憲法第73条の規定については、下院議員就任につき宣誓を行った時点で前職を自動的に離職するとの解釈が成立するため、選挙に立候補すること自体は違法とならない。また、原告は各候補者がポストに就任する意思を有していない旨指摘しているが、与党陣営は就任する可能性もあるとしている上、選挙法第164条は当選候補が宣誓前に就任を辞退することを認めているため、正当な候補者と認めない十分な根拠はない。
(ロ)キルチネル前大統領の住所問題については、2007年12月10日のフェルナンデス大統領就任以来、(連邦の官職ではない)大統領の夫としてブエノスアイレス州所在の大統領官邸に居住してきた経緯があり、同人が下院議員に就任(12月10日)するまでに2年間の要件は満たされる。
(5)なお、同判決を不服とする市民連合・急進党は連邦選挙裁判所に控訴したが、6月1日、連邦選挙裁判所は、キルチネル前大統領、シオリ州知事等の選挙出馬に違法性はないとの判決を下した。
2.政府と農牧団体の交渉
12日、エチェガライ連邦歳入庁(AFIP)長官と主要農牧4団体の副代表は、穀物運搬許可証(Carta de Porte)及び穀物トレーサビリティ制度(Codigo
de Trazabilidad de Granos。生産・出荷される穀物を識別する番号を与え、トレーサビリティを付与するもの)について協議するため、会談した。同会談の中で、エチェガライ長官は、穀物トレーサビリティ制度について説明し、今後はインターネットを通じて穀物の登録を行うことになる旨述べた。他方で、農牧団体側は、手続きのオンライン化に当たっては、インターネットへのアクセス環境が悪い農牧業者もいるので、全ての農牧業者が新制度に直ちに対応できるわけではないとの問題点を指摘し、今回の協議に大きな進展は見られなかった。
3.革命記念日
亜の革命記念日に当たる25日、ミシオネス州において革命記念日を祝う式典が行われ、フェルナンデス大統領が演説を行った。同演説の中で、フェルナンデス大統領は、6年前の今日(注:キルチネル前政権発足日)亜に変革をもたらすためのプロセスが開始されたことを強調し、前・現政権のモデルを深化させるために次期連邦議会選挙での支持を呼びかけた。
III.外交
1.新型インフルエンザを巡る亜・墨関係
(1)亜政府は、メキシコでの新型インフルエンザの発生・拡大を受け、自国民保護対策の一環として、4月29日から5月14日まで亜墨間航空便の一時停止措置を講じた。
(2)国連及びWHOの勧告にも拘わらず、亜政府が亜墨間航空便の一時停止措置を継続したことに対して、6日、カルデロン墨大統領は、同措置を差別的であるとして改めて批判するとともに、墨政府による新型インフルエンザ対策と亜政府によるデング熱対策を比較し、「亜では昨年デング熱が広範囲に発生した。数千人が死亡したと言われている。予防措置が重要であったであろうことは言うまでもない。他方、墨は世界と協働し、うまく対処してきており、責任を持って行動している」等述べ、亜政府批判を行い、新型インフルエンザを巡る両国の対応により、両国間の緊張が高まった。
2.ベネズエラ
(1)7日、 チャベス・ベネズエラ大統領は、約10ヶ月の交渉を経て、製鉄企業シドール社国営化の賠償金として、亜テチント・グループに19.7億ドルを支払うことに合意した。
(2)チャベス大統領の亜訪問
(イ)15〜16日に訪亜したチャベス大統領は、15日、フェルナンデス大統領と首脳会談を行った他、両国代表団間で実施された二国間委員会会合に出席し、複数の合意文書に署名した。また、チャベス大統領は、フェルナンデス大統領及びキルチネル前大統領と共にカラファテを訪問し、ペリト・モレノ国立公園を視察した。
(ロ)同会合後の共同記者会見において、チャベス大統領は、首脳会談及び二国間委員会会合では、二国間関係のみならず、多国間問題、南米諸国連合(UNASUR)等について協議し、また、亜側との間で今後の二国間会合のクロノロジーについて合意に至った旨述べた。他方、フェルナンデス大統領は、今次合意は、これまでに署名した合意の継続である旨述べ、チャベス大統領と二国間問題についてフォローするためのハイレベル委員会を設立することに合意した旨述べた。また、記者団からのベネズエラによる亜国債購入に関する質問に対し、フェルナンデス大統領は、「ベネズエラが亜国債を購入するためには、ベネズエラ市場での更なる亜国債起債に関する亜政府の政治決定が必要であり、我々はかかる政治的決定は行っていない」旨述べ、更なる亜国債をベネズエラが購入する可能性を否定した。
(3)ベネズエラ政府による製鉄関連企業の国有化
(イ)21日にチャベス大統領が発表した製鉄関連企業の国有化の対象のうち3社に出資する亜テチント・グループ(Tavsa社及びMatesi社の筆頭株主で、Comsigua社にも出資)のベトナサ渉外担当取締役は、「亜政府に対し、相互投資保護協定に盛り込まれている亜企業の権利が保障されるべく介入を行うよう」要請した旨明らかにした。また、亜経済界(亜工業連盟(UIA)、亜企業発展研究所(IDEA)、亜経営者協会(AEA)、亜銀行協会(Adeba)、亜国銀行協会(ABA)等)はコミュニケを発出し、ベネズエラ政府による製鉄関連企業の国有化措置を非難するとともに、亜政府に介入を要請した。
(ロ)23日、デビード公共事業相は、「亜政府は、他国の決定を尊重しつつも、国の利益を保護しながら、シドール社の国有化に対して行ったのと同様の行動を取るだろう」旨述べた。他方で、亜政府は、ベネズエラ政府に対して、製鉄関連企業の国有化に関して、正式に抗議を行わないことを決定した模様。
(ハ)26日、亜工業連盟(UIA)は、ベネズエラのメルコスール正式加盟を阻止するよう求めるコミュニケを発出した。他方、29日、野党のピネド下院議員(共和国提案)は、ベネズエラのメルコスール正式加盟を承認した法律26.192を無効とする内容の法案を下院に提出した。
3.ドイツ
(1)9〜12日、ガレ国防相は、第1回軍オンブズマン制度に関する会議に出席するため、ドイツを訪問した。
(2)11日、ガレ国防相は、ユング独国防相と会談を行い、政治及び軍事関係強化に関する宣言に署名した。同宣言は、1994年に署名された軍事分野の協力強化に関する合意及び1997年に署名された渡航・情報・労働の相互保証に関する合意を再確認しつつ、引き続き両国国防省及び軍間の政治・軍事分野における協力を強化する両国の意志を示すものである。
4.アルジェリア
(1)17日〜20日、アルジェリアのヘリル・エネルギー鉱業相が訪亜し、フェルナンデス大統領、タイアナ外相、デビード公共事業相等と会談を行った他、ブエノスアイレス州エセイサ原子力センター及びリオ・ネグロ州バリローチェ市のINVAP施設を視察した。また、公共事業省において、両国代表団による、ガス・石油エネルギー、リン酸肥料、農業・漁業、原子力エネルギー・衛星、及び商業プロジェクトの5つの部会から構成されるワーキング会合が実施された。
(2)19日に行われたフェルナンデス大統領との会談の中で、ヘリル・エネルギー鉱業相は、原子力分野における亜の技術発展を賞賛し、アフリカで建設された初の原子炉が、亜の技術者により設計されたものであることを強調した。
5.パラグアイ
(1)19日、ラコグニャタ・パラグアイ新外相が訪亜し、亜外務省別館サンマルティン宮殿において、タイアナ外相と初の会談を行った。
(2)ラコグニャタ外相は、今次訪亜の目的は、(新外相に就任したことを受けて)タイアナ亜外相を表敬すること、及び非常に良好な状態にある亜・パラグアイ関係を活性化することである旨述べた。
他方、タイアナ外相は、「亜・パラグアイ関係は友好的で、且つ歴史的に豊かな関係である。パラグアイとの間では解決しなければならない問題が多くあるが、今次会合ではその幾つかについて話し合った。今後、我々は、二国間関係及び地域統合の発展のため引き続き働いていく」旨述べた。
6.米国
21日、フェルナンデス大統領はオバマ米大統領より送られた親書を受領した。オバマ大統領は、同親書において、5月25日の亜革命記念日に際し、亜国民に対する心からの祝意を表明するとともに、亜が地域のみならず地域を越えて建設的な勢力として努力していることを評価する旨強調した。また、オバマ大統領は、亜と米国は人権擁護と基本的自由を重視する民主主義国家として、西半球及び世界において、これら価値観を促進していく責任を共有しているとしつつ、こうした協力に加えて、司法及び社会的包摂に関するイニシアティブについても、二国間及び地域レベルで亜と協働していくことを期待している旨述べた。
7.イギリス
26日、亜政府と英国政府は、人道的な観点から、マルビーナス(フォークランド)紛争の戦没者遺族約800名が、ダーウィン墓地の慰霊碑の除幕式に出席できるようにするため、マルビーナス諸島訪問を許可することで合意した。なお、同訪問は、10月3日及び10日に実施される予定。
8.要人往来
(1)来訪
5月8日 |
南米銀行に関する経済相会合の開催 |
5月15-16日 |
チャベス・ベネズエラ大統領(フェルナンデス大統領との会談等) |
5月17-20日 |
ヘリル・アルジェリア・エネルギー鉱業相(フェルナンデス大統領等との会談等) |
5月19日 |
コグニャタ・パラグアイ外相(タイアナ外相との会談) |
(2)往訪
5月9-12日 |
ガレ国防相の独訪問(第1回軍オンブズマン制度に関する会議への出席) |