I 概要
(1)内政:
ブエノスアイレス市内に位置する鉄道サルミエント線オンセ駅において多数の死傷者を伴う事故が発生し,これを受け,フェルナンデス政権は,責任の所在に係る司法の判断が早期に下されることを求めた。また,ブエノスアイレス市の地下鉄運営権委譲問題を巡り,ブエノスアイレス市政府が同委譲を拒否する旨発表し,これに対し中央政府は,同委譲については合意が成立済みであり棄却することはできないとの見解を示した。教職員業界の賃上げ交渉は,数次に亘り行われたが妥結に至らなかった。その他,ブドゥー副大統領の汚職疑惑,国境警備隊の不法な情報収集疑惑等が注目を浴びた。
(2)外交:
亜政府は,英国がフォークランド(マルビナス)諸島領有権問題を「軍事化」していることを批判し,ティメルマン外相が国連本部を訪問して,これを問題提起した。その他,同領有権問題に関し,政府及び民間の両レベルで,英国に対する圧力行使と見られる各種措置が取られた。ティメルマン外相は,G20外相会合に出席するためメキシコを訪問し,ALBA首脳会合に出席するためベネズエラを訪問した他,ドミニカ共和国を訪問してフェルナンデス大統領と会談した。また,ジャコブソン米国務次官補が訪亜してティメルマン外相と会談した。
TT 内政
1 サルミエント線オンセ駅での鉄道事故
(1)22日,ブエノスアイレス市内に位置する鉄道サルミエント線オンセ駅において,列車が終点の車止めに衝突する事故が発生し,死者51名及び負傷者700名以上が生じた。これを受け,同日,スキアビ公共事業省運輸長官が記者会見を行い,犠牲者及び被害者の家族に対し遺憾の意を表した上で,事故の原因究明に向けて政府としても調査を行っている旨述べた。また,23日付の政令により,23〜24日の2日間が国喪期間と定められた。
(2)22日,サルミエント線を運行するブエノスアイレス鉄道(TBA)社は,犠牲者及び被害者の家族に対し遺憾の意を表した上で,事故の原因については調査中であると発表した。23日,TBA社の幹部は,今次事故は「人為的過失」によるものであった旨発言した。これに対し,鉄道運転手労組は,運転手の過失によるものではなく,列車のメンテナンスが不十分でありブレーキ等が正常に作動しなかったことが原因である旨主張してTBA社側を批判した。
(3)27日,フェルナンデス大統領は,上記事故発生後初めての演説を行い,事故の責任の所在に係る司法の判断が早期に下されることを求めると共に,再発防止に向けて鉄道関連制度の改正等を検討する意向を示した。
2 ブエノスアイレス市の地下鉄運営権委譲問題
(注:1月3日,ブエノスアイレス市の地下鉄運営権を中央政府から同市政府に委譲することについて両政府間で合意が成立した。これを受け,同月27日,治安省は,従来この地下鉄の警備に当たっていた連邦警察を,3月1日以降全員撤退させる旨発表していた。)
(1)28日,地下鉄労組(UTA)は,3月1日以降地下鉄の警備がなくなるのであれば,同日より,適切な治安対策が施されるまで,無期限のストライキを実施する旨発表した。
(2)29日,マクリ・ブエノスアイレス市長は,「市民の安全が危機にさらされている。私は,かかる深刻な事態の共犯者になることはできない」と述べ,地下鉄の運営権委譲を拒否する旨発表した。これに対し,公共事業省は,運営権委譲については合意が成立済みであり棄却することはできないとするコミュニケを発出した。
3 教職員業界の賃上げ交渉
9日,シレオニ教育相を筆頭とする政府側と,亜教職員連盟(CTERA)を始めとする教職員労組5団体との間で,本年の教職員業界の賃上げ率に係る最初の交渉が行われたが,妥結に至らなかった。その後も数次に亘りこの交渉が行われたが,妥結に至らないまま,29日の新学期開始を迎えることとなった。
4 ブドゥー副大統領の汚職疑惑
21日,リボロ連邦検事は,中銀が国内の印刷会社シッコネ社に紙幣の製造を依頼していたことに関し,同社の社長がブドゥー副大統領(注:前経済相)の友人であり,同副大統領が,同社に紙幣製造の発注がなされるよう不正な操作を行っていた疑いがあるとして,調査を行っている旨述べた。その後,当地各紙は,上記疑惑を裏付けるような証言等を度々報じた。
5 国境警備隊の不法な情報収集疑惑
(1)昨年末より,人権団体等が,国境警備隊が犯罪関連の捜査等において不法な情報収集を行っている旨告発していたことに関し,16日,野党議員らは,ガレ治安相を国会に召喚して説明を求める姿勢を示した。
(2)17日,ガレ治安相は,「我々は,不法な情報収集の存在を認めていないが,仮にそれがあったとすれば強硬な対応を取る。但し,よく考えることもせずに決断を下すことはしない」として,上記疑惑の真偽を調査する姿勢を示した。
(3)27日,同相は,国境警備隊が行っていた情報収集は司法府の命令に基づくもののみであり,不法な情報収集は行われていなかった旨発表した。
6 鉱物採掘を巡る政府と環境保護団体の対立
(1)10日,カタマルカ州及びトゥクマン州において,州警察が,鉱物採掘に反対するための抗議行動として道路封鎖を行っていた環境保護団体を立ち退かせる措置を取ったところ,この過程で計24名の負傷者が生じた。
(2)14日,コルパッチ・カタマルカ州知事が記者会見を行い,鉱物採掘を支持し,環境保護団体による抗議行動を批判する立場を表明した。また,15日,主要鉱物産出州の知事らは,中央政府の認可を得て,鉱物採掘を支援するための連邦鉱物産出州機構を創設した。
TTT 外交
1 フォークランド(マルビナス)諸島領有権問題
(1)7日,フェルナンデス大統領が大統領府において演説を行った。同大統領は,ウィリアム英王子が軍服を着用してフォークランド(マルビナス)諸島に到着し,英国の最新鋭の駆逐艦が同諸島に派遣されるなど,同国が同諸島領有権問題を「軍事化」しており,これは国際的な安全を脅かすものであるとして,安保理及び国連総会に問題提起する旨発表した。これに関して,同大統領は,全ての中南米諸国が同領有権問題における亜の立場を支持していることや,英国による同諸島海域の天然資源の採掘が環境破壊に繋がり得ること等に言及し,同領有権問題は全世界的な問題である旨述べた。その他,同大統領は,亜において軍事機密情報となっている「ラッテンバッハ報告書」の公開に向けた委員会の設置等を定める政令に署名した旨発表した(注:同報告書は,フォークランド(マルビナス)戦争終結後,同戦争における軍の行動等を分析・評価するために,当時の軍事政権の提唱により作成されたもの。フェルナンデス大統領は,これを公開すれば,同戦争に係る責任が亜国民ではなく当時の軍事政権に帰せられるものであることが明らかにされる旨主張している。但し,同報告書の内容は,既に過去の報道においてリークされたことがある)。
(2)10日,ティメルマン外相は国連本部を訪問した。同外相は,潘国連事務総長と会談を行い,英国がフォークランド(マルビナス)諸島領有権問題を「軍事化」しているとして,亜政府として国連に問題提起をする旨報告し,亜・英国間の対話の実施を呼び掛ける国連決議に英国が違反している旨説明した。その後,同外相は,Menan安保理議長に対し,上記問題提起の文書を提出した。また,ナスル国連総会議長とも別途会談した。同外相がMenan安保理議長に提出した文書の概要は以下の通り。
(ア)亜は,英国がマルビナス諸島を軍事化していることについて,再び国際社会に対して警告せざるを得ない。この軍事化は,同諸島領有権問題の平和的解決に向けた模索に反しており,地域に対する侮辱であるとともに,南大西洋において不要な緊張を生じさせるものである。最近,キャメロン英首相を始めとする英国の高官等から,マルビナス諸島における軍事力の強化に係る宣言が相次いでおり,かかる状況に亜政府の懸念は増大している。島民の自決権を尊重するという英国の空虚な論理は,南大西洋における同国の戦略的権益に資する強大な軍事基地の設置を肯定する口実以外の何物でもない。
(イ)亜は,英国が,核兵器を運搬する能力を持つ原子力潜水艦を南大西洋に派遣したという情報を入手している。亜及び域内諸国は,英国に対し,南大西洋への核兵器の持ち込みについて情報提供を要求したが,同国はこの極めて重大な問題に関する情報提供を拒否した。英国は,2003年,マスメディアの指摘を受けて,核兵器を搭載した船舶を南大西洋へ秘密裏に派遣したことを認め,亜政府はこれを国連に告発したという経緯がある。南大西洋への核兵器の持ち込みは,英国も加盟しているトラテロルコ条約に違反するものである。
(ウ)2010年,亜は,国際海事機関(IMO)に対し,マルビナス諸島海域における英国のミサイル演習は南西大西洋航海の安全を脅かすものであると告発した。しかし,同年に発表された英国の戦略防衛安保見直し(SDSR)において,マルビナス諸島に設置された軍事基地の真の目的が,同国による世界規模の軍事展開を支援することであったということが明らかとなった。
(エ)英国によるこうした軍事展開は,亜のみならず,域内外の諸国をも懸念させている。近年,イベロアメリカ・サミットやメルコスール首脳会合といった場において,マルビナス諸島海域における英国の軍事展開を拒絶する亜の立場が支持されてきている。また,2010年より,英国によるマルビナス諸島海域の天然資源の不法な搾取が強化されているが,これは国連決議に対する明白な違反であるうえ,南大西洋の環境を悪化させるものでもある。かかる不法な搾取行為についても,メルコスール,南米諸国連合(UNASUR)及びラ米カリブ諸国共同体(CELAC)の諸国により拒絶されてきている。
(オ)マルビナス諸島領有権問題を巡る英国の行動は,国際問題の平和的解決に関する国連憲章の規定と相容れないものである。そして,特に,世界が核兵器の管理・縮小の必要性を議論している時に,安保理常任理事国の一国である英国が,それとは反対のメッセージを発しているというのは一層深刻な問題である。亜は,マルビナス諸島領有権問題が平和的解決に至るべく,既に長らく遅れてしまっている交渉を再開するという意志を繰り返し表明する。
(3)25日,上下両院の外交委員会による合同委員会が,ティエラデルフエゴ州ウシュアイア市(注:亜最南端の都市で,フォークランド(マルビナス)諸島に近い。)において開催された。同委員会において,フォークランド(マルビナス)諸島領有権問題に関し,亜の正当な権利を主張し,英国による同問題の「軍事化」を非難し,同問題を巡り中南米諸国から受けている支持に謝意を表するといった亜政府の立場を支持する「ウシュアイア宣言」に署名がなされた。
(4)その他,フォークランド(マルビナス)諸島領有権問題に関し,政府及び民間の両レベルで,英国に対する圧力行使と見られる各種措置が取られた。その概要は以下の通り。
(ア)13日,亜運輸労働者連盟(CATT)(注:労働総同盟(CGT)モジャーノ派の運輸関連労組)は,同日より,英国の船舶及び航空機に対する荷積み作業等をボイコットする旨発表した。CATTは,このボイコットについて,英国がフォークランド(マルビナス)諸島領有権問題を「軍事化」していることに対する抗議であるとし,英国政府に対し,同問題解決のための対話を要求するものであるとした。
(イ)27日,フォークランド(マルビナス)諸島の港を出て亜ティエラデルフエゴ州の港に入ろうとした英クルーズ客船2隻が,同州政府により入港を拒否された。クロシアネリ同州副知事は,昨年8月に成立した州法(注:同諸島海域で天然資源採掘等に係る活動を行う英船舶が同州の領内に入港すること等を禁止する法律)に基づく措置であるとしたが,当地報道においては,観光用であるクルーズ客船の入港を拒否するのは違法である等の指摘も生じた。
(ウ)28日,ジョルジ産業相は,英国製品を輸入している亜国内の民間企業約20社の幹部に電話を掛け,英国製品の輸入を控えて他国製品で代替するよう要求した。産業省は,この措置の目的は対英貿易黒字を維持することであるとする一方で,「遠隔地の天然資源にアクセスするために未だに植民地主義という手段を用いているような国に対して,合図を送っている」などと表明して,この措置がフォークランド(マルビナス)諸島領有権問題に関する抗議の一環であることを示唆した。 29日,英政府は,「英国は亜に対して多大な投資を行っており,亜製品の輸入も行っている。かかる障壁を据えること(注:英国製品の輸入を制限しようとする亜政府の上記措置)は亜経済を利すことにはならない。取るべき態度は協力であり,対立ではない」との見解を示して亜を批判した他,亜政府の上記措置についてEUに問題提起し,EUとして亜に制裁を課す可能性を示唆した。
2 ALBA首脳会合
4〜5日,ティメルマン外相は,第11回ALBA首脳会合に出席するためベネズエラを訪問し,4日,同首脳会合において演説を行った。同外相は,フォークランド(マルビナス)諸島領有権問題に関し,2010年2月にメキシコで開催されたラテンアメリカ・カリブ諸国統合首脳会合及び昨年12月にベネズエラで開催されたラ米カリブ諸国共同体(CELAC)首脳会合において,全ての中南米・カリブ諸国が亜の正当な権利に対する支持を表明しており,今次ALBA首脳会合では,その支持が再確認され,中南米・カリブ諸国の統合強化が証明されたとして,「今や,マルビナス諸島(領有権問題)は中南米・カリブ全体の問題であるということが,一層明白となった」と述べた。また,英国が,国連決議に背き,同諸島海域での天然資源の採掘や軍事演習といった一方的行動を繰り返しているとして,これに対する亜の懸念を改めて表明した。
3 米国
9日,ジャコブソン米国務次官補(西半球担当)が訪亜し,ティメルマン外相と会談した(亜側:アルグエジョ在米大使,米国側:マルティネス在亜米大使同席)。両者は,昨年11月の亜米首脳会談において示された指針に基づく取り組みの進捗状況をレビューした他,中南米の各地域機関が民主主義の擁護のために果たしてきた役割の重要性を確認した。また,中南米及び米州における様々な対話が,人権問題や社会的弱者支援といった分野での協力を促進していることを強調し,その好例として,亜のPro
Huerta(食料自己生産促進プログラム)によるハイチ支援に言及した。その他,社会的包摂のための重要な要素としての教育の意義を確認した上で,亜米間の学生の交換留学の促進を共通の目的とする旨合意した。同様に,科学技術分野における二国間の目覚ましい協力についても確認し,最近の好例として,人工衛星「SAC-D
Aquarius」の打ち上げの成功に言及した。最後に,両者は,両国の共通の利益に関わる諸問題について,今後ともスムーズな対話を継続していくことについて合意した。
4 ドミニカ共和国
16〜17日,ティメルマン外相はドミニカ共和国を訪問し,17日,フェルナンデス同国大統領と会談した。同大統領は,同外相に対し,フォークランド(マルビナス)諸島領有権問題を巡る亜の立場に対する支持を改めて表明し,これに対して同外相は謝意を表明した。
5 G20
19〜20日,ティメルマン外相は,G20外相会合に出席するためメキシコを訪問し,20日,同会合において演説を行った(注:今次外相会合は,6月に同国で開催されるG20サミットの準備会合)。同外相は,安保理改革の必要性を改めて主張し,フォークランド(マルビナス)諸島領有権問題に関する国連決議等を英国が遵守していないことを非難した他,欧州経済危機に対するIMFの対応等を批判した。
6 パラグアイ
23〜24日,ルゴ・パラグアイ大統領が非公式に訪亜し,サンタクルス州カラファテ市においてフェルナンデス大統領と会談した他,同州リオガジェゴス市においてキルチネル前大統領の霊廟を訪問した。
7 要人往来
(1)往訪
3〜5日 |
ティメルマン外相のベネズエラ訪問(第11回ALBA首脳会合に出席) |
10日 |
ティメルマン外相の国連本部訪問(潘国連事務総長等と会談) |
16日 |
アラク司法相のフランス訪問(金融活動作業部会(FATF)全体会合に出席) |
16日 |
デビード公共事業相のブラジル訪問(ロボン・ブラジル鉱山エネルギー相と会談) |
16〜17日 |
ティメルマン外相のドミニカ共和国訪問(フェルナンデス・ドミニカ共和国大統領と会談) |
19〜20日 |
ティメルマン外相のメキシコ訪問(G20外相会合に出席) |
24〜25日 |
ロレンシノ経済相及びマルコ・デル・ポント中銀総裁のメキシコ訪問(G20財務大臣・中央銀行総裁会議に出席) |
(2)来訪
9〜10日 |
ジャコブソン米国務次官補(西半球担当)(ティメルマン外相と会談) |
23〜24日 |
ルゴ・パラグアイ大統領(フェルナンデス大統領と会談) |