1 概要
(1)内政:25日,5月革命204周年式典が開かれた。フェルナンデス大統領は,ブエノスアイレス市の大聖堂でのミサに8年ぶりに,かつ大統領としては初めて参加した後,経済的弱者への配慮を訴える演説を行った。この他,同月には,文化庁の省への格上げ,ペロン党(PJ)の執行部再編,家族手当等の給付額の引き上げがあった。
(2)外交:15日,連邦裁判所が,1994年のイスラエル共済組合(AMIA)会館爆破事件解決に向けた亜・イラン二国間の覚書について,違憲判決を下した。28日〜30日にかけ,ティメルマン外務大臣がロシア及びカザフスタンを訪問した。
11日〜12日にかけて,バチェレ・チリ大統領が訪亜し,フェルナンデス大統領と会談,両国首脳は,2009年に亜・チリ二国間で署名されたマイプ条約再開を含む大統領共同声明への署名を実施した。20日〜22日にかけてポネマン米エネルギー副長官が訪亜し,フェルナンデス大統領との会談,デビード公共事業大臣との会談及び共同声明への署名,バカムエルタ・シェールガス田視察等を実施した。
2 内政
(1)5月革命式典の大統領演説
25日,亜5月革命204周年記念日に,ブエノスアイレス市内では,大聖堂でのミサ,5月広場での民主愛国祭(Fiesta Patria Nacional)と称したコンサート等が開催された。
フェルナンデス大統領は,ブエノスアイレス大聖堂で開催されたポリ・ブエノスアイレス大司教による記念ミサに出席した。2006年に,キルチネル前大統領と共に,同大統領夫人としてフェルナンデス現大統領も本ミサに出席していたが,その後,当時のベルゴリオ・ブエノスアイレス大司教(現在のフランシスコ・ローマ法王)の発言を不服として以来,フェルナンデス大統領は,同大聖堂での記念ミサには出席していなかった。その為,今年は8年ぶり且つ大統領就任以来初の出席となった。
同日午後,フェルナンデス大統領は,5月広場で開催された民主愛国祭と称したコンサート会場にて,ミュージシャンやアーティストが集う舞台に上がり,26分間の演説を行った。その中で、「21世紀における我々の重要な課題は,20世紀の国造りの経験や考え方を一新し,新しい国造りをすることだ。そのための土台は,2003年5月25日に1人の男(キルチネル前大統領)が,新しい統治の仕方,考え方を主張したときに築かれた。当時においては,雇用と高収入が確保され,企業家が財を成し,我々が債務を返済することができる国家を造ることなど不可能であると言われていた。その男は,(このような国家の建設に)命を捧げた。」と述べた。同発言に対し,聴衆からは「ネストル(キルチネル前大統領)は死んでいない,ネストルは死んでいない,ネストルは我々と共にある」と声が揚がった。
同式典開催に際し,主催者発表によれば,5月広場に約30万人が集結した(警察によれば約15万人)。一部報道によると,その内約2.5万人は,ラ・カンポラ,エビータ運動といった大統領応援団であったとされている。
(2)ペロン党の党大会開催
9日,ブエノスアイレス市内において,ペロン党(PJ)の党大会が開催された。全国から集まった900名を超える(注:報道により数字は異なる)大会参加者は,フェルナンデス大統領に対するペロニズムの支持を確認すると共に,エドゥアルド・フェルネル・フフイ州知事を党首とする新執行部を任命した。同党大会において,現時点で2015年選挙の大統領候補と目される全員が,新たに設置された名誉副党首に任命され,労働組合の代表が副党首に就任した他,「ラ・カンポラ」(左派若手活動家組織)のメンバーが,副党首の他,事務総局長や女性局長などの重要ポストを占める。執行部メンバーは75名から138名に拡大され,副党首も5名から11名に拡大された。
新メンバー(副党首未満省略)は次のとおり。
党首:エドゥアルド・フェルネル・フフイ州知事
第一副党首:ホルヘ・カピタニッチ官房長官
第二副党首:アントニオ・カロー労働総同盟(CGT政府派)書記長(労働組合代表)
第三副党首:ベアトリス・ロフケース上院議員(前臨時上院議長)(注:上院議長は副大統領が務める)
第四副党首:エドゥアルド・デ・ペドロ下院議員(「ラ・カンポラ」)
名誉副党首:フリアン・ドミンゲス下院議長
名誉副党首:アニバル・フェルナンデス上院議員
名誉副党首:フロレンシオ・ランダッソ内務・運輸大臣
名誉副党首:アグスティン・ロッシ国防大臣
名誉副党首:ダニエル・シオリ・ブエノスアイレス州知事
名誉副党首:セルヒオ・ウリバリ・エントレリオス州知事
名誉副党首:フアン・マヌエル・ウルトゥベイ・サルタ州知事
(3)家族手当等の引き上げ
前回の手当引き上げから約1年が経過した14日,フェルナンデス大統領は,大統領府にて,本年6月より,子供手当(Asignacion Universal por Hijo:AUH)の月間支給額を460ペソから644ペソに引き上げる旨発表した。併せて,家族手当,障害者手当及び妊婦手当の増額も発表した。今次増額分については,国家社会保障機構(ANSES)の資金を用いるとされ,引き上げによる支出は,年間150億ペソ(約18億ドル)に上ると見られている。
フェルナンデス大統領は,国営放送を通じて,「国家社会保障機構の原資の多くは税金で占められており,所得税の非課税対象限度額を引き上げることは(この原資を減少させるので)年金恩給者に悪影響を与える」と述べ,現行の課税政策を弁護する演説を行った。
今次措置は,今後の財政負担を大きくするものの,昨今の大幅なインフレによる各種手当ての実質価値の減少に不満を持つ低所得層に配慮したものと見られる。当地二大主要紙の一つであるクラリン紙は,小見出しに「インフレによる損失を補填」と,増額の理由を報道している。同紙によれば,本年の第1四半期(1〜3月)の3ヶ月間に11.9%のインフレ率が記録されたとしている。
なお,同式典開始の約2時間前に,大統領府前の5月広場にてモジャーノ・トラック労組代表及びバリオヌエボ飲食業労組代表率いる反政府派労組によるデモ行進が行われた。
(4)文化省の設立
7日,フェルナンデス大統領は,大統領府文化庁に代わり文化省を新設し,初代文化大臣にテレサ・アデリナ・セジャレース女史を任命した。セジャーレス女史は,大衆から「テレサ・パローディ」と呼ばれている芸術家で,キルチネル派である。
セジャーレス新大臣は,「今回の知らせは特別なもので,自分が政府の文化事業を継続するために活動できると大統領が期待していることを,非常に光栄に思い,感動している」と述べた。
3 外交
(1)チリ
11日〜12日にかけて,当国を訪問したバチェレ・チリ大統領は(同大統領の訪問は,当初4月15日に予定されていたが,チリのバルパライソでの火災発生に伴い延期された),12日,サン・マルティン広場での献花後,大統領府にてフェルナンデス大統領と単独で会談した。
今次訪問中に両国首脳は,2009年に亜・チリ二国間で署名されたマイプ条約再開を含む大統領共同声明への署名を行い二国間の国境地帯での交通網を倍増させる必要性に関し合意した。会談後には,共同記者会見及び,大統領府に隣接する(建国)200周年博物館での昼食会が開催された。また,バチェレ大統領は,国会議事堂を訪問し,最高裁判所関係者と会合した他,夜には,在亜チリ大使館のレセプションにて,亜の与野党のリーダーらと懇談した。
フェルナンデス大統領及びバチェレ大統領の間で署名された大統領共同声明中にて,バチェレ・チリ大統領は,フォークランド(マルビナス)諸島,南ジョージア諸島,南サンドイッチ諸島及び周辺海域における亜の合法的主権を支持する旨改めて表明した。また,国連決議及び米州機構宣言に従い,できる限り早く本件主権問題に関する平和的且つ決定的解決方法を見つけるために,亜政府及び英国政府が,交渉を再開する必要性を表明した。フェルナンデス大統領は,UNASUR,メルコスールの宣言中で言及されている(マルビナス問題に係る)約束を守る為に,チリ政府が,国際法及び国内法に従って効果的な手段をとっていることに対し,感謝の意を表した。最後に,両国首脳は,現在英国が行っている石油・天然ガスの採掘や軍事活動等の一方的な行為は,国連決議と相容れないものであると同時に,紛争の解決にも貢献しない点を強調した。
また,今次訪問中,ティメルマン外務大臣及びムニョス・チリ外務大臣間で,「仮パスポートを有する亜国民及び,通行許可書を有するチリ国民の亜・チリ両国間の往来を容易にする為の亜・チリ二国間交換公文」及び,「重大な人権侵害解明に向けた情報交換に関する亜・チリ二国間覚書」の2件の合意文書への署名が実施された。
(2)イラン
亜・イラン二国間で,2013年1月27日に署名された1994年のイスラエル共済組合(AMIA)会館爆破事件解決に向けた覚書に関し,15日,連邦裁判所は,同覚書署名時に,政府の司法案件への「不当な介入」があったとして,同覚書を違憲とし,覚書の適用延期及び,同爆破事件のイラン人容疑者の引き渡し要求を復活させるよう命じる判決を下した。30日,政府側は本件を上訴した。
(3)米国
(ア)ポネマン米エネルギー省副長官訪問
20日〜22日にかけて亜を訪問したポネマン米エネルギー副長官は,21日,デビード公共事業大臣との会談及び共同声明への署名,カピタニッチ官房長官及びキシロフ経済・財政大臣との会合,国会議事堂訪問,ブエノスアイレス大学法学部での講演を行った。また,翌22日には,ガルッチオYPF社長と共に,バカムエルタ・シェールガス田を視察後,オリーボスの大統領公邸でフェルナンデス大統領と会談した。
(イ)米国による「2013年テロ」報告書
5日,ベルニ治安活動長官は,亜国内で麻薬取引が行われており,特に亜,伯,パラグアイ3国の国境地帯での麻薬取引が増加しているとする米国政府が発表した「2013年テロ」に関する報告書の内容を否定した。
(4)ロシア
28日,ロシアを訪問したティメルマン外務大臣は,亜・露戦略的パートナーシップの下,露外務省にて,ラブロフ外務大臣との会談,ワーキング・ランチを実施した。ティメルマン外務大臣は,亜・露戦略的パートナーシップは「国際関係,価値及び国民生活の向上という要素に立脚した亜・露両国が構築している共通のビジョンに基礎を置いている」旨強調した。また,両国外務大臣は,世界及び地域の情勢をレビューし,国際紛争解決における第3国による他国の国内問題への不干渉の必要性,軍縮・不拡散,宇宙空間における軍事力の展開放棄,二国間協力・貿易関係について協議した他,本年9月に行われる亜・露両国外務副大臣による政策協議の具体的手順が決められた。
また,ラブロフ露外務大臣は,フォークランド(マルビナス)諸島領有権問題における露政府の亜政府(の立場)への支持を表明した。ティメルマン外務大臣は,露政府からの本件主権問題に関する二国間及び国連の枠組で表明された支持の再表明に対し,深い感謝の意を表した。
会合後,ラブロフ露外務大臣が,ツイッター上で,7月15日にブラジルで開催されるBRICS会合に亜を招待した旨述べると同時に,「プーチン露大統領のラテンアメリカ訪問時には,フェルナンデス大統領をはじめ,他の国々の大統領と会合する機会があるだろう」と発言したとの報道があったが,その後,「同会合には亜は招待していない。招待するのは議長国の伯の責任である」旨,当地ロシア大使のコメントが報じられた。
(5)ブラジル
21日〜22日にかけて,ブラジルを訪問したフィルムス外務副大臣は,アモリン伯国防大臣及びドス・サントス伯外務副大臣と会談した。同会談にて,伯側は,フォークランド(マルビナス)諸島領有権問題における亜政府の主張に対する支持を表明した。
(6)ペルー
23日,亜を訪問したリバス・ペルー外務大臣は,ティメルマン外務大臣と会談し,二国間関係,地域及び国際社会に関する主要テーマについて協議した。その中で,フォークランド(マルビナス)諸島への亜の合法的主権に対するペルー政府の支持を再表明した。また,両国外務大臣は,民主主義,人権擁護を厳守し,貧困及び社会差別問題の解決方法を探求する旨約束する共同声明への署名を行った。
(7)ウルグアイ
2日,ウルグアイ政府は,政府刊行書簡にて,フォークランド(マルビナス)諸島における英国軍隊の存在は「潜在的危険性」を秘めているとし,同諸島での英国軍の活動を拒絶する亜の主張への支持を表明した。右に対し,フィルムス外務副大臣(マルビナス諸島,南ジョージア諸島,南サンドウィッチ諸島及び南大西洋海域担当)は謝意を表明した。
(8)カザフスタン
29日〜30日にかけてカザフスタンを訪問したティメルマン外務大臣は,29日マシモフ・カザフスタン首相との会談,議員との会合を実施した。翌30日には,イドリソフ・カザフスタン外務大臣と会談及びビジネス・ランチを実施し,共同声明及び,亜・カザフスタン両国国民の行き来を容易にする目的でビザ免除に関する合意文書への署名を行った。今次会談において,両国外務大臣は,紛争の平和的解決に関し共通の見解を示した他,軍縮・核不拡散に対する強い決意を表明した。また,イドリソフ・カザフスタン外務大臣は,ウランの主要生産国であるカザフスタン政府は,原子力の平和的利用を目的とした亜の原子力技術に関心がある旨述べた。なお,ラテンアメリカ諸国の外務大臣の訪問は,カザフスタンの歴史上初めてのことであった。
(9)タイ
22日,同国におけるクーデターに対し,亜外務省は「亜政府は,22日のタイにおける制度的秩序の断絶と同国軍による権力の掌握が発表された後の一連の出来事に、懸念を抱き続けており,憲法秩序の完全な回復と民主的選挙の実施を呼びかけ,タイ国民の人権の無制限の尊重を保障するよう勧告する」旨コミュニケを発出した。
(10)ナイジェリア
8日,亜外務省は,ナイジェリアで(イスラム過激派グループ)「ボコ・ハラム」により200人を超えるナイジェリア人の少女が誘拐された事件に関し,「亜政府は,ナイジェリア国民及び政府,特に被害者家族に対し改めて連帯を表明すると同時に,未だ拘束されている少女たちの早期解放を強く要求する」旨プレスリリースを発出した。
(11)要人往来
(ア) 往訪
5日〜6日 |
バラニャオ科学技術大臣のイタリア訪問 |
6日 |
ティメルマン外務大臣のチリ訪問(第2回アジア太平洋経済協力(APEC)会合出席) |
7日 |
カサミケラ農牧・漁業大臣のチリ訪問(第33回国際連合食料農業機関(FAO)ラテンアメリカ・カリブ地域会合開会式出席) |
7日〜9日 |
バラニャオ科学技術大臣のスペイン訪問 |
7日 |
メイヤー観光大臣のアラブ首長国連邦訪問(第21回アラビア旅行博(Arabian Travel Market2014)開会式出席) |
8日 |
ブドゥー副大統領のコスタリカ訪問(ギジェルモ・ソリス新大統領就任式出席) |
12日〜14日 |
ブドゥー副大統領のカタール訪問(第14回国際フォーラム出席) |
15日 |
ロッシ国防大臣のコロンビア訪問 |
18日〜19日 |
マンスール厚生大臣のスイス訪問(第67回世界保健機構(WHO)総会出席) |
19日 |
ジョルジ産業大臣のボリビア訪問) |
21日〜22日 |
フィルムス外務副大臣(マルビナス諸島,南ジョージア諸島,南サンドウィッチ諸島及び南大西洋海域担当)のブラジル訪問 |
26日 |
デルガード農牧・漁業長官の中国訪問 |
26日 |
ドミンゲス下院議長のドイツ訪問 |
27日〜28日 |
キシロフ経済・財務大臣のフランス訪問(パリクラブ会合出席) |
27日〜28日 |
トマーダ労働・雇用・社会保障大臣のスイス訪問(国際労働機関(ILO)サミット出席) |
28日 |
メイヤー観光大臣のバチカン訪問 |
28日 |
ティメルマン外務大臣のロシア訪問 |
29日〜30日 |
ティメルマン外務大臣のカザフスタン訪問 |
(イ)来訪
(以下の日程で下記要人が当地で会談等を実施したとの情報あり)
11日〜12日 |
バチェレ・チリ大統領 |
20日〜22日 |
ポネマン米エネルギー省副長官 |
23日 |
リバス・ペルー外務大臣 |
26日 |
ガルシア・リネラ・ボリビア副大統領 |
26日 |
レイテ・パラグアイ産業大臣 |