2010年1月アルゼンチンの政治情勢(内政・外交)
2010年2月作成
在アルゼンチン大使館
I.概要
(1)内政面では、外貨準備を用いた「債務削減及び安定性のための建国二百周年基金」の創設を巡る、政府とレドラド中央銀行総裁の対立が、同総裁の解任問題に発展した。雇用創出プログラムの不公平な実施に反対する非キルチネル派ピケテロ・グループは、引き続き抗議活動を実施した。
(2)外交面では、タイアナ外相が訪日し、岡田外相と会談した他、第4回アジア中南米協力フォーラム(FEALAC)外相会合、第22回日亜経済合同委員会及び第1回日亜交流シンポジウムに出席した。また、フェルナンデス大統領が、外遊中の大統領代行をコボス副大統領に任せることはできないとして、中国訪問を急遽中止したことを受け、タイアナ外相が、通商ミッションの団長として訪中した。他方、ビラル・シリア情報相、ハマド・カタール首長、ムヒカ・ウルグアイ次期大統領等が訪亜した。
II.内政
1.二百周年基金・中銀問題
(1)昨年12月14日、フェルナンデス大統領は、外貨準備約66億ドルを用いて「債務削減及び安定性のための建国二百周年基金」(以下、基金)を創設する緊急大統領令(DNU)を発出した。これを受けて、レドラド中央銀行総裁は、中銀の法制部局等に対して、同緊急大統領令の法的な位置付けについて検討するよう要請した。
(2)6日、フェルナンデス大統領は、レドラド中銀総裁に対し、外貨準備の基金への移管を拒否していること等を理由に辞任を要請した。
(3)レドラド総裁が辞任要請を拒否したことを受けて、7日、フェルナンデス大統領は、緊急大統領令を発出し、業績不良及び公務員の義務の不履行を理由にレドラド総裁を解任した。なお、中銀定款第9条は、政府が中銀総裁を解任する際、事前に議会の両院特別委員会による拘束力のない助言が必要であると規定しているため、同緊急大統領令は、同規定を本件に適用しないとし、更に、訟務長官に対し、レドラド総裁を司法当局に告発するよう命じた。
(4)8日、サルミエント連邦判事(行政訴訟担当)は、市民連合等野党による保護請求訴訟に対し、議会が基金創設のための緊急大統領令について判断するまで、同緊急大統領令を凍結し、外貨準備を基金に用いることを差し止める仮処分を行った。また、同日、同判事は、レドラド総裁による保護請求訴訟に対し、総裁解任のための緊急大統領令を凍結し、同総裁を復職させるとの仮処分を行った。これに対し、政府は、これら2つの判決に控訴した。
(5)12日、米ニューヨークのGriesa連邦判事は、残存民間債権者からの請求に基づき、亜中央銀行がニューヨーク連銀に保有する資金約170万ドルの凍結を命じた。なお、15日、同判事は、同凍結命令を解除した。
(6)22日、行政高等裁判所は、基金創設及び中銀総裁解任のための緊急大統領令について、以下のとおり判決を下した。
(イ)基金創設のための緊急大統領令ついて、議会に諮ることなく緊急大統領令によって基金が創設されることを正当化する特段の理由はないとして、一審における判決を支持した。これにより、政府は、引き続き基金を創設できないこととなった。
(ロ)中銀総裁解任のための緊急大統領令について、レドラド中銀総裁の進退は、議会と行政府により解決されるべきであり、中銀総裁の解任に当たっては、事前に議会の両院特別委員会の助言を得なくてはならないとのプロセスが遵守されるまで、政府は後任の中銀総裁を任命してはならないとした。
(7)上記(ロ)の判決を巡って、政府及びレドラド総裁の間で解釈が分かれたが、同日、政府の意向に沿う形で中銀理事会が開催され、ペッシェ中銀副総裁が総裁職を代行することが決定された他、レドラド総裁が中銀建物に立ち入ることを禁止する命令が採択された。
(8)26日、議会の両院特別委員会が召集され、レドラド総裁の進退について審議が開始された。なお、同委員会は5名から構成され、上院の予算委員長及び経済委員長は未だ任命されていないものの、コボス上院議長(副大統領)、下院のマルコナト予算委員長(キルチネル派)及びプラット・ガイ金融委員長(市民連合)の3名で定足数が満たされ、委員会が成立した。
(9)27日、ググリエルミノ訟務長官(2004年就任)は、フェルナンデス大統領の要請を受け、辞任した。同長官は、基金創設及び中銀総裁解任のための緊急大統領令に関わる訴訟を適切に対処できなった責任を取らされ、辞任に追い込まれたと見られている。なお、その後任として、ダ・ロチャ法律学者が、訟務長官に任命された(2月1日就任)。
(10)29日、レドラド総裁は、記者会見を開き、「より多くの安定を亜国にもたらすための憲法上の全てのプロセスを既にやり遂げた」などとして、総裁職を辞任する旨表明した。これに対し、同日、フェルナンデス首相は、レドラド総裁の辞任を認めないとし、議会の両院特別委員会の助言を得た後、通常の政令を発出し、同総裁を解任する旨述べた。
2.農牧問題
(1)11日、フェルナンデス大統領は、中小小麦生産者に対する利子補給制度の設置等の小麦支援策を発表した。
(2)12日、主要農牧4団体は集会を開き、政府の小麦支援策は不十分である旨抗議するとともに、小麦の輸出自由化、輸出登録制度の廃止、中小生産者に対する輸出課徴金の還付、小麦取引の正常化を要求した。また、これらの問題に対して、政府から解決策が示されなければ、抗議活動等の強硬手段も辞さない旨警告した。
(3)13日、主要農牧団体及び小麦協会代表は、ドミンゲス農牧・漁業大臣等と会談し、製粉会社による小麦150万トンの即時買付、小麦25万トンの輸出許可(両措置は中小生産者優先)、1月に返済期限が到来する融資の6ヶ月延長等で合意した。
3.社会闘争
(1)14日、非キルチネル派ピケテロ・グループ(CCC、Movimiento Barrios de Pie、 Polo
Obrero、MST-Teresa Vive等)約1万人が、政府が8月に発表した雇用創出プログラム(注:政府がインフラ工事に従事する協同組合を設立し、雇用された失業者に対して、月額約1400ペソを支払うプログラム)の不公平な実施に反対し、ブエノスアイレス市、ブエノスアイレス州ラプラタ市及びマタンサ市において、道路封鎖を行った。
(2)26日、約30の非キルチネル派ピケテロ・グループは、雇用創出プログラムの不公平な実施に反対し、かつ、社会保障の拡充を求め、全国16州及びブエノスアイレス市において、抗議デモ及び道路封鎖を行った。
(3)29日、ブエノスアイレス市内のバス・ターミナル「レティーロ駅」において、賃上げを求める運転手労組(UCRA)が、バス・ターミナルの入り口を封鎖した。その後、UCRAと同封鎖に反対するバス・地下鉄労組(UTA)との対立が激化し、乗客が乗っている長距離バスへの投石行為等にまで及んだ結果、長距離バスの運行に約3時間の遅れが生じた。
4.ペロン党情勢
25日、ブエノスアイレス州ピナマール市において、キルチネル派の同州下院議員22名は、州議会で今後扱うべき議題等について協議するため、会談した。同議員らは、次期選挙も勝利できない可能性があるとの危機感を募らせており、キルチネル前大統領、シオリ・ブエノスアイレス州知事、バレストリーニ・ブエノスアイレス州副知事(ペロン党ブエノスアイレス州支部代表)のリーダーシップに疑問を投げかけるとともに、独自勢力構築の可能性を示唆した。
5.フェルナンデス大統領の中国訪問中止
(1)19日、フェルナンデス大統領は急遽記者会見を開き、副大統領としての役割を果たさず、政府のあらゆる施策の妨害を試みるコボス副大統領に外遊中の大統領代行を任せることはできないとして、22日に出発予定であった中国訪問を中止する旨発表した。
(2)同日、コボス副大統領は、コミュニケを通じて、フェルナンデス大統領に対し、国の利益のために、中国訪問を中止するという決定を見直すよう求めるとともに、「自分は、如何なる妨害もしていない。その反対であり、問題の解決を模索しようとしている」旨表明した。
III.外交
1.日本
(1)14〜17日、タイアナ外相は、亜建国200周年の最初の事業として、企業関係者や有識者等から成る政治・通商・文化ミッションを率いて訪日した。
(2)15日、タイアナ外相は、第22回日亜経済合同委員会の場で演説を行い、日亜関係強化の必要性等につき述べた。亜から30名以上の企業関係者の他、メンデス亜工業連盟(UIA)会長及びエウルネキアン亜商工会議所副会頭等も同席した。
(3)15日、タイアナ外相は、第1回日亜交流シンポジウムに出席した。同シンポジウムでは、両国有識者が、文化的アイデンティティや日亜関係等について意見交換を行った。
(4)15日、タイアナ外相は、岡田外相との二国間会談を実施した。両外相は、二国間関係全般(亜による地上テジタルテレビ日伯方式採用、日亜経済合同委員会、日亜交流シンポジウム等)、アジア中南米協力フォーラム(FEALAC)、対ハイチ支援、債務問題、国際場裏における協力につき意見交換を行った。
(5)16〜17日、タイアナ外相は、岡田外相と共に第4回FEALAC外相会合の共同議長を務めた。同会合閉会式において、タイアナ外相は、「我々は、相互理解を深めるために、両地域間に新たな架け橋を築くことで合意した。2011年の第5回FEALAC外相会合開催地としてブエノスアイレスが選ばれ、亜はインドネシアと共に共同議長国を務めることになる」等述べた。
2.英国
(1)英国によるマルビーナス(フォークランド)諸島占領開始177年目となった3日、亜外務省は、同占領を非合法である旨非難するプレスリリースを発出した。
(2)また、25日、亜外務省は、「議会の複数の委員会及び外務省関係部局における2年に亘る作業の結果、昨年12月、亜政府は、議会による承認の下、ティエラデルフエゴ州の領域にはマルビーナス諸島が含まれる旨定めた法律26.552号を発布したところ、英外務省より、同法令への抗議の口上書が在英亜大使館に接到した。本日、亜外務省は、在亜英大使館に対し、同抗議を拒絶するとともに、マルビーナス諸島の亜の主権を再確認する口上書を送付した」旨のプレスリリースを発出した。
3.国際原子力機関(IAEA)
4日、亜外務省は、タイアナ外相補佐官兼外務省政策調整担当総局長であるグロッシ氏が国際原子力機関(IAEA)官房長に就任したことを発表した。タイアナ外相は、「かかる重要なポストにアルゼンチン人外交官が就任することは、亜が原子力の平和利用の分野において主要な役割を果たしてきたことに対し、(国際的な)評価が得られていることを意味する」旨述べた。
4.シリア
5日、ビラル・シリア情報相が南米諸国歴訪の一環として訪亜し、フェルナンデス大統領及びタイアナ外相と各々会談した。ビラル情報相は、フェルナンデス大統領との会談後の記者会見において、「中東地域における公平で真の和平の構築に向けた亜国及び亜大統領の意志を高く評価する。本年中に、フェルナンデス大統領は、シリアを訪問予定である」等述べた。また、ビラル情報相は、マルビーナス(フォークランド)諸島領有権問題に関し、亜への連帯を表明した。
5.米国
(1)6日、エンゲル米下院議員(民主党)を団長とする米議員団が訪亜し、フェルナンデス大統領及びタイアナ外相と各々会談するとともに、労働総同盟(CGT)関係者とも懇談した。
(2)エンゲル議員は、記者会見において、「フェルナンデス大統領と非常に素晴らしい会談を持ち、両国関係に関する様々なテーマにつき、友好的且つ率直に協議した。(昨年12月に訪亜したバレンスエラ米国務次官補が、亜における法的安定の欠如等を指摘したことに関する記者からの質問に対し、)二国間関係を定義するのは、発言内容ではなく、テロ・麻薬に対する闘い、核不拡散等の分野で行われている両国間の協力である」等述べた。
(3)他方、タイアナ外相は、「今回、エンゲル議員とは、両国共通の関心事項、両国関係強化のための様々な取り組み等につき協議した。両国は、民主主義、人権、核不拡散、持続可能な発展のための労働の必要性、テロに対する闘い等、多くのテーマを共有している。我々は、米国市場の一定の開放に向け尽力しているところであり、米議員による貢献も期待されている」等述べた。
6.ウルグアイ
12〜15日、ムヒカ・ウルグアイ次期大統領が訪亜し、14日、フェルナンデス大統領と会談した。ムヒカ次期大統領は、会談後の記者会見において、「フェルナンデス大統領と、エネルギー問題、ウルグアイ川を巡る問題、メルコスールにおける共同歩調等の両国間の多様なテーマにつき協議するため、二国間委員会を設置することで合意した。各種問題の即時解決は難しいだろうが、創造的精神を以て、解決に向け一歩一歩着実に進んでいく所存である。紙パルプ工場建設問題については、国際司法裁判所の判決を待たなくてはならない。我々は解決策を有している訳ではないが、解決に向けて闘う意志は有しており、二国間関係を可能な限り改善したいと考えている」等述べた。
7.ハイチ
(1)13日、亜政府は、プレスリリースを通じて、12日にハイチにおいて発生した地震による甚大な被害に関し深い哀悼の意と連帯を表明するとともに、ハイチを緊急支援すべく準備を進めていること(必要物資輸送のための空軍機1機のハイチ派遣、衛星電話機材のハイチへの輸送)及び地震による対ハイチ亜派遣要員1名の死亡につき発表した。また、同日、フェルナンデス大統領は、プレバル・ハイチ大統領に対し、連帯と哀悼の意を表明する書簡を発出した。
(2)14日、フェルナンデス大統領は、ハイチ人道支援に参加するホワイトヘルメット隊員と亜空軍C−130輸送機を見送った。同機は、10,500キロの物資を積載しており、その内訳は2,500キロの粉末牛乳及び3,500キロの保存食品の他、血清、抗生物質、ガーゼ、水の浄化用薬剤及び初期救助機材である。また、同機には、13名の搭乗員と35名の乗客が乗っており、8名のPKO要員(10日間ハイチに滞在予定)が含まれている。 フェルナンデス大統領は、更に別の飛行機1機が、飲料水プラントをハイチに運び込む予定であること、また、本日出発する要員は被災地で通信網を立ち上げるための衛星電話を運び込む予定であることを説明した。
(3)19日、タチェッティ筆頭外務副大臣は、エストレージャ在亜西大使と会談し、2009年2月に署名された亜西三角協力に関する合意に基づく、ハイチへの緊急援助の共同実施につき協議した。両者は、亜外務省内に設置された危機対策委員会により必要性が最も高いと選定された食料及び衛生用品を購入するために西政府が25万ユーロを供出し、亜政府がこれら物品の輸送を担うことで合意した。また、両者は、ハイチの状況がある程度安定した際には、プロウエルタ・プログラムを強化することで合意した。
(4)24日、10名の要員(医師、看護士、救急隊員、麻酔士及び消防士)が搭乗し、医薬品、病院消耗品、食料品及びその他救援資材が積載された1機がハイチに向けて出発した。
8.カタール
17〜18日、ハマド・カタール首長が南米諸国歴訪の一環として訪亜し、18日、フェルナンデス大統領と多様な分野における協力関係の強化策及び共通関心事項等につき協議した。また、両者は、スポーツ分野協力に係る覚書、経済・産業・通商協力及び相互投資促進に係る合意、航空サービスに係る合意の3文書に署名した。
9.チリ
(1)18日、フェルナンデス大統領は、17日に行われたチリ大統領選挙で勝利を収めたピニェラ次期大統領に電話し、祝意を伝えるとともに、3月11日の大統領就任式に出席する旨約束した。
(2)22日、昨年10月30日にフェルナンデス大統領及びバチェレ・チリ大統領により署名された二国間統合協力協定が発効した。
10.中国
(1)フェルナンデス大統領による中国訪問延期決定を受け、25〜28日、タイアナ外相は、同大統領に代わり、通商ミッションの団長として中国(北京及び上海)を訪問した。タイアナ外相は、王光亜・中国外交部長代行(外交部副部長)、仇鴻中国商務部部長助理、陳鳳翔・中国共産党中央対外連絡部副部長、中国企業関係者、上海万博関係者等と会談した。
(2)26日、タイアナ外相は、王光亜・中国外交部長代行と会談後、記者会見を実施し、「今次訪問を延期せざるを得なかった内政上の理由が記されたフェルナンデス大統領発書簡を(王部長代行に)手交した。我々は、WTO、G20、国連改革、安保理改革、気候変動サミットにおける京都議定書及び枠組み条約の擁護等、多国間分野において引き続き協働していくことで合意した。また、我々は、両国元首が出席予定の核セキュリティー・サミット(4月、於:ワシントン)及びG20サミット(6月、於:カナダ)に向けて、両国の立場を摺り合わせて行く旨決定した。更に、上海万博への亜の参加についても話し合った」等述べた。
11.レバノン
フェルナンデス大統領は、25日に生じたエチオピア航空機レバノン・ベイルート出発便の墜落事故につき、スレイマン・レバノン大統領宛書簡を送付し、犠牲者及びその家族への深い哀悼の意と連帯を伝えた。
12.ペルー
亜政府は、26日付亜外務省プレスリリースを通じて、25日のペルー・クスコにおける洪水被害につき、亜のペルー国民に対する連帯を表明した。同被害を受けた亜人は合計771名であり、その内206名は旅程を継続し、残り565名は29日〜2月1日にかけて亜外務省が亜国防省と連携し、手配したチャーター便により帰国した。
13.要人往来
(1)往訪
14〜17日 |
タイアナ外相の訪日(岡田外相と会談、第4回FEALAC外相会合、第22回日亜経済合同委員会及び第1回日亜交流シンポジウムに出席)
|
22日 |
パンプーロ上院議長代理及びフェルネル下院議長のボリビア訪問(モラレス・ボリビア大統領就任式に出席)
|
25〜28日 |
タイアナ外相の中国訪問(王光亜・中国外交部長代行(外交部副部長)等と会談) |
(2)来訪
5日 |
ビラル・シリア情報相(フェルナンデス大統領及びタイアナ外相と会談) |
6日 |
エンゲル米下院議員(フェルナンデス大統領及びタイアナ外相と会談) |
12〜15日 |
ムヒカ・ウルグアイ次期大統領(フェルナンデス大統領と会談) |
17〜18日 |
ハマド・カタール首長(フェルナンデス大統領と会談) |