アルゼンチン政治情勢(月1回更新)

令和元年6月19日

アルゼンチン政治情勢(2019年5月)

2019年6月作成
在アルゼンチン日本大使館
 
1 内政
(1)大統領府・政府
ア マクリ大統領による様々なセクターへの「10の合意」提案
3日,マクリ大統領は,経済的苦境の中,各政治勢力からの支持を得るため,ペロン党関係者に均衡財政,インフレ抑制,年金制度改革などを含む「10の合意」を提案した。当初は,限られた政治家への提案であったが,その後対象を広げ,ペロン党のマサ前下院議員,ピチェト上院議員,ウルトゥベイ・サルタ州知事,ラバーニャ元経済大臣,フェルナンデス前大統領といった有力政治家のみならず,全州知事,農牧協会(Sociedad Rural)やアルゼンチン工業連盟(UIA)など農産業界団体,教会,労働組合等も対象に含め,6日,合意呼びかけの文書を発出した。
 
イ ペロン党キルチネル派の大統領選挙出馬宣言
 18日,クリスティーナ・フェルナンデス前大統領が,SNS等を通じて,アルベルト・フェルナンデス元内閣官房長官を大統領候補,自身を副大統領候補として,大統領選挙に出馬予定である旨発表した。同元官房長官は,キルチネル元大統領とフェルナンデス前大統領1期目の最初に内閣官房長官を務めたが,数ヶ月で辞職し,2015年の大統領選挙では,マサ前下院議員を支持していた経緯もあり,今回の発表は,各界から驚きをもって迎えられた。
 
ウ ペロン党穏健派会合の実施
 22日及び28日,ペロン党穏健派(Alternativa Federal:AF)のスキアレティ・コルドバ知事,マサ前下院議員,ウルトゥベイ・サルタ州知事及びピチェト上院議員は,会合を開き,AFとして,大統領選挙に出馬する候補者を擁立する方針を固めた(候補者は今後決定)。この会合には,ラバーニャ元経済大臣は出席せず,同元大臣は,コンセンソ19という独自会派からの出馬を表明した。
 
エ 急進党大会実施
27日,与党カンビエモスを構成する急進党は,党大会を開き,10月の大統領選挙に向けてカンビエモスにとどまることを決定した。同会合では,ペロン党穏健派と連携し,カンビエモスの裾野を広げる案や副大統領候補を急進党から出す等の提案を行うことが強く主張された。
                                           
(2)国会
ア 下院議員の銃殺
9日,オリバーレス(Héctor Olivares)下院議員(サンタ・フェ州選出)と同議員と一緒に歩行していた政府職員が,国会議事堂前広場付近で銃撃されるという事件が発生した。職員は同日死亡,オリバーレス議員は12日に死亡し,マクリ大統領は,2日間喪に服する宣言をした。なお,捜査は現在進行中であるも,容疑者は,事件翌日に逮捕され,銃撃は政府職員側を狙ったもので,政治的な背景はないものと見られている。
 
イ 政党への寄付に関する法の成立
 15日,下院で,私企業からの選挙キャンペーンへの寄付を認める法律が可決・成立した(上院では,4月16日に可決)。これにより,企業は選挙キャンペーン費用の2%まで寄付することができるようになる。
 
ウ 知識産業促進制度設置に関する法の成立
22日,上院で知識産業促進制度設置に関する法が可決・成立した(下院は4月24日に可決済み)。この制度は,2010年1月から2029年12月末日までの時限付きで,ソフトウェア,エレクトロニクス,情報及びメディア産業,衛星産業,バイオテクノロジー,ナノテクノロジーやナノサイエンス,原子力関連産業などの分野に対する税制上の優遇措置を行うもの。
 
(3)司法
ア クリスティーナ・フェルナンデス前大統領に対する裁判第一回公判の実施
21日,フェルナンデス前大統領が,サンタ・クルス州の道路公共事業入札に関し不正を行ったと訴えられている裁判の第一回公判が公開で行われ,メディアでも中継された。なお,本件は,14日に最高裁判所が本公判の延期を決めたところ,大統領府のみならず,世論も強く反発したため,16日,最高裁は同公判を予定通り21日に実施することとし,実現されたもの。
 
(4)その他
ア エバ・ペロン生誕100周年
 7日,エビータの愛称で知られるエバ・ドゥアルテの生誕100周年を迎えた。ブエノスアイレス市内にあるエビータ博物館,国際図書展(4月25日から5月13日まで開催),生誕地であるブエノスアイレス州ロス・トルドス市などで記念式典が行われた。
 
イ クリスティーナ・フェルナンデス前大統領による自伝の出版
9日,国際図書展において,フェルナンデス前大統領は,これまでの人生を振り返る自伝「誠実に(Sinceramente)」の発表会を実施した。平常の強い調子とは違い,冷静な口調で自書を紹介し,政治的な発言は,マクリ大統領への批判を除けば限定的なものとなった。発表会場への入場は,1000人程度の招待者のみとされたが,報道によれば,会場外の中継スクリーン前には,雨天にも関わらず約5000人が集合した。
 
ウ コルドバ州知事選挙
12日,コルドバ州知事選が行われ,現職のスキアレッティ候補(ペロン党穏健派)が56%という高い得票率で三選を果たした。同州は,伝統的にペロン党州知事が続いており,今般選挙も現職の優勢が伝えられていた。
 
エ ラ・パンパ州知事選挙
19日,当地中部ラ・パンパ州で知事選挙が実施され,現職のベルナ知事の推薦するシリオット候補(ペロン党)が当選した。同州は1983年の民主化以来,ペロン党州知事が継続しており,当初からペロン党優勢と見られていた。
 
オ 主要な公共事業開所(通)式
(ア)ブエノスアイレス近郊鉄道ミトレ線の高架部分開通
10日,鉄道Mitreの高架線化開通式が行われ,マクリ大統領,ビダル・ブエノスアイレス州知事,ラレタ・ブエノスアイレス市長等が出席した。ドレゴ(Dorrego)通りとコングレッソ(Congreso)通り間の3,9km分が高架になったことにより,道路交通への影響がなくなった。
 
(イ)大型車両用地下高速道路パセオ・デル・バホ(Paseo del Bajo)の開通
 27日,ブエノスアイレス市内を南北に走る7.1kmの地下高速道路が開通した。開通式には,マクリ大統領,ビダル・ブエノスアイレス州知事,ラレタ・ブエノスアイレス市長,ディエトリッチ運輸大臣等が出席した。この道路は,50年以上にわたり計画されていたが,ようやく実現に至り,バスやトラックなど大型車両用として,西に向かう5月25日高速道路や南に向かうブエノスアイレス-ラ・プラタ高速道路に接続し,輸送や旅客利用者の大幅な時間の短縮が見込まれる。
 
カ ゼネストの実施
 29日,アルゼンチン労働総同盟(CGT)の呼びかけにより,現政権の経済政策への反対意思表明のため,ゼネストが実施された。マクリ政権になって5回目のゼネスト。当日は,トラック労組やアルゼンチン労働者連合(CTA)も参加し,バス・地下鉄・鉄道等の公共交通,アルゼンチン航空などの航空便,銀行,公立学校等で業務がストップしたほか,ブエノスアイレス市内に向かう幹線道路が封鎖された。
 
2 外交
(1)日本:エチェベレ農産業国務大臣日本訪問
 10~13日,エチェベレ農産業国務大臣は,G20農業大臣会合出席のため,日本を訪問した。10日には,𠮷川農林水産大臣との二国間会談,11~12日はG20新潟農業大臣会合に出席,13日には東京でアルゼンチン農産業への投資・融資機会セミナーに出席し,基調講演を行った。同大臣は日本のほか,米国,中国,韓国,シンガポールなど10カ国ほどの二国間会合を実施した。
 
(2)米国:
ア マクリ大統領とトランプ大統領との電話会談
8日,マクリ大統領は,米国のトランプ大統領と電話会談を行い,アルゼンチンが実施している構造改革の重要性や南米地域での主要な課題について話し合った。
 
イ ブライヤー米国務次官補の訪亜
9~12日,ブライヤー米国務次官補が訪亜し,マクリ大統領への表敬の他,フォリー外務大臣をはじめとする政府機関関係者と会談した。フォリー外務大臣とは,二国間関係の枠内での共通する関心事項の進捗状況を確認し,ベネズエラを含む地域情勢についても話し合った。
 
(3)ブラジル: ポンペオ内閣府戦略長官ブラジル訪問
 13~14日,ポンペオ内閣府戦略長官は,スラウビネン筆頭外務副大臣等と共に,ブラジルを訪問した。この訪問は,ブラジル大統領府のAuguto Heleno将軍の招きで,実現したもの。原子力潜水艦開発プログラムの情報収集と二国間防衛関係の強化を目的とし,ポンペオ長官他は,Itaguaí 海軍基地(CNI), 金属製構造物生産ユニット (UFEM) 等を訪問した。
 
(4)ドイツ:フォリー外務大臣のドイツ訪問
27日,ドイツ訪問中のフォリー外務大臣は,ハイコ・マース・ドイツ外務大臣と会談した。会談では,二国間関係の進捗状況を確認し,EU-メルコスール間の貿易協定交渉,ベネズエラ問題等ラテンアメリカ地域の課題に加え,6月に大阪で開催されるG20首脳会合についても話し合った。フォリー外務大臣は,ドイツ滞在中,ラテンアメリカ・カリブ諸国の外務大臣とともに,リマ・グループ会合やラテンアメリカ・カリブ・イニシアティブ・フォーラムに出席した。
 
(5)ベネズエラ:
ア グアイド暫定大統領の在ベネズエラ・アルゼンチン大使館訪問
 10日,マクリ大統領は,自身のツイッターに,在ベネズエラ・アルゼンチン大使館を訪れたグアイド暫定大統領のビデオメッセージを投稿した。メッセージでは,ベネズエラを支援するマクリ大統領やアルゼンチン国民への感謝等が述べられた。
 
イ ハウスマン米州開発銀行ベネズエラ代表の訪亜
 14日,訪亜中のハウスマン米州開発銀行ベネズエラ代表(グアイド暫定大統領側)が,ドゥホブネ財務大臣をはじめとする亜政府機関関係者と会合を持った。ベネズエラ情勢,経済見通し及びアルゼンチンの協力について話し合われた由。なお,同会合には,トロタ駐亜ベネズエラ国会外交代表も出席した。
 
(6)要人往来
 ア 往訪
●3~6日 ミケティ副大統領マレーシア訪問
●7~8日 ミケティ副大統領インドネシア訪問
●10~13日 エチェベレ農産業国務大臣日本訪問
(G20農業大臣会合出席)
●13~14日 ポンペオ内閣府戦略長官ブラジル訪問
●27~28日 フォリー外務大臣ドイツ訪問
   
 イ 来訪
●9~12日 ブライヤー米国務次官補
●14日 ハウスマン・ベネズエラ米州開発銀行代表
●31日~6月1日 モーロ・ブラジル法務・治安大臣
   
                                   (了)