2010年9月アルゼンチンの政治情勢(内政・外交)
2010年10月作成
在アルゼンチン大使館
T 概要
(1)内政面では,銀行出口強盗対策法案及び氷河保護法案が成立したほか,2011年予算法案が議会に提出された。キルチネル派内部では,キルチネル前大統領がシオリ・ブエノスアイレス州知事を批判したと受け取れる発言をしたことを巡り,同州市長等の間に懸念や反発が広がった。急進党のコボス副大統領及びアルフォンシン下院副議長は,次期国政選挙における共闘につき合意した旨発表した。社会党は他の野党勢力との選挙連合の形成を模索し,市民連合は党内での候補者選定を進めた。ペロン党反キルチネル派では,大統領候補として有力視されている4名が共闘姿勢を固めた。
(2)外交面では,デジャン外務省科学技術問題担当局長が次期駐日亜大使に任命された。フェルナンデス大統領は,チリを訪問してピニェラ同国大統領と会談を行ったほか,第65回国連総会に出席するため米国を訪問した。ティメルマン外相は,ボリビアを訪問してチョケワンカ同国外相と会談したほか,米国を訪問して潘基文国連事務総長等と会談した。また,エクアドルで発生した抗議活動に関し,亜政府及びキルチネル南米諸国連合(UNASUR)事務局長は,コレア同国大統領への支持等を表明した。
TT 内政
1 銀行出口強盗対策法案
(1)8日,下院本会議において,銀行出口強盗対策法案が審議されたところ,賛成票239の全会一致により可決され,上院に送付された。本法案は,銀行等の金融機関に対し,店舗内での携帯電話使用を防止するための電波遮断装置や,窓口及びATMでの盗撮・盗視を防止するための装置の設置等を義務付けている。
(2)29日,上院本会議において,本法案が審議されたところ,賛成票67,反対票1により可決され,成立した。
2 氷河保護法案
29日,上院本会議において,氷河保護法案が審議されたところ,賛成票35,反対票33,棄権1により可決され,成立した。本法案は,氷河地帯の地下資源採掘等を制限し,氷河保護のために一定の予算を確保する旨規定している。
3 2011年予算法案
15日,2011年予算法案が議会に提出され,16日,ブドゥー経済相は,下院予算委員会において同法案につき説明を行った。同相は,本法案に,外貨準備を債務削減基金に移管することを認める条項が含まれていることにつき,「大変厳しい国際情勢の中で,亜経済に確実性をもたらすものである」と述べた。野党議員等は,主にインフレ率及びGDP成長率が過小に見積もられているとして,上記法案を強く批判した。
4 企業利益分配法案
16日,レカルデ下院議員(ペロン党キルチネル派。労働総同盟(CGT)出身)等は,企業利益(再投資に回す場合は,利益の50%まで控除可能)のうち10%を労働者に分配するよう義務付ける法案を提出した。本法案に対し,財界は,同法案を推進するより,非正規雇用者の正規化といった政策を進めるべきであるなどとして,強く反発した。
5 放送法改正法の施行
放送法改正法に対し,全国で4か所の連邦裁判所が効力停止判決を下しているなか,政府は,1日付官報において同法の実施細則を公布し,8日付官報において同法を施行した。これらの官報には,放送法改正法の第161条に基づき,同法において規定された上限を超える放送ライセンスを所有している企業に対し,1年以内に超過分のライセンスを手放すよう義務付ける旨明記されている。
6 キルチネル派の動向
(1)2日,シオリ・ブエノスアイレス州知事は,7月にラプラタ市で発生した銀行出口強盗の被害者家族との会談において,同州の治安対策につき,「私は両手が縛られており」出来ることが限定されていると述べた。これを受け,当地各紙は,同発言は,キルチネル前大統領を暗に批判したものである可能性があると報じた。
(2)9日,キルチネル前大統領は,ペロン党の行事において,シオリ知事の上記発言に対し,「両手を縛っているのは誰だと言うのか」と述べた。これを受け,当地各紙は,同発言は,シオリ知事を暗に批判したものであると報じた。シオリ知事は,キルチネル前大統領の同発言につき公式な言及を避けたが,ブエノスアイレス州の市長等の間では,勢力内での対立を表面化することは次期国政選挙及び地方選挙にとってリスクとなりかねないとして,懸念が広がった。
(3)11日,キルチネル前大統領は,冠動脈の動脈硬化のため急遽病院に移送され,12日未明,緊急手術を受けたが,同日,「1週間程度で平常の業務に復帰できるだろう」という医師の診断を受け,退院した。
(4)14日,ブエノスアイレス市において,キルチネル派の大規模な支持者集会が開催され,キルチネル前大統領及びフェルナンデス大統領が出席した。上記緊急手術の直後であったキルチネル前大統領は演説を行わず,フェルナンデス大統領が演説を行った。同演説において,同大統領は,中産階級,司法,企業セクター等への批判を展開したが,キルチネル前大統領の上記緊急手術については言及しなかった。
(5)16日,ブエノスアイレス州の一部の州議会議員及び市長等は,9日のキルチネル前大統領の発言に懸念を示しつつ,「シオリ知事は,次期ブエノスアイレス州知事選挙の実施日を決定する権限を持っている。同知事が,同選挙の前倒しを決定すれば,どうなるであろうか」等述べ,仮にシオリ知事が離反すれば,キルチネル前大統領にとって大きな痛手となることを示唆した(注:キルチネル前大統領が大統領選挙に,シオリ知事がブエノスアイレス州知事選挙に出馬し,同州知事選挙が,国政選挙の実施日と異なる日程で実施された場合,キルチネル前大統領は,高い支持率を有するシオリ知事への票を,自らの大統領選挙に利用できなくなる)。
7 急進党の動向
(1)11日,コボス副大統領及びアルフォンシン下院副議長が会談を行った。両議員は,次期国政選挙では,急進党として共通の選挙綱領を作成し,同選挙綱領のもとに共闘すること,また,各選挙区の候補者についても,党内の派閥を超え,最も有力な者を選定することで合意した旨発表した。
(2)同会談後の記者会見において,コボス副大統領は,急進党の大統領候補の選定につき,「(昨年12月に成立した)政治改革法の規定に従い,来年8月,国民参加型の予備選挙を通じて候補者が選定されなければならない」と述べた。アルフォンシン副議長は,「候補者選定の手続については,目下検討しているところである。党内のコンセンサス及び予備選挙は,いずれも妥当な手続である」と述べた。サンス急進党党首は,上記両議員による今次会談に満足の意を示しつつ,「今次会談は,急進党が,責任を持って党内の相違を解決する能力を持っていることを示すものである」等述べたほか,「もはや予備選挙は必要ない。急進党の大統領候補は,党内のコンセンサスにより選定されるだろう」との見解を示した。
8 社会党の動向
(1)1日,ジウスティニアーニ社会党党首及びサンス急進党党首をはじめとする両党の主要議員等が会合を設けた。同会合において,ジウスティニアーニ党首は,サンス党首に対し,8月20日に社会党内で採択された「亜の進歩的戦線のための10点の政策綱領」を提示しつつ,次期国政選挙に向けて選挙連合の形成を打診したところ,サンス党首は,同選挙連合の形成につき合意した(上記「10点の政策綱領」を共有する姿勢は明示しなかった)。
(2)7日,ジウスティニアーニ社会党党首及びソラナス南プロジェクト代表をはじめとする両党の主要議員等が会合を設けた。同会合において,ジウスティニアーニ党首は,ソラナス代表に対し,上記「10点の政策綱領」を提示しつつ,次期国政選挙に向けて選挙連合の形成を打診したところ,ソラナス代表は,「南プロジェクトと社会党には少なからず見解の一致があるが,社会党が急進党と選挙連合を形成するのであれば,南プロジェクトが同連合に加わることはあり得ない」旨述べた。
(3)21日,ジウスティニアーニ社会党党首及びストルビセルGEN代表をはじめとする両党の主要議員等が会合を設けた。同会合において,ジウスティニアーニ党首は,ストルビセル代表に対し,上記「10点の政策綱領」を提示しつつ,次期国政選挙に向けて選挙連合の形成を打診したところ,ストルビセル代表は,同選挙連合の形成につき合意し,また,同政策綱領を共有する姿勢を示した。
9 市民連合の動向
9日,市民連合の大規模な党員集会が開催された。同集会において,カリオ市民連合代表は,次期知事選挙及び市長選挙にあたり市民連合が擁立を予定している45人の候補者を発表した(ペレス下院議員のブエノスアイレス市長選挙への擁立等)。また,同代表は,市民連合の市民社会合意からの一時離脱の決定につき,「市民連合は,他党との連合を自ら破壊したことはなく,他党が我々を裏切ってきたのだ」等述べ,市民社会合意の他勢力を批判した。
10 ペロン党反キルチネル派の動向
(1)1日,ダス・ネベス・チュブット州知事,ロドリゲス・サア・サンルイス州知事,ソラ下院議員及びデ・ナルバエス下院議員というペロン党反キルチネル派の指導者等が会合を設け,次期国政選挙に向けた協調姿勢が確認されたが,同会合には,ドゥアルデ元暫定大統領は招待されなかった。また,同会合を設けた上記4名は,10日に予定されているドゥアルデ元暫定大統領の主催によるペロン党反キルチネル派の会合を欠席する旨合意した。
(2)7〜8日,ドゥアルデ元暫定大統領は,「我々は,4人の大統領候補(注:同元暫定大統領,ダス・ネベス知事,ロドリゲス・サア知事及びソラ下院議員。デ・ナルバエス下院議員は,ブエノスアイレス州知事選挙への出馬を表明。)を擁する強力な勢力であるが,我々の勢力内対立は,キルチネル派を利するばかりである。見解の相違は予備選挙において解決されるべきものだ」等述べ,ペロン党反キルチネル派の指導者等に対し,勢力内対立の解消及び10日の会合への出席を呼び掛けた。
(3)10日,ドゥアルデ元暫定大統領の主催するペロン党反キルチネル派の会合が設けられたところ,ダス・ネベス知事,ロドリゲス・サア知事及びソラ下院議員がいずれも出席し,ペロン党反キルチネル派の内部対立を解消し,次国政選挙まで共闘する旨合意した。同会合には,ロメロ上院議員,ロドリゲス・サア上院議員,レウテマン上院議員,プエルタ下院議員等も出席した。ただし,デ・ナルバエス下院議員は,同会合を欠席した。
11 サンタクルス州検事総長問題
(1)14日,最高裁は,ソーサ元サンタクルス州検事総長を同職に復職させるよう命じた2009年の最高裁判決の有効性を追認し,ペラルタ同州知事に対し,同判決の遵守を改めて命じる判決を下した。ソーサ元同州検事総長は,1995年,当時のキルチネル同州知事(前大統領)のもとで行われた同州検察庁の再編にあたり免職されたが,その後,復職を求めて告訴し,最高裁は,同要求を認める複数の判決を下していた。
(2)また,最高裁は,今次判決において,国会が本件に対して然るべき処置をとるよう要求した。これを受け,14〜15日,急進党,共和国提案及びGENの下院議員等は,ソーサ元同州検事総長を復職させるための複数の法案を提出した。
(3)ペラルタ同州知事は,「最高裁は,州政府の自律性及び州憲法を蹂躙しようとしている」等述べ,今次最高裁判決に従わず,ソーサ元同州検事総長を復職させない旨公言した。フェルナンデス大統領及び政府閣僚等は,「州行政や州議会に国が干渉することは違憲である」等述べ,ペラルタ知事を支持する姿勢を示した。
12 司法審議会選挙
(1)司法審議会の現構成員の任期満了(12月)に先立ち,8月30日,同審議会の構成員13名(国会議員6名(与党議員4名,野党議員2名),判事3名,弁護士2名,学者1名,政府代表1名)のうち,弁護士1名(連邦首都代表)の選挙が行われ,反政府派の弁護士が選出された。次いで,15日,判事3名の選挙が行われ,いずれも反政府派の判事が選出された。更に,21日,弁護士1名(地方代表)の選挙が行われ,反政府派の弁護士が選出された。これにより,次期司法審議会では,反政府派の構成員が過半数(野党議員2名,判事3名,弁護士2名の計7名)を確保することとなった。
(2)なお,上記選挙により,次期構成員としては反政府派が過半数を確保したものの,上院の野党議員等は,6月30日に下院で可決された司法審議会改正法案を推進する姿勢を維持している。
13 亜労働者連盟(CTA)執行部選挙
(1)15日,ブエノスアイレス市において,亜労働者連盟(CTA)の次期書記長候補として有力視されているジャスキーCTA現書記長(亜教職員連盟(CTERA)書記長)及びミチェリCTA現副書記長(国家公務員労組(ATE)書記長)の両者が,各自の勢力を動員して,自動車部品会社の従業員による抗議活動を支援するためのデモ行進を行った。同デモ行進に先立ち,ジャスキー書記長は,「ミチェリ副書記長の行動は浅薄であり,説得力がない」等述べ,ミチェリ副書記長は,「ジャスキー書記長は今次抗議活動への支援に対して消極的であった」等述べ,相互に批判を展開した。
(2)23日,CTAの執行部選挙が実施され,開票が行われたところ,24日,ジャスキー書記長及びミチェリ副書記長の両者が,書記長選挙に勝利した旨宣言する記者会見を行った。ミチェリ副書記長はジャスキー書記長が発表した開票結果は不正に操作されたものであるとして批判し,ジャスキー書記長はミチェリ副書記長に対し同様の批判を行った。
(3)10月1日,CTA選挙管理委員会は,上記選挙の公式結果が発表し,ミチェリ副書記長の勝利が確定した。
III 外交
1 日本
(1)6日,フェルナンデス大統領は,デジャン外務省科学技術問題担当局長を次期駐日亜大使に任命する政令に署名し,同政令は,8日付官報に掲載されて発効した。
(2)16日,石田大使及びティメルマン外相は,我が国の対アルゼンチン一般文化無償案件「国営放送局番組ソフト及び番組制作機材整備計画」にかかる文書への署名を行った。同署名式後のテレビインタビューにおいて,ティメルマン外相は,「亜は,技術的に最も優れているデジタルテレビ日本方式を採用した。我々は日本方式導入により亜の近代化を図っていく。今回の日本による国営放送局への番組制作機材の供与により,国営放送局は質の高い番組を制作し,放映することが可能となる。アルゼンチンの全ての国民が,公平に高い技術にアクセスできるようになる点が何よりも重要である。」旨述べた。
2 国連
1日,アルグエジョ亜国連代大使は,アルベルディ国連女性開発基金(UNIFEM)事務局長とともに,発展途上国における女性の地位向上及び男女平等促進を図るための亜とUNIFEM間の三角協力協定に署名した。同協定の有効期間は5年間であり,いずれの側からも異議申し立てがなされなかった場合には自動的に同期間延長される。
3 米国
(1)1日,訪亜したブリマー米国際機関担当国務次官補は,ティメルマン外相と会談し,多国間主義,国際情勢,対ハイチ支援等につき協議した。ティメルマン外相は,安保理やIMF等の国際機関の改革の必要性を表明したほか,両者は,人権,核不拡散及び原子力エネルギーの平和利用の分野における二国間協力の重要性を強調した。
(2)同日,ブリマー次官補は,キルチネル南米諸国連合(UNASUR)事務局長とも会談し,UNASURと米国間の対話メカニズムを設置することで合意したほか,ハイチ情勢,ホンジュラス情勢,医療・エネルギー分野,UNASUR・国連関係,UNASUR・OAS関係等につき協議した。また,ブリマー次官補は,ベネズエラ・コロンビア間外交関係断絶問題の平和的解決において,UNARUR及びキルチネル事務局長が果たした役割を讃えた。
(3)13日,ティメルマン外相は,イスラエル共済組合(AMIA)会館において開催された9.11テロ事件追悼式典に出席し,「亜は,国際テロとの闘いに力を注いでおり,同闘いにおいては,テロリストと同様の手法を用いるのではなく,司法面で闘うことが重要であるとの信念を有している。」等述べた。同式典には,マルティネス在亜米国大使等の外交団や,亜における在亜イスラエル大使館爆破事件(1992年)・AMIA会館爆破事件(1994年)の遺族等も出席した。
4 ボリビア
2日,ボリビアを訪問したティメルマン外相は,チョケワンカ・ボリビア外相と会談し,国境地帯の交通網の改善,二国間橋梁建設計画の進捗状況,移民問題,二国間協力,グローバル・イシュー等につき協議した。ティメルマン外相は,亜がG20の枠組みにおいてボリビアの利益を代表する用意がある旨伝えたほか,フォークランド(マルビナス)諸島領有権問題に関するボリビアの従来からの支持に謝意を表明した。チョケワンカ外相は,亜が南南協力の枠組みで医療・公共行政・教育・労働分野等で実施している技術協力の重要性に言及するとともに,ボリビアにおける火災被害に対する亜の支援に謝意を表明した。また,両外相は,二国間外相会談を3箇月毎に実施し,二国間首脳会談を6箇月毎に実施する旨合意した。
5 中東和平問題
2日,亜政府は,亜外務省プレスリリースを通じ,米国の支援の下イスラエルとパレスチナ暫定自治政府が直接交渉を再開したことに満足の意を表明し,中東問題の解決は対話と交渉によって達成されるべきであるとの亜の信念及び二国家解決への支持を再表明した。
6 ウルグアイ
(1)ウルグアイ川沿いのUPM社(旧ボトニア社)製紙工場の環境汚染問題を巡り,同工場の撤廃を求めているグアレグアイチュ市民団は,8月25日に,UPM社製紙工場の環境汚染問題に関する亜政府の対応を不十分であるとして,亜グアレグアイチュ市とウルグアイ・フライベントス市を結ぶ国際橋梁を9月の毎週日曜日の数時間に限り再封鎖する旨決定した。
(2)上記決定のとおり,グアレグアイチュ市民団は,9月の毎週日曜日(4日,12日,19日及び26日)に,亜とウルグアイを結ぶ国際橋梁を数時間に亘り封鎖した。
(3)21日,亜政府は,亜外務省プレスリリースを通じ,ウルグアイ政府が,フォークランド(マルビナス)諸島において巡回活動を行う予定であった英国海軍監視船のモンテビデオ港入港を許可しなかったことにつき謝意を表明した。
7 チリ
(1)8日,チリを訪問したデビード公共事業相は,ライネリ・チリ・エネルギー相とともに,二国間エネルギー協定に署名した。同協定は,原子力,天然ガス,電力等の分野における二国間協力のほか,4つの二国間共同作業委員会(エネルギー取引作業委員会,電力統合作業委員会,燃料・バイオ燃料作業委員会及び原子力エネルギー作業委員会)の設置についても定めている。
(2)14日,最高裁判所は,チリ政府から要請のあった,数年前から亜に在住しており,政治難民認定を亜に申請中のチリ人元ゲリラ・アパブラサの引渡につき,同引渡要請に応じるべきとする判決を下した。
(3)18日,チリを訪問したフェルナンデス大統領は,チリ独立200周年記念式典に出席するとともに,ピニェラ・チリ大統領と会談した。フェルナンデス大統領は,同会談後の記者会見において,「亜とチリの関係は,これまで格別に良好であったし,現在も格別に良好であるし,将来も格別に良好であろう。法的案件(注:アパブラサ引渡問題を意味する。)に関しては,国際法や各国の法的枠組みを尊重すべきである。我々は,各国の主権尊重の立場をとっているが,各国の主権尊重とは,各国の法的枠組みを尊重することである。二国間関係には,何ら問題は存在せず,国際法により規定された法的案件が存在するのみである。」等述べた。
(4)22日,アタナソフ下院外交委員会委員長(連邦ペロニズム)は,上記最高裁判所の判決遵守を政府に要請する内容の決議案を下院に提出した。
(5)30日,国家難民委員会(CONARE:Comision Nacional de Refugiados) は,アパブラサに対し政治難民認定を与える旨決定した。同決定つき,サンス急進党党首等の野党勢力は,チリに対する攻撃であり,直ちに引渡要請に応じるべき等述べた。
8 キューバ
(1)9日,訪亜したキューバ人2名(アレハンドロ・ゴンサレス・ラガ(元政治囚)及びブランカ・レジェス(配偶者が政治囚))は,ティメルマン外相との会合において,キューバ情勢につき説明した。ティメルマン外相は,人権擁護分野における亜の伝統的な立場,及び対キューバ制裁に対する亜の断固とした拒絶姿勢を再表明した。
(2)16日,1998年以降マイアミで拘留されている5名のキューバ人の親族が訪亜し,ティメルマン外相との会合において,拘留家族の状況につき説明した。ティメルマン外相は,米国査証取得が困難なことにより,拘留家族を訪問することができずにいる状況への憂慮を表明するとともに,人権擁護分野における亜の伝統的な立場につき再表明した。
9 パキスタン
(1)9日,亜政府は,亜外務省プレスリリースを通じ,パキスタンにおける洪水被害支援として,100万リットルの水を浄化するための薬剤(15箱)を送付した旨発表した。
(2)16日,亜政府は,亜外務省プレスリリースを通じ,上記支援に加えて,水浄化剤25箱を新たに送付した旨発表した。
10 アジア大洋州
10日,ティメルマン外相は,在亜アジア大洋州グループ大使昼食会に出席した。同昼食会には,日本,タイ,ベトナム,マレーシア,韓国,ニュージーランド,インド及びパキスタンの大使,また,インドネシア,中国,フィリピン及びオーストラリアの次席が出席した。同昼食会において,ティメルマン外相は,亜の対アジア政策,亜の人権重視姿勢,フェルナンデス大統領によるインド(2009年10月)及び中国(2010年7月)訪問,同大統領のベトナム及び韓国訪問予定,科学技術分野における亜・アジア間協力の可能性,アジアとの貿易・投資関係強化への亜の関心,マルビナス諸島領有権問題に関する亜の立場,亜の多国間主義重視姿勢,メルコスールとアジア地域との関係強化を推進する亜の姿勢,FEALAC中南米側調整国を務める亜の姿勢等につき説明した。
11 インド
12日,訪亜したパワール・インド農業相は,ドミンゲス農牧相と会談し,貿易や植物検疫分野における協力等につき協議したほか,農業分野及び農業関係分野における協力のための覚書に署名した。同会談後,パワール農業相は,インドによる亜産大豆油の輸入増加の見込みがある旨述べた。
12 第65回国連総会等
(1)14日,訪米したティメルマン外相は,潘基文国連事務総長と会談し,技術移転や気候変動といったG20ソウル・サミットでの議題,対ハイチ支援,本年12月にブエノスアイレスにおいて開催される核セキュリティ・サミット・シェルパ会合等について協議した。また,潘事務総長は,G77+中国の次期議長国としての亜の立候補への中南米諸国のエンドースに祝意を表明するとともに,G77とG20両方の加盟国である亜は,双方の架け橋としての重要な立場にある旨述べた。ティメルマン外相は,G20加盟国である亜として,G20における発展途上国の代弁者となる意志を表明したほか,バチェレ・チリ前大統領の(国連ジェンダー新機関(UNウーマン)長への)任命につき,南米地域の誇りであるとして祝意を表明した。更に,ティメルマン外相は,マルビナス諸島領有権問題に関する国連事務総長の支援に謝意を表明した。
(2)23〜28日,第65回国連総会に出席するため訪米したフェルナンデス大統領は,ギュル・トルコ大統領との会談,潘基文国連事務総長主催昼食会への出席,ニューヨーク証券取引所幹部との会談,米企業関係者との懇談,第34回G77年次会合への出席等の日程をこなした。なお,第34回G77年次会合において,亜が次期G77議長国(任期2011年1月〜12月)に選出されたのを受け,フェルナンデス大統領は,国際金融構造改革,安保理改革,世界平和,国際安全保障,中東和平,テロとの闘い,人権擁護,多国間主義,南南協力,気候変動問題等の分野で尽力していく旨演説した。
(3)24日,フェルナンデス大統領は,第65回国連総会一般討論演説において演説を行ったところ,概要以下のとおり。
(ア)2003年以降(注:キルチネル前政権以降)の亜独自の政策により,我々は2001年の亜経済危機を克服することができ,ここ12ヶ月の亜経済成長率は9%となっている。また,我々は,貿易黒字の産物である外貨準備を,合理的に賢く利用することにより,亜史上類のない債務削減を成し遂げた。
(イ)我々は,世界経済の安定維持と雇用創出という基本的任務を遂行できなかった国際金融機関の抜本的改革を推進していく。特に,ハゲタカファンドに関する世界的規制の制定が急務であり,また,信用格付会社の評価・規制も必要である。
(ウ)気候変動に関しては,公平で均衡の取れた解決策が提示されていないため,我々は同意に至ることができずにいる。先進国による環境面での負債を発展途上国が肩代わりをするのは不公平であり,先進国は長年に亘って環境汚染を行ってきた責任を果たすべきである。
(エ)世界平和に関しては,我々は,イスラエルとパレスチナ暫定自治政府間の対話の再開を非常に喜ばしいニュースであると受け止めている。国連の一員としてのパレスチナ国家の次期国連総会出席を望む。
(オ)亜は,1992年の在亜イスラエル大使館爆破,1994年のイスラエル共済組合(AMIA)会館爆破という2回のテロ事件の被害国である。亜は,過去3年,国連総会の場で,イランに対し(同事件に関与したとされる)当時のイラン政府高官の引き渡しを要請したが大きな成果は得られていない。亜は,人権分野で指導的立場にある国であり,保障された司法プロセスを有する国であるにも拘わらず,成果が得られていないのであり,これまでと同様の要請を行っても成果が得られないことは明白であるため,この度,イランに対し,イランが亜の司法を信頼できないという場合には,両国の合意の下に選ばれた第三国での裁判の実施をオファーする。我々の今次提案は,ロッカービー事件(注:1988年,パンアメリカン航空機が,英国・ロッカービー上空飛行中,機内爆発により墜落したテロ事件。同事件の容疑者リビア人2名に対する裁判は,第三国オランダにおいて,スコットランド法に基づき実施された。)等の前例を持つものである。亜は,犯罪人を捜しているのではなく,公平な裁判を求めているのである。
(カ)我々は,マルビナス諸島に関する我々の主権を改めて主張する。英国は,安保理常任理事国であるにもかかわらず,同諸島領有権問題につき亜との交渉を呼びかける国連決議の遵守を拒否し続けているばかりか,(同諸島周辺海域における)石油採掘を一方的に行っている。同石油採掘は,天然資源の略奪を意味するのみならず,メキシコ湾でブリティッシュペトロリアム社が引き起こしたような生態系への大惨事勃発のリスクを伴うものである。
(キ)安保理を現状に沿ったものに改革する必要がある。国際情勢は,安保理創設時から大きく変化している。英国等の安保理常任理事国は,常任理事国としての立場を乱用している。国連決議は,小国或いは常任理事国以外の諸国のみに適用されている状況である。ダブルスタンダードの存在する世界において,平和の構築や安全保障の維持は不可能である。
(4)23〜28日,フェルナンデス大統領に同行して訪米したキルチネルUNASUR事務局長は,クリントン元大統領主催昼食会及びエンゲル米連邦下院議員との昼食会に出席したほか,「New
School University」において,UNASURの重要性,亜の経済危機からの回復の経験,亜情勢,中南米情勢等につき講演した。
(5)18〜28日,フェルナンデス大統領の第65回国連総会出席に併せ訪米したティメルマン外相は,ハイチ復興暫定委員会(IHRC)特別セッションに出席したほか,「Foreign
Policy Association」主催のフォーラムにおいて講演し,イベロアメリカ諸国外相との昼食会を主催した。また,同外相は,アブダッラー・アラブ首長国連邦外相,ロドリゲス・キューバ外相,ジュデ・ヨルダン外相,ケント・カナダ米州担当外務閣外相,マルティ・インドネシア外相,インスルサOAS事務総長,バーンズ米国務次官,フラッティーニ・イタリア外相,ボー・ジャマイカ外相,キプリアヌー・キプロス外相,モルジャン・チュニジア外相,モラティノス・スペイン外相,マルトニ・ハンガリー外相,シモネット・バハマ外相,ムムニ・ガーナ外相,ドルツァス・ギリシャ筆頭副外相,ヴェスタ−ヴェレ・ドイツ外相,ステファノビッチ・セルビア外相,ファシ・フィフリ・モロッコ外相,アブルゲイト・エジプト外相とそれぞれ会談した。
13 イベロアメリカ・サミット準備会合
13〜14日,ブエノスアイレスにおいて,第20回イベロアメリカ・サミット(本年12月3〜4日,亜マルデルプラタ)の準備会合として,教育に関するイベロアメリカ会合が開催され,イベロアメリカ諸国の教育大臣が出席した。また,同会合開会式にはフェルナンデス大統領が出席した。
14 EU
(1)15日,訪亜したデ・グフトEU貿易担当欧州委員は,ティメルマン外相及びジョルジ産業相とそれぞれ会談し,メルコスール・EU自由貿易協定交渉等につき協議した。同会談後の記者会見において,デ・グフト委員は,「本年6月末,我々は,亜の食料品輸入制限措置を非難した。本日,我々は,同問題が解決されたと言えることに満足している。」等述べた。
(2)28日,ベルギーにおいて,第9回亜・EU合同委員会会合(毎年1回開催)が開催され,ダロット筆頭外務副大臣及びサニーノ欧州委員会対外関係総局次長が共同議長を務めた。同会合において,人権分野での対話強化,貿易・投資関係強化,バイオテクノロジー分野での協力,メルコスール・EU自由貿易協定交渉の推進等につき協議された。また,ダロット副大臣は,マルビナス諸島領有権問題に関し,同諸島をEUの海外領土と見なそうとするリスボン条約の記述への亜の拒絶を再表明した。
15 中南米カリブ政党常設会議会合
16〜17日,亜外務省において,中南米カリブ政党常設会議(COPPAL:Conferencia Permanente
de Partidos Politicos de America Latina y el Caribe)会合が開催され,中南米地域統合のための政党内若手の役割等につき議論された。同会合開会式には,COPPAL代表を務めるカフィエロ元ブエノスアイレス州知事(元ペロン党党首)のほか,ティメルマン外相,ジウスティニアーニ社会党党首,急進党関係者等が出席した。
16 韓国
16〜17日,韓国を訪問したデビード公共事業相は,16日,崔Q煥(チェ・ギョンファン)韓国知識経済部長官とともに,亜における第4番目の原子力発電所建設計画推進等に関する,韓国電力公社(KEPCO),亜原子力エネルギー会社(NASA)及び亜国家原子力委員会(CNEA)間の協力協定に署名した。また,デビード公共事業相は,Jun-Yeon
Biun・KEPCO副社長と会談したほか,KEPCO施設を視察した。
17 ハイチ
22日,亜は,2月9日のUNASUR臨時首脳会合(於:エクアドル)における,対ハイチ支援のためのUNASUR基金(総額1億ドル)創設決定を受け,亜の分担金である16,782,313米ドルの送金手続きを完了した。
18 ベネズエラ
27日,フェルナンデス大統領は,Twitterを通じ,26日に実施されたベネズエラにおける国会議員選挙の結果に関し,チャベス・ベネズエラ大統領に対する祝意を表明した。
19 エクアドル
(1)30日,亜政府は,亜外務省プレスリリースを通じ,「亜外務省は,エクアドルにおける警察及び軍による本日の出来事に関し,深い憂慮を表明する。亜外務省は,兄弟国の民主主義体制及びコレア大統領が,エクアドル国民・政府の利益を擁護するための最良の解決策に至ると信じている。亜政府は,エクアドルにおける警察及び軍による民主国家を危険に晒しかねない反乱を強く拒絶し,不安定化に繋がるこれらの行為を批判し,正当政府であるコレア・エクアドル政権を支持する。中南米は,民主主義に対する攻撃や,選挙により表明された民意を嘲笑するような試みをもはや受け入れない。亜は,UNASUR及びメルコスールの兄弟各国とともに,民主主義と人権の擁護のために尽力する。」旨表明した。
(2)同日,キルチネルUNASUR事務局長は,「エクアドルにおける治安当局の憲法秩序に対する反乱の試みに関し,コレア大統領に対するUNASURの確固とした支持と完全なる連帯を表明する。南米は,既得権の喪失を嫌うセクターにより,民主的に選出された政府が圧力をかけられたり脅されたりするような事態を如何なる理由によっても許容できない。(許容したならば,)少数派が権力により決定を押し付けてきた過去の時代に後戻りするということであり,南米地域にとって深刻な後退となろう。選挙こそが,我々の社会において決定を下すための唯一合法な手段である。エクアドルにおける治安当局の憲法秩序に対する反乱の試みに関し,コレア大統領に対するUNASURの確固とした支持と完全なる連帯を表明する。」旨述べた。
(3)同日,ティメルマン外相は,30日夜ブエノスアイレスにおいてUNASUR臨時首脳会合が開催され,フェルナンデス大統領の議長の下,エクアドル情勢につき議論される旨Twitterを通じて発表した。
(4)10月1日未明,亜外務省において,フェルナンデス大統領が議長を務め,UNASUR臨時首脳会合が開催された。同会合において,「エクアドルで発生したクーデターの試み及びその後のコレア・エクアドル大統領の拉致を強く非難する。UNASUR各国政府首脳は,国家機関に対する新たな挑戦や合法的に選出された公権力に対するクーデターの試みを強く拒絶し,如何なる理由によっても容認しないことを表明するとともに,新たに憲法秩序の亀裂が生じた場合には,国境封鎖,貿易,航空便,エネルギー・サービス等の供給停止等の具体策を直ちに講じることを警告する。コレア大統領及びエクアドル国民への完全なる支持を表明するため,UNASUR各国外相が,本日キトに向かうことを決定する。11月26日にガイアナで開催される第4回UNASUR首脳会合において,UNASUR設立条約の追加議定書として民主主義条項を採択することに合意する。」等明記されたUNASUR首脳声明が採択された。なお,同会合には,ピニェラ・チリ大統領,ムヒカ・ウルグアイ大統領,ガルシア・ペルー大統領,モラレス・ボリビア大統領,サントス・コロンビア大統領,チャベス・ベネズエラ大統領,ララ・パラグアイ外務副大臣,パトリオッタ・ブラジル外務次官,ナリン在ブラジル・ガイアナ大使,サンドバル在亜エクアドル大使及びキルチネルUNASUR事務局長が出席した。
20 要人往来
(1)往訪
1〜11日 |
ロレンシノ経済省金融長官の韓国・中国訪問(G20会合(於:韓国),UNCTADフォーラム(於:中国)等に出席) |
2日 |
ティメルマン外相のボリビア訪問(チョケワンカ・ボリビア外相と会談) |
8日 |
デビード公共事業相のチリ訪問(ライネリ・チリ・エネルギー相と会談) |
9日 |
ジョルジ産業相のブラジル訪問(メルコスール産業・開発相会合に出席,ジョルジ・ブラジル開発商工相と会談) |
13〜14日 |
ダロット筆頭外務副大臣のメキシコ訪問(メキシコ独立200周年記念式典に出席) |
14日 |
ティメルマン外相の米国訪問(潘国連事務総長と会談) |
16〜17日 |
デビード公共事業相の韓国訪問(崔Q煥(チェ・ギョンファン)韓国知識経済部長官と会談) |
17〜18日 |
コボス副大統領のドイツ訪問(フランクフルト工作機械見本市を視察) |
18日 |
フェルナンデス大統領のチリ訪問(チリ独立200周年記念式典に出席,ピニェラ・チリ大統領と会談) |
22日 |
メイヤー観光相のフランス訪問(フランス国際見本市(Top Resa)に亜ミッション代表として出席) |
23〜28日 |
フェルナンデス大統領の米国訪問(第65回国連総会に出席) |
28日 |
ダロット筆頭外務副大臣のベルギー訪問(第9回亜・EU合同委員会会合に出席) |
(2)来訪
1日 |
ブリマー米国際機関担当国務次官補(ティメルマン外相及びキルチネルUNASUR事務局長と会談) |
6〜12日 |
エゼイロ人身取引担当国連特別報告者(アラク司法相と会談) |
12日 |
パワール・インド農業相(ドミンゲス農牧相と会談) |
13〜14日 |
イベロアメリカ諸国教育大臣(教育に関するイベロアメリカ会合に出席) |
15日 |
デ・グフトEU貿易担当欧州委員(ティメルマン外相及びジョルジ産業相と会談) |
30日〜10月1日 |
UNASUR諸国首脳(UNASUR臨時首脳会合に出席) |