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2009年8月アルゼンチンの政治情勢(内政・外交)

2009年9月作成
在アルゼンチン大使館

 

I.概要


(1)内政面では、議会において、立法権限委任法(輸出課徴金を政府が設定する権限を含む)を1年延長する法案及び農牧緊急法案が可決・成立した。 しかし、フェルナンデス大統領が、農牧緊急法の一部に拒否権を発動し、農牧緊急宣言が発出されたブエノスアイレス州の一部に対する輸出課徴金の免除・減免が無効になったこと等から、農牧団体は、28日から9月4日までの8日間、穀物及び牧畜産品の出荷停止等の抗議活動を行った。その他、政府と亜サッカー協会(AFA)は、プロサッカー1部リーグの今後10年間の放映権に関する合意書に署名した。


(2)外交面では、フェルナンデス大統領が、南米諸国連合(UNASUR)首脳会合及びコレア・エクアドル大統領の2期目大統領就任式に出席するため、エクアドルを訪問するとともに、ベネズエラも訪問し、同国との間で22の協定に署名した。また、タイアナ外相が、メキシコ及びホンジュラスを訪問した。他方、フェルナンデス・チリ外相、アミン・ファヒム・パキスタン貿易大臣等が訪亜した他、亜バリローチェで開催されたUNASUR臨時首脳会合に出席するために、UNASUR加盟国12ヶ国の大統領が亜を訪問した。その他、亜によるデジタルテレビ日伯方式採択に係る日亜間、亜伯間の覚書署名式が行われた。

 

II.内政


1.政府と各界の対話


(1)フェルナンデス大統領は、先月に引き続き、大統領府において、全国の首長と会談を行った。19日にペラルタ・サンタクルス州知事及サパグ・ネウケン州知事と会談を行ったことにより、全国24の首長全てとの会談が実現した。こうした会談の中で、多くの州知事は、政府に対して、地方交付金制度の見直し(地方交付金の増額)等を求めた。


(2)6日、ランダッソ内相は、第4回政治対話を実施し、ペロン党反キルチネル会派及び複数の地方政党(コリエンテス自治政党等)の各代表と会談を行った。ペロン党反キルチネル会派代表らは、政府に対して、輸出課徴金の引き下げ、地方交付金制度の見直し、超権限法の廃止、司法審議会の改革、国家統計局(INDEC)の正常化等を求めた。

  6日以降も、政府と政党間の政治対話は継続されているものの、カリオ市民連合代表、レウテマン上院議員(ペロン党反キルチネル派)、ソラナス次期下院議員(南プロジェクト)をはじめとする有力政治家は、政府との対話を拒否した。


(3)13日、急進党は、モラレス党首を含む同党幹部25名の署名による声明を発表し、政府との対話は全く成果が挙がっておらず、政府による時間稼ぎのための姑息な手段に過ぎない等として、政府との政治対話を離脱する旨明らかにした。

 

2.政府高官人事


(1)5日、アラク新司法・治安・人権相は、アルベルト・フェルナンデス元首相に近いロサルド司法長官(2005年8月就任)を更迭し、その後任として、マスケレット治安長官を司法長官に任命した。


(2)また、6日、アルベルト・フェルナンデス元首相に近いトロッタ首相府情報技術次官補が更迭された。


(3)26日、アラルコン・サンタフェ州地域統合長官が、24日に首相府に新設された国家統合庁(Secretaria de Integracion Nacional。農牧セクター等の生産性を高めるための政策の調整・推進等を担当)の長官に任命された(9月1日就任)。なお、アラルコン女史は、下院議員であった2006年、政府与党が推進していた牛肉の輸出制限に反対し、下院農業委員会委員長を罷免されるとともに、キルチネル派会派「勝利のための戦線」からも除名された。その後、同女史は、農牧セクターの強力な擁護者となり、穀物輸出課徴金の引き上げを巡る政府と農牧団体の対立の際も、農牧団体とともに政府批判を行った。しかし、今般、「農牧問題について解決策を模索し始めなければならない」として、国家統合長官への任命を受け入れた。

 

3.フェルナンデス元首相に対する盗聴疑惑


 10日、アルベルト・フェルナンデス元首相(在任期間:2003年5月〜2008年7月)は、政府が同元首相の携帯メールに対する盗聴を行い、違法に入手した情報を基に、同元首相がコボス副大統領と会合したことに対する報復措置として、政権内にいた同元首相の側近を罷免した旨非難した。キルチネル夫妻の側近であった同元首相による政権批判に関心が寄せられた。なお、同元首相は、コボス副大統領との会談において、同副大統領に対して、フェルナンデス政権の不安定化を防ぐべく、野党勢力による政権批判をトーンダウンするよう協力を求めていた由。

 

4.アルゼンチン・サッカー協会


(1)亜サッカー協会(AFA)は、プロサッカー1部リーグの放映権を年間2億6800万ペソでクラリン・グループのTSC(Television Satelital Codificada)社と独占契約(現行の契約は2013〜14年シーズンまで有効)してきたが、11日、同契約を破棄する旨発表した。


(2)20日、政府と亜サッカー協会は、プロサッカー1部リーグの今後10年間の放映権に関する合意書に署名した。同合意書によれば、政府は亜サッカー協会に放映権基本料金として年間6億ペソを支払い、6億ペソ以上の利益が発生する場合には、50%を亜サッカー協会に支払い、残りの50%をオリンピック・スポーツの振興のための基金に当てる。

 

5.議会の動き


(1)立法権限委任法延長法の成立


(イ)12日、下院本会議において、24日に失効を迎える立法権限委任法(輸出課徴金を政府が設定する権限を含む)を1年延長する法案が一部修正された後、賛成136票、反対100票、棄権7で可決され、上院に送付された(注:立法権限委任問題は、1994年の憲法改正を背景とする。憲法第76条(立法権限委任)は、議会に対して、予め定められた期間の限定された項目及び非常事態に関する項目以外は、行政府への権限の委任を禁じている。 但し、憲法暫定条項第8条は、有効期間の設定がないまま行政府に委任された既存の権限は、議会が新たな法令で追認しない限り、5年間で無効となると規定している。議会は、同権限を1999年に延長し、その後も3年毎(2002年、2004年及び2006年)に追認してきた。権限委任に該当する法律条項等は1901あると言われ、今回同法の延長に当たり、その中の1つである政府が輸出入課徴金を設定する権限(関税法第755条)が争点となっていた)。
 なお、与党キルチネル派「勝利のための戦線」は、単独では過半数に満たないため、中道左派勢力(連帯と平等(SI)、南プロジェクト等)の要請に一部応じる形で、以下のとおり法案に若干修正を加え、必要な賛成票を確保した。


(i)行政府に委任された各種権限の行使を大統領及び首相に制限(現行は閣僚も可)。


(ii)行政府が同権限を行使するために政令を発出する場合、10日以内に両院協議会で同政令が承認されなければならない。


(iii)議会から行政府に委任されている1901の権限全てを見直すための専門委員会を創設し、来年6月までに、これら各権限を議会に戻すか或いは行政府に委任したままにするのかを検討した報告書を提出しなければならない。


(ロ)20日、上院本会議において、同修正法案が賛成38票、反対30票の賛成多数で可決・成立した。


(2)農牧緊急法の成立


(イ)6日の下院本会議での可決に続いて、20日、上院本会議において、デ・ナルバエス下院議員(ペロン党反キルチネル派)が提出した農牧緊急法案が全会一致で可決・成立した。同法案の主な内容は以下のとおり。


(i)農牧緊急宣言が発出されたブエノスアイレス州の22市について、180日間、農牧産品に係る輸出課徴金を免除し、15市については50%減免とする。


(ii)サンタフェ州、メンドサ州、ネウケン州、リオネグロ州及びサルタ州に対し、農牧緊急事態宣言を発出する(但し、輸出課徴金の免除或いは減免措置が適用されない)。


(iii)旱魃被害を受けた地域に対し、5億ペソの救済資金を給付する。


(ロ)一方、フェルナンデス大統領は、議会で承認された農牧緊急法は一部内容が誤って承認されたとして、部分的な拒否権を発動した(25日及び28日付官報掲載)。拒否権が発動された部分には、上記(2)(イ)の(i)及び(ii)が含まれる。

 

6.農牧団体による抗議活動の実施


(1)25日、主要農牧4団体から成る「連絡委員会」は、議会で承認された農牧緊急法について、農牧セクターが強く求める輸出課徴金の免除・減免に関する部分に拒否権が発動されたことから、28日から9月4日までの8日間、穀物及び牧畜産品の出荷停止(牛乳、果物、野菜等の生鮮品は対象外)、「農業の日」に当たる9月8日に抗議集会の実施等の抗議活動を行うことを決定した。他方で、「連絡委員会」は、食料不足が生じることがないよう保障すると共に、農牧業者に対して、道路封鎖を行わないよう呼びかけた。


(2)28日、多くの農牧業者が賛同する形で、8日間の農牧ストが開始された。

 

7.最高裁長官の再任


 20日、2009年12月に任期が満了するロレンセッティ最高裁長官(2007年1月就任)が、最高裁各判事のコンセンサスを得て再任された。新たな任期は2010年1月〜2012年12月。

 

III.外交


1.パキスタン


(1)4日、タイアナ外相は、訪亜したアミン・ファヒム・パキスタン貿易大臣と会談した。ファヒム大臣は、「両国は政治的・経済的友好関係を有している。我々は、両国間の貿易拡大に努めている。貿易発展の可能性が高いのは、医療、エネルギー及び農業分野である」旨述べた。同会談に同席したキアラディア外務副大臣(通商・国際経済担当)は、「我々は、企業家間交流の強化を模索している。亜人企業家は、パキスタンに高い関心を有している」等述べた。


(2)4〜5日、ファヒム大臣は、亜外務省に於いて開催された第2回亜・パキスタン二国間委員会会合に出席した。同会合において、農業・牧畜、衛生・植物検疫、科学技術分野に関する二国間協力等が協議された。

 

2.コロンビア


 5日、フェルナンデス大統領は、南米諸国歴訪中のウリベ・コロンビア大統領と会談した。ウリベ大統領は、米軍によるコロンビア軍基地使用を認めた米・コ軍事協力協定につき説明を行った。同会談において、フェルナンデス大統領は、同協定を「不適当(inconveniencia)」とし、地域における政治的緊張・対立を緩和する必要がある等述べた。

 

3.チリ


(1)6日、亜国において、第2回アルゼンチン・チリ二国間閣僚会合が実施され、亜側からはタイアナ外相を筆頭に閣僚8名、政府高官8名が、チリ側からもフェルナンデス外相を筆頭に閣僚11名、政府高官5名が出席した。


(2)今次会合において、両外相は以下4文書に署名した。


(イ)南南協力イニシアティブに関する協定


(ロ)国境地帯の通行便宜に関する協定


(ハ)両国を結ぶ交通路「Aguas Negras」建設に関する覚書


(ニ)アルゼンチン・チリ統合の象徴として設置する記念碑(デザイン)を選ぶための二国間コンクール実施協定

 

4.南米諸国連合(UNASUR)


(1)9〜10日、フェルナンデス大統領は、エクアドルを訪問し、UNASUR首脳会合及びコレア・エクアドル大統領の2期目大統領就任式に出席した。UNASUR首脳会合では、主にコロンビアにおける米軍基地問題及びホンジュラス情勢につき協議された。コロンビアにおける米軍基地問題に関し、フェルナンデス大統領は懸念を表明しつつ、域内諸国の協調を呼びかけた。また、同会合にはウリベ・コロンビア大統領が欠席したことから、議長(エクアドル)の提案により、亜において臨時首脳会合を開催する旨決定された。


(2)28日、亜バリローチェにおいて、UNASUR臨時首脳会合が実施され、加盟国12ヶ国(アルゼンチン、ボリビア、ブラジル、チリ、コロンビア、エクアドル、ガイアナ、パラグアイ、ペルー、スリナム、ウルグアイ、ベネズエラ)全ての大統領の出席の下、米・コロンビア軍事協力協定につき協議された。今次会合に出席した各国大統領は、「南米を平和的地域にしていく意志」を表明する共同声明に署名した。


(3)なお、同日、臨時首脳会合終了後に、亜によるデジタルテレビ日伯方式採択に係る日亜間、亜伯間の覚書署名式が行われた。増田総理特使、ルーラ伯大統領及びフェルナンデス大統領は覚書に署名した後、それぞれ演説を行った。

 

5.ベネズエラ


 11日、フェルナンデス大統領は、亜企業関係者と共にベネズエラを訪問し、チャベス大統領と、二国間関係の進捗状況を分析するために三ヶ月毎に実施している両国定期首脳会談を行った。両国は、二国間の経済・貿易関係強化を目的とする農業、金属機械、自動車、科学技術、医薬品製造等多岐に亘る22の協定に署名した。

 

6.ホンジュラス


(1)13日、亜外務省は、プレスリリースを通じ、セラヤ政権の要請を受けて、駐亜ホンジュラス大使の職務停止を求めるとともに、セラヤ政権との外交経路を駐米ホンジュラス大使館とする旨発表した。


(2)これに対し、ホンジュラスのミチェレティ暫定政権は、駐ホンジュラス亜外交官の職務停止を要求したが、18日、タイアナ外相は亜が承認していない政権の要求には応えない等発言した。


(3)24〜25日、タイアナ外相は、OAS外相ミッションの一員としてホンジュラスを訪問した。

 

7.メキシコ


 17〜19日、タイアナ外相は、国会議員5名及び企業関係者56名から成る政治・通商ミッションを率いてメキシコを訪問し、エスピノサ・メキシコ外相との会談等を実施した。17日、タイアナ外相は、亜・メキシコ貿易投資セミナー開会式に出席し、両国の企業関係者に対し、「メキシコと亜の二国間関係は高く飛躍する可能性を秘めている。その飛躍を成し遂げるためにも、戦略的パートナーシップを強化することが必要である」等述べた。

 

8.イラン


 21日、亜外務省は、ヴァヒーディ元イラン軍司令官の国防軍需大臣候補指名につき、亜司法及びイスラエル共済組合(AMIA)会館爆破事件被害者に対する侮辱であるとした非難声明を発出した。

 

9.要人往来


(1)往訪

8月9〜10日 フェルナンデス大統領のエクアドル訪問(UNASUR首脳会合及びコレア・エクアドル大統領の2期目大統領就任式への出席)
8月11日  フェルナンデス大統領のベネズエラ訪問(チャベス・ベネズエラ大統領との会談)
8月11日 タイアナ外相のメキシコ訪問(エスピノサ墨外相との会談)
8月19日 ブドゥー経済・財政相のブラジル訪問(マンテガ伯財務大臣との会談)
8月19〜20日  レドラド中央銀行総裁の米国訪問(米連邦準備理事会主催の中央銀行総裁会合への出席)
8月24日 タイアナ外相のホンジュラス訪問(OAS外相ミッション)
8月24日 フェルナンデス首相及びマンスール厚生相のパラグアイ及びボリビア訪問(ルゴ・パラグアイ大統領及びモラレス・ボリビア大統領との会談)

 

(2)来訪

8月3〜6日 アミン・ファヒム・パキスタン貿易大臣(タイアナ外相との会談、第2回二国間委員会会合への出席)
8月5日 ウリベ・コロンビア大統領(フェルナンデス大統領との会談)
8月6日 フェルナンデス・チリ外相(第2回アルゼンチン・チリ二国間閣僚会合への出席)
8月6日 カルバハル・エクアドル国内対外安全調整大臣(ガレ国防大臣との会談)
8月6〜7日 ベネズエラのオソリオ食糧大臣、ハウア農業・土地大臣及びサマン商業大臣(タイアナ外相、ジョルジ生産相及びデビード公共事業相との会談)
8月27日 マクマレン米国務省西半球問題担当次官補代理(タイアナ外相及びフェルナデス首相との会談)
8月28日 UNASUR加盟国12ヶ国の大統領(UNASUR臨時首脳会合に出席)


 

 

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