2009年7月アルゼンチンの政治情勢(内政・外交)
2009年8月作成
在アルゼンチン大使館
I.概要
(1)内政面では、6月28日に行われた中間選挙の結果を踏まえ、政府は、閣僚4名(首相、経済・財政大臣、司法・治安・人権大臣及び教育大臣)の交代を行うとともに、全てのセクターに対話を呼びかけ、地方首長、野党、企業関係者、農牧団体、労組等と会談を行った。他方、ペロン党では、上院議員1名及び下院議員4名がキルチネル派「勝利のための戦線」から正式に離脱し、キルチネル派から離反する動きが見られる。
(2)外交面では、フェルナンデス大統領が、第37回メルコスール首脳会合に出席するため、パラグアイを訪問し、ルーラ伯大統領と亜・伯首脳会談を行った。また、フェルナンデス大統領は、軍事クーデターにより国外追放されたセラヤ・ホンジュラス大統領の帰国に同行するミッションに参加したが、ホンジュラス航空当局から着陸許可が下りず、ミッションは成功しなかった。この他、ヴァルドナー欧州委員(対外関係担当)、リーベルマン・イスラエル外相等が訪亜した。
II.内政
1.閣僚・官僚の交代
(1)1日、ハイメ運輸長官が、個人的な理由により辞表を提出し、フェルナンデス大統領により同辞表は受理された。なお、ハイメ長官は、公共事業の不正入札、政府財産・公費の不正利用など約30の汚職容疑で訴えられており、今後、同長官に対する裁判が進展する可能性がある。2日、ハイメ長官の後任として、スキアビ鉄道インフラ管理公社総裁が、運輸長官に就任した。
(2)7日、政府は、以下の通り、閣僚3名(首相、経済・財政大臣及び司法・治安・人権大臣)、国家社会保障機構(ANSES)総裁、大統領府文化長官の交代を発表した(新閣僚・官僚はそれぞれ8日に就任)。
(イ)首相:セルヒオ・マサ → アニバル・フェルナンデス司法・治安・人権大臣(マサ首相は、離職期限が切れる24日、ティグレ市長に復帰した)
(ロ)経済・財政大臣:カルロス・フェルナンデス → アマド・ブドゥーANSES総裁
(ハ)司法・治安・人権大臣:アニバル・フェルナンデス → フリオ・アラク・アルゼンチン航空代表取締役(前ラプラタ市長)
(ニ)国家社会保障機構(ANSES)総裁:アマド・ブドゥー → ディエゴ・ボッシオ不動産銀行取締役
(ホ)大統領府文化長官:ホセ・ヌン → コシア下院議員(元国立映画視聴覚研究所代表)
(3)20日、大統領府において、フェルナンデス新首相は、教育大臣の交代を発表し、シレオニ教育長官を新教育大臣に任命(23日就任)するとともに、テデスコ現教育大臣を大統領府直轄に新設する亜教育戦略計画・評価ユニット(Unidad
de Planeamiento Estrategico y Evaluacion de la Educacion
Argentina。27日創設)長に任命する予定である旨発表した。フェルナンデス新首相は、亜教育戦略計画・評価ユニットの創設について、教育は、生産及び社会の発展プロセスにおいて非常に重要であり、200周年に向けて、経済、社会開発及び医療分野の政策を結びつける役割を担うだろう旨述べた。
なお、6月28日に行われた連邦議会選挙の結果を受けて、政府が交代した閣僚は合計5名となった。
2.亜独立193周年記念
(1)亜の独立記念日に当たる9日、フェルナンデス大統領は、トゥクマン州サン・ミゲル・デ・トゥクマン市において、亜独立193周年を祝する式典に参加し、演説を行った。
(2)同演説において、フェルナンデス大統領は、「今日という特別な日に、新たな時代を切り拓かなければならない。現下の挑戦に立ち向かうために、全てのセクターに対し、経済、民主主義、社会の3つをテーマに対話を呼びかける」、「経済界からのそれぞれの提案のフィージビリティーを検討するために、彼らと会合を行い、意見を聞く必要がある」等述べた。
3.政府と各界の対話
(1)全てのセクターとの対話を呼びかけた政府は、14日以降、地方首長、野党、企業関係者、農牧団体、労組等と会談を行っている。
(2)企業関係者及び労組
14日、フェルナンデス大統領は、大統領府において、企業関係者15名及びモジャーノ労働総同盟(CGT)書記長と会談し、亜経済社会情勢について話し合った。
(3)野党
(イ)15日、ランダッソ内相は、大統領府において、最大野党連合である「市民社会合意(急進党、市民連合、社会党、コボス副大統領派等による連合)」を構成する政党・会派の代表と会談した。なお、前・現政権は、これまで野党との対話を召集しなかったため、約6年振りに政府と野党の直接対話が実現した。同会談の中で、「市民社会合意」側は、政府に対して、国家統計局(INDEC)の改革、貧困対策(子供を持つ各家庭への補助金付与等)、農牧政策の見直し、小切手税収入の地方分配、司法審議会改革、緊急大統領令の発布制限等の必要性を訴えた他、政府が創設する予定の経済社会審議会(Consejo
Economico y Social)に政党も参加できるよう要請した。
(ロ)ランダッソ内相は、22日にUnion-Pro、29日に連帯と平等(SI)、南プロジェクト、新コルドバ戦線(フエス前コルドバ市長派)、複数の地方政党の各指導者と会談し、政府に対して、早急に貧困、治安及び農牧対策を実施するよう求めるとともに、司法審議会改革、INDEC正常化等の必要性を訴えた。
(4)地方首長
21日、フェルナンデス大統領は、大統領府において、マクリ・ブエノスアイレス市長と会談し、公共交通、貧困、雇用問題等を解決するために協働していくことで合意した。また、同日以降、フェルナンデス大統領は、カピタニッチ・チャコ州知事、ビネル・サンタフェ州知事、シオリ・ブエノスアイレス州知事をはじめ、ほぼ全ての州知事と会談し、各州の懸案事項(農牧問題、貧困問題他)について話し合った。また、州知事の多くは、政府に対し、地方交付金制度の改革等を求めた。
(5)農牧団体
(イ)31日、政府と主要農牧4団体の各代表は、大統領府において、約3時間に亘り農牧問題について協議を行った(政府側からは、フェルナンデス新首相、ブドゥー新経済・財政相、ジョルジ生産相等が出席)。同会談において、牛肉輸出等に関して一部進展はあったものの、農牧団体側が強く要求していた穀物輸出課徴金の撤廃・引き下げについては、政府側は、財政事情を理由に、輸出課徴金を引き下げる余地はないとして、右可能性を否定した。
(ロ)同会談後、政府が発表した主な農牧政策は以下のとおり。
(a)国内市場供給を条件とした、小麦及びトウモロコシの恒常的な輸出自由化
(b)業者別牛肉備蓄量の上限を65%から30%に引き下げ(牛肉輸出量上限 = 生産量−最大備蓄量×65% → 生産量−最大備蓄量×30%にすることで、牛肉輸出量の増枠)
(c)重い若牛の飼育に対する補助金の付与
(d)国家農牧取引監督機構(ONCCA)による輸出許可にかかる日数を最大5日に削減
(ハ)主要農牧4団体は、今回政府が発表した対策は不十分であると不満を示し、また、政府が創設する予定の「経済社会審議会」に参加する意向はない旨表明した。他方、輸出課徴金の引き下げに向けて、今後も引き続き政府との対話を維持し、議会にも働きかけを行う旨述べた。
4.ペロン党の動向
28日、ペロン党の上院議員1名(リオネグロ州選出ボンヒオルノ上院議員)及び下院議員4名(コルドバ州選出エレディア下院議員、エントレリオス州選出クレモル、サバジョ及びペッティ下院議員)は、キルチネル派会派「勝利のための戦線」から正式に離脱した。キルチネル派から離脱した同下院議員4名は、独自会派「ペロニズム連邦」を結成した。
III.外交
1.ホンジュラス
(1)2日、亜外務省は、プレスリリースを通じ、ホンジュラスのフローレス・ランサ大統領府大臣からの申請を受けて、同大臣に対して外交的庇護を与えた旨発表した。
(2)5日、フェルナンデス大統領は、国際委員会の一員として、軍事クーデターにより国外追放されたセラヤ・ホンジュラス大統領の帰国に同行するため、OAS緊急会合に出席した米ワシントンから、エクアドル及びパラグアイ両大統領等とともに、テグシガルパに向け出発したが、ホンジュラス航空当局から着陸許可が下りないため、エルサルバドルに向かうことになった。
エルサルバドル到着後、フェルナンデス大統領は、ルゴ・パラグアイ大統領、コレア・エクアドル大統領、フネス・エルサルバドル大統領、インスルサOAS事務総長等とともに記者会見を開き、セラヤ大統領への支援を改めて表明するとともに、セラヤ大統領を復帰させるため、引き続き外交的な働きかけを行う旨述べた。
2.欧州連合(EU)
(1)20日、ヴァルドナー欧州委員(対外関係担当)が、中南米歴訪の一環として、訪亜した。
(2)20日、フェルナンデス大統領とヴァルドナー欧州委員が会談し、メルコスール・EU関係、ドーハ・ラウンド、ホンジュラス情勢等の共通の関心事項について話し合った。また、ヴァルドナー欧州委員は、デジタルテレビについて、亜が欧州方式を採用することへの関心を示し、欧州方式を採用した場合、欧州投資銀行が技術開発のために金融支援を行う用意ある旨述べた。更に、同委員は、フェルナンデス大統領に対して、10月乃至11月にEU本部があるブリュッセルを訪問するよう招待した。
(3)20日、タイアナ外相及びヴァルドナー欧州委員は、外務省別館サン・マルティン宮殿において開催された昼食会に出席した。両者は、亜とEU間の対話を強化する必要があることで合意し、亜・EU関係を強化するための覚書を作成する可能性について検討した。
3.イスラエル
(1)23〜24日、リーベルマン・イスラエル外相は、南米諸国歴訪の一環として、同国企業関係者とともに訪亜した。
(2)23日、亜外務省において、リーベルマン・イスラエル外相とタイアナ外相が会談し、二国間関係、国際情勢等について話し合うとともに、ペレス・イスラエル大統領が11月に訪亜する方向で準備を進めることに合意した。
(3)23日、リーベルマン外相は、「アルゼンチンとイスラエル:活発な経済」と題する両国企業関係者間の会合に出席した。同会合の中で、リーベルマン外相は、シオリ・ブエノスアイレス州知事及びメンデス亜工業連盟(UIA)会長と共に、ブエノスアイレス州ラ・プラタ市に浄水場を建設するために、イスラエル水道公社が亜に120百万ドルを投資する旨発表した。
(4)24日、リーベルマン外相は、フェルナンデス首相、マクリ・ブエノスアイレス市長、イスラエル共済組合(AMIA)会館爆破事件(注:1994年7月18日、ブエノスアイレス市内にあるAMIA本部が爆破され、死者85名、負傷者約300名を出したテロ事件)担当のニスマン検事、AMIA事件の犠牲者家族等と会談した。
4.メルコスール
(1)24日、フェルナンデス大統領は、パラグアイにおいて、第37回メルコスール首脳会議に出席した。同会議では、社会政策、ホンジュラス情勢、新型インフルエンザ対策が中心に話し合われ、「加盟国・準加盟国首脳共同コミュニケ」、「ホンジュラスのクーデターに関する加盟国・準加盟国首脳コミュニケ」、「メルコスール人道支援に関する首脳コミュニケ」等が採択された。また、メルコスール加盟諸国は、域内貿易の現地通貨決済について大枠で合意に至ったものの、これまで懸案となっている対外共通関税の二重課税撤廃、メルコスール関税協定、メルコスール議会運営等について大きな進展はなかった。
(2)同会議の演説の中で、フェルナンデス大統領は、ホンジュラス情勢について、民主政権を転覆させたクーデターを容認することはできず、条件なしにセラヤ合憲大統領の復権を強く求めた他、新興諸国も新型インフルエンザのワクチンにアクセスできるよう求めた。
5.ブラジル
(1)24日、訪問先のパラグアイにおいて、フェルナンデス大統領は、ルーラ伯大統領と会談し、二国間問題について協議した(亜側からは、タイアナ外相、ブドゥー経済・財政相及びジョルジ生産相が、伯側からは、アモリン伯外相、ジョルジ開発商工相等が同席)。
(2)同会談の中で、ルーラ伯大統領は、フェルナンデス大統領に対して、亜が伯製品に課している非自動輸入許可措置により、伯の対亜輸出が減少していること等に懸念を表明した。
(3)これに対し、フェルナンデス大統領は、亜はメルコスール及びWTOで認められた措置を取っているだけである旨述べ、亜の非自動輸入許可措置を擁護した。他方、フェルナンデス大統領は、品目毎に同通商問題をレビューするため、デボラ・ジョルジ亜生産相及びミゲル・ジョルジ伯開発商工相が近々会談することを約束した。
6.要人往来
(1)往訪
6月30日-7月6日 |
タイアナ外相の米ワシントン及びエルサルバドル訪問(米州機構(OAS)緊急会合への出席等) |
7月1-2日 |
コボス副大統領のエクアドル訪問(中南米議会議長特別会合への出席) |
7月2日 |
フェルナンデス経済相のチリ訪問(米州開発銀行(IDB)会合への出席) |
7月4-5日 |
フェルナンデス大統領の米ワシントン訪問(米州機構(OAS)緊急会合への出席) |
7月5-6日 |
フェルナンデス大統領のエルサルバドル訪問(セラヤ・ホンジュラス大統領の帰国同行ミッションへの参加) |
7月16日 |
タイアナ外相及びガレ国防相のボリビア訪問(200周年記念式典への出席) |
7月23-24日 |
フェルナンデス大統領のパラグアイ訪問(第37回メルコスール首脳会合への出席等) |
(2)来訪
7月20日 |
ヴァルドナー欧州委員(対外関係担当)(フェルナンデス大統領及びタイアナ外相との会談) |
7月23-24日 |
リーベルマン・イスラエル外相(タイアナ外相等との会談等) |