アルゼンチン政治情勢(月1回更新)

令和7年3月19日

アルゼンチン政治情勢(2025年2月)

1 内政

(1)ミレイ政権

●暗号通貨に関するミレイ大統領のX投稿をめぐる動き
ア 14日、ミレイ大統領は自身のXへの投稿で、暗号通貨「$LIBRA」、及び右通貨を用いてアルゼンチン企業への投資を促進するプロジェクトを取り上げた。
イ 右投稿により「$LIBRA」の価値は5ドル程度まで急上昇したものの、その後の取引時に不審な動きが見られたため、投稿から数時間後には、「$LIBRA」の価値は0.99ドル程度にまで急落した。
ウ 15日、大統領府は、本件の経緯を説明するプレスリリースを発出し、2024年10月以降に今回のプロジェクトに関連する企業の関係者等と会談していた点、ミレイ大統領は右暗号通貨の開発に関与していない点、様々な憶測が飛び交うことを回避し右投稿を削除した点を説明した。
エ また、ミレイ大統領は、政府関係者による不適切な行為の有無等の調査のため、反汚職局の介入を指示した他、暗号資産、マネーロンダリング等の分野に権限を持つ機関の代表者で構成される、大統領府管轄の調査タスクフォース(UTI)の設立を決定した。
オ 17日、本件により損害を被った40名の投資家の代理であるとする米国の法律事務所が、米司法省に訴状を提出した。右訴状では、本件へのミレイ大統領への関与に関する調査が要請されている。
カ 17日、ミレイ大統領はメディアインタビューで、自身はいかなるビジネスにも関与しておらず、「(暗号通貨を)推進したのではなく、拡散したのだ」と述べた。

●治安省の名称変更(4日)
 4日、政府は、治安省の名称を、国家安全保障省(El Ministerio de la Seguridad Nacional)に変更することを発表した。変更理由は、治安省の持つ権限の強調、及び麻薬密売等の組織的かつ複雑な犯罪を含む国家レベルでの犯罪防止及び撲滅という任務を名称に反映するため、としている。

●未成年者に対する性転換手術実施の禁止(5日)
 5日、政府は、ミレイ大統領が、未成年者が性転換に関わる治療及び手術を受けることを禁止することを決定した旨発表した。

●サンティアゴ・カプート大統領顧問のLLAへの合流(6日)
 6日、与党「自由の前進(LLA)」ブエノスアイレス市支部は、サンティアゴ・カプート大統領顧問が同支部に加盟したことを発表した。

●最高裁判所判事の大統領令による任命(26日)
26日、政府は、大統領令を通じ、リホ連邦裁判所判事とガルシア・マンシージャ弁護士を最高裁判所判事(任期1年間)に任命した。

(2)議会

●公職犯罪歴確認法案の下院での可決(14日)
 14日、臨時議会下院本会議で、公職犯罪歴確認法案(Ficha Limpia)が、賛成144票、反対98票、棄権2票で可決された。

●予備選挙(PASO)の一年間の停止に係る法案の可決(20日)
ア 20日、臨時議会上院本会議で、2025年の予備選挙(PASO)の一年間の停止に係る法案が賛成43票、反対20票、棄権6票で可決された。
イ 同審議では、この他、被告人の出廷なく裁判を進められる刑法の改正案、麻薬関連犯罪の捜査・刑罰を強化する組織犯罪対策法案等も併せて可決された。
ウ なお、同審議で暗号通貨を巡る一連の騒動に関する特別調査委員会を設置する法案や政権幹部に回答を求める法案等は否決されたが、政府に情報提供を求める法案は可決された。

(3)その他

●パタゴニア地方における森林火災をめぐる動き
ア 11日、ブルリッチ国家安全保障相及びペトリ国防相は、パタゴニア地方で発生した森林火災を受け、連邦緊急事態庁(la Agencia Federal de Emergencias)の設立を発表した。同庁は、緊急事態、災害、火災、洪水に対処する政府の12部門を統合し、効率的に対処することを目的としたもの。
イ 14日、政府は、今回の森林火災の発生に関与していたとして、その他の犯罪歴と併せ、先住民族マプーチェの過激派組織「マプーチェ古来からの抵抗(RAM:Resistencia Ancestral Mapuche)」をテロ組織に認定した。

 
2 外交

(1)首脳級

●ミレイ大統領のCPAC出席(22日)
ア 22日、ミレイ大統領は、保守政治活動協議会(CPAC)で演説した。演説では、大きな政府を批判し、国家縮小の必要性を説くとともに、トランプ政権の掲げる互恵協定へのアルゼンチンの参加意向を表明した。
イ CPAC出席に際し、ミレイ大統領は、イーロン・マスク米政府効率化省ディレクター、ゲオルギエバIMF専務理事、ゴールドファイン米州開発銀行(IDB)総裁、バンガ世銀総裁とそれぞれ会談した。また、CPAC終了後、ミレイ大統領は、トランプ米大統領と短時間会談した。

●ミレイ大統領とハチャトゥリアン・アルメニア大統領との会談(27日)
 27日、ミレイ大統領は、アルゼンチンを訪問したハチャトゥリアン・アルメニア大統領と会談した。本会合で、双方は、ミレイ政権の各種改革の他、南コーカサス情勢等につき協議した。また、ハチャトゥリアン大統領は、ミレイ大統領に対し、アルメニアを訪問するよう招待した。

(2)閣僚級

●ウェルテイン外相のミュンヘン安全保障会議出席(14日)
ア 14日、ウェルテイン外相は、ミュンヘン安全保障会議に出席した。
イ 同日、ウェルテイン外相は、クッキース独財相、アイデ・ノルウェー外相、リパフスキー・チェコ外相、王毅中国外交部長、ルッテNATO事務総長、ゴンサレス・ウルティア元ベネズエラ大統領候補等とそれぞれ会談した。
ウ 15日、ウェルテイン外相は、ジャイシャンカル印外相、タヤーニ伊外相とそれぞれ会談した。

●ウェルテイン外相のイスラエル訪問(1~3日)
ア 2日ウェルテイン外相は、サール・イスラエル外相と会談し、鉱業投資及び農業向け先端技術導入等での協力可能性につき協議した。
イ 同日、ウェルテイン外相は、エルサレムのホロコーストに関する記念館「ヤド・ヴァシェム」を訪問し、ホロコースト犠牲者の追悼式典に出席した他、ハマスに誘拐されたアルゼンチン人の人質の親族等と面会した。
ウ 3日、ウェルテイン外相は、ヘルツォグ・イスラエル大統領、オハナ・クネセット(イスラエル議会)議長、バルカット・イスラエル経済相とそれぞれ会談した。

●ウェルテイン外相の中東訪問(4~9日)
ア 4日、ウェルテイン外相は、訪問先のアブダビで、アブダッラー・アラブ首長国連邦(UAE)副首相兼外相と会談した。また、6日には、訪問先のドバイで、アフメド・アル・マクトゥーム・エミレーツ航空CEOとも会談した。
イ 9日、ウェルテイン外相は、サウジアラビアを訪問し、ファイサル・サウジアラビア外相、ブダイウィ湾岸協力会議(GCC)事務局長とそれぞれ会談した。

(3)イスラエル・パレスチナ関係

●ハマスによるイスラエル系アルゼンチン人質の殺害に関する声明(20日)
ア 20日、政府は、同日にハマスから遺体が返還されたイスラエル系アルゼンチン人人質のうち、ビバス家の子ども2人の殺害が確認されたことを受け、ハマスを強く非難すると共に、人質全員の即時解放を要求する声明を発出した。
イ また、同声明において、ミレイ大統領は2人の子どもを偲び、国家として二日間の喪に服すことを宣言すると共に、2人の父親に哀悼の意を表明した。
ウ 21日、ネタニヤフ・イスラエル首相は、自身のXで、ミレイ大統領の服喪に係る右決断を模範的だとして高く評価した。

(4)マルチ外交

●アルゼンチンの世界保健機関(WHO)脱退意向の表明(5日)
ア 5日、政府は、世界保健機関(WHO)を脱退する意向を表明した。右理由としては、2020年のパンデミックにおけるWHOの不適切な対応や同機関の意思決定が科学的根拠ではなく政治的影響を受けている点が挙げられた。
イ 報道によれば、その他、加盟国として所属するのに必要な年間1000万ドル程度のコスト等も脱退理由として考慮されている由。

●ウクライナに関する国連決議におけるアルゼンチンの棄権(24日)
 24日、アルゼンチンは、欧州及びウクライナが国連総会特別会合に提出した、ウクライナ領土からの即時かつ無条件のロシア軍の引き上げ要請を含む、ロシアによるウクライナ侵攻を非難する決議の採択に係る投票を棄権した。

(6)その他

●トレン・デ・アラグアのテロ組織としての認定(25日)
ア 25日、政府は、麻薬の密売、人身売買や密輸、マネーロンダリング等に関与しているとされるベネズエラの犯罪組織「トレン・デ・アラグア(Tren de Aragua)」をテロ関連団体登録簿(RePET)に登録したことを発表した。
イ なお、19日、同組織は、シナロアカルテル等の麻薬組織と共に、米政府により国際的テロ組織に指定された。

●Fー16戦闘機のアルゼンチン到着(24日)
 24日、ペトリ国防相は、2024年4月にデンマークから購入したFー16戦闘機24機の導入に向け、当地に到着した地上訓練用機体(2024年12月から組立てを進めていた、飛行能力を持たない25機目の機体)を公開する式典を主導した。

(7)要人往来

ア 往訪
 米国:ミレイ大統領、カリーナ・ミレイ大統領府長官、ウェルテイン外相、カプート経済相、アドルニ大統領府報道官(20~22日、CPAC出席)
 イスラエル:ウェルテイン外相(1~3日)
 アラブ首長国連邦(UAE):ウェルテイン外相(4日)
 サウジアラビア:ウェルテイン外相(9日)、スツルツェネッガー国家規制撤廃・変革相(17日、IMF主催の新興市場経済に関するフォーラム出席)
 ドイツ:ウェルテイン外相(14、15日:ミュンヘン安全保障会議出席)

イ 来訪
 アルメニア:ハチャトゥリアン大統領

 

(了)

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