アルゼンチン政治情勢(2015年5月)
2015年6月作成
在アルゼンチン日本大使館
概要
(1)内政:
(ア)17日,サルタ州で,地方選本選挙が行われ,ウルトゥベイ現サルタ州知事が州知事に再選された。また,24日,チャコ州で,地方選予備選挙が行われ,州知事選ではペッポ候補(現政権派)が最多票を獲得した。
(イ)28日,連邦裁判所は,国際サッカー連盟(FIFA)の汚職スキャンダルに関連して米国司法省に贈賄の容疑で訴追された3名のアルゼンチン人被告の逮捕を命じた。
(2)外交:
(ア)6~7日,趙楽際・中国共産党中央委員会メンバー率いる中国代表団がアルゼンチンを訪問し,フェルナンデス大統領等と会合した。
(イ)15日,チリにて第7回アルゼンチン・チリ二国間大臣会合が開催され,国境におけるトンネル及び鉄道の建設や道路開設等の二国間合意文書が署名された。
(ウ)28日,英国の3企業は,フォークランド(マルビナス)諸島北部海域にて,石油を発見した旨発表した。これに対し,フィルムス外務副大臣は,同海域における英国の活動は違法であると,掘削活動を非難した。
内政
(1)大統領・政府
(ア)大統領府麻薬対策長官の交替
14日,大統領府薬物依存症予防・麻薬取引対策庁(SEDRONAR)のモリーナ長官が辞任し,19日,ガブリエル・レルネル社会開発副大臣(全国幼年・青年・家族担当)が後任に任命された。
(イ)大ブエノスアイレス圏-バカ・ムエルタ地区間の新鉄道路線の建設発表
14日,ランダッソ内務・運輸大臣は,ネウケン州バカ・ムエルタ地区(シェール等ガス・油田地域)とブエノスアイレス州アベジャネダ市を結ぶ鉄道の新路線の建設を発表した。
(ウ)アルゼンチン鉄道公社の創設発表
20日,フェルナンデス大統領は,ブエノスアイレス市レティロ駅にて演説を行い,「アルゼンチン鉄道公社(Ferrocarriles Argentinos S.E.)」の設立法を官報にて発布した旨発表し,鉄道の「回復(国有化)」の成果について強調した。
(エ)ネストル・キルチネル文化センターの開所
21日,フェルナンデス大統領は,旧郵便局を2009年より改装した「ネストル・キルチネル文化センター」の開所式にて演説を行った。同大統領は,同センターの完成が故キルチネル前大統領との夢であったと述べた。なお,同センター全体は10万平方メートル以上と中南米の芸術センターで最大規模となっている。
(オ)フェルナンデス大統領の革命記念日における演説
25日,フェルナンデス大統領は,5月広場における革命記念日を祝うコンサート会場において,約80万(政府発表)の大衆を前に演説を行った。演説内では,大統領選挙を念頭に置きつつ,現政権の成果を強調した他,ハゲタカファンドやメディア,判事,労組等に対する批判も行った。
(カ)フェルナンデス大統領のフォード社経営陣との会談
28日,フェルナンデス大統領は,ジョルジ産業大臣とともに,フォード社の経営陣と会談し,2015~16年に約2.2億米ドルの投資が行われる旨報告を受けた。
(2)連邦議会
(ア)最高裁判事の弾劾を扱う委員会の招集
97歳のファイト最高裁判事が高齢を原因とする理解力の衰えにより,最高裁判事としての職務を全うできる状況にないとする疑惑につき,12日,連邦下院で弾劾を扱う委員会が招集され,同判事に対する調査を開始するとの決定がなされた。
(イ)国家総監査院による鉄道事業不正の報告
27日,連邦議会内にある野党が中心となって組織する国家総監査院(AGN:Auditoría General de la Nación)は,2004~12年の間に中国からアルゼンチン政府が購入した鉄道車輌についての会計報告書を発表した。同報告書は,ランダッソ内務・運輸大臣等による割高な費用での車輌購入などについても記載しており,連邦裁判所にも提出された。
(3)司法・検察:FIFA汚職スキャンダルに関するアルゼンチン人容疑者の逮捕請求
28日,連邦裁判所は,国際サッカー連盟(FIFA)の汚職スキャンダルに関連して米国司法省に贈賄の容疑で訴追された,アルゼンチンのスポーツマーケティング会社等の幹部であるアレハンドロ・ブルサコ氏,ウーゴ・ヒンキス氏,マリアノ・ヒンキス氏の3名の被告の逮捕を命じた。
同日,連邦歳入庁(AFIP)は,上記3名を脱税,財務不正共謀,資金洗浄の疑いで告発した。
(4)労働組合
(ア)キシロフ経済・財政大臣による所得税の控除項目の追加
4日,キシロフ経済・財政大臣は,月給に対する所得税課税に関する控除項目のうち,6月より世帯における扶養家族の人数に応じた控除項目を追加する旨発表し,7日,連邦歳入庁(AFIP)が同控除項目の追加を明記した官報を発布した。
(イ)政府寄り労組団体との労使交渉合意
賃上げを巡る各業種の労使交渉が相次いで決裂する中,キシロフ経済・財政大臣及びトマーダ労働大臣が,交渉の仲裁を開始した。その結果,19日,金属労組(UOM)や建設労組(UOCRA)等の複数の政府寄りとされる労組との間で,27%台の賃上げで合意に至った。
(ウ)植物油労組によるストの終了
29日,植物油労組は27.8%の賃上げで経営側と合意し,4日より行ってきたストを終了した。スト期間中は,国内約40にのぼる関連の工場が操業停止する他,サンタ・フェ州の港より穀物等の積み出しが滞るなど経済的損失へとつながった。
(5)選挙
(ア)選挙当局の組織変更
14日,内閣府は,内務・運輸省管轄の国家選挙局(Dirección Nacional Electoral)を,司法・人権省に移管する旨,緊急大統領令にて発表した。
(イ)サルタ州地方選本選挙結果
17日,サルタ州で,地方選本選挙が行われ,ウルトゥベイ現サルタ州知事(勝利のための刷新正義戦線:現政権派)が州知事に再選された。
(ウ)チャコ州地方選予備選挙結果
24日,チャコ州で,地方選予備選挙が行われ,州知事選ではチャコ本領発揮戦線(Frente Chaco Merece Más:現政権派)のペポ候補(チャコ州官房長官)が最多票を,また,州都レシステンシア市長選では,カピタニッチ現州知事(前官房長官)が最多票を獲得した。
外交
(1)日本
5日,アルゼンチンを訪問中の西村国土交通副大臣は,ゴンサレス経済・財政副大臣(経済調整・競争力向上担当)との間で,港湾開発に関する協力関係構築に関する覚書への署名を行った。
(2)チリ
15日,チリにて第7回アルゼンチン・チリ二国間大臣会合が開催され,アニバル・フェルナンデス官房長官やティメルマン外務大臣等の主要閣僚が出席した。会合後には,今後30年の二国間関係に関する二国間戦略委員会の設立等様々な分野に関する二国間合意文書が署名された。
(3)ブラジル
(ア)ティメルマン外務大臣,キシロフ経済・財政大臣のブラジル訪問
8日,ブラジルを訪問したティメルマン外務大臣及びキシロフ経済・財政大臣は,ビエイラ伯外務大臣,モンテイロ伯開発大臣と会談し,アルゼンチン・ブラジル間の自動車協定に関する協議を行った。
(イ)ビエイラ伯外務大臣,モンテイロ伯開発大臣のアルゼンチン訪問
29日,ブエノスアイレス市内にて,キシロフ経済・財政大臣,ティメルマン外務大臣,ビエイラ伯外務大臣,モンテイロ伯開発大臣間の会合が実施され,アルゼンチン・ブラジル間の自動車協定に関する交渉が行われた。
(当館注:同協定は本年6月に期限が切れることになっているが,協議の結果延長につき合意がなされたか否かは不明。)
(4)パラグアイ
4日,次期大統領選挙の主要候補者であるシオリ・ブエノスアイレス州知事は,アスンシオンにて,カルテス・パラグアイ大統領と面会し,鉄道分野をはじめとした二国間の署名案件に関し協議を行った。
(5)フォークランド(マルビナス)諸島領有権問題
28日,英国の3企業は,フォークランド(マルビナス)諸島北部海域にて,油田を発見した旨発表した。これに対し,フィルムス外務副大臣(マルビナス諸島等担当)は,同油田が「4千万人のアルゼンチン人に属す」として,同海域における英国の活動を違法なものとして非難した。
(6)米国
(ア)軍用機の購入
20日,アルゼンチン政府は,米国より軍用機2機(合計約1千万米ドル)を購入する旨正式に発表した。
(イ)コンテナの安全プログラムに関する覚書
20日,エチェガライ連邦歳入長官(AFIP)及びスタジカール米税関・国境取締局局長は,海上コンテナ安全対策(CSI)に関する覚書への署名を行った。本覚書は,より透明性の高い貿易実施を目的に,10年前に署名された文書の内容を拡大したもの。
(ウ)パン・アメリカン・エナジー社の汚職疑惑
パン・アメリカン・エナジー社(PAE)が,2007年にアルゼンチン政府及びチュブット州政府に対し,セロ・ドラゴン鉱区における契約を40年延長することを目的に賄賂を払った可能性があるとされ,米国にて調査が始まった。
(7)中国
(ア)デルガード農牧・漁業副大臣の訪中
5日,デルガード農牧・漁業副大臣が中国を訪問し,北京にて中国国家質量監督検験検疫総局(AQSIQ)及び中国農業省幹部と会合した。同会合後,デルガード副大臣は,アルゼンチンのアルファルファの対中輸出に向けた植物衛生に関する議定書の交渉を終了した旨述べた。
(イ)中国代表団のアルゼンチン訪問
6日~7日にかけて,趙楽際・中国共産党中央委員会メンバー率いる中国代表団がアルゼンチンを訪問し,6日,大統領府の大統領執務室にてフェルナンデス大統領と1時間以上に亘り会合した(キシロフ経済・財政大臣,デ・ビード連邦企画大臣,デ・ペドロ大統領府長官同席)他,連邦上院を訪問の上,ブドゥー副大統領(上院議長)主催の昼食会に出席した。
(ウ)中国への梨の出荷
11日,カサミケラ農牧・漁業大臣は,2014年にアルゼンチン・中国二国間で承認された衛生に関する議定書に基づき,6万3千キロ以上のアルゼンチン産の梨が,初めて中国に向け出荷された旨発表した。
(8)アルジェリア
11日,ノウリ・アルジェリア農業大臣がアルゼンチンを訪問し,カサミケラ農牧・漁業大臣との間で,二国間協力促進に向け,技術協力,バイオテクノロジー分野における協力に関する合意文書への署名を行った。同日,ノウリ大臣は,デ・ビード連邦企画大臣と会合し,原子力分野を中心とした協力関係強化につき協議した。
(9)要人往来
(ア) 往訪
1日 |
モリーナ大統領府薬物依存症予防・麻薬取引対策長官(SEDRONAR)の米国訪問(第57回米州機構(OAS)全米麻薬濫用取締委員会(CICAD)セッションにてプレゼンテーション実施) |
1日 |
ブドゥー副大統領のメキシコ訪問(メキシコ上院議会より招待を受け,社会安全週間にあわせ講演実施) |
3日 |
マクリ・ブエノスアイレス市長のイタリア訪問 |
4日 |
シオリ・ブエノスアイレス州知事のパラグアイ訪問 |
5日 |
デルガード農牧・漁業副大臣の中国訪問 |
7日 |
ティメルマン外務大臣のイタリア訪問(第56回芸術ビエンナーレ出席) |
8日 |
ティメルマン外務大臣及びキシロフ経済・財政大臣のブラジル訪問 |
8日 |
カサミケラ農牧・漁業大臣のトルコ訪問(G20農業大臣会合出席) |
8日 |
バラニャオ科学技術大臣のベルギー,ハンガリー訪問 |
17日~19日 |
ゴジャン保健大臣のスイス訪問(第68回世界保健機構(WHO)総会出席) |
18日 |
ティメルマン外務大臣の米国訪問 |
19日 |
ティメルマン外務大臣のポルトガル訪問 |
(イ)来訪
4日 |
サンペールUNASUR事務総長(元コロンビア大統領) |
4~5日 |
西村国土交通副大臣 |
6日~7日 |
趙楽際・中国共産党中央委員会メンバー |
11日 |
ノウリ・アルジェリア農業大臣 |
29日 |
ビエイラ伯外務大臣,モンテイロ伯開発大臣 |
29日 |
インカピエ・パナマ外務副大臣 |
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