アルゼンチン政治情勢(月1回更新)
アルゼンチン政治情勢(2025年9月)
1 内政
(1)ミレイ政権
●ブエノスアイレス州議会選挙後の内閣改造
ア 9日、政府は、ブエノスアイレス州議会選挙結果を受けた対応の一環として、ミレイ大統領の他、政権主要幹部6名からなる「政府政治タスクフォース(mesa política nacional)」の設置を発表した。
イ 10日、政府は、内務省の再設置を発表し、カタラン内閣官房副長官が内相に就任する旨発表した。同内相の就任式は、15日に行われた。
●2026年予算案の提出(15日)
ア 15日、政府は、2026年予算案を議会に提出した。
イ 予算法案説明文書の前文では、財政再建への揺るぎないコミットメントを強調しつつ、国民生活向上を図る公共政策を全国的に維持する旨を掲げている。
ウ ミレイ大統領は、本予算案提出に際しての演説で、財政均衡は維持しつつ、教育費や医療費等を実質ベースで増額し、政府の優先課題が人的資本である点をアピールした。
●経済指標の発表
ア 17日、2025年第2四半期の国内総生産(GDP)が発表され、前年同期比では6.3%増、前期比0.1%減であった。
イ 25日、国家統計局(INDEC)は2025年上半期の貧困率を発表した。発表された貧困率は31.6%で、2018年下半期以来の低水準となった。
●農産物に対する輸出税の一時停止(22日)
22日、政府は、主要穀物・肉類に対する輸出税を、本年10月31日まで一時的に撤廃することを発表した。なお、主要穀物への免税措置に関しては、総輸出額が70億米ドルに達するまでとの上限が設けられており、24日に当該上限に達したため、同措置は終了した。
(2)議会
●障害者緊急事態法案に対する大統領拒否権を巡る動き
ア 4日、上院は、障害者緊急事態法案に対する大統領の拒否権発動を、賛成63票、反対7票で覆した。
イ 10日、政府は、議会が採択した大学予算増額法案及び小児科緊急事態法案に対し、ミレイ大統領が拒否権を発動したことを発表した。
ウ 17日、下院は、大学予算増額法案及び小児科緊急事態法案に対する大統領の拒否権発動を覆した。
エ 22日、障害者緊急事態法案が官報掲示され、法律として公布された。
(3)選挙関連
●ブエノスアイレス州議会選挙の実施(7日)
7日、ブエノスアイレス州議会選挙が実施され、ペロン党(同州政府与党)系政党連合が得票率47.28%で勝利した。国政与党「自由の前進(LLA)」等の政党連合は、得票率33.71%で二位となった。
●ミレイ大統領の地方アジェンダ
ア 12日、ミレイ大統領は、大統領府で、ズデロ・チャコ州知事と会談した。
イ 19日、ミレイ大統領は、コルドバ州を訪問し、コルドバ証券取引所125周年記念式典で演説した他、同州でのLLAの選挙キャンペーンに出席した。
ウ 29日、ミレイ大統領は、ティエラ・デル・フエゴ州ウシュアイア市を訪問し、同州での選挙キャンペーンに出席した他、国立公園関係者とも会談した。
(4)抗議活動の実施
●大統領拒否権に対する抗議デモの実施(17日)
17日、ミレイ大統領の拒否権発動(大学予算増額法案及び小児科緊急事態法案に対して)を受け、大学関係者の呼びかけにより、ブエノスアイレス市の連邦議会前をはじめ、全国の主要都市で抗議デモが実施された。
(5)治安情勢
●ブエノスアイレス州での女性殺人の発生
ア 19日にブエノスアイレス州ラマタンサ市で行方不明となった10~20代の女性3名の遺体が、24日、同州フロレンシオ・バレラ市で発見された。
イ 同日、アロンソ同州治安相は、本件は麻薬組織による犯行であり、女性3名の殺害に関与した男女4名を逮捕した旨発表した。
ウ 30日、本件の首謀者とされた、通称「Pequeño J」ことバルベルデ・ビクトリアーノ氏(ペルー国籍)、及びその側近とされるオソリオ氏(アルゼンチン国籍)が、ペルーで逮捕された。
エ 10月2日、オソリオ氏が、ペルーからアルゼンチンに移送された。
2 外交
(1)米国における動向
●ミレイ大統領の訪米(4日)
4日、ミレイ大統領はロサンゼルス市を訪問し、ミルケン研究所(経済シンクタンク)のミルケン氏と会談した他、企業関係者とも会談した。
●ミレイ大統領とトランプ米大統領との会談(23日)
ア 23日、ミレイ大統領は、国連総会のマージンでトランプ米大統領と会談した。本会談では、米国からの大規模融資等につき協議したとされる。
イ 本会談で、トランプ大統領は、ミレイ政権及びその取組を強く支持した。
ウ 本会談に先立つ22日、ベッセント米財務長官は、自身のXでアルゼンチンに対する全面的な支援を表明する内容を投稿した。
●ミレイ大統領の国連総会での演説(24日)
ア 24日、ミレイ大統領は、第80回国連総会に出席し演説した。
イ 同大統領は、演説の中で、各国や国連・国際機関が、現在の快適さを追求するあまり、将来的な成長可能性等を蔑ろにしている状況を批判し、未来への関心の回復を呼びかけ、国連が国際的な主導権を取り戻すための4原則を提案した。
ウ また、フォークランド(マルビーナス)諸島等におけるアルゼンチンの主権の主張をはじめ、アルゼンチンに係る問題等にも言及した。
エ 同日、ミレイ大統領は、ゲオルギエバIMF専務理事、ケラー=ズッター・スイス連邦大統領等と個別に会談した。
●ミレイ大統領とネタニヤフ・イスラエル首相との会談(24日)
ア 25日、ミレイ大統領は、国連総会のマージンで、ネタニヤフ・イスラエル首相と会談し、二国間関係やガザ地区の人質の状況等につき協議した。
イ 同日、ミレイ大統領は、ラウダー世界ユダヤ人会議会長及びエベルマン・ラ米ユダヤ人評議会理事とも会談した。
(2)その他首脳級の動向
●ミレイ大統領のビデオメッセージの送付(14日)
14日、ミレイ大統領は、スペイン右派政党VOXの党大会に、ビデオメッセージを送付した(ミレイ大統領は、13、14日、スペイン訪問を予定していたが、ブエノスアイレス州議会選挙の結果等を理由に渡航をキャンセルした)。
●ミレイ大統領のパラグアイ訪問(16、17日)
ア 16日、ミレイ大統領は、パラグアイを訪問し、アスンシオンで開催された保守政治活動協議会(CPAC)の開会式に出席し演説した。
イ 上記式典出席後、ミレイ大統領は、ペーニャ・パラグアイ大統領と会談した。
ウ 同日、ミレイ大統領は、第18回パラグアイ産業企業家フォーラム(FEIP)で、自由の理念の根幹となる西洋の価値観の重要性等につき講演した。
エ 17日、ミレイ大統領は、パラグアイ議会で演説した。
(3)閣僚級の動向
●カプート経済相とゲオルギエバIMF専務理事との会談(11日)
11日、カプート経済相は、訪問先の米国で、ゲオルギエバIMF専務理事と会談し、経済プログラムの進捗状況につき協議した。
●ウェルテイン外相とヴァーデフール独外相の会談(17日)
17日、ウェルテイン外相は、訪問先のベルリンで、ヴァーデフール独外相と会談し、二国間関係強化や政府間協議の実施につき合意した他、エネルギー及び重要鉱物に関する戦略的パートナーシップの構築、アルゼンチンのOECD加盟プロセス等につき協議した。
●閣僚の国連総会関連アジェンダ
ア 26日、ウェルテイン外相は、ランドー米国務次官補と会談した。
イ 同日、ルゴーネス保健相は、ロバート・F・ケネディ・ジュニア米保健長官と会談した他、ラテンアメリカ民間医療システム協会の会合に出席した。
ウ 29日、ウェルテイン外相及びクレクレル大使(前外務副大臣(国際経済関係担当))は、グリアUSTR代表と会談した。
(4)イスラエル・パレスチナ関係
●エルサレムでの銃撃事件を非難する政府声明(8日)
8日、アルゼンチン外務省は、同日にエルサレムで発生した銃撃事件の犠牲者にアルゼンチン国籍の者が含まれていたとして、本事案を非難する政府声明を発出した。
(5)その他
●アルゼンチン政府によるパスポート回収要請(6日)
6日、当地各紙は、セキュリティ面での不具合により、アルゼンチン政府が約5~6,000冊のアルゼンチンパスポートの返却を要請した旨報じた。当該のパスポートが含まれる製造番号範囲は、約20万件とされた。
●フォークランド(マルビーナス)諸島での企業活動を非難する声明(11日)
11日、アルゼンチン外務省は、イスラエルを拠点とするNavitas Petroleum社がフォークランド(マルビーナス)諸島沖で行っている炭化水素関連の活動を、違法であるとして拒否する声明を発出した。
●米国からの強制送還者の帰国(11日)
11日、米国から強制送還された最初のアルゼンチン人10名(うち5名は犯罪歴なし)が当地エセイサ空港に到着した。
(6)要人往来
往訪:
パラグアイ:ミレイ大統領、カリーナ・ミレイ大統領府長官(16、17日)
ブラジル:ウェルテイン外相(16日、メルコスール・EFTA間の協定署名)
独:ウェルテイン外相(17日、外相会談)
米国:ミレイ大統領、カプート経済相(3、4日及び22~26日の国連総会関連)、カリーナ・ミレイ大統領府長官、ペトリ国防相、ルゴーネス保健相、アドルニ大統領府報道官(国連総会関連)、ウェルテイン外相(22~29日、国連総会関連他)、キシロフ・ブエノスアイレス州知事(24日、国連のマージンで行われた左派系政治会合への出席)
来訪:
米州開発銀行(IBD):ゴールドファイン総裁(8日)
(了)