アルゼンチン経済情勢(月1回更新)
2020年10月の経済情勢
<概要>
(1) 1日、政府は、外貨準備高の減少への当面の対策として、輸出税の引下げ等を内容とする生産と輸出の促進に向けた一連の新たな経済的措置を発表した。
(2) 6日~11日、IMFは、亜のマクロ経済の現状に関する調査のための非公式ミッションを実施した。
(3) 15日及び19日、政府は、9月15日に発表した資本規制(外貨規制)を一部緩和する事項を含む、企業と投資家に対する新たな規制内容について発表した。
(4) 23日、為替市場の非公式レートが1ドル=195ペソに達し、非公式レートと公式レートの乖離が149.5%となった。
1 経済の主な動き(報道ぶり等)
(1)1日、政府は、外貨準備高の減少への当面の対策として、生産と輸出の促進に向けた一連の新たな経済的措置を発表した。大豆に係る輸出税を時限的に現行の33%から30%まで3%引き下げるほか、工業製品についても輸出税を引き下げると同時に輸出間接税の還付率を付加価値に応じて引き上げる。また、建設投資の促進に向けた税制優遇措置を創設するとともに、住宅ローン融資制度の安定性強化に向けた信託基金を創設する。さらに、ドルレートに連動したペソ建て債券(ドルリンク債)を新たに発行する。そのほか、為替レートの均一の切下げメカニズムを廃止し日々の取引状況に応じた調整を開始するとともに、政府高官や国会議員等によるドル購入を禁止した。
(2)5日、グスマン経済相は、大統領府で開催された政労使会合に出席し、IMFとの交渉に関し、「2018年に合意したスタンドバイ取極(SBA)とは異なるプログラムを目指す。」とし、それは「投資環境を整え雇用を創出するため、持続可能な方法で経済復興を進めるためのプログラムとなる。」と述べた。
(3)6日、IMFのジュリー・コザック西半球担当次長とルイス・クベドゥ亜ミッション責任者が亜を訪問し、トレバー・アレイネ亜事務所長とともに、11日まで亜のマクロ経済の現状に関する調査のための非公式ミッションを実施した。滞在中に、企業団体、農業団体、労働組合、社会運動の代表者や、大統領府高官、経済大臣、生産開発大臣、保健大臣、上下院の予算・財政委員長等と会合を行った。
(4)7日、政府は、最大価格プログラム(Precios Máximos)対象商品の+4.5%までの引き上げを官報で発表した。
(5)8日、下院の議決により、知識経済法が成立した。同法は、新たなテクノロジーの促進、付加価値の創出、質の高い雇用の創出、中小企業の開発円滑化及び輸出の拡大を目的とし、小規模事業者に重点を置いた優遇税制措置を行う。
(6)12日、IMFは、前日まで行われた非公式ミッションを踏まえ、「亜は未曾有の公衆衛生危機により、経済・社会的に複雑な困難に直面している。深刻な不況は、既に高水準にあった貧困率と失業率をさらに助長させ、その影響は為替市場における強力な圧力に表れている。非常に難しい課題であり、簡単な解決策はない。経済回復の促進とマクロ経済の安定のためにふさわしい一連の包括的な政策が信頼の回復につながる。」との声明を発出した。
(7)13日、IMFは、亜の経済見通しを修正し、2020年のGDPの落ち込みを▲11.8%と推定した一方、2021年における+4.9%の回復を予測した。6月時点では、本年の落ち込みを▲9.9%と予測していた。
(8)14日、IMFのゲオルギエバ専務理事は、IMF年次総会において、「亜は非常に劇的な課題に直面している。深刻な不況にあり、社会情勢は悪化の一途をたどり、経済の不均衡は加速している。また為替公式レートと非公式レートの乖離も拡大している。包括的で信用できる経済計画の実装が最優先課題だと強調した。」と述べた。
(9)14日、フェルナンデス大統領は、IDEA 討論大会において、外貨準備高の減少と為替レートの乖離を理由としたドル建て預金の封鎖やペソの切下げを行うことはないと強調した。
(10)政府は、最低賃金を段階的に+28%引き上げる計画で労使と合意した。2019年以来凍結されている最低賃金(1万6875ペソ)を2021年3月までに2万1593ペソまで引き上げる。
(11)15日、フェルナンデス大統領は、バカ・ムエルタにおいて、2020~2023年ガス・プランを発表した。国内需要の充足、輸入代替、雇用創出のためのガス開発への投資・生産の促進を目的としている。生産企業による50億ドルの投資により、現在輸入により補われている180億m3のガスを国産で代替することを目指す。
(12)15日、中銀は、企業に対する新たな資本規制を発表した。外貨準備高の急減への対策の一つとして、輸入企業による決済のための外貨購入を新たに制限し、輸入決済のための外貨購入について中銀による承認を要する下限を50万ドルから5万ドルまで引き下げる。他方、9月15日の資本規制により負担を増した輸出企業の外貨建て債務の返済条件を緩和する観点から、100万ドル以上の債務を抱える企業に対し、輸出決済により取得した外貨を債務返済に使用することを容認する。
(13)19日、生産開発省は、クルファス生産開発相及びモロニ労働相出席の下、産業界及び企業代表が参加する形で経済社会合意(Acuerdo Económico y Social)の策定に向けた審議を開始した。その中で、クルファス大臣は、「再び成長するためのロードマップ」である10の合意事項について説明した。
(14)19日、経済省及び国家証券取引委員会は、投資家に対する従前の資本規制を一部修正することを発表した。9月15日の資本規制により市場の流動性が極めて低下した状況を踏まえ、これを撤回し、非居住者による外貨建て証券の売買取引を容認することとした。また同様の観点から、最大15日間まで拡大していた証券の最短保有義務(「Parking」)を最大3日間までに削減する。
(15)21日、政府は、海外の未申告資産の正規化プログラムを発表した。国民が海外に逃避させた資金を再び国内に帰還させ、建設部門の再活性化のための投資に当てることを目的とする。
(16)22日、9月の債券交換に応じた民間債権者団は、亜の資本規制による為替レートの乖離の拡大やマクロ経済計画の欠如を指摘し、近い将来に再びデフォルトが発生する可能性に言及する声明を発出した。同声明は、「亜政府の態度は、今後数年間の債務を370億ドル以上も削減することに成功した債務再編による責任を尊重する意志が全くないことを証明している。」と非難している。
(17)23日、為替市場の非公式レートが1ドル=195ペソに達し、非公式レートと公式レートの乖離が149.5%となった。
(18)27日、政府は、緊急労働生産支援プログラム(ATP)を12月31日まで延長することを官報で発表した。
(19)27日、経済省は、ドルリンク債とペソ建て4債券の入札により2547億ペソを取得した。市場におけるペソの過剰な流動性を吸収し、為替レートの乖離の縮小を図る。
(20)28日、下院の議決により、亜のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への加盟が承認された。
(21)政府は、価格統制プログラム(Precios Cuidados)を2021年1月31日まで延長することを決定した。
2 経済指標の動向
(1)経済活動全般
9月の経済活動指数(INDEC発表)は、前年同月比6.9%減、前月比1.9%増となった。
(2)消費:自動車販売
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3月 |
4月 |
5月 |
6月 |
7月 |
8月 |
9月 |
10月 |
2020年計 |
台数 |
18,922 |
7,512 |
20,033 |
23,773 |
22,475 |
28,346 |
35,065 |
33,320 |
242,364 |
前年比 |
▲43.9% |
▲73,6% |
▲28.3% |
▲34.9% |
▲42.7% |
▲25.4% |
30.5% |
22.5% |
▲23.9% |
(参考)自動車輸出台数(自動車生産者協会(ADEFA)発表)
|
3月 |
4月 |
5月 |
6月 |
7月 |
8月 |
9月 |
10月 |
2020年計 |
台数 |
13,928 |
2,386 |
3,227 |
6,875 |
9,612 |
13,606 |
17,903 |
14,845 |
109,188 |
前年比 |
▲33.9% |
▲88.4% |
▲85.2% |
▲60.5% |
▲51.7% |
▲27.8% |
▲17.0% |
▲23.2% |
▲41.7% |
(3)工業生産・建設活動
(ア)自動車生産
|
3月 |
4月 |
5月 |
6月 |
7月 |
8月 |
9月 |
10月 |
2020年計 |
台数 |
19,164 |
0 |
4,802 |
15,657 |
21,316 |
25,835 |
32,149 |
28,706 |
194,445 |
前年比 |
▲34.4% |
▲100% |
▲84.1% |
▲34.5% |
▲1.5% |
▲16.2% |
16.1% |
▲9.8% |
▲28.8% |
(イ)工業生産
9月の工業生産指数(INDEC発表)は、前年同月比3.5%増となった。
(ウ)建設活動
9月の建設活動指数(INDEC発表)は、前年同月比3.9%減となった。
(4)物価
10月のCPI統計(INDEC発表インフレ率)は、前月比3.8%、前年同月比37.2%の上昇となった。
10月の卸売物価指数(INDEC発表)は、前月比4.7%、前年同月比36.0%の上昇となった。
(5)金融
(ア)EMBI+指数は、10月末には前月末比182ポイント増の1482ポイントとなった。
(イ)10月末の為替レートは、前月末比2.8%ペソ安の1ドル=78.33ペソであった。
(ウ)外貨準備高は、10月末には前月末比15億ドル減の398.6億ドルとなった。
(6)財政
(ア)財政収支
10月の財政収支(財務省発表)は、歳入が前年同月比37.8%増、一次歳出が同57.8%増となった結果、基礎的財政収支は816.3億ペソの赤字となった。また、総合収支は、1,127.0億ペソの赤字となった。
(イ)税収
10月の税収(財務省発表)は、前年同月比43.9%増の6,421.0億ペソとなった。
(7)貿易
10月の貿易(INDEC発表)は、輸出が前年同月比21.6%減の4,616 百万ドル、輸入が同2.8%減の4,004百万ドルとなった結果、貿易黒字は612百万ドルとなった。