アルゼンチン経済情勢(月1回更新)

令和2年5月7日

2020年3月の経済情勢

概要

(1) 3日,政府は農牧団体の構成団体に対し,大豆に対する輸出税の+3ポイント(現行の30%から33%まで)の追加引き上げ決定を通達し,5日,法令230/20号にて制定された。

(2) 5日,中銀は新たにLeliq金利(政策金利)の下限を40%から38%まで2ポイント引き下げた。ペッセ総裁が2019年12月に就任して以来,中銀はすでに8回の利下げで合計25ポイントの利下げを実施した。


1 経済の主な動き(報道ぶり等)

(1)1日,経済省はファイナンシャル・アドバイザーとしてラザード社のオファーを受け入れた。亜政府は仲介役兼銀行監査役としての働きを期待する。プレースメント・エージェントとしてバンク・オブ・アメリカとHSBCの2銀行を選出した。両行は国債の保有者との連絡を担当し,オファーを潤滑にすることが任務となる。

(2)2日,政権交代後2度目のIMFミッションが来亜。5日間滞在し,グスマン経済相ほか政府高官と会合を行い,国家の持続可能な債務の再編計画等の分析が行われた。


(3)2日,社会開発省は食糧補助カードプログラムを開始した12月中旬に発表した目標の100万枚配布を達成した。


(4)2日,CCK(キルチネル文化センター)でラテンアメリカ開発銀行(CAF)創立50周年記念セミナーが開催され,同行はフェルナンデス大統領に対し4年間の融資(総額24億ドル)を約束した。同資金はインフラ整備,教育政策に充てられる。支援目標としてバカ・ムエルタ地区で事業を行う中小企業へのサポートや,電力網整備支援等が挙げられた。


(5)農産物輸出事業者が昨年末の輸出税引き上げ前の駆け込みで決済を急いだこともあり,2月のドル供給は前年同月比で▲37%減少した。1,2月の2か月間の農業部門の販売は前年同時期比で▲20%となった。

(6)Ipcva(アルゼンチン牛肉促進機構)の推定データによれば,牛肉輸出は1月前月比で31.8%の落ち込みを記録した。一方で,前年比では,中国国内の新型コロナウイルスの影響に関わらず,輸出量は+24.3%,輸出額は2億2300万ドルで+37.4%となった。

(7)3日,政府は農牧団体の構成団体に対し,大豆に対する輸出税の+3ポイント(現行の30%から33%まで)の追加引き上げ決定を通達した。5日,法令230/20号にて制定された。トウモロコシと小麦に対する輸出税率は維持される。農牧団体は,大豆に対する輸出税の追加引き上げに反対していたものの,増税による増収分が小規模農家への埋め合わせとして農業部門に返還されることで折り合った形。この他,段階的な輸出税還付等の方針を示すことで,農産者らの反対を沈静化した。具体的には,年間売上が1000トン以下の小規模生産者に対して,輸出税還付制度を設け,中・小規模生産者と見なされる農産者に対しては大豆輸出税率の実質的な課税上限を30%に留め,最大22%までの実質税率引き下げを行う。牛肉,鶏肉の輸出税率は9%に,アルゼンチンで2番目と3番目に収穫量の多いトウモロコシと小麦の輸出税率は12%となった。ただし,特種や付加価値に応じてはこれ以下になり,例えばフリントコーンの輸出税率は7%に,穀物油・粉は5%まで引き下げられた。小麦粉に対しては9%から7%までの引き下げが適用された。地域経済を対象に減税が実施されその大半が5%で維持された。最も恩恵を受けるのは養豚農家と羊肉生産者で,4ポイントの引き下げが適用され今後はソーセージ(腸詰め)や羊毛と同じ輸出税率5%が適用される。

(8)大豆輸出税の追加引き上げ(30%から33%)の正式発表をうけ,農牧団体(Mesa de Enlace:アルゼンチン農村連合(CRA, 有限農業協同組合連合(CONINAGRO),アルゼンチン農業連盟(FAA), アルゼンチン農牧協会(SRA)の4団体からなる)は現政権に対し初となる穀物・農作物の商取引のストを4日間行った。

(9)4日,亜経済省はBogato債の約65%の債券交換に成功(Bogato730億ペソの支払い期限到来に対し,Boncer332億ペソ,Lebad145億ペソ発行)。経済省は投資家らがペソ建て債務の正常化プロセスに協力しない場合,法的措置を取ると警告する声明を公開した。

(10)携帯電話製造を行う多国籍企業のBrightstar社は,新型コロナウイルスの影響による中国から輸入する部品の調達の遅れを受け,6日までティエラ・デル・フエゴ州の工場の従業員を一時解雇した。

(11)5日,中銀は新たにLeliq金利(政策金利)の下限を40%から38%まで2ポイント引き下げた。ペッセ総裁が2019年12月に就任して以来,中銀はすでに8回の利下げで合計25ポイントの利下げを実施した。当時のストゥルセネゲル中銀総裁を辞任に追い込んだ金融危機前の2018年5月以来で最低の金利となった。ペッセ総裁はインフレの慣性を指摘し,「この種のインフレは,金利の操作やマネーサプライの抑制などの古典的なツール(対策)では解決されない。そうではなく,Precios Cuidados (販売価格抑制策)などの合意を通して解決される」と述べた。

(12)10日,官報で法令250/2020号が発表され,大統領はグスマン大臣率いる経済省に対し,(務再編案提示に向けた手続きとして,)司法権がニューヨーク(米国)、ロンドン(イギリス)、北アイルランドの州及び連邦自治区の裁判所と、東京(日本)の裁判所に委ねられることとなった。また,法令の附属書に債務再編の対象となりうる債券リストが公開され,Par債,Discount債, BIRAF債を含む35の債券が含まれており,これらの合計は68842528826ドルとなっている。

(13)10日,政府は原油・軽油・ガソリンの輸入に非自動輸入ライセンスの適用を決定した。国際原油価格の変動をうけ,国内生産に支障を来たし得る投機的操作を回避することが目的とされる。クルファス大臣率いる生産開発省が発表した同措置は,航空燃料,バージン・ナフサ,液化石油ガス(LPG),発電用・ボイラー用・加熱炉用燃料油を対象外とした。政府筋によると,6日から9日にかけてのWTI原油価格とブレント原油価格の35%もの下落に対し「国内生産とアルゼンチン国民の雇用を保証する」ことが目的としている。

(14)英The Economist誌のインテリジェンス・ユニットは,当初,アルゼンチン経済の▲1.4%の後退を見込んでいたが,コロナウイルスの影響を考慮すると,2018年の経済危機と同等の対GDP比▲2.02.7%まで落ち込むことが予想されると伝えた。

(15)亜中銀は外貨準備高維持のため中国人民銀行(中国の中央銀行)に対し186億ドルのスワップ協定を更新(延長)するよう要請した。コロナウイルスの蔓延により世界金融市場が危機を迎えている状況でも,支障なく現行合意と同額で更新される見込み。両国の中銀の間で交わされたスワップ協定により融通された人民元が亜中銀の総外貨準備高に占める割合は41%。

(16)13日,経済省は(2月以降数度の債券交換実施の結果,最終的に)AF20債(Dual債)の計85%の交換に成功し、元本の2年延長に成功した。政府筋によると、同債券の約4分の3を海外の債権者が保有しているとのこと。また,月末に償還期限を迎えるペソ建て債券の約半分(6182500万ペソ/全体の48.5%)の資金を集めることに成功した。

(17)13日,市中のドル買い傾向が拡大し、中銀はドル売り介入を行い,外貨準備高は一週間で4億9600万ドルのマイナスとなった。

(18)15日,新型コロナウイルスの流行を受けメルコスールはEUメルコスールFTAの法的枠組み見直しおよび,予定していたカナダとのラウンド(3月23日~4月3日)を中止したほか,今年前半期に予定している全ての地域会合をビデオ会議で行う方針となった。

(19)16日,当初の予定では,3月第二週に行われる予定であった,外国法に準拠する債務の再編案提示を延期した。

(20)16日,YPFの株価はここ1か月で60%以上の下落となった。

(21)16日,大豆価格は1トン当たり303ドルまで下落した。(年初時点では1トンあたり356ドル。)

(22)17日,アロジョ社会開発大臣,のバノリ国家社会保障機構(ANSES)総裁は脆弱層の家庭の収入を維持するための緊急措置を発表した。社会保障制度の対象者には3月に3000ペソの補助,貧困街に建材支援を開始する。食糧補助カード配布方法を郵送に変更。最低年金者に対し4月に3000ペソの補助。一般子供手当(AUH)と妊娠手当額を倍増。ANSESの融資プログラムの加入者に対し支払の停止を4月,5月まで延長。

(23)17日,グスマン経済相とクルファス生産開発相は大統領府で会見を行い,新型コロナウイルス流行の中,生産・経済の保護と強化にむけた緊急措置を発表した。

(24)17日,ゴンドラ法が施行され,スーパーマーケットは同規制の交渉を試みる。コロナウイルス流行の異常事態をうけ,主要食品会社は現時点で法的申立てを行わないことを決定した(法的手段にはでず,交渉による解決を目指す)。

(25)18日,官報にて緊急大統領令287/2020 号が発表され,医薬品購入プロセスの簡易化が正式に発表された。

(26)19日,国内でも最も農産物輸出量が多い地域の1つであるサンタ・フェ州ティンブエス区の区長は,新型コロナウイルスの感染を防ぐため同地区のすべての港を閉鎖し,トラックの通行を禁止した。同措置は4月3日まで継続される。

(27)24日,グスマン経済大臣とモロニ労働・雇用・社会保障大臣は,共同記者会見を開き,インフォーマルセクターの労働者や低収入の自営業者等,強制隔離下で仕事の継続が難しい層に対して緊急世帯補助(IFE10,000ペソを緊急支援すると発表した。この措置は,360万世帯を対象とする見込み。

(28)20日,フォルクスワーゲンは新型コロナウイルスの影響で,パチェコ工場とコルドバ工場を3月31日まで一時ストップすると発表した。

(29)20日,フェルナンデス大統領とゲオルギエバIMF専務理事は電話会議を行い,政府筋によると「フェルナンデス大統領は(IMFと),今後4年間はアルゼンチンの債務返済能力に回復は見込めないとの見解を共有した」由。これに先立ちIMFはアルゼンチン債務に関するテクニカルレポートを公開した。同レポートでは,状況に応じて今後10年間で対外債務の約550億~850億ドルの削減が必要となると予測している。

(30)21日付大統領府プレスリリース:フェルナンデス大統領は,ゲオルギエバIMF専務理事と電話会談を行なった。同専務理事は,アルゼンチンを訪れていたIMFテクニカル・ミッションにより行われた公的債務の持続可能性分析の結論を詳細に説明した。フェルナンデス大統領は,アルゼンチンには今後4年間外貨建ての支払い能力がないということを確認するという点において双方は類似の立場であったと述べた。また,フェルナンデス大統領は,債務不安を終結させアルゼンチンが立ち上がるために,債務の再編にかかる合意の中で持続可能性を獲得する必要があるという見解について同意した。大統領が述べたように,重要なのは,新たなプログラムを具体化するために対話を継続することである。

(31)25日,フェルナンデス大統領は新型コロナウイルス危機を受け,家賃と住宅ローン(返済額)を180日間凍結させる法案を議会に提出すると発表し,後に必要緊急大統領令として法定し,議会で事後承認とすることとなった。

(32)29日,政府は9月30日まで家賃の凍結と強制退去の禁止を定める必要緊急大統領令(DNU)319/20  を官報で発表した。.さらに法令320/20号 は(投資ではなく居住用に購入した)住宅ローンの分割払い(月々の返済額)及び,UVA建て住宅ローンの返済額(月額)の凍結と差し押さえの停止を定めた。

(33)29日,亜国歳入庁(AFIP)は6月30日までモラトリアムの申請を延長: 政府は中小企業,個人納税者(monotributistas),個人事業主および,協同組合,家主・地主協会,ソーシャルワーカー,公立大学,地域センターなどの非営利団体に対し,AFIPが開設したモラトリアム制度への申込期間を2か月間(6月30日まで)延長した。 政府は土曜日に官報にて必要緊急大統領令(DNU316/2020号を発表し,債務の支払い猶予を申請するための期間を延長した。MiPyME(零細・中小企業)証明書は2020年6月30日までに所得が可能であり,モラトリアム制度にアクセスするためにはこの証明書(生産開発省が発行)の所得が条件となる。

(34)政府は州の要請に応じ,国内の原油価格(1バレル当たり)を固定を検討:原油の国際価格に連動させず,国産の原油に特別価格を設定する方針。クルファス生産開発大臣は州政府と「Barril Criollo(国内市場における国産原油価格の固定)」の導入に向け対話を進めている

 

 

2 経済指標の動向

(1)経済活動全般

 1月の経済活動指数(INDEC発表)は,前年同月比1.8,前月比0.1%減となった。

 

(2)消費自動車販売

 

8月

9月

10

11

12

1月

2月

3月

2020年計

台数

38,021

26,876

27,204

22,900

31,151

25,727

27,191

18,922

71,840

前年比

▲27,2%

▲37.0%

▲26.9%

▲30.8%

▲35.7%

▲14.4%

▲10.6%

▲43.9%

▲23.7%

 

(参考)3月の自動車輸出台数(自動車生産者協会(ADEFA)発表)

 

8月

9月

10

11

12

1月

2月

3月

2020年計

台数

18,856

21,568

19,339

17,921

18,965

8,691

18,115

13,928

40,734

前年比

32.8%

▲7.6%

12.2%

▲31.2%

17.4%

17.4%

6.8%

33.9%

15.0%

 

(3)工業生産・建設活動

)自動車生産

 

8月

9月

10

11

12

1月

2月

3月

2020年計

台数

30,815

27,687

31,834

27,099

14,524

20,683

26,133

19,164

65,980

前年比

▲37.5%

▲25,7%

▲17.7%

26.4%

29.1%

39.7%

▲20.0%

▲34.4%

▲14.0%

 

)工業生産

2月の工業生産指数(INDEC発表)は,前年同月0.8%減となった。

 

(ウ)建設活動

2月の建設活動指数(INDEC発表)は,前年同月比22.1%減となった。

 

(4)物価

 3月のCPI統計(INDEC発表インフレ率)は,前月比3.3%,前年同月比48.4%の上昇となった。

   3月の卸売物価指数(INDEC発表)は,前月比1.0%,前年同月比51.8の上昇となった。
 

(5)金融

(アEMBI+指数は,3月末には前月末比1520ポイント3803ポイントとなった。

(イ)3月末の為替レートは,前月末比3.6%ペソ安の1ドル=64.47ペソであった。

(ウ)外貨準備高は,3月末には前月末比12.3億ドル減435.6億ドルとなった。

 

(6)財政

(ア)財政収支

3月の財政収支(財務省発表)は,歳入が前年同月比44.0,一次歳出が同73.9%増となった結果,基礎的財政収支は1247.3億ペソの赤字となった。また,総合収支は,1663.1億ペソの赤字となった。

 

(イ)税収

3月の税収(財務省発表)は,前年同月比35.3%増の4436.4億ペソとなった。

 

(7)貿易

3の貿易(INDEC発表)は,輸出が前年同月比15.9減の4,320 万ドル,輸入が同19.7%減3,175百万ドルとなった結果,貿易黒字1,145百万ドルとなった。 (了)