アルゼンチン経済情勢(月1回更新)
2020年7月の経済情勢
<概要>
- 6日、経済省は、新たに外国法準拠債の民間債権者に対する正式な再編提案を公表した上で、債務再編交渉期限を7月24日から8月4日まで延長する旨発表した。
- 20日、アドホックグループ、エクスチェンジグループ、亜債権者委員会の3グループは共同声明を発表し、亜の新たな債務再編提案を拒否した上で共同の対案を亜政府に提示したことを明らかにした。
- 31日、フェルナンデス大統領は、穀物輸出企業ビセンティンへの介入及び国有化を定める大統領令を廃
1 経済の主な動き(報道ぶり等)
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1日、ソラー外相は第56回メルコスール共通市場理事会(CMC)の定例会議に出席し、「メルコスールは国家政策であり、政権を超えて存続している」とコメントした。さらにEUメルコスールFTAほか現在進行中の自由貿易協定交渉についても言及し、「亜は全交渉に参加する。自由貿易協定交渉を妨げることもなければ、悲観的になることもない。逆に楽観的(前向き)だ。」と述べた。
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2日、フェルナンデス大統領は、初のビデオ会議形式で開催された第56回メルコスール首脳会合に出席し、「私は常々、各国民が選んだ各国首脳に対し敬意を表している。その全員と考え方を共有するわけではないが、意見が異なるからと言って、ラテンアメリカの統合・共同成長への意志を妨げる権利はない。」と述べた上で加盟国に団結を求めた。
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5日、フェルナンデス大統領はゲオルギエバIMF専務理事とビデオ会議形式で会談を行い、対外債務再編及びパンデミック収束後の将来的な経済計画を含む協働のロードマップに関して議論した。
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6日、経済省は、新たに外国法準拠債の民間債権者に対する正式な再編提案(正味現在価値:1ドル当たり53.5セント程度。元本削減率:平均2%程度。平均金利:3.1%程度。利払開始:2021年9月。)を公表した上で、債務再編交渉期限を7月24日から8月4日まで延長する旨発表した。7日に米国証券取引委員会(SEC)へ提出した後、債権者側へ正式に提案する予定。公式提案としては4月21日の初提案以来となる。執行日、発効日、決済日は9月4日を予定している。
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グスマン経済相は、「再編後の新しい債務プロファイルは、中長期的に持続可能でありながら、パンデミックによって課せられている現在の課題に対応できるような経済回復と成長プロセスにふさわしいものである必要がある。我々は、持続可能な方法で債務危機に終止符を打つという原則への完全なコミットメントに基づいて、我々の役割を果たしてきた。債権者が我々の制約を理解し、すべての当事者のためになる合意へと達するための我々の意欲を評価することを望む。」と述べた。またフェルナンデス大統領は、「これは我々が行うことができる最大の努力である。亜が債権者との約束を達成し、期限を延期された人々をこれ以上待たせないことを可能にする合意を行うとの約束を果たすために行った多大な努力である。」と語った。
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7日、税金・社会保険料の猶予に関する法案が下院に提出された。社会連帯生産再活性化法が定める納税義務の延期(猶予)をさらに延長する。大企業が徴税猶予を適用される場合は、今後2年間、配当金の支払いが出来なくなるほか、輸入決済目的を除き、公式為替市場(MULC)へのアクセスも認められない。
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7日、フェルナンデス大統領は「Argentina Hace」プログラムの一環として、建設部門再生のためのインフラ公共事業計画に22億7000万ペソを投入する計画を発表した。
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ニューヨーク南部裁判所のプレスカ判事は、亜に対し、2005年と2010年の債券交換に応じず2016年マクリ政権とも合意に至らなかったホールドアウト債権者(原告)2社への2億2420 万ドルの支払いを命じた。この賠償額については、亜側弁護団と原告の投資ファンドの最終的な合意で確認されたものであり、新たな上訴はない見込み。
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7日、IMFは、6日に公表された亜政府の民間債権者に対する新たな債務再編案を支持すると発表し、債券交換の実現に向けた「重要な一歩」だと述べた。
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8日、ブラックロック率いるアドホック債権者グループと、2005年と2010年の債券交換に応じた債権者から成るエクスチェンジ債権者グループは、亜政府による新たな債務再編案を「正しい方向への一歩」ではあるが承認できる水準ではないと表明し、これを拒否した。
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8日、政府はCOVID-19危機の緊急支援として、主にTarjeta Alimentar(食糧補助カード)の強化を含む「アルゼンチン飢餓対策」のためにラテンアメリカ開発銀行(CAF)から3億ドルの融資の承認を得たことを公表した。
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15日、フェルナンデス大統領は予算96億ペソ規模の「2019~2023年大学インフラ整備に向けた国家投資計画」の始動を発表し、「亜が強化すべき課題は公共教育だ」と述べた。
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政府は、最大価格商品(Precios Maximos)に対して最大+4.5%の引上げを、価格統制商品(Precios Cuidados)に対して最大+6%の引上げをそれぞれ認めた。
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16日、グスマン経済相は、総額480億ドルの国内法準拠債の再編法案を議会に提出した。外国法準拠債の再編提案に対する海外の民間債権者らの反応を待つ間、亜経済省は同様の条件に基づく国内法準拠債の再編法案を作成した。480億ドルのうち約55%を民間債権者が保有する。
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19日、フェルナンデス大統領は、ファイナンシャル・タイムズ紙のインタビューにおいて、「正直に言って、経済計画は信じない。」と述べ、マクロ経済計画の策定に否定的な立場を示したほか、民間債権者に対する新たな債務再編案の提示はないと明言した。
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20日、外国法準拠債における再編対象債務の3分の1以上を保有するアドホックグループ、エクスチェンジグループ、亜債権者委員会の3グループは共同声明を発表し、亜の再編提案を拒否した上で共同の対案(正味現在価値:1ドル当たり56.5セント程度。元本削減率:平均1%程度。平均金利:3.4%程度。利払開始:2021年7月。)を亜政府に提示したことを明らかにした。
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21日、 フェルナンデス大統領は、カウンシル・オブ・アメリカズにおいて、債権者らに対し、「亜政府は債務再編案の改善を行わない。これ以上の改善は不可能である。」と伝えた。
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全国のアグリビジネス部門の40企業団体が亜農産業評議会(CAA)を結成し、今後10年間で「年間1000億ドルの輸出、70万人の雇用(直接及び間接雇用)創出」を目標とする農産物輸出促進計画を発表した。
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22日、ソラー外相は、輸出促進のための官民評議会の立ち上げ式典を主宰した。同評議会は輸出促進政策を策定するための政府と企業の間の対話の場として機能し、約180の企業団体が参加する。
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24日、政府は、2020年補正予算案(2019年延長予算の補正予算案)を議会に提出した。補正予算案には、当初の2020年予算から+17%の歳入拡充と+34%の歳出拡大が含まれる。新型コロナウイルス対策により大幅に拡大した支出を年次予算に組み込むことを目的とする。基礎的財政収支は、前年比で+122%、1兆2000億ペソの赤字が見込まれる。2020年予算については、昨年12月の現政権の発足後すぐに2019年予算の延長によることが決定されていた。
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31日、フェルナンデス大統領は、穀物輸出企業ビセンティンへの介入(国家による経営管理)及び国有化を定める大統領令を廃止した。
2 経済指標の動向
(1)経済活動全般
6月の経済活動指数(INDEC発表)は、前年同月比12.3%減、前月比7.4%増となった。
(2)消費:自動車販売
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12月 |
1月 |
2月 |
3月 |
4月 |
5月 |
6月 |
7月 |
2020年計 |
台数 |
31,151 |
25,727 |
27,191 |
18,922 |
7,512 |
20,033 |
23,773 |
22,475 |
145,633 |
前年比 |
▲35.7% |
▲14.4% |
▲10.6% |
▲43.9% |
▲73,6% |
▲28.3% |
▲34.9% |
▲42.7% |
▲35.7% |
(参考)自動車輸出台数(自動車生産者協会(ADEFA)発表)
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12月 |
1月 |
2月 |
3月 |
4月 |
5月 |
6月 |
7月 |
2020年計 |
台数 |
18,965 |
8,691 |
18,115 |
13,928 |
2,386 |
3,227 |
6,875 |
9,612 |
62,834 |
前年比 |
▲17.4% |
17.4% |
▲6.8% |
▲33.9% |
▲88.4% |
▲85.2% |
▲60.5% |
▲51.7% |
▲50.8% |
(3)工業生産・建設活動
(ア)自動車生産
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12月 |
1月 |
2月 |
3月 |
4月 |
5月 |
6月 |
7月 |
2020年計 |
台数 |
14,524 |
20,683 |
26,133 |
19,164 |
0 |
4,802 |
15,657 |
21,316 |
107,755 |
前年比 |
▲29.1% |
39.7% |
▲20.0% |
▲34.4% |
▲100% |
▲84.1% |
▲34.5% |
▲1.5% |
▲41.1% |
(イ)工業生産
6月の工業生産指数(INDEC発表)は、前年同月比6.6%減となった。
(ウ)建設活動
6月の建設活動指数(INDEC発表)は、前年同月比14.8%減となった。
(4)物価
7月のCPI統計(INDEC発表インフレ率)は、前月比1.9%、前年同月比42.4%の上昇となった。
7月の卸売物価指数(INDEC発表)は、前月比3.5%、前年同月比44.5%の上昇となった。
(5)金融
(ア)EMBI+指数は、7月末には前月末比232ポイント減の2263ポイントとなった。
(イ)7月末の為替レートは、前月末比2.6%ペソ安の1ドル=72.32ペソであった。
(ウ)外貨準備高は、7月末には前月末比1億ドル増の433.9億ドルとなった。
(6)財政
(ア)財政収支
7月の財政収支(財務省発表)は、歳入が前年同月比39.5%増、一次歳出が同74.8%増となった結果、基礎的財政収支は1,555.2億ペソの赤字となった。また、総合収支は、1,890.9億ペソの赤字となった。
(イ)税収
7月の税収(財務省発表)は、前年同月比24.0%増の5,590.9億ペソとなった。
(7)貿易
7月の貿易(INDEC発表)は、輸出が前年同月比16.3%減の4,903 百万ドル、輸入が同30.1%減の3,427百万ドルとなった結果、貿易黒字は1,476百万ドルとなった。