経済情報
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2010年9月アルゼンチンの経済情勢

 

 

2010年10月作成
在アルゼンチン大使館

1 概要


(1)政府は、2011年予算法案を議会に提出した。また、政府は、マルコ・デル・ポント中銀総裁を続投させることを決定した。


(2)2010年第2四半期の実質GDPは、前年同期比11.8%増、前期比3.0%増となり、3期連続で前年同期比の伸びがプラスになるとともに、その伸び幅は1986年第3四半期に次いで史上2番目に高いものとなった。


(3)株価指数であるMerval指数は、海外主要株式市場における上昇、経済の好調、一次産品価格の上昇等を受けて、基本的に上昇基調で推移し、過去最高値を更新した。また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、デフォルト懸念の後退、亜国債の格付けの引き上げ、為替の安定等を受けた、海外からのペソ建て国債の買い注文の増加等により、月末にかけて下落した。
 外貨準備高は、引き続き、中銀が外貨の流入に対しドル買い介入を行った結果、増加を続け、過去最高水準を更新した。


(4)8月の消費及び生産は、引き続き好調であった。市場見通しでは10年の成長率は7.7%、11年は5.1%と予測されている。
 政府発表では、9月の消費者物価の伸びは前年同月比11.1%となり、引き続き高い水準となった。他方、民間においては、公式統計は引き続き実態を下回っているものと見られている。
 8月の財政収支は、税収の好調等を受けて、黒字幅は前年同月比403.8%増となり、総合収支も、2ヶ月連続で黒字となった。


(5)8月の貿易は、輸出が前年同月比47%増、輸入が同63%増となった結果、貿易黒字は同4%減となった。

 

2 経済の主な動き


(1)経済全般


 7日、マルコ・デル・ポント中央銀行総裁は、8月に修正した2010年通貨プログラムについて、上院において説明を行った。
 9日、国家農牧取引機構(ONCCA)は、2010/2011年のヒルトン枠の割当を決定した。
 14日、公共事業省エネルギー庁は、軽油のバイオディーゼル混合比率を、これまでの5%から7%に引き上げることを決定した。
 16日、レカルデ下院議員(ペロン党キルチネル派。労働総同盟(CGT)出身)らは、企業利益分配法案を下院に提出した。同法案では、企業利益(再投資に回す場合は、利益の50%まで控除可能)のうち10%を労働者に分配することとされている。これに対し、財界は、同法案を推進するより、非正規雇用者の正規化といった政策を進めるべきであるなどとして、強く反発した。
 23日、政府は、同日、マルコ・デル・ポント中銀総裁等の任期が切れることを受け、同総裁、ペッシェ副総裁及びファリアス理事を暫定的に続投させ、また、カルネロ氏(石油会社YPF社における政府代表取締役)を暫定的に理事に指名する政令を公布した。なお、中銀定款においては、中銀総裁等の就任に当たっては、上院による同意が必要であり、その同意が得られるまでの間、政府は暫定的に中銀総裁等の指名を行うことができるとされている。これにより、ボッコ理事、ビアゴッシュ理事及びオコネル理事は退任し、中銀理事会は、10人の枠に対し2名の欠員が出ることとなった。
 23日、政府は、ボッコ前中銀理事を世銀理事に任命した。
 29日、フェルナンデス大統領は、建国二百周年融資プログラムに関し、18社のプロジェクトに対する融資を決定した旨発表した。18社の合計融資額は1.92億ペソとされている。

 

(2)物価・賃金


 15日、金属労組(UOM)等は、自動車部品メーカーのパラナメタル社の従業員900人の雇用保障を求めて、全国各地で道路封鎖を行った。
 16日、銀行労組は、銀行労働者の所得を所得税の課税対象外とすることや賃上げ、銀行の警備強化等を求めて、ストライキを行った。
 22日、テチント・グループが所有する製鉄会社シデラル社とトラック運転手労組は、同社の下請会社で働く約4,000人のトラック運転手の同社による正規雇用等について合意した。
 27日、銀行業界と銀行労組は、賃上げ交渉を再開しないこと等で合意に至った。

 

(3)金融・財政


 13日、民間格付会社S&P社は、政府の財政状況に改善が見られるとして、亜国の外貨及び自国通貨建て長期ソブリン格付けを、それぞれ「B−」から「B」に引き上げた。なお、アウトルックは「安定的」とされた。
 15日、政府は、2011年予算法案を議会に提出した。2011年の実質GDP成長率は4.3%、インフレ率は8.4%、為替レート(平均レート)は1ドル=4.10ペソと見込まれている。また、2010年の一般行政部門の歳入は前年比18.3%増の3,745億ペソ、同歳出は同18.3%増の3,729億ペソ、中央政府全体の一次財政黒字はGDP比2.46%、一般行政部門のみでは同2.33%と見込まれている。歳出では、社会保障、教育・科学技術、保健及び経済社会インフラが重点分野とされている。なお、同法案には、11年に期限が到来する対民間債務の返済に充てるため、75.04億ドルを上限に、超過外貨準備を債務削減基金に移管することを認める条項が含まれている。野党は、主にインフレ率及びGDP成長率が過小に見積もられているとして、同法案を強く非難した。
 16日、ブドゥー経済相は、下院予算委員会において、2011年予算法案について説明を行った。同相は、同委員会及びその前後での記者とのやり取りにおいて、「この予算を以って、亜国は成長しつつけるだろう」と述べると共に、外貨準備の債務削減基金への移管について、「大変厳しい国際情勢の中で、亜国に確実性をもたらすものである」とした。また、インフレ率等に対する野党の非難について問われた同相は、「合理的で責任のある審議が行われることを期待する」、「(指標の見積に当たって)我々政府は、慎重でありたい」などと述べた。
 20日、政府は、金融機関との合意に基づき、支払等における金融機関の利用を促進する制度を発表した。市民は、一定規模以上の金融機関において、無料で普通口座を開設することが可能となるほか、振替手数料が引き下げられる。
 23日、訪米中のブドゥー経済相は、ニューヨークにおいて投資家らと会合を行った。その中で、銀行団側から、金利8.75%(5年物)での起債についてオファーがなされたとされている。
 24〜25日、フェルナンデス大統領は、ブドゥー経済相が受けたとされる金利8.75%での起債に係るオファーについて、「我々は関心がない。我々には債務返済を行う資金がある」と述べた。
 27日、ブエノスアイレス州は、550億ドルの起債を行った。起債条件は、金利11.75%、償還期限は5年とされている。

 

(4)対外関係


 8日、チリを訪問中のデビード公共事業大臣は、ライネリ・チリ・エネルギー相との間で、二国間エネルギー協定に署名した。同協定は、原子力、天然ガス、電力等の分野における二国間協力のほか、4つの二国間共同作業委員会(エネルギー取引作業委員会、電力統合作業委員会、燃料・バイオ燃料作業委員会及び原子力エネルギー作業委員会)の設置についても定めている。
 9日、訪伯中のジョルジ産業省は、メルコスール産業・開発相会合に出席したほか、ジョルジ伯開発商工相と会談した。
 12日、ドミンゲス農牧相は、訪亜中のパワール印農業相と会談し、貿易や植物検疫分野における協力等について協議したほか、農業分野及び農業関係分野における協力のための覚書に署名した。同会談後、パワール農業相は、インドによる亜産大豆油の輸入増加の見込みがある旨述べた。
 15日、ティメルマン外相及びジョルジ産業相は、それぞれ、訪亜中のデ・グフトEU貿易担当欧州委員と会談し、メルコスール・EU自由貿易協定交渉等について協議した。同会談後の記者会見において、デ・グフト委員は、「本年6月末、我々は、亜の食料品輸入制限措置を非難した。本日、我々は、同問題が解決されたと言えることに満足している」などと述べた。
 21日、米州開発銀行(IDB)理事会は、農業部門の生産性向上等のための対亜融資1.7億ドルを承認した。
 16日、訪韓中のデビード公共事業相は、崔Q煥(チェ・ギョンファン)韓国知識経済部長官とともに、亜における第4番目の原子力発電所建設計画推進等に関する、韓国電力公社(KEPCO)、亜原子力エネルギー会社(NASA)及び亜国家原子力委員会(CNEA)間の協力協定に署名した。また、デビード公共事業相は、Jun-Yeon Biun・KEPCO副社長と会談したほか、KEPCO施設を視察した。

 

3 経済指標の動向


(1)経済活動全般


 2010年第2四半期の実質GDP(INDEC発表)は、前年同期比11.8%増、前期比3.0%増となり、3期連続で前年同期比の伸びがプラスになるとともに、その伸び幅は1986年第3四半期(前年同期比12.6%増)に次いで史上2番目に高いものとなった。民間消費及び政府消費が引き続き高い伸び率で成長するとともに、設備投資や建設の大幅な回復を受けて、固定資本形成が前年同期比18.9%増となり、高成長に大きく寄与した。輸出も、引き続き大きく回復した一方で、輸入については、2期連続で同30%を超える伸びとなり、輸出の伸びを大きく上回った。GDPデフレーターは同12.8%増、民間消費デフレーターは同14.3%増となった。なお、民間においては、実質GDP成長率は、より低かったものと見られている。
 7月の経済活動指数(INDEC発表)は前年同月比8.1%増、前月比0.2%減と、引き続き前年同月比の伸びが大幅にプラスとなった。
 9月のREM(民間エコノミストの予測の中銀による集計値)の平均では、10年の実質GDP成長率は前月の予測より0.6ポイント上昇の7.7%、11年は同0.3ポイント上昇の5.1%と予測されている。

 

(2)消費


(ア)小売


 8月のショッピングセンター売上高(INDEC発表)は、前年同月比25.1%増、前月比1.6%減となり、8ヶ月連続で前年同月比の伸びが20%を超えた。スーパーマーケット売上高(INDEC発表)は、前年同月比18.2%増、前月比1.7%増となり、8ヶ月連続で前年同月比の伸びが2桁台となった。


(イ)自動車販売


 9月の自動車販売台数(自動車協会(ADEFA)発表)は、前年同月比50.1%増、前月比3.8%増と、前年に比べ、引き続き大幅に増加した。

 

(3)工業生産・建設活動


(ア)工業生産


 8月の工業生産指数(INDEC発表)は、前年同月比10.0%増、前月比2.0%増と、再び前年同月比の伸びが10%を超えた。分野別では、引き続き、自動車、基礎金属等において大幅な伸びが見られたほか、繊維、金属機械等も好調だった。なお、亜工業連盟(UIA)によると、8月の工業生産は、前年同月比15.9%増、前月比5.4%増となった。
 8月の稼働率(INDEC発表)は、前月比3.9ポイント上昇の79.1%となった。繊維、化学等の分野を除いて全体的に上昇が見られ、特に、基礎金属及び自動車は、それぞれ93.0%、84.1%と、高い水準となった。
 REMの平均では、10年の工業生産指数の上昇率は前月の予測より0.1ポイント上昇の前年比8.3%増と予測されている。


(イ)建設活動


 8月の建設活動指数(INDEC発表)は、前年同月比7.4%増、前月比2.0%増となり、引き続き好調であったものの、前年同月比の伸びは鈍化してきている。


(ウ)自動車生産


 9月の自動車生産台数(自動車協会発表)は、前年同月比37.8%増、前月比3.3%増と、前年に比べ、引き続き大幅に増加した。

 

(4)物価・雇用


(ア)物価


 9月の消費者物価指数(INDEC発表)は、前年同月比11.1%、前月比0.7%の上昇となり、引き続き高い水準となった。娯楽、教育、衣類及び家具・家庭用品において同1.0%を超える上昇が見られた。他方、民間においては、公式統計は引き続き実態を下回っているものと見られている。
 9月の卸売物価指数は、前年同月比15.1%、前月比0.9%の上昇となり、引き続き前年同月比の伸びが15%を超えた。
 REMの平均では、10年の消費者物価指数の上昇率は前月の予測より0.3ポイント下落の前年比12.9%と予測されている。


(イ)雇用・賃金等


 8月の給与指数(INDEC発表)は、前年同月比24.98%増、前月比2.46%増と、引き続き上昇幅が拡大した。民間正規雇用部門において、前月比3.02%と、引き続き高い伸びとなった。
 2010年上半期の貧困率(INDEC発表)は、前期比1.2ポイント減の12.0%、極貧率は、同0.4ポイント減の3.1%となった。なお、同指標の算出には消費者物価指数が用いられることから、その信憑性を疑問視する声もあり、貧困率及び極貧率は、より高かったとの指摘もある。
 REMの平均では、10年の給与指数の上昇率は前月の予測より1.34ポイント上昇の前年比25.24%増、10年の失業率は同0.2ポイント下落の7.9%と予測されている。

 

(5)金融


(ア)株価指数であるMerval指数は、海外主要株式市場における上昇、経済の好調、一次産品価格の上昇等を受けて、基本的に上昇基調で推移し、28日には2,651ポイントとなり、過去最高値を更新し、30日には前月末比307ポイント上昇の2,643ポイントとなった。
 また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、デフォルト懸念の後退、亜国債の格付けの引き上げ、為替の安定等を受けた、海外からのペソ建て国債の買い注文の増加等により、700ポイントを挟んで推移した後、月末にかけて下落し、30日には前月末比83ポイント下落の677ポイントとなった。


(イ)為替レートは、中銀による積極的なドル買い介入等により、引き続き安定して推移し、30日には前月末比1センターボ(0.3%)ペソ安の1ドル=3.96ペソとなった。コールレートは、月初にわずかに上昇した後、9.3%台で安定して推移し、30日には前月末比0.06ポイント上昇の9.31%となった。民間金融機関預金残高は、30日において、前年同月末比27.6%増、前月末比2.9%増の2,349億ペソとなった。対民間貸出残高は、30日、前年同月末比29.2%増と、引き続き伸び率が上昇し、2008年10月以来の高い伸びとなった。M2は、中銀のドル買い介入等により増加を続け、前月比23.8%増と、引き続き高い水準となった。外貨準備高は、引き続き、中銀が外貨の流入に対しドル買い介入を行った結果、増加を続け、23日には513億ドルとなり、過去最高水準を更新した。その後わずかに減少し、30日には前月末比8億ドル増の511億ドルとなった。
 REMの平均では、10年の為替レートは前月の予測より0.01ペソ高の1ドル=4.04ペソ、外貨準備高は同6億ドル増の521億ドルと予測されている。

 

(6)財政


(ア)財政収支


 8月の財政収支(経済省発表)は、歳入が税収の好調等を受けて前年同月比43.6%増となり、一次歳出が同35.6%増となった結果、一次財政黒字は同403.8%増の27億ペソとなった。また、総合収支は、23億ペソの黒字と、2ヶ月連続で黒字となった。なお、歳入には、国家社会保障機構(ANSES)が管理する持続性保証基金(FGS)の運用益約5億ペソが含まれているものと見られている。
 REMの平均では、10年の一次財政黒字は前月の予測より26億ペソ増の220億ペソと予測されている。


(イ)税収


 9月の税収(経済省発表)は、前年同月比35.9%増の356億ペソとなり、引き続き大幅に増加した。付加価値税収が同35.3%増の10,723百万ペソ、法人及び個人に係る所得税収が同34.7%増の5,744百万ペソ、輸出税収が同92.4%増の4,580百万ペソ、社会保障雇用主負担金が同29.0%増の4,630百万ペソとなった。なお、付加価値税収のうち、国内分については同30.9%増、税関分については同40.7%増となった。
 REMの平均では、10年の税収は前月の予測より6億ペソ増の4,000億ペソと予測されている。


(ハ)債務残高


 2010年第2四半期末の債務残高(経済省発表)は、前年末比96億ドル増の1,567億ドル、GDP比では前年末比0.2ポイント減の48.6%となった。債務削減基金創設のため中銀に対して発行された債券(42億ドル(ネット))、5〜6月に実施された残存民間債務に係る債券交換のうち前期申込分に対して発行された債券(41億ドル)等により、債務残高が増加した。なお、債権者の内訳は、亜国の公的機関49.8%、民間部門35.4%、国際機関等11.0%等となっている。

 

(7)貿易


 8月の貿易(INDEC発表)は、輸出が前年同月比47%増の6,369百万ドル、輸入が同63%増の5,315百万ドルとなった結果、貿易黒字は同4%減の1,054百万ドルとなった。輸出については、全分野において増加が見られ、特に一次産品については同116%増となった。大豆等油糧種子、自動車、大豆粕等食品工業くず、トウモロコシ等穀物、大豆油等食用油、石油等が増加した一方、天然ガス、牛肉等が減少した。輸入についても、全分野において増加が見られ、乗用車が同111%増となったほか、中間財、資本財向け部品及び資本財において同70%前後の増加が見られた。鉄鉱石、非合金鉄鋼、自動車用部品、無線受信機用部品、発電設備、商用車、ノートパソコン、乗用車、医薬品、液化天然ガス等が増加した。
 REMの平均では、10年の輸出は前月の予測より7億ドル増の670億ドル、輸入は同12億ドル増の538億ドルと予測されている(この場合、10年の貿易黒字は前年比22%減の132億ドルとなる)。

 

(8)国際収支


 2010年第2四半期の国際収支(INDEC発表)は、貿易収支が6,005百万ドルの黒字(前年同期比757百万ドルの黒字減)、所得収支が2,517百万ドルの赤字(同452百万ドルの赤字増)等となった結果、経常収支は3,097百万ドルの黒字(同1,541百万ドルの黒字減)と、再び黒字となった。また、資本収支は、民間部門等における資本逃避の沈静化、亜国への資金流入等を受けて、189百万ドルの黒字となり、2期連続で黒字となった。

 

 

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