アルゼンチン経済情勢(月1回更新)

令和2年6月4日

2020年1月の経済情勢

 

概要

(1)  フェルナンデス大統領は,(その後に)大規模債務が返済期限を迎えることを理由に3月31日を債務交渉期限に設定した。これに準ずる形で,亜経済省は29日,債務再編交渉の日程をプレスリリースにおいて発表し,2月12-14日のIMFミッション受け入れ,3月第2週の再編案提示を行うとした。

(2)  20日,発表された決議30/20によって,知識経済法の規定が無効化され,同産業部門対し1月1日から適用される予定であった税制上の優遇措置が無効化される。

(3)  24日,米国は,鉄鋼およびアルミニウムの輸入関税の25%引き上げ措置から亜を除外した。

 

 経済の主な動き(報道ぶり等)

  1. 12月27日,政府は,180日間は電気・ガス料金同様に,バス・電車などの交通料金の引き上げも実施しないと伝えた。「制度の包括的見直しを行うまでは現行のスキーム(料金表)を維持する。これは大統領の方針に準じている」と運輸省が伝えた。報道によれば,政府は同支出分を,年金制度の見直し,輸出税の引き上げ等により補う方針。

  2. 12月31日,格付会社のスタンダード&プアーズ社は亜債務の格付けを「選択的デフォルト」から「CC」に引き上げた。12月にフェルナンデス大統領がLetes(短期債)91億ドルの返済期限を3月31日から8月31日まで延長すると発表したことを受け,亜の信用格付けを「選択的デフォルト」に引き下げていたが,今回これを再び引き上げた。

  3. 2日,20191231日付けの決議5/2019号において,国債償還費用として充てるため,中銀向けにドル建て国庫債(10年債)を1326575829ドルまで発行したことを発表した。バストウレ金融長官,ラウル・リゴ財務長官が署名を行った決議は,12月承認された経済緊急事態法が経済省に対し中銀外貨準備高のうち457100万ドルまでの使用を認めていると明記している。

  4. 4日,政府は法令14/20号により民間部門労働者の1月の給与に3000 ペソ,2月の給与に1000ペソの賃金引き上げを行うこと発表した。これらの賃金引上げ分は次回労使協定の引き上げ分として計上される。3日,モロニ労働大臣は記者会見で,「脆弱層の賃金水準の回復を図ることが目的」と強調した。大統領府のプレスリリースによれば,「(民間部門の)130万人の労働者に対し同措置を適用することにより,2019年に損失した購買力を回復させることが可能。国内全体の約20%の労働者を対象にしている」としている。

  5. AFIPは,外貨建て債務支払いのための企業によるドル購入は30%の課税の対象にならないと発表した。社会連帯生産再活性化法にはこれに関する規定がなかった。

  6. 7日,インフレ対策の一つであるPrecios Cuidados(基礎価格プログラム)がスタート。象品目を食品,飲料,衛生用品,パーソナルケア用品などの必需品に絞り,前政権が設定した対象品目リスト(553品目)を縮小し,70品目が対象。大半が大手メーカーの商品。

  7. グスマン経済大臣は170億ペソ相当のLetes(短期国債)を発行し,期限を迎えた全てのLecap142億ペソ)の借換に成功した。落札の約3倍に及ぶ4662400万ペソの入札があったことにより,前回の入札からは利子は低下した。

  8. 8日,ブエノスアイレス州のキシロフ知事は増税法を可決した。増税は都市不動産,売上税,港湾税に限られて実施される。農村部の不動産税は増税の対象外。国会での修正に対して,マガリオ副知事は報道陣に対し「野党が法案の本来の精神を破壊した。野党の要請による変更で,州の歳入は100億ペソの減少を被る。100億ペソの歳入減は,教育機関・病院の増設計画の縮小,特に社会保障の縮小につながる」と警告し,その後キシロフ知事が「変更には納得がいかない。これらの変更はブエノスアイレス州の資金を縮小させ,寡占部門を優遇してしまう。それが野党の方針だ。野党が代弁し擁護する部門は前(野党)政権時から変わっていない。我々には彼らとは異なる優先事項がある。」とコメントした。当初案からの変更変更内容は以下のとおり。

  9. 「変革のために共に」党は港湾税の引き上げを批判し改正を要請した:積載1トンに対し46.50ペソ,荷卸1トンに対し139ペソ,通関1トンに対し23ペソと,当初与党が提示していた額の約半分まで引き下げた。

  10. 都市不動産税の+75%の引き上げの対象を当初の130万戸から60万戸に縮小する。不動産のうち僅か10%が75%の増税対象となる。年払いの場合は恩恵的に2019年の水準から最大+55%の増税で済む。

  11. 不動産税につき,最低年金受給者に対する免税,年払いに対し2025%の減税。

  12. 売上税率について,医薬品に対する税率は,法案提出時からの変更なく+1.5%の引き上げを実施。また,中小企業に対し非課税額を10.400.000ペソに固定する。

  13. 医薬品製造に対する売上税率を3.5%から1.5%に引き下げる。司法・公証・会計サービス税率を4.5%から3.5%に引き下げる。乳製品・卵・パン類の小売に対し売上税率を1.5%まで引き下げる。食品店,キオスコ,八百屋(果物屋)は販売利益が200万ペソを超えない場合に適用。

  14. 新車登録から10年以上経つ自動車に対する自動車税の請求権を自治体に付与する。自動車税の増額は,2019年の水準から+55%以下の増税に抑える。

  15. ブエノスアイレス州が増税法を承認したことを受け,他州も増税による歳入拡大で不況対策を進める方針。9日,メンドーサ州で増税法案が可決した。コルドバ州,サンタ・フェ州は既に承認済み。つまり国内で人口が最も多いこれら4州ではすでに増税法が承認されている。これらの州の増税法には,都市・農村部不動産税の引き上げが含まれている。

  16. 9日,IMFのアレハンドロ・ウェルネル西半球担当局長が「脆弱層を保護し」「過去数か月間の不安定な状況を安定化させる」ための政策を評価した。同氏は,亜政府によるこれらの措置が財政収支に悪影響を来たしていないことを強調する一方で,新政権発足から1カ月が経つが未だ中期的な計画は立てられていないと伝えた。

  17. 9日,前政権による非自動輸入ライセンス適用の1200品目に,新政府はさらに300品目を追加した。また,180日間から90日間へライセンスの有効期間を短縮する。これで輸入全体の約15%が政府の輸入規制下に置かれるとされている。今回非自動輸入ライセンスの対象に追加される品目に,一部の木製品,家電製品,電子機器,オートバイ,自動車,一部の自動車部品などが挙げられる。さらに繊維製品,玩具,履物ほかセンシティブ品目が追加される。

  18. 13日,フェルナンデス大統領は大規模債務が返済期限を迎えることを理由に3月31日を債務交渉期限に設定したと発表した。IMFに対する大型債務の返済は2021年後半期からであるため,まずは民間債権者相手の交渉を早急に行う。大統領はインタビューにおいて,ゲオルギエバIMF専務理事を革新的なヴィジョンの持ち主と評価した。

  19. 13日,C5Nによるインタビュー内で,フェルナンデス大統領は労働組合はトリガー条項を要請しないよう念押しした。大統領は「最大の過失の一つは経済の指数化(※ある数字(給与・年金歳出等)がインフレに応じて自動的に改定されることを指す)だとコメントした。さらに2019年ほぼ全ての労使交渉で適用されたトリガー条項がその例だと語った。「経済を非指数化すべきだ。価格や家賃の制度の見直しが必要であるように,トリガー条項無しの自由な労使協定を行うべき」と語った。大統領はまた,昨年のインフレ率を大きく下回る水準での適度な(緩やかな)賃金引上げを求めるよう示唆した。同時に,燃料・交通・公共サービス料金(引上げ)の凍結は,経済の非指数化のために連邦政府が実施した「努力」の一策だと強調した。

  20. 米国政府は正式に亜よりも先に伯のOECD加盟を支持する。米国外交代表は「米国は伯が次のOECD加盟国となるよう望んでいる」と伝えた。「伯のOECD加盟を優先させるという決定は,我々の責任上自然の成り行きであり,ポンペオ国務長官及びトランプ大統領がこれを支持している」「伯政府はOECD基準に沿うよう経済政策の調整を行っている」と声明において伝えている。米国代表は,伯政府が新自由主義者のゲデス経済大臣の指揮のもと,OECD基準に沿った経済改革の実施に向け「継続的な努力」を行っていると評価した。これに対し,亜外務省は,今回の米国による伯支持の決定は当然の決定であり,ボルソナーロ大統領は,初期からのトランプ大統領支持者であり,伯がその場所(OECD新規加盟の最優先国)の位置についたことは全くもって当然である。我々亜にとって,現時点ではOECD加盟は恩恵以上に厄介をもたらしうるとコメントしたことが報じられた。

  21. 16日,新たな外国資本の獲得を目的に亜政府は,事前に亜国内に外貨を持ってきた(投資を行った)企業に対しては利益配当に関する為替規制を緩和することを発表した。中銀が通達A6869を発令し規定した。海外に送金する利益配当金の金額は本年117日以降に海外から国内企業に新規直接投資され,為替市場で清算される(=ペソ転される)金額の30%を超えてはならないと定めている。言い換えれば,企業は投資した額の約3分の1(30%)までは(利益配当金送金のために)公式レートで外貨購入が可能。

  22. 16日,中銀は政権交代後4回目となるLeliq金利(政策金利)の下限の引き下げを実施した。政策金利を50%まで引き下げ(▲2ポイント),政権発足以来既に13ポイントの利下げを行った。

  23. 21日,中銀は(今までの)7日間のLELIQに加え14日間のLELIQを発行を開始。14日間のLELIQを優先的に発行する。今後,LELIQの入札は(今までの全営業日・一日2回から回数を大幅に減らし)毎火曜・木曜に1回ずつ行われる。また,中銀は満期1日のPases(注:Pasesは満期1日の中銀が発行する債券)の金利引き下げを決定した。同金利は常に政策金利(LELIQ金利)より低く,17日時点で年率43.75%(LELIQ金利は50%)。同金利を27日から政策金利の二分の一にすることを決定した。この引き下げにより,市中銀行にとってはLELIQへ回帰することがより魅力的になる。

  24. 20日,フェルナンデス政権はマクリ前政権が導入したテクノロジーを基盤に置くビジネスの奨励策の規定を廃止。発表された決議30/20によれば,知識経済法の規定が無効化され,知識経済促進制度加入への申請の分析・手続き期間が停止される。これをうけ,同産業部門(特にメルカド・リーブレやグローバントなどのテクノロジー企業)対し1月1日から適用される予定であった税制上の優遇措置が無効化される。同法は,知識経済促進制度に申請した企業に対し法人税の15%削減,二重課税の廃止(海外での源泉徴収分を法人税の支払い額から控除)を制定し,さらに同部門の労働コストを削減するほか,譲渡可能な税額控除債(非課税額に対する雇用者負担金の1.6倍に相当)を付与する。同クーポンはVATや法人税の支払いに活用できる。

  25. 22日,債権者の75%の合意を得られずキシロフブエノスアイレス州知事はデフォルトを回避するため昨日までの交渉期間を9日間延長。全

  26. 22日,政府は法令96/2020号によって,国内生産の競争活性化と促進のため,資本財の国内生産に対するインセンティブ制度を20201231日まで延長する決定を行った。同恩恵制度は,生産拡大を目的に20013月に法令379号として制定されたもの。機器全般,農業機器,道具,医療機器,都市利用向け車両・バスなの製造会社に対し税制上の手当を付与するもので,国税の支払いに充てられるほか,第3者への送金も可能。同措置は船舶製造部門および炭化水素生産者や発電会社に資本財を供給するサプライヤーに対しても適用される。

  27. 24日,米国は,鉄鋼およびアルミニウムの輸入関税+25%引き上げ措置から亜を除外した。米国 は,柵,釘,車体をはじめとする鉄鋼・アルミニウムのデリバティブ製品の輸入に対する10%,25%の関税対象から亜を除外した。 同日,ソラー外相がラジオのインタビューで,「今しがた大統領府へ通達があり,今回亜は良い意味で横に置かれた(除外された)」と語った。亜鉄鋼会議所によると,今回の関税引き上げ免除により恩恵を受ける企業はアルミ製造会社のAluar社,テチントグループ傘下にある鉄鋼会社のテナリス-シデルカ社とテルニウム社,そしてGerdau社。これらの企業だけで海外に年間15億ドル相当を輸出している。オーストラリア,伯,カナダ,メキシコ,韓国とともに亜の鉄鋼デリバティブ製品が追加輸入関税から除外された。アルミ製品に関してはオーストラリア,カナダ,メキシコとともに追加関税の適用除外となった。

  28. 27日,官報で決議17号にて,対IMF交渉技術サポートユニットの始動が発表された。対IMF関係における戦略の策定・実行に関連する課題についてアドバイスを行うユニットであり,20211231日に解散する予定。或いは,解散期限日前に同ユニット設立の目的を達成した場合は,その時点で解散となる。同ユニットを率いるのは経済学者(修士)のエミリアノ・リブマン氏 で,規定に従い,次官の職位が与えられる。同ユニットは対IMF関係に向けた戦略を策定し,IMFとの交渉をリードするための提案を行う。

  29. 28日,グスマン経済相はニューヨークの亜領事館で,ルイス・クベドゥ(亜融資ケース担当)ミッション団長のおよびジュリー・コザック西半球担当次官と会合を行った。なお,亜経済省は29日付けプレスリリースで2月12から14日のIMFミッション受け入れを公表した。3月第2週に再編案を債権者に対して提示するとしている。

  30. 29日,下院は,前マクリ政権が州知事らと合意した売上税などの州税の段階的削減を含む2019年財政合意の停止を承認した。賛成157票,反対54票,棄権7票。

  31. 30日,中銀は第5回目の利下げを実施,政策金利(の下限)は48%となった。中銀理事会はLeliq金利(の下限)を50%から48%まで2ポイント引き下げることを正式に承認した。中銀はプレスリリースの中で今回の利下げ決定について,「経済の劣悪な現状を考慮したうえでの決定。経済回復のための金利の道筋を定めるためのもの」と説明している。

     

  32. 30日,政府は法令118号を発令し,国内の燃料税の引き上げを先送りした。石油会社に対しガソリン及び軽油価格の凍結を維持するよう求めた形。2月上旬に予定されていた液体燃料税と二酸化炭素税の引き上げを3月1日まで延期した。当初,ガソリン1リットルにつき+0.36ペソの引き上げを(2月に)実施し,3月にさらに+1.34ペソの引き上げを規定していたが,これが中止となった。   (了)