アルゼンチン経済情勢(月1回更新)
2020年5月の経済情勢
<概要>
(1)22日、政府は返済猶予期限を迎えた5億300万ドルの債務を支払わずデフォルト期間に突入したものの、債権者との債務再編交渉は継続。
(2)28日、中銀は通達A7030を発令し、外貨準備高の減少をうけ対外資産のある企業に対してはドル販売を行わない方針を発表した。
1 経済の主な動き(報道ぶり等)
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1日、農産業部門の代表らは、ソラー外相に意見書を提出し、政府によるメルコスールの域外交渉からの離脱決定に対し懸念を表明した。意見書には「パンデミックと世界的な不況を受け、一部の交渉に支障が生じていることは理解できるが、亜はメルコスールの全交渉への再参加を迅速に行うべきだ」と記されている。
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1日、キシロフ・ブエノスアイレス州知事は1億1000万ドルの元本を償還せず、猶予期間に突入した。デフォルト回避のための返済期限延長に向けた交渉を今後行う。
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2日、グスマン経済大臣「クラリン」紙インタビュー:「ペソで預金できるように市場を修復する必要がある」:「公式レートと非公式レートの間のスプレッドを注視する必要がある」「亜がドル建てで債務を抱えることは止めるべきだ」と述べ、ペソ建ての安全なツールを開発する必要性を強調した。民間債権者に対して提示した債務再編案を擁護した。話し合いが進められていると述べ、5月8日に合意に至らない場合は引き続き交渉を続けると述べた。「パンデミックが収束した後の成長の可能性に期待している」と語った。
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中銀は通達A7001号を発表し、通称ruloとして知られる金融操作(レートの違いを利用した裁定取引)を阻止するための為替規制を強化した。過去1カ月以内に証券市場で為替取引を行った場合、つまりMEPレート或いはCCPレートを利用した証券取引を行った場合、その企業に対し銀行におけるドル購入を禁じる。個人・法人だけでなく、銀行で1か月に限度額200ドルのドル購入を行った個人預金者に対しても適用される。これにともない銀行は全顧客に対し、「取引当日から数えて過去30日間はドル建て債券の売却も海外送金も行っておらず、30日間はこれらの金融操作(rulo)を行わない」とする宣誓供述書の提出を要請する。
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5日、ラテンアメリカ開発銀行から40億ドルの資金を調達した。フェルナンデス大統領はオリーボスの大統領公邸からラテンアメリカ開発銀行のカランサ・ウガルテ総裁とビデオ会議を行った。同総裁はその中で亜に対し社会政策の促進、経済の活性化を目的とした40億ドルの新型コロナウイルス対策緊急融資(返済期間4年間)を行うと伝えた。
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5日、亜は他のメルコスール加盟国に対し文書を提出し、亜は現在進行中の全ての自由貿易協定交渉に参加するが、輸入品部門に貿易保護を設ける、つまり必要に応じ進展を遅らせる方針を伝えた。政府筋によると亜はメルコスールのFTA交渉に引き続き参加するが、特に対韓国交渉に関しては、財(の輸入)について別の「方式」を模索しなければならないであろうとのことである。同文書には「韓国のセンシビリティ(脅威)はエレクトロニクスと自動車産業、カナダに関してはサービス部門を注視する必要がある。シンガポールは大半が関税率ゼロであるために関税上の問題はないが、中国や他のアジア諸国とのバリューチェーンの関連性について分析する必要がある。印との交渉は特に繊維部門、医薬品部門で非常に複雑である」 と記されている。
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5日、ソラー外務大臣は、亜農産業セクターの30近くの団体の代表者とテレビ会議を行った。外務大臣と農産業団体の幹部は、これまでの外務省と(農産業セクターと)の継続的な対話と同様、メルコスール強化の重要性と、重要な(海外)市場(との関係・アクセス)の強化に向けて前進することで一致した。また、同大臣は、地域統合を強化すると共に国内産業及び雇用を保護するという亜政府の意志を表明した。さらに、対外交渉アジェンダは、(新型コロナウイルスの)パンデミックと国内経済の状況を常に考慮しながら進めていくというのが亜の立場だと説明した。
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5日、政府は経済見通しを公表。新型コロナウイルス危機により2020年の経済は6.5%の落ち込み(2002年以降最悪)。基礎的財政収支は、2020年▲3.1%(対GDP比)、2021年▲1%、2024年に黒字化が見込まれている。
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7日、政府は緊急労働生産支援プログラム(ATP)の拡大を決定。4月の給与支払い支援において、商業部門、工業部門の支援対象を拡大するほか、従業員数が800人以上の民間企業にまで対象を拡大する。新型コロナウイルス対策の強制隔離政策の延長が、経済と企業部門に深刻な影響を及ぼしていることが要因。
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7日、メルコスール関係者会議(テレビ会議)が新たに開催された、亜政府は、メルコスールが国内生産及び雇用を考慮しながら合同で通商交渉を進めるための提案を正式に提出した。ネメ外務副大臣は、メルコスールは、世界、投資フロー、技術移転及びグローバル市場とつながっているべきだが、同時に域内のセンシティブ部門、雇用及び付加価値創出を保護するべきだと強調し、さらに産業構造を海外の競争に晒してしまうよう軽々しい開放であってはならないと述べた。
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7日、政府は米州開発銀行(IDB)から支援表明を受けた。IDBは、COVID-19危機に伴う国内の社会・衛生上の打撃を軽減させるために、今年亜に対し18億ドルという過去最大の支援を支払う予定。
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8日、政府が提示した再編案に対する、債権者の承認の割合について公開することなく当初の債務交渉期限を迎えた。市場筋から伝わる情報によると、同割合は政府の期待を大きく下回った。その後、10日付官報において決議221/20号を発表し、債権者相手の交渉期限を22日まで延長した。11日、米国証券取引委員会に対し、25日に債券交換の結果を発表すると通達した。
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10日、予算の変更(今日の官報で緊急大統領令457/20号として発表)として、政府は支出の4980億ペソの拡充を決定した。ANSESに対する新資金の配分が最も大きい。政府が既に発表した一連の緊急家族手当(IFE)や緊急融資制度等の新型コロナウイルス対策措置が今回の支出拡大の理由。また、同法令によりカフィエロ官房長官には、新型コロナウイルス対策緊急支援を目的に、法定されている(予算の)上限を上回る支出を行うために、必要に応じていつでも予算配分を変更できる権限が与えられる。さらに、連邦情報機関(AFI)の通常機能の維持に充てられる資金に余剰が発生した場合、その超過分を栄養・教育・保健政策に再配分することが可能となる。
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11日、大統領はC5Nのインタビューで「亜が今後支払いを履行できると我々が考える水準がこれ(亜政府提示の再編案)だ。カウンターオファーがどのようなものなのかわからない。カウンターオファーがあるなら、どのようなものか分析する。国家をデフォルトに陥れさせたいと言うほど愚鈍ではない。また、履行できない支払い義務を約束するほど無責任でもない」と語った。
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12日、ブエノスアイレス州の産業部門180社以上の活動再開が許可。対象は従業員数が2万3000人以上の企業だが、シフトを削減しての再開のため、生産工場で就業するのは約9000人に止まる模様。
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13日、政府は官報で行政決議765/2020号を発表し、フェルナンデス大統領の強制隔離期間延長決定を受け、緊急労働生産支援プログラム(ATP)を5月も実施することを決定した。
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14日、大統領は75万人の新規雇用創出を目的とした連邦政策「Argentina Construye」の発表を行った。同計画により75万4734ポストの創出を見込み(34万3236人の直接雇用、41万1498人の間接雇用)、今年は289億9200万ペソを投資予定。住宅5500戸の建設、4万2900戸の改修、建材購入のためのマイクロクレジット20万4000件、全国に保健所1250カ所の設置を見込む。これら事業の担当は国土開発・居住開発省で、州政府、中小企業、協同組合、労組、共済、独立労働者との連携により進める。
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14日、ネメ外務副大臣 (国際経済関係担当)は、「アルゼンチン政府は過去から受け継いできた対外債務の正常化を目指す」と伝え、債務再編に向けてIMFの支援を受けたと強調した。「IMFが現在の条件下での債務の持続は不可能だと認識している。債権者らからも同様の理解を受けられることを願っている。我々はアルゼンチン経済の正常化を望んでおり、社会と生産を保護するために持続可能な方法で我々のコミットメントを履行していきたい」と述べた。
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ブエノスアイレス州は、1日の債務返済期限が過ぎ債権者らへ返済を行わないまま10日間の支払猶予期間も終了させたため、テクニカルデフォルトに陥った。これに伴いキシロフ知事は交渉期間を26日まで延長させた。
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15日、AFIPは大企業に対する規制を見直し、特にこれら企業の外貨の動きを監視する決定を下した。15日官報でデル・ポントAFIP総裁が署名した一般決議4717/20号が発表された。大規模納税者(大企業)の(グループ内の)移転価格におけるマージンを制限するメカニズムにより、国際取引の管理・監査のための手段を強化する。
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中銀は、大豆生産者らに大豆の販売を義務付ける(=備蓄を禁じる)ため、新型コロナウイルス危機対策として提供中の金利24%の銀行融資へのアクセスを制限する決定を下した。中銀は決議を発令し、農業に従事する個人・法人で、小麦・大豆の年間収穫能力の5%以上を備蓄する者に対し金融機関の融資を禁じた。同決議は、生産者に、同金利の融資にアクセスする代わりに穀物販売により資金調達させる(=外貨を流入させる)ことを目的とするものとされる。
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15日、グスマン経済相はニューヨークの対外問題評議会を前にバーチャルカンファレンスで、「アルゼンチンは投資家らとの間に健全で持続可能な関係」を望んでいると伝え、デフォルト回避のため合意を望む債権者らによるカウンターオファーを分析する準備は整っていると述べた。その後、経済省は、政府は債券交換に向けた3つのカウンターオファーを受け取ったと発表した。
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18日、政府は、固定・携帯電話、インターネット、ケーブルテレビのサービス料金の凍結を8月31日まで維持すると発表した。
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19日、政府は緊急大統領令487/2020号を発令し、正当な理由のない解雇または仕事の減少や不可抗力による解雇を禁じた。大統領令329/20号が定める解雇禁止令の有効期限からさらに60日間同禁止令を延長した。また、同様の理由による一時解雇もさらに60日間禁じた。
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19日、政府は大統領令488/2020号を発令し、12月31日まで国内生産の原油価格(固定)を1バレル当たり45ドルに設定した。
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19日、政府は決議818/20号を発表し、ブ州の、特にサラテ、ピラール、サン・マルティン、トレス・デ・フェブレロの自動車・自動車部品工場など一部を対象に強制隔離措置及び行動規制の例外(一部緩和)を定めた。
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19日、ソラー外相は農牧団体と面会し、「メルコスールが分裂したことはなかったし、していない」と強調した。また、域外の圏・諸国とメルコスールの間の新たな自由貿易協定がもたらし得る影響分析をさらに深長に行うための基準を説明した。また同大臣は「衛生協定がいつまでたっても実現されないことを不安視している。それゆえメルコスール加盟国には我々の生産物のアクセスについて話し合う必要があると伝えている」と述べた。
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21日、AFIPは官報にて一般決議4721/20号を発表し、宣誓供述書の提出、所得税、個人財産税、投資所得課税(renta financiera)の納付期限を7月末まで先延ばした。
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21日、政府は債務再編交渉の期限を6月2日ニューヨーク時間午後5時まで延長すると発表した。
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22日、政府は返済猶予期限を迎えた5億300万ドルの債務を支払わず、デフォルト期間に突入した。市場は、(返済義務を履行すると見込まれていたが)アルゼンチン政府が一部の返済義務を履行しなかったことから、「選択的デフォルト」と見なしているが、政府は、債権者らとの対話の進展からこれを「ソフトデフォルト」と定義した。
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22日、生産開発省の通商政策管理事務局(Subsecretaría de Política y Gestión Comercial)が官報で9/2020号を発表した。政府は、生産と雇用の保護を目的とし、特定の電気製品・照明製品、化学・石油化学製品、火薬・爆発物、防弾チョッキ、機械・道具などの輸入に対し事前許可の取得を義務付ける。
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25日、国家証券取引委員会は、証券市場におけるドル購入にさらなる規制を課すため、26日以降、国内外に外貨建て債券を売り出す場合は5営業日の(購入後の)待機を義務付けた。市場の著しい変動をうけこの5日間に大幅な損失を被る懸念があることから、同規制によりMEPドル、CCLドルの購入を妨げることを目的としている。
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26日、フェルナンデス大統領とキシロフ・ブ州知事は、インフラ事業「Argentina Hace計画」新たなステップとしてブエノスアイレス市郊外の公共事業計画に200億ペソの資金投入を発表した。8700人の雇用創出を見込む。
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米国政府はアルゼンチン産バイオディーゼルに対する高水準の輸入関税を維持する決定を下した。アルゼンチンは、国産バイオディーゼルに対して米国が2018年に賦課した74%までの輸入関税の軽減を求め米国と対立していた。
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28日、グスマン経済大臣は、債務再編交渉について、債権者グループのうちの一つと「大きな歩み寄り」があったことを明らかにした。一方で、合意に達するために「進むべき道はまだ長い」とも述べた。同大臣は、「アルゼンチンを守ることができるような合意に近づくためのいくつかの条件(términos de referencia)」を(債権者側に)提示したと述べた。また、「アドホック債権者グループは、彼らの前回のオファーから正しい方向に前進したが、前進した距離は短く、アルゼンチンの必要性からすると不十分だった。我々は、現時点で、我が国が直面する制限(からして受け入れ可能なライン)から最も遠い姿勢にある同グループの債権者達と、今後も折衝を続けたい。(同グループ以外の)債権者の一部とはより大幅な歩み寄りができたが、まだ秘密保持契約の有効期間中なので、これについて話すことはできない。」と述べた。
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28日、中銀は通達A7030を発令し、外貨準備高の減少をうけ対外資産のある企業に対してはドル売りを行わない方針を発表した。対外資産の形成により流動資産を保持する企業が対外債務を返済する場合に、まずこれらの対外資産を原資に支払いを行うよう義務付ける。この義務化にあたり、宣誓供述書の提出が求められ、支払い取引フォローシステム(SEPAIMPO)及び為替取引情報制度(RIOC)データのクロスチェックによりその遵守状況が確認される。つまり中銀は、対外資産を保有するとみなされる企業に対しては輸入代金の支払いのために必要な外貨を販売しない。
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29日、中銀のペッセ総裁はブルームバーグのインタビューで、政府と債権者の間で市場が好感するような合意に至った場合、早くも6月30日には為替規制を軽減(緩和)する計画があると言及した。「債務交渉が解決し、(為替)市場を開放出来るよう期待している」「交渉が成功した場合、市場がどう反応するかを確認する必要がある」 と述べた。
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AFIPは中小企業2万5000社以上に対し輸出税の納税期限を延長し、税金・社会保険料の滞納がある中小企業にも同恩恵措置の適用を許可した。
2 経済指標の動向
(1)経済活動全般
4月の経済活動指数(INDEC発表)は、前年同月比26.4%減、前月比17.5%減となった。
(2)消費:自動車販売
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10月 |
11月 |
12月 |
1月 |
2月 |
3月 |
4月 |
5月 |
2020年計 |
台数 |
27,204 |
22,900 |
31,151 |
25,727 |
27,191 |
18,922 |
7,512 |
20,033 |
99,385 |
前年比 |
▲26.9% |
▲30.8% |
▲35.7% |
▲14.4% |
▲10.6% |
▲43.9% |
▲73,6% |
▲28.3% |
▲34.0% |
(参考)自動車輸出台数(自動車生産者協会(ADEFA)発表)
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10月 |
11月 |
12月 |
1月 |
2月 |
3月 |
4月 |
5月 |
2020年計 |
台数 |
19,339 |
17,921 |
18,965 |
8,691 |
18,115 |
13,928 |
2,386 |
3,227 |
46,347 |
前年比 |
▲12.2% |
▲31.2% |
▲17.4% |
17.4% |
▲6.8% |
▲33.9% |
▲88.4% |
▲85.2% |
▲48.7% |
(3)工業生産・建設活動
(ア)自動車生産
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10月 |
11月 |
12月 |
1月 |
2月 |
3月 |
4月 |
5月 |
2020年計 |
台数 |
31,834 |
27,099 |
14,524 |
20,683 |
26,133 |
19,164 |
0 |
4,802 |
70,782 |
前年比 |
▲17.7% |
▲26.4% |
▲29.1% |
39.7% |
▲20.0% |
▲34.4% |
▲100% |
▲84.1% |
▲48.4% |
(イ)工業生産
4月の工業生産指数(INDEC発表)は、前年同月比33.4%減となった。
(ウ)建設活動
4月の建設活動指数(INDEC発表)は、前年同月比76.2%減となった。
(4)物価
5月のCPI統計(INDEC発表インフレ率)は、前月比1.5%、前年同月比43.4%の上昇となった。
5月の卸売物価指数(INDEC発表)は、前月比0.4%、前年同月比37.0%の上昇となった。
(5)金融
(ア)EMBI+指数は、5月末には前月末比845ポイント減の2627ポイントとなった。
(イ)5月末の為替レートは、前月末比2.5%ペソ安の1ドル=68.54ペソであった。
(ウ)外貨準備高は、5月末には前月末比10億ドル減の425.9億ドルとなった。
(6)財政
(ア)財政収支
5月の財政収支(財務省発表)は、歳入が前年同月比53.9%増、一次歳出が同133.2%増となった結果、基礎的財政収支は2,512.9億ペソの赤字となった。また、総合収支は、3,082.2億ペソの赤字となった。
(イ)税収
5月の税収(財務省発表)は、前年同月比12.4%増の4,995.4億ペソとなった。
(7)貿易
5月の貿易(INDEC発表)は、輸出が前年同月比16.3%減の5,061 百万ドル、輸入が同31.8%減の3,168百万ドルとなった結果、貿易黒字は1,893百万ドルとなった。