1.概要
(1)外貨準備を用いた「債務削減及び安定性のための建国二百周年基金」の創設を巡り、政府とレドラド中銀総裁が対立した。政府が緊急大統領令によって同総裁を解任しようとした一方で、司法は同総裁を復職させるとの仮処分を行ったほか、議会が同総裁の進退について審議を開始した。レドラド総裁は、同審議の後、辞任を表明した。
(2)株価指数であるMerval指数は、月初に、2007年10月に記録した過去最高値を更新したものの、中銀総裁解任問題や、米国の金融規制案発表等を受けた海外主要株式市場の下落等により、月末にかけて下落した。また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、中銀総裁解任問題や米連邦判事による中銀資産の凍結処分等を受けて、上昇した。
(3)12月の消費及び生産については、引き続き回復の動きが見られた。市場見通しでは09年の成長率は▲0.1%、10年は3.5%と予測されている。
政府発表では、1月の消費者物価の伸びは8.2%と上昇幅の拡大が見られたが、民間の推計においても上昇幅の大幅な拡大が見られ、公式統計は依然として実態を下回っていると見られている。
12月の財政収支は、歳入が大幅に伸びたことを受けて、黒字となったものの、総合収支は、再び赤字に転落した。2009年年間では、歳入が前年比18.4%、一次歳出が同27.4%それぞれ増加し、一次財政黒字は同46.9%減の173億ペソとなった。
(4)12月の貿易は、輸出が前年同月比17%増、輸入が同4%増となった結果、貿易黒字は同80%増となった。2009年年間では、輸出が前年比20%減、輸入が同32%減となった結果、貿易黒字は同35%増となり、過去最高を記録した。
2.経済の主な動き
(1)経済全般
6日、フェルナンデス大統領は、フェルナンデス首相を通じて、レドラド中銀総裁に対し、外貨準備の「債務削減及び安定性のための建国二百周年基金」(以下、基金)への移管を拒否していること等を理由に辞任するよう要請した。これに対し、同総裁は、辞任要請を拒否し、議会が自らの進退を決定するまでは続投するとした。他方、ブドゥー経済相は、総裁の後任候補としてブレヘル元中銀総裁を挙げた。
7日、フェルナンデス大統領は、緊急大統領令を発出し、業績不良及び公務員の義務の不履行を理由に、レドラド中銀総裁を解任した。同大統領令においては、中銀定款の規定(政府が総裁等に解任を命じる際には、議会の両院特別委員会による事前の助言が必要であるとする規定)は本件には適用されないとし、更に、訟務長官に対し、レドラド総裁を司法当局に告発するよう命じた。
8日、レドラド中銀総裁は、総裁解任に係る緊急大統領令は違憲であり、無効であるとして、保護請求訴訟を行った。
8日、サルミエント連邦判事(行政訴訟担当)は、市民連合等野党による保護請求訴訟に対し、議会が基金創設のための緊急大統領令について判断するまで、同緊急大統領令を凍結し、外貨準備を基金に用いることを差し止める仮処分を行った。また、レドラド中銀総裁による保護請求訴訟に対し、総裁解任に係る緊急大統領令を凍結し、同総裁を復職させるとの仮処分を行った。これに対し、政府は、これら2つの判決について控訴した。
11日、フェルナンデス大統領は、中小小麦生産者に対する利子補給制度の設置等の小麦支援策を発表した。
12日、主要農牧4団体は集会を開き、政府の小麦支援策は不十分である旨抗議するとともに、小麦の輸出自由化、輸出登録制度の廃止、中小生産者に対する輸出課徴金の還付、小麦取引の正常化を要求した。また、これらの問題に対して、政府から解決策が示されなければ、抗議活動等の強硬手段も辞さない旨警告した。
12日、米ニューヨークのGriesa連邦判事は、残存民間債権者からの請求に基づき、亜中銀がニューヨーク連銀に保有する資金170万ドルの凍結を命じた。
13日、ドミンゲス農牧・漁業大臣は、主要農牧団体及び小麦協会代表と会談し、製粉会社による小麦150万トンの即時買付、小麦25万トンの輸出許可(両措置は中小生産者優先)、1月に返済期限が到来する融資の6ヶ月延長等で合意した。
15日、米ニューヨークのGriesa連邦判事は、亜中銀がニューヨーク連銀に保有する資金170万ドルについて、凍結命令を解除した。
22日、行政高等裁判所は、基金創設のための緊急大統領令及び中銀総裁解任に係る緊急大統領令について、以下のとおり判決を下した。(ア)前者ついては、議会に諮ることなく緊急大統領令によって基金が創設されることを正当化する特段の理由はないとし、一審における判決を支持した。これにより、政府は、引き続き基金を創設できないこととなった。(イ)後者については、レドラド中銀総裁の進退は、議会と行政府により解決されるべきであるとし、中銀総裁の解任に当たっては、事前に議会の両院特別委員会の助言を得なくてはならないとのプロセスが遵守されるまで、政府は後任の中銀総裁を任命してはならないとした。この(イ)の判決の解釈を巡り、レドラド中銀総裁と政府が再び対立した。
22日、中銀理事会が、政府の意向に沿う形で開催され、ペッシェ中銀副総裁が総裁職を代行することが決定されたほか、レドラド中銀総裁が中銀に立ち入ることを禁止する命令が採択された。
26〜28日、議会の両院特別委員会が開催され、レドラド中銀総裁の進退について審議が行われた。レドラド総裁のほか、ブドゥー経済相、ペッシェ中銀副総裁及びググリエルミノ訟務長官が証言を行った。
29日、レドラド中銀総裁は、記者会見を開き、「より多くの安定を亜国にもたらすための憲法上の全てのプロセスを既にやり遂げた」などとして、総裁職を辞任する旨表明した。これに対し、フェルナンデス首相は、レドラド総裁の「辞任はない」とし、フェルナンデス大統領は、辞表を受け取らないだろうと述べた。また、同首相は、議会の両院特別委員会による助言が発出された後、通常の政令により同総裁を解任する旨述べた。
(2)物価・賃金
22日、国家競争保護委員会(CNDC)は、ケーブルテレビ会社による視聴料金の値上げについて、カルテルの兆候又は競争保護法違反の可能性があるとして、60日間値上げを停止する仮処分を行った。
27日、政府と豚肉生産者協会(AAPP)は、8種類の豚肉の部位について価格協定を結んだ。
(3)金融・財政
15日、米国証券取引委員会(SEC)は、債券交換に係る提出書類について所見を発出した。
28日、政府は、米国証券取引委員会に対し、債券交換に係る提出書類の訂正版を提出した。
28日、政府は、ローマにおいて、伊経済財政省、伊証券取引委員会(Consob)、伊残存債権者らと会談を行うとともに、ロンドンにおいても、機関投資家らと会談を行った。
(4)対外関係
14日、ブドゥー経済相は、中国石油集団及びペトロチャイナの関係者と会談した。
15日、日本において、第22回日亜経済合同委員会が開催された。訪日中のタイアナ外相が演説を行い、日亜関係強化の必要性等について述べたほか、亜から、メンデス亜工業連盟(UIA)、エウルネキアン亜商工会議所(CAC)副会頭ら30名以上の企業関係者が出席した。
25〜28日、タイアナ外相は、フェルナンデス大統領による中国訪問延期決定を受け、大統領に代わり訪中し、王・中国外交部長代行(外交部副部長)のほか、中国企業関係者、上海万博関係者らと会談を行った。
3.経済指標の動向
(1)経済活動全般
11月の経済活動指数(INDEC発表)は前年同月比2.2%増、前月比0.5%増と、4ヶ月連続で前年同月比の伸びがプラスとなった。
1月のREM(民間エコノミストの予測の中銀による集計値)の平均では、09年の実質GDP成長率は前月の予測と同じ▲0.1%、10年は同0.2ポイント上昇の3.5%と予測されている。
(2)消費
(イ)小売
12月のショッピングセンター売上高(INDEC発表)は、前年同月比17.3%増、前月比1.1%増と、4ヶ月連続で前年同月比の伸びが2桁台となった。なお、ショッピングセンターにおける2009年の価格上昇率は、5.0%の上昇となった。スーパーマーケット売上高(INDEC発表)は、前年同月比9.3%増、前月比0.4%減となった。なお、スーパーマーケットにおける2009年の価格上昇率は、6.1%の上昇となった。
(ロ)自動車販売
自動車協会(ADEFA)が発表した1月の自動車販売台数は、前年同月比48.5%増、前月比11.6%増と、堅調であった。
(3)工業生産・建設活動
(イ)工業生産
12月の工業生産指数(INDEC発表)は、前年同月比9.7%増、前月比6.2%増となり、回復の動きが見られた。分野別では、自動車を初め、基礎金属、プラスチック等において大幅な伸びが見られた。2009年年間では、前年比0.4%増となり、食品や化学においてプラスとなった一方、自動車や基礎金属は2桁を超えるマイナスとなった。なお、亜工業連盟(UIA)によると、12月の工業生産は、前年同月比13.1%増、前月比6.5%増となり、2009年年間では前年比5.9%減となった。
12月の稼働率(INDEC発表)は、前月に比べ1.5ポイント上昇し、80.7%となり、2002年以降で初めて80%を超えた。飲食料品、自動車等において下落が見られた一方で、化学、プラスチック、基礎金属等が上昇し、特に、化学及び基礎金属については、90%を超える水準となった。
(ロ)建設活動
12月の建設活動指数(INDEC発表)は、前年同月比3.3%増、前月比0.9%減と、前年同月比の伸びが3ヶ月連続でプラスとなった。2009年年間では、前年比1.6%減となった。
(ハ)自動車生産
自動車協会が発表した1月の自動車生産台数は、前年同月比68.5%増、前月比40.5%減と、国内販売や伯向け輸出の回復を受けて、前年と比べ大きく増加した。
(4)物価・雇用
(イ)物価
1月の消費者物価指数(INDEC発表)は、前年同月比8.2%、前月比1.0%の上昇と、引き続き上昇幅は拡大し、2008年10月以来15ヶ月ぶりに前年同月比の伸びが8%を超えた。また、2008年3月以来22ヶ月ぶりに前月比の伸びが1%を超えた。観光分野における値上がりを受け、娯楽において前月比2.3%の上昇と、高い上昇が見られたほか、飲食料、衣料及び衣服においても、同1%を超える上昇が見られた。他方、民間の推計においても上昇幅の大幅な拡大が見られ、公式統計は依然として実態を下回っていると見られている。
1月の卸売物価指数は、前年同月比11.5%、前月比1.0%の上昇となった。
REMの平均では、10年の消費者物価指数の上昇率は前月の予測より0.7ポイント上昇の前年比10.8%と予測されている。
(ロ)雇用・賃金等
1月の給与指数(INDEC発表)は、前月比1.01%増となり、2009年年間では前年比16.70%増となった。
REMの平均では、10年の給与指数の上昇率は前月の予測より1.18ポイント上昇の前年比17.39%増、09年の失業率は前月予測と同じ8.9%、10年は前月予測と同じ8.6%と予測されている。
(5)金融
(イ)株価指数であるMerval指数は、月初に、2007年10月に記録した過去最高値を更新し、5日には、2,402ポイントをつけたものの、中銀総裁解任問題や、米国の金融規制案発表等を受けた海外主要株式市場の下落等により、月末にかけて下落し、29日には、前月末比22ポイント下落の2,299ポイントとなった。
また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、月初に600ポイント近くまで下落したものの、中銀総裁解任問題や米連邦判事による中銀資産の凍結処分、世界的なリスク回避志向の高まり等を受けて、上昇し、29日には前月末比68ポイント増の728ポイントとなった。
(ロ)為替レートについては、世界的なリスク回避志向の高まり等を受けて、月末にかけてペソ安となり、29日には前月末比2.6センターボ(0.7%)ペソ安の1ドル=3.82ペソとなった。コールレートは、月央において9.06%まで下落し、安定して推移した後、上昇し、29日には前月末と同じ9.13%となった。民間金融機関預金残高は、29日において前年同月末比17.5%増、前月末比0.3%増の1,984億ペソとなった。対民間貸出残高は、前年同月末比9.7%増と、前月と同じ伸び率となった。外貨準備高は、480億ドル台で安定して推移し、29日には前月末比2億ドル増の481億ドルとなった。
REMの平均では、10年の為替レートは前月の予測より0.03ペソ高の1ドル=4.19ペソ、外貨準備高は同2億ドル減の515億ドルと予測されている。
(6)財政
(イ)財政収支
経済省が発表した12月の財政収支は、歳入が前年同月比73.6%、一次歳出が同32.4%それぞれ増加し、一次財政黒字は51億ペソとなった。他方、総合収支は、29億ペソの赤字となり、再び赤字に転落した。歳入が大幅に伸びたことを受けて、一次財政収支は、赤字となることが多い12月において黒字を維持したものの、歳入にはIMFから配分された特別引出権(SDR)約55億ペソ及び国家社会保障機構(ANSES)が管理する持続性保証基金の運用益約78億ペソが含まれているとされ、これらを除いた場合、一次財政収支は82億ペソ程度の赤字であったと見られている。2009年年間では、歳入が前年比18.4%、一次歳出が同27.4%それぞれ増加し、一次財政黒字は同46.9%減の173億ペソ(GDP比1.5%)、総合収支は71億ペソの赤字となった。他方、民間年金基金(AFJP)の国営化の影響、中央銀行からの納付金、特別引出権、持続性保証基金の運用益等を除いた場合、一次財政収支は、180億ペソ程度の赤字であったとの指摘もなされている。
REMの平均では、10年の一次財政黒字は前月の予測より17億ペソ減の136億ペソと予測されている。
(ロ)税収
経済省が発表した1月の税収は、前年同月比20.4%増の290億ペソとなった。付加価値税収が同23.1%増の8,255百万ペソ、法人及び個人に係る所得税収が同25.8%増の4,967百万ペソ、輸出税収が同1.7%減の2,317百万ペソ、社会保障雇用主負担金が同29.6%増の5,095百万ペソとなった。なお、付加価値税収のうち、国内分については同18.6%増、税関分については前年同月比21.9%増となった。
REMの平均では、10年の税収は前月の予測より33億ペソ増加の3,633億ペソと予測されている。
(7)貿易
12月の貿易(INDEC発表)は、輸出が前年同月比17%増の4,852百万ドルとなり、輸入が同4%増の3,598百万ドルと、2009年に入り初めて前年同月比の伸びがプラスに転じた結果、貿易黒字は同80%増の1,254百万ドルとなった。2009年年間では、輸出が、旱魃や世界経済の停滞等の影響を受けて、前年比20%減の55,750百万ドル、輸入が、国内需要の落ち込み等を受けて、同32%減の38,771百万ドルとなった結果、貿易黒字は同35%増の16,980百万ドルと過去最高となった。輸出は、全般的な減少が見られ、特に、大豆、トウモロコシ、小麦等一次産品の減少(同43%減)が目立った。輸出全体では、価格が同14%低下すると共に、数量も同7%減少した。輸入も、全般的な減少が見られ、輸入全体では、価格が同12%低下するとともに、数量も同23%減少した。
REMの平均では、10年の輸出は前月の予測より1億ドル減の652億ドル、輸入は同5億ドル減の499億ドルと予測されている(この場合、10年の貿易黒字は前年比10%減の153億ドルとなる)。
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