アルゼンチン経済情勢(月1回更新)

令和元年10月3日

2019年8月の経済情勢


 
概要
(1)14日、11日の大統領予備選挙の(野党に大差をつけられた)結果を受け、マクリ大統領は、緊急経済対策パッケージを発表。これに伴う必要財源は400億ペソとしており、IMFと合意している2019年予算のPB目標は維持する前提である旨併せて発表。内容は、給与所得者の所得税課税基準20%引き上げ、自営業者の社会保険料の控除(4000ペソ/月)、子供養育手当(AUH)を受給している非正規労働者、失業者を対象に、子供1人当たり計2000ペソの追加支給、中小企業(自営業者含む)の税金滞納分についての10年間の支払い猶予等となっている。また、翌15日には、前日発表した緊急経済対策パッケージの追加措置として、基礎食料品(食用油、米、砂糖など指定食料品)の付加価値税(IVA)を12月末まで0%にすると発表した。
(2)28日、ラクンサ財務大臣は記者会見を開き、経済の安定性を保証するための施策として、一部債務の期日延長等を発表した。具体的には、短期国債(LETES、LECAP、LECER、LELINK)について、個人(人数ベースで全保有者の90%、注:金額ベースでは全体の15%のみとの報道)所有分は期日通りに全額支払い、法人に対しては、(1)期日に15%支払い、(2)3ヶ月後25%支払い、(3)6ヶ月後60%支払いを行う。長期国債については、任意の再編(返済期限の延長)を目指し交渉を行う。また、IMFとも融資返済期限の再編のための対話を開始予定すると発表した。
 
1 経済の主な動き
(1)政府は、7月と同様に8月中も 、価格が12万ペソ以下の国産自動二輪車に対し、無金利12~18回(分割)払いを提供する。また、30万ペソ以下の自動二輪車を一括払いなどの方法で購入する場合は、販売価格から10%の割引を適用する。
(2)アルゼンチンは、ラテンアメリカ・カリブ空輸協会によると、6月の国内航空便(の乗客数)を前年同月比で+25.8%と大幅に拡大し、ラテンアメリカ・カリブ地域内で最大の伸びとなった。今年前半期の累積は(前年同月比で)+18.2%。
(3)国立工業技術院(INTI) は、研究所(ラボラトリー)及び自動車パーツ生産会社の充実化と、それに伴う競争促進を目的に、公民セクター連携のための支援プラットフォームの開設を提案した。アルゼンチン品質計画(Plan Calidad Argentina)のアクションプランの一環として、INTIは部門強化ネットワークの開設による自動車製造部門の開発促進を目指す。
(4)マクリ大統領は、新たな労働改革の草案を準備しており、労働団体協定の廃止、経済活動(部門)単位ではなく企業単位による交渉、下請け事業(サブコン)・アウトソーシングの簡素化、労働組合への補助金の制限などが含まれる。同草案は2週間前より生産労働省で「2020~2023年生産的計画、労使関係、質の高い雇用」と題し検討が重ねられてきたもので、カンビエモス政権発足以来の取り組みをさらに拡大させ、解雇制度とインターンシップ(研修制度)の柔軟化を目指す。ダンテ・シカ大臣率いる生産労働省は「草案文書」の存在を認めたが、未だ法案或いは作業文書としての効力を持たないものであると主張し、影響を最小限に抑えるよう配慮した。
(5)メルコスールは、カナダとの次回FTA交渉ラウンドを、10月のアルゼンチン大統領選後の11月18日の週にブラジリアで実施することに決定した。8月初旬にオタワで開催された第7回メルコスール・カナダラウンドでは「通商合意に向けた進捗」を確認した。
(6)今年1月~7月にかけて40万8100トンの牛肉が輸出され、前政権による輸出規制導入前の水準に達した。2005年1~7月、アルゼンチンは42万2000トンの牛肉(骨付き)を輸出し、2005年全体では77万1000トンを記録した。当時アルゼンチンは世界主要牛肉輸出国の3位の座についていたが、その後キルチネル政権の規制により世界市場におけるシェアを失い、2015年には輸出量が20万トンに留まり11位まで転落した。
  中国はアルゼンチンにとって牛肉の主要輸出相手国となっており、今年1~6月にかけて牛 肉 輸 出全体の72.4%が対中国輸出となっている。牛肉のアルゼンチン国内消費は依然減少が続いてい るが、これは輸出増加によるものではなく、国民の購買力の低下と、それに伴う鶏肉・豚肉とい う代替商品への移行による。1~7月の調査データによると、牛肉消費は一人当たり年間50.5kgで、前年比で▲11.8%となり、2011年来の最低値を記録した。
(7)コルドバ州リオ・セグンド市に本社のあるLogros社(食肉加工場)は昨日初めてアルゼンチン産冷凍骨付き牛肉を出荷した。23トンが出荷され、年内、合計300トンの輸出を見込む。
(8)ネウケン州のオマール・グティエレス知事と在亜中国大使館の邹肖力(ゾウ・シャオリー)大使がブエノスアイレスの中国大使館で会合し、80社以上の中国企業の前に、同州における今後5年間の開発計画を発表することで合意した。同発表は9月中に行われる見込み。ネウケン州と中国との間の商業的取り組みの一環として、今年1月には初めてアルゼンチン産チェリーが中国に輸出された。さらに、中国の複数のエネルギー企業がバカ・ムエルタへの進出と鉱山開発投資の強化を視野に置いている。
(9)ベルグラーノ貨物鉄道は、サルタ~サンタ・フェ間で、4000トンの穀物を積載した100車両の3日間のテスト運行を新たに開始した。 列車はホアキン・V・ゴンサレス(Joaquín V. González)を出発し、チャコ州とサンティアゴ・デル・エステロ州を通過し、サンタ・フェ州ティンブエス(Timbúes)までの約1180kmをテスト運行する。車両数を100車両まで増やすことで、これまでの2倍の穀物量の輸送が可能になるとともに、走行時間を約半分まで短縮できる。
(10)13日、11日の大統領選予備選挙の結果を受けて約38%下落した株価について、マクリ大統領は記者団に対し、PASOでの野党ペロン党の勝利が原因だと責任を負わせた。ドルは1ドル57.30ペソまで跳ね上がり、債券価格の下落により、カントリーリスクは、1467ポイントまで上昇した。マクリ大統領は、フェルナンデス候補に対し責任を問うたが、対するフェルナンデス候補は、現政権が統治すべきと反論した。
(11)11日の予備選挙後の大幅なペソ安を受けて、大手業者らは、卸業者とスーパーマーケットへの商品受け渡しを中断、また、顧客に20%の値上げを含む新価格リストを送付した。商品陳列棚には、完全には反映されていないものの、小麦粉、油、清掃用品、衛生用品が値上がりする。また、建築業界においては、ドルの高騰により、商品の価格設定が出来ないため、供給がストップしている旨報じられた。自動車産業においても、政府の自動車新車購入補助制度により販売率が改善されていた自動車部門であったが、ディーラーが販売を一時停止している。
(12)14日、マクリ大統領は、緊急経済対策パッケージを発表。これに伴う必要財源は400億ペソとしており、IMFと合意している2019年予算のPB目標は維持する前提である旨併せて発表。内容は、給与所得者の所得税課税基準20%引き上げ、自営業者の社会保険料の控除(4000ペソ/月)、子供養育手当(AUH)を受給している非正規労働者、失業者を対象に、子供1人当たり計2000ペソの追加支給、中小企業(自営業者含む)の税金滞納分についての10年間の支払い猶予等となっている。また、翌15日には、前日発表した緊急経済対策パッケージの追加措置として、基礎食料品(食用油、米、砂糖など指定食料品)の付加価値税(IVA)を12月末まで0%にすると発表した。
(13)Letes(短期国庫債)の入札に対し、民間投資資金はほとんど応じず、公的機関が7%の利回りで応じた。結果、今回満期を迎えたLetesの43%にあたる4憶900万ドルが借り換えされた。応札の見込みが低いことを理由に、亜財務省はより長期の2020年3月に満期を迎えるLetes債の発行は中止している。
(14)ホンダは2020年より、アルゼンチン(カンパーナ工場)で4輪車HR-Vの生産を中止した。本決定はアルゼンチンの経済状況とは関係なく、グローバル戦略に基づくもの。 これにより、ホンダアルゼンチンは、自動車生産・販売事業から輸入・販売事業に転換し、生産事業は2輪車に注力する。
(15)15日、官報を通じて緊急大統領令(DNU)第566/2019号にて90日間のガソリン価格凍結措置が発表された。当初は 供給法(1974年6月制定)に基づいて、生産労働省国内流通局と財務省エネルギー部門による共同決議で発令される予定であったが、石油事業者との石油価格凍結に関する交渉が失敗に終わったため、最終的には緊急大統領令(DNU)による発令となった。
(16)17日、PASO 後に資金調達が困難になったアルゼンチンに対し、フィッチはアルゼンチン格付けをBからCCCに引き下げた。 同様にS&PもPASO後の脆弱な財務状況から格付をB からB- に引き下げた。
(17)19日、ドゥホブネ財務大臣が辞任し、翌20日にその後任としてエルナン・ラクンサ氏が新財務大臣に就任した。19日にマクリ大統領と会談し、今朝9時(市場取引開始前)に、IMFと合意した財政目標の達成に引き続きコミットする旨の声明を発表した。
(18)アルベルト・フェルナンデス氏は、「ゼネラル・モーターズ(GM)はアルゼンチンでSUVを現地生産する」と発表した。同氏は、企業からの会合要望を受けており、GMからの派遣団を受け入れた際、サンタ・フェ州アルベアールのGM工場で新型SUVを2021年から現地生産するための3億ドルの投資計画の話を受けている、とコメントした。(当館注:本件は2017年くらいから何度も報道あったもの。過去の発表の焼き直しかつ生産開始時期の後ろ倒し。2018年報道では2020年販売開始であった。)
(19)ブエノスアイレス市において、メルコスールと欧州自由貿易連合(EFTA)間の自由貿易協定交渉が終了した。メルコスール-EFTA(アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、スイス)間のFTA交渉は、2017年1月に開始され、10回に亘る協議を経て交渉が成立した。 ダンテ・シカ生産労働大臣は同協定について、「中小企業にとってヨーロッパ市場の開放となり、また(対亜の)投資拡大を可能とする。」、「ここ3か月間で、アルゼンチンのヨーロッパ市場参入の基礎となる交渉が成立した。」と祝した。
(20)27日、フェルナンデス候補は、IMFとの会議終了後にIMFに対する痛烈な批判を行ったことにより株式市場は再び混乱し、現政権はフェルナンデス候補の言動によるものだとした。同候補は、現在の状況下ではIMFとの合意は崩壊しており失敗に終わってるとの意見を示し、合意内容の再交渉がなければ、債権者への債務返済が危ぶまれ、それにより外貨流出が加速し、その外貨流出の影響を相殺するためにIMF融資資金が使用されている、とした。
(21)28日、ラクンサ財務大臣は記者会見を開き、経済の安定性を保証するための施策として、一部債務の期日延長等を発表した。具体的には、短期国債(LETES、LECAP、LECER、LELINK)について、個人(人数ベースで全保有者の90%、注:金額ベースでは全体の15%のみとの報道)所有分は期日通りに全額支払い、法人に対しては、(1)期日に15%支払い、(2)3ヶ月後25%支払い、(3)6ヶ月後60%支払いを行う。長期国債については、任意の再編(返済期限の延長)を目指し交渉を行う。また、IMFとも融資返済期限の再編のための対話を開始予定すると発表した。
 
 
2 経済指標の動向
(1)経済活動全般
 7月の経済活動指数(INDEC発表)は、前年同月比0.4%増、前月比1.2%増となった。
 
(2)消費自動車販売
8月の自動車販売台数(自動車生産者協会(ADEFA)発表)は、前年同月比27.2%減となった。
  1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 2019年計
台数 30,038 30,404 33,708 28,469 27,947 36,501 39,255 38,021 264,343
前年比 ▲53.4% ▲58.8% ▲57.6% ▲60.9% ▲63.1% ▲34.1% ▲15.8% ▲27,2% ▲49.2%
 
(参考)8月の自動車輸出台数(自動車生産者協会(ADEFA)発表)
  1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 2019年計
台数 7,403 19,431 21,085 20,532 21,834 17,401 19,913 18,856 146,455
前年比 ▲28.9% 1.0% ▲23.9% 3.2% 1.9% ▲24.0% ▲21.5% ▲32.8% ▲16.3%
 
(3)工業生産・建設活動
)自動車生産
8月の自動車生産台数(ADEFA発表)は、前年同月比37.5%減となった。
  1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 2019年計
台数 14,803 32,662 29,227 30,294 30,280 23,916 21,646 30,815 213,643
前年比 ▲32,3% ▲16.4% ▲41.1% ▲33.9% ▲35.3% ▲39.3% ▲47.8% ▲37.5% ▲35.9%
 
)工業生産
7月の工業生産指数(INDEC発表)は、前年同月比1.9%減となった。
 
(ウ)建設活動
7月の建設活動指数(INDEC発表)は、前年同月比1.7%減となった。
 
(4)物価
 8月のCPI統計(INDEC発表インフレ率)は、前月比4.0%、前年同月比54.5%の上昇となった。
8月の卸売物価指数(INDEC発表)は、前月比11.2%、前年同月比62.9%の上昇となった。
 
(5)金融
(ア)Merval指数(株価指数)は、8月末には、前月末比41.5%減の24608.6ポイントとなった。
また、EMBI+指数は、8月末には前月末比1745ポイント増の2532ポイントとなった。
(イ)8月末の為替レートは、前月末比34.7%ペソ安の1ドル=59.08ペソであった
コールレートは、8月末には77.5%となった。対民間貸出残高は8月末には25,279億ペソとなった。
外貨準備高は、8月末には前月末比138.0億ドル増の541.0億ドルとなった。
 
(6)財政
(ア)財政収支
8月の財政収支(財務省発表)は、歳入が前年同月比46.7%増、一次歳出が同37.2%増となった結果、基礎的財政収支は137.5億ペソの黒字となった。また、総合収支は、148.0億ペソの赤字となった。
 
(イ)税収
8月の税収(財務省発表)は、前年同月比56.3%増の4585.0億ペソとなった。
 
(7)貿易
8月の貿易(INDEC発表)は、輸出が前年同月比7.5%増の5,568 万ドル、輸入が同30.3%減の4,400百万ドルとなった結果、貿易黒字は1,168百万ドルとなった。
                                       
                                                        (了)
                      
 
       click