アルゼンチン経済情勢(月1回更新)

令和元年5月6日

2019年3月の経済情勢

<概要>
(1)2月末以降の為替市場のボラティリティ上昇に対して、14日、ドゥホブネ財務大臣は、ドル高抑制のため、4月から年末までの96億ドルの売り介入(一日最大6000万ドル)についてIMFの承認を得たと発表。一方、同日に中銀は、インフレ対策強化のため金融政策のさらなる引き締めを発表。
(2)14日、メルコスールとEUは進展なくFTAに係る交渉を終えた。
(3)亜政府はメキシコとの自動車協定を3年間延長。割当制度延長を定め、自動車貿易に規制を敷く協定に署名した。 年内は7億100万ドル、2020年は7億3700万ドル、2021年は7億7400万ドルまでの無関税輸出が認められ、2022年には自動車部門の自由貿易が施行される。

1 経済の主な動き等
 

(1)6日、ホンダ・アルゼンチンは、二輪車と四輪車の販売落ち込みにより従業者の70%にあたる700人の一時解雇を実施。二輪車部門は3月18日に、四輪車部門は3月25日にレイオフの解除を予定している。その他、足下ではMetalparバス製造会社が閉鎖に伴う600人の解雇を、PSAプジョー社が1000人の一時解雇を発表している。
(2)12日、政府はインフレ対策として、冬期のガス料金請求分のうち20%を夏期に持ち越し請求することを発表。ガス消費の増加する冬期(5月から9月にかけて)の住宅用ガス料金の請求分のうち20%を夏期(12月から)に持ち越して請求する。
(3)11日から14日に掛けて、ニコラス・ドゥホブネ財務大臣は米国を訪問した中で、IMFと交渉を行い、14日、ドル高抑制のため、4月から年末までの96億ドルの売り介入(一日最大6000万ドル)の承認を得たと発表。一方、同日に中銀は、インフレ対策強化のため金融政策のさらなる引き締めを発表。具体的には以下4つ。1. マネタリーベースの増加をゼロに抑える目標を(6月末までから)年末まで延長、2. マネタリーベース目標の過剰達成の継続、3. 6月のマネタリーベース季節調整の廃止、4. 為替バンド制の非介入ゾーン上限と下限の見直し幅を毎月2%から1.75%に変更。
(4)14日、INDECによると2月インフレは3.8%。過去12ヶ月のインフレは51.3%に到達した。1、2月ですでに6.8%のインフレを記録。
(5)14日、メルコスールとEUは進展なくFTAに係る交渉を終えた。
(6)17日、政府は大統領選への地固めに、後半期の公共サービス料金凍結を発表。「3月、4月は電気、ガス、水道、交通などの公共サービス料金の引き上げが予定されているが、5月以降11月までは価格調整は行わない」と政府関係者がコメントした。
(7)19日、中国への圧力として米国はアルゼンチンからの輸出に対する関税の引き上げを検討。国際レベルでルールの平準化を目指す米国トランプ大統領の中国向け圧力戦略の一環として 、先日米国政府はWTO会議で、開発国と見なすことで一部の経済が享受する商業上の利点を廃止する方針を発表。同方針は主に中国を対象にするが、アルゼンチンへの影響が懸念される。1人当たりの総生産量や人間開発指数など事前に基準の設定されている他の国際機関とは異なり、WTOでは各国が状況を独自に判断し、多国間協定で定められた全ての義務の履行を延期させたり、技術支援のための資金提供を求めたりすることが出来る。 同報告書の中で14回に渡ってアルゼンチンについて言及する米国政府は、この自己申告制度を「もはや存在しない世界への固執」と批判、さらに「変革なしにはWTOはその合理性を失う」と忠告した。米国の要請を受け入れれば、アルゼンチンは一般特恵関税制度(GSP)の適用を認める特別措置の対象外と見なされる可能性もある。2018年アルゼンチンは米国のGSP対象国に復帰、輸出に関する特恵関税が適用されている。
(8)IMFは、ブエノスアイレス視察を終えたミッション団の報告の中で、108.7億ドルの融資枠を保証しながらも支出調整を要請した。インフレは引き続き高水準が続き、経済活動の低迷は不可避、「2019年赤字ゼロ目標を達成するためには政府支出の大幅な削減が必要」とした。 IMFは政府のドル高対策を支持し、また効果的な社会支出プログラムについては今年以降も継続することが重要であると指摘している。
(9)20日、中国はアルゼンチン産ハチミツの輸入を開始した。中国税関総局とアルゼンチン政府が衛生規約に署名したことを受け、ハチミツの中国向け輸出権がアルゼンチンに付与された。昨年中国からの技術団がアルゼンチンのハチミツ加工工場を視察し、国家衛生農業食品品質サービス(Senasa)が実施するハチミツ生産・輸出のための管理・認証(プロセス)の確認を行った。同視察を経て昨日、ルイス・ミゲル・エチェベエレ農業国務大臣と中国税関総局の代行として在亜中国大使館のZou Ziaoli大使が衛生規約に署名。Senasaが合意調印まで管理する。アルゼンチンは中国に次ぐ世界で第二位のハチミツ輸出国で、ハチミツ生産では第3位につく。2018年ハチミツの総輸出量は7万トン(1.75億ドル)に及んだ。農業当局の報告によると、アルゼンチンの主要輸出相手国は米国 (48.3%)、ドイツ(25.4%) 、日本 (6.3%)。
(10)亜政府はメキシコとの自動車協定を3年間延長。割当制度延長を定め、自動車貿易に規制を敷く協定に署名した。 年内は7億100万ドル、2020年は7億3700万ドル、2021年は7億7400万ドルまでの無関税輸出が認められ、2022年には自動車部門の自由貿易が施行される。生産労働省は、経済補完協定ACE6号の拡大と充実化に向けて現在進行中の交渉を経て、2022年にはアルゼンチン産自動車がメキシコ市場に進出するための条件も改善されているだろうとコメントしている。新たな自動車協定の枠組みは、本日付けでメキシコ・アルゼンチン及びメルコスール加盟国間の自由貿易の適用を定めた経済補完協定(ACE55号)の第5議定書に代わるものである。
(11)21日の報道によると、メルコスール以外の諸国からの小麦輸入に75万トンまでの無関税枠を認めるというブラジルの決定に遺憾をとなえるアルゼンチン政府はメルコスール内で策を講じる構え。19日、ワシントンでブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領と米国のドナルド・トランプ大統領が会談した後、米国官邸は、ブラジルが年間75万トンまでの無関税枠を提示したと発表していた。同措置に対するアルゼンチンからの不服を受け、ブラジルのテレサ・クリスティーナ・コレア農業大臣は無関税枠は米国だけに適用されるものではなく、ブラジル輸出に関心を持つ全ての国に適用されるとコメント。しかし同時に、物流と生産の問題から米国へ優先的に割当を行うことにも言及した。「ブラジルがメルコスール以外から小麦を輸入しようとする度にアルゼンチンは反対してきた」とルイス・ミゲル・エチェベレ農産業国務大臣は遺憾を示した。さらに「同措置を受け、我々はメルコスールの権限を持って対策を講じる」とコメント。ブラジルにとってアルゼンチンは小麦の主要輸入相手国であり、他国からの穀物輸入に対し適用される10%の対外関税からは保護されている。

2 経済指標の動向

(1)経済活動全般  

 2月の経済活動指数(INDEC発表)は、前年同月比5.7%減、前月比0.6%増となった。
 
(2)消費:自動車販売>
 3月の自動車販売台数(自動車生産者協会(ADEFA)発表)は、前年同月比57.6%減となった。
  8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 2019年計
台数 52,224 42,628 37,207 33,095 48,418 30,038 30,404 33,708 94,150
前年比 ▲31.9% ▲44.1% ▲50.0% ▲57.9% ▲46.4% ▲53.4% ▲58.8% ▲57.6% ▲56.8%
 
 (参考)3月の自動車輸出台数(自動車生産者協会(ADEFA)発表)
  8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 2019年計
台数 28,068 23,336 22,028 26,048 22,947 7,403 19,431 21,085 47,919
前年比 59.6% 13.5% 4.0% 36.2% 26,1% ▲28.9% 1.0% ▲23.9% ▲16.4%

(3)工業生産・建設活動
)自動車生産
 3月の自動車生産台数(ADEFA発表)は、前年同月比41.1%減となった。
  8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 2019年計
台数 49,335 37,267 38,659 36,808 20,475 14,803 32,662 29,227 76,692
前年比 9.0% ▲20.6% ▲11.8% ▲18.6% ▲38,5% ▲32,3% ▲16.4% ▲41.1% ▲30,7%

)工業生産
 2月の工業生産指数(INDEC発表)は、前年同月比8.5%減となった。
 
(ウ)建設活動
 2月の建設活動指数(INDEC発表)は、前年同月比5.3%減となった。
 
(4)物価
 3月のCPI統計(INDEC発表インフレ率)は、前月比4.7%の上昇となった。
 3月の卸売物価指数(INDEC発表)は、前月比4.1%の上昇となった。
 
(5)金融
(ア)Merval指数(株価指数)は、3月末には、前月末比3.0%減の33466.0ポイントとなった。
 また、EMBI+指数は、3月末には前月末比77ポイント増の774ポイントとなった。

(イ)3月末の為替レートは、前月末比11.2%ペソ安、前年同月比115.2%ペソ安の1ドル=43.35ペソであった
コールレートは、3月末には61.6%となった。対民間貸出残高は3月末には22,432億ペソとなった。
 外貨準備高は、2月末には前月末比18.3億ドル減の661.9億ドルとなった。

(6)財政
(ア)財政収支
 3月の財政収支(財務省発表)は、歳入が前年同月比28.8%増、一次歳出が同26.7%増となった結果、基礎的財政収支は130.3億ペソの黒字となった。また、総合収支は、498.4億ペソの赤字となった。
 
(イ)税収
 3月の税収(以下、財務省発表)は、前年同月比37.3%増の3278.7億ペソ、付加価値税収が同35.6%増の1,084.0億ペソ(うち、国内分については同42.2%増、税関分については9.9%増)、法人及び個人に係る所得税収が同25.0%増の606.9億ペソ、輸出税収が同493.1%増の181.7億ペソ、社会保障雇用主負担金が同25.7%増の491.2億ペソとなった。
 
(7)貿易
 3月の貿易(INDEC発表)は、輸出が前年同月比5.0%減の5,136万ドル、輸入が同33.5%減の3,963百万ドルとなった結果、貿易黒字は1,173百万ドルとなった。
(了)

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