1.概要
(1)政府は、本年8月に予定されているBODEN2012債に係る元利払いについて、希望者に対し、割引きの上、前払いする旨発表した。入札の結果、最終的な参加率は1.5%となった。前倒しによる政府債務の削減額は63.7万ドルとされる。
(2)世銀理事会及び米州開発銀行(IDB)理事会は、それぞれ、対亜融資等を承認した。
(3)2009年第1四半期の実質GDP(INDEC発表)は、設備投資・建設が大幅に減少した一方で、政府消費や民間消費が前年同期比プラスを維持したほか、輸入が大きく減少したこと等を受けて、前年同期比2.0%増、前期比0.1%増となった。
(4)株価指数であるMerval指数は、原油高や世界的な株式市場の回復等を受けて上昇した後、米国における株価下落や世銀による経済見通しの下方修正等から下落したが、月末に反発し、前月末とほぼ同水準となった。また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、BODEN2012債に係る元利払いの前倒し等を好感し、月央にかけて低下をした後、議会選挙前の不確実性等から上昇したが、月末においては、議会選挙結果を受けた政府による経済政策の転換への期待感等から、再度下落した。外貨準備高は、月末にかけてドル売り介入を行ったこと等から減少し、30日には前月末比5億ドル減となった。
(5)5月の消費については、引き続き持ち直す動きが見られた一方で、生産については、全体として低調であった。また、6月の自動車の販売及び生産は、持ち直す動きが見られ、前年同月比の減少幅が縮小した。市場見通しでは09年の成長率は0.8%、10年は2.3%と予測されている。
政府発表では、6月の消費者物価の伸びは前年同月比5.3%に止まったが、引き続き実態を下回っていると見られている。
5月の一次財政収支は、黒字となったものの、黒字幅は前年に比べ84.8%の減少と、大幅に縮小した。
(6)5月の貿易は、輸出が前年比18%減、輸入が同49%減と、輸入が引き続き大きく減少したことを受けて、貿易黒字は同138%増となり、前月に引き続き、90年以降における単月での過去最高の黒字を更新した。
2.経済の主な動き
(1)経済全般
1日、亜GM社のロレンソン会長は、米GM社が連邦破産法第11条の適用を米裁判所に申請したことに関し、亜国における経営に影響はなく、計画中であるサンタフェ州への投資を続ける旨発言した。
2日、ジョルジ生産大臣は、酪農業界団体と会合を行い、本年3月に導入された酪農業者に対する補助金制度の適用範囲の拡大について合意した。
3日、電力会社EDESURが、政府との契約違反等を理由に、国家電力事業監督機構(ENRE)によって配当金の支払の停止を命じられた旨報じられた。
4日、フェルナンデス大統領は、亜GM社に対する2.59億ペソの融資を発表した。
16日、フェルナンデス大統領は、小麦100万トン及びトウモロコシ100万トン(さらに200万トンの追加を検討)について、国際価格から経費を控除した価格で国内生産者から買い取ること等を内容とする穀物輸出業者との間の合意について発表した。
22日、亜国家農牧取引監督機構(ONCCA)は、2日に合意に至った酪農業者に対する支援拡大を発表した。これにより、生産量が平均6,000リットル/日までの業者が補助金の対象となる。
26日、酪農業界は、政府の介入により製品の販売に対する適切な対価を受け取っていないなどとして、抗議活動の一環として、屠殺場に対し、乳牛を出荷した。
(2)物価・賃金
1日、一部の銀行業界(ABA)と銀行労組は、19%の賃上げで合意した。
12日、食品産業と食品産業労組は、実質22%の賃上げで合意した。
16日、政府は、金属業界と金属労組の賃上げ交渉について仲裁を行い、業界側に対し、特別手当の支給を命じた。これを受けて、金属労組は、17日に予定していたデモを中止した。
19日、フェルナンデス大統領は、軍人の賃金について15%、退役軍人について11.7%引き上げる旨発表した。
(3)金融・財政
4日、政府は、本年8月に予定されているBODEN2012債に係る元利払いについて、希望者に対し、割引きの上、前払いする旨発表した。
11日、ブエノスアイレス州が本年下半期に最大31.74億ペソの州債を発行するための政令が官報に掲載された。
12日、政府は、BODEN2012債に係る元利払いの前倒しのための入札を実施した。入札には、35件、0.44億ドルが応札した。平均割引率が1.86%と決定された結果、20件、0.34億ドルがこれを受け入れ、最終的な参加率は1.5%となった。前倒しによる政府債務の削減額は63.7万ドルとされる。
23日、ナシオン銀行は、道路建設向けに組成した信託に対し、15億ペソの出資があった旨明らかにした。15億ペソのうち、13.5億ペソは国家社会保障機構(ANSES)が、残りを国内外の民間銀行や公的銀行、機関投資家らが出資する。
29日、政府が国家社会保障機構(ANSES)、ナシオン銀行等公的部門から、国債の発行又は借入によって、計約123億ペソを調達するための省令が官報に掲載された。
(4)対外関係
5日、ジョルジ生産大臣は、亜伯貿易に関する民間自主規制について、粉乳、木製家具、ブレーキ、履物等について合意に至ったと発表した。
9日、世銀理事会は、マタンサ・リアチュエロ川流域浄化のための対亜融資8.4億ドル及び2010〜2012年における対亜国別パートナーシップ戦略(CPS)を承認した。後者には、33億ドルの融資が含まれているとされる。
30日、米州開発銀行(IDB)理事会は、保護及び社会的包摂システム援助プログラム向けの対亜融資8.5億ドルを承認した。
3.経済指標の動向
(1)経済活動全般
2009年第1四半期の実質GDP(INDEC発表)は、設備投資・建設が大幅に減少した一方で、政府消費や民間消費が前年同期比プラスを維持したほか、輸入が大きく減少したこと等を受けて、前年同期比2.0%増、前期比0.1%増となった。また、GDPデフレーターは前年同期比9.6%増、民間消費デフレーターは同12.4%増となった。なお、2008年における実質GDPの修正値も発表され、民間消費等が下方修正されたことや輸入が上方修正されたこと等から、前年比6.8%増となった。
4月の経済活動指数(INDEC発表)は前年同月比2.0%増、前月比1.3%増と、引き続き低い伸びとなった。
6月のREM(民間エコノミストの予測の中銀による集計値)の平均では、09年の実質GDP成長率は前月の予測より0.1ポイント上昇の0.8%、10年は前月の予測と同じ2.3%と予測されている。
(2)消費
(イ)小売
5月のショッピングセンター売上高(INDEC発表)は、前年同月比0.3%増、前月比3.7%増と、3ヶ月ぶりに前年同月比がプラスに転じた。スーパーマーケット売上高(INDEC発表)は、前年同月比17.4%増、前月比4.0%増と堅調であったが、昨年前半と比べると、引き続き前年同月比の伸びは鈍化している。
(ロ)自動車販売
自動車協会(ADEFA)が発表した6月の自動車販売台数は、前年同月比17.7%減、前月比5.1%増と、4ヶ月連続で前月に比べ増加し、前年同月比の減少幅も縮小した。
(3)工業生産・建設活動
(イ)工業生産
5月の工業生産指数(INDEC発表)は、前年同月比1.7%減、前月比0.2%減と、5ヶ月連続で前年に比べマイナス成長となった。分野別では、引き続き、基礎金属、自動車、繊維等において大きな後退が見られた一方で、飲食料品、化学等は好調だった。なお、亜工業連盟(UIA)によると、5月の工業生産は、前年同月比10.9%減、前月比1.2%減とされている。
5月の稼働率(INDEC発表)は、前月に比べ3.1ポイント下落し、71.6%となった。自動車及び製紙を除き、全体的な下落が見られた。自動車については51.2%と、50%台を回復したものの、引き続き低い稼働率であった。
(ロ)建設活動
5月の建設活動指数(INDEC発表)は、前年同月比3.4%減、前月比0.2%増と、3ヶ月連続で前年同月比でマイナス成長となった。
(ハ)自動車生産
自動車協会が発表した6月の自動車生産台数は、前年同月比13.1%減、前月比4.1%増と、輸出が前年同月比で増加(0.5%増)したこと等を受けて、2ヶ月連続で前月に比べ増加し、前年同月比の減少幅も縮小した。
(4)物価・雇用
(イ)物価
6月の消費者物価指数(INDEC発表)は、前月比0.4%、前年同月比5.3%の上昇となった。衣類において、対前月比1.3%増と大きな上昇が見られた。 景気の減速等に伴い、実態のインフレ率は下落傾向にあるものの、公式統計は依然として実態を下回っているのではないかと見られている。
6月の卸売物価指数は、前月比0.9%、前年同月比は5.4%と、それぞれ上昇したが、引き続き前年同月比のマイナスとなった。
REMの平均では、09年の消費者物価指数の上昇率は前月の予測より0.2ポイント下落の前年比6.7%と予測されている。
(ロ)雇用・賃金等
5月の給与指数(INDEC発表)は、前月比0.86%増、前年同月比20.13%増となり、上昇幅が縮小した。特に、民間非正規部門においては、前月比で減少となった。
REMの平均では、09年の給与指数の上昇率は前月の予測より0.47ポイント下落の前年比14.49%の増、09年の失業率は前月の予測より0.1ポイント下落の8.8%と予測されている。
(5)金融
(イ)株価指数であるMerval指数は、原油高や世界的な株式市場の回復等を受けて、上昇し、11日には年初来高値の1,670ポイントとなった。その後、米国における株価下落や世銀による経済見通しの下方修正等から下落し、1,500ポイントを切る場面も見られたものの、30日には前月末とほぼ同じ1,588ポイントとなった。
また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、BODEN2012債に係る元利払いの前倒し等を好感し、月央にかけて低下をした後、議会選挙前の不確実性等から1,200ポイント台まで上昇した。月末においては、議会選挙結果を受けた政府による経済政策の転換への期待感等から、再度下落し、30日には前月末比245ポイント(18.9%)減の1,046ポイントとなった。
(ロ)為替レートについては、議会選挙前の不確実性を嫌気したドル需要等により、月末にかけてペソ安となり、30日には前月末比4.87センターボ(1.3%)ペソ安の1ドル=3.7952ペソとなった。コールレートは、10.8%を挟んで安定して推移し、30日には前月末比0.06ポイント増の10.81%となった。プライムレートは、20%台で安定して推移し、30日には前月末比0.07ポイント減の20.09%となった。民間金融機関預金残高は、30日において前月末比1.8%増の1,778億ペソとなった。対民間貸出残高は、前年同月比で12.7%の増となり、引き続き伸びが鈍化した。外貨準備高は、465億ドルを挟んで推移した後、月末にかけてのドル売り介入等により減少し、30日には前月末比5億ドル減の460億ドルとなった。
REMの平均では、09年の為替レートは前月の予測より0.01ペソ安の1ドル=4.13ペソ、外貨準備高は前月の予測より4億ドル増加の455億ドルと予測されている。
(6)財政
(イ)財政収支
経済省が発表した5月の財政収支は、歳入が前年同月比3.1%、一次歳出が同33.0%それぞれ増加し、一次財政黒字は同84.8%減の9億ペソと、3ヶ月連続で10億ペソを下回った。なお、総合収支も、7億ペソの黒字と、3ヶ月ぶりに黒字に転じたものの、前年同月比では88.3%の減少となった。一次財政黒字の減少要因として、引き続き、景気悪化を受けた税収の不調、連邦連帯基金を通じた大豆に係る輸出課徴金の地方交付金の増、景気浮揚策の一環としての公共事業費の増、人件費の増等が挙げられている。
REMの平均では、09年の一次財政黒字は前月の予測より30億ペソ減少の189億ペソと予測されている。
(ロ)税収
経済省が発表した6月の税収は、前年同月比13.3%増の268億ペソとなった。付加価値税収が同9.3%増の7,247百万ペソ、法人及び個人に係る所得税収が同5.9%減の6,275百万ペソ、輸出税収が同36.0%増の3,126百万ペソ、社会保障雇用主負担金が同23.0%増の3,070百万ペソとなった。なお、付加価値税収のうち、税関分については前年同月比15.9%と引き続き大幅な減少となった一方で、国内分については同25.6%の増加となった。また、従来、国営化された民間年金基金の収入となっていた年金掛金を除いた場合、税収の前年同月比で8〜9%程度の増と見られている。
REMの平均では、09年の税収は前月の予測より9億ペソ減少の3,103億ペソと予測されている。
(7)貿易
5月の貿易(INDEC発表)は、輸出が前年同月比18%減の5,138百万ドル、輸入が同49%減の2,660百万ドルと、輸入が引き続き大きく減少したことを受けて、貿易黒字は同138%増の2,478百万ドルとなり、前月に引き続き、90年以降における単月での過去最高の黒字を更新した。輸出については、全体的に減少が見られ、特に、大豆油、ひまわり油、穀物、大豆、燃料等が減少した。輸入については、基本食料品の輸入が増加した以外は、全分野において減少が見られ、特に、中間財については50%を越える減少となった。
REMの平均では、09年の輸出は前月の予測より2億ドル減少の571億ドル、輸入は同30億ドル減少の427億ドルと予測されている(この場合、09年の貿易黒字は前年比9%増の143億ドルとなる)。
(8)国際収支
2009年第1四半期における国際収支(INDEC発表)は、貿易収支が前年同期比85百万ドル増の3,912百万ドル、所得収支が同392百万ドル減の▲2,338百万ドルなどとなった結果、経常収支は同206百万ドル減の1,470百万ドルとなった。また、民間部門等における国外への資本の逃避を受けて、資本収支は同2,592百万ドル減の▲1,831百万ドルとなり、4四半期連続で出超となった。