アルゼンチン経済情勢(月1回更新)
2020年8月の経済情勢
<概要>
(1) 4日、経済省は、外国法準拠債の民間債権者3グループと債務再編に関する実質合意に達したことを発表した。31日には、債権者全体の93.55%の承認を得て、集団行動条項発動により99%の債務再編が可能となった旨の結果発表が行われた。
(2) 22日、フェルナンデス大統領は、緊急大統領令690/2020号を公布し、携帯電話・固定電話、インターネット、ケーブルテレビを基本的公共サービスとして定め、これらの料金を12月31日まで凍結した。
(3) 26日、政府は、IMFとの440億ドルの債務に関する交渉を正式に開始した。
1 経済の主な動き(報道ぶり等)
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3日、経済省は、国営エネルギー会社Ieasa(前Enarsa)がサンタ・クルス州において中国の投資を受けて実施する水力発電ダム建設2計画を再開するための予算計画を承認した。当初の予算80億2160万ペソに対して、さらに41億1830万ペソを予算配分することを決定した。
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4日、経済省は、外国法準拠債の民間債権者のアドホックグループ、エクスチェンジグループ、亜債権者委員会の3グループと債務再編に関する合意に達したことを発表した。7月6日の政府による新たな再編提案に記された新債券における支払日の一部を調整し、正味現在価値を1ドル当たり54.5セント程度まで改善する。合意の遂行のため、新たに交渉期限を24日まで延長し、結果発表日を28日、執行日・発効日・決済日を9月4日とする。債務再編により今後5年間で計425億ドルの財政負担の軽減が見込まれる。
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6日、フェルナンデス大統領は、今後18か月間で公的資金4350億を投入する大型公共事業計画について発表し、その際、「亜は2020年から2025年の間に450億ドルの債務返済義務に直面していた。このような大型債務が我々に重大な制約を与え、来年以降の財政計画の妨げになっていた。しかしこの問題が解消され、我々は自律性、そして決定権を回復した。誰かが無責任に全国民に背負わせた荷が一つ下りた。」と述べた。
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6日、中銀は、中国との通貨スワップ協定の更新に署名した。スワップは1300億人民元(187億ドル)で、中銀の外貨準備高全体の43%相当を占める。新たな合意は3年間有効となる。
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10日、政府は、新たに省庁横断型の「課題別政策室」を設置した。月曜日に「貿易政策室」、火曜日に「連邦促進政策室」、水曜日に既存の「経済政策室」、木曜日に「市民政策室」、金曜日に「都市計画・住宅政策室」を招集する。
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国営石油会社YPFは786億9700万ペソの赤字を発表した。このうちの61.5%が減損に相当する。ガソリン売上は強制隔離期間中に40%を上回る落ち込みを記録した。
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10日、ソラー外相は、9月12~13日に予定されているIDB次期総裁選について、ラジオインタビューの中で「我々にとって極めて重大な決定をビデオ会議形式で行うことはできない。そのため、ラテンアメリカの他の諸国との間で、IDB総裁選の延期を求める方針で合意した。」と述べた。IDB総裁選に関しては、米国が初の自国候補者としてクレバー・キャローンNSC西半球担当補佐官補を擁立した一方、亜政府はベリス大統領府戦略長官の擁立を決めている。
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11日、米国のクレバー・キャローンNSC西半球担当補佐官補は、「残念なことに、アイデアやビジョンを持って対抗する代わりに、亜は少数派によりIDB総裁選の実施を麻痺・妨害させる戦術に出ている。一方、米国は地域の経済成長と回復に向けた前向きなビジョンを提示している。」と述べた。
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政府は、年金・恩給の給付額の今年3度目の引き上げ方針を決定した。9月以降これらの社会保障対象者に+7.5%の引き上げを適用する。最低年金は1万4068ペソ(2月)から1万8129ペソ(9月)まで引き上げられ、今年に入って+28.9%の引き上げを意味する。
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15日、フェルナンデス大統領はグスマン経済相と会合を行い、外貨準備高の減少について検討を行った。これにより「Dolar ahorro(個人による月200ドルまでの貯蓄目的の外貨購入)」に関する新たな規制が加えられるとの観測がなされている。過去6か月間でドルの購入者数は50万人から400万人に増加し、7月の国民のドル購入による支出は8億7500万ドルに及んでおり、中銀の外貨準備高の減少への懸念が広がっている。
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16日、政府は、大統領令676/2020号を発令し、4日にアドホックグループ、エクスチェンジグループ、亜債権者委員会、そのほかの債権者団と合意に至った債務再編案を正式に承認・制定した。同大統領令には国内法準拠債の再編案の改正も含まれている。
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17日、政府は、債務再編案を米国証券取引所(SEC)に正式に提出し、民間債権者からの回答期限を更に4日間、28日まで延長した。28日が外国法および国内法に準拠する債務再編交渉の最終的な締切日となる。両者を合わせた債務額は1000億ドルを上回る。国内法準拠債に関する再編法は、国内債権者に対しても海外の民間債権者と同一の条件を保証している。
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モロニ労働相は、緊急労働生産支援(ATP)、解雇禁止、一時解雇にともなう基本給の75%補償などの労働市場向けの一連の政策について、苦境にある経済セクターへの支援は不可欠であるとして、パンデミックが収束するまでは継続すると述べた。
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18日、亜農産業評議会(CAA)は、輸出税の減免を柱とする農産物輸出促進計画の主要ガイドラインを上院に提出した。
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18日、国営石油会社YPFは、ガソリン・軽油価格を平均+4.5%引き上げた。今年に入って初の燃料価格の引き上げとなった。民間石油会社もYPFの値上げに従う。
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20日、日産は、今後2年間でコルドバ工場に、生産モデルの拡大、導入技術の拡充、国内サプライヤーの開発、輸出市場の拡大のために1億3000万ドルの投資を行うと発表した。
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22日、フェルナンデス大統領は、緊急大統領令690/2020号を公布し、携帯電話・固定電話、インターネット、ケーブルテレビを基本的公共サービスとして定め、これらの料金を12月31日まで凍結した。それ以降も連邦政府の承認なしに当該サービス料金を引き上げることは出来ない。
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24日、政府は、州政府の財政難に配慮し、社会保障庁(ANSES)に対する総額1000億ペソの債務の返済を45日間延期することを官報にて決議した。これにより、州政府への請求を一時停止し、最終的な債務再編に向け交渉を開始する。
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24日、メルコスール議会において「南米大陸横断回廊」と題するウェブセミナーが開催された。亜のオスカル・ラボルデ・メルコスール議会議長は、「南米は、メルコスールを再構築するためにも、その成り立ちから言って大陸横断的であるべきだ。太平洋への出口を見出さなくてはならない。一帯一路構想は南米を通過する必要がある。」と強調した。
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26日、政府は、IMFとの440億ドルの債務に関する交渉を正式に開始した。亜における経済の安定的な成長と財政の持続可能性を回復するための、返済期限の延長を軸とした新プログラムの組成について交渉が行われる。
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28日、フェルナンデス大統領は、パラグアイ-パラナ河川水路の浚渫及び整備を管理するために中央政府及び関連7州が参加する連邦河川水路管理公社の設立を発表した。同水路から亜の農産物収穫全体の約80%が輸送されている。
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28日、マクシモ・キルチネル下院議員(与党会派会長)は、臨時連帯拠出金(通称「富裕税」)法案を下院に提出した。2億ペソ以上の財産を所有する富裕層に対する一度限りの課税により、パンデミックにより減少した歳入を補強することを目的とする。税率2%から最大3.5%までの累進課税制度となっており、課税対象者約1万2000人から計約3000億ペソの収入が見込まれる。
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30日、地球観測衛星SAOCOM 1Bの打ち上げに成功した。SAOCOM 1B は、亜国家宇宙活動委員会(CONAE)が主導するSAOCOMミッションにより打ち上げられた2機目の衛星となる。
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31日、フェルナンデス大統領はクリスティーナ副大統領、グスマン経済相の同席のもと、民間債務再編の結果発表を行った。外国法準拠債の債券交換は93.55%の承認を得て、集団行動条項発動により99%の再編が可能となった。債券交換の実施は9月4日を予定している。
2 経済指標の動向
(1)経済活動全般
7月の経済活動指数(INDEC発表)は、前年同月比13.1%減、前月比1.7%増となった。
(2)消費:自動車販売
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1月 |
2月 |
3月 |
4月 |
5月 |
6月 |
7月 |
8月 |
2020年計 |
台数 |
25,727 |
27,191 |
18,922 |
7,512 |
20,033 |
23,773 |
22,475 |
28,346 |
173,979 |
前年比 |
▲14.4% |
▲10.6% |
▲43.9% |
▲73,6% |
▲28.3% |
▲34.9% |
▲42.7% |
▲25.4% |
▲34.2% |
(参考)自動車輸出台数(自動車生産者協会(ADEFA)発表)
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1月 |
2月 |
3月 |
4月 |
5月 |
6月 |
7月 |
8月 |
2020年計 |
台数 |
8,691 |
18,115 |
13,928 |
2,386 |
3,227 |
6,875 |
9,612 |
13,606 |
76,440 |
前年比 |
17.4% |
▲6.8% |
▲33.9% |
▲88.4% |
▲85.2% |
▲60.5% |
▲51.7% |
▲27.8% |
▲47.8% |
(3)工業生産・建設活動
(ア)自動車生産
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1月 |
2月 |
3月 |
4月 |
5月 |
6月 |
7月 |
8月 |
2020年計 |
台数 |
20,683 |
26,133 |
19,164 |
0 |
4,802 |
15,657 |
21,316 |
25,835 |
133,590 |
前年比 |
39.7% |
▲20.0% |
▲34.4% |
▲100% |
▲84.1% |
▲34.5% |
▲1.5% |
▲16.2% |
▲37.5% |
(イ)工業生産
7月の工業生産指数(INDEC発表)は、前年同月比6.9%減となった。
(ウ)建設活動
7月の建設活動指数(INDEC発表)は、前年同月比12.9%減となった。
(4)物価
8月のCPI統計(INDEC発表インフレ率)は、前月比2.7%、前年同月比40.7%の上昇となった。
8月の卸売物価指数(INDEC発表)は、前月比4.1%、前年同月比35.3%の上昇となった。
(5)金融
(ア)EMBI+指数は、8月末には前月末比116ポイント減の2147ポイントとなった。
(イ)8月末の為替レートは、前月末比2.6%ペソ安の1ドル=74.18ペソであった。
(ウ)外貨準備高は、8月末には前月末比5億ドル増の428.4億ドルとなった。
(6)財政
(ア)財政収支
8月の財政収支(財務省発表)は、歳入が前年同月比53.5%増、一次歳出が同80.0%増となった結果、基礎的財政収支は895.0億ペソの赤字となった。また、総合収支は、1,455.5億ペソの赤字となった。
(イ)税収
8月の税収(財務省発表)は、前年同月比33.5%増の6,121.5億ペソとなった。
(7)貿易
(了) |
8月の貿易(INDEC発表)は、輸出が前年同月比11.3%減の4,938 百万ドル、輸入が同20.4%減の3,502百万ドルとなった結果、貿易黒字は1,436百万ドルとなった。