アルゼンチン経済情勢(月1回更新)
令和2年1月1日
2019年12月の経済情勢
<概要>
(1)11日,グスマン新経済大臣が就任後初めて記者会見を行い,債務再編交渉について詳細な交渉方針について言及はなかったが,事前の予想よりも穏健な発言内容に対して市場は好感した。
(1)11日,グスマン新経済大臣が就任後初めて記者会見を行い,債務再編交渉について詳細な交渉方針について言及はなかったが,事前の予想よりも穏健な発言内容に対して市場は好感した。
(2)17日,ガス・電気料金引き上げ停止,中小企業へのモラトリアム,各種増税等を内容とする社会連帯産業再活性化法案が国会に提出され,21日成立,23日交付された。
1 経済の主な動き(報道ぶり等)
(1)2日,経済大臣にマルティン・グスマン氏の名が再浮上した。マルティン・グスマン氏はニューヨークのコロンビア大学で,ノーベル経済学賞を受賞したジョセフ・スティグリッツ氏と共同執筆を行っていることで知られる。クリスティーナ・キルチネル次期副大統領が信頼を寄せるエコノミストの一人。
(2)2日,トランプ米大統領は自身のツイッターで「ブラジルとアルゼンチンは大規模な通貨切り下げを実施してきた。これは米国の農業部門に良くない。このため,両国から米国に輸出される鉄鋼とアルミニウムに直ちに関税を課す」と発表し,米国はアルゼンチン・ブラジル産の鉄鋼・アルミに対し再び関税を適用へ。その後この大統領の意志を実現させる具体的な措置は取られていない。同大統領は,アルゼンチン・ペソとブラジル・レアルの切り下げが両国の企業に有利に働いており,米国の農産者らを危機的状況に陥れていると主張している。シカ生産労働大臣は,米国側から同措置の発表に当たり事前報告は全くなかったと述べた。
(3)11月の新車販売は前年同月比▲35.5%の落ち込みとなった。今年11カ月間の売上(累積データ)は前年同時期比で▲43.3%の落ち込みを記録した。賃金水準もインフレ率に追い付かない状況で,国民は経済の不確実性を受け,耐久財への支出を先延ばしする傾向にある。
(4)ブラジルは小麦粉の非自動輸入ライセンス制度を導入。ブラジルは小麦粉に対し非自動輸入ライセンスを適用した。これを受けアルゼンチン小麦加工業者の輸出(年間輸出規模1億5000万ドル)に影響が出る恐れ。ブラジルの同決定の影響を最も大きく受けるのが,ブラジルに年間50万トンの小麦粉を輸出しているアルゼンチン。ブラジルは米国産小麦に対し75万トンまでの無関税枠を提供しているほか,メルコスール域外からの穀物輸入に対しては関税の引き下げを検討している。
(5)4日,マクリ大統領はブラジルのベント・ゴンサルベス市で開催される第5回メルコスール首脳会合に出席。加盟4カ国は,アルゼンチンにおける統計手数料による制限とパラグアイとウルグアイが領事手数料の廃止に反対したことで,貿易円滑化協定に向けコンセンサスに至らなかった。外務当局筋は,全てはパラグアイが議長国を務める2020年前半期に持ち越されると語った。ブラジルはアルゼンチンのフェルナンデス次期大統領の就任を待ってメルコスール対外方針について話し合いを進める。対外共通関税を35%から12.5%まで引き下げるブラジルの提案について,マクリ大統領はフェルナンデス次期政権に解決を委ねる。
(6)ロシアはアルゼンチン食肉加工場からの牛肉輸入を縮小。ロシアはアルゼンチンとパラグアイの食品加工場からの牛肉輸入に規制を加える決定を下した。ロイター通信とロシアの動物植物検疫監督局(Rosselkhoznadzor)によると,アルゼンチンからロシアに輸出された牛肉に,動物の成長促進剤として知られるラクトパミンを検出したとのこと。ロイター通信によると,輸出規制がかけられたアルゼンチンの食肉加工場は5社:Azul Natural Beef SA,Frigorífico General Pico SA,Frigorífico H.V.,El Mercedino SA, Rafaela Alimentos。一方,アルゼンチン農畜産品衛生管理機構(SENASA)によると 規制対象となったのはEl Mercedino SA,Frigorífico H.V.,General Picoの3社。パラグアイは合計2社がロシアによる規制対象となった。ロシアは規制対象が拡大する可能性を警告し,12月18日より施行と発表している。
(7)4日,中銀のギド・サンドレリス総裁は12月10日付で辞任する意向を表明し,「アルゼンチンの伝統として,新たに発足する新政権が中銀当局を人選する」と説明した。後任はミゲル・アンヘル・ペッセ元中銀副総裁。政権移行には全面的に協力する意志を伝えた。「健全な通貨を生み出すためのコンセンサスが得られていないことが懸念として残る」と会見でコメントする。
(8)アルベルト・フェルナンデス次期大統領は,非自動輸入ライセンス,技術規制(輸入監視)などを通じて,次期政府は競争力のある製品の輸入を排除する方針。政権発足まで5日となった今,フェルナンデス次期政権は多数産業部門に対し,非自動輸入ライセンスや産業財の輸入監視などの制度を通じ輸入規制の強化を行うことを約束した。産業部門筋の情報によると,非自動輸入ライセンスを導入するに当たり輸入申請から許可までの期間をWTOの規定する60日まで拡大する提案が出ている。これは時間的に大幅な拡大を意味する。マウリシオ・マクリ大統領は(輸入財の国内市場での競争を認めるべく)輸入許可を最大1週間と定めていた。
(9)5日,アルゼンチンカトリック大学の社会負債展望センターは,2019年第3四半期貧困率を40.8%と発表。マクリ政権下で+12ポイントの上昇を記録した。2018年の貧困率(33.6%)から1年間で+7ポイントの上昇となった。過去10年間における最高値で,クリスティーナ・キルチネル政権下の貧困率を+10ポイント上回った。社会学者のAgustín Salvia氏は0歳~17歳までの子どもの59.5%が貧困状態にあると伝えた。地域別に見ると,ブエノスアイレス州のブエノスアイレス市周辺地域(conurbano)の貧困率が51.1%と圧倒的に高い。
(10)新政権は現行予算を4月まで延長:フェルナンデス次期大統領は今週新たな予算案の議会提出はないと発表した。今後数か月間でカフィエロ次期官房長官が予算配分を見直す方針。フェルナンデス次期大統領はテレビ局C5Nに対し「短期間のうちに厳正な予算案を作成することは困難だった。それため,現行予算を継続し,4,5月に来年の予算案を提出する予定」と語った。
(11)ベリス氏は開発融資を管理,グスマン氏は対IMF債務を担当: ベリス氏が国際機関による開発融資の交渉を担当する。戦略事務局に2つの付属機関が設けられる:「開発国際金融関係局」と「開発知識局」。前者は国家資金調達総局(Dirección Nacional de Financiamiento con Organismos Internacionales de Crédito)を従属させ,米州開発銀行(IDB)や世銀などの対応を担当する。「開発知識局」はラテンアメリカ開発銀行(CAF)やプラタ盆地開発金融基金(Fonplata)などの地域機関を担当する。ベリス戦略長官は社会経済評議会の組成を担当する。
(12)9日,退任の前日,ミゲル・エチェベレ前農牧漁業大臣は,決議により牛・羊の生皮に対し輸出税を適用外とした:2021年12月を期限に定め,畜産部門の約10%を占める200万頭分を非課税対象枠に設定した。同大臣はかねてから輸出促進のために輸出税の廃止を主張してきた。一方で,主に中小企業が大半を占める牛製品・履物部門は,製品の国内生産を保護するためにも必要な原材料(生皮)の国内生産向け割当枠の設定を要請している。
(13)10日,国会議事堂でアルベルト・フェルナンデス大統領就任式が行われ,同大統領は「支払う意志はあるが支払い能力に欠ける」と言及。「アルゼンチン経済の成長なしに持続的な債務返済は不可能」と強調した。
(14)ファーウェイ社の任正非(ジンセイヒ)CEOはアルゼンチンと中国の貿易関係の強化に期待。アルゼンチン国内のファーウェイ社の従業員数は500名超で,テレコム社とテレフォニカ社の4Gを供給している。昨年同社は,子会社に独自の決定権を委ね自由を与える新たな管理形態を試行するためにアルゼンチンを選出した。同社の任正非CEOは金融危機にもかかわらずパイロットテストは成功に終わり,今後20カ国で適用すると伝えた。
ラテンアメリカは昨年のファーウェイ社の収益(1050億ドル)の6%を占めており,ラテンアメリカ諸国には合計4300人の従業員が就業してい る。ファーウェイ社は(世界市場において)4Gより10倍速い5G(既にスイス,スペイン,韓国,オランダ,中国で商用化)のプロバイダーとなることを目標に置いている。アルゼンチンではテレコム社とパイロットテストをすでに実施済み。
(15)11日,グスマン新経済大臣が就任後初めて記者会見を行い,債務再編交渉について詳細な交渉方針について言及はなかったが,事前の予想よりも穏健な発言内容に対して市場は好感した。主な内容は以下の通り。
・大統領からは,(経済の)悪化に歯止めをかけ,アルゼンチン経済を落ち着かせ,持続的且つ社会包摂を伴う開発のプロセスのための基盤作りを要請された。
・前政権が我々に残した実質上のデフォルトという問題を解決する。
・財政を均衡化し,基礎的財政収支を黒字化しなくてはならない。それは債務の持続性のために必要である。問題は,それは急速にはできないということである。2020年には財政引き締めはできない。不況を深刻化,悪化することになってしまうからである。緊縮財政を回避するための空気(=余裕,クッション)を確保することが課題である。
・信用がない今,紙幣発行に頼らざるを得ない状況にあるが,それは経済の不安定化要素になりうる。(当館注:市場での資金調達手段が絶たれていることから,11・12月の債務の返済含む政府歳出のための財源不足を賄うため,マクリ前政権は大統領令で上限を設定した上で中銀による財政補填を行っている。現時点で同措置による市場の混乱はない。)
・2020年は財政緊縮の年ではないが,財政拡大の年にもならないだろう。経済の収縮を抑えなければならないが,強力な財政拡大を実行するためのリソースがないことも分かっている。
・一桁まで(年間)インフレ率を低下させたいが,それには時間がかかる。金融政策のみでは機能せず,マクロ的に統合された戦略をもって対応しなければならない。
・(債務を)返済するには,返済能力が必要であり,そのためには経済の回復が必要である。我々は全ての債権者,すなわち民間債権者ともIMFとも建設的な関係を作りたい。
・債務の期限についての丁寧な修正を確実にするための,民間債権者との協議(の場)を確立する。
・我々が決定を行わなければならない。我々は,我々自身のために決定する主権を有する。これは我々の計画であり,プログラムは我々のものだ。IMFによって設計されるものではなく,我々によって設計されるものだ。
・IMFとの交渉は既に始めている。現在,民間債券保有者への打診を行っているところである。問題(の解決)を遅らせることで,更なる緊縮財政,更なる不況及び債務負担を余儀なくされることがあってはならない。
・公的対外債務の持続的マネジメントのための特別アドホック部局が設置され,自分(グスマン大臣)が同部局の長を務める。公的対外債務の政策立案が同部局の役割である。
・歴代の金融担当次官OBらによって形成される債務についての諮問委員会を設置する。(当館注:コセンティーノ氏,ダニエル・マルクス氏の名前が報道されている。)
・臨時国会会期中に,現在の深刻な経済・社会危機に対抗するため,連帯生産再活性化法案を提出する。
・資本規制を取り除くには,経済が安定することが必要だが,今がその時ではない。
・前政権の(経済)モデルは失敗した。世界のどこでも機能しなかったモデルである。
・現在の状況からして,アルゼンチンは優先事項を改めなくてはならず,より脆弱なセクターを保護しなければならない。
(16)12日,フェルナンデス政権は初の債務返済(4億8000万ドル)を実施した。前政権により発行されその後リプロファイリングされたペソ建て及びドル建てLete債の返済。債権者らの間では,交渉が行われる12月から来年3月までに返済期限を迎える債務(250億ドル)のうち,どこ程度まで期限日の返済が可能なのか(返済期限を遵守できるのか)疑問が残るものの,市場の不安を沈静化させた。
(17)14日,フェルナンデス大統領は政令により6か月間の二重賠償制度(強制解雇に対する慰謝料の倍増)を制定した。土曜日官報号外において緊急大統領令(DNU)36/2019号として発表された:政府は緊急大統領令として強制解雇に対する慰謝料の倍増を制定し,180日間の職業緊急事態を宣言した。政府は同政令施行後,つまり来週以降の新雇用に関しては対象外とすると明記している。正規労働市場が悪化し続けることを阻止することが目的。
(18)14日,政府は土曜日に官報にて政令37/2019号を発表し,輸出税枠組みを改定。農業部門に対する従来の「輸出1ドルあたりにつき4ペソの輸出税」という規定を無効化し,輸出税率を9%に引き上げた。大豆には30%,小麦とトウモロコシには12%,牛肉等には9%の輸出税が課される。同措置により18億ドルの追加税収を見込む。大豆輸出税の実質的な税率が,当時30%程度だったがペソ安により24.7%まで低下してしまっていたのを,今回当初の水準(30%)まで引き上げる形。他の農産品に対しては,当初12%程度と定められたがその後(通貨安により)6.7%まで低下した輸出税率を再び12%まで引き上げる。しかし,今回の決定に対する批判は過去よりも大きく,生産者らはコストも拡大していると主張している。
(19)YPFのギジェルモ・ニールセン総裁とエネルギー局セルヒオ・ランジアーニ副大臣は「America Crece(アメリカ成長)」イニシアティブ開始会合に出席するためワシントンに出発した。米国は同プログラムによりラテン・アメリカ及びカリブ地域のエネルギー開発・インフレ整備計画を始動し,同地域における中国・ロシア勢力の抑圧を目指す。一方,ニールセン総裁とランジアーニ副大臣は米国にてバカ・ムエルタ開発に向けたアライアンス締結と資金獲得を目指す。
(20)16日,テレビのインタビューでフェルナンデス大統領は年金と一般子供手当(AUH)の追加額を発表した。さらに食糧補助カードの配布開始と公共料金の凍結措置を発表。
(21)16日,政府は年金給付額自動改定法の停止と,低年金所得層に2回のボーナス手当(12月と1月に5000ペソずつ)を発表した。17日に議会に提出される経済緊急法案は年金・恩給・社会保障給付額自動改定法の180日間停止を定め,その間に新たな算出法の制定を目指す。行政当局に対し,180日間,1800人から成るこれら対象層(年金・恩給・AUH・社会給付受給者)に向けた手当の引き上げに関する決定権を付与する。2020年には,議会の承認と年金給付額自動改定法の停止により,所得水準により差別化したAUH,家族手当,年金・恩給の引き上げ(低所得層に対して最大手当,高年金所得層は対象外とする可能性を含む)を政令により定める。
(22)17日より,Plan Alimentarの開始する。空腹(飢餓)対策で,妊娠3カ月以上の妊婦から6歳までの子供がいる母親を対象に,一人っ子の場合は4000ペソ/月,2人以上の場合は6000ペソ/月を給付する。
(23)17日,社会連帯産業再活性化法(Ley de Solidaridad Social y Reactivacion Productiva)案が国会に提出され,グスマン経済大臣が同法案に含まれる経済政策パッケージにつき記者会見を行った。グスマン経済大臣による記者会見概要は以下のとおり。
・同法案は過去4年間放置され,貧困と飢えを増加させた,厳しい社会危機を解決するための最初のステップであり,より脆弱な国民をケアするためのものであり,(法案に盛り込まれている)措置は,不均衡を解消し,優先事項を選び直し,最脆弱層の状況を緩和するための包括的プログラムの一部である。
・マクロ経済及び国民の状況の悪化を回避するための措置を取る。借入ができないからといっても,赤字の増加は容認できない。資金繰りのために通貨増発すれば,(経済の)不安定化につながる。我々は無謀ではない。責任をもってアルゼンチン経済を安定化することが我々の任務である。
・資本の国内還流を促進するための措置を取る。アルゼンチン人が海外に保有する金融資産にも課税することになるが,同時に,資本還流を促進するための制度を導入する。我々は,自国通貨建て預金の残高を回復しなくてはならない。
併せて,法案の内容についても説明が行われた。概要以下の通り。
・年金:180日以内に現在の算出式を変更する。もっとも低い所得層に対し12月と1月に5000ペソのボーナス支給。
・公共料金:180日間のガスと電気料金の引き上げ停止。この間に新たな料金体系について議論。
・金融税制:海外に保有する金融資産への課税。ペソ建て定期預金金利への非課税。
・包括連帯税の創設:観光目的及び貯蓄目的のドル購入に30%の課税(5年間)。税収の使途は,30%を社会保障関連,70%を公共事業。医療サービス,教育プラットフォームの使用,書籍の購入及び政府による調査事業は免税。
・農業分野の輸出税増税:(週末に大豆に対して30%,小麦とトウモロコシについて12%までの輸出税引上げが発表されていたところ,)それぞれさらに3ポイント引上げ。
・個人資産税:個人資産税の引上げ(2015年の水準への回帰)。資産の額に応じて0.5~1.25%の課税(海外保有資産に対しては高税率)。金融資産を国内に移管すれば,アルゼンチン国内資産と同じ税率を課す。
・中小企業へのモラトリアム:中小企業の債務返済猶予期間の設定(罰金や利払いのカットも含む)。社会保険料は60回,税金は120回の分割払いが可能。
・公的債務:「公的債務の持続可能性を回復するために必要な措置を実行するため」の権限を政府に与える。
・統計税:統計税(関税のように輸入時に課税される,手数料的な税)の2.5%から3%への引上げ。
・賃金:民間セクターの従業員の最低賃金の増加を命ずる権限を政府に与える。具体的な金額は政令で別途定める。
(関連報道)
フェルナンデス大統領は主要農産品に対する輸出税率をさらに+3%引き上げる権限の承認を議会に求める。「現在の輸出税枠組みは前政権が導入したものだ。我々はただ,アルゼンチン経済が被った通貨安による損失分を是正する措置を敷いただけだ。既存の水準に基づき輸出税の納付を求めているに過ぎないという点は十分に明らかにする必要がある。我々は決して輸出税率を引き上げているのではない。ただあと+3%だけ引き上げる権利を求める。しかし選挙キャンペーン中に約束したように,いかなる決定も強制はしない」と大統領はコメントした。政府は大豆の輸出税を33%まで引き上げたい。農牧業界の代表らは午後に声明を発表し,その中で「輸出税は悪税であり,生産者の現状に配慮がなく,投資意欲を喪失させ,輸出における競争力を収縮させる」と言及した。さらに「対話を通した合意を約束していたにも関わらず,相談無しの独断による発表だった」と批判した。また,政府が議会に提出する緊急事態宣言法案に関し,一連の経済・生産再生措置をはじめ,今後施行予定の政策,危機脱出のために各部門に要請するあらゆる努力について全体像を把握する必要があると強調した。主要4農牧団体(Mesa de Enlace)は支持基盤である農産者の沈静化を試みるほか,対話プロセスを通じて全国の生産者の利益を守る意向を伝えた。
公共料金を6月まで凍結。その間新たな料金表が制定される。「マクリ前政権は大統領選後に計画していた公共料金の引き上げを中止した。そしてこの引き上げを実施せずに政権交代となった。我々もこの引き上げを実施しない。6月30日までを価格の凍結期間とし,その間公共料金の新たな枠組みを組成する。料金制度は国家の生産モデルにとって有用でなくてはならない。今のシステムは,エネルギー生産者には裨益するが,アルゼンチンのそれ以外の者には裨益しない。エネルギー業界がこれまでに享受した恩恵を議論するつもりはなく,今彼らによるサポートが必要だ」「エネルギー業界には,公共料金の枠組みの見直しについて議論できるだけの充分なマージンがあるはずだ」と大統領は語った。
中小企業向けモラトリアム。企業の抱える最大の問題の一つが国家に対し債務を抱えていることである。納税や雇用者負担金の支払いが滞っている。現状整備のために大規模なモラトリアムを提案する。超低金利で6カ月間の返済猶予,つまり支払い開始までに6カ月の猶予を与える」とフェルナンデス大統領は伝えた。
経済措置発表後,市場は好感。カントリーリスクは2000ベーシスポイントから1972ポイントまで低下。債券価格は13.5%まで上昇。ブルードル(非公式ドル)は1ドル=74ペソ(+2.1%)まで上昇。公式レートと非公式レートの差は17.6%まで拡大。
(24)メンドーサ州でカンビア・メンドーサ与党と正義党は鉱業法7722号の改定に合意し,今後同州の大規模な採鉱開発を促進する。アルベルト・ヘンセル鉱業長官は全国の鉱業関係高官らと会合を行い,連邦政府による大型法案が議会で承認されれば,鉱物輸出については輸出税率を8%(原油同様)に引き下げ,全国規模で鉱山開発の再活性化を図ると伝えた。
(25)ブラジルのVale社が開発を行っていたRio Coloradoカリウム鉱山の管轄権が,今年の9月にメンドーサ州に引き渡された。これをうけメンドーサ州のスアレス知事は(投資獲得のために)中国を訪問,その際Shanghai Potash社幹部はカリウム20万トンの工業化に向けたパイロットプラント建設を含む開発計画へ関心を示した。
(26)メンドーサ州は法的規制を取り除く必要があり,そのため政令7722号を改定し,鉱山開発のための立法府承認のプロセスを省略し,シアン化物などの使用を承認する。ペロン党は当初反対していたが,その後同政令の文面変更を要請しており,昨日メンドーサ州与党の承認を受け,臨時会での承認に向け最終的な法案の改訂に急いでいる。
(27)19日,フェルナンデス大統領は,緊急大統領令DNU49/2019号によりドル建て債務(Letes)の返済を8月31日まで延期することを発表。州,個人債権者は対象外。並行して民間債権者に対し,経済省を通じて正式に民間債権者登録を行うよう求めた。現段階で,Letes以外の国内法に基づく外貨建て債券に対しても同じくリプロファイリングを実施するかは未定。ペソ建て債券に関しては前カンビエモス政権による規定を見直す方針で,定期的に返済に対応する方針。
(28)中銀はLeliq金利(政策金利)を63%から58%まで引き下げ。「移行期間」に予想を若干上回る規模の政策金利の引き下げとなった。よりドラスティックな金利を予想する向きもあったが,それに比べれば中銀総裁は慎重であった。
(29)中銀によるドル価格に連動した新たなペソ建て融資制度。金利はドルの公式レートに連動させる。中銀の目的は,中小規模の輸出事業者に対する新たな資金調達ツールの設置。一種の「ドルリンク」制で,ペソ取引ではあるが(為替リスクを除くため)元本額と金利の算定には取引開始と終了時の公式ドルレートを参考にする。通達A6846で発表となった。
(30)21日,上院は早朝(3時53分)社会連帯産業再活性化法を承認。8時間に及ぶ審議の後,下院可決から1日弱での上院可決となった。支持41票,反対23票,棄権1票。野党から最も批判を受けたのは(インフレ率に応じた給付額増を定める)年金給付額自動改定法の180日間の停止に関する条項。180日間,年金の引き上げに関する決定権は行政に委ねられる。特権的年金制度の恩恵享受者(裁判官・外交官等)は同決定の対象外とする
(31)下院の決定に関し,社会的政治的不満が生じたことを受け,フェルナンデス大統領は今後提出する法案に同特権的年金制度の廃止を含めることを発表した。
(32)社会連帯産業再活性化法により,2020年は(利払い費を除く)基礎的財政収支(対GDP比)は+1.3ポイント(2019年比)改善し,対GDP比0.6%の黒字となる見込み。コンサル会社Quantum Finanzasによる発表。「政府の大規模政策は,(輸出税や個人資産税などによる)収入の拡大と,社会保障費を主にした支出の縮小を図るもの」としている。
(33)鉱業部門に対する輸出税の引き下げ及び州法改正により鉱山開発を再活性化。フェルナンデス大統領は対外債務返済のためにも輸出の活性化が必要だと自負しており,メンドーサ州とチュブット州において鉱山開発の強化を開始,両州は鉱山開発に規制を加えていた州法の改正を実施。20日,メンドーサ州議会は,交通封鎖などの抗議活動が起こる中,州の水資源保護のために鉱山開発を規制していた原則7722号の改正を承認した。今後,大規模な鉱山開発の鉱物掘削の際にシアン化物及び他の汚染物質の使用が可能となる。政府は,これまでブラジルのVale社が開発を行っていたが数か月前に管轄権が州に引き渡され今後の開発に中国が関心を寄せているリオ・コロラドのカリウム鉱山と,同じく最近50年ぶりに州議会が探査を承認したイエロ・インディオ(Hierro Indio)鉄鉱山の開発強化を図る。与党政府は,マクリ前政権が残した莫大な債務の返済のために輸出の拡大を目標に置いており,バカ・ムエルタ開発と鉱山開発はそのための主要戦略部門となっている。鉱山開発では2018年に唯一サン・フアン州が9億ドルを輸出している。一方で,メンドーサ州議会が鉱山開発における化学物質の使用を合法化するための改正案を承認したことを受け,近隣住民や環境保護団体らが22日に大規模抗議運動を実施した。今後,抗議活動は複数都市・公道を周回する予定で,メンドーサ州のロドルフォ・スアレス知事に対し(今回改正された法律の)拒否権の行使を求めるため州役所まで行進を行う。 (
(34)22日,格付け会社フィッチは,12月19日にアルゼンチン政府が発表した国内法に基づくドル建てLetes(短期債)90億ドルの来年8月末までの一方的な再リプロファイリング(返済期限の再延長)により,アルゼンチンの外貨建て長期国債の格付を,一部債務不履行を意味する「RD(リストリクティッド・デフォルト)」に(CCから)引き下げた。その後,23日も,本年8月時のリプロファイリングと同様に,再びCCに引き上げた。
(35)23日,法律27541号(社会連帯生産再活性化法)を官報にて公布。
(36)23日,フェルナンデス大統領は,報道関係者らのレセプションで近日中のIMFミッションのアルゼンチン訪問を発表するも,IMFは未だ正式発表を行わず。
(37)25日,ドル購入に30%の課税制度が施行。ドル価格は1ドル=63ペソから82ペソへ引き上げられる。今回の課税措置によるドル高とドル購入制限(200ドル/月まで)というCEPO(為替管理制度)により,ブルードル(非公式レート)は公式レート水準或いはそれを上回る水準に落ち着くと予想される。
(38)25日,テレビ局TNによるフェルナンデス大統領インタビューで経済緊急事態における社会連帯生産再活性化法の施行について言及。「国家収支の整備という意味では我々も調整(引き締め)を行っている。ただ他の引き締め政策と異なるのは,低所得層にではなく好況下にいる者に支払いを求めている点だ」「(好況下にいる者とは誰のことか?との問いに対して,)輸出事業者や石油・金属生産者,鉱山会社,農産者,個人資産所有者。アルゼンチンは空腹(飢餓)撲滅のための資金約1000億ペソ相当を必要としている。2週間前までは私のことをクリスティーナ・フェルナンデス副大統領に掌握されて内閣も組成できない可哀そうな大統領と誰もが考えていた。」
(39)26日,メンドーサ州のスアレス知事は,新たに話し合いの場を設けると発表した。 露天掘りによる金属採掘の活性化のためシアン化物や硫酸の使用を合法化する鉱山法に対し大規模な抗議活動が勃発したことで,メンドーサ州の同知事は(鉱山開発を促進するための)鉱山法の施行の撤回を決定している。
(40)26日,中銀は再び政策金利を58%から55%まで引き下げた。
(41)26日より,貯蓄目的のドル購入・海外ショッピングに対する30%課税措置が施行。
2 経済指標の動向
(1)経済活動全般
11月の経済活動指数(INDEC発表)は,前年同月比1.9%減,前月比1.7%減となった。
(2)消費:自動車販売
12月の自動車販売台数(自動車生産者協会(ADEFA)発表)は,前年同月比35.7%減となった。
5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 2019年計 | |
台数 | 27,947 | 36,501 | 39,255 | 38,021 | 26,876 | 27,204 | 22,900 | 31,151 | 372,474 |
前年比 | ▲63.1% | ▲34.1% | ▲15.8% | ▲27,2% | ▲37.0% | ▲26.9% | ▲30.8% | ▲35.7% | ▲45.4% |
(参考)12月の自動車輸出台数(自動車生産者協会(ADEFA)発表)
5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 2019年計 | |
台数 | 21,834 | 17,401 | 19,913 | 18,856 | 21,568 | 19,339 | 17,921 | 18,965 | 224,248 |
前年比 | 1.9% | ▲24.0% | ▲21.5% | ▲32.8% | ▲7.6% | ▲12.2% | ▲31.2% | ▲17.4% | ▲16.7% |
(3)工業生産・建設活動
(ア)自動車生産
12月の自動車生産台数(ADEFA発表)は,前年同月比29.1%減となった。
5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 2019年計 | |
台数 | 30,280 | 23,916 | 21,646 | 30,815 | 27,687 | 31,834 | 27,099 | 14,524 | 314,787 |
前年比 | ▲35.3% | ▲39.3% | ▲47.8% | ▲37.5% | ▲25,7% | ▲17.7% | ▲26.4% | ▲29.1% | ▲32.5% |
(イ)工業生産
11月の工業生産指数(INDEC発表)は,前年同月比4.5%減となった。
(ウ)建設活動
11月の建設活動指数(INDEC発表)は,前年同月比5.2%減となった。
(4)物価
12月のCPI統計(INDEC発表インフレ率)は,前月比3.7%,前年同月比53.8%の上昇となった。
12月の卸売物価指数(INDEC発表)は,前月比3.7%,前年同月比58.5%の上昇となった。
(5)金融
(ア)Merval指数(株価指数)は,12月末には,前月末比20.8%増の41681.9ポイントとなった。
また,EMBI+指数は,12月末には前月末比524ポイント減の1738ポイントとなった。
(イ)12末の為替レートは,前月末比0.0%ペソ安の1ドル=59.89ペソであった
コールレートは,12月末には46.9%となった。対民間貸出残高は12月末には24,863億ペソとなった。
外貨準備高は,12月末には前月末比14.1億ドル増の451.8億ドルとなった。
(6)財政
(ア)財政収支
12月の財政収支(財務省発表)は,歳入が前年同月比56.4%増,一次歳出が同39.3%増となった結果,基礎的財政収支は1201.4億ペソの赤字となった。また,総合収支は,2254.0億ペソの赤字となった。
(イ)税収
12月の税収(財務省発表)は,前年同月比53.9%増の4923.7億ペソとなった。
(7)貿易
12月の貿易(INDEC発表)は,輸出が前年同月比1.7%増の5,374 百万ドル,輸入が同19.9%減の3,133百万ドルとなった結果,貿易黒字は2,241百万ドルとなった。
(了)
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