経済情報
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2009年8月アルゼンチンの経済情勢

 

 

2009年9月作成
在アルゼンチン大使館

1.概要


(1)ブドゥー経済相は、年内に国際金融市場への復帰を目指す旨発言した。この一環として、同相は、インフレ連動債等に係る任意の債務スワップを発表したほか、IMF西半球局長と会談を行った。


(2)フェルナンデス大統領は、農牧緊急法の一部に拒否権を発動し、農牧緊急宣言が発出されたブエノスアイレス州の一部に対する輸出課徴金の免除・減免が無効になったこと等から、農牧団体は、28日から、穀物及び牧畜産品の出荷停止等の抗議活動を行った。


(3)デジタルテレビに関し、日伯方式を採用するための日亜間、亜伯間の覚書署名式が開催された。


(4)株価指数であるMerval指数は、5日、年初来高値をつける場面も見られたものの、月を通して1,700ポイント台で推移した。また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、月初に行われたBODEN2012債に係る元利払いの資金の一部が、引き続き亜国債に向けられたこと等から下落したものの、農牧団体との対立が嫌気され、月末にかけて上昇した。


(5)7月の消費については、インフルエンザの流行等から、一部において弱さが見られた。生産についても、一部において回復に向けた緩やかな動きが見られたものの、低調であった。市場見通しでは09年の成長率は0.5%、10年は2.4%と予測されている。
 政府発表では、8月の消費者物価の伸びは前年同月比5.9%に止まったが、引き続き実態を下回っていると見られている。
 7月の一次財政収支は、黒字となったものの、黒字幅は前年に比べ83.4%の減少と、引き続き大幅に縮小した。


(6)7月の貿易は、輸出が前年比30%減、輸入が同41%減と、輸入が引き続き大きく減少したことを受けて、貿易黒字は同36%増となった。

 

2.経済の主な動き


(1)経済全般


 1日、亜農牧協会(SRA)による第123回アルゼンチン国際農牧工業展の開会式が開催された。
 3日、ブドゥー経済相は、記者会見において、同日に行われたBODEN2012債に係る元利払い(22.51億ドル)の実施について報告するとともに、「今後数ヶ月において実施される新たな政策によって、亜国は、年末にかけて、国際金融市場へ復帰する条件が整うだろう」と述べた。
 3日、政府は、脱税の取締を強化し、増収を図るため、商取引円滑化措置を発表した。主な内容は、(ア)輸出手続における電子請求書の導入、(イ)輸出手続における電子保証保険の導入、(ウ)商取引に対する新たな税務調査官の設置、(エ)穀物取引契約における電子署名の導入、(オ)牛肉に対する納税トレーサビリティ制度の創設、等となっている。
 4日、ブドゥー経済相は、亜商業会議所(CAC)幹部と会談を行った。会談において、亜商業会議所幹部は、輸入許可に係る明確なルールの確立、輸出に係る付加価値税の還付遅延の是正、地方交付金制度の改革等を要求した。
 5日、下院本会議において、一部の電子製品の増税に関する法案が一部修正の上、賛成136票、反対61票、棄権18票の賛成多数で可決され、上院に送付された。修正内容は、増税対象からノートパソコン等を除外することとされている。
 5日、上院本会議において、コルドバ航空機工場再国営化法案が、賛成52票、棄権11票の賛成多数で可決・成立した。
 5日、ブドゥー経済相は、亜銀行協会(Adeba)幹部と会談を行い、国家統計局改革について説明を行った。
 20日、上院本会議において、デ・ナルバエス下院議員(ペロン党反キルチネル派)が提出した農牧緊急法案が全会一致で可決・成立した。同法案の主な内容は、(ア)農牧緊急宣言が発出されたブエノス・アイレス州の22市について、180日間、農牧産品に係る輸出課徴金を免除し、15市については50%減免する、(イ)サンタフェ州、メンドサ州、ネウケン州、リオネグロ州及びサルタ州に対し、農牧緊急事態宣言を発出する(但し、輸出課徴金の免除或いは減免措置が適用されない)、(ウ)旱魃被害を受けた地域に対し、5億ペソの救済資金を給付する、等となっている。一方、フェルナンデス大統領は、議会で承認された農牧緊急法は一部内容が誤って承認されたとして、部分的な拒否権を発動した(25日及び28日付官報掲載)。拒否権が発動された部分には、上記(ア)及び(イ)が含まれている。
 25日、主要農牧4団体から成る「連絡委員会」は、議会で承認された農牧緊急法について、農牧セクターが強く求める輸出課徴金の免除・減免に関する部分に拒否権が発動されたことから、28日から9月4日までの8日間、穀物及び牧畜産品の出荷停止(牛乳、果物、野菜等の生鮮品は対象外)、「農業の日」に当たる9月8日に抗議集会の実施等の抗議活動を行うことを決定した。他方で、「連絡委員会」は、食料不足が生じることがないよう保障すると共に、農牧業者に対して、道路封鎖を行わないよう呼びかけた。
 26日、ブドゥー経済相は、訪亜中のエイサギーレIMF西半球局長と会談を行った。これは、2006年以降初めての亜国とIMFとの公式の接触とされる。
 28日、デジタルテレビに関し、日伯方式を採用するための日亜間、亜伯間の覚書署名式が開催された。増田総理特使、ルーラ伯大統領及びフェルナンデス大統領は、覚書への署名後、それぞれ演説を行った。
 28日、国家統計局(INDEC)改革の一環である学術審議会が開催され、ブドゥー経済相、イツコビッチ国家統計局技監のほか、ブエノス・アイレス大学、トレス・デ・フェブレロ大学、マル・デル・プラタ大学、ロサリオ大学及びトゥクマン大学の代表が参加した。同審議会において、(ア)国家統計局は、次回会合までに、統計作成方法の変遷及び国家統計局の状態について報告を行う、(イ)消費者物価指数バスケットのウェイトを公表する、(ウ)60日以内に、定期的家計調査(EPH)のベースを公表する、等が決定された。
 28日、農牧ストが、多くの農牧業者が賛同する形で開始された。

 

(2)物価・賃金


 5日、金属業界と金属労組は、18%の賃上げで合意した。
12日、政府は、ガス及び電気に係る値上げについて、一時中止すると発表した。6〜7月分については全面的に中止し、8〜9月分については値上げの70%を中止するとされ、これに伴う財政負担は5億ペソ程度と見られる。
 21日以降、港湾労組は、賃上げを求めてストを行った。
 24日、政府は、スーパーマーケットチェーンCarrefourにおいて5.5ペソの食品セットの販売が開始される旨発表した。
 30日、港湾業界と港湾労組は、23%の賃上げで合意した。

 

(3)金融・財政


 10日、中央銀行は、レポ金利及びリバースレポ金利を0.5ポイント引き下げ、それぞれ11.5%、9.5%とした。
 19日、訪伯中のブドゥー経済相は、マンテガ伯財務相との間で、70億ペソ又は35億レアル(18億ドル相当)を上限とする通貨スワップ協定に署名した。
 20日、中央銀行の理事会は、中小企業向け融資促進措置を承認した。主な内容は、(ア)消費者ローンと同様の基準で審査が行われる企業向け融資の上限を、50万ペソから75万ペソに引き上げる、(イ)(通常の半期毎ではなく)年に1度の審査対象となる企業の債務残高基準を100万ペソから200万ペソに引き上げる、(ウ)最後の審査における貸出枠の10%を超えない企業向け追加融資は借換とは見なされない、等となっている。
 20日、上院本会議において、首相が予算の歳出項目を変更できる権限(Superpoderes)を予算の5%に制限する法案が、賛成38票、反対24票の賛成多数で可決され、下院に送付された。
 21日、政府は、インフレ連動債等に係る任意の債務スワップを発表した。スワップの対象債券はPRE9債及びPR12債、スワップにより引き渡される新債券はBocan14債とされ、発行条件は、(ア)ペソ建て、(イ)満期は2014年、(ウ)金利はBadlar金利(大手銀行10行における大口定期預金(30日)の平均金利)+2.75%とされる。また、1〜2月にスワップが実施された保証付借款(PG)についても、1月と同様の条件で、スワップの募集が再開された。

 

(4)対外関係


 4〜5日、政府は、第2回亜・パキスタン二国間委員会会合を開催し、訪亜したアミン・ファヒム・パキスタン貿易大臣が出席した。同会合において、農業・牧畜、衛生・植物検疫、科学技術分野に関する二国間協力等が協議された。
 11日、フェルナンデス大統領は、亜企業関係者と共にベネズエラを訪問し、チャベス大統領と、二国間関係の進捗状況を分析するために3ヶ月毎に実施している両国定期首脳会談を行った。両国は、二国間の経済・貿易関係強化を目的とする農業、金属機械、自動車、科学技術、医薬品製造等多岐に亘る22の協定に署名した。
 17〜19日、タイアナ外相は、国会議員5名及び企業関係者56名から成る政治・通商ミッションを率いてメキシコを訪問し、エスピノサ墨外相との会談等を実施した。

 

3.経済指標の動向


(1)経済活動全般


 6月の経済活動指数(INDEC発表)は前年同月比0.4%減、前月比0.8%減となった。前月(改訂値)に引き続き、2ヶ月連続で前年同月比の伸びがマイナスとなった。
 8月のREM(民間エコノミストの予測の中銀による集計値)の平均では、09年の実質GDP成長率は前月の予測より0.1ポイント減少の0.5%、10年は前月の予測より0.1ポイント上昇の2.4%と予測されている。

 

(2)消費


(イ)小売


 7月のショッピングセンター売上高(INDEC発表)は、前年同月比2.9%減、前月比15.2%減と、3ヶ月ぶりに前年同月比の伸びがマイナスに転じた。インフルエンザの流行等が要因として挙げられている。スーパーマーケット売上高(INDEC発表)は、前年同月比13.6%増、前月比3.3%増と堅調であったが、昨年前半と比べると、引き続き前年同月比の伸びは鈍化している。


(ロ)自動車販売


 自動車協会(ADEFA)が発表した8月の自動車販売台数は、前年同月比21.2%減、前月比2.1%減と、6ヶ月ぶりに前月に比べ減少した。

 

(3)工業生産・建設活動


(イ)工業生産


 7月の工業生産指数(INDEC発表)は、前年同月比1.6%減、前月比0.2%増となり、再び前年同月比の伸びがマイナスに転じた。分野別では、引き続き、基礎金属、自動車、繊維等において後退が見られた一方で、飲食料品、化学等は好調だった。なお、亜工業連盟(UIA)によると、7月の工業生産は、前年同月比9.5%減とされている。
 7月の稼働率(INDEC発表)は、前月に比べ0.6ポイント上昇し、71.4%となった。前月に比べ、化学、基礎金属、自動車等において上昇が見られた一方で、石油、繊維等において下落が見られた。


(ロ)建設活動


 7月の建設活動指数(INDEC発表)は、前年同月比7.2%減、前月比0.9%増となった。


(ハ)自動車生産


 自動車協会が発表した8月の自動車生産台数は、前年同月比17.7%減、前月比1.3%増と、4ヶ月連続で前月に比べ増加し、前年同月比の減少幅も縮小した。

 

(4)物価・雇用


(イ)物価


 8月の消費者物価指数(INDEC発表)は、前月比0.8%、前年同月比5.9%の上昇と、引き続き上昇幅が拡大した。医療、飲食料及び衣類において、前月比1.0%を超える大きな上昇が見られた。他方、公式統計は、引き続き実態を下回っているのではないかと見られている。
 8月の卸売物価指数は、前月比0.9%、前年同月比6.2%の上昇と、引き続き上昇幅が拡大した。
 REMの平均では、09年の消費者物価指数の上昇率は前月の予測より0.3ポイント下落の前年比6.6%と予測されている。


(ロ)雇用・賃金等


 2009年第2四半期の失業率(INDEC発表)は、前年同期比0.8ポイント増、前期比0.4ポイント増の8.8%となり、準失業率(非自発的に週35時間未満の労働にしか従事できない者)は、前年同期比2.0ポイント増、前期比1.5ポイント増の10.6%となった。経済活動の停滞を受け、準失業率が大幅に上昇したものと見られるが、民間においては、実態の失業率は、より高かったものと見られている。
 7月の給与指数(INDEC発表)は、前月比2.21%増、前年同月比19.30%増となり、引き続き上昇幅が縮小した。
REMの平均では、09年の給与指数の上昇率は前月の予測より0.89ポイント上昇の前年比15.46%の増、09年の失業率は前月の予測より0.1ポイント上昇の9.0%と予測されている。

 

(5)金融


(イ)株価指数であるMerval指数は、5日、年初来高値となる1,807ポイントをつける場面も見られたものの、月を通して1,700ポイント台で推移し、31日には、前月末比62ポイント上昇の1,782ポイントとなった。
 また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、月初に行われたBODEN2012債に係る元利払いの資金の一部が、引き続き亜国債に向けられたこと等から下落したものの、農牧団体との対立が嫌気され、月末にかけて上昇し、31日には前月末比12ポイント減の950ポイントとなった。


(ロ)為替レートについては、資本逃避圧力が和らいだこと等により、1ドル=3.8ペソ台で安定して推移し、31日には前月末比2.2センターボ(0.6%)ペソ安の1ドル=3.8525ペソとなった。コールレートは、中央銀行によるレポ金利の引き下げ等から下落し、31日には前月末比0.44ポイント減の10.06%となった。民間金融機関預金残高は、31日において前年同月末比9.9%増、前月末比2.7%増の1,828億ペソとなった。対民間貸出残高は、前年同月比で8.2%の増となり、引き続き伸びが鈍化した。外貨準備高は、月初に行われたBODEN2012債に係る元利払いに外貨準備が用いられたことから、445億ドルまで減少したものの、月末にかけて増加し、31日には前月末比10億ドル減の450億ドルとなった。
 REMの平均では、09年の為替レートは前月の予測より0.07ペソ高の1ドル=4.03ペソ、外貨準備高は前月の予測より1億ドル増加の456億ドルと予測されている。

 

(6)財政


(イ)財政収支


 経済省が発表した7月の財政収支は、歳入が前年同月比9.7%、一次歳出が同26.8%それぞれ増加し、一次財政黒字は同83.4%減の8億ペソと、5ヶ月連続で10億ペソを下回った。なお、総合収支は、6億ペソの赤字となり、2ヶ月連続で赤字となった。歳入には中央銀行からの納付金約7億ペソが含まれているとされ、これを除くと、一次財政黒字はほとんどなかったものと見られている。
 REMの平均では、09年の一次財政黒字は前月の予測より26億ペソ減少の143億ペソと予測されている。


(ロ)税収


 経済省が発表した8月の税収は、前年同月比4.2%増の253億ペソとなった。付加価値税収が同5.8%増の7,517百万ペソ、法人及び個人に係る所得税収が同6.2%減の4,666百万ペソ、輸出税収が同42.3%減の2,259百万ペソ、社会保障雇用主負担金が同31.9%増の3,590百万ペソとなった。なお、付加価値税収のうち、税関分については前年同月比19.2%減と引き続き大幅な減少となった一方で、国内分については同18.5%の増加となった。
 REMの平均では、09年の税収は前月の予測より13億ペソ減少の3,064億ペソと予測されている。

 

(7)貿易


 7月の貿易(INDEC発表)は、輸出が前年同月比30%減の4,895百万ドル、輸入が同41%減の3,580百万ドルと、輸入が引き続き大きく減少したことを受けて、貿易黒字は同36%増の1,3158百万ドルとなった。輸出については、一次産品が前年同月比63%減と大きく減少した。大豆、小麦等の穀物、燃料等が減少した一方で、大豆粕等の食品工業くず、原油等が増加した。輸入については、全分野において減少が見られ、消費財が前年同月比21%減となった以外は、同30%を超える減少が見られた。特に、中間財については同49%減となった。
 REMの平均では、09年の輸出は前月の予測より9億ドル減少の566億ドル、輸入は同19億ドル減少の401億ドルと予測されている(この場合、09年の貿易黒字は前年比31%増の165億ドルとなる)。

 

 
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