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2009年3月アルゼンチンの経済情勢

 

 

2009年4月作成
在アルゼンチン大使館

1.概要


(1)フェルナンデス大統領は、大豆及び大豆派生品の輸出課徴金収入のうち、30%を地方政府に交付するための「連邦連帯基金」を創設する緊急大統領令に署名した一方で、同施策等に反対する農牧団体は、フェルナンデス政権発足後通算7回目となる穀物及び食用家畜の出荷停止等の抗議活動を実施した。


(2)レドラド中央銀行総裁は、コロンビアのメデジンにおいて、周小川中国人民銀行総裁との間で、通貨スワップに係る予備協定(枠組合意)に署名した。


(3)株価指数であるMerval指数は、金融不安の再燃や世界経済の景気低迷が長引くとの懸念等から、月初に1,000ポイントを割ったものの、その後、月末にかけて上昇した。また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、議会選挙の前倒し等を嫌気し、月央から月末にかけて上昇した。外貨準備高は、月末のドル売り介入等により減少し、前月末比5億ドル減の465億ドルとなった。


(4)2月の消費及び生産については、一部において持ち直す動きが見られたものの、特に生産については、引き続き低調であった。また、3月の自動車の販売及び生産は、前月に比べ改善が見られるものの、引き続き前年に比べ大幅な減少となった。市場見通しでは09年の成長率は0.9%と予測されている。

  政府発表では、3月の消費者物価の伸びは前年同月比6.3%に止まったが、引き続き実態を下回っていると見られている。
 2月の一次財政収支は、黒字となったものの、黒字幅は前年に比べ49.6%縮小した。


(5)2月の貿易は、輸出が前年比24%減、輸入が同37%減と、それぞれ大きく減少したが、貿易黒字は同27%増加した。

 

2.経済の主な動き


(1)経済全般


3日、フェルナンデス大統領は、主要農牧4団体の各代表と、農牧問題について協議を行い、牛肉、小麦、牛乳及び地域特産物に関する4つの合意書に署名した。


5日、非自動輸入許可品目の対象に、ベッドリネン、トラクター、ねじ、エアコン、タイヤ等を追加する生産省令が官報に掲載された。


9日、政府と主要農牧4団体との協議における合意事項を実施するための省令が官報に掲載された。


9〜13日、全世界在外公館長会議が、亜外務省において、在外公館長約100名の出席を得て開催された。


10日、政府は、主要農牧4団体の各代表と、穀物及び牛肉に係る輸出課徴金の引き下げ、輸出規制等の主要な懸案事項について協議を行ったが、大きな進展は見られなかった。


12日、フェルナンデス大統領は、景気浮揚策の一つである低利融資制度の一環として、住宅の増築及び改修に対する低利融資制度を発表した。


17日、フェルナンデス大統領は、コルドバの飛行機工場を再国営化するための法案を議会に提出する旨発表した。


17日、政府は、主要農牧4団体の各代表と、本年4回目の協議を行ったが、穀物、特に大豆の輸出課徴金の引き下げ等を政府が拒否したため、同協議は不調に終わった。


18日、フェルナンデス大統領は、ブエノスアイレス州ラプラタ市のアルゼンチン劇場において、視聴覚コミュニケーション・サービス法案(所謂「放送法改正法案」)の内容を発表した。

同法案の主な内容としては、

 

(イ)サッカーの試合等、国民的関心の高いコンテンツについては、放映権の分散を図り、重要なサッカーの試合は、地上波テレビで放送する、(ロ)国産コンテンツの最低シェアを、ラジオの場合最低70%、テレビの場合最低60%と定め、映画館で上映されるアルゼンチン映画の最低シェアも定める、(ハ)中央政府の他、州政府、市政府にも周波数を割り当て、また、周波数の33%はNGOに割り当てるとともに、大学も放送できるようにする、(ニ)寡占を避けるため、1社に与える放送ライセンス数の上限を現行の24から10に変更する、(ホ)電話会社の放送事業への参加を認める、(ヘ)「視聴覚コミュニケーション・サービス」を監督する機関として、連邦議会議員及び政府代表から成る機関を設置するとともに、大学、NGO、労組等の代表から成る評議会を設置する等となっている。


19日、主要野党は、農牧団体の求めに応じる形で、下院において、穀物輸出課徴金の引き下げ法案を審議するための特別会合を召集したが、与党議員の欠席により定足数に至らなかった(全257議席。定足数129議席のうち、出席者は108名)。


19日、フェルナンデス大統領は、中央政府が受け取る大豆及び大豆派生品の輸出課徴金収入のうち、30%を地方政府に交付するための「連邦連帯基金(Fondo Federal Solidario)」を創設する緊急大統領令に署名した旨発表した。同政令によれば、同基金は、ナシオン銀行を通じて、同措置に参加する州政府に自動的に交付され、また、その使途は、衛生、教育、病院、住居等のインフラ改善事業に限定され、経常収支補填に用いることは禁止される。


20日、主要農牧4団体から構成される「連絡委員会」は、政府による「連邦連帯基金」創設の発表、下院で穀物輸出課徴金引き下げ法案が審議されなかったこと等に不満を示す形で、農牧業者に対し、穀物及び食用家畜の出荷停止(牛乳、果物、野菜等の腐りやすい生産物及び旱魃被害を受けている地域の生産物は対象外)、国道脇での抗議集会の開催等の抗議活動を行うよう呼びかけた。


21〜27日、フェルナンデス政権発足後通算7回目となる農牧団体による抗議活動が実施された。

 

(2)物価・賃金


 多くの民間医療保険会社が、掛金の値上げを行った。

 

(3)金融・財政


 4日、エチェガライ連邦歳入庁(AFIP)長官は、無申告資産の国内への還流促進措置について、2日間で2,500万ペソの申告があったことを明らかにした。
 11日、亜ナシオン銀行は、アンデス開発公社(CAF)と輸出信用に係る協定について合意した。これにより、亜ナシオン銀行は、アンデス開発公社からの融資を原資に、資本財を輸出する亜国内の企業に対し、総額5,000万ドルの輸出信用(償還期間5年)を供与する。
 29日、レドラド中央銀行総裁は、コロンビアのメデジンにおいて、周小川中国人民銀行総裁との間で、通貨スワップに係る予備協定(枠組合意)に署名した。同協定によると、スワップ協定は亜ペソと中国元の双方向によるもので、スワップの上限は700億元(約370億ペソ、約102億ドル)、スワップの期間は1〜3年とされ、一方の国が申請を行った際に、具体的な金額、交換レート、期間等が決められる。

 

(4)対外関係


12日、政府は、ギマラエス伯外務副大臣らと亜伯貿易不均衡問題について協議を行い、家電、電気機器、履物等の分野について、民間ベースの二国間合意の形成を図ることで合意した。


13日、フェルナンデス大統領は、オバマ米大統領と電話会談を行い、4月にロンドンで行われる第2回金融・世界経済に関する首脳会合等について協議した。


20日、フェルナンデス大統領は、サンパウロ州工業連盟(FIESP)本部において、ルーラ伯大統領と会談し、第2回金融・世界経済に関する首脳会合で、国際金融システムの改革、IMFや世銀等の国際金融機関の改革の必要性を訴えるとの立場を確認した。なお、フェルナンデス大統領の今次訪伯中、両国企業関係者の間で、造船、航空機、履物、アルファフォール(菓子)、チョコレート、食品、繊維、情報技術、衛生用品、化粧品、出版等に関する30以上の合意が結ばれた。


23日、ベネズエラにおいて、亜、伯、ウルグアイ、パラグアイ、ベネズエラ、ボリビア、エクアドルの経済閣僚等が南米銀行について協議を行い、100億ドルの資本金を以って本年中に南米銀行を始動させることで合意した。


24日、伯国立開発銀行(BNDES)は、アルゼンチン航空による旅客機購入に関し、7億ドルを融資する旨決定した。償還期間は12年とされる。


27〜31日、第50回米州開発銀行(IDB)年次総会がコロンビアのメデジンにおいて開催され、フェルナンデス経済相やレドラド中央銀行総裁が参加した。


28日、フェルナンデス大統領は、訪問先のチリにおいて、ブラウン英首相と会談を行った。同会談において、両首脳は、世界的な需要拡大の推進、国際金融機関の改革、IDB等の地域開発銀行への支援強化、市場への国家の介入拡大等の必要性についてで意見が一致した。


30日、訪伯中のデビード公共事業大臣は、2009年における伯からの電力供給量を最大2,100MW(昨年の約1.3倍)とする合意書に署名した。

 

3.経済指標の動向


(1)経済活動全般


 1月の経済活動指数(INDEC発表)は前年同月比2.3%増、前月比0.3%増となった。前年同月比の伸びが2.3%増に止まるのは、2002年12月(1.1%増)以来であり、この6年間で最も低い伸び率となった。
 3月のREM(民間エコノミストの予測の中銀による集計値)の平均では、09年の実質GDP成長率は前月の予測より0.3ポイント下落の0.9%と予測されている。

 

(2)消費


(イ)小売


 2月のショッピングセンター売上高(INDEC発表)は、前年同月比6.1%増、前月比5.5%増と、前年同月比がマイナス(改定値)となった前月に比べ持ち直した。スーパーマーケット売上高(INDEC発表)は、前年同月比22.5%増、前月比4.5%増と、前月に引き続き持ち直したものの、昨年前半と比べると前年同月比の伸びは低水準となった。


(ロ)自動車販売


 自動車協会(ADEFA)が発表した3月の自動車販売台数は、前年同月比35.3%減、前月比12.0%増と、引き続き前年に比べ大幅に減少した。

 

(3)工業生産・建設活動


(イ)工業生産


 2月の工業生産指数(INDEC発表)は、前年同月比1.1%減、前月比2.0%増と、前月に比べ改善したものの、引き続き前年に比べマイナス成長となった。分野別では、引き続き、自動車、基礎金属、繊維等において大きな後退が見られた。なお、亜工業連盟(UIA)によると、2月の工業生産は、前年同月比12.2%減とされている。
 2月の稼働率(INDEC発表)は、前月に比べ6.3ポイント上昇し、73.7%となった。全体的な改善がみられたものの、特に自動車については23.3%と、前月に引き続き低い稼働率であった。


(ロ)建設活動


 2月の建設活動指数(INDEC発表)は、前年同月比1.6%増、前月比1.6%増と、昨年9月以来4ヶ月ぶりに前年同月比でプラスとなったものの、引き続き低調だった。


(ハ)自動車生産


 自動車協会が発表した3月の自動車生産台数は、前年同月比23.6%減、前月比154.7%増と、前月に比べ大きく持ち直したものの、引き続き低調であった。

 

(4)物価・雇用


(イ)物価


 3月の消費者物価指数(INDEC発表)は、前月比0.6%、前年同月比6.3%の上昇となった。医療、教育等の分野において大きな上昇が見られた。景気の減速等に伴い、実態のインフレ率は下落傾向にあるものの、依然として実態を下回っているのではないかと見られている。
 3月の卸売物価指数は、前月比0.9%、前年同月比は6.9%と、それぞれ上昇したが、引き続き前年同月比の伸びは鈍化した。
 REMの平均では、09年の消費者物価指数の上昇率は前月の予測より0.5ポイント下落の前年比7.2%と予測されている。


(ロ)雇用・賃金等


 2月の給与指数(INDEC発表)は、前月比1.03%増、前年同月比24.22%増となり、特に民間非正規雇用部門が前月比4%増と高い伸びとなった。
 2008年下半期の貧困率(INDEC発表)は15.3%、極貧率は4.4%と、引き続き低下した。特に、極貧率については、近年の最低値16.1%(1994年5月)を下回った。しかし、同指標の算出には消費者物価指数が用いられることから、その信憑性について疑問視する声もある。
 REMの平均では、09年の給与指数の上昇率は前月の予測より0.5ポイント減少の前年比15.1%の増、09年の失業率は同0.3ポイント上昇の9.0%と予測されている。

 

(5)金融


(イ)株価指数であるMerval指数は、金融不安の再燃や世界経済の景気低迷が長引くとの懸念等から、月初に1,000ポイントを割り、3日には930ポイントまで下落したものの、その後、月末にかけて上昇し、31日には前月末比106.7ポイント上昇の1,126ポイントとなった。
 また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、議会選挙の前倒し等を嫌気し、月央から月末にかけて上昇を続け、25日には1,960ポイントとなった後、下落し、31日には1,894ポイントとなった。


(ロ)為替レートについては、月末にかけてペソ安となり、31日には前月末比15.4センターボ(4.3%)ペソ安の1ドル=3.7135ペソとなった。コールレートは、月末にかけてわずかに上昇し、31日には前月末比0.19ポイント上昇の10.94%となった。プライムレートは、月初に下落した後、20%を挟んで推移し、31日には前月末比1.14ポイント減の20.21%となった。 民間金融機関預金残高は、31日において前月末比1.4%増の1,719億ペソとなった。対民間貸出残高は、前年同月比で17.9%の増となり、引き続き昨年前半に比べ低い伸びとなった。外貨準備高は、470億ペソを挟んで安定して推移していたが、月末におけるペソ安に対し、中央銀行が積極的なドル売り介入を行ったこと等から減少し、31日には前月末比5億ドル減の465億ドルとなった。
 REMの平均では、09年の為替レートは前月の予測より0.14ペソ安の1ドル=4.09ペソ、外貨準備高は同9億ドル減の449億ドルと予測されている。

 

(6)財政


(イ)財政収支


 経済省が発表した2月の財政収支は、歳入が前年同月比15.9%、一次歳出が同28.8%それぞれ増加し、一次財政黒字は同49.6%減の16億ペソとなった。
 REMの平均では、09年の一次財政黒字は前月の予測より30億ペソ減の263億ペソと予測されている。


(ロ)税収


 経済省が発表した3月の税収は、前年同月比23.0%増の218億ペソとなった。付加価値税収が同16.3%増の6,693百万ペソ、法人及び個人に係る所得税収が同10.7%増の3,375百万ペソ、輸出税収が同1.8%減の2,159百万ペソ、社会保障雇用主負担金が同33.1%増の2,967百万ペソとなった。なお、付加価値税収のうち、税関分については前年同月比13.7%と引き続き大幅な減少となった一方で、国内分については同24.5%の増加となった。また、従来、国営化された民間年金基金(AFJP)の収入となっていた年金掛金を除いた場合、税収の前年同月比は17%程度の増と見られている。
 REMの平均では、09年の税収は前月の予測より9億ペソ減の3,118億ペソと予測されている。


(ハ)債務残高


 経済省が発表した2008年第4四半期末の債務残高は、前期比3億ドル増の1,460億ドルとなった。債務が増加する一方で、ペソ安によりペソ建て債務の評価減が発生し、これらがほぼ相殺する形となった。

 

(7)貿易


 2月の貿易(INDEC発表)は、輸出が前年同月比24%減の3,941百万ドル、輸入が同37%減の2,663百万ドルと、それぞれ大きく減少し、貿易黒字は同27%増の1,278百万ドルとなった。輸出については、全分野において減少が見られ、特に、一次産品については、価格が前年同月比22%減、数量が同27%減となった結果、価額は同43%減となった。輸入については、燃料を除く全分野において減少が見られ、数量の減少がその大きな要因となっている。
 REMの平均では、09年の輸出は前月の予測より22億ドル減の582億ドル、輸入は同32億ドル減の487億ドルと予測されている(この場合、09年の貿易黒字は前年比27%減の96億ドルとなる)。