アルゼンチン経済情勢(月1回更新)
2020年6月の経済情勢
<概要>
(1) 8日、フェルナンデス大統領は緊急大統領令を発令し、農業輸出企業ビセンティングループへの介入と国有化法案の議会への提出を決定した。
(2) 19日、経済省は債務再編交渉の期限を再び延長し、新たな交渉期限を7月24日(金)に設定した。
1経済の主な動き(報道ぶり等)
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1日より伯との共通自動車政策 (PAC)が施行され、2029年6月30日まで有効となる。亜・伯間の自動車・自動車部品貿易で関税割当制が設けられる。これまでの自動車協定はFLEX係数を1.5に定めていた(輸出1ドルにつき1.5ドルまでの輸入に対する相互の無関税枠)ところ、新たなPACは7月1日よりFLEX係数を1.8と定める。2029年6月までにFLEX係数は3まで引き上げられ、その後2国間の自動車貿易は完全に自由化される見込み。
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クルファス生産開発大臣は、工業団地開発にむけた融資プログラムの開設と、地域経済の担い手である生産企業に対し雇用者拠出金を補償する法令814号の効力の回復に関する方針を発表した。さらに、強制隔離措置が解除された後に合意形成を目指す生産力回復のための10のポイントを公表した。
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1日、IMFは、民間債務再編交渉の渦中にある亜について、亜融資担当スタッフの継続的な技術的支援の一環として新たなテクニカルレポートを公開した。同レポートは「亜当局はIMFテクニカルスタッフに、5月26日の債務調整案の確認(評価)を依頼した」としている。3月20日にもIMFはテクニカルレポートを公開しており、その中でアルゼンチン債務について大幅な調整は不可能と強調していた。IMFは今回のレポートの中で、グスマン経済相による債務再編案の改善案について、「亜政府が見直した債務再編案は、高い確率で債務の持続可能性を回復するという目標に適っている」と述べている。
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1日、政府は官報にて決議266/2020号を発表し、債務再編交渉期間を12日(金)までさらに10日間延長した。交渉結果発表期限は15日、決済執行日は18日。
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4日、政府は、キルチネル派「カンポラ」幹部の一人であるデ・ペドロ内務大臣を、政府代表としてアルゼンチン・テレコム理事に任命した。
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4日、ゲリー・ライスIMF報道官は、「亜当局とは積極的かつ建設的な対話を行っている。亜の国家と国民に最大限の支援を提供できるよう試みる。しかし現時点で(570億ドルのスタンドバイ合意の再交渉に向けた)新たな支援プログラムについて対話は行っていない。ただ、再交渉はアルゼンチン当局に与えられた権利として認められている」と述べた。
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5日、マクリ前政権下で官民連携事業(PPP)として入札された道路6路線の敷設工事の管理権の回復のため、落札した民間企業と契約終了に向けた交渉を開始した。
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キシロフ・ブ州知事は、5日に設定していた外国法準拠の州債務(71億5000万ドル)再編交渉期限を10日間延長した。
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5日、大統領はラ・パンパ州サンタ・ロサ市の報道記者会見で、「4州(ラ・パンパ州、ブエノスアイレス州、ネウケン州、リオネグロ州)の問題となっている事業に資金提供を行いたくはない」と述べ、メンドーサ州ポルテスエロ・デル・ビエント水力発電計画の停止を発表した。
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8日、大統領は緊急大統領令を発令し、農業輸出企業ビセンティングループへの介入と国有化法案の議会への提出を決定した。大統領は、「我々は、同社が機能し続け、従業員が雇用を維持し、小規模生産者が同社に生産物を売り続けることができるようにしたい」「亜経済のため、また、そのうち特に重要な穀物市場という分野のために、同社を救済することが目的だ」「同セクターにおいて、国が『証人的』企業を有することは非常に重要なことである」「亜の食糧主権の確立のために有益である」と強調した。マティアス・クルファス生産開発大臣、アナベル・フェルナンデス・サガスティ上院議員(メンドーサ州選出)及び同社の経営監督責任者に任命されたガブリエル・デルガド氏(国立農牧技術院(INTA)のエコノミスト)が同席した。ビセンティンは食品産業部門の大手であるが、2019年末にデフォルト宣言を行った後、更生手続きに入っていた。ビセンティンの主要債権者はナシオン銀行で、同社債務の80%を保有する。接収後のビセンティンの資産は、国営YPF傘下のYPFアグロが運営する信託基金の一部を構成する見込み。
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8日、中銀は、輸入代金の支払いのために外貨を必要とする企業が為替市場へアクセスするために遵守すべき要請事項を公開した。中銀は通達B12020号により、「輸入事業者が生産財の代金支払いのために為替市場へアクセスできるよう、事前承認申請手続きの簡易化・迅速化にむけプロセスの標準化」を定めた。
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10日、政府は緊急大統領令528/2020号を発令し、昨年12月13日に施行され6月13日(土)に期限が切れる(強制解雇に対する)二重賠償制度を180日間延長した。これにより強制解雇となった従業員は年末まで二重賠償請求の権利が与えられる。また、緊急大統領令487/2020 号において7月末までの60日間の解雇を禁じているほか、労働省決議475号では業務不足による一時解雇プロセスの簡易化と給与(手取り額)の75%までの引き下げ(▲25%)に関する労働総同盟(CGT)・アルゼンチン工業連盟(UIA)間合意の60日間の延長を規定している。
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11日、メオニ運輸大臣は、CRRC QINDAO SIFANG(中国中車青島四方機車車輛股份有限公司)との署名式に出席し、過去4年間備品を購入出来ていないミトレ、ロカ、サルミエント線の電気車両約700台の整備向けに同社がアルゼンチン国営鉄道会社に7000万ドルの資金提供を行うことで合意した。
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11日、政府は「PyMES Plus」融資プログラムの開設を発表した。政府の融資プログラムにアクセスできなかった中小企業14万社に向け金利24%の追加融資プログラム(総額380億ペソ)を開設する。中小企業局が定めるカテゴリーに基づき、零細企業に対し最大25万ペソ、中小企業に対し最大50万ペソの融資プログラムを提供する。元本返済・利払い期間は最低1年、これに3か月の返済猶予期間が認められている。
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12日、経済省は、「亜政府の債務再編案の有効期限は昨日までだったが、さらに1週間延長した」と公表し、19日(金)まで交渉期限を延長した。交渉結果発表は22日。
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16日、経済省は、「通貨主権を回復し、貯蓄オプションを提供し、公民両セクターが資金調達できるためのペソ建ての利回り曲線を構築し、中・長期的な安定を確保する」ため、ペソ建て公債市場の正常化のための措置として、外貨建て国内法準拠債の交換入札におけるものと同一の条件で外貨建て国債の入札を実施することを発表した。
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17日、フェルナンデス大統領はチリのピニェラ大統領と電話会議を実施し、新型コロナウイルス対策における相互協力、社会保護、経済回復、ラテンアメリカ情勢について意見交換を行った。両国首脳は二国間アジェンダについて、両国間の自由貿易協定に基づくエネルギー統合、電気通信の分野における相互連携の必要性を確認した。さらに入国管理・通関システムの簡易化により国境通過・通関の円滑化および物理的な統一を急ぐことで合意した。
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19日、政府は、債務再編交渉の期限を再び延長し、新たな交渉期限を7月24日(金)に設定した。交渉結果発表日は7月27日、決済執行日は7月30日。政府提案の改善点として、(1)返済猶予期限の短縮(2021年から利払い)、(2)元本削減幅の縮小(元本の3%削減)、(3)支払金利の最大5%まで引き上げ、(4)輸出連動クーポンの設定(輸出額が年間650億ドルを超えた場合に追加的利払い、最大0.75%)があり、以上により、新債券の現在価値は1ドルあたり46セントから49.9セント(輸出連動クーポン込みで51.7セント)に改善される。
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19日、サンタ・フェ州のロレンシニ裁判官はビセンティンの経営監督権を同社幹部に戻し、政府による経営監督責任者を「監視役」に引き下げる決定を下した。これを受け、大統領はビセンティンの国有化計画を一旦取り下げ、連邦政府とサンタ・フェ州の合意に基づく共同管理を進める。
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政府は、緊急大統領令543/20号を発令し、昨年12月に緊急事態法として制定した一連の緊急措置の延長を定めた。電気・ガス料金の凍結を年末まで延長したほか、脆弱層に対し支払滞納を理由にサービス供給を停止することを禁じた。
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21日、キシロフ・ブ州知事は債務再編交渉期間を7月31日まで延長した。連邦政府においてグスマン経済相が7月24日まで交渉を延長したことに準じた。
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23日、政府は緊急大統領令547/2020号を官報で発表し、給与(合計支給額)が8万ペソ以上の国家公務員に対するボーナスの支払いを分割で行うことを決定した。
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23日、MSCIは、亜の格付けを新興国に維持することを決定した。同時に、市場アクセスが大幅に悪化した場合は、亜をMSCI新興国株指数から除外する可能性もあると警告した。
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24日、グスマン経済相は、米州評議会(COA)と米州協会(AS)が主催したバーチャル会議に参加し、「COVID-19の中において債務の持続可能な再編を目指す亜政府の取り組み」について語った。「フェルナンデス大統領は(1)健康優先、(2)脆弱部門保護、(3)労働者のノウハウ保護を通じた雇用・企業保護の三本柱で対応を進めた。これらの三本柱を達成するため、亜経済省は、(1)脆弱な状況にある家庭への財政支援のための緊急計画策定、(2)失業者保護の充実、(3)減税といった措置をとった。現状は、COVID-19対応に伴い経済が停滞し税収が急減し、また緊急経済対策による歳出が膨らむ中、政府は市場からの資金調達が限られている中、財政健全化が大きな課題となっている。また、債務再編交渉については、亜政府は交渉にオープンであり、最終合意に至るために民間債権者とより良い相互理解を得られると期待している。ブラックロックなどのアドホック債権者グループとの合意は最も困難だが、別の債権者グループの一つとは一部条件に関し合意に至っている。アドホックグループが提示した法的条件は実現不可能であり、亜政府はG20、IMF、国際社会が承認している契約条件にのみコミットする。世界の著名経済学者からもサポートを得ている。民間債権者との交渉のあとはIMFとの正式な交渉に入る。時間をかけてでも亜社会が受け入れられるレジティマシーを得ることが大事である。困難な状況であるが、貧困、社会包摂、経済活力という課題を解決したい。そのための努力は惜しまない」と述べた。
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24日、クルファス生産開発大臣は、米シンクタンクのインタビューにおいて「我々は、必ずしもすべての解決策が国家の直接介入ましてや国有化など国家によりもたらされるべきだとは考えていない。これは非常に例外的な措置だ。国家介入や国有化などのツールが我々にとっての魅力なのではない。我々の関心は「ビセンティンのサプライチェーンの救済」という目標だ。穀物市場に存在感を確立する半官半民企業にすることでこれを実現する。我々は独裁的ではなく実利的に動く。多くの場合、問題は市場の介入や合意に基づき解決される。我々が求めていることも同じだ」と述べた。
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24日、大統領は、ラテンアメリカ・カリブ諸国及びスペインの首脳らとのビデオ会議に出席し、「途上国の債務を直ちに軽減するべきだ。一連の公共衛生危機対策による財政的打撃をうけ、債務者と債権者の双方にとって適切な法的基準と持続可能性に基づく国家債務再編のための新たな枠組みの設定が不可欠だ」と主張した。
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グスマン経済相は、新たに設定された債務再編交渉期限である7月24日に償還期限を迎える外国法準拠債の利払い分9億4400万ドルの支払いを行わないことを発表した。
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25日、中銀は通達A7030号を発出し、「為替市場アクセスの正常化措置」として、輸入事業者が輸入代金の支払いのために為替の公式市場にアクセスすることを可能とした。以下を目的とした為替公式レートへのアクセスが許可される。COVID-19検査試薬キット、医薬品、医療サービス関連財、国内における医薬品製造に必要な物資、7月1日以降に(輸入先から)出荷されるかそれ以前に出荷され未だ入国していない財、100万ドルを超えない輸入代金の支払い。
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政府は、Precios Maximos(最大価格)プログラムを1ヶ月間延長し、約2300品目に対する価格の引き上げを引き続き禁止することを決定した。例外的にPrecios Cuidados(価格統制商品)の引き上げは認めている。
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30日、経済省は、2021年歳出予算及び行政資金計算(行政予算)法案と2021~2023年複数年予算の策定スケジュールを発表した。9月15日までの国会提出を目指している。
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30日、メルコスール財務大臣・中央銀行総裁会合がテレビ会議方式により開催され、グスマン経済相は、「メルコスールのアジェンダを優先課題として認識している。これは単に経済に関わるものではなく、文化、技術開発、インテグレーションに関わる課題だ。違いを尊重しながら地域全体における物流・インフラ・人的資源の生成のガイドラインを推進するために、メルコスールは非常に重要だと考えている。我々は、メルコスールが地域共通の問題に取り組めるようなインテリジェンスな地域統合を望む。マクロ経済の均衡回復、社会的安定の維持、地域発展に向けた前向きな取組みを視野に、亜はメルコスールの一員としてダイナミズムと均衡の生成という目標に向け、積極的な役割を果たし、生産的な開発アジェンダに取り組みたい」と述べた。
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30日、外務省は、国内企業の利益と視点を取り入れた輸出政策の策定に向けた助言を行う官民輸出促進評議会の新設を発表した。同評議会はネメ外務副大臣率いる外務省国際経済関係局の附属機関となる。
2 経済指標の動向
(1)経済活動全般
5月の経済活動指数(INDEC発表)は、前年同月比20.6%減、前月比10.0%増となった。
(2)消費:自動車販売
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11月 |
12月 |
1月 |
2月 |
3月 |
4月 |
5月 |
6月 |
2020年計 |
台数 |
22,900 |
31,151 |
25,727 |
27,191 |
18,922 |
7,512 |
20,033 |
23,773 |
123,158 |
前年比 |
▲30.8% |
▲35.7% |
▲14.4% |
▲10.6% |
▲43.9% |
▲73,6% |
▲28.3% |
▲34.9% |
▲34.2% |
(参考)自動車輸出台数(自動車生産者協会(ADEFA)発表)
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11月 |
12月 |
1月 |
2月 |
3月 |
4月 |
5月 |
6月 |
2020年計 |
台数 |
17,921 |
18,965 |
8,691 |
18,115 |
13,928 |
2,386 |
3,227 |
6,875 |
53,222 |
前年比 |
▲31.2% |
▲17.4% |
17.4% |
▲6.8% |
▲33.9% |
▲88.4% |
▲85.2% |
▲60.5% |
▲50.6% |
(3)工業生産・建設活動
(ア)自動車生産
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11月 |
12月 |
1月 |
2月 |
3月 |
4月 |
5月 |
6月 |
2020年計 |
台数 |
27,099 |
14,524 |
20,683 |
26,133 |
19,164 |
0 |
4,802 |
15,657 |
86,439 |
前年比 |
▲26.4% |
▲29.1% |
39.7% |
▲20.0% |
▲34.4% |
▲100% |
▲84.1% |
▲34.5% |
▲46.4% |
(イ)工業生産
5月の工業生産指数(INDEC発表)は、前年同月比26.4%減となった。
(ウ)建設活動
5月の建設活動指数(INDEC発表)は、前年同月比48.6%減となった。
(4)物価
6月のCPI統計(INDEC発表インフレ率)は、前月比2.2%、前年同月比42.8%の上昇となった。
6月の卸売物価指数(INDEC発表)は、前月比3.7%、前年同月比39.7%の上昇となった。
(5)金融
(ア)EMBI+指数は、6月末には前月末比132ポイント減の2495ポイントとなった。
(イ)6月末の為替レートは、前月末比2.8%ペソ安の1ドル=70.46ペソであった。
(ウ)外貨準備高は、6月末には前月末比7億ドル増の432.4億ドルとなった。
(6)財政
(ア)財政収支
6月の財政収支(財務省発表)は、歳入が前年同月比42.1%増、一次歳出が同87.9%増となった結果、基礎的財政収支は2,537.1億ペソの赤字となった。また、総合収支は、2,885.7億ペソの赤字となった。
(イ)税収
6月の税収(財務省発表)は、前年同月比20.1%増の5,459.6億ペソとなった。
(7)貿易
6月の貿易(INDEC発表)は、輸出が前年同月比8.6%減の4,786 百万ドル、輸入が同20.8%減の3,302百万ドルとなった結果、貿易黒字は1,484百万ドルとなった。