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2010年4月アルゼンチンの経済情勢

 

 

2010年5月作成
在アルゼンチン大使館

 

1.概要


(1)ブドゥー経済相は、残存民間債務に係る債券交換の条件等について発表を行ったほか、政府は、関東財務局に対し、債券交換に係る訂正有価証券届出書を提出した。


(2)株価指数であるMerval指数は、欧州の財政不安等により月末にかけて下落した。また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、残存民間債務問題解決への期待感等から下落を続けた後、欧州の財政不安を受けたリスク回避志向の高まり等により月末にかけて上昇した。


(3)3月の消費及び生産については、引き続き回復の動きが見られた。市場見通しでは10年の成長率は4.9%、11年は4.3%と予測されている。
 政府発表では、4月の消費者物価の伸びは前年同月比10.2%となり、引き続き高い水準となった一方、民間においては、公式統計は依然として実態を下回っているものと見られている。
 3月の財政収支は、前年同月比36.6%増の黒字となったものの、総合収支は、2ヶ月連続で赤字となった。


(4)3月の貿易は、輸出が前年同月比11%増、輸入が同52%増となった結果、貿易黒字は同77%減となった。

 

2.経済の主な動き


(1)経済全般


 6日、フェルナンデス大統領は、州知事4名と会談を行い、地方財政等について話し合いを行った。州知事側は、地方交付金の増額等を要請したのに対し、フェルナンデス大統領は、地方交付金の安定的かつ公平な分配を実現するための施策として、「社会公平基金」創設に関する審議の実施を提案したほか、中央政府に対する州政府の債務の繰延等を検討するとした。
 7日、フェルナンデス大統領は、訪亜中の米自動車大手フォード・モーター社のムラリー最高経営責任者と会談を行った。同会談の中で、ムラリー最高経営責任者は、新型自動車の開発のため、10億ドルの投資を行う旨発言した。
 13日、下院本会議において、債務削減基金の創設を定める緊急大統領令の無効決議案が審議・可決された。なお、同大統領令が無効となるためには、今後上院での可決が必要となる。
 14日、上院本会議において、マルコ・デル・ポント中銀総裁の同意人事案が審議・可決された。
 14日〜15日未明、上院本会議において、金融取引税改正法案が審議され、採決の結果、賛成35票、反対33票となり、野党側は可決されたとみなした。与党側は、憲法第75条により、地方交付金に関する法律改正のためには上下両院において全所属議員の過半数による賛成(上院では37票)が必要である旨定められているため、今次採決では可決されたとみなされない旨主張した。これに対し、野党側は憲法第75条の規定の趣旨は、政府への配分の増加等地方の収入を脅かす場合には、上下両院における全所属議員の過半数の賛成が必要であると定めたものであり、今般の改正のように、地方への配分を増額する等地方に有利に改正する場合には、出席議員の過半数の賛成で可決される旨主張した。
 15日、フェルナンデス大統領は、ナシオン銀行を通じた新たな住宅融資制度を発表した。自宅用であること等が要件とされ、融資条件は、一口当たり最大36万ペソ、償還期間は20年等とされている。
 15日、フェルナンデス大統領は、州知事3名と会談を行い、地方財政等について話し合いを行った。
 16日、コボス副大統領(上院議長)は、金融取引税改正法案が上院で可決されたとして、同法案を下院に送付した。これに対し、フェルナンデス大統領は、同副大統領の判断は憲法違反であるとして非難した。与党側は、フェルネル下院議長に対し、同法案を上院に差し戻すよう要請する一方、野党側は、同法案の下院での審議を要請した。
 21日、ブドゥー経済相、ペッシェ中銀副総裁、レドラド前中銀副総裁らは、上院の予算・経済合同委員会に出席し、外貨準備を用いた債務返済に関する質疑に応答した。ブドゥー経済相は、同合同委員会において、債務削減基金の資金のうち、既に11億ドルを債務返済のために使用した旨説明した。
 21日、フェルネル下院議長は、金融取引税改正法案について、上院で未可決であるとして、上院に差し戻した。これに対し、コボス副大統領(上院議長)は、これを受理することなく、即座に同法案を下院に再送付した。
 28日、上院の予算・経済・地方交付金合同委員会において、債務削減基金の創設を定める緊急大統領令とほぼ同内容の債務削減基金創設法案(ベルナ上院議員提出)を承認する意見書が採択された。
28日、主要農牧4団体から成る「連絡委員会」は、政府の農牧政策に抗議するため、牛肉の出荷中止等の抗議活動を実施した。
29日、フェルナンデス大統領は、自動車部品製造活性化のための融資制度を発表した。これにより、政府は、計約12億ペソの新規投資が行われることを目標としている。

 

(2)物価・賃金


 6日、反キルチネル派ピケテロ・グループは、ブエノスアイレス州各市、コルドバ州、ロサリオ州、メンドーサ州、ネウケン州等において抗議デモを行い、食料品の物価上昇に抗議するとともに、雇用創出プログラムへの平等な参加や子ども扶養手当の適切な支払いを要求した。
 9日、YPF社のプレミアムガソリンが約6%値上げされた。
 14日、電力業界と電力労組は、22%の賃上げで合意した。
 14日、牛肉・牛肉製品産業労働組合は、牛肉等の輸出が制限されていることにより、雇用に甚大な悪影響が及んでいるとして、抗議デモを行った。これを受け、トマダ労働相は、各失業者に600ペソの助成金を供与する旨約束した。
 23日、鉄鋼業界6団体のうち4団体と金属労組は、計26.6%の賃上げで合意した。
 29日、反キルチネル派ピケテロ・グループは、ブエノスアイレス州において、抗議デモ及び道路封鎖を行った。

 

(3)金融・財政


 7日、米ニューヨークのGriesa連邦判事は、残存民間債権者からの請求に基づき、亜中銀がニューヨーク連銀に保有する資金1億500万ドルの凍結を命じた。
 11日、訪米中のブドゥー経済相は、ニューヨークにおいて、残存民間債務に係る債券交換の実施等に向けて、機関投資家らと会合を行った。
 16日、ブドゥー経済相は、残存民間債務に係る債券交換の条件等について発表を行った。元本削減債オプション及び元本維持債オプション(一人当たり5万ドル相当まで)が設けられ、元本削減債オプションでは、額面削減率が66.3%となる元本削減債、GDP連動クーポン及びGlobal2017債(名目金利8.75%。前回の債券交換に応じた者に対し既に支払われた利息相当分)が、元本維持債オプションでは、元本維持債、GDP連動クーポン及び現金(前回の債券交換に応じた者に対し既に支払われた利息相当分)が、債券交換に応じた債権者に対し引き渡される。なお、前回の債券交換に応じた者に対し既に支払われたGDP連動クーポンに係る配当については、今回の債券交換では債権者に対する支払いに含まれないこととされた。また、元本維持債については、発行総額の上限が20億ドルをされ、元本維持債オプションの申込額がこれを上回る場合、比例按分の上、元本維持債オプションに回されることとされた。債券交換に係る手数料については、債権者側の負担とされた。ブドゥー経済相は、債券交換の参加率について、「最低でも60%の参加が期待される」と述べた。
 22日、政府は、関東財務局に対し、債券交換に係る訂正有価証券届出書を提出した。
 24日、ロレンシノ経済省金融長官は、残存民間債務に係る債券交換の後、Boden2012債に係る債務スワップを行う旨発言した。
 27日、ルクセンブルク金融監督委員会(CSSF)及びイタリア証券取引委員会(CONSOB)は、残存民間債務に係る債券交換を承認した。
 28日、政府は、関東財務局に対し、再度、債券交換に係る訂正有価証券届出書を提出した。
 30日、政府は、関東財務局に対し、3度目となる債券交換に係る訂正有価証券届出書を提出した。同届出書によれば、日本においては、債券交換は5月7日に開始され、前期申込期限が5月12日、申込期間満了が6月7日とされている。

 

(4)対外関係


 5日、フェルナンデス大統領は、訪亜中のムヒカ・ウルグアイ大統領と会談し、亜を経由するボリビア・ウルグアイ間の天然ガス・パイプライン建設の可能性について協議した。
 5日、タイアナ外相は、駐亜中国大使を招致し、中国政府による残留溶剤濃度が100ppmを超える大豆油の輸入停止措置を解除するよう申し入れた。
 8日、フェルナンデス大統領は、企業関係者等とともに訪亜中のピニェラ・チリ大統領と会談を行った。両大統領は、二国間戦略パートナーシップ関係を強化していく旨再確認した。
 13日、核セキュリティ・サミットに出席するため訪米中のフェルナンデス大統領は、オバマ米大統領と会談を行った。オバマ大統領が亜経済情勢につき関心を示したのに対し、失業率の上昇を抑えつつ経済危機を克服した政策、内需を維持するための政策、残存民間債務に係る債券交換等について説明を行った。
 14日、フェルナンデス大統領は、訪亜中のメドヴェージェフ露大統領と会談を行った。両大統領の立会いの下、原子力エネルギー分野を始めとする二国間協力協定等の署名式が行われた。
 16日、フェルナンデス大統領は、企業関係者等とともに訪亜中のズン・ベトナム首相と会談を行い、二国間関係の強化に向けた両国の意思を再確認した。また、両首脳は、風力発電設備製造工場建設に関する協力合意書等、二国間協定等の署名式に出席した。
 19日、タイアナ外相は、企業関係者等とともに訪亜中の蒋耀平中国商務部副部長と会談を行った。また、同副部長は、亜・中国商工産業会議所主催の経済協力フォーラムに出席した。
 20日、ベネズエラを訪問中のフェルナンデス大統領は、チャベス・ベネズエラ大統領と会談を行った後、エネルギー、食糧、技術等の分野における14の合意文書に係る署名式に出席した。また、これら合意文書のほかにも、貿易分野における複数の合意文書の署名式が行われた。
 21日、タイアナ外相は、訪亜中のラミーWTO事務局長と会談した。
 23日、G20等に出席するため訪米中のブドゥー経済相は、エイサギーレIMF西半球局長と会談を行い、IMFによる国家統計局(INDEC)への技術的支援等について話し合いを行った。

 

3.経済指標の動向


(1)経済活動全般


 2月の経済活動指数(INDEC発表)は前年同月比6.0%増、前月比0.8%増と、引き続き前年同月比の伸びが大幅にプラスとなった。
 4月のREM(民間エコノミストの予測の中銀による集計値)の平均では、10年の実質GDP成長率は前月の予測より0.5ポイント上昇の4.9%、11年は同0.1ポイント上昇の4.3%と予測されている。

 

(2)消費


(イ)小売


 3月のショッピングセンター売上高(INDEC発表)は、前年同月比36.9%増、前月比1.9%減と、引き続き大幅に回復した。スーパーマーケット売上高(INDEC発表)は、前年同月比11.9%増、前月比0.0%増となり、3ヶ月連続で前年同月比の伸びが2桁台となった。


(ロ)自動車販売


 4月の自動車販売台数(自動車協会(ADEFA)発表)は、前年同月比26.3%増、前月比8.7%減と、引き続き大幅に増加した。

 

(3)工業生産・建設活動


(イ)工業生産


 3月の工業生産指数(INDEC発表)は、前年同月比11.1%増、前月比0.1%増と、引き続き大幅に回復した。分野別では、基礎金属を始め、自動車、繊維等において大幅な伸びが見られた。なお、亜工業連盟(UIA)によると、3月の工業生産は、前年同月比12.8%増、前月比0.2%増となった。
 3月の稼働率(INDEC発表)は、前月に比べ1.6ポイント下落し、75.3%となった。自動車、機械金属等において上昇が見られたものの、その他の多くの分野において下落した。
 REMの平均では、10年の工業生産指数の上昇率は前月の予測より1.0ポイント上昇の前年比6.8%増と予測されている。


(ロ)建設活動


 3月の建設活動指数(INDEC発表)は、前年同月比13.7%増、前月比6.6%増と、大幅に回復した。


(ハ)自動車生産


 4月の自動車生産台数(自動車協会発表)は、前年同月比53.3%増、前月比8.5%増と、引き続き大幅に増加した。

 

(4)物価・雇用


(イ)物価


 4月の消費者物価指数(INDEC発表)は、前年同月比10.2%、前月比0.8%の上昇となり、前月比の伸びは縮小したものの、前年同月比の伸びは2006年11月以来41ヶ月ぶりに10%を超えた。飲食料において、牛肉等の価格が安定したこと等から、前月比1.1%の上昇と、伸びの縮小が見られたものの、引き続き高い水準にあるほか、教育や家具・家庭用品において同1%を超える上昇となった。他方、民間の推計においても、前月比の伸びが縮小したものの、引き続き高い水準にあり、公式統計は依然として実態を下回っているものと見られている。
 4月の卸売物価指数は、前年同月比14.5%、前月比1.0%の上昇と、引き続き高い水準となった。
 REMの平均では、10年の消費者物価指数の上昇率は前月の予測より0.3ポイント上昇の前年比12.5%と予測されている。


(ロ)雇用・賃金等


 3月の給与指数(INDEC発表)は、前年同月比18.88%増、前月比2.00%増となり、引き続き上昇幅が拡大した。特に、民間正規雇用部門が前月比2.25%増となり、高い伸びとなった。
REMの平均では、10年の給与指数の上昇率は前月の予測より0.76ポイント上昇の前年比20.49%増、10年の失業率は前月の予測より0.1ポイント上昇の8.4%と予測されている。

 

(5)金融


(イ)株価指数であるMerval指数は、2,400ポイント台で推移した後、欧州の財政不安等により、月末にかけて下落し、30日には前月末比22ポイント上昇の2,396ポイントとなった。
 また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、残存民間債務問題解決への期待感等から下落を続け、15日には601ポイントとなった後、欧州の財政不安を受けたリスク回避志向の高まり等により、月末にかけて上昇し、30日には前月末比14ポイント上昇の659ポイントとなった。


(ロ)為替レートは、1ドル=3.88ペソを挟んで推移した後、月末にかけてペソ安となり、30日には、前月末比1.0センターボ(0.3%)ペソ安の1ドル=3.89ペソとなった。コールレートは、前月末から横ばいで推移し、30日には、前月末と同じ9.06%となった。民間金融機関預金残高は、30日において、前年同月末比19.9%増、前月末比2.7%増の2,091億ペソとなった。対民間貸出残高は、30日、前年同月末比14.0%増となり、昨年3月以来の高い伸びとなった。外貨準備高は、470億ドル台で推移した後、月末にかけて増加し、30日には、前月末比5億ドル増の481億ドルとなった。
 REMの平均では、10年の為替レートは前月の予測より0.02ペソ高の1ドル=4.15ペソ、外貨準備高は前月の予測と同じ504億ドルと予測されている。

 

(6)財政


(イ)財政収支


 3月の財政収支(経済省発表)は、歳入が前年同月比40.0%、一次歳出が同40.1%それぞれ増加し、一次財政黒字は同36.6%増の12億ペソとなった。また、総合収支は、12億ペソの赤字と、2ヶ月連続で赤字となった。なお、歳入には、国家社会保障機構(ANSES)が管理する持続性保証基金(FGS)の運用益約16億ペソが含まれているとされ、これを除くと、一次財政収支は赤字であったと見られている。
 REMの平均では、10年の一次財政黒字は前月の予測より4億ペソ減の131億ペソと予測されている。


(ロ)税収


 4月の税収(経済省発表)は、前年同月比30.7%増の301億ペソとなり、2ヶ月連続で30%を超える伸びとなった。付加価値税収が同27.3%増の8,836百万ペソ、法人及び個人に係る所得税収が同36.2%増の4,240百万ペソ、輸出税収が同29.8%増の3,919百万ペソ、社会保障雇用主負担金が同36.0%増の4,109百万ペソとなった。なお、付加価値税収のうち、国内分については同24.3%増、税関分については同40.6%増となった。
 REMの平均では、10年の税収は前月の予測より26億ペソ増の3,705億ペソと予測されている。

 

(7)貿易


 3月の貿易(INDEC発表)は、輸出が前年同月比11%増の4,714百万ドル、輸入が同52%増の4,403百万ドルとなった結果、貿易黒字は同77%減の311百万ドルとなった。輸出については、農牧製品を除く全分野において増加が見られた。乗用車、貴金属、燃料、銅鉱石、石油、バイオ燃料等化学製品等が増加した一方、大豆粕等食品工業くず、大豆油等食料油等が減少した。輸入については、全分野において増加が見られ、燃料及び自動車については、同100%を超える増加が見られたほか、資本財向け部品や資本財も、それぞれ同61%、57%増加した。一方、中間財及び消費財については、それぞれ同37%、25%の増加となった。
 REMの平均では、10年の輸出は前月の予測より5億ドル増の661億ドル、輸入は同7億ドル増の505億ドルと予測されている(この場合、10年の貿易黒字は前年比8%減の156億ドルとなる)。

 

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