アルゼンチン経済情勢(月1回更新)

令和元年9月18日

2019年7月の経済情勢

 
概要
(1) 1日、メルコスール・EU間のFTA合意について、アルゼンチン外務省は詳細を公開。同資料によれば、メルコスールによる亜側関税引下げのオファーの60%は10年以上の移行期間を設けた段階的なものであり、即時の市場開放ではないことを強調。
(2)12日、IMFは、クリスティーヌ・ラガルド氏の退任後、暫定専務理事を引き継いだデビッド・リプトン氏が第4次レビューを承認した。

 
1 経済の主な動き
(1)1日、メルコスール・EU間のFTA合意について、アルゼンチン外務省は詳細を公開。  同資料によれば、メルコスールによる亜側関税引下げのオファーの60%は10年以上の移行期間を設けた段階的なものであり、即時の市場開放ではないことを強調。また、特にブラジルが要請していた「開発政策のための政府調達の保護」に関しても言及している。さらに、優遇関税を一時的に停止できる二地域間の保護措置などの制限メカニズムも規定されている。
(2)バカ・ムエルタ油田の成長で、石油・ガス生産は5月に記録更新:石油・ガス生産は5月に大幅に拡大し、それぞれ前年同月比で+7.6%、+4.2%の増加を記録した。バカ・ムエルタ油田におけるシェールオイル・ガスの生産拡大による。ガス生産は2009年7月以来で最大となり、石油生産は前年同月比で15カ月連続の拡大を記録している。5月、原油輸入は13カ月連続で0となり、2012年以降最長記録となった。 生産拡大は貿易収支にも表れており、今年5カ月間(1~5月)連続で黒字を記録した。
(3)3日、政府は発電・送電会社のTransener社に対し6月16日の大停電の責任を求めた。グスタボ・ロペテギエネルギー国務大臣が上院での報告会で言及した:同大臣は上院で、「送電線のショートと、発電所への信号送信システムのエラーが異常を招き、その後さらに、自動保護システムエラーでシステム全体をダウンさせた」と説明を行った。6月16日、Transener社が管理し、ヤシレタから国内へ電力を送電するコロニア・エリア~カンパナ間の1本の送電線がショートした。「この送電線のショートは(異常時に)DAG信号(自動切断システム)を送信しなければならない」「Transener社によると、新たな送電網に適合させるためのバイパスを取り付けた際に行うべき再設定(再プログラム)が出来ておらず、DAG信号が作動しなかった」と報告書は説明している。
(4)4日、EUメルコスールFTA協定合意の後、マクリ大統領は、アルゼンチンとブラジルは米国との自由貿易協定の検討を進めている事を明らかにした : マクリ大統領はメルコスール内で既に検討が始まっていることを認めた。7月17日サンタ・フェで開催されるメルコスール首脳会議で同議題について話し合いが行われる予定。マクリ大統領がPyME(中小企業)デー式典に出席した際に、アルゼンチン中小企業連盟(CAME)代表団を前に語った。しかし、具体的詳細の説明はなく、EUとのFTA合意を発表してまだ1週間もたたない中では、10月大統領選のキャンペーンの一環として私案を発表したようなものと見られており、政府高官は「現在取り組んでいるが長期的な検討課題である」と説明。
(5)9日、米国はアルゼンチン産バイオ燃料向け補助金に対する相殺関税(72%)の適用は今後行わないことを決定したが、アンチダンピング関税(約74%)の見直しはなく、これを従来のまま維持した。同決定を受け、アルゼンチン側は30日以内に意見の申し立てを行い、審議を求める。米国の決定は、アルゼンチン産バイオ燃料輸入に対する2018年の年始に行われたワシントン当局の措置を、見直すよう求めたアルゼンチン側の要請を受けての発表だった。
(6)10日、二輪車(バイク)購入に無金利の12or18回分割払い、或いは10%の割引が適用される:。7月11日(木)より、国産バイク(新車)及び最大12万ペソのモデルまでを対象にAhora12とAhora18プランを実施する。 現金払いあるいは他の支払方法を選択した場合は、最大30万ペソのモデルに対し、バイクの定価の10%を割引する。7月11日~31日に販売されるバイクが対象となる。
(7)10日、 政令464/2019号により、政府は、地域生産品207品目に対し、輸出間接税を1ドルにつき4ペソから3ペソに引き下げることを発表した。7月11日(木)から同決定が適用される。生鮮食品や、特定の状態・包装を必要とする生産品による地域経済活動の活性化を目指す。国際的に需要が高く、トレンドが成長傾向にある果物、根菜、ドライフルーツ、はちみつなどが挙げられる。米、リンゴ、ナシ、柑橘類、ブドウ、プラム類、チェリー、干しブドウ、ニンニク、タマネギ、カボチャ、ピーナッツ、産業用プラム、ブルーベリー、ピーカンナッツ、マメ類、ピスタチオなども減税対象になる。
(8)報道によると、亜政府はEUメルコスールFTAの2021年発効を目指す。政府は大統領選で与党が勝利すると見込んだうえで、12月10日に議会での審議を開始する構え: 関係者によると、新たな関税の早期適用を目指し、まずはFTAの通商面について暫定承認を目指す。「暫定承認」とは、欧州委員会及び全メルコスール加盟国による承認のことを差し、EU全28カ国の議会の承認は必要としない。
(9)中国南西エネルギー工業グループ(Southwest Energy and Mineral Group )の代表団がフフイを訪問し、リチウム・金・貴金属探査計画の開始に向け視察を行った。フフイ州政府のフアン・アブド・ロブレス経済開発大臣は第一回目の会合の後、「鉱業部門での投資を視野に同社の幹部が視察を行った。中国側の主要関心はリチウム、金、貴金属で、早急にフフイでの開発に着手できるよう協定アジェンダの決定急ぐ方針。フフイ州のJEMSE(フフイエネルギー鉱業公社)との連携で、既に探査が進んでいる鉱床における開発を進めるという代替案もあがっている。また、アルゼンチン鉱業地質学サービス(Segemar)と州が設定した目標をもとに、探査を行うという可能性も提示された。」 とコメントした。
(10)国際協力機構(JICA)の資金提供により、アルゼンチン国内の5州で5年間にわたって包括的なバリューチェーンの開発を目的にした「一村一品プロジェクト(OVOP)」を実施する。昨日正式に同プロジェクトの実施が発表となった。JICAはカタマルカ州、ミシオネス州、チャコ州、サルタ州、ブエノスアイレス州の5州におけるINTI、INTA、NGOなどの社会経済団体、支援組織と、国家及び州政府の強化に300万ドルの予算を支出する。さらに、同プログラムの実施のため、保健社会開発省と協力体制を組むと発表した。
(11)フフイ州のヘラルド・モラレス知事の中国訪問:フフイ州のモラレス知事は、カウチャリ太陽光発電所の200MWへの拡張工事計画に関する最終合意にむけて、在北京アルゼンチン大使館において中電国際(パワーチャイナインターナショナル)の幹部と会合を行った。また、リチウムや再生可能エネルギーを中心とした世界のエネルギーや供給基盤への投資機会についても意見交換を行った。中電国際のSun HongshuiCEO、Mu Cuanhua副社長、南北アメリカ地域総務部のSong Shihui副部長、南北アメリカ地域マーケティング部Gao Lu部長が出席したほか、上海電力建設(hanghái Electric Power Construction)のJiang Lindi, CEO、国際商務部のJiang Haifeng部長、Chen Hua米州担当ジェネラルマネージャー、国際商務部のZhuang Lu米州地域マーケティング部長が同席した。
(12)12日、IMFは、クリスティーヌ・ラガルド氏の退任後、暫定専務理事を引き継いだデビッド・リプトン氏が第4次レビューを承認した。また、財政収支均衡を確かなものにするため、9月の財政目標が引き上げられる。
(13)リオ・ネグロで初となるパモナ第一風力発電所が商業運転を開始した。パモナ第1風力パークは今日の0時に商業運転を開始し、送電網に電力供給を開始した。リオ・ネグロ州のChoele Choel地区に位置する同風力発電所は100MWの設備容量を保持し、約10万世帯に電力を供給する。
(14)16日、Ahora12 プラン、Anses貸付制度、0km(新車)自動車税の削減を導入して消費活動の活性化を図る政府は、今回、(インフレに連動する)UVA建て住宅ローン債務者の支援計画を発表した。ローンの分割額が賃金を10ポイント以上上回った場合(インフレ率の上昇が賃金の上昇率を10ポイント以上上回った場合)、政府はその差額分を補助する。
(15)15~17日、サンタ・フェにおける 第54回メルコスール首脳会合が開催。ホルヘ・フォリー外相によると、競争力の強化に不可欠な対外共通関税の引き下げに関し進捗が確認されたものの、具体的な決議に関しては、今後ブラジルがメルコスール議長国を務める期間中(今日アルゼンチンからブラジルに議長国の座が引き継がれた)の議題として残った。また、マクリ政権が推進していた各国が単独で二国間自由貿易交渉を行う可能性に関しても今回の会合ではコンセンサスを得られず、今後の議題として残った。その他、アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ4カ国は、メルコスール内のローミング料金の廃止を発表する。4カ国の在住者は今後、追加ローミング料金を支払うことなくメルコスール内で携帯電話を使用することが可能となる。今後、各国議会の承認が必要となる。
(16)自動車製造部門の設備稼働率は過去15年間の最悪値を記録した。アベジャネダ国立大学(Undav)公共政策展望局の調査データによると、2019年前半期、自動車製造部門の設備稼働率は32.2%となった。これは、27.1%を記録した2004年以来の最悪値であり、不況の深刻さを如実に示している。今年前半期(前年同時期比で)、乗用車の売上は▲53.8%、トラックは▲53.2%、バイクは▲49%、商用車は▲42.1%と落ち込みを記録した。また、今年前半期の売上において国内生産車が占める割合は僅か27.7%で、過去5年間で最悪の数値となった。
(17)2018/2019年度は1億4700万トンの記録的農作物収穫:2018/2019年度の総収穫量は1億4700万トンとなる見込み。この総収穫量(推定)の記録的数値は、それぞれ史上最高量が期待されるトウモロコシ(5700万トン)と小麦(1950万トン)の収穫によるもの。大豆の推定生産量は5530万トンで、干ばつの影響が大きかった2017/18期の3780万トンと比較して大幅増となった。
(18)サンタ・クルス州の食肉加工場は日本に向けラム肉を12トン輸出する。日本へのラム肉の輸出はこれが初めて。生産労働省農産業部局がこのように発表した。サンタ・クルス州のファイマリ社(Faimali食肉加工場)がラム肉12トンをチリのプンタ・アレナス港から日本に向けて出荷する。
(19)YPFはLNG輸出に関し米国企業と合意。天然ガス液(LNG)市場において世界的プレイヤーとなるための計画の一環として、石油会社YPFはLNG輸出に向け北米企業と合意に達したばかり。テキサスに本社を持つ米国のExcelerate Energy社は、9月以降YPFのLNG輸出に向け必要なロジスティクスを提供する。 YPFはExcelerate Energy 社のメタン船を使用して、ブエノスアイレス州バイア・ブランカ市にあるTango FLNG(浮体液化設備) で生産されるLNGを世界の天然ガス市場に出荷することで合意した。
(20)25日、官報で発表されたエネルギー省決議417/2019号により、政府は天然ガス輸出承認手続きの簡易化を定めた。この決議により、45日間の輸出承認プロセスを15日にまで短縮する。
(21)25日、科学技術分野におけるコスト削減と、製品・材料の輸入促進を目的に、決議515/2019を発表し、科学技術調査を目的にした財の輸入に関する規制 (Roecyt) を見直すことを発表した。 同簡易化により、介在する全組織の承認手続きを統一し、遠隔手続き可能にするほか、一つの(承認)証明書に統合する。また統計手数料を廃止する。
(22)28日、アルベルト・フェルナンデス大統領候補(クリスティーナ・キルチネル副大統領候補とともに陣営を組む)は、自身が勝利すれば12月10日より中銀債(Leliq)金利の支払いを停止し、年金、賃金を+20%引き上げ、さらに「競争力の強化、輸出の拡大のためのドル高」を容認すると発表した。
(23)今年すでに約70社が、生産労働省に対し危機予防措置法(PPC)の適用を求めた。PPCとは、企業の規模に応じて設定された基準内で大規模な解雇やレイオフの実施を認めるものであり、、今年に適用を求めた企業のうち、手続き中の企業が46社、合意なしに既に適用が決まっている企業が10社、合意の下の適用が決まっているのが7社、書類提出済みの企業が5社。合計146社(そのうち107社は未だ手続き段階)がPPC適用を要請した2018年に比べると、その半数以下になっている。中小企業はこのPPCを、存続するための代替策と見なしている。
(24)ビジャ・ゴベルナドール・ガルベス市にあるパラディーニ社工場で、国内で初めて中国向け豚肉輸出が解禁された。8月上旬に200トン相当が出荷される見込み。
(25)パラディーニ社は1万2000頭の雌豚を所有する国内最大の豚肉生産業者。同社はロサリオ近郊ビジャ・アメリア市と、サン・ルイス州のラ・トマ市の2カ所に主要豚肉処理加工施設を所有する。全工程における完全なトレーサビリティーを保証する安全性と無害性、品質、環境保護に関する厳しい国際基準を満たしている。
(26)ドル価格は前日(月曜日)比で+13センターボの1ドル=45.06ペソ(各金融機関の平均)で取引を終えた:大統領選が迫った今、資本を外貨に逃避させる傾向が強まっている。中銀は政府よりあらゆる手段を使ってドル高を抑制するよう指示されており、ドル高対策として先物取引に介入し始めている。為替取引所のディーラーらは、先物市場ですでに20億5500万ドル相当が取引されていると伝えた。Leliq金利は、金融当局がドル高対策に用いるもう一つのツールであり、60.27%と60%を超える水準まで引き上げられた。
(27)政府は、バカ・ムエルタ油田~サジケロ市(Salliqueló)~大ブエノスアイレス首都圏~ エル・リトラルを結ぶガスパイプライン建設の公共入札を開始した。財務省エネルギー部門が官報により入札公告を行った。ガスパイプライン建設の第1ステージを2021年冬季に終了することが政府の目標。これにより、未だエスコバル港からの輸入に頼っている年間2.4億ドル相当のLNG(液化天然ガス)輸入を国産ガスに切り替えることが可能となる。

2 経済指標の動向
(1)経済活動全般
 6月の経済活動指数(INDEC発表)は、前年同月比0.%増、前月比0.4%減となった。
 
(2)消費自動車販売
7月の自動車販売台数(自動車生産者協会(ADEFA)発表)は、前年同月比15.8%減となった。

  12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 2019年計
台数 48,418 30,038 30,404 33,708 28,469 27,947 36,501 39,255 226,322
前年比 ▲46.4% ▲53.4% ▲58.8% ▲57.6% ▲60.9% ▲63.1% ▲34.1% ▲15.8% ▲51.7%
 
(参考)7月の自動車輸出台数(自動車生産者協会(ADEFA)発表)
  12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 2019年計
台数 22,947 7,403 19,431 21,085 20,532 21,834 17,401 19,913 127,599
前年比 26,1% ▲28.9% 1.0% ▲23.9% 3.2% 1.9% ▲24.0% ▲21.5% ▲13.2%
 
(3)工業生産・建設活動
)自動車生産
7月の自動車生産台数(ADEFA発表)は、前年同月比47.8%減となった。
  12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 2019年計
台数 20,475 14,803 32,662 29,227 30,294 30,280 23,916 21,646 182,828
前年比 ▲38,5% ▲32,3% ▲16.4% ▲41.1% ▲33.9% ▲35.3% ▲39.3% ▲47.8% ▲35.6%
 
)工業生産
6月の工業生産指数(INDEC発表)は、前年同月比6.9%減となった。
 
(ウ)建設活動
6月の建設活動指数(INDEC発表)は、前年同月比11.8%減となった。
 
(4)物価
 7月のCPI統計(INDEC発表インフレ率)は、前月比2.2%、前年同月比54.4%の上昇となった。
7月の卸売物価指数(INDEC発表)は、前月比0.1%、前年同月比53.6%の上昇となった。
 
(5)金融
(ア)Merval指数(株価指数)は、7月末には、前月末比0.6%増の42057.8ポイントとなった。
また、EMBI+指数は、7月末には前月末比48ポイント減の787ポイントとなった。
(イ)7月末の為替レートは、前月末比3.3%ペソ安の1ドル=43.87ペソであった
コールレートは、7月末には58.2%となった。対民間貸出残高は7月末には22,824億ペソとなった。
外貨準備高は、7月末には前月末比36.2億ドル増の679.0億ドルとなった。
 
(6)財政
(ア)財政収支
7月の財政収支(財務省発表)は、歳入が前年同月比61.9%増、一次歳出が同52.7%増となった結果、基礎的財政収支は42.9億ペソの黒字となった。また、総合収支は、778.7億ペソの赤字となった。
 
(イ)税収
7月の税収(以下、財務省発表)は、前年同月比53.4%増の4509.1億ペソとなった。
 
(7)貿易
7月の貿易(INDEC発表)は、輸出が前年同月比8.3%増の5,856 万ドル、輸入が同20.6%減の4,905百万ドルとなった結果、貿易黒字は951百万ドルとなった。
 
                                                                                                                                                                                                                                   (了)
 
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