アルゼンチン経済情勢(月1回更新)

令和元年11月1日

2019年9月の経済情勢


 
概要
(1)1日,緊急大統領令(DNU)609/2019号及び中銀通達A6670を発出し,資本規制を導入。

1 経済の主な動き
   (1)1日,緊急大統領令(DNU)609/2019号及び中銀通達A6670を発出し,資本規制を導入。政府と中銀は,口座からのドル引き出しに制限はないと強調した。
      ●個人の外貨購入は月1万ドルを超える場合は中銀の事前承認が必要
      ●個人による第三者への海外送金も同じく月1万ドルを超える場合は中銀の事前承認が必要。
      ●輸出事業者は輸出許可後180日(コモディティ商品の場合は15日)以内の資金回収,資金回収後5日以内に国内還流及びペソ転する義務が課せられる。
      ●輸入決済と期限を迎える債務返済に規制は定めない(なお一部中銀の事前承認が必要)。企業による貿易取引を伴わない運用目的等の外貨購入は中銀の事前承認が必要。
   (2)4日,マクロ経済の現状を考慮した結果だとして,政府は10月に予定されていたガス料金の半期ごとの引き上げを2020年1月まで先送りする決定を行った。
   (3)4日の報道によると,米国で口座を開設するアルゼンチン人がPASO以降急増し,アルゼンチン国内の預金者がドル建て預金口座から引き出した合計58億6200万ドルの大部分は,国外の銀行口座に送金された。アメリカの社債への投資が増加している。
   (4)自動二輪車購入の無金利AHORA12とAHORA18プラン(12回,18回分割プラン)を9月も継続: 7,8月同様,生産労働省は,明日より国産新車バイクの購入(12万ペソまで)に対し,無金利のAHORA12とAHORA18プランを適用する。また,一括払い或いは他の支払い方法で30万ペソ未満のバイクを購入の場合は販売価格から10%の割引を適用する。同措置は9月中,銀行クレジットカードによる支払での全てのバイク販売に対し適用される。
   (5)イバンカ・トランプ氏と同行の派遣団の来亜に合わせて,OPIC(海外民間投資会社)の投資委員会は,PPP事業として実施されるブエノスアイレス州,サンタ・フェ州,コルドバ州,メンドーサ州の高速道路700km敷設及び道路工事に4億ドルを融資する予定。
   (6)5日,世銀はマタンサ・リアチュエロII水域の持続可能な開発プロジェクトに2億4500万ドル,ブエノスアイレス州の電気料金補助金制度に1億5000万ドルの追加融資を承認した。大統領選の今年,IMFのスタンドバイ合意と並行する形で世銀がここ数か月間実施してきた融資計画への追加融資となる。というのも,IMFとのスタンドバイ合意調印時に,世銀,ラテンアメリカ開発銀行(CAF),米州開発銀行(IDB)から合わせて50億ドルの融資計画が承認されていた。
   (7)6日,リオネジャデイロにおいて,ブラジルのゲデス経済相,アルゼンチンのシカ生産労働相は2020年7月に発効する伯亜間の新二国間自動車協定の締結を発表した。1990年に締結した経済補完協定(ACE14号)によって,原則両国間貿易での関税撤廃を定めているが,自動車分野は例外規程が適用されている。2国間自動車協定(追加議定書)により,関税撤廃の条件として原産地規則などの要件に加え,両国間の自動車貿易(自動車および同部品輸出入額)に対して均衡係数を定めている。現行(第42次追加議定書,2016年7月1日発効)の均衡係数は1.5で,両国間の輸出額の比率が1:1.5の範囲内までは,両国間の輸入関税が無税となっている。両国自動車部門の生産と貿易がバランスの取れた発展を遂げれば2019年7月1日以降は同係数を1.7に引き上げ,同議定書期限(2020年6月30日)後に2国間自動車貿易を自由化するとしていた((同議定書第4条)。新たな協定は2020年7月1日発効,2029年6月30日を期限とし,以下4点が変更された。
      ●自動車・同部品貿易自由化は新協定期限後の2029年7月1日以降
      ●貿易均衡係数は1対1.7から段階的に拡大して3.0に引き上げる
            ・2015年7月~2020年6月:1.7
            ・2020年7月~2023年6月:1.8
            ・2023年7月~2025年6月:1.9
            ・2025年7月~2027年6月:2.0
            ・2027年7月~2028年6月:2.5
            ・2028年7月~2029年7月:3.0                                 
      ●両国の域内現調率は2027年までにEU・メルコスール協定に従って均衡させる。
      ●電気自動車およびハイブリット車は別途優遇する。
両国間の自動車貿易自由化は9年間先延ばしとなったが,近年は2年毎の延長交渉を行っており,長期的な予見可能性が不完全であったところ,今回の新協定により,長期的な事業環境の見通しが立てられるようになった。また,ブラジル・アルゼンチン間の自動車貿易自由化が2029年7月1日以降と定められたが,EUメルコスール貿易協定は発効後15年かけて自動車貿易を自由化するため,EUメルコスール協定の自由化よりも5年以上前に伯亜間の自由化が行われる事になる。
   (8)8日,Lithium Americas社(カナダ)とGanfeng Lithium社(中国)が出資するMinera Exar社は,フフイ州の高地にあるカウチャリ・オラロス計画に1億6000万ドルの投資計画を発表した:。今回の融資は,2018年11月に既に同社が発表した4億3000万ドルの投資に対する追加投資となる。Exar社は炭酸リチウムの推定生産量を2.5万トン/年から4万トン/年に拡大し,鉱山における生産の開始予定を2020年末としている。これにより同社はアルゼンチン国内の主要リチウム生産事業者となる。
   (9)10日,政府は大量消費財のインフレ緩和策として基礎価格プログラムの見直しを発表した。新たな基礎価格プログラムの対象品目は553品目に及び,5月データに比べ+4.66%の価格引き上げが適用される。2020年1月7日まで同価格が維持される。追加品目はヨーグルト類,穀物類,野菜,米菓,パーソナルケア商品など。また,ウェルネル生産労働副大臣(国内商務流通担当)の報道記者会見での発表によると,新たな食品メーカーやサプライヤーが同プログラムに加わるとのこと。
   (10)10日,20年間の交渉を経て,政府はアルゼンチンが誇る主要輸出品目である大豆粕の中国の市場開放に関し合意に至ったと発表した。北京にて在中国アルゼンチン大使館のディエゴ・ゲラル大使,中国税関総署のZhan Jiweng副署長が署名を行った。そして今日の正午,ルイス・ミゲル・エチェベレ農牧漁業大臣と在アルゼンチン中国大使館の 邹肖力(ゾウ・シャオリー)大使が署名を行う予定。これまでアルゼンチンは中国に対し大豆(豆)と大豆油の輸出を行ってきた。2019年アルゼンチンは中国に対し430万トンの大豆(輸出全体の80%)と16万3954トンの大豆油(同4%)を輸出している。また,中国は養豚と養牛合わせて5億頭を飼養しており,今回の大豆粕の中国市場開放で,アルゼンチンは対中国輸出により15億ドルの収益に期待する。
   (11)10日,米国際通商裁判所は米商務省に対し,昨年4月以降アルゼンチン産バイオ燃料に課されている過大なアンチダンピング税(平均74%)を見直すべきとするアルゼンチンに有利な判決を下した。米国国際通商裁判所の決定は,米商務省がアルゼンチン産バイオ燃料に課すアンチダンピング税は米国の法律自体に準じていないというアルゼンチン側の主張と一致するものである。「米商務省は民間部門に司法当局がアンチダンピング税措置の見直しを決定したことを通達した。過去にEU相手に行ったように,今後同じく交渉を進める」とオラシオ・レイセル外務副大臣(国際経済関係担当)が伝えた。つまり,米国との間に一定の料金設定,或いは関税の引き下げ,または一定の輸出量制限が規定される可能性を示唆している。
   (12)政府は当初11月12日まで予定していた燃料価格の凍結措置を見直した。今日よりガソリン価格は+4%引き上げられる。 政治的ボラティリティとサウジアラビア石油施設攻撃後の原油価格の高騰を受けての決定。エコノミストらはこれが9月,10月のインフレ率に影響するとみている。今回の引き上げでもなお,原油の国際価格レベルには至っていない。 財務省エネルギー部門は,現行のガソリン価格でも国際価格水準から15%程度の差があるが,少なくとも為替レートと原油の国際価格が安定しているのであれば,90日間の価格凍結期間の終了する11月12日まではこれ以上の値上げは行わないと発表した。
   (13)18日,中銀はマネタリーベースの増加をゼロに抑えるという目標を断念し,9,10月マネタリーベースの+2.5%増加を認める。サンドレリス総裁率いる中銀は,経済に息吹を吹き込むための利下げを理由に同措置を決定した。5日間連続で利下げを記録した後,Leliq金利(政策金利)は昨日83.21%に上昇した。一方で,利下げによる為替レートの上昇が起きないようLeliq金利の下限を,9月は78%,10月は68%に設定している。
   (14)18日,債務返済期限先送りの方針を8月末に発表していた政府は,昨日議会に国内法に基づく債務をリプロファイリング(返済期限延長)するための法案を提出した。財務省は,債券発行条件は変更せず,返済期限の若干の延長と自主的延長を示唆している。
   (15)18日,政府は国内金融市場にドルを還流(ペソ転)させることを,(輸出事業者に対する)輸出間接税還付の条件とした。月曜日官報にて決議661号として定めた。同決議は,「ここ最近の国内経済・金融情勢を受け,為替管理措置及び海外から支払われる外貨に対して一連の暫定規制措置を取ることを余儀なくされた」と記している。「外貨の国内市場への還流を済ませていること,そして(或いは)現行の為替管理制度に基づく為替交渉の達成を,輸出間接税還付の条件として義務付けることが適切だとした」と定めている。政府はこれにより,輸出事業者による国内金融市場へのドル供給の加速化を図る。輸出間接税還付制度は,輸出商品に対し,生産及び販売の様々なプロセスで支払われた間接税の一部或いは全額を還付するものである。
   (16)アルゼンチンに関する投資紛争解決国際センター(ICSID)への新たな不服申し立てが行われた。米国のサザンカンパニーは,Bernardo Saravia Frías氏(亜財務省の訴訟代理人)に対し,アルゼンチン(特にリオ・ネグロ州)の度々の支払不履行により同社が約2億ドル相当の損失を被ったことについて,ICSIDの介入を要請する意向を書面で伝えた。同社は同州内で配電事業を実施している。これでICSIDの介入はマクリ政府では2度目となる。1度目は,スペインのオラスル・インターナショナル・スペイン・ホールディングス(Orazul International Spain Holdings)がアルゼンチン-スペイン二国間投資協定に基づき行った。


2 経済指標の動向
   (1)経済活動全般
8月の経済活動指数(INDEC発表)は,前年同月比3.8%減,前月比1.0%減となった。
 
   (2)消費自動車販売
9月の自動車販売台数(自動車生産者協会(ADEFA)発表)は,前年同月比37.0%減となった。

  2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 2019年計
台数 30,404 33,708 28,469 27,947 36,501 39,255 38,021 26,876 291,219
前年比 ▲58.8% ▲57.6% ▲60.9% ▲63.1% ▲34.1% ▲15.8% ▲27,2% ▲37.0% ▲48.3%
 
(参考)9月の自動車輸出台数(自動車生産者協会(ADEFA)発表)
  2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 2019年計
台数 19,431 21,085 20,532 21,834 17,401 19,913 18,856 21,568 168,023
前年比 1.0% ▲23.9% 3.2% 1.9% ▲24.0% ▲21.5% ▲32.8% ▲7.6% ▲15.3%
 
   (3)工業生産・建設活動
)自動車生産
9月の自動車生産台数(ADEFA発表)は,前年同月比25.7%減となった。
  2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 2019年計
台数 32,662 29,227 30,294 30,280 23,916 21,646 30,815 27,687 241,330
前年比 ▲16.4% ▲41.1% ▲33.9% ▲35.3% ▲39.3% ▲47.8% ▲37.5% ▲25,7% ▲34.9%
 
)工業生産
8月の工業生産指数(INDEC発表)は,前年同月比6.4%減となった。
 
(ウ)建設活動
7月の建設活動指数(INDEC発表)は,前年同月比1.7%減となった。
 
   (4)物価
 9月のCPI統計(INDEC発表インフレ率)は,前月比5.9%,前年同月比53.5%の上昇となった。
9月の卸売物価指数(INDEC発表)は,前月比4.2%,前年同月比46.2%の上昇となった。
   
   (5)金融
(ア)Merval指数(株価指数)は,9月末には,前月末比18.1%像の29067.0ポイントとなった。
また,EMBI+指数は,9月末には前月末比389ポイント減の2143ポイントとなった。
(イ)9月末の為替レートは,前月末比2.6%ペソ高の1ドル=57.56ペソであった
コールレートは,8月末には68.9%となった。対民間貸出残高は9月末には24,477億ペソとなった。
外貨準備高は,9月末には前月末比54.0億ドル増の487.0億ドルとなった。
 
   (6)財政
(ア)財政収支
9月の財政収支(財務省発表)は,歳入が前年同月比45.9%増,一次歳出が同43.5%増となった結果,基礎的財政収支は253.7億ペソの赤字となった。また,総合収支は,762.2億ペソの赤字となった。
 
(イ)税収
9月の税収(財務省発表)は,前年同月比42.7%増の4220.1億ペソとなった。
 
   (7)貿易
9月の貿易(INDEC発表)は,輸出が前年同月比14.1%増の5,746 百万ドル,輸入が同14.9%減の4,002百万ドルとなった結果,貿易黒字は1,744百万ドルとなった。